Report

第415回  新興国情報 (415) 視界不良の南アフリカ経済
第414回  新興国情報 (414) インド経済の展望 (4) リスク・課題
第413回  新興国情報 (413) インド経済の展望 (3) 物価・金利・株価
第412回  新興国情報 (412) インド経済の展望 (2) 政治
第411回  新興国情報 (411) インド経済の展望 (1) 人口と発展段階
第410回  新興国情報 (410) 底堅いトルコ経済
第409回  新興国情報 (410) 薄日射すブラジル経済 (5) 課題・リスク・株価
第408回  新興国情報 (409) 薄日射すブラジル経済 (4) 貿易・政治
第407回  新興国情報 (408) 薄日射すブラジル経済 (3) 財政収支など
第406回  新興国情報 (407) 薄日射すブラジル経済 (2) 最近の景気
第405回  新興国情報 (406) 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率
第404回  新興国情報 (405) 中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価
第403回  新興国情報 (404) 中国と米中関係 (6) リスク要因・課題
第402回  新興国情報 (403) 中国と米中関係 (5) 為替・金融政策
第401回  新興国情報 (402) 中国と米中関係 (4) ネット取引など
第400回  新興国情報 (401) 中国と米中関係 (3) 構造問題
第399回  新興国情報 (400) 中国と米中関係 (2) 米中関係
第398回  新興国情報 (399) 中国と米中関係 (1) 成長率など
第397回  新興国情報 (398) 世界経済の長期停滞
第396回  新興国情報 (397) 中南米諸国の展望 (6) メキシコ
第395回  新興国情報 (396) 中南米諸国の展望 (5) ペルー
第394回  新興国情報 (395) 中南米諸国の展望 (4) チリ
第393回  新興国情報 (394) 中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン
第392回  新興国情報 (393) 中南米諸国の展望 (2) ブラジル
第391回  新興国情報 (392) 中南米諸国の展望 (1)
第390回  新興国情報 (391) 原油価格の動向と中東諸国
第389回  新興国情報 (390) ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価
第388回  新興国情報 (389) ロシア経済の展望 (3) 財政、政治
第387回  新興国情報 (388) ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利
第386回  新興国情報 (387) ロシア経済の展望 (1) 経済の構造
第385回  新興国情報 (386) トランプ政権誕生と中東諸国
第384回  新興国情報 (385) IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し
第383回  新興国情報 (384) IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利
第382回  新興国情報 (383) IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易
第381回  新興国情報 (382) 混乱の続くトルコ
第380回  新興国情報 (381) インド経済の見通し(4) リスク・課題
第379回  新興国情報 (380) インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価
第378回  新興国情報 (379) インド経済の見通し(2) 政治
第377回  新興国情報 (378) インド経済の見通し(1) 人口・発展段階
第376回  新興国情報 (377) ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価
第375回  新興国情報 (376) ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治
第374回  新興国情報 (375) ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け
第373回  新興国情報 (374) ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢
第372回  新興国情報 (373) ブラジル経済の動向 (1) 成長率

 視界不良の南アフリカ経済 平成29年12月8日

おはようございます。南アフリカ経済の現状を見ます。

1. 10月CPI上昇率は+4.8%に減速

南アフリカ統計局は11月22日に、10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+4.8%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+5.1%から減速。

17年6月まで、インフレ率は南アフリカ準備銀行(中銀)の定める目標値である+3〜6%を上回って推移していました。4月には+5.3%に低下し、その後も準備銀行の目標値に収まっており、インフレ圧力が低下。

 図表1 南アフリカのCPI前年同月比上昇率

2. 政策金利を引き下げ

南アフリカ準備銀行(中央銀行)は7月20日開催の金融政策決定会合で、政策金利であるレポレートを▲0.25%ポイント引き下げ、6.75%にすると発表。市場予想は据え置きで、予想外の引き下げとなりました。

 図表2 南アフリカの政策金利

準備銀行は、インフレ率と通貨ランドの下落を抑えるため14年以降16年上旬にかけて、政策金利を引き上げました。その後は、商品市況の上昇一服や国内の景気後退などにより、政策金利を17年7月下旬まで据え置いていました。

3. 7-9月期は+2.0%

一方、南アフリカ政府統計局は12月5日に、7?9月期国内総生産が前期比年率季節調整済みで+2.0%になったと発表(図表3)。市場の予想の+1.5%から上振れ。今年4-6月期の+2.8%から減速したものの、2四半期連続でプラス成長となりました。

さらに落ち込みました。GDP伸びに最も大きく寄与したのは農業・森林・漁業で、主に農産品の増大が寄与しました。

 図表3 南アフリカの四半期成長率(前期比年率)

4. 政治情勢

このように、直近2四半期ではプラス成長を確保したものの、昨年10-12月期と今年1-3月期に連続のマイナス成長を記録しています。通貨ランドも長期的に下落傾向にあり、南アフリカの経済の実態はあまり改善されていないと言えます。

経済の低迷の大きな原因が、政治の混乱。同国では、黒人が政権をとって以来、アフリカ民族会議(ANC)が実権を握ってきました。特にここ数年はズマ大統領が独裁色を強め、批判を集めてきました。

特に今年3月末には、それまで改革を進めて期待を集めてきたゴーダン前財務大臣を事実上更迭。与党ANC内部からも公然と批判が出るなど、ズマ大統領への批判が高まっています。さらに、今年7月6日には、与党ANCが準備銀行(中銀)の国有化に向けて動き出すなど、政治の混乱が続いています。

ゴーダン氏の更迭を受けて、米国の大手格付け機関であるS&Pは、4月3日に南アフリカの格付けと「BBB-」から「BB+」、即ち投資不適格債に引き下げました。英米系フィッチも同様に投資不適格に引き下げました。ムーディーズは唯一投資適格としているものの、見通しはネガティブとしており、引き下げの可能性があります。

5. 為替と株価

ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、南アフリカは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。その後も弱含み、16年にも対ドルで一貫して下落。

今年に履いてからは3月初めにかけて大きく下落、その後には反発。9月頃まで軟調に推移し、その後はドルの下落もあり、上昇しました。通貨ランドは乱高下と繰り返しているものの、やや底入れの兆しも出てきました。(図表4参照)。

 図表4 南アフリカ・ランド(ZAR/USD)

株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、13年から14年春にかけて上昇。その後ほぼ横ばいで推移し、17年初頭より上昇。資源価格は依然として軟調であるものの、米国の景気が堅調であること、海外の投資家の資金が戻りつつあることなどが下支えとなっています(図表5参照)。

 図表5 FTSE/JSEアフリカ全株指数

6. リスク要因と課題

まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。ただ、投資家のリスク許容度の高まりなどにより、米国の利上げが直ちに南アフリカの株価下落に結びつくとも言えません。

最大の問題は、政治の状況。ゴーダン前財務相の更迭により、金融市場も混乱し、ズマ大統領自身やその周辺に対する汚職の疑惑もあります。今年12月には2019年に予定される大統領選に備えて、党首選が行われる予定。

ラマポーザ副大統領と、ズマ大統領の元妻で南アフリカ連合(AU)委員長のドミラニ=ズマ氏の2人の名前が挙がっています。ズマ大統領とドミラニ=ズマ氏の2人は離婚後も環形が良好であるとされ、もし同氏が次期党首となれば、金権政治からの脱却は難しいとみられます。

このような状況と踏まえると、南アフリカの本格的な景気の立ち直りは当面、困難である可能性があります。

 インド経済の展望 (4) リスク・課題 平成29年12月1日

おはようございます。前回の物価、金利、四半期成長率、為替、株価に続いて、今回はインド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレ懸念が後退

インドにおいは、長期間にわたり、インフレ率抑制がインド準備銀行(中央銀行)大きな課題となってきました。現在は消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が、中銀にとってのインフレ目標となっています。昨年9月にラジャン総裁が退任したことに伴い、ウルジット・パテル副総裁が昇格。同新総裁は、インフレ目標である+4%±2%を引き継ぎました。ただ、緩やかに解釈していると見られます。

インド統計局が11月13日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.58%(図表1参照)。インフレ率は引き続き低い水準にとどまっており、インド経済にとっては今のところ余りリスクにはなっていないと考えられます。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では14年に国内総生産(GDP)比▲1.3%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 付加価値税(GST)を導入

インドでは税制が非常に複雑であり、それがインド経済の発展を阻害してきた1つの大きな要因です。インドでは税体系が非常に複雑なうえに、日々の通達で規則や税率が頻繁に変更されます。こうした事態を打開するために導入されたのが付加価値税(GST)。

インドでは、物を作ろうとすると、部品、原料の輸入、出荷、製品販売などの各取引に際して、輸入関税、物品税、サービス税、州付加価値税、中央売上税など様々な間接税が課されてきました。

付加価値税(GST)が7月に導入されたことにより、17種類にも及ぶ間接税が一本化され、州を超える販売に対して課される税金も相殺可能となりました。GSTは5%、12%、18%、28%の4段階からなっており、18%が標準税率となっています。

食品を含む必需品にはゼロ税率を適用。大量消費製品や庶民向けの製品は5%。主なサービスは18%、家電製品やたばこや、炭酸飲料などは28%というように、物品やサービスの種類によって、適用される税率が異なっています。

5. インフラ整備が進展

インドでは、道路、鉄道、空港などのいわゆるインフラ(社会的基盤)の整備が遅れており、発展の阻害要因になっていると言われてきました。ただ、インフラ整備はモディ政権になってからは、4倍の速度で進んでいると言われます。

特に、電力については急速に改善。以前は1日に2-3時間の停電は頻繁に起きていましたが、現在では予備の発電機を遣うことがほとんどないという工業団地も現れています。日本企業が拠点を構えている地域でも、停電についてはかなり改善している模様。

 写真1 鉄道建設が進む北部ウッタル・プラデシュ州ラクノー

欧州系格付け機関大手フィッチ参加のBMIリサーチによると、インドのインフラは無効5年間で、年平均+5.9%拡大し、成長が加速する見込み。鉄道や道路といった輸送インフラ整備を推進するインド政府が、同分野への予算増加を図っていることなどが要因。

6. 労務問題

労務問題についても、注意が必要。数年前にはマルチ・スズキで死者が発生する深刻な労務問題が起きました。マルチ・スズキの生産が一時停止し、業績にも悪影響を及ぼしました。このような深刻な労働争議は減少しているものの、今後も労働問題の発生のリスクは残ります。

インドの労働法は、連邦政府が制定するものだけでも50以上あり、さらに州議会が独自に制定するものもあります。そのため、労働法自体を理解するのが難しいと言えます。さらに、正規社員と派遣社員の待遇格差、政治色の強い労働組合の影響もあります。

共産党系の過激な労働組合に労働者が扇動されることもあり、宗教やカーストなども関連するため、日本企業など外資系企業にとっては、対策が難しくなっています。就業規則の整備、対話の促進などにより、労働組合を良好な関係を作ることが重要となります。

5. インド経済の展望

インドではモディ政権による税制、法制度の改革、インフラの整備が進展しており、今後は製造業の発展も待たれます。国内における一部宗教的な対立、テロの危険性もあるものの、社会全体としては、不安定な要因は沈静化しつつあります。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き、新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

 インド経済の展望 (3) インド経済の展望 平成29年11月24日

おはようございます。前回はインドの政治について見ました。今回は物価、四半期成長率、株価などを見ます。前回の政治に続き、今回は物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が11月13日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.58%(図表1参照)。前月の+3.28%から加速。市場予想の+3.46%からも上振れ。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 4-6月期成長率+5.7%に減速

続いて、インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比+5.7%(図表2参照)。前期の同+6.1%から減速し、13四半期ぶりの低水準。新税導入を7月に控え、企業が在庫処分に動き、消費も伸び悩みました。今後、在庫回復が進み、景気が緩やかに回復するとの見方もある一方、+7%台とされる潜在成長率を通年で達成するのは困難であるとの見方もあります。

14年に発足したモディ政権下で、成長率が+6%台を割り込むのは初めて。成長率減の主な要因は+6.7%にとどまった個人消費の伸び悩み。各州でばらばらだった間接税を集約する「物品サービス税」(GST)導入を前にして、混乱が響きました。

新税の導入により、7月1日前に仕入れた商品を導入後に販売すると、納税負担が増大するため、小売店などは5-6月に在庫を処分。値下げ販売で対応した企業もあるものの、6月の売り上げが急激に減少した小売店もありました。

 図表2 インドの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を維持

他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は10月4日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを6.00%で維持することを決定(図表3参照)。同行は、リバースレポ金利も現状通り5.75%、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りる債のMSFの金利も6.25%で据え置き。同行は前回8月の会合で、主要政策金利を16年10月以来10か月ぶりに▲0.25%ポイント引き下げていました。

 図表3 インドの政策金利

RBIは会合後に発表した声明文で、政策金利の現状を維持した理由について、「前回会合字からCPI(消費者物価指数)で見たインフレ率が2ポイント加速した」とし、インフレ上振れリスクが高まったことを挙げています。

4. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落。17年初頭からは小幅反発。16年12月末から17年10月迄に、+4.7%の小幅反発。インドはかつて「脆弱5か国」とされ、財政赤字および経常収支赤字が懸念されました。そのため、インド・ルピーはドルなど主要通貨に対して、継続的に下落してきました。

一方、株価は代表的な株価指数であるSENSEX30で見ると、12年初めから15年初めにかけて順調に上昇。15年初めから16年2月にかけて調整したものの、その後は再び力強く上昇。16年末から17年10月末までのSESEX30の情率は+26.5%と好調。

 図表4 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

17年初めからの株価上昇率を見ると、インドをはじめとする新興国の株価上昇率は先進国のそれを大幅に上回っています。ただ、今後は米連邦準備理事会(FRB)が1月にも利上げする可能性が高いとみられます。米国の金融政策の動向によっては、株価が一時的に調整局面を迎える可能性もあります。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

 インド経済の展望 (2) インド経済の展望 (2) 政治 平成29年11月17日

おはようございます。前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ氏が改革を推進

14年5月16日に行われた総選挙では、ナレンドラ・モディ氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝。543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得。グジャラート州首相のモディ氏(63)が首相に就任。BJPを中心とする野党連合は、336議席を獲得しました(図表1参照)。

一方、これまで2期にわたり政権を担ってきた国民会議派は44議席で、同党を中心とする与党連合の統一進歩同盟は60議席にとどまり、過去最悪の結果。このほか、地域政党他が137議席となりました。シン前首相は、モディ氏とBJPの勝利を称賛。モディ氏は「インドの勝利だ」と述べました。

 図表1 下院の党派別議席数

一方、上院ではBJPは連立を組む政党と合わせても3割に満たず、少数派にとどまっています(図表2参照、議席数は14年5月時点)。BJPが上院に法案を提出しても、国民会議派など野党の執拗な抵抗にあい、可決に足らないケースが相次いでいます。

上院は、州議会による間接民主制に基づいています。 BJPは下院では過半数を占めているものの、州議会レベルでは、少数派にとどまっていることが少なくありません。また、14年5月の総選挙後も、BJPは地方選挙で必ずしも勝利を収めていません。たとえば、15年11月に行われた東部ビハール州議会選挙ではBJPは30議席減らして58議席にとどまり、国民会議派など反BJP連合の178議席に対して、大敗しました。

 図表2 上院の党派別議席数(14年5月)

2. 17年州議会選挙で与党BJPが勝利

17年2月に始まったインド5州での議会選挙は3月9日に締め切られ、11日に開票結果が公表されました(図表3参照)。

与党であるインド人民党(BJP)は、5州合計690の定数に対して、前回獲得数の2倍以上となる421議席を獲得。インド最大の人口を抱えるウッタル・プラデシュ州では、403の定数の過半数を大きく上回る312議席を獲得。州議会による間接選挙で選ばれる上院への影響も大きく、BJPの上院における議席数増大に道を開きました。

 図表3 5州の議会選挙でのBJP獲得議席数

3. 14年5月政権誕生後の主な改革

モディ首相就任後の主な改革において、統治機構改革については、首相府の権限強化、閣僚数の削減、インド改造評議会の創設など。

投資環境の整備については、外資規制の緩和、具体的には鉄道インフラの100%開放、建設について面積、投資金額などの要件を緩和、保険の出資比率の引き上げ(26%→49%)。労働改革としては、各種許認可申請のオンライン化、工場査察プロセスの透明化、従業員積み立て基金(EPF)の統一番号化など。

インフラ整備に関しては、有力大臣を配置し、既存の案件を点検。インフラ工事の進み具合は、前政権の4倍に加速。Sagara Malaプロジェクトの導入により、主要港湾開発に注力。製造業の振興を保管。

4. 高額紙幣を廃止

モディ首相は上記のような改革を進め、その後は大きな変化がなかったものの、16年11月に突然高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用禁止を発表。これらの高額紙幣は汚職や脱税に利用されて来ており、不正な隠し資産を補足しようとの狙いがあります。

11月8日までは、主に富裕層が高額のマンションや金など宝飾品の購入、海外旅行、豪華な結婚式に不正蓄財を利用し、経済の活性化にも繋がっていました。政府は高額紙幣の使用を禁止し、12月30日までに銀行に持ち込まない限り、2紙幣は単なる紙切れになると発表したため、社会が大混乱に陥りました。

これにより、高額商品のうち特に自動車販売が低迷。昨年11月は前年同月比▲0.6%の伸びにとどまり、12月も▲2.1%。ただ、17年には1月が+11%、2月も+9%と回復傾向。その後も増加傾向にあり、17年10月には34万9630台へと拡大。

 図表4 インドの新車販売台数

3-4月以降、貨幣流通量も元に戻る傾向にあります。さらに、高額紙幣の廃止により、電子決済が普及。街中の小規模な商店でも、スマートフォンを使って電子決済が普及。販売側は小銭を用意する必要がなくなり、消費者も現金の持ち合わせがなくても買えるようになりました。

インドは元来、現金による支払いを基本としていきました。グーグルの調査によると、15年のインドでは、決済の8割が現金で行われたとされています。高額紙幣の廃止により、中央銀行の統計によると、市中の紙幣流通額は16年10月の17.5兆ルピー(約33兆円)から翌年1月にかけて、10兆ルピー以下へとほぼ半減。

一方、電子決済額は高い伸びのとなりました。特に16年8月に導入されたUPI(Unified Payment Interface、スマートフォンのアプリケーションで、銀行間送金・決済を行えるシステム)による決済額は、紙幣流通量が急激に減少した時期に、ほぼ20倍の規模に成長。同年12月には、インド最大手の電子決済プラットフォームであるペイティーエム(Paytm)が、国の管理する高速道路料金の支払いに利用できるようになりました。電子決済を受け入れる企業、組織も急増。

5. 与党と大統領のねじれ解消

17年7月17日に行われた大統領選では、与党BJPが推薦したコビンド氏が当選。インドの大統領は儀礼的存在であるにすぎないものの、議会審議が糾弾した際には大統領令で切り抜けることが可能。

ムカジー大統領は国民会議派政権時代に選出されたため、モディ政権とは「ねじれ」状態にありました。大統領は上下両院と地方の州議会議員による間接選挙で選出されるため、政権与党の意向に左右されやすい傾向にあります。与党BJPは上院では依然として少数派であるものの、議会運営はやりやすくなるものと予想されます。

6. インドの外交

モディ政権の最大の成果は外交と言われるほどで、37か国を回り自ら投資を誘致してきました。日本との関係では、新幹線と原子力協定により、更に関係性が高まる見込み。

懸念としては、米トランプ大統領が、H-1Bビザの発給を廃止すると発言していること。インドのIT産業は5-6割を米国に輸出し、そのサポート、保守のために技術者を米国に送り込んできました。H-1Bビザの発給が停止されると、このビジネスモデルが成り立たなくなります。

中国に対しては是々非々の態度をとるとみられます。領土問題はあるものの、中国からの電子機器などの投資は進める構え。パキスタンとの関係には、やや改善の兆しもあります。そのほか、バングラデシュ、スリランカとの関係についても、改善の努力をすると見られます。

中国との対立は、高まる可能性もあります。中印両国は17年6月以降、インド、ブータンが国境を接する領土係争地である「ドクラム高地」でにらみ合いを続け、62年の中印国境紛争以来の武力衝突になる危険性がありました。

インド外務省は、8月28日に両政府が部隊を「即時撤退」させることで合意したと発表。中国政府は、同地帯での「領有権の行使を続ける」とし、中国軍がドクラム高地での警備を続ける方針を示唆。このほか、両国は中国が進める「一帯一路」に関しても対立を深めています。両国の対立により、南アジアにおける地政学的リスクが高まることも考えられます。

次回は、物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見る予定です。

 インド経済の展望 (1) 人口と発展段階 平成29年11月10日

おはようございます。インドの世界経済における存在感が高まっています。インド経済の課題と展望を見ていきます。

1. インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想)

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2. 成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は17年10月に発表した世界経済見通しの報告書で、18年のインドの成長率予想を+7.3%として、中国については+6.5%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、14年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2017年で見ると、IMFの今年10月のデータで、米国が59,495ドル、日本が38,550ドル。また、ロシアが10,248ドル、ブラジルが10,019ドル、中国が8,582ドルであるのに対して、インドは1,852ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2017年)

4. 4-6月期成長率+5.7%に減速

インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比+5.7%(図表5参照)。前期の同+6.1%から減速し、13四半期ぶりの低水準。新税導入を7月に控え、企業が在庫処分に動き、消費も伸び悩みました。今後、在庫回復が進み、景気が緩やかに回復するとの見方もある一方、+7%台とされる潜在成長率を通年で達成するのは困難であるとの見方もあります。

14年に発足したモディ政権下で、成長率が+6%台を割り込むのは初めて。成長率減の主な要因は+6.7%にとどまった個人消費の伸び悩み。各州でばらばらだった間接税を集約する「物品サービス税」(GST)導入を前にして、混乱が響きました。

新税の導入により、7月1日前に仕入れた商品を導入後に販売すると、納税負担が増大するため、小売店などは5-6月に在庫を処分。値下げ販売で対応した企業もあるものの、6月の売り上げが急激に減少した小売店もありました。

 図表5 インドの四半期成長率(前年同期比)

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

 底堅いトルコ経済 平成29年11月3日

おはようございます。11月3日は文化の日、皆様いかがお過ごしでしょうか。このところ底堅い、トルコ経済について見ておきましょう。

1. 9月CPI上昇率は+11.2%に加速

トルコ統計機構(TUIK)は10月3日に、9月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+11.2%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.68%から加速しました。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

2. 政策金利を据え置き

一方、トルコ中央銀行は10月26日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「翌日物貸出金利」を9.25%で維持(図表2参照)。据え置きは4回連続で、市場の予想通り。そのほか、1週間物レポ金利、翌日物借入金利もそれぞれ、8.00%、7.25%で維持しました。 中銀は声明で、「インフレ見通しが大幅に改善し、目標と一致するまで、引き締めの金融政策を断固維持する」としました。

 図表2 トルコの政策金利

3.  4-6月期は+5.1%

他方、トルコ統計局が9月11日に発表した17年4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+5.1% (図表3参照)。今年4-6月期の+5.2%(改定値)からはやや減速。信用保証基金の拡充による融資の拡大など政府の景気刺激策が功を奏しました。

 図表3 トルコ四半期成長率(前年同期比)

GDPの6割を占める個人消費は+3.2%で前期並みの伸び率を確保。減税措置を導入した家電成否の販売が好調。最大の貿易相手である欧州連合(EU)の景気回復により、輸出は+10.5%と好調でした。

4. 権威主義的傾向強めるエルドアン政権

トルコでは、昨年7月15日に、軍の一部によるクーデター未遂事件が発生し、それを受けて21日に非常事態が宣言されました。エルドアン大統領は、米国に亡命中のイスラム運動指導者のギュレン師を首謀者と断定。ギュレン師は関連を否定しているものの、国内の公務員、国立・私立教員、マスコミ関係者など多数を逮捕・拘束。公務員を大量に公職追放処分するなど、大規模な粛清を展開しました。

さらに、今年4月には従来は「儀礼的存在」であるとされてきた大統領の権限と強化することを柱とする憲法改正にためのっ国民投票を実施。国民の過半数の賛成を得て、憲法を改正し、エルドアン大統領への権限の集中が一層進みました。

隣国のシリアおよびイラクでは、IS(「イスラム国」)を相当するために、米国などと強調して軍事活動を展開。ISはほぼ壊滅できたものの、イラク北部のクルド人自治区を中心として、クルド人の勢力が強まっています。トルコは国内では武装組織であるクルド労働者党(PKK)と戦闘を行う一方、国内ではクルド人によるテロ事件も頻発しており、治安は不安定さを増しています。

米国は、ISの壊滅を進めるうえでも、クルド人勢力に接近。米トランプ政権はイランとの対決姿勢を強めています。エルドアン政権による強権的な政治手法をEU(欧州連合)が批判していることから、トルコとEUの関係が悪化。間隙をぬってロシアがトルコおよびイランに接近。中東の政治情勢は、混迷の度合いを強めています。

5. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-16年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。経常収支、財政収支の赤字が縮小する兆しがなく、米国の利上げ、新興国からの投資家の資金の引き上げが影響しました。

17年1月には1ドル=3.78リラへと大きく下落。ただ、その後はドル安もあり、8月には同3.45リラに回復。その後は再び下落して、10月には同3.79リラとなりました。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は14年には上昇傾向にあったものの、商品市況の悪化などで投資家が新興国から資金を引き上げる動きを強め、15-16年には軟調な展開。ただ、トルコ国内の政治の安定、景気の回復、海外の投資家の資金が新興国にやや回帰したことなどから、昨年11月以降には大幅に上昇しました。

6. リスク要因と課題

米ドルの下落により、通貨リラは対ドルでは底入れの傾向にあるものの、ユーロ高により、ユーロに対しては引き続き下落。輸出に押し上げ圧力がかかり、景気にも好影響を与えています。ただ、国内の景気は、税の軽減措置、公共投資によって支えられている面が強く、内需に力強さが欠けています。財政出動によりインフレ率が高止まりし、財政赤字も拡大。輸入の拡大意より、経常収支も悪化。

それに加えて、トルコではエルドアン大統領による粛清が継続しており、それに反発したクルド人勢力などによるテロも頻発。観光業に打撃を与え、国内の消費低迷の一因ともなっています。引き続きエルドアン大統領による独裁的な政権が続く可能性が高く、対外的な摩擦の高まりも考えられます。通貨は対ドルではこのところ安定しているものの、引き続き相場環境に左右されやすい展開になると予想されます。

 薄日射すブラジル経済 (5) 課題・リスク・株価 平成29年10月27日

前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 貿易が低迷

前回ご報告の通り、16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ただ、今後も外需に期待するのは難しい情勢。中国は輸出・設備投資主導の経済から消費など内需主導の経済への転換を図っています。そのため、中国がかつてのような資源の「爆買い」をしてくれる可能性が低く、鉄鉱石、原油などブラジルの資源の輸出が伸びるのは余り期待できません。また、通貨レアルは嘗ての水準よりは低いものの、現在程度の水準では、輸出競争力の回復にはつながらない見込み。

2. バランスシート調整が進行

ブラジルでは、バランスシート調整が進行しており、特に住宅価格が低迷。住宅価格は15年頃から下落に転じ、16年9月には前年比▲15%の下落。当時のインフレ率は+8%程度であったため、実質的には▲20%程度の下落となります(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの住宅価格

さらに、信用収縮(クレジットクランチ)も進行。銀行貸出癌減少に転じており、特に企業向けは▲7%まで低下。インフレ率を考慮すると、実質ではさらに減少していることになります。

3. 財政収支改善に遅れ、政治的混乱は収束の方向

第3回でご報告の通り、プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。財政収支改善が遅れています。

ただ、これも第3回でご報告の通り、テメル新政権になってから、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。財政赤字は15-16年に大幅に拡大したものの、今後は小康状態となる可能性があります。

州政府の財政も悪化しており、連邦政府よりも深刻。27州のうち26州が危機的状況にあります。特にリオデジャネイロのあるリオ州は大幅な赤字。リオの沖合にプラソルトの海底油田があり、その石油収入に依存しています。原油価格低迷がマイナス要因。州の財政の悪化により、市民へのサービスが低下しており、市民の反発の可能性があります。

全体として、政治的混乱は収束の方向にあります。テメル大統領の支持率は5%前後と、非常に低いものの、社会保障制度改革などによる財政の健全化、労働改革、インフラ投資の推進などを行っています。ルセフ前大統領と異なり、ばらまき政策をやめて財政健全化を図り、市場寄りの政策をとっています。

財務大臣には、嘗てインフレを抑制し、比較的高い経済成長を実現したメイレレス元ブラジル中銀総裁が就任。同氏は大臣就任後の記者会見で、政府債務の抑制、財政収支均衡化に向けた新たな課税措置、年金制度を含めた社会保障制度改革に取り組む姿勢を示唆。

ただ、ブラジル政府は8月15日に、17年の財政赤字が当初改革から+14%の拡大になると発表。財政規律を重視するテメル大統領は、増税による歳入不足分の穴埋めを狙いましたが、与党議員の抵抗により撤回。テメル氏は、放漫財政を防げるかどうかの瀬戸際に立たされています。

4. インフレ率が安定

インフレ率は、比較的低水準を維持しています。ブラジル地理統計院は10月6日に、9月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)が、前年同月比+2.54%になったと発表(図表3参照)。市場予想の+2.47%を上回り、前月の同+2.46%から加速し、13か月ぶりの加速となりました。ただ、インフレ率は、前月比では伸び率がやや加速したものの、依然としてかなり低い水準にとどまっています。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルはインドなどと主に「脆弱5か国」とされ、通貨は対ドルで大きく下落。14年に入ると、新興国の経済に対する警戒感が後退したことから、6月末には1ドル=2.204レアルにまで回復。

ただ、利上げ打ち止めや、景気の後退により、年の後半には対ドルで再び大きく下落。15年に入ってからも米連邦準備理事会(FRB)による利上げの予想、中国の景気減速とそれに伴う資源価格の下落により、通貨はされに大きく下落。16年1月末には1ドル=3.99レアルまで急落(図表4参照)。

16年2月以降には、資源価格の反発、市場から距離を置いていたルセフ前大統領の退任の観測などにより、大きく上昇。17年2月末には同3.10レアルまで回復。その後レアルは小幅上昇し、16年末から9月末までに+2.75%と小幅上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価はルセフ政権の支持率低下、新興国の経済に対する投資家の不安の後退により、14年に入って堅調に推移。昨年末から今年8月末まで、ボベスパ指数は+18.9%の大幅上昇。ただ、その後は景気後退などにより株価は下落に転じ、14年末には前年末との比較で▲2.9%と小幅下落。

15年に入ると4月まで株価は持ち直す傾向にあったものの、米FRBによる利上げの予想及びそれに伴う投資資金流出の懸念、景気の後退などにより、株価は軟調に転じました。16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントまで大幅に下落。

その後は、為替と同様にルセフ前大統領の退陣、政策が市場寄りになるとの期待、資源価格の回復などにより、株価も大きく反発。ボベスパ指数は15年12月末と比較すると、+23.35%の上昇。

6. 展望

米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、16年1月頃までは海外の投資家がブラジルから資金を引き上げる動きを見せていました。米国の景気が堅調であること、資源価格の回復、新興国の株価の割安感の台頭などにより、特にブラジル、ロシアなど一部の資源国には投資家の資金が戻りつつあります。

ブラジルの景気、輸出は資源価格に大きく依存する面がありますが、原油価格は16年に回復したものの、17年に入ると石油輸出国機構における増産の動き、米国のシェールガス増産などにより価格上昇が一服。鉄鉱石価格は16年初めには、対日輸出価格が1-3月期にトンあたり47ドルであったものが、17年4-6月期には同77.5ドル程度まで上昇。7-9月には66.8ドルまで反落。中期的には、資源価格はやや安定してきた感もあります。

国内の景気は底入れの様子を呈しており、メキシコなどと異なり、米トランプ政権との大きな対立も今のところありません。株価、為替については、引き続き堅調に推移することも考えられます。

 薄日射すブラジル経済 (4) 貿易・政治 平成29年10月20日

前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 16年に輸入が大きく減少

16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。ただ16年初頭以降にはやや反発し、直近では同53.3ドル程度まで回復しています。

ただ輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。原油価格はやや回復したものの、米国のシェールガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。

さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 小政党が乱立するブラジル議会

ブラジルの議会政治の大きな特徴の一つは、少数政党が分立しているため、議会で安定した多数を形成するのが難しいということがあります。政党が細分化されているうえ、定見がなく勝ち馬に乗ろうとするコバンザメ的・日和見主義的な政党が多く、連立政権ができてもその性格・政策があいまいになる傾向があります。

テメル大統領出身母体で最大議席を占有しているPMDBでさえも、議席占有率は約13%にすぎません(図表2参照)。ルセフ前大統領の出身母体で16年8月まで政権与党であったPTは、低所得層や労働者など非エリート層に支持された左派政党であり、かつてはエリート層が支持する政党に選挙で勝てませんでしたが、ルーラ元大統領が2002年の大統領選で当選し、政管と獲得しました。

ルーラ元大統領は、ストライキの指導者として知られ、与党に対してはなんでも反対、という姿勢をとっていました。ルーラ氏の後継者のルセフ前大統領は、過激な学生運動をこない投獄された経歴を持っています。ルセフ前大統領の弾劾以降は、少数政党が離れていきました。

 図表2 ブラジル下院における各党議席占有率(2016年)

3. 当面の政治的混乱を回避

6月9日に、選挙高等裁判所(TSE)が、2014年大統領選挙の不正資金使用疑惑に関する裁判で、ジルマ・ルセフ前大統領と、テメル副大統領(いずれも当時)の当選は有効であるとの判決を下しました。

6月12日には、最大の連立パートナーであるブラジル社会民主党(PSDB)が、連立政権の支持、離脱を決定する会合を開催。大物上院議員ジョゼ・セーラ氏がPSDBは連立政権を離脱しないと、記者団に語りました。

8月2日には、テメル大統領の収賄罪に係る検察の最高裁への起訴に関して、議会下院は本会議での採決において、大統領の起訴を否決(写真1参照)。テメル氏は、来年10月における大統領選には出馬しないと表明しています。

 写真1 首都ブラジリアで演説を行うテメル大統領(8月2日)

4. テメル大統領の政策により景況感が改善

テメル大統領の支持率は5%前後に低迷しているものの、同大統領が率いるブラジル民主運動党(PMDB)は、改革による積極的な成長路線を推進。インフラ投資、財政の健全化により、景況感が改善。

昨年12月には、歳出上限に係る憲法改正案が議会で成立。さらに、同月に議会に提出された労働改革法案も今年7月に成立。猶、今年2月に審議が開始した、年金制度を含む社会保障制度改革に係る憲法改正案の行方が注目されています。

具体的な政策としては、コンセッション方式により、インフラ投資を促進。コンセッション方式とは、ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられた上で行われる事業方式を指します。

さらに、歳出(国債利払い費を除く)の前年比伸び率を前年のインフレ率以下に抑える、歳出上限を導入。また、社会保障制度も改革。年金受給開始年齢の引き上げ、恩給受給額や資格の見直しを推進。年金を含む社会保障し江戸改革に係る憲法改正案を議会で審議。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

 薄日射すブラジル経済 (3) 財政収支など 平成29年10月13日

前回は最近の景気動向、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などを見ます。

1. 財政再建へ憲法を改正

ルセフ前大統領は昨年8月に罷免となり、暫定政府で大統領代行をしていたテメル副大統領が9月初めに正式に大統領に就任。同氏はブラジル民主労働者党(PMDB)の党首。PMDBは下院の第一党であるものの、下院定数513議席のうち、68議席しかありません。ブラジル議会は少数乱立で与党は11政党の連立。小政党は理念で結びつくというよりは、人脈・地位で合従連衡を繰り返しているに過ぎないと見られます。そのため、テメル政権が抜本的に財政再建を行うのは難しいとの予想もありました。

ところが、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。憲法改正には60%以上の賛成が必要で、しかも上下両院で二度可決が必要。11月には下院で65%の賛成となり、12月には上院でも修正せずに可決。ペトロブラス(国営企業)を舞台とする汚職事件に関連して、検察官による議員への訴追を軽減する法案が同時に審議されており、そちらにばかり注目が集まっていたことが一因とみられます。

2. 財政収支改善に遅れ

テメル政権は構造改革を進めているものの、最優先課題である財政再建は遅れています。プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。13年は1.7%で、財政責任法(00年施行)に定める黒字目標の2.3%を下回りました(図表1参照)。15年には▲1.9%となり、税収の下振れを反映。財政収支も同様に悪化。国際通貨基金(IMF)では以前には、15年以降に基礎的財政収支(プライマリー・バラン)が改善すると予想していましたが、実際には16年に▲2.5%へと悪化。17年には▲2.4%、18年には▲2.3%へと徐々に改善する見込み(IMF17年10月時点予想)。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP)

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で38.2%図表2参照)。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。ブラジルでは、従来、公務員の数か多すぎると言われてきましたが、ルセフ氏までの左派政権が大盤振る舞いをしてきました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

3. 格付けの低下リスクは後退

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。見通しを引き続き「ネガティブ」としました。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、その時点よりも「成長見通しが弱まっている」として、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

財政見通しは悪化しているものの、政局の安定を受けて、短期的な格下げのリスクは後退。S&Pは、ブラジル国債について17年8月15日にクレジット・ウォッチ・ネガティブの指定を解除。今後は、歳出上限の実効性を確保する上で欠かせない年金改革の成否が、格付けの方向性を考えるうえで重要性を増すことになりそうです。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

4. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

13年には債券投資に関わる金融取引税の撤廃、大幅利上げで回復しつつあったものの、米量的緩和の縮小(テーパリング)により、流出超に転じました。米金融政策の落ち着きなどにより、ブラジルでは株価が回復。それに伴い証券投資も落ち着きを取り戻しました。

そのため、資本収支の安定のためには、直接投資(FDI)の持続性が問題となります。11年以降、経常収支赤字を補う形で、対内直接投資(FDI)が堅調に推移。13年の対内直接投資は前年比▲18.5%と、2年連続で2桁減少。エネルギー、自動車、交通関係は堅調ですが、2桁の大幅減少となった業種も多く、業種ごとの選別が強まっています。

13年にはブラジルは、インド、トルコなどともに「脆弱5か国(fragile 5)」と位置付けられ、財政収支・経常収支の赤字が問題とされました。そのような脆弱性により、証券投資の資金が国外に流出し、通貨、株価の下落リスクが高いとされました。実際、ブラジルからは大きな資金流出。海外の投資家によるリスク回避の動きにより、証券投資は不安定になりました。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。政府部門の赤字の改善のためには、公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革が必要であると、従来言われてきましたが、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されます。

17年2月にはエネルギー改革として、ローカルコンテンツ規制の緩和が発表されました。すなわち、設備等の国内調達率を約半分に引き下げており、今後もテメル政権により、エネルギー関連の投資が増大する可能性があります。

 図表5 主要国・地域のISバランス

16年には、原油など資源価格が回復傾向を示しました。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えており、中国の粗鋼生産も回復する兆しがあります。鉄鉱石、銅などの価格もやや反発しました。ただ、シェールガスの開発、石油輸出国機構(OPEC)において、イラン、リビアなどが増産したことにより、原油価格は伸び悩んでいます。IMF(国際通貨基金)によると、ブラジルの経常収支は、17年以降再び悪化する見通しとなっています。

次回は貿易、政治などを見る予定です。

 薄日射すブラジル経済 (2) 最近の景気 平成29年10月6日

おはようございます。前回は成長率、1人当り国民所得などを見ました。今回は、最近の景気動向、物価、金利などを考察します。

1. 消費に持ち直しの動き

ブラジルでは、過去2年に亘ってマイナス成長が続くなど、長期的な低迷が継続。ただ、今年4-6月期には国内総生産(GDP)成長率の伸び率が鈍化したものの2四半期連続のプラス成長。長年にわたって成長を牽引してきた個人消費がプラスに転じました。

4-6月の個人消費が拡大に転じた背景には、物価の安定による中央銀行が利下げする環境が整っていることに加えて、3月から政府が金属危険保障基金(FGTS)の引き出し解禁に踏み切ったことにより、多くの家計で一時所得が拡大したことが影響しています。

前期には成長率を押し上げた在庫の積み増しは、4-6月期にはマイナスの寄与となるなど、在庫調整も進んでいるとみられます。したがって、4-6月期にはGDP(国内生産)伸びは鈍ったものの、景気は回復に向かいつつあると考えられます。

2. 鉱工業生産が回復

ブラジル地理統計院が10月3日に発表した9月の鉱工業生産は、前年同期比+4.0% (図表1参照)。市場予想の+4.8%からは下振れしたものの、前月の+2.5%からは加速。原油価格の安定などが影響しました。

 図表1 ブラジルの鉱工業生産(前年同月比)

3. 小売売上高も回復

上記の通り、消費も回復傾向にあります。ブラジル地理統計院が9月12日に発表した8月の小売売上高は、前年同期比+3.1%(図表2参照)。前月の+3.0%からやや加速。市場予想の+3.5%からは下振れしたものの、消費の堅調さが定着しています。

 図表2 ブラジルの小売売上高(前年同月比)

4. インフレ率が減速

一方、ブラジル地理統計院は9月6日に、8月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)が、前年同月比+2.46%になったと発表(図表3参照)。伸び率は市場予想の+2.6%を下回り、前月の同+2.71%から減速しました。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 政策金利を▲1.00%ポイント引き下げ

ブラジル中央銀行は9月6日の金融政策委員会で、政策金利を▲1.00%ポイント利下げして9.25%にすることを全員一致で決定(図表4参照)。利下げ幅は前回会合の▲1.00%と同じで、全員一致。16年10月以来8会合連続で利下げしたことになります。

中銀は16年10月会合で4年2か月ぶりとなる利下げ(▲0.25%ポイント)を行い、同12月会合でも同率の引き下げで13.75%としました。17年1月と2月の会合では、いずれも▲0.75%の利下げ。4月会合ではさらにそれを上回る▲1.00%ポイントの引き下げを行い、09年以来8年ぶりの大幅利下げとなりました。16年10月以降の利下げ幅は合計で▲5.00%に達しました。



 図表4 ブラジルの政策金利

足下ではインフレ率が鈍化しており、中銀は物価抑制よりも景気刺激を優先した模様。今後のインフレ率の見通しについて中銀は、17年のインフレ率を+3.3%、18年を+4.4%程度を予想しています。

次回は、格付け、財政収支、経常収支などを見る予定です。

 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率 平成29年9月29日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ここ数年は景気が低迷していましたが、回復傾向にあります。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億957万人(ブラジル地理統計院推定、2016年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 薄日射す成長率

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。続いて、資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.7%、16年▲3.5%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。しかし、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年+0.1%、18年+1.7%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、15年の1人あたり国民所得は、米国が56,174ドル、日本が34,513ドル。また、ロシアが9,521ドル、ブラジルは8,810ドルでまずまずの水準。一方、中国が8,166ドル、インドは1,615ドルでした。

これを17年でみると、米国が59,609ドル、日本が38,281ドルに対して、ロシア10,885ドル、ブラジル10,308、中国8,480ドル、インド1,850ドル(図表2参照)。15-16年には、資源価格の低迷などにより、ブラジル、ロシアの資源国は1人当たり国民所得で見ても停滞していたものの、17年には回復傾向にあります。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、均衡のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2017年)

3.  4-6月期GDPは+0.3%に改善

他方、ブラジル地理統計院は8月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+0.3%であったと発表(図表3参照)。1-3月期の▲0.4%から回復。前期比では+0.2%と、2四半期連続のプラス成長。個人消費が回復し、サービス業が緩やかに持ち直しました。

個人消費の動向を示唆する家計消費は+1.4%と堅調。インフレ率の低下が影響しており、7月のインフレ率は上記の通り前年同月比+2.7と、同国としては異例の低さ。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

中銀の政策金利引き下げも景気を後押ししています。8月の新車販売台数が前年同月比+21%になるなど、耐久消費財の販売も回復傾向。メイトレス財務相は、「100年の一度の景気後退から回復した」と述べました。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルでは14年にサッカーのワールドカップ、16年にオリンピックという世界的なイベントが行われました。それにもかかわらず、15-16年と、ブラジルの景気は低迷。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、またそれに伴う資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権に交代。政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一新、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの予想が高まりました。テメル氏自身に対する汚職などの疑惑も取りざたされていますが、今のところ同氏は大統領職を続け、社会保障改革などに取り組んでいます。政治については後に見ていく予定ですが、政権交代が景気に対しては肯定的な効果をもたらしたと言えます。

次回は最近の景気動向、物価、金利などを見る予定です。

中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価 平成29年9月22日

おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回はリスク物価、金利、為替、株価について。

1. 8月CPIは+1.8%に加速

中国の国家統計局が9日発表した8月の消費者物価指数(CPI)前年同月比+1.8%と、前月から+0.4%ポイントの加速(図表1参照)。1月以来7か月ぶりの伸び率となりました。同統計局は声明で、CPIの加速について、暑さと降雨で卵が+16.2%、野菜が+8.5%値上がりしたことが主な要因であるとしました。

一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+6.3%となり、前月の5.5%から加速。市場予想の+5.7%からも上振れ。

 図表1 中国の消費者物価指数(CPI)前年同月比上昇率

2. 預金準備率を引き下げ

一方、金融政策については、大きな変化は見られません。中国人民銀行(中央銀行)は16年2月29日に、追加の金融緩和を決定。市中銀行から中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げ、17%にすることを決定(図表2参照)。3月1日から実施。引き下げは15年10月以来。その後、変更は、ありません。

 図表2 中国の預金準備率(大手銀行標準)

続いて、中国人民銀行(中銀)は2月3日に、資金供給オペの金利を引き上げました。過去最高の刺激策で景気が安定したことを受けて、同行が資産価格やインフレ抑制に軸足を移す中、金融政策の引締に向けた新たな一歩となるとみられました。

同行は7日物と14日物リバースレポの利率をそれぞれ▲10bp(1bp=0.01%)引き上げました。引き上げ後の利率は7日物が2.35%、14日物が2.5%、28日物が2.65%となりました。7日物と14日物のリバースレポの利率引き上げは13年以来、28日物の引き上げは15年以来。それ以降は、金融政策に大きな変化はありません。

3. 株価と為替

ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。15年には▲4.6%の下落。16年12月には1ドル=6.944ドルまで下落。人民元の下落は中国の内需の減少、海外への資金流出などが原因とみられます。

ただ、当局が継続的に為替市場に介入を行うことなどにより、人民元は対ドルで反発。17年8月末には1ドル=6.592ドルまで反発。外貨準備高の大幅減少につながりました。

 図表3 上海総合指数と人民元(CNY/USD)

株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。2006年2月には2687ポイントまで下落。中国では、不動産、株価などが順番にバブルの状態になると言われており、株価も07年に上海指数が約6000ポイントの高値を付けるなど、随時バブルの様相を呈することがあります。

中国の国内資金は規制があるため海外には出にくく、株価も時に急騰することがあります。16年2月以降には株価は同指数でみてじり高の様相を呈しています。このところ不動産価格の上昇が止まってきたため、株価についても今後、やや頭が重くなる可能性があります。」

4. 当面の注目点

当面の注目点としては、就任以来約5年が経過し、折り返し地点に来た習近平政権の新しい体制が問題となります。従来、中国共産党のトップであると位置づけられる政治局常務委員会委員(現在は9人)は、68歳が定年であるとされ、現在のメンバーでは習近平国家主席、および李克強首相だけが定年にかからないことになります。そのため、69歳となった王岐山氏(序列6位)は、反腐敗運動で猛威を振るってきたものの、その去就が問題となります。

今年秋の党大会では、今後の共産党の新たな政治局常務委員会委員を決めるにあたり、定年の延長を認めるかどうかが焦点となります。秋の党大会に先立ち、江沢民元国家主席に近いとされる元重慶書記の孫政才氏が、腐敗の疑いにより摘発されました。

また、習近平氏は江沢民氏に近いとみられる軍の幹部も多数摘発。軍の掌握にも乗り出しています。今後も秋の党大会に向けて、人事を巡る駆け引きが一層活発化するとみられます。習近平氏は権力基盤強化のため、徹底した反腐敗、言論の弾圧を強行しています。少なくとも現在の状況からは、政治改革は望むべくもないとみられます。

中国と米中関係 (6) リスク要因・課題 平成29年9月15日

おはようございます。前回は、前回は為替・金融政策を見ましたが、今回はリスク要因、課題について。

1. 景気失速のリスク

中国の足下の景気、また中長期的な成長率についてはどうでしょうか。中国の国家統計局が31日発表した8月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.7と、前月から低下(図表1参照)。市場予想の51.3からも上振れ。景気の拡大・悪化の境目とされる50は上回りました。中国経済は底堅く、当局は、7-12月期も金融リス抑制に向けた取り組みを続ける余地が生まれることを示唆しています。

1-6月(上期)には、中国経済は輸出回復や力強い内需を背景に市場予想を上回る堅調を示していましたが、7月には全般に減速を示唆していました。今後は、当局が成長率を維持しながら信用の拡大速度をいかに抑えるかが焦点となります。

 図表1 中国の造業購買担当者指数(PMI)

さらに、中国の国家統計局は7月17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示しました。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。

ただ、長期的には生産人口(中国の定義では15-60歳の人口)の減少、少子高齢化、製造業からサービス業など第三次産業への移行により、国内総生産(GDP)成長率はさらに低下していくと予想されています。

2. 債務問題

中国では、過剰生産能力の削減、国有企業の再編など、供給側の改革に乗り出しています。需要側では、消費を拡大することにより、従来の投資と輸出主導の経済成長からの脱却を図っています。

ただ、インフラ投資などを国有企業なになって、そのための資金調達を国有銀行が中心となって行う構図には変化がありません。地方政府にとっても、不動産開発が地方政府の重要な財源となっており、そのための資金調達を影の銀行(シャドー・バンキング)が担うという屑です。成長率の鈍化に伴い、債務の膨張は、景気が失速した場合の不良債権の増加につながる恐れがあります。

国際決済銀行によると、金融危険を除いた企業債務、家計シア無に政府債務を加えた中国のシア無残高は、2016年12月末に約27兆ドルに達しました。これは国民総生産(GDP)比で257%(図表2参照)。同比率はリーマン・ショック後の景気対策に伴い金融緩和が実施された2009年に150%を超え、それ以降ほぼ一貫して増大しています。

このような債務額の増加及びGDPの上昇は、世界的な金融緩和の下、新興国でしばしば生じていますが、中国の比率は新興国の中でも特に高く、リスク要因となっています。米国が利上げに踏み切るなど、世界的に金融緩和の出口戦略が取りざたされていますが、中国の同比率は上昇を続けています。

 図表2 中国政府のGDP比債務額

3. 投資効率の低下、過剰生産能力、国有企業改革

2008年9月におけるリーマン・ショックの後、中国は4兆元(約57兆元)の経済対策を実施。中国では、インフラ投資、設備投資、不動産投資が積極的に行われました。これにより、世界経済が回復した面はあるものの、中国国内における投資効率の低下、鉄鋼など各産業における過剰設備に結びつきました。

リーマン・ショック後の景気対策により、中国企業の過剰設備問題が深刻化。2014年には、中国の粗鋼生産量は8億2100万トンとなり、EU(欧州共同体)、日本、米国などと比較して突出。このため中国では、2020年までに、1億〜1.5億トンの粗鋼生産能力の削減を目標としています。

ただ、中国の生産の調整により、ここにきて鉄鋼価格、石炭価格など商品市況が回復。市況の回復とともに、いわゆる「ゾンビ企業」の淘汰が進まない可能性が出てきました。中国の大企業の多くは国有企業であり、上層部の幹部は共産党員が占めています。したがって、競争原理が働きにくく、非効率な生産が温存されます。国有企業改革といいながら、上位企業の合併により、寡占化が進んでいます。

4. 政治における課題

17年における習近平政権の課題は、まず経済成長率で+6.5%程度を確保すること。さらに、政治、社会における安定を目指しています。ただ、規制緩和などの構造改革を目指しているものの、実体としてはあまり進展が見られません。

産業構造も、セメント、石炭などの素材産業、鉄鋼、化学などの重化学工業に偏っており、IT産業など高付加価値化が十分に進展しているとはいえません。

政府は先進国の価値、即ち言論の自由、集会結社の自由などの広がりにより、共産党一党独裁体制が脅かされることを警戒して、インターネット、SNSなどを規制。その結果、米国のフェースブック、グーグル等が締め出され、アリババ、ティンセントなど独占的な地位を占めています。

現在の政権の中枢を担っているのは、第5世代と呼ばれる指導者たち。文化大革命(1966-76年)を経験しており、毛沢東思想への郷愁をもっています。習近平氏が自らを「中核」と位置付けるのはそのためですが、かえって言論統制など反動的な姿勢を強めています。

5. 米中関係は微妙

一方、米中関係は微妙な状態が継続する見込み。北朝鮮の核開発、ミサイル発射などの威嚇に対しては、米国の呼びかけに対して、中国、ロシア両国は一応協力する姿勢をとっています。中国は米国との関係を配慮して、北朝鮮に対する石油製品輸出などの経済制裁について、国連安保理事会で賛成。

 写真1 G20におけるトランプ大統領と習近平国家主席

ただ、米国は中国を「為替操作国」であると認定すると脅し、貿易においても関税の引き上げの構えを見せています。逆に中国は、15年に習近平国家主席が訪米時にボーイング社に対して飛行機300機を発注。中国は特別関税を実行。また、米国からの農産物に特別関税を行い、保有する米国債の売却をちらつかせたりなどして対抗しています。米中関係は、急速に悪化する可能性は低いものの、引き続き微妙な関係が続くと予想されます。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動きについて見る予定です。

中国と米中関係 (5) 為替・金融政策 平成29年9月8日

おはようございます。今回は、ネット取引などについて見ましたが、今回は為替・金融政策について。

1. 為替管理を強化

中国は、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)への採用を目指し、金融の自由化を目指し、特に為替取引の自由化を目指すとしてきました。人民元が採用される以前には、SDRに採用されていたのは米ドル、ユーロ、ポンド、円のみであり、SDRへの人民元の採用は駐得にとっては、国威発揚の一環という位置付けでした。16年10月1日に、人民元はSDRに採用されました。

ではその後、為替取引の自由が進んだかというと、むしろ管理が強化される方向にあります。17年に、周小川・人民銀行総裁が「人民元の為替レートを守ることと、外貨準備を守ること、2つの役割があるが、どちらか一方を守るとすれば、私は外貨準備を守る」と、度々国際会議の場で発言。

「外貨流動性が足りなければ、通貨危機になる」という県絵は、外貨流動性が足りなくなる可能性が出てきたことを示唆。人民銀行(中銀)は、16年末から外貨管理を強化。個人による外貨良貨両替は停止されていないものの、手続きが複雑化されており、事実上できなくなっています。16年2月には、海外の不動産と保険など金融商品への個人の送金が禁止されました。

2. 国際収支の誤差脱漏が拡大

中国の国際収支を見ると、貿易収支などを含む経常収支は黒字が続いているものの、15年上期には資本収支が減少に転落(図表1参照)。これを準備資産減少が補う形。さらに、「誤差脱漏」が急拡大。「誤差脱漏」は14年が▲1,400億ドル、15年が▲1,880億ドル、16年が▲2,000億ドル超となっており、急拡大。

外貨準備の減少は資本の逃避(キャピタル・フライト)とみられています。持ち出したのは、華僑系ファンドとユダヤ系ファンドとみられます。特に、最近では仮想通貨のビットコインが利用されています。ビットコインの相場は17年に入り乱高下していますが、一因が中国人による大量の買いとされています。

 図表1 中国の国際収支

キャピタル・フライトが起こる主な要因は中国の景気の後退。中国国内の不動産価格は既にピークを打ったとみられており、不動産バブル崩壊の懸念もあります。一方、米国は今後利上げする方向にあり、中国国内のリスクを回避するために、米国に資産を移そうとする動きが出ています。

3. 今後の為替政策と金融政策

金融政策においては、トリレンマが唱えられており、同時に3つの政策を実現できないとしています。これはマンデル・フレミング・モデルを拡張したものであり、ロバート・マンデルが提示しました。

同モデルによると、ある国は「自由な資本移動」「為替相場の安定(固定相場制)」「独立した金融政策」を同時に実現することはできず、2つだけを許容することができます。例えば、ある国が(a)の位置を選択すれば、「為替の安定」と「自由な資本移動」を選択することとなり、金融政策の独立性は失われます。例として、欧州連合のユーロ圏があげられます。

中国としては、「金融政策の独立性」は放棄できないので、「為替の安定」と「自由な資本移動」のどちらかを選ぶこととなります。現在は、為替の安定を図るために、資本移動を規制している状態となっています。

 図表2 国際金融のトリレンマ

現在、中国の為替制度は「管理変動相場制」とされており、基準値に対する変動幅が決められています。ただ、そもそも「管理」と「変動」とは矛盾する概念であり、現在の制度は「権利」に重点が置かれたもの。人民元の下落圧力に対して、当局が元を買う介入を度々おこなってきました。

ただ今後は、「管理」が弱まって「変動」に軸足を移すものと予想されます。17年に入ってからは、中国国内の金融エコノミストがウェブ上などで、「中国は向こう3年かけて自由な変動相場制に移行する可能性が出てきた」などと発言するようになってきました。変動相場制に移行するためには、様々な金融改革が必要になってきます。

4. 金融政策・財政政策の方向性

変動相場制に移行するためには、金利自由化など金融改革が必要となります。実際には、国有銀行の民営化、預金金利の自由化、証券市場改革などが進んでおらず、これらの改革をおおなわなければ、為替の変動相場制への完全な移行は困難となります。変動相場制に移行しなければ、投機筋が為替リスクを勘案せずに資本を移動することとなります。

今後の取りうる短期的な政策としては、まず金融政策として、利下げ、公開市場操作による量的緩和、預金準備率の引き下げなどが考えられます。また、為替の切り下げを継続することにより輸出を促進し、インフラ投資などの公共事業の拡大、減税、「一帯一路」政策の拡大による、国有企業支援なども考えられます。

今後は国有企業の統治(ガバナンス)の改革と民営化、いわゆるゾンビ企業の淘汰、地方政府の財政改革、証券市場の自由化なども課題となりますが、これらの分野はあまり進展していないのが実情です。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動について見る予定です。

中国と米中関係 (4) ネット取引など 平成29年9月1日

おはようございます。今回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて考えます。

1. 情報関連消費が拡大

中国では従来、輸出と企業の設備投資など固定資産投資が、成長を牽引してきました。ただ、賃金の上昇などにより、さらに輸出を伸ばすのは難しく、固定資産投資にしても、地方政府による過剰な不動産投資もあり、持続性に疑問があります。

そこで、消費が牽引役となるべく期待されているわけですが、これまでは自動車が消費を牽引してきました。ただ、中国の自動車生産及び消費はすでに世界一であり、環境問題、高速道路の整備などを考えると、おのずと限界があります。また、マンションなど個人による住宅取得も、住宅価格の高騰により、過熱感が目立っています。

自動車、住宅に代わって期待されているのが情報関連消費。ITやインターネットの普及により、情報分野の新製品、新サービスが急速に発達。中国における通信ネットワーク利用者の推移を見ると、スマホおよびインターネットの利用者数が急拡大しています(図表1参照)。

 図表1 中国におけるネットワーク利用者数

携帯電話のスマホ化の進展により、中国インターネット協会によると、携帯経由のネットユーザー数は、15年11月末時点で約9億1000万人に達しました。情報関連小促進のため、G4の普及にも力が入れられており、G4のユーザー数も3億8600万人に達しました。

2. ネットショッピングが急拡大

スマホなど情報関連機器の普及に伴い、ネットショッピングが急拡大。中国国家統計局によると、15年のネットショッピングは38,773億元(約70兆円)で、伸び率は+33.3%。15年の小売り全体の成長率+10.7%の3倍以上の伸び率。同統計局によると、小売総額に占めるネットショッピングは約10.8%となりました。

特に近年注目を集めているのは、電子商取引(EC)最大手となったアリババの提唱した「独身の日」(11月11日)。同社はこの日に特にバーゲンを行っており、15年の「独身の日」の売り上げは、アリババだけで912億元(約1.6兆円)に達しました。

中国は、ほかの主要国と比較しても小売りECの伸びが突出しています。中国のネットショッピング(B2C、C2Cを含む小売りEC)は、ネットインフラ決済、物流の進展した米港などを追って進展してきましたが、図表2の通り、米国を超える急成長を遂げています。

 図表2 世界小売EC取引額と中国の額の比率

3. フィンテックも進展

中国では、フィンテックも進展。フィンテック(FinTech)とは、ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語であり、情報通信技術(ECT)を活用した革新的な金融商品とサービスと指します。中国ではフィンテックを通常「互聯網金融」(インターネット金融)と呼んでいます。

中国でフィンテックが発達した理由の1つは、既存の金融システムに対する不満の強さ。預金は残高ベースで国有銀行が約67%を占めており、預金者に対して適切な金融サービスを提供していません。

また、第二の理由として、偽札が多く、見せも消費者も現金の支払いを好まない傾向にあります。日本人などが中国に観光に行くと、現金でなくスマホで支払うことを求められることも増加しています。中国のある女子学生がキャッシュカードを亡くしたところ、その2週間後に銀行から通知が来て初めて気づくなど、スマホによる決済が日常化しています。

米国では、支払いはクレジットカート、次に小切手が一般的。中国でも、一時はクレジットカードが普及したものの、支払いのたびにIDカードの提示を求められ、不便でした。そこで普及したのがデビットカード。日本で爆買いする中国の観光客は、主に銀聯カードを使っています。

デビットカードをデジタル化したのがフィンテック。フィンテックにより、支払いもできるし資産管理、資産運用も可能となります。中国におけるスマホ決済のサービスはアリババの「Alipay(支払宝)」とテンセントの「WeChatPay(微信支払付)」が二大勢力であり、約7億人のユーザーがいます。

4. 外貨準備高の減少と資本の逃避

中国の外貨準備高は、年次ベースでは14年末に3兆9000億ドル、月次ベースでは14年6月に約4兆ドルでピークを付けています(図表3参照)。その後急速に減少し、17年1月末には一時3兆ドルを下回り、6月末には3兆570億ドルに回復したものの、大きくは回復していません。

 図表3 中国の外貨準備高

外貨準備とは、一般に対外支払いに備えて中央銀行が管理している外貨の流動性のこと。中国には現在3兆ドルの外貨準備があるものの、そのうちやく1兆数十億程度は米国債であるとみられます。輸入代金の決済に備えるためには、少なくとも1兆8000億ドルの外貨準備が必要であるとみられますが、米国債は売るわけにはいかないので、外貨準備は必ずしも潤沢にあるとは言えません。

14年6月からの3年間で、1兆ドルの外貨準備が減少したわけですが、同じ期間に個人が商業銀行に預けている外貨も約1兆ドルの減少となりました。中国では、ごく最近まで外貨が不足していたので、個人の保有する外貨をなるべく銀行に集めるとの意図から、外為集中政策をとっていました。

外貨準備と商業銀行にある外貨預金を合わせて2兆ドルが減少したことになりますが、タックスヘイブン、あるいはニューヨークに流れたとみられています。ニューヨークのここ数年の株高には中国の資金も寄与しているとみられます。中国の景気減速、あるいは不動産価格上昇による不動産バブルの警戒から、資金が海外に逃避しているとみられます。

次回は、為替管理、金融政策などについて見る予定です。

中国と米中関係 (3) 構造問題 平成29年8月25日

おはようございます。今回は、構造問題などについて考えます。

1. 輸出の後退と過剰な投資

中国の共産党政権は、これまで高い経済成長率の目標を掲げてきました。党大会などで示唆して年単位の国内総生産(GDP)の目標を概ね達成してきたわけですが、人口の伸びによる労働力を吸収し、それにより社会の安定化を図ることを目指してきました。

ただ、経済の規模の拡大、人口の高齢化、産業構造の高度化が進み、景気の牽引役としては、従来の輸出及び固定資本形成(投資)から、個人消費に牽引役が移り、過剰な不動産投資が抑制されることが期待されてきました。過剰な投資により、中国が鉄鉱石などの資源を「爆買い」し、商品市況が高騰する、あるいは国内の環境汚染につながるなどの批判もありました。

ここで、中国の需要項目別GDP構成比をみると、輸出は1970年には3.2%にすぎなかったものが、2006年には38.6%に拡大(図表1参照)。輸入も同様に3.1%から31.1%まで拡大。安い人件費などを武器に「世界の工場」として中国が君臨し、中国の景気拡大を牽引。ただ、その後は人件費の上昇などにより、繊維、化学など付加価値の低い産業の競争力の低下、経済のソフト化などにより、輸出が牽引役から後退していることがわかります。

さらに、家計消費は1970年以降に低下し、最近はやや持ち直す傾向にあるものの、依然として力強さに欠けます。中国では、企業が賃金に回る比率、すなわち労働分配率が低く、さらに年金など社会保障も遅れていることから、貯蓄率が高止まりしています。

貯蓄率の高さもあり、設備投資などの固定資本形成の比率が上昇。不動産への投資は、地方政府にとっては重要な収入源であることもあり、固定資本に依存した経済成長が続いていると言えます。

 図表1 中国の需要項目別GDP構成比の推移

主要国の投資がピークにあった年における投資、即ち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%(図表2参照)。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

 図表2 主要国のGDPに占める投資の割合が最大となった年

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

2. 過剰設備廃棄も進まず

国有企業における統治(ガバナンス)の改革、過剰設備の廃棄も従来言われてきているものの、ほとんど進んでいません。特に過剰な設備を抱えているのが、自動車、造船、鉄鋼、セメントなどであり、国有企業において特に過剰な設備の廃棄が進んでいません(図表3参照)。例えば、鉄鋼においては生産高が世界的に突出しているものの、低価格の鉄鋼の輸出により、世界的に鉄鋼業が不況に陥っています。

中国が欧州への通商路を確保し、陸と海の沿線の開発を進めようとしている「一帯一路」構想についても、アジアインフラ投資銀行の後押しにより、鉄鋼、セメントなど中国の過剰な生産を解消しようとしているとみることもできます。

 図表3 主要産業の過剰設備比率

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

3. 民間債務が拡大

中国では、民間部門の債務が拡大。国際決済銀行(BIS)が16年12月に公表した「日金融部門向け与信統計」によると、16年6月末時点における中国民間部門の債務残高は約2兆ドル。15年末からの半年間で約1兆ドル増加。

民間債務のGDPは+6.7%ポイントの増加で、209.4%。2010年末比では、民間債務のGDP比の増加は+61.5%ポイント。日本のバブル崩壊直前の1989年が208.0%であり、ほぼ同水準。の本のバブル期と比較すると、中国の民間債務の規模はすでに適正水準を超えているとみられます。

 図表4 アジア主要国の民間債務GDP比

過剰な債務の拡大の背景として、地方政府がいわゆる「影の銀行」(シャドーバンキング)という、正規の融資のルート以外からの資金調達を行い、過剰な不動産投資を行っていること、国有企業が依然として過剰な投資を続けていることなどがあります。「影の銀行」については、後程、リスク要因を見る際に考察する予定です。

次回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて見る予定です。

中国と米中関係 (2) 米中関係 平成29年8月18日

おはようございます。今回は、米中関係などについて見ます。

1. 19世紀の経済大国中国

かつてゴールドマン・サックスに所属したジム・オニール氏は、ブラジル、ロシア、インド、中国をBRICs諸国と名付け、特に中国が今後大きく発展すると述べました。その後、南アフリカも加えて「BRICS」という概念を提唱したわけですが、中国の国内総生産(GDP)は、日本を追い抜き、やがて米国をも追い抜くと予測しました。

中国経済はGDPの規模ですでに日本を追い抜いており、現在は習近平主席が「一帯一路」すなわちかつての絹の道(シルク・ロード)のように、中国と欧州を陸と海で結び、交易を活発化させようとしています。そのために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しました。AIIBには日米両国は参加しなかったものの、ロシア、インド、ブラジルなど主要な新興国のほか英独仏伊など欧州の主要国、あるいは豪州、カナダなど多くの先進国も参加しており、中国は経済的な覇権の確立に向けて、邁進していると言えます。

ただ、歴史的に見ると、中国は黄河文明以来、多くの期間において政治的、あるいは経済的に大国であったと考えることができます。18世紀において中国は隆盛を誇っていましたが、1840年のアヘン戦争を契機として、急速に国力が衰えることとなりました。

それ以前の状態では、マディソン(1926-2010)によると、1820年のGDPランキングでは、中国は1位で3割弱という大きな比率でした(図表1参照)。以下、インド、フランス、ロシア、英国、日本と続いています。かつては、中国、インドという2大文明国が大きな比率を占めていました。人口がこれら文明の発展の大きな要因であったと考えられます。今後の人口動態を考えると、中国、インドの優位性が考えられます。

 図表1 1820年世界のGDP順位

2. 米中間貿易の特徴

トランプ米大統領の就任以来、米国と中国との間の貿易摩擦の高まりが懸念されてきました。まず、米中間の主要貿易品目をみておきましょう。米国から中国への輸出品目では、飛行機・部品すなわちボーイングが最も大きく13.3%(図表2参照)。このほか、種子・穀物も大きく、大豆、小麦、トウモロコシなどを多く輸出しています。米国の農産物の約70%が中国向け。米中両国の貿易に関する100日プランでも、中国は米国からの農産物輸入拡大を求められています。

 図表2 米国から中国への主要輸出品目(2015年)

次に中国から米国への輸出品目を見ると、家電が27.6%で最も多く、iPhoneなどのスマホが含まれます(図表3参照)。ただ、スマホの素材、部品の多くは日本および韓国で生産されており、中国では単に組み立てが行われているにすぎないとみられます。中国はiPhoneの輸出で売り上げの7%を受け取るものの、残りの93%はアップル社や部品を供給している日本・韓国などが受け取っています。

 図表3 中国から米国への主要輸出品目(2015年)

次に大きいのは産業用機械で、21.5%を占めています。ここに含まれるPCについては、半導体のICチップなど高付加価値の部品の多くはインテルなど米国あるいは外国企業が作成。PCについても中国は基本的には組み立てるだけという構図。家電と産業用機械を合わせると50%近くなるため、米国が中国の輸出を抑制すれば、かえって米国など先進国の企業が困るだけということになります。

貿易については、大幅に中国の輸出超過である者の、米中両国の補完性が強いと言えます。さらに、サービス貿易では中国が大幅に赤字。最も大きなのがロイヤリティー収入であり、中国から米国への留学費用も中国側の大幅赤字。したがって、米中間は補完性が強く、一方的に米国が中国に対して制裁を科すのは難しい状況であると言えます。

3. 第1回米中包括経済対話を開催

トランプ大統領は、選挙期間中から中国をたびたび攻撃。米国の中国に対する貿易赤字、人民元について強硬な姿勢をとってきました。ただ、大統領就任後には、実際には強硬な措置は何も取っておらず、対北朝鮮に対する中国の圧力増大のカードとして温存しているのでなとの観測もあります。

米中両国は、7月19日に第1回の米中包括経済対話を開催。今回は、両国間の貿易・投資を巡る問題や、4月の米中首脳会談で合意した「100日計画」などについて議論を交わしました(図表4参照)。

中国は対話の結果について、相互理解や信頼を深めることで、今後の基礎を築くことができたとして、一定の成果を上げたと評価。ただ、具体的な議論の結果についてはあまり明らかにされていません。

 図表4 経済対話における議題

注目されていた「米中経済協力の100日計画」については、「重大な進展」がみられたと中国側は評価。同計画は17年4月の米中首脳会談で合意されたもの。17年5月には、早期合意が可能であった農業・エネルギーや金融サービスなどの分野における10項目の協力が、「100日計画」の一環として発表されました。

今回の対話の結果、今後「1年計画」が策定され、実施されることとなりました。マクロ経済、金融、貿易協力、投資協力、経済分野のグローバルガバナンスなどの領域で、協力を進めることとなりました。

ただ、対話後に予定されていた共同記者会見が中止され、共同声明も発表されなかったことから、多くの問題が解決されずに先送りとなった可能性が高いとみられます。北朝鮮の核・ミサイル開発問題が影響する可能性もあり、米中間の貿易問題には、引き続き不透明感があります。

次回は、構造問題、フィンテックなどを見る予定です。

中国と米中関係 (1) 成長率など 平成29年8月11日

おはようございます。中国経済の現状と米中関係などについて考えます。

1. BRICsの成長率

まず、中国経済を概観しておきましょう。中国は従来、代表的な新興国であるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で、特に高い成長率を維持してきました。ところが、15年には中国の+6.9%に対して、インドが+7.9%と逆転(図表1参照)。さらに、国際通貨基金(IMF)の予測では、17年においても中国+6.5%、インド+7.1%とインドの優位が今後も継続する見込み。

中国はほかの主要な新興国と比較すると、今後も高い成長率を維持する見込みであるものの、経済の行き勢いに陰りが出ています。IMFは、中国の成長率が今後さらに成長率が低下すると予想しています。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

2. 4-6月期GDP成長率は+6.9%

中国の国家統計局は17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表(図表1参照)。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示唆。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。 

 図表2 中国の四半期成長率(前年同期比)

3. 鉱工業生産伸び率は予想上回る

中国の国家統計局が17日に発表した統計によると、6月の鉱工業生産は前年同月比+7.6%と、前月の+6.5%から加速。市場予想の+6.5%を上回りました。

 図表3 中国の鉱工業生産(前年同月比)

4. 6月小売売上高は予想上回る

一方、中国の国家統計局は同日に、17年6月の小売売上高が、前年同期比+11.0%になったと発表(図表2参照)。市場予想の+10.6%を上回り、前月の+10.7%からも加速。

 図表4 中国の小売売上高(前年同月比)

5. 1-6月固定資産投資は予想上回る

他方、同日発表の1-6月の固定資産投資は前年同期比+8.6%。市場予想の+8.5%から下振れしました。1-5月の+8.6%から伸び率は横這い。

ただ、1-6月の固定資産投資の伸びの前年同期比+8.6%は、1-3月の+同9.2%からは伸び率が鈍化。道路や空港などインフラ投資は+21.1%と大幅に伸びたものの、不動産開発投資などが減速。

中国人民銀行(中銀)は、年初から市場金利を高めに誘導。金融政策を引き締め気味にしており、住宅ローン金利や社債金利も上昇。北京や上海では住宅の販売が減少しており、不動産市場の失速が年後半の中国の国内総生産(GDP)を押し下げる可能性もあります。

6. 今後も成長率低下が継続か

このように、中国の成長率はロシア、ブラジルなどに比べれば引き続き高水準を維持しているものの、今後も伸びは鈍化していくと予想されます。その主な要因は人口の高齢化、生産年齢人口(14-64歳の人口、中国の定義では一般に60歳まで)の減少、最低賃金の上昇による製造業の競争力の低下などがあります。

さらに、経済のソフト化の進展により、投資が減少する傾向にあります。これまでは、固定資本形成、すなわち投資と輸出が経済を牽引してきました。新たに個人消費など内需が牽引役となるべく期待されていますが、主役の転換が進んでいません。また、国有企業改革が遅れるなど、構造改革の遅れも目立ちます。構造改革については、後程、課題とリスクという観点から見ていきます。

次回は、米中関係などを見る予定です。

世界経済の長期停滞 平成29年8月4日

おはようございます。世界経済の長期停滞について見ます。

1. 世界経済の概観

まず、世界経済のこれまでの推移を見ておきましょう。世界経済の成長率は、1930-90年には+3.84%であったものの、08-16年には+3.23%に、16年には3.08%に低下(図表1参照)。特に先進国では顕著に低下しており、米国では83-90年+3.36%から、01-07年+2.45%、16年には+1.58%に低下。ユーロ圏、日本も大幅に低下しているほか、新興・発展途上国でも低下傾向にあります。

 図表1 世界経済の成長率

インフレ率についても、ほぼ同様の動き。世界のインフレ率(物価上昇率)は、83-90年には+17.05%であったものが、01-07年ニハ+4.03%、05-16年には+3.82%へと大幅低下。米国においては、83-90年の+3.86%が01-07年には+2.69%へと低下。ユーロ圏、日本でも大幅に低下しており、特に日本では、83-90年の+1.62%が01-07年には▲0.27%と、デフレ圏に突入。中南米でも、83-90年には+205.43%のハイパーインフレであったものが、08-16年には+5.08%まで低下。新興国においても、中央銀行の主要な課題はインフレ抑制よりも、景気刺激に移ってきた感があります。

FPアセットマネジメント 新興国レポート

Report

第405回  新興国情報 (406) 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率
第404回  新興国情報 (405) 中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価
第403回  新興国情報 (404) 中国と米中関係 (6) リスク要因・課題
第402回  新興国情報 (403) 中国と米中関係 (5) 為替・金融政策
第401回  新興国情報 (402) 中国と米中関係 (4) ネット取引など
第400回  新興国情報 (401) 中国と米中関係 (3) 構造問題
第399回  新興国情報 (400) 中国と米中関係 (2) 米中関係
第398回  新興国情報 (399) 中国と米中関係 (1) 成長率など
第397回  新興国情報 (398) 世界経済の長期停滞
第396回  新興国情報 (397) 中南米諸国の展望 (6) メキシコ
第395回  新興国情報 (396) 中南米諸国の展望 (5) ペルー
第394回  新興国情報 (395) 中南米諸国の展望 (4) チリ
第393回  新興国情報 (394) 中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン
第392回  新興国情報 (393) 中南米諸国の展望 (2) ブラジル
第391回  新興国情報 (392) 中南米諸国の展望 (1)
第390回  新興国情報 (391) 原油価格の動向と中東諸国
第389回  新興国情報 (390) ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価
第388回  新興国情報 (389) ロシア経済の展望 (3) 財政、政治
第387回  新興国情報 (388) ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利
第386回  新興国情報 (387) ロシア経済の展望 (1) 経済の構造
第385回  新興国情報 (386) トランプ政権誕生と中東諸国
第384回  新興国情報 (385) IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し
第383回  新興国情報 (384) IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利
第382回  新興国情報 (383) IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易
第381回  新興国情報 (382) 混乱の続くトルコ
第380回  新興国情報 (381) インド経済の見通し(4) リスク・課題
第379回  新興国情報 (380) インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価
第378回  新興国情報 (379) インド経済の見通し(2) 政治
第377回  新興国情報 (378) インド経済の見通し(1) 人口・発展段階
第376回  新興国情報 (377) ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価
第375回  新興国情報 (376) ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治
第374回  新興国情報 (375) ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け
第373回  新興国情報 (374) ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢
第372回  新興国情報 (373) ブラジル経済の動向 (1) 成長率

 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率 平成29年9月29日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ここ数年は景気が低迷していましたが、回復傾向にあります。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億957万人(ブラジル地理統計院推定、2016年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 薄日射す成長率

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。続いて、資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.7%、16年▲3.5%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。しかし、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年+0.1%、18年+1.7%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、15年の1人あたり国民所得は、米国が56,174ドル、日本が34,513ドル。また、ロシアが9,521ドル、ブラジルは8,810ドルでまずまずの水準。一方、中国が8,166ドル、インドは1,615ドルでした。

これを17年でみると、米国が59,609ドル、日本が38,281ドルに対して、ロシア10,885ドル、ブラジル10,308、中国8,480ドル、インド1,850ドル(図表2参照)。15-16年には、資源価格の低迷などにより、ブラジル、ロシアの資源国は1人当たり国民所得で見ても停滞していたものの、17年には回復傾向にあります。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、均衡のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2017年)

3.  4-6月期GDPは+0.3%に改善

他方、ブラジル地理統計院は8月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+0.3%であったと発表(図表3参照)。1-3月期の▲0.4%から回復。前期比では+0.2%と、2四半期連続のプラス成長。個人消費が回復し、サービス業が緩やかに持ち直しました。

個人消費の動向を示唆する家計消費は+1.4%と堅調。インフレ率の低下が影響しており、7月のインフレ率は上記の通り前年同月比+2.7と、同国としては異例の低さ。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

中銀の政策金利引き下げも景気を後押ししています。8月の新車販売台数が前年同月比+21%になるなど、耐久消費財の販売も回復傾向。メイトレス財務相は、「100年の一度の景気後退から回復した」と述べました。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルでは14年にサッカーのワールドカップ、16年にオリンピックという世界的なイベントが行われました。それにもかかわらず、15-16年と、ブラジルの景気は低迷。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、またそれに伴う資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権に交代。政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一新、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの予想が高まりました。テメル氏自身に対する汚職などの疑惑も取りざたされていますが、今のところ同氏は大統領職を続け、社会保障改革などに取り組んでいます。政治については後に見ていく予定ですが、政権交代が景気に対しては肯定的な効果をもたらしたと言えます。

次回は最近の景気動向、物価、金利などを見る予定です。

中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価 平成29年9月22日

おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回はリスク物価、金利、為替、株価について。

1. 8月CPIは+1.8%に加速

中国の国家統計局が9日発表した8月の消費者物価指数(CPI)前年同月比+1.8%と、前月から+0.4%ポイントの加速(図表1参照)。1月以来7か月ぶりの伸び率となりました。同統計局は声明で、CPIの加速について、暑さと降雨で卵が+16.2%、野菜が+8.5%値上がりしたことが主な要因であるとしました。

一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+6.3%となり、前月の5.5%から加速。市場予想の+5.7%からも上振れ。

 図表1 中国の消費者物価指数(CPI)前年同月比上昇率

2. 預金準備率を引き下げ

一方、金融政策については、大きな変化は見られません。中国人民銀行(中央銀行)は16年2月29日に、追加の金融緩和を決定。市中銀行から中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げ、17%にすることを決定(図表2参照)。3月1日から実施。引き下げは15年10月以来。その後、変更は、ありません。

 図表2 中国の預金準備率(大手銀行標準)

続いて、中国人民銀行(中銀)は2月3日に、資金供給オペの金利を引き上げました。過去最高の刺激策で景気が安定したことを受けて、同行が資産価格やインフレ抑制に軸足を移す中、金融政策の引締に向けた新たな一歩となるとみられました。

同行は7日物と14日物リバースレポの利率をそれぞれ▲10bp(1bp=0.01%)引き上げました。引き上げ後の利率は7日物が2.35%、14日物が2.5%、28日物が2.65%となりました。7日物と14日物のリバースレポの利率引き上げは13年以来、28日物の引き上げは15年以来。それ以降は、金融政策に大きな変化はありません。

3. 株価と為替

ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。15年には▲4.6%の下落。16年12月には1ドル=6.944ドルまで下落。人民元の下落は中国の内需の減少、海外への資金流出などが原因とみられます。

ただ、当局が継続的に為替市場に介入を行うことなどにより、人民元は対ドルで反発。17年8月末には1ドル=6.592ドルまで反発。外貨準備高の大幅減少につながりました。

 図表3 上海総合指数と人民元(CNY/USD)

株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。2006年2月には2687ポイントまで下落。中国では、不動産、株価などが順番にバブルの状態になると言われており、株価も07年に上海指数が約6000ポイントの高値を付けるなど、随時バブルの様相を呈することがあります。

中国の国内資金は規制があるため海外には出にくく、株価も時に急騰することがあります。16年2月以降には株価は同指数でみてじり高の様相を呈しています。このところ不動産価格の上昇が止まってきたため、株価についても今後、やや頭が重くなる可能性があります。」

4. 当面の注目点

当面の注目点としては、就任以来約5年が経過し、折り返し地点に来た習近平政権の新しい体制が問題となります。従来、中国共産党のトップであると位置づけられる政治局常務委員会委員(現在は9人)は、68歳が定年であるとされ、現在のメンバーでは習近平国家主席、および李克強首相だけが定年にかからないことになります。そのため、69歳となった王岐山氏(序列6位)は、反腐敗運動で猛威を振るってきたものの、その去就が問題となります。

今年秋の党大会では、今後の共産党の新たな政治局常務委員会委員を決めるにあたり、定年の延長を認めるかどうかが焦点となります。秋の党大会に先立ち、江沢民元国家主席に近いとされる元重慶書記の孫政才氏が、腐敗の疑いにより摘発されました。

また、習近平氏は江沢民氏に近いとみられる軍の幹部も多数摘発。軍の掌握にも乗り出しています。今後も秋の党大会に向けて、人事を巡る駆け引きが一層活発化するとみられます。習近平氏は権力基盤強化のため、徹底した反腐敗、言論の弾圧を強行しています。少なくとも現在の状況からは、政治改革は望むべくもないとみられます。

中国と米中関係 (6) リスク要因・課題 平成29年9月15日

おはようございます。前回は、前回は為替・金融政策を見ましたが、今回はリスク要因、課題について。

1. 景気失速のリスク

中国の足下の景気、また中長期的な成長率についてはどうでしょうか。中国の国家統計局が31日発表した8月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.7と、前月から低下(図表1参照)。市場予想の51.3からも上振れ。景気の拡大・悪化の境目とされる50は上回りました。中国経済は底堅く、当局は、7-12月期も金融リス抑制に向けた取り組みを続ける余地が生まれることを示唆しています。

1-6月(上期)には、中国経済は輸出回復や力強い内需を背景に市場予想を上回る堅調を示していましたが、7月には全般に減速を示唆していました。今後は、当局が成長率を維持しながら信用の拡大速度をいかに抑えるかが焦点となります。

 図表1 中国の造業購買担当者指数(PMI)

さらに、中国の国家統計局は7月17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示しました。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。

ただ、長期的には生産人口(中国の定義では15-60歳の人口)の減少、少子高齢化、製造業からサービス業など第三次産業への移行により、国内総生産(GDP)成長率はさらに低下していくと予想されています。

2. 債務問題

中国では、過剰生産能力の削減、国有企業の再編など、供給側の改革に乗り出しています。需要側では、消費を拡大することにより、従来の投資と輸出主導の経済成長からの脱却を図っています。

ただ、インフラ投資などを国有企業なになって、そのための資金調達を国有銀行が中心となって行う構図には変化がありません。地方政府にとっても、不動産開発が地方政府の重要な財源となっており、そのための資金調達を影の銀行(シャドー・バンキング)が担うという屑です。成長率の鈍化に伴い、債務の膨張は、景気が失速した場合の不良債権の増加につながる恐れがあります。

国際決済銀行によると、金融危険を除いた企業債務、家計シア無に政府債務を加えた中国のシア無残高は、2016年12月末に約27兆ドルに達しました。これは国民総生産(GDP)比で257%(図表2参照)。同比率はリーマン・ショック後の景気対策に伴い金融緩和が実施された2009年に150%を超え、それ以降ほぼ一貫して増大しています。

このような債務額の増加及びGDPの上昇は、世界的な金融緩和の下、新興国でしばしば生じていますが、中国の比率は新興国の中でも特に高く、リスク要因となっています。米国が利上げに踏み切るなど、世界的に金融緩和の出口戦略が取りざたされていますが、中国の同比率は上昇を続けています。

 図表2 中国政府のGDP比債務額

3. 投資効率の低下、過剰生産能力、国有企業改革

2008年9月におけるリーマン・ショックの後、中国は4兆元(約57兆元)の経済対策を実施。中国では、インフラ投資、設備投資、不動産投資が積極的に行われました。これにより、世界経済が回復した面はあるものの、中国国内における投資効率の低下、鉄鋼など各産業における過剰設備に結びつきました。

リーマン・ショック後の景気対策により、中国企業の過剰設備問題が深刻化。2014年には、中国の粗鋼生産量は8億2100万トンとなり、EU(欧州共同体)、日本、米国などと比較して突出。このため中国では、2020年までに、1億〜1.5億トンの粗鋼生産能力の削減を目標としています。

ただ、中国の生産の調整により、ここにきて鉄鋼価格、石炭価格など商品市況が回復。市況の回復とともに、いわゆる「ゾンビ企業」の淘汰が進まない可能性が出てきました。中国の大企業の多くは国有企業であり、上層部の幹部は共産党員が占めています。したがって、競争原理が働きにくく、非効率な生産が温存されます。国有企業改革といいながら、上位企業の合併により、寡占化が進んでいます。

4. 政治における課題

17年における習近平政権の課題は、まず経済成長率で+6.5%程度を確保すること。さらに、政治、社会における安定を目指しています。ただ、規制緩和などの構造改革を目指しているものの、実体としてはあまり進展が見られません。

産業構造も、セメント、石炭などの素材産業、鉄鋼、化学などの重化学工業に偏っており、IT産業など高付加価値化が十分に進展しているとはいえません。

政府は先進国の価値、即ち言論の自由、集会結社の自由などの広がりにより、共産党一党独裁体制が脅かされることを警戒して、インターネット、SNSなどを規制。その結果、米国のフェースブック、グーグル等が締め出され、アリババ、ティンセントなど独占的な地位を占めています。

現在の政権の中枢を担っているのは、第5世代と呼ばれる指導者たち。文化大革命(1966-76年)を経験しており、毛沢東思想への郷愁をもっています。習近平氏が自らを「中核」と位置付けるのはそのためですが、かえって言論統制など反動的な姿勢を強めています。

5. 米中関係は微妙

一方、米中関係は微妙な状態が継続する見込み。北朝鮮の核開発、ミサイル発射などの威嚇に対しては、米国の呼びかけに対して、中国、ロシア両国は一応協力する姿勢をとっています。中国は米国との関係を配慮して、北朝鮮に対する石油製品輸出などの経済制裁について、国連安保理事会で賛成。

 写真1 G20におけるトランプ大統領と習近平国家主席

ただ、米国は中国を「為替操作国」であると認定すると脅し、貿易においても関税の引き上げの構えを見せています。逆に中国は、15年に習近平国家主席が訪米時にボーイング社に対して飛行機300機を発注。中国は特別関税を実行。また、米国からの農産物に特別関税を行い、保有する米国債の売却をちらつかせたりなどして対抗しています。米中関係は、急速に悪化する可能性は低いものの、引き続き微妙な関係が続くと予想されます。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動きについて見る予定です。

中国と米中関係 (5) 為替・金融政策 平成29年9月8日

おはようございます。今回は、ネット取引などについて見ましたが、今回は為替・金融政策について。

1. 為替管理を強化

中国は、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)への採用を目指し、金融の自由化を目指し、特に為替取引の自由化を目指すとしてきました。人民元が採用される以前には、SDRに採用されていたのは米ドル、ユーロ、ポンド、円のみであり、SDRへの人民元の採用は駐得にとっては、国威発揚の一環という位置付けでした。16年10月1日に、人民元はSDRに採用されました。

ではその後、為替取引の自由が進んだかというと、むしろ管理が強化される方向にあります。17年に、周小川・人民銀行総裁が「人民元の為替レートを守ることと、外貨準備を守ること、2つの役割があるが、どちらか一方を守るとすれば、私は外貨準備を守る」と、度々国際会議の場で発言。

「外貨流動性が足りなければ、通貨危機になる」という県絵は、外貨流動性が足りなくなる可能性が出てきたことを示唆。人民銀行(中銀)は、16年末から外貨管理を強化。個人による外貨良貨両替は停止されていないものの、手続きが複雑化されており、事実上できなくなっています。16年2月には、海外の不動産と保険など金融商品への個人の送金が禁止されました。

2. 国際収支の誤差脱漏が拡大

中国の国際収支を見ると、貿易収支などを含む経常収支は黒字が続いているものの、15年上期には資本収支が減少に転落(図表1参照)。これを準備資産減少が補う形。さらに、「誤差脱漏」が急拡大。「誤差脱漏」は14年が▲1,400億ドル、15年が▲1,880億ドル、16年が▲2,000億ドル超となっており、急拡大。

外貨準備の減少は資本の逃避(キャピタル・フライト)とみられています。持ち出したのは、華僑系ファンドとユダヤ系ファンドとみられます。特に、最近では仮想通貨のビットコインが利用されています。ビットコインの相場は17年に入り乱高下していますが、一因が中国人による大量の買いとされています。

 図表1 中国の国際収支

キャピタル・フライトが起こる主な要因は中国の景気の後退。中国国内の不動産価格は既にピークを打ったとみられており、不動産バブル崩壊の懸念もあります。一方、米国は今後利上げする方向にあり、中国国内のリスクを回避するために、米国に資産を移そうとする動きが出ています。

3. 今後の為替政策と金融政策

金融政策においては、トリレンマが唱えられており、同時に3つの政策を実現できないとしています。これはマンデル・フレミング・モデルを拡張したものであり、ロバート・マンデルが提示しました。

同モデルによると、ある国は「自由な資本移動」「為替相場の安定(固定相場制)」「独立した金融政策」を同時に実現することはできず、2つだけを許容することができます。例えば、ある国が(a)の位置を選択すれば、「為替の安定」と「自由な資本移動」を選択することとなり、金融政策の独立性は失われます。例として、欧州連合のユーロ圏があげられます。

中国としては、「金融政策の独立性」は放棄できないので、「為替の安定」と「自由な資本移動」のどちらかを選ぶこととなります。現在は、為替の安定を図るために、資本移動を規制している状態となっています。

 図表2 国際金融のトリレンマ

現在、中国の為替制度は「管理変動相場制」とされており、基準値に対する変動幅が決められています。ただ、そもそも「管理」と「変動」とは矛盾する概念であり、現在の制度は「権利」に重点が置かれたもの。人民元の下落圧力に対して、当局が元を買う介入を度々おこなってきました。

ただ今後は、「管理」が弱まって「変動」に軸足を移すものと予想されます。17年に入ってからは、中国国内の金融エコノミストがウェブ上などで、「中国は向こう3年かけて自由な変動相場制に移行する可能性が出てきた」などと発言するようになってきました。変動相場制に移行するためには、様々な金融改革が必要になってきます。

4. 金融政策・財政政策の方向性

変動相場制に移行するためには、金利自由化など金融改革が必要となります。実際には、国有銀行の民営化、預金金利の自由化、証券市場改革などが進んでおらず、これらの改革をおおなわなければ、為替の変動相場制への完全な移行は困難となります。変動相場制に移行しなければ、投機筋が為替リスクを勘案せずに資本を移動することとなります。

今後の取りうる短期的な政策としては、まず金融政策として、利下げ、公開市場操作による量的緩和、預金準備率の引き下げなどが考えられます。また、為替の切り下げを継続することにより輸出を促進し、インフラ投資などの公共事業の拡大、減税、「一帯一路」政策の拡大による、国有企業支援なども考えられます。

今後は国有企業の統治(ガバナンス)の改革と民営化、いわゆるゾンビ企業の淘汰、地方政府の財政改革、証券市場の自由化なども課題となりますが、これらの分野はあまり進展していないのが実情です。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動について見る予定です。

中国と米中関係 (4) ネット取引など 平成29年9月1日

おはようございます。今回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて考えます。

1. 情報関連消費が拡大

中国では従来、輸出と企業の設備投資など固定資産投資が、成長を牽引してきました。ただ、賃金の上昇などにより、さらに輸出を伸ばすのは難しく、固定資産投資にしても、地方政府による過剰な不動産投資もあり、持続性に疑問があります。

そこで、消費が牽引役となるべく期待されているわけですが、これまでは自動車が消費を牽引してきました。ただ、中国の自動車生産及び消費はすでに世界一であり、環境問題、高速道路の整備などを考えると、おのずと限界があります。また、マンションなど個人による住宅取得も、住宅価格の高騰により、過熱感が目立っています。

自動車、住宅に代わって期待されているのが情報関連消費。ITやインターネットの普及により、情報分野の新製品、新サービスが急速に発達。中国における通信ネットワーク利用者の推移を見ると、スマホおよびインターネットの利用者数が急拡大しています(図表1参照)。

 図表1 中国におけるネットワーク利用者数

携帯電話のスマホ化の進展により、中国インターネット協会によると、携帯経由のネットユーザー数は、15年11月末時点で約9億1000万人に達しました。情報関連小促進のため、G4の普及にも力が入れられており、G4のユーザー数も3億8600万人に達しました。

2. ネットショッピングが急拡大

スマホなど情報関連機器の普及に伴い、ネットショッピングが急拡大。中国国家統計局によると、15年のネットショッピングは38,773億元(約70兆円)で、伸び率は+33.3%。15年の小売り全体の成長率+10.7%の3倍以上の伸び率。同統計局によると、小売総額に占めるネットショッピングは約10.8%となりました。

特に近年注目を集めているのは、電子商取引(EC)最大手となったアリババの提唱した「独身の日」(11月11日)。同社はこの日に特にバーゲンを行っており、15年の「独身の日」の売り上げは、アリババだけで912億元(約1.6兆円)に達しました。

中国は、ほかの主要国と比較しても小売りECの伸びが突出しています。中国のネットショッピング(B2C、C2Cを含む小売りEC)は、ネットインフラ決済、物流の進展した米港などを追って進展してきましたが、図表2の通り、米国を超える急成長を遂げています。

 図表2 世界小売EC取引額と中国の額の比率

3. フィンテックも進展

中国では、フィンテックも進展。フィンテック(FinTech)とは、ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語であり、情報通信技術(ECT)を活用した革新的な金融商品とサービスと指します。中国ではフィンテックを通常「互聯網金融」(インターネット金融)と呼んでいます。

中国でフィンテックが発達した理由の1つは、既存の金融システムに対する不満の強さ。預金は残高ベースで国有銀行が約67%を占めており、預金者に対して適切な金融サービスを提供していません。

また、第二の理由として、偽札が多く、見せも消費者も現金の支払いを好まない傾向にあります。日本人などが中国に観光に行くと、現金でなくスマホで支払うことを求められることも増加しています。中国のある女子学生がキャッシュカードを亡くしたところ、その2週間後に銀行から通知が来て初めて気づくなど、スマホによる決済が日常化しています。

米国では、支払いはクレジットカート、次に小切手が一般的。中国でも、一時はクレジットカードが普及したものの、支払いのたびにIDカードの提示を求められ、不便でした。そこで普及したのがデビットカード。日本で爆買いする中国の観光客は、主に銀聯カードを使っています。

デビットカードをデジタル化したのがフィンテック。フィンテックにより、支払いもできるし資産管理、資産運用も可能となります。中国におけるスマホ決済のサービスはアリババの「Alipay(支払宝)」とテンセントの「WeChatPay(微信支払付)」が二大勢力であり、約7億人のユーザーがいます。

4. 外貨準備高の減少と資本の逃避

中国の外貨準備高は、年次ベースでは14年末に3兆9000億ドル、月次ベースでは14年6月に約4兆ドルでピークを付けています(図表3参照)。その後急速に減少し、17年1月末には一時3兆ドルを下回り、6月末には3兆570億ドルに回復したものの、大きくは回復していません。

 図表3 中国の外貨準備高

外貨準備とは、一般に対外支払いに備えて中央銀行が管理している外貨の流動性のこと。中国には現在3兆ドルの外貨準備があるものの、そのうちやく1兆数十億程度は米国債であるとみられます。輸入代金の決済に備えるためには、少なくとも1兆8000億ドルの外貨準備が必要であるとみられますが、米国債は売るわけにはいかないので、外貨準備は必ずしも潤沢にあるとは言えません。

14年6月からの3年間で、1兆ドルの外貨準備が減少したわけですが、同じ期間に個人が商業銀行に預けている外貨も約1兆ドルの減少となりました。中国では、ごく最近まで外貨が不足していたので、個人の保有する外貨をなるべく銀行に集めるとの意図から、外為集中政策をとっていました。

外貨準備と商業銀行にある外貨預金を合わせて2兆ドルが減少したことになりますが、タックスヘイブン、あるいはニューヨークに流れたとみられています。ニューヨークのここ数年の株高には中国の資金も寄与しているとみられます。中国の景気減速、あるいは不動産価格上昇による不動産バブルの警戒から、資金が海外に逃避しているとみられます。

次回は、為替管理、金融政策などについて見る予定です。

中国と米中関係 (3) 構造問題 平成29年8月25日

おはようございます。今回は、構造問題などについて考えます。

1. 輸出の後退と過剰な投資

中国の共産党政権は、これまで高い経済成長率の目標を掲げてきました。党大会などで示唆して年単位の国内総生産(GDP)の目標を概ね達成してきたわけですが、人口の伸びによる労働力を吸収し、それにより社会の安定化を図ることを目指してきました。

ただ、経済の規模の拡大、人口の高齢化、産業構造の高度化が進み、景気の牽引役としては、従来の輸出及び固定資本形成(投資)から、個人消費に牽引役が移り、過剰な不動産投資が抑制されることが期待されてきました。過剰な投資により、中国が鉄鉱石などの資源を「爆買い」し、商品市況が高騰する、あるいは国内の環境汚染につながるなどの批判もありました。

ここで、中国の需要項目別GDP構成比をみると、輸出は1970年には3.2%にすぎなかったものが、2006年には38.6%に拡大(図表1参照)。輸入も同様に3.1%から31.1%まで拡大。安い人件費などを武器に「世界の工場」として中国が君臨し、中国の景気拡大を牽引。ただ、その後は人件費の上昇などにより、繊維、化学など付加価値の低い産業の競争力の低下、経済のソフト化などにより、輸出が牽引役から後退していることがわかります。

さらに、家計消費は1970年以降に低下し、最近はやや持ち直す傾向にあるものの、依然として力強さに欠けます。中国では、企業が賃金に回る比率、すなわち労働分配率が低く、さらに年金など社会保障も遅れていることから、貯蓄率が高止まりしています。

貯蓄率の高さもあり、設備投資などの固定資本形成の比率が上昇。不動産への投資は、地方政府にとっては重要な収入源であることもあり、固定資本に依存した経済成長が続いていると言えます。

 図表1 中国の需要項目別GDP構成比の推移

主要国の投資がピークにあった年における投資、即ち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%(図表2参照)。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

 図表2 主要国のGDPに占める投資の割合が最大となった年

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

2. 過剰設備廃棄も進まず

国有企業における統治(ガバナンス)の改革、過剰設備の廃棄も従来言われてきているものの、ほとんど進んでいません。特に過剰な設備を抱えているのが、自動車、造船、鉄鋼、セメントなどであり、国有企業において特に過剰な設備の廃棄が進んでいません(図表3参照)。例えば、鉄鋼においては生産高が世界的に突出しているものの、低価格の鉄鋼の輸出により、世界的に鉄鋼業が不況に陥っています。

中国が欧州への通商路を確保し、陸と海の沿線の開発を進めようとしている「一帯一路」構想についても、アジアインフラ投資銀行の後押しにより、鉄鋼、セメントなど中国の過剰な生産を解消しようとしているとみることもできます。

 図表3 主要産業の過剰設備比率

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

3. 民間債務が拡大

中国では、民間部門の債務が拡大。国際決済銀行(BIS)が16年12月に公表した「日金融部門向け与信統計」によると、16年6月末時点における中国民間部門の債務残高は約2兆ドル。15年末からの半年間で約1兆ドル増加。

民間債務のGDPは+6.7%ポイントの増加で、209.4%。2010年末比では、民間債務のGDP比の増加は+61.5%ポイント。日本のバブル崩壊直前の1989年が208.0%であり、ほぼ同水準。の本のバブル期と比較すると、中国の民間債務の規模はすでに適正水準を超えているとみられます。

 図表4 アジア主要国の民間債務GDP比

過剰な債務の拡大の背景として、地方政府がいわゆる「影の銀行」(シャドーバンキング)という、正規の融資のルート以外からの資金調達を行い、過剰な不動産投資を行っていること、国有企業が依然として過剰な投資を続けていることなどがあります。「影の銀行」については、後程、リスク要因を見る際に考察する予定です。

次回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて見る予定です。

中国と米中関係 (2) 米中関係 平成29年8月18日

おはようございます。今回は、米中関係などについて見ます。

1. 19世紀の経済大国中国

かつてゴールドマン・サックスに所属したジム・オニール氏は、ブラジル、ロシア、インド、中国をBRICs諸国と名付け、特に中国が今後大きく発展すると述べました。その後、南アフリカも加えて「BRICS」という概念を提唱したわけですが、中国の国内総生産(GDP)は、日本を追い抜き、やがて米国をも追い抜くと予測しました。

中国経済はGDPの規模ですでに日本を追い抜いており、現在は習近平主席が「一帯一路」すなわちかつての絹の道(シルク・ロード)のように、中国と欧州を陸と海で結び、交易を活発化させようとしています。そのために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しました。AIIBには日米両国は参加しなかったものの、ロシア、インド、ブラジルなど主要な新興国のほか英独仏伊など欧州の主要国、あるいは豪州、カナダなど多くの先進国も参加しており、中国は経済的な覇権の確立に向けて、邁進していると言えます。

ただ、歴史的に見ると、中国は黄河文明以来、多くの期間において政治的、あるいは経済的に大国であったと考えることができます。18世紀において中国は隆盛を誇っていましたが、1840年のアヘン戦争を契機として、急速に国力が衰えることとなりました。

それ以前の状態では、マディソン(1926-2010)によると、1820年のGDPランキングでは、中国は1位で3割弱という大きな比率でした(図表1参照)。以下、インド、フランス、ロシア、英国、日本と続いています。かつては、中国、インドという2大文明国が大きな比率を占めていました。人口がこれら文明の発展の大きな要因であったと考えられます。今後の人口動態を考えると、中国、インドの優位性が考えられます。

 図表1 1820年世界のGDP順位

2. 米中間貿易の特徴

トランプ米大統領の就任以来、米国と中国との間の貿易摩擦の高まりが懸念されてきました。まず、米中間の主要貿易品目をみておきましょう。米国から中国への輸出品目では、飛行機・部品すなわちボーイングが最も大きく13.3%(図表2参照)。このほか、種子・穀物も大きく、大豆、小麦、トウモロコシなどを多く輸出しています。米国の農産物の約70%が中国向け。米中両国の貿易に関する100日プランでも、中国は米国からの農産物輸入拡大を求められています。

 図表2 米国から中国への主要輸出品目(2015年)

次に中国から米国への輸出品目を見ると、家電が27.6%で最も多く、iPhoneなどのスマホが含まれます(図表3参照)。ただ、スマホの素材、部品の多くは日本および韓国で生産されており、中国では単に組み立てが行われているにすぎないとみられます。中国はiPhoneの輸出で売り上げの7%を受け取るものの、残りの93%はアップル社や部品を供給している日本・韓国などが受け取っています。

 図表3 中国から米国への主要輸出品目(2015年)

次に大きいのは産業用機械で、21.5%を占めています。ここに含まれるPCについては、半導体のICチップなど高付加価値の部品の多くはインテルなど米国あるいは外国企業が作成。PCについても中国は基本的には組み立てるだけという構図。家電と産業用機械を合わせると50%近くなるため、米国が中国の輸出を抑制すれば、かえって米国など先進国の企業が困るだけということになります。

貿易については、大幅に中国の輸出超過である者の、米中両国の補完性が強いと言えます。さらに、サービス貿易では中国が大幅に赤字。最も大きなのがロイヤリティー収入であり、中国から米国への留学費用も中国側の大幅赤字。したがって、米中間は補完性が強く、一方的に米国が中国に対して制裁を科すのは難しい状況であると言えます。

3. 第1回米中包括経済対話を開催

トランプ大統領は、選挙期間中から中国をたびたび攻撃。米国の中国に対する貿易赤字、人民元について強硬な姿勢をとってきました。ただ、大統領就任後には、実際には強硬な措置は何も取っておらず、対北朝鮮に対する中国の圧力増大のカードとして温存しているのでなとの観測もあります。

米中両国は、7月19日に第1回の米中包括経済対話を開催。今回は、両国間の貿易・投資を巡る問題や、4月の米中首脳会談で合意した「100日計画」などについて議論を交わしました(図表4参照)。

中国は対話の結果について、相互理解や信頼を深めることで、今後の基礎を築くことができたとして、一定の成果を上げたと評価。ただ、具体的な議論の結果についてはあまり明らかにされていません。

 図表4 経済対話における議題

注目されていた「米中経済協力の100日計画」については、「重大な進展」がみられたと中国側は評価。同計画は17年4月の米中首脳会談で合意されたもの。17年5月には、早期合意が可能であった農業・エネルギーや金融サービスなどの分野における10項目の協力が、「100日計画」の一環として発表されました。

今回の対話の結果、今後「1年計画」が策定され、実施されることとなりました。マクロ経済、金融、貿易協力、投資協力、経済分野のグローバルガバナンスなどの領域で、協力を進めることとなりました。

ただ、対話後に予定されていた共同記者会見が中止され、共同声明も発表されなかったことから、多くの問題が解決されずに先送りとなった可能性が高いとみられます。北朝鮮の核・ミサイル開発問題が影響する可能性もあり、米中間の貿易問題には、引き続き不透明感があります。

次回は、構造問題、フィンテックなどを見る予定です。

中国と米中関係 (1) 成長率など 平成29年8月11日

おはようございます。中国経済の現状と米中関係などについて考えます。

1. BRICsの成長率

まず、中国経済を概観しておきましょう。中国は従来、代表的な新興国であるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で、特に高い成長率を維持してきました。ところが、15年には中国の+6.9%に対して、インドが+7.9%と逆転(図表1参照)。さらに、国際通貨基金(IMF)の予測では、17年においても中国+6.5%、インド+7.1%とインドの優位が今後も継続する見込み。

中国はほかの主要な新興国と比較すると、今後も高い成長率を維持する見込みであるものの、経済の行き勢いに陰りが出ています。IMFは、中国の成長率が今後さらに成長率が低下すると予想しています。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

2. 4-6月期GDP成長率は+6.9%

中国の国家統計局は17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表(図表1参照)。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示唆。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。 

 図表2 中国の四半期成長率(前年同期比)

3. 鉱工業生産伸び率は予想上回る

中国の国家統計局が17日に発表した統計によると、6月の鉱工業生産は前年同月比+7.6%と、前月の+6.5%から加速。市場予想の+6.5%を上回りました。

 図表3 中国の鉱工業生産(前年同月比)

4. 6月小売売上高は予想上回る

一方、中国の国家統計局は同日に、17年6月の小売売上高が、前年同期比+11.0%になったと発表(図表2参照)。市場予想の+10.6%を上回り、前月の+10.7%からも加速。

 図表4 中国の小売売上高(前年同月比)

5. 1-6月固定資産投資は予想上回る

他方、同日発表の1-6月の固定資産投資は前年同期比+8.6%。市場予想の+8.5%から下振れしました。1-5月の+8.6%から伸び率は横這い。

ただ、1-6月の固定資産投資の伸びの前年同期比+8.6%は、1-3月の+同9.2%からは伸び率が鈍化。道路や空港などインフラ投資は+21.1%と大幅に伸びたものの、不動産開発投資などが減速。

中国人民銀行(中銀)は、年初から市場金利を高めに誘導。金融政策を引き締め気味にしており、住宅ローン金利や社債金利も上昇。北京や上海では住宅の販売が減少しており、不動産市場の失速が年後半の中国の国内総生産(GDP)を押し下げる可能性もあります。

6. 今後も成長率低下が継続か

このように、中国の成長率はロシア、ブラジルなどに比べれば引き続き高水準を維持しているものの、今後も伸びは鈍化していくと予想されます。その主な要因は人口の高齢化、生産年齢人口(14-64歳の人口、中国の定義では一般に60歳まで)の減少、最低賃金の上昇による製造業の競争力の低下などがあります。

さらに、経済のソフト化の進展により、投資が減少する傾向にあります。これまでは、固定資本形成、すなわち投資と輸出が経済を牽引してきました。新たに個人消費など内需が牽引役となるべく期待されていますが、主役の転換が進んでいません。また、国有企業改革が遅れるなど、構造改革の遅れも目立ちます。構造改革については、後程、課題とリスクという観点から見ていきます。

次回は、米中関係などを見る予定です。

世界経済の長期停滞 平成29年8月4日

おはようございます。世界経済の長期停滞について見ます。

1. 世界経済の概観

まず、世界経済のこれまでの推移を見ておきましょう。世界経済の成長率は、1930-90年には+3.84%であったものの、08-16年には+3.23%に、16年には3.08%に低下(図表1参照)。特に先進国では顕著に低下しており、米国では83-90年+3.36%から、01-07年+2.45%、16年には+1.58%に低下。ユーロ圏、日本も大幅に低下しているほか、新興・発展途上国でも低下傾向にあります。

 図表1 世界経済の成長率

インフレ率についても、ほぼ同様の動き。世界のインフレ率(物価上昇率)は、83-90年には+17.05%であったものが、01-07年ニハ+4.03%、05-16年には+3.82%へと大幅低下。米国においては、83-90年の+3.86%が01-07年には+2.69%へと低下。ユーロ圏、日本でも大幅に低下しており、特に日本では、83-90年の+1.62%が01-07年には▲0.27%と、デフレ圏に突入。中南米でも、83-90年には+205.43%のハイパーインフレであったものが、08-16年には+5.08%まで低下。新興国においても、中央銀行の主要な課題はインフレ抑制よりも、景気刺激に移ってきた感があります。

 図表2 世界のインフレ率

2. 長期停滞論

長期停滞論とは、ローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授が提唱して、主に米国で盛んになったものです。低成長・低インフレ・低金利の長期化、すなわち「長期停滞」は、過剰貯蓄が自然利子率(完全雇用と整合的な利子率)を押し下げ、「金融緩和が無効化する」ことによって発生するとしています。

長期停滞の問題点としては、1つ目に経常黒字国(世界的には過剰貯蓄を容認している国)の存在が、近隣窮乏的な効果を持つ。すなわち、日本や欧州、中国などの経常黒字が、世界的に金利を押し下げる方向に働いているが、その世界需要刺激効果は小さい。2つ目に、金利が効かない世界では、低金利政策は新規の需要ではなくストック(資産)・インフレを刺激する。3つ目に、「長期停滞」は、所得格差の拡大(中間層の崩壊)によって増幅される。としています。

世界的にゼロサム的な長期停滞議論では、日本、中国、ユーロ圏などの経常黒字国が世界の長期停滞を増幅させている眼鏡とされ、敵対視されます。

また、自然利子率が下がり、金融政策が無効化している状況においては、特に形状黒字国は財政支出を拡大させることが望ましいとされます。金融緩和は、経常黒字を拡大させ、資産インフレを促進するだけであるとされます。特に日本においては、積極的な財政出動により、財政赤字が急拡大しました。

3. 企業の主役も交代。

企業の主役も交代。17年6月末の時価総額上位10社を見ると、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾンなど米国のIT企業が独占。業種ではITが多いほか、国別では、中国の2企業もランクイン。10年前には、上位10位に入っていたIT企業はマイクロソフトのみであり、まさに様変わりしています。

 図表3 世界の企業の株式時価総額上位(2017年6月末)

4. 新興国の主役も交代

一方、新興国の主役も交代。日本など先進国に対して、中国、インド、ロシア、ブラジルのいわゆるBRICs諸国は、相対的に高い成長率を誇ってきました。2008年ころまでは、中国を筆頭に高い成長率を維持。ただ、その後2008年9月のリーマンショック後の2009年にはロシアが▲7.8%、ブラジルが▲0.1%となり、資源国を中心として落ちおみました。

その後も、ロシア、という資源国に対して、原油などの輸入国である中国、インドが優位に立ちました。これは原油など鉱産物資源価格の下落が影響しています。さらに、15年にはインドが+7.9%、中国が+6.9%と逆転。今後も中国は人口構成などの影響で成長率が低下する見通しであり、インドの優位が続く見通し。

 図表4 BRICs諸国と日本の成長率

5. 世界的な低成長が持続か

世界的には、低成長、低金利の時代が継続する可能性があります。米国においては、完全雇用が達成されているにもかかわらず、単位当たりの賃金の伸びが低く、インフレ率も低く、長期金利もあまり上昇していません。ユーロ圏、日本では引き続き景気が低調で、低金利も継続。

IT技術の進展により、世界的に適材適所での生産が定着し、世界の貿易も停滞。米国のIT企業は、海外に利益を滞留させる傾向にあり、必ずしも米国など先進国の税収が好転しているわけではありません。また、米国本土では、アイフォンなどハイテク機器の生産が多く行われているわけではなく、製造業の雇用が減少。米国IT企業の生産は韓国、台湾、中国などで行われる傾向にあります。

この世な観点から、世界的な景気の停滞が継続し、国別では、インドなど一部の国の景気の好調が持続。業種、企業では、米国、中国などの一部IT企業が好調を持続し、一部の日本企業などが後退する可能性がります。投資にあたっても、そのような観点が必要になってくると言えます。

中南米諸国の展望 (6) メキシコ 平成29年7月28日

中南米主要国のうち、前回のチリに続いて、メキシコを見ます。

1. CPI上昇率はやや加速

メキシコ国立地理情報研究所は7月7日に、メキシコの6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+6.31%になったと発表(図表1参照)。5月の同+6.16%からやや加速。市場予想の+6.34からはやや下振れ。

 図表1 メキシコのCPI前年比上昇率

2. 1-3月期は+2.7%

メキシコ統計局は5月22日に、17年1-3月期国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+2.8なったと発表。10-12月期の同+2.7%(確定値)からやや加速(図表2参照)。市場予想は+2.7%。

 図表2 メキシコの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を引き上げ

一方、メキシコ中央銀行は、6月22日の政策決定で、政策金利である翌日物貸出金利を+0.25ポイント引き上げ、+7.0%にすることを決定(図表3参照)。利上げは、市場予想の予想通り。

 図表3 メキシコの政策金利

5月のインフレ率は+6.16%と、09年4月以来、約8年ぶりの高い水準にまで上昇。中銀はインフレ率の目標を+3%程度をしており、足下では目標を大きく上回る水準となっています。

4. 政治

メキシコでは、2012年12月のペニャ政権が発足。財政、エネルギー、教育金融など多くの分野での改革を進めました。15年6月の連邦議会下院中間選挙(全500議席改選)では、与党PRI及び協力政党合計で過半数を確保し、ペニャ政権後半の政権運営に安定感をもたらしました。

主な改革として、まず教育改革では、労働組合の教員人事への介入を排除し、能力ベースの教員採用・評価制度を導入し、公教育の質向上を図っています。通信改革では、通信セクターの外資規制緩和、通信・メディアの新たな監督規制機関設立などにより、競争力強化、通信費引き下げなどを図っています。

最近問題となっているのは、米国との対立。米トランプ政権は、メキシコからの不法移民を問題視し、米国とメキシコとの間に壁を作り、その費用もメキシコに負担させるとしました。また、米国あるいはトヨタなどの企業がメキシコに新たに向上を作るとの意向についても、「アメリカ・ファースト」を掲げて牽制。米国の雇用と守るとしました。

5. 強み、課題、リスク

ブラジル、ベネズエラなどでは、資源価格の低下により、現政権に対する批判が高まっています。対して、メキシコは中国経済への依存度が低く、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国であるため、米国と強いつながりがあります。米景気の拡大を受けた輸出の拡大、内需の緩やかな回復が見込まれることが強み。また、自動車産業など製造業も発展。

ただ、米トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)を見直すと表明。自動車などの米国への輸出に支障をきたす恐れがあります。また、米国には多数の中南米系の不法移民がおり、強制送還される可能性もあります。

また、麻薬絡みの犯罪も頻発。首都メキシコ市南方のテミスコ市で、麻薬撲滅を目指して当選したギセラ・モタ新市長(33)が就任の翌日に、麻薬がらみのギャングに殺害されるなど、治安悪化が依然として深刻。

今後の注目点としては、石油鉱区の入札が順調に進展するかどうかということ。また、リスク要因としては、米国の景気(特に鉱工業生産)の下振れ、原油価格の低迷とメキシコにおける原油生産の減少、またそれに伴う財政への影響、米国の利上げによる海外の投資家による投資資金の引き上げの可能性などがあります。

6. 為替と株価

ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、16年8月には1ドル=18.0ペソ近辺での取引でしたが、17年1月にはどう21.4ペソ近辺へと大幅下落。トランプ大統領がメキシコとの通主関係を見直す方針を示し、メキシコの輸出の減少などを警戒して大幅に下落しました。

ただ、その後はメキシコに対する具体的な政策の発表はなく、米国とメキシコとの壁の建設についても、何ら具体化していません。そのため、ペソは対ドルで急反発。7月には1ドル=17.5ペソ近辺へと上昇しました。

 図表4 メキシコ・ペソ(MXN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年には原油価格の低迷などにより、15年にはほぼ横這いの動き。その後、投資家の資金が新興国に戻ったことなどにより、16年には反発。ただ、トランプ政権のメキシコへの政策を懸念して16年秋には下落。その後は通貨ペソと同様に、トランプ政権に対する懸念の後退などにより、17年初めからは大幅に上昇しました。

 図表5 メキシコ・ボルサ指数

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、米国が離脱を表明。ただ、残る11か国は締結の方向で疎いています。TPPが締結されれば、日本などアジア諸国との貿易が発展する可能性もあります。メキシコ市の新国際空港の建設、自動車産業に関連しては輸出港(ベラクルス港など)の整備の計画もあり、インフラ(社会的基盤)の整備も期待できます。

麻薬がらみの汚職・犯罪、また経済が原油価格の影響を受けやすいことなどがあるものの、製造業の発展により、緩やかな景気拡大、また中長期的な株価の上昇も期待できます。

中南米諸国の展望 (5) ペルー 平成29年7月21日

前回のチリに続き、今回はペルーを見ます。

1. 金利を2回引き下げ

ペルー中央準備銀行は17年5月11日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて4.00%にすることを決定(図表1参照)。その後、7月13日の同会合でも▲0.25%ポイント引き下げて3.75%としました。

中銀は政策金利を引き下げたことについて、「インフレ率は17年の目標値(+1.0〜3.0)の範囲内にある。食品とエネルギーを除くインフレ率は低下を続けており、目標値の範囲内にある。国内経済の成長率は、潜在成長率を引き続き下回っている。政府と民間の支出の増加により、今後成長率は上向くと予想される」としました。

 図表1 ペルーの政策金利

2. インフレ率が6月に減速

一方、ペルー国家統計局によると、7月3日発表の6月CPIは前年同月比+2.73%と、前月の+3.04%から減速(図表2参照)。中銀が目標とする+1.0〜3.0%のインフレ目標の範囲内にあります。インフレ率は3月に同+3.97%まで加速したものの、その後は鈍化が継続。

 図表2 ペルー消費者物価指数(前年同月比)

3. 17年1-3月期GDPは+2.1%

他方、ペルー国家統計局によると、17年1-3月期の同国の実質GDP成長率は+2.1%となり、昨年10-12月期の+3.0%から減速。市場予想の+2.7%からも下振れ。15年1-3月期以来の低成長となりました。

主な要因は、エルニーニョ現象に関連した北部の大規模な洪水。建設が打撃を受けて、▲5.3%。一方、プラスとなったものは、輸送が+2.5%、サービス+0.6%、製造業+1.7%、鉱業+4.1%、電気・ガス・水道+1.0%、漁業+37.7%など。

 図表3 ペルー四半期成長率(前年同期比)

4. 強み、課題、リスク

ペルーは、1980年代には経済運営の失敗からハイパーインフレーションが発生し、経済が破綻状態に陥りました。しかし、1990年代に発足したフジモリ政権において、経済自由化・健全財政を進め、経済が再生。同政権後も、新自由主義的な経済政策が継続され、貿易の自由化も進展。2009年には米国とFTA(自由貿易協定)が発足し、11年には日本と経済連携協定(EPA)に署名。

ペルーは中南米における優等生とした脚光を浴びており、高い経済成長と健全な財政を誇っています。物価、金利が安定し、外貨準備も高水準に積み上がり、国際収支や対外債務の面で、流動性について殆ど問題がないと言えます。

ペルーの成長を支えたのは、資源価格高騰による海外からの鉱山部門への投資。海外からの投資により、国内の投資は家計部門の消費が活気づきました。フジモリ政権下で、公営鉱山が民間部門に売却され、経済が活性化しました。

ただ、ペルーには金、銀、銅、鉛、亜鉛などの鉱物資源が豊富にあり、輸出に貢献しているものの、これら鉱物資源に頼りすぎている面があります。14年には、中国の景気減速などにより、銅など鉱物資源価格が大幅に下落しました。今後は、鉱物資源に頼らず、製造業などを発展させていくことが課題であると言えます。

5. 為替と株価

ここで、ペルーの株価及び為替の動きを見ましょう。ペルーの通貨であるペルー・ヌエボ・ソルは、対ドルで13年以降には下落基調。15年後半には1ドル=3.1ソル近辺での取引。その後はやや強含み、16年3月初めには、1ドル=3.45ソル近辺での取引。7月19日には、1ドル=3.2395ソルで終了。

 図表4 ペルー・ヌエボ・ソル(PEN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるIGBVL指数は、13年初めから継続的に下落(図表5参照)。14年春ころからはやや反発したものの、14年後半からさらに大きく下落。中国の資源爆買いの停止により、金、銀、銅、亜鉛などの価格が下落。ペルー国内の景気の後退もあり、株価も軟調な展開となりました。

 図表5 ペルー・IGBVL指数

ペルーでは嘗て、左翼ゲリラが暗躍し、低成長の国でした。鉱物資源は豊富であるものの、インカ帝国の遺産があるほかは、日本にとって余りなじみのない国でした。その後はフジモリ政権の発足に伴い、経済の自由化が進み、成長率も高まりました。

今後もチリ、メキシコなど「太平洋同盟」加盟の1つの国として、発展が期待できます。米トランプ政権はTPPからの離脱を発表したものの、残り11か国でTPPが成立すれば、ペルー経済にとってはプラスに作用する可能性があります。

次回は、メキシコを見る予定です。

中南米諸国の展望 (4) チリ 平成29年7月14日

前回のアルゼンチンに続いて、今回はチリを見ます。 1. 金利を5月に引き下げ

チリ中央銀行は5月18日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて2.5%にすることを決定(図表1参照)。

中銀は会合後の声明で、「国際的な金融環境は引き続き好ましく、経済指標は、先進国における力強い成長のシナリオを後押している。消費市況は引き続き区々の動きで、銅価格は下落している」としました。

さらに中銀は、「国内に目を移すと、インフレ率は+2.7%にとどまっており、近い将来の予想は目標値に近い。生産と需要の予想は3月の金融政策報告に沿ったものであり、鉱業と建設ではネガティブな影響がある」としました。

 図表1 チリの政策金利

2. インフレ率が1月に減速

一方、消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は、鈍化を続けています。7月7日発表の6月CPIは前年同月比+1.7%と、前月の+2.6%から減速(図表2参照)。市場予想の+2.9%からも下振れ。

 図表2 チリ消費者物価指数(前年同月比)

3. 1-3月期GDPは+0.1%に減速

他方、チリの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比+0.1%と、前期の同+0.5%から減速(図表3参照)。2009年7-9月機以来の低成長となりました。2月に発生し、40日余りに及んだ主要鉱山であるエスコンディーダ鉱山のストライキが輸出を押し下げたのが響きました。経済活動別で目立ったのは、水産業で、禁漁区域の解除に伴う鰯漁獲量が5倍強になるなどして、前年同期比+34%と急増。

 図表3 チリ四半期成長率(前年同期比)

4. 政治

1973年のクーデターによりピノチェト軍事政権は、88年10月の国民信任投票で敗北。89年の選挙でエイルウィン大統領が選出され、90年に民政に移管。その後、4期連続して中道左派政権が継続。

その後、10年に民政移管後初の中道左派政権として誕生したピニュラ政権は学生のデモなどにより、具体的成果を出せませんでした。13年末の総選挙により、中道左派連合に共産党が加わる多数派により、バチェレ前大統領が勝利し、14年3月に新政権が発足。税制改革、選挙制度改革、教育制度改革などの法案を議会に提出。ただ、親族の不正土地売買疑惑により支持率は低下。チリは中南米にあっては、比較的政情が安定していると言えます。

本年11月の次期大統領選に向けて、与党会派では、17年3月11日に、ゴイック・キリスト教民主党党首が同党の大統領候補として立候補する意向を表明。社会党では、インスルサOAS事務総長とアトリア弁護士が立候補の意向を表明。野党会派では、3月21日にピニェラ前大統領が大統領選挙への立候補を正式に決定。

5. 課題、リスク

チリは「中南米らしくない」ともいわれる堅調な発展を遂げているわけですが、米英型の新自由主義に基づく経済運営が功を奏しています。自由化、対外開放を進め、公共部門の肥大化を招かずに経済の効率性が高まり、健全財政を標榜してきました。

格付けでみても、直近でチリについてS&PがAA−(見通しはネガティブ)、ムーディーズがAa3(同安定的)、フィッチがA+(同安定的)としています。格付けは中南米諸国の中で相対的に高く、優等生と言われます。宗教的、民族的対立なども少なく、社会的な対立が少ない国であると見られます。

ただ、経常赤字は拡大傾向にあります。国際通貨基金の予測では、経常収支は15年▲17.93億ドル、16年▲39.47億ドル、17年▲47.33億ドルで、国内総生産(GDP)比ではそれぞれ、▲0.74%、▲1.64%、▲1.88%と悪化の見通し。

また、他の多くの中南米諸国と同様、資源の輸出に依存しています。原油は純輸入国であるため、原油価格の下落は貿易収支に対してプラスに働くものの、銅など鉱産物の価格下落が痛手。通貨チリ・ペソも同価格に連動する傾向にあり、中国などの景気後退、鉱産物の需要減少が景気にとってはマイナスになります。

インフレ率については上記のとおり、低下傾向にあります。4月のCPIは前年同月比+2.7%と、前月の+2.7%からは横這い(図表2参照)。5月が同+2.6%、6月は+1.7%と、インフレ目標の+3%±1%を下回っています。中銀にとっては、インフレ物価よりも景気梃入れが課題となっています。

6. 為替と株価

ここで、チリの株価及び為替の動きを見ましょう。チリの通貨であるチリ・ペソは同価格に連動する傾向にあります。中国などの需要の後退で、2014年初めから銅価格が急激に下落し、その影響で通貨ペソも軟調な展開。ただ、2016年1月から10月まではほぼ横這い。その後はやや反発しました。

通貨ペソもほぼ同様の動き。昨年10月以降はやや反発する動き。ただ、チリ国内の景気の後退もあり、17年に入ってからはほぼ横這いの展開(図表4参照)。

 図表4 チリ・ペソ(CLP/USD)

株価もほぼ同様の動き。チリの代表的な株価指数の1つであるサンチアゴ指数は、14年初めから16年初めにかけては軟調な展開。その後は、17年1月頃まで大幅上昇。その後はチリ国内の景気後退の影響などにより、ほぼ横這いの展開(図表5参照)。

 図表5 チリ・サンチアゴ指数

チリは政治的、社会的に安定しており、高い格付けを維持しています。ただ、経済は依然として銅など鉱物資源の輸出に依存しています。今後は、製造業、第三次産業の発展を図り、均衡のとれた発展を目指す必要があります。ただ、ペルーなどと同様、中南米ではチリも所属する太平洋同盟諸国がブラジル、アルゼンチンなどの所属するメルコスルよりは発展する傾向にあります。今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結、それによる貿易の活発化が進むとすれば、チリ経済にとっては恩恵となることも考えられます。

次回は、ペルーを見る予定です。

中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン 平成29年7月7 日

中南米主要国のうち、ブラジルに続いてアルゼンチンを見ます。

1. 金利が高止まり

アルゼンチン中央銀行は6月27日に、政策金利を26.25%と、5会合連続で維持(図表1参照)。中銀は、インフレとの取り組みについては成果を強調し、同行の目標である17年中の+12〜17%という目標に向けてインフレ抑制姿勢を継続すると強調。

 図表1 アルゼンチンの政策金利

2. インフレ率が急上昇

一方、5月のブエノスアイレス市発表インフレ率は、前年同月比+24%(図表2参照)。インフレ率には、やや収まる兆しがあります。ただ、アルゼンチンの統計自体疑問が呈されることが多く、どこまで実態を反映しているかについては、不透明な部分もあります。

 図表2 ブエノスアイレス市発表消費者物価指数(IPCA)

3. 17年1-3月期GDPは+0.3%に改善

他方、アルゼンチンの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比0.3%(図表3参照)。昨年10-12月期の▲1.9%からは改善したものの、依然として低迷しています。16年には、財政・金融の引き締めなどの経済政策により、景気は減速すると予想されていましたが、ほぼ予想通りとなりました。

 図表3 アルゼンチンの四半期成長率(前年同期比)

4. 政治、課題、リスク

アルゼンチンでは、第二次大戦後にほぼ一貫してペロン等の支配が続きました。経済危機後の03年から、ペロン等左派のキルチネル夫妻が大統領として政権を担当。15年10-11月の大統領選挙では、中道右派のマクリ候補が、キルチネル主義(大衆迎合的政治、市場介入、保護主義的政策)からの決別を訴えて、キルチネル派の候補を破って当選(写真1参照)。キルチネル政権における汚職、経済低迷への反発があったとみられます。

 写真1 ブエノスアイレスで行われた決選投票で投票する野党候補マウリシオ・マクリ氏

マクリ新政権は、キルチネル前政権とは違い市場寄りの政策を提示。経済政策としては、外貨準備回復のための措置、輸出規制の緩和、また、金融政策としてはインフレ・ターゲットの導入などを推進。その他、エネルギー補助金の段階的な削減など、価格統制・消費刺激策の期限を設定しました。



5. 対外債務問題で前進



アルゼンチンは2001-02年に800億ドルの負債を抱えて債務不履行(デフォルト)に陥りました。その後政府は民間債権者に対して、一方的な債務再編案を提示。その条件に応じず、債務交換に応じなかったいわゆる「ホールドアウト債権者」の一部(米系ヘッジファンド)は、デフォルトした債券(国債)の全額返済を求め、NYで提訴。



NY連邦地裁は12年2月に、原告の主張を支持。アルゼンチン政府は上告するも、米最高裁は14年6月に上訴を棄却。アルゼンチン政府は原告への支払いを行なわず、債務再編に応じた債権者への支払いもできなかったため、再びデフォルト(テクニカル・デフォルト)。



マクリ政権となり、米系のいわゆるハゲタカファンドとも呼ばれる投資家などとの交渉を開始。2月上旬以降、欧米の複数の投資グループとの間で、返済案に合意。アルゼンチン政府は米投資ファンド側への支払いを行い、デフォルトを解消。



2002年のデフォルト依頼、アルゼンチンは国際金融市場から事実上締め出されていたため、ベネズエラや中国などに外貨建て国債を購入してもらうなどして苦境をしのいでいました。デフォルトが解消されたことにより、国際金融市場に復帰し、資金調達する道が開かれました。



6. 為替と株価



ここで、アルゼンチンの株価及び為替の動きを見ましょう。アルゼンチンの代表的な株価指数の1つであるメルバル指数は、15年初めからほぼ一貫して上昇(図表4参照)。マクリ政権が市場よりの政策をとることへの期待、デフォルトの解消などを好感しているのが原因であるとみられます。

 図表4 メルバル指数

続いて通貨についてみると、アルゼンチン経済はペロン党のフェルナンデス政権時代に迷走を続けていました。そのため、通貨ペソが大きく下落。特に、2011年から15年にかけて大幅下落。ここ1年でみても、下落が継続(図表5参照)。

 図表5 アルゼンチン・ペソ(ARS/USD)

マクリ大統領は15年12月の就任直後に、経済活動をゆがめていた外貨取引規制を緩和。輸入、観光、投資などに関する規制を撤廃。その結果、15年11月に1ドル=9.5ペソであった公式レートは、闇レートにさや寄せされ、16年2月には1ドル=14.8ペソまで下落16年9月以降には1ドル=15ペソ台となり、17年7月には1ドル=17ペソ近辺まで下落しています。



次回は、チリを見る予定です。

中南米諸国の展望 (2) ブラジル 平成29年6月30日

中南米主要国のうち、まずブラジルを見ます。

1. 政策金利を▲1.00%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は5月31日の金融政策委員会で、政策金利を▲1.00%ポイント利下げして10.25%にすることを決定(図表1参照)。利下げ幅は6会合連続。ブラジルは2年連続でマイナス成長となったものの、足下では景気に下げ止まり感もあります。中銀は、さらなる緩和により景気の下支えを図っています。

前回2月会合の▲0.75%から拡大。利下げは5会合連続で、全員一致。16年10月以来の利下げ幅は合計で▲3.00%ポイント。中銀は、利下げ幅▲1%以上の金融緩和を今後も続ける姿勢を見せています。

▲1%の引き下げ幅は、前回4月の会合に続いて2回連続。ブラジルでは、インフレ率が急速に低下しており、5月の消費者物価指数(IPCA)が+4%を割り込むなど、長年の課題であるインフレ抑制が実現しつつあります。そのため、金融緩和の余地が拡大しています。

中銀は声明で「インフレ率は好ましい水準を維持している。ブラジル経済は短期的に安定し、長期的には徐々に回復している」としました。ブラジル地理統計院(IBGE)が31日に発表した統計では、失業率が3年ぶりの低下に転じました。

 図表1 ブラジルの政策金利

2. インフレ率が減速

一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+3.6%と、前月の同+4.08%から減速(図表2参照)。伸び率は市場予想の+3.77%を下回り、インフレ率は9か月連続で低下。中銀のインフレ目標値である+4.5%に収まっています。

 図表2 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

3. 1-3月期GDPは▲0.4%に改善

他方、ブラジル地理統計院は6月1日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲0.4%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は12四半期連続。ただ、昨年10-12月期の▲2.5%からはマイナス幅が縮小。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

さらに、前期比では+1%となり、2年3カ月ぶりにプラス成長に転じました。ブラジル地理統計院は、穀物収入の増加で、農業部門が+13.4%になったことが寄与したと述べました。

ブラジル地理統計院の発表を受けて、ブラジルのテメル大統領は、同国の最悪の過去10年における最悪のリセッション(景気後退)が終了したと述べました。同氏は「ブラジルは景気後退を克服した。本日の発表は、ブラジルの景気回復が確実なものになったことを示唆している」としました。

4. 政治、課題、リスク

ルセフ前大統領が断崖裁判によって昨年8月に罷免され、副大統領のテメル氏が大統領に昇格。テメル大統領は不況が続く経済の立て直し、財政の再建、投資環境の改善を優先課題とし、改革を進める意向を示してきました。株式、為替市場もテメル政権がルセフ前政権よりも市場よりの政策をとると期待し、また景気にも上向きの兆候が出ていました。

ただ、テメル氏への汚職の疑惑などが噴出。ブラジル連邦検察庁のジャノー長官は6月26日にテメル大統領を収賄容疑で起訴。同大統領の支持率は1ケタ台に低迷。大規模な汚職疑惑により現職大統領が起訴されたことにより、政権基盤が不安定となっています。

大統領に対する起訴の受理には、下院の3分の2の賛成が必要。テメル大統領率いる与党連合では、起訴の受理を阻止できるとしています。しかし、今後も大統領については、恐喝や司法妨害の容疑などでも起訴される見込み。支持率がさらに低下する可能性があります。さらに、支持率の低下などにより、期待されていた労働法の改正が見込めなくなったとの指摘もあります。

景気については一部に明るさがみられるものの、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC諸国による原油減産継続に新鮮味がなく、シェールガスの増産も続いていることから、原油価格など鉱物資源の価格が停滞しています。

輸出も依然として鉱物資源、あるいは農産物など一次産業が中心となっており、自動車など製造業の育成が遅れています。インフレ率については急速に低下しているものの、財政赤字と経常収支赤字の縮小も課題となっており、引き続きこれらの問題が株価、通貨の上値を抑える可能性があります。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。14年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。15年に入っても下落が継続。16年1月末には1ドル=3.999レアルとなり、14年12月末比では▲50.4%の大幅下落(図表4参照)。

その後、原油価格の反発などにより、通貨も上昇に転じました。15年には通貨レアルは対ドルで+17.8%の大幅上昇。ただ、17年に入ると原油価格が停滞したことなどにより、16年末から5月末まで、+0.42%の小幅上昇にとどまっています。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価は15年には年初から4月にかけて上昇したものの、その後下落に転じて、年末まで引き続き軟調な展開。中国の景気減速、世界的な株価の提供もあり、さらに下落し、16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントの安値を付けました。

その後は原油価格の反発などにより、株価は上昇に転じました。16年には株価はボベスパ指数でみて+38.9%と、大幅上昇。17年に入ると、原油価格が停滞したことなどにより、ア株価は16年末から17年5月まで+4.1%と、小幅上昇にとどまりました。

次回は、アルゼンチンを見る予定です。

中南米諸国の展望 (1) 平成29年6月23日

ブラジルなど中南米主要国は、2008年前半までは、世界的な資源ブームにより大きく潤うこととなりました。ただ、特に14年には原油価格などが急落し、曲り角を迎えました。16年以降には、資源価格の回復とともに、景気回復の動きも見られます。主要国の現状と今後の展望を探ります。

1.中南米の概観

中南米諸国全体では、人口が6億290万人、名目国内総生産(GDP)5兆7990億ドル、1人当たりGDPは9,619ドル(国際通貨基金=IMF 2014年 データ)(地図1参照)。全体として、原油、鉄鉱石、銅などの鉱産物資源に恵まれており、ブラジル、アルゼンチンを中心として農産物の生産も盛ん。人口も多く今後の発展が期待されていますが、製造業の発達は必ずしも順調ではありません。

 地図1 中南米主要国

経済共同体としては、大きくメルコスルと太平洋同盟に分かれます。メルコスルは全体として、人口2億9143万人、名目GDP2兆7110億ドル、同1人当りGDP10,033ドル。5か国が関税同盟を結成しており、ボリビアが各国議会の批准待ち(IMF17年4月データ)。太平洋同盟は同様に、人口2億2390万人、名目GDP1兆7700億ドル、同1人当り8,530ドル。かつてはブラジルを中心とするメルコスルが中南米諸国の経済の中心となっていましたが、近年はむしろ太平洋同盟のほうに勢いがあります(図表1参照)。

 図表1 メルコスルと太平洋同盟

2. 低成長に転じる

メルコスルの国内総生産(GDP)成長率からみると、2004年以降には概ね順調に推移していたものの、2008年9月のリーマン・ショックとその後の世界的な金融不況により、2009年にはブラジルの成長率が▲0.1%になるなど、各国とも落ち込みました(図表2参照)。

 図表2 メルコスル諸国の成長率予想

さらに、原油、鉄鉱石など資源価格の下落などの影響で、16年にはブラジルが▲3.5%、アルゼンチン▲2.2%、ベネズエラ▲18.0%など大幅な落ち込みとなりました。

次に太平洋同盟諸国を見ると、2007年までは概ね順調に推移し、07年の成長率はチリ+4.9%、ペルー+8.5%、メキシコ+3.1%など、まずまずの水準で推移(図表3参照)。その後はリーマン・ショックなどにより、09年にはチリ▲1.5%、ペルー+1.0%、メキシコ▲4.7%などと低迷。ただ、10年以降には急速に回復し、メルコスル同盟諸国と比較して、堅調さが目立っています。14-16年においても、原油価格下落の影響を受けたものの、メルコスル諸国と比較すると、相対的に景気は優位性を保ちました。

 図表3 太平洋同盟諸国の成長率予想

3. 資源価格が大幅下落

このように中南米諸国、特にメルコスル主要国の成長率は大幅に低下してきたわけですが、その主な原因は中国の成長率の急激な鈍化、それに伴う原油など資源価格の大幅下落です。商品市場の代表的な指数の1つであるCRB指数を見ると、14年5月以降、一貫して急激に下落(図表4参照)。原油、鉄鉱石、銅など主要な鉱産物、あるいは金、プラチナなど貴金属の下落を反映しています。下落は16年初めまで継続。

13年前半頃まで、中国の高い成長率に支えられ、原油など鉱物資源価格は堅調に推移。その後は中国による原油、鉄鉱石など資源の「爆買い」が一転して需要の減少となり、資源価格が低下、ブラジル、ベネズエラなど資源輸出に依存する国にとっては、大きな打撃となりました。

ただ、16年初頭からは石油輸出国機構(OPEC)による原油減産、中国の「爆買い」後退による影響の緩和、米国などの景気回復で資源価格はやや持ち直しました。ただ、17年5月にはOPECなどが原油減産の延長で党委したものの、真新しい材料がなく、米国のシェールガスの増産も続いているため、原油価格は小幅反落。CRB指数も軟調な展開となりました。

 図表4 CRB指数

4. 左派勢力が後退

政治の面では、左派勢力が後退。まず、11月22日には任期満了に伴い、アルゼンチンで大統領選の決選投票が行われました。中道右派の野党候補でブエノスアイレス市長のマウリシオ・マクリ氏(56)が当選。12年間にわたる中道左派政権の継承を掲げる与党候補を破り、当選。

アルゼンチンでは、クリスチーナ・キルチネル前大統領が大衆迎合的な政治を行い、消費者物価(CPI)上昇率も高く、政府統計についても国際通貨基金(IMF)が疑問を呈していました。前政権では、国債のデフォルト(元利金の不払い)を巡って一部債権者と対立。中道右派のマクリ氏が新たに当選したことにより、市場寄りの政治になるものと期待されています。

続いて、ベネズエラで12月6日に実施された国会議員選挙(一院制、定数167)では、中道右派の野党連合民主統一会議(MUD)が大勝しました(写真1参照)。マドゥロ大統領率いる与党の統一社会党は大敗しました。同国では経済危機が深刻化。その後、大統領よりの最高裁が議会の停止を命じて、さらに停止が解除されるなど混乱が続いています。MUDは与党及び大統領との対決姿勢を強めています。

 写真1 総選挙で大勝した野党の指導者エンリケ・カプリレス氏

さらに、ブラジルでは左派のルセフ大統領の人気が急落。ルセフ大統領は国営企業を巡る汚職に関連しているとして、ブラジル議会が大統領の弾劾を行いました。昨年8月にルセフ大統領の弾劾が成立して、テメル副大統領が大統領に昇格。18年末まで大統領を務めることになっています。

しかし、テメル氏は副大統領候補としてルセフ氏とともに臨んだ14年の選挙で、選挙資金名目として1500万レアル(約5億2000万円)の賄賂を受け取ったとする疑惑などが噴出。一時は市場寄りの政策を打ち出すとして、ブラジルでは株式市場などがテメル新政権に期待したものの、汚職疑惑の噴出により、株式・為替市場はこのところ勢いを欠く展開となっています。

一方、米国とキューバはオバマ前大統領が両国の国交を再開。キューバは長らく中南米における反米勢力の急先鋒であったわけですが、米国との国交回復により、遅れている経済の立て直しに向かうこととなりました。

ただ、今年1月に発足した米トランプ政権は一転してキューバに対して厳しい態度をとっています。6月16日には、「国民を苦しめてきたカストロ政権を見逃すわけにはいかない」とし、「オバマ政権による一方的なキューバとの合意を取り消す」としました。

5. 混沌とした情勢が継続か

一時は景気の回復が期待されたブラジルで、政治の混乱などにより景気の停滞感が強まっています。一方、トランプ大統領との対立により、通貨の下落、国内総生産(GDP)成長率の鈍化などが心配されたメキシコでは、以外に底堅い景気を保っています。ベネズエラでは、物不足、物価の高騰、与野党の対立の先鋭化、企業の一部国有化に対する産業界の反発など、混迷が深まっています。中南米全体としては、混沌とした情勢が継続することも考えられます。

次回からは、ブラジルなど主要国の動きを見る予定です。

原油価格の動向と中東諸国 平成29年6月16日

中東における「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約7年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権の中東への関与、中東諸国の政治情勢、原油価格の動向などを見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ大統領は、オバマ前政権とは異なり、サウジアラビアとの関係を重視し、イランを敵視する姿勢を鮮明にしています。同大統領は5月21日にサウジアラビアの首都リヤドを訪問し、イスラム圏54か国の代表を集めた「米・アラブ・イスラム代表者会議」で演説。イスラム国(IS)やアルカイダなどの「暴力的過激主義」との戦いで、イスラム諸国との連携を呼びかけました。

トランプ氏は、テロとの戦いを「善と悪との戦いだ」と位置づけ、各国に対してイスラム諸国主導による「過激思想の撲滅」の実現に向けた連携を訴えました。特にイランについては、「シリアのアサド政権を支援している」として非難し、イランが支援する「テロ組織」の封じ込めを訴えました。

 写真1 歓迎式典に参加したサウジアラビアのサルマン国王(右)とトランプ大統領

3. サウジがカタールと断交

サウジアラビアとエジプト、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)は6月5日に、カタールと断交すると発表。湾岸諸国では、カタールがテロに資金援助しているとの非難があり、緊張が高まっていました。

国営サウジ通信によると、サウジアラビア政府は、「テロリズムと過激主義の危険から国の治安を守る」ために、カタールとの外交関係を断絶し、国境を閉鎖する。陸・海・空のすべての玄関口の閉ざすとしました。

エジプト外務省は、カタール政府が「テロリズムを支援している」とし、エジプト国内の港湾と空港へのカタール国籍の舟や航空機のアクセスと拒否するとの方針と発表。

さらに、バーレーン通信は、カタール政府が「バーレーンの治安と安定を揺るがし、内政干渉を行う」と主張したため、国交を断絶したと報道しました。

 写真2 カタールの首都ドーハ

4. モスル奪還作戦が進行

イラクとシリアにまたがるイスラム系過激派組織「イスラム国」は、イラクの北部主要都市モスルを「首都」としています。そのモスルを奪還するためのイラク軍の攻勢が強まっています。

イラクの陸軍参謀長は4月30日に、過激派組織「イスラム国」(IS)から、モスルを奪還する作戦が5月中に終了するとの見通しを示唆。奪還作戦が「長くても3週間」で完了するとの見通しを示しました。

イラク軍のモスル奪還作戦は、米軍が主導する有志連合軍の支援を受けています。昨年10月の作戦開始以来、ISにおける大変の支配地域を失っており、現在は北西部を残すのみとなっています。

 写真3 モスルの市街戦

5. OPECとロシアなどが原油減産で合意

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC主要産油国は5月25日に、原油の減産を9か月延長することで合意。昨年11月に成立した減産合意は、世界的な供給過剰の解消や持続的な価格回復を実現できませんでした。

OPEC加盟国とロシアなど非OPEC主要国は、2018年3月までの減産延長に合意。ただ、今回から新たに減産に加わる加盟国はなく、18年の遅い時期までの減産を継続する選択肢も示しませんでした。

6. 原油価格の動き

原油価格を見ておきましょう。代表的な指標の1つであるNYのWTIは、16年2月には月末値でみて1バレル=30.32ドルの安値を付け、その後は回復。OPECロシアなど主要産油国の減産合意もあり、17年2月末には、同52.50ドル迄回復。

 図表2 NY原油価格(WTI)

ただ、今のところ原油価格の反発力は弱く、最近では1バレル=50ドルを下回る点かい。米国のシェールガス企業が増産姿勢を示していることもあり、原油価格の大幅な上昇は見込みにくい情勢。産油国の間では、減産を延長せずに増産に転じれば、原油価格が急落するのではないかとの警戒感もあります。

ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価 平成29年6月9日

前回の財政、政治に続き、リスク要因、課題、為替、株価などを見ます。

1. 人口

ロシア経済にとって、最大の足かせとなるのは人口問題。人口の予測で代表的なものとして、国連人口統計(UN World Population Prospects, 2015Revision)があります。この統計によると、ロシアの人口は、2010年には1億4295万人となっています(図表1参照)。

 図表1 ロシアの人口ピラミッド(2010年予想)

ところが、2050年には1億2618万人と、急激に減少する見込み。

 図表2 ロシアの人口ピラミッド(2050年予想)

更に、全体の人口が減少するだけでなく、年代別の人口構成にも問題があります。一般に14歳以下の人口を幼年人口、65以上を老年人口と呼び、両者の合計が非生産人口となります。これに対して、15-64歳を生産人口と呼び、後者の比率が前者に対して相対的に上昇する局面では、経済が大きく発展することが多いとされています。

2010年で見ると、生産年齢人口1億316万人に対して、非生産年齢人口3978万人で、後者の前者に対する比率は38.5%。これに対して、2050年にはそれぞれ7570万人、5048万人となり、同比率は66.6%へと急上昇する見込み。

ロシアの場合、ウォッカの飲みすぎなどの弊害により、もともと平均寿命は相対的に短いわけですが、人口減少が続く見込み。2000-2010年の人口減少の速度は年平均▲0.23%だったものの、今後は▲0.35%へと加速する見込み。人口が減少する中で、どのように1人当たりGDPを引き上げるかが課題。教育水準は高く、理工系大卒者は世界5位。その一方で設備更新が不十分で、インフラ整備も遅れており、潜在的な国力を十分生かしていないと言えます。

2. 資源への依存

ロシア世界有数の資源大国ではあるが、そのためにかえって、製造業あるいはサービス業などの発展が遅れている面があります。政府の歳入も資源価格頼みであるが、輸出においても資源の比率が非常に高くなっています。

ロシア経済は原油及び天然ガスなど資源に大きく依存しており、国内総生産(GDP)と原油価格がかなり連動していることについては、第1回のレポートで報告した通りです。では、株価との関連ではどうでしょうか。ロシアの代表的な株価指数の1つであるRTS指数と、原油価格の代表的な指標の1つであるNYのWTI先物を比較するとほぼ連動していることが見て撮れます(図表3参照)。

 図表3 ロシアRTS指数とWTI

猶、17年5月25日に、石油輸出国機構(OPEC)はウィーンで開催された総会で、当初17年6月末としていた「協調減産」の期限を、9か月延長することで合意。減産の新たな期限は18年3月末となりました。これに先立ち、サウジアラビアは、ロシアとの間で、原油の減産の延長について合意。OPEC及び非OPECの主要国の間で減産について合意が成立しています。

米エネルギー情報局(EIA)では、原油価格の中期的な見通しについて、ベース・シナリオで年率+2.7%の上昇と予想しています(図表4参照)。米国シェール・オイルは、原油価格が採算レベルと上回ると即座に増産が可能であり、2000年代のような原油価格の急激な上昇は見込めないとしています。

 図表4 EIAによる原油価格見通し

3. 政治的リスク

政治的には、プーチン大統領が今のところ高い支持率を維持しており、国内では大きな波乱要因は見当たりません。ただ、18年3月11日の大統領選においては、国内の景気低迷により、プーチン氏に対する支持率が低下する可能性があり、その場合、同氏が大統領選に出馬しない可能性もあります。

また、外交の面では、米国でトランプ政権が発足したことにより、ロシアに対する欧米の経済制裁の解除の可能性もあるとされました。ただ、米国とロシアとの関係は、米国によるシリア攻撃などにより悪化しており、欧米の経済性は、少なくとも当面、継続すると予想されます。

4. 株価と為替、原油価格

上記の通り、ロシア経済は原油、天然ガスなど資源への依存度が高いため、株価は原油価格にほぼ連動して推移してきました。代表的な株価指数の1つであるRTS指数は、13年以降に大幅下落。15年1月には737.35ポイントの安値を付け、さらに、16年1月には745.30ポイントの二番底を付けました。

ただ、その後は原油価格及び景気の回復とともにRTS指数も反発に転じ、17年に入っても、比較的堅調な展開となりました。

 図表5 RTS指数とロシア・ルーブル(RUB/USD)

通貨ルーブルもほぼ同様の展開。14年以降に対ドルで大幅に下落。15年1月には1ドル=69.20ルーブルの安値を付け、さらに、16年1月には同75.72ドルの二番底を付けました。

このように、ロシアの経済、ひいては株価、為替の見通しについては、依存度の高い欧州経済の動き、あるいは資源価格次第ということになります。景気及び資源価格の回復により、株価と通貨は16年には大幅な上昇となってものの、今後も上昇が続くかどうかは、不透明な情勢であるといえるでしょう。

ロシア経済の展望 (3) 財政、政治 平成29年6月2日

前回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高を見ました。今回は財政、欧米による経済制裁、政治などを見ます。

1. 財政バッファーを温存

ロシアの財政は、かなりの部分を原油及び天然ガスなど鉱物資源に頼おり、原油価格・天然ガス価格低迷により、財政赤字が拡大。2015-16年には、原油価格低迷により、財政赤字が拡大。財政赤字の埋め合わせのために、財政バッファー(基金)の取り崩しが進行。

財政バッファーは予備基金と国民福祉年金に分かれており、予備基金はロシア中銀への外貨建て預金として全額支出目的は、在氏江赤字の補填と、対外債務の繰上償還。国民福祉基金の支出目的は、年金基金の赤字補填と、任意追加保険料の積み増し補助。

17-19年には、歳出削減により、財政赤字を縮小させることにより、財政バッファーを温存させる予定。1バレル=40ドルを想定しており、予備基金は17年途中で底をつくものの、国民福祉基金は17年末時点で430億ドルが残ると想定(図表1参照)。

 図表1 財政バッファーの残高

2. 財政健全化の鍵

ロシアはこのように、財政健全化を図っているわけですが、その鍵となるのは、原油価格、通貨ルーブル、国防費削減。

まず、歳入面では、原油価格とルーブル相場が問題。予算では、1バレル=40ドルを想定。実際の原油価格はこの想定を上回る可能性が高く、財政に対して、増収効果となると予想されます。

16年の財政赤字増加の主な要因は、国防費の増加。16年の国防費増加は、軍産複合体による借り入れ増加に対する政府保証の前倒し履行。政府保証の大勝となっていた債務は1兆ルーブル。このうち17-18年に返済期限が到来する8000億ルーブルの政府保証を前倒して履行。

3. 欧米による経済制裁

ロシアはソ連崩壊、独立国家共同体成立の後、特にプーチン政権になってからは、かつてのソ連の威光回復を目指す動きを強めてきました。特に、ウクライナが親欧州政権となり、北大西洋条約(NATO)に加入すると、ロシアはNATOと国境接することになる為、ロシアはウクライナへの介入姿勢を強めました。

その後、14年のウクライナ政変により、親ロシアであるヤヌコヴィッチ政権が崩壊して、暫定政権が発足。これに対して、ロシア系住民が多数を占めるクリミアでは、一部の住民が抗議し、新政権と衝突。これを機に、ロシアは軍事介入し、住民投票を経て、ロシアはクリミアをロシアに併合しました。

これに反発して、欧州連等(EU)や米国が、ロシアの主要銀行・企業に対する金融取引の制限、軍需技術や汎用品の輸出禁止、北極海・深海大陸棚での油田探査や掘削、シェールオイル掘削に使用される先端技術提供禁止などの経済制裁を発動。ロシアはEUからの農作物禁輸などの逆制裁発動に踏み切り、貿易が減少。

欧米による経済制裁による、ロシア会税は大きな打撃を受けました。特に、西側金融機関のロシア向け与信残高が急減。ただ、ロシア貿易総額に占める格好の割合は、拡大を続ける中国を除いて縮小傾向にありました。また、ロシアへの直接投資(FDI)は、14年の220億ドルから15年には65億ドルに急減。ただ、独・日・英からのFDIは増加。

4. プーチン大統領が高支持率を維持

ロシアでは、2018年3月11日に大統領選挙が予定されています。今のところ、プーチン大統領の再出馬・当選の可能性が高くなっています。ロシアがクリミアを14年3月に併合し、それ以来プーチン大統領派80%超の高い支持率を維持(図表2参照)。16年9月の系ン選挙では、与党の「統一ロシア」が全450議席中、343議席(全体の76%)を獲得して圧勝。

 図表2 プーチン大統領の支持率

5. 反プーチンの動きも

まず、ロシア各地で17年3月以降に、大型長距離トラックの運転手がストライキを展開。政府が15年に導入した通行料金徴収制度「プラトン」の撤廃を主張。同時に政府の「無能ぶり」を糾弾しており、新たな反政府運動に発展しています。

4月17日には、モスクワ東部から約20km離れた大型モールの駐車場で、大型トラック7台がストを展開。フロントガラスには「プラトン撤廃」と書いた横断幕を掲載。警察のパトカー7台が駆けつけて退去を命じたものの、運転手たちは「誰にも迷惑はかけていない」として、押し問答となりました(写真1参照)。

 写真1 運転手にトラックの撤去を命じる警察官

さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた反政府運動も広がりを見せています。野党指導者で著名ブロガーのアレクセイ・ナワリニー氏(40)がネットで呼びかけたことによる反政府腐敗デモは、3月26日にはモスクワを含むロシア全土の主要89都市で開催されました。組織化されていないデモは取り締まるのが困難な面があり、プーチン政権に打撃となりました。

26日午後のモスクワ中心部のベルスカヤ通りでは、デモが始まるとナワリニー氏が、直ちに治安部隊に逮捕されました。ただ、行進は夕方迄継続し、プラカードを掲げるなどして、数百人の市民が拘束されました。

ただ、参加者は一般に通行人と区別がつかず、多くの市民はスマートフォンを掲げて、各所の陳部隊の動きを撮影。デモ隊には、けが人が殆ど出ませんでした。デモのきっかけは、ナワリニー氏が撮影したドキュメンタリー動画。メドベージェフ首相が賄賂で莫大な財産を得たとするもので、ユーチューブでの視聴回数は、1300万回を越えました。

6. トランプ政権による対露制裁解除の可能性は低下

一方、米トランプ大統領は、就任前の選挙期間中から、親露姿勢を強調。ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)諸国と距離を置く姿勢を示し、他方ロシアとの協調路線を示唆。大統領に当選後には、ロシアとの関係が深いとされるティラーソン氏(エクソン・モービルCEO)を国務長官に指名し、トランプ新政権がロシアとの関係修復を図るとの予想が高まりました。

ところが、ロシアとの協調を推進すると見られたフリン大統領補佐官が2月13日に辞任。さらに、シリアが化学兵器を使用したことに対する報復として、米国は4月6日にシリアへの空爆を実施。米露の関係が急速に悪化したことにより、米国による対露制裁解除の可能性は大きく後退しました。

7. プーチン大統領の再選出馬は微妙

プーチン大統領は、今のところ18年3月11日の大統領選に出馬するとみられるものの、出馬は微妙であるとの見方もあります。確かに、ロシアによるクリミア併合以降、同氏への支持率は高止まりしているものの、ロシア国内では貧困層の比率が上昇。さらに、貧富の格差を示すと言われるジニ係数も上昇。特に若い世代は豊かさを実感していないとされ、プーチン氏の政権地盤は、必ずしも盤石とは言えないとの見方もあります。

次回は、リスク要因、課題、為替、株価などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利 平成29年5月26日

前回は他のBRICs諸国との成長率・株価の比較、経済構造の特徴などを見ました。今回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高などを見ていきます。

1. 10-12月期GDP成長率は+0.3%

ロシア連邦統計局が3月31日発表した統計によると、10-12月期国内総生産(GDP)は、市場の予想通り、前年同期比+0.3%(図表1参照、速報値)。昨年10-12月期の▲0.4%からプラス圏に浮上しました。7四半期にわたるマイナス成長から脱却。16年通期では▲0.2%で、速報値から変わらず。

 図表1 ロシアの四半期成長率(前年同期比)

2. インフレ率が鈍化

国家統計局から5月5日発表された4月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+4.1%と、前月の+4.3%からさらに鈍化(図表2参照)。市場予想の+4.2%から下振れ。12年5月以来の低水準。前月比は+0.3%で、前月の+0.1%から加速。

 図表2 ロシアの消費物価指数前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き下げ

一方、ロシア中央銀行は4月28日に政策決定会合を開き、主要政策金利である1週間物レポ入札最低金利を▲0.5%引き下げて9.25%にすることを決定(図表3参照)。市場では概ね▲0.25%ポイントの利下げを見込んでいたため、予想を上回る下げ幅となりました。3月に続いての連続の利下げ。

 図表3 ロシアの政策金利

マビウリナ中銀は先週に、インフレ率が目標とする+4%に接近したため、▲0.25-0.50%ポイントの利下げが協議される可能性があると発言。政策金利のガイダンスを示唆。市場では、年末までにロシアの政策金利は8.5%までの低下を見込んでいます。

4. 成長率と財政収支

2008年のリーマンショックの前、すなわち金融危機の前の時期である2003年から2008年前半については、天然ガス、原油など資源価格上昇により、輸出、個人消費、固定資産投資が拡大。年平均で+7.8%の高成長を遂げました(図表4参照)。

しかし、2008年9月のリーマンショック、2008年後半から2009年にかけての資源価格の下落により、輸出・所得が減少し、個人消費など内需が後退。また、財政収支も悪化し、GDP比の政府債務も拡大。2010年以降やや景気が持ち直したものの、12年は+3.5%成長にとどまりました(IMFによる)。その後、原油、原燃ガスなど資源価格の下落により15-16年にはマイナス成長に陥りました。それとともに、財政収支も再び悪化しました。

 図表4 成長率とGDP比財政収支

5. 金融市場の過度の悲観論が後退

財政収支は、主な収入源である原油、天然ガスの輸出・採取税の落ち込みにより、15年に悪化。16年にはGDP比で▲3.12%まで落ち込みました(図表4参照)。ただ、原油価格高騰時に蓄えた予備資金の取り崩しにより、財政の埋め合わせを行いました。

一方、15年の貿易・経常収支は欧米による制裁に対抗して、欧州からの農作物の輸入を制限したことなどにより、黒字を維持。資本収支移転は▲333億ドルの赤字となるも、改善傾向にあります。

これにより、原油・天然ガス価格の下落により一時枯渇が心配された外貨準備高もほぼ横這いで推移。対外債務残高も減少に転じました。これにより、14年以降のインフレ率上昇、原油・天然ガスの輸出の不振、GDPの下振れなどによる混乱からは、ひとまず脱却しつつあると言えます。

次回は、財政、欧米による経済制裁、政治などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (1) 経済の構造 平成29年5月19日

ウクライナ問題を契機とした欧米諸国による経済制裁、原油価格の低迷により、ロシア経済は昨年までは低迷していました。このところ、景気にはやや明るい兆しも見えます。ロシア経済を展望します。

1. ロシアの基礎データ

ロシアの面積は約1,707万km2。2位のカナダの998万km2を大きく上回っており、世界第1位。日本の45倍、米国の2倍近い。また、人口は1億4441万人(2015年)で、世界9位(図表1参照)。宗教はロシア正教が多いものの、イスラム教、仏教、ユダヤ教徒などもいます(以上、日本外務省による)。

ロシアは広大な領土に豊富な資源を有しており、また強力な軍事力を背景に、外交・政治的にも大きな影響力を誇っています。国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、シリアに対する国連の制裁について、中国と共に反対しています。国連の常任理事会では、欧米諸国と対立する場面が増えています。

 図表1 世界人口ランキング・国別順位(2015年)

2. 政治体制の特徴

ロシアでは、大統領に権限が集中しています。大統領は直接選挙で選ばれ、1期6年、連続2期まで務めることが可能。首相の任免権を持っており、首相提案に基づき、副首相、閣僚を任免し、大統領府、安全保障会議を組織し、内外政策の基本方針を策定します。また下院の解散、上院議員の解任を行うことができ、採択された法案を拒否することもできます。その他、憲法裁判所、最高裁判所の裁判官、中央銀行総裁の人事を提案することにより、事実上の任免権を握っています。

12年3月4日における大統領選挙までは、メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭制という変則的な体制でした。同選挙でプーチン首相(当時)が6割超の得票で大統領に返り咲き。メドベージェフ首相の影響力が後退し、Putin大統領の権限が強まりました。

3. BRICs諸国との成長率の比較

ではここで、ほかのBRICs諸国及び日本と対比して、ロシアの成長率について見ましょう。IMF(国際通貨基金)が17年4月に発表した「世界経済見通し(World Economic Outlook)」では、15年のロシア成長率予想は▲2.8%、16年が▲0.2%と、マイナス成長に沈みました(図表2参照)。同じく資源国であるブラジルも15-16年にはマイナスに落ち込んでおり、原油など資源価格の低迷が影響しました。インド、中国は相対的に好調。ロシアは、17年には+0.165%と、やや回復する見込み。

 図表2 BRICs諸国及び日本の成長率予想

4. 経済構造の特徴

ロシア経済の特徴として、資源と欧州への依存度が高いことがあります。まず、輸出においては、原油、天然ガスなど資源が約7割を占めています。そのため、経済の成長も、資源価格の影響を強く受けています。原油価格と国内総生産(GDP)の推移をみると、図表3の通り。

13年末には、NYの原油の代表的な指標であるWTI先物価格は、1バレル=97.90ドルでしたが、その後大幅に下落。15年末には同37.19ドルまで落ち込み、それとともにロシアのGDPも大きく下落。その後は、16年末の同51.97ドルまで回復。

また、輸出の5割超がEU(欧州連合)向けであり、ユーロ圏向けは4割。原油のほか、天然ガスは欧州向けのパイプラインが敷設されており、欧州との結びつきが強くなっています。そのため、ロシアの景気は、欧州の景気動向に大きく左右される傾向があります。

 図表3 ロシアGDPと原油価格(WTI先物)

5. 先進国と新興国の株価の動き

では、15年末との比較で、BRICs諸国及び日米の株価の騰落率はどうでしょうか。15年末と今年の4月末日終値で比較すると日本が▲1.0%、米国が+19.0%(図表5参照)。BRICs諸国では、非資源国である中国が▲11.7%、インドが+15.2%。中国では、投資家の資金が主に不動産に向いているため、株式市場はこのところ活気に欠ける展開。

一方、ロシアは+44.2%と大幅高。ウクライナ問題に端を発する欧米の経済制裁が継続しているものの、原油価格の回復を好感。同じ資源国であるブラジルも+50.9%と大幅高。ブラジルの景気も低迷しているものの、今後の景気回復を株価が先取りする動きであると言えます。

 図表4 日米BRICs諸国の株価騰落率(2015年末と17年4月30日の比較)

次回はロシアの成長率、金利、失業率などを見る予定です。

トランプ政権誕生と中東諸国 平成29年5月12日

チュニジアが発端となった「アラブの春」。「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約6年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権誕生と中東諸国の情勢について見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権誕生と中東への関与

米第45代大統領のトランプ氏は、就任前の選挙期間中においても、中東について余り言及していませんでした。イスラム国(IS)からの移民の流入を制限する考えを示唆してはいたものの、中東諸国に対して具体的にどのように関与するのか、明示していませんでした。

1月21日の就任演説においても、「文明世界を一致団結させ、イスラム過激主義のテロと戦う」と述べただけで、具体策は示しませんでした。また、ホワイトハウスのウェブサイトにおける補足説明では、軍事作戦、資金途絶、情報共有、宣伝・勧誘阻止により、ISなどを破壊するとしました。

3. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

4. IS(イスラム国)掃討作戦を強化

トランプ政権は、中東においては特にイラク、シリア、イエメン、ソマリアを重視しているとみられます。イラクとシリアではISの勢力が強く、イエメン、ソマリアではアルカイダ系の組織が跋扈しています。アラビア半島から欧州に物資を運搬するにはアデン湾とバブエル・マンデブ海峡があり、地政学上重要な地域となっています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ政権は特にIS(イスラム国)の壊滅を優先させており、イラクではISの発祥の地であり、イラクの第二の都市であるモスル奪還作戦が進行しています。既に東部はイラク軍が制圧しており、西部にも侵攻。2月24日にはイラク治安部隊がモスル西部に入り、旧市街のモスクに進撃しました。

ただ、西部の旧市街は道が狭く洗車が入りにくく、地元住人を「人間の盾」としており、犠牲者が出やすい状況にあります。米国主導の有志連合による爆撃で多数の民間人が死亡したこともあり、慎重な戦略をとっています。

3月20日には、トランプ大統領はイラクのアッバス首相をワシントンに招き、その後に68か国が集まる閣僚級会議を開催。IS掃討に向けて、最終的な軍事作戦の協議などを行いました。ただ、モスルを奪還しても、ISの戦闘要員が地下に潜る可能性もあり、IS国をイラクから直ちに一掃することになるかどうかについては、予断を許しません。

 写真2 イラク・モスル東部で、ISからの奪還作戦中に子供にキスする兵士

5. イランとの緊張が高まる

トランプ政権は、サウジアラビア、あるいはエジプトなどとの関係の修復を進める一方、イランに対しては敵対する政策をとっています。トランプ氏は選挙期間中から、イランと米欧など6か国による核合意について「イラン核合意は私が今までに見た最もばかげた取引の1つ」と酷評。

ロンドンを訪問したマティス米国防長官は3月13日に、12年に行った「米国の直面する3つの脅威はイラン、イラン、イラン」であるについて問われ、「イランはテロ輸出国として行動し続けており、依然として戦闘活動をサポートしている」都市、イランがテロを支援していると非難しました。

一方、イラン内務省は5月19日に予定される大統領選の最終候補者6人を発表。保守穏健派の現職ロウハニ大統領の他、ハメネイ師に近いとされるリアシ前検事総省、前回に時点であったガリバル・テヘラン市長らが認められました。ハメネイ師の助言に逆らって出馬表明したアハマディネジャド前大統領は認められませんでした。

当初はロウハニ大統領の再選が確実視されていたものの、米国がイランに対して強硬姿勢を撮っているため、保守強硬派が勢いづき、接戦になる可能性もあります。これに先立ち、イランのロウハニ大統領はロシアを訪問。プーチン大統領と会談。プーチン大統領派ロウハニ大統領に「イランは良好な隣国で安定し信頼に足りるパートナー国家である」としました。

6. シリアでの混乱が継続

トランプ政権は、当初はロシアを強調してシリアの解決に当たる姿勢をとっていました。ところが、シリアが化学兵器を使用。これに基づきトランプ大統領はシリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃。ロシアとの関係が一挙に悪化しました。

トランプ大統領は4月6日に記者会見し、アサド・シリア大統領が罪のない市民に対して恐ろしい化学兵器を使用したとして非難。化学兵器を使用した攻撃の拠点であるシリアの飛行場に対して軍事攻撃を支持したと述べました。

これに対して、ロシアはイラン、トルコとの関係を深め、シリアの停戦を主導しようとしています。ただ、停戦が発効しても実際にはシリア政府軍による反政府軍への攻撃が継続。また、米国がシリア内のクルド人勢力に対して武器を供与したことに対して、トルコが反発。シリアを巡る混乱は一層深まっている感があります。

ただ、石油輸出国機構(OPEC)による石油減産の継続の見通し、それへのロシアなど非OPEDC国の協調、シェールガス増産の見通しなどもあり、原油価格は今のところ安定しています。今度の日程では、イランの大統領選が最も注目されています。

IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し 平成29年5月5日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、物価、金利について報告しました。今回は、景気見通しについて。

1. 景気見通しの基となる主な要因

景気見通しの主な要因はある程度、先進国と新興国及び発展途上国の間の違いにあります。先進国の中では、財政支出拡大で米国の景気が上向く見込み。欧州では、08-09年及び11-12年の危機からの回復により、特に欧州では今後数年で、循環的な回復を見込んでいます。ただ、中期的には人口要因と生産性の弱い傾向が成長を抑制する見込み。

新興国の中で、特にエネルギーと金属の輸出に依存している国では、商品市況の低迷が、短期及び中期の景気見通しに最も影響しています。ここ数年の生産性の伸びの低迷が、多くの新興国及び発展途上国にとっては課題となっています。

2. 先進国では循環的回復が継続

多くの先進国では、08-09年及び11-12年の危機からの回復が継続。多くの国において生産は依然として潜在力からを下回っています。多くの国で、特にユーロ圏では失業率が11-12年の水準と上回っています。バランスシート調整のため、多数の国で景気回復は緩慢。

多くの先進国では、今後数年にわたり、景気回復と生産ギャップの縮小により成長率は潜在成長率をやや上回る見通し。16年の成長率が予想を上回り、循環的景気回復が強まっている可能性があります。成長率は生産ギャップの大きい国、特に欧州において予想を上回ったと見られます(図表1参照)。バランスシートの回復と需要の下支えにより、生産設備が過剰である国における景気回復が強まる見込み。

 図表1 16年の成長率改定と15年の生産ギャップ

3. 新興国と発展途上国における交易条件の調整

中国の景気減速と商品価格の変動が、新興国と発展途上国で、特に資源輸出国においては成長率の主な牽引の要因となって来ました(図表2参照)。中国の成長率と資源輸出国及びその他の非商品輸出国の成長率は、原油価格下落により資源輸出国の成長率が低下し始める2011年までは、ほぼ同様でした。

 図表2 新興国と発展途上国の成長率

新興国と発展途上国の2011年から2016年までの成長率の低下のうち、3分の2は資源輸出国の低下に原因があります(図表3参照)。残りは中国及び他の新興国・発展途上国の減速が占めています。

17-19年における成長国の成長率の加速のほとんどは資源輸出国によるもの。もっとも、その成長率の回復は、過去5年間の急激な成長率の落ち込みと比較すると、比較的緩やか。

 図表2 新興国成長率変化への寄与の要因

4. 17-18年世界景気見通し

世界経済の成長率は、+3.1%と予想されている16年から、17年の+3.5%及び18年の+3.6%へと加速する見通し。先進国における予想を上回る回復と、一部の新興国における予想を下回る経済活動により、17-18年における予想では、昨年10月時点のIMFによる17-18年は以前の想定よりも成長が加速し、新興国では弱含む見通し。

5. 中長期の見通し

中長期的な世界経済の成長率は、18年以降にはわずかに加速し、2022年までには+3.8%に到達する見通し。この成長率の加速の原因はすべて、新興国と発展途上国の成長率がこの期間の終わりまでに+5%へと加速することによります。

これら諸国の経済の世界経済への影響は、世界におけるその比率が高まることで押し上げられます。この予想は資源輸出国の成長率の上昇によるものであり、もっともその成長率は2000-15年におけるよりははるかに緩やかであると予想しています。

6. 先進国の見通し

米国の成長率は、17年に+2.3%、18年に+2.5%へと加速する見通しで、16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

ユーロ圏の17-18年の成長率は、16年とほぼ同水準の見通し。緩やかな景気回復は、緩やかな拡張姿勢の財政、穏やかな金融環境、弱いユーロ、それと米国の財政刺激策による影響のため。いくつかの国における選挙の不安定要因、英国とEU(欧州連合)の関係が景気の重石となる見通し。成長率は、17年が+1.7%、18年が+1.6%の予想。

英国は17年が+2.0%、18年が+1.5%の見通し。17年の+0.9%ポイントの上方修正と18年の▲0.2%ポイントの下方修正は、6月英国のEUからの脱退後の予想を上回る景気によるもの。離脱は以前の予想よりも、漸進的なものとなる見込み。

日本では、統計の見直しにより16年の成長率は+1.0%と、16年10月時点のIMF予想からはお大幅に上方修正。16年における輸出の勢いの高まりは、17年にも継続する見込みで、17年の成長率は+1.2%の予想。

7. 新興国の見通し

中国の成長率は、17年に+6.6%で、18年に+6.2%へと減速する見通し。16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

16年10月時点からの17年の+0.4%ポイント及び18年の+0.2%ポイントの上方修正は、16年の予想以上の勢いと、経済目標達成のための信用の伸びと公共投資への依存を反映しています。

インドの成長率は17年が▲0.4%の下方修正で+7.2%。昨年11月の高額紙幣廃止の影響による現金の不足による一時的な消費の停滞が主な要因。中期的予想は+8%と好調な見通しで、構造改革の実施、供給のボトルネックの解消、さらに適切な財政及び金融政策が要因。

資源輸出国の中では、ブラジルが大幅な景気後退から回復し、17年が+0.2%、18年が+1.7%の予想(それぞれ、16年10月予想から▲0.3%ポイントと+0.2%ポイントの改定)。政治の不安定要因の後退、金融緩和、改革の進展が下支えしています。

独立国家共同体の見通しは改善し、17年が+1.7%で10月時点予想からは+0.3%の修正。ロシアはリセッション(景気後退)から回復し、17年は+1.4%(過去2年間は累計で▲0.3%の景気後退)、景気の回復は、堅調な原油価格と、金融環境の緩和と消費者信頼の回復による国内需要の回復によるもの。もっとも、改革の遅れ、1人当たり国民所得の先進国並みへの上昇の遅れにより、ロシアの潜在成長率は+1.5%に留まっています。

IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利 平成29年4月28日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、各国の成長率予想、生産、貿易について報告しました。今回は、物価、金利などについて。

1. インフレ率はやや上向く

商品市況が上向いたことにより、世界のインフレ率も上昇(図表1参照)。世界の生産者物価指数は特に急激に加速。これは、消費者物価指数と比べて生産者物価指数においては商品の比重が高く、また商品を直接生産に投入するため。

特に中国の生産者物価指数は、数年にわたるデフレ(価格下落)からプラス圏に浮上。原料価格の上昇と過剰生産能力の削減、不動産投資の回復によります。

ガソリン小売価格の上昇とその他エネルギー関連製品価格の上昇により、世界の消費者物価上昇率もやや上向いています。特に先進国においては堅調で、2月には+2%をわずかに上回りました(16年の年間上昇率+0.8%の2倍以上)。

 図表1 世界のCPIとPPI

対照的に、コア・インフレ率は殆どの先進国で中央銀行の目標値をはるかに下回っています(図表2参照)。新興国では、燃料価格の上昇がやっと最近になって早い時期の為替レートによるデフレ圧力を上回るようになったため、総合消費者物価指数の回復はもっと最近のことです。

 図表2 世界の総合・コアCPI

短期及び長期のインフレ期待も抑制されたものとなっています。先進国においては、インフレ期待の鈍化はごく最近になって下げ止まっています。10年後インフレ期待は15年及び16年の低下の後、最近になって上向いています。

2. 金融市場

米国における金融刺激策、インフラ投資の拡大、規制緩和により、8月以来市場のセンチメントは強くなっています。将来の需要増大によるインフレ圧力の高まりと米国の金融政策の正常化の加速により、米国では8月以来、特に11月の大統領選後に長期名目及び実質金利が大幅に上昇(図表3参照)。

 図表3 先進国の金融市場

3月末には米国10年国債の名目金利は8月と比較して+0.85%ポイントの上昇。11月の大統領選挙の前との比較でも+0.55%ポイント。英国も米国における長期金利上昇の予想などを反映して長期金利が上昇。

ユーロ主要国における長期金利の上昇は8月以降に緩やかなものにとどまっており、ドイツにおいては+0.40%ポイント。但し、イタリアにおいては、政治及び銀行セクターにおける不安定さの高まりにより、+1.20%ポイントの大幅上昇。

米連邦準備理事会は16年12月と17年3月に短期金利の利上げを実施。市場では、17年末と18年初めに追加利上げを織り込んでいます。そのほかの多くの先進国では、金融政策は概ね維持されています。

3. 株式市場は堅調

消費者信頼感の高まりとマクロ経済指標の好転により、先進国においてはここ数カ月で株価が大幅に上昇(図表4参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。

利回り曲線のスティープ化(長期金利の上昇)、集積性拡大への期待、米国における金融規制の緩和への期待により、金融セクターの株式のバリュエーションが上昇。

 図表4 先進国の株式市場

4. 米ドルが堅調

米国の利上げにより、利回り格差が拡大し、ドルの実質実効為替レートは16年8月から17年3月にかけて約+3.5%の上昇(図表5参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。一方、ユーロと特には弱含みました。

 図表5 先進国の実質実効為替レート

新興国の金融市場は区々の動き。特に東欧では、米国の11月の選挙の後には長期金利が上昇し、その後は下落。政策金利の動きも区々であり、メキシコ、トルコが利上げし、ブラジル、インド、ロシアが利下げ。

新興国における株式市場と経済は8月以来上昇。米国の11月の選挙後には弱含んでいたものの、今年に入って力強く回復。ただ、金融危機後のピークである2011年を、多くの国で下回っています。

トルコではここ数カ月で通貨が大幅に下落し、マレーシア・リンギットも小幅下落。一方、資源輸出国のうちロシア・ルーブルは大幅上昇。メキシコ・ペソは米大統領選後には大幅下落。ただ、その後は回復し、直近では昨年8月とほぼ同水準。米選挙後には海外投資家の資金が新興国から流出し、その後は流入に転じました。

次回は、景気見通しなどを見る予定です。

IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易 平成29年4月21日

IMFが世界経済見通しを改定しました。

1. 世界の成長率17年を+3.5%に上方修正

国際通貨基金(IMF)は18日に、世界経済見通しを改定し、17年の世界経済の成長率見通しを+3.5%と、今年1月時点の予想から+0.1%ポイント上方修正(図表1参照)。17年については+3.5%で維持。17年については、先進国経済の好調などにより、基調が上向いているとしています。

 図表1 IMFの世界経済見通し

16年の後半には特に先進国の経済活動が上向いたとしています。米国では企業の将来への信頼感が上向き、在庫は5四半期連続のマイナスの寄与の後にプラスに転じました。英国では6月のEU離脱の国民投票の後には消費が堅調。輸出により日本の経済活動が活発化し、ドイツ及びスペインにおいても、堅調な内需が寄与しました。

新興国は区々の動き。中国の成長が政策の下支えにより堅調である一方、インドとブラジルでは為替の影響により景気が後退。商品の輸出は引き続き軟調であるものの、中東とトルコでは地政学的リスクが好転。

2. 生産が活発化

16年後半には、堅調な世界に需要、特に投資の強さにより、製造業と貿易が急速に回復。製造業と貿易は15年及び16年前半には弱い数字でした(図表2参照)。

 図表2 世界の貿易・鉱工業生産・製造業PMI

耐久消費財と資本財の生産が、16年後半には回復(図表3参照)。中国におけるインフラ及び不動産投資に下支えられた世界の投資の緩やかな回復、消費価格低迷による調整の弱まり、米国の在庫循環の終了などが寄与しました。製造業購買担当者指数など先行指標は、17年においても製造業の活動が活発であることを示唆しています。

 図表3 世界の耐久消費財の生産

3. 貿易が活発化

生産活動の活発化に伴い、世界貿易も長く続いた弱い時期から回復の兆しを見せています(図表4参照)。貿易の伸びは、特に投資の動きと密接に関連しています。16年においては、特に資源輸出国において投資と貿易とに強い相関関係が見られました。商品市況がやや回復したことに下支えられ、これら資源輸出国のマクロ経済が落ち着きを取り戻し、17年においても輸入と投資の緩やかな回復が続くと見られます。

 図表4 世界の輸入

4. 商品市況が回復

経済活動の活発化に伴い、消費市況も強含みました。IMFによる主要商品指数は16年8月から17年2月には+15%上昇しました。

 図表5 実質商品価格指数

特に燃料が強含み。16年8月から17年2月には原油価格は約+20%の上昇。石油輸出国機構(OPEC)が原油の減産に合意したことなどが要因。天然ガスは同じ期間に+19%の上昇。欧州では、天然ガスは原油につれ高しました。石炭二ついても同様に、豪州及び南アフリカの価格が同じ期間に+20%以上上昇。

燃料以外では、金属と農産物も上昇。金属価格は中国における不動産価格の増加と生産設備削減と、米国における財政政策の緩和に下端さえられ上昇。農産物では、供給過剰の緩和により、食品価格が+4.9%の上昇。特に、穀物、野菜、油が上昇。米とココア豆などの一部例外を除いて価格が上昇しました。

次回は、物価などを見る予定です。

混乱の続くトルコ 平成29年4月14日

国民投票を控えたトルコの情勢を見ましょう。

1. 政治・経済が不安定化

昨年来、トルコでは政治、経済両面で投資家を不安にさせることが相次いでいます。政治の面では、2016年7月に軍の一部がクーデター未遂事件を起こしました。反政府的とされる米国在住のグレン氏につながるとされる公務員、軍人、その他民間ジャーナリストなどが多数拘束されました。その後もトルコ国内では、イスラム系過激派組織であるISやクルド人系のテロが多発。

最近では、ドイツがトルコ系住民の集会を禁止したことやオランダがトルコの外相の入国の拒否したことにより、トルコのエルドアン大統領が猛反発。シリア系難民の欧州連合(EU)流入に関して一時は補償を合わせていたトルコ、EUの見解も微妙になっています。

経済の面では、大幅な経常赤字とそれを短期的な借り入れで補う不安定な構造、外貨準備の不足、それによる通貨リラの大幅下落、国内総生産(GDP)成長率の低下があります。不安定な通貨などを背景に、投資家のトルコからの離反が目立っています。

2. 11月CPI上昇率は+7.0%

ここで、物価、金利などを見ておきましょう。トルコ統計機構(TUIK)は4月3日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+11.29%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.13%から加速し、2008年11月以来の高水準となりました。食品、家賃の上昇などが主な要因。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き上げ

一方、トルコ中央銀行は3月16日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「後期流動性貸出金利」を0.75%引き上げて11.75%としました。同金利の引き上げが2会合連続。

主要な政策金利である翌日物貸出金利は9.25%に据え置き。中銀は16日の声明で、「インフレ見通しの悪化を封じ込めるために金融引締の強化策を決めたとして、1月会合と同じ文言を使用しました。

 図表2 トルコの政策金利

4. 7-9月期▲1.8%成長に低迷

他方、トルコ統計局が12月12日に発表した16年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比▲1.8% (図表3参照)。今年4-6月期の+3.1%から大幅に低下。四半期の成長率がマイナスとなるのは、09年7-9月期以来7年ぶり。7月のクーデター未遂事件の影響により、消費や生産が落ち込みました。

 図表3 トルコ四期成長率(前年同期比)

統計局は今回の発表から物価の影響を除く際の計算方法を国際基準に合わせて改定し過去発表の分も遡って修正しました。

経済の拡大を牽引してきた個人消費は▲3.2%。企業の設備投資を含み総固定資本形成は▲0.3%、輸出も▲7%と、ともに不振でした。

5. 大統領権限強化を目指す憲法改正について国民投票

従来、トルコでは、大統領職は名誉職的なものであったわけですが、エルドアン氏が大統領に就任して以来、同氏は意中の人物を首相あるいは閣僚に任命するなどして、自身の権限を強化してきました。

今回の憲法改正案では、大統領の役割が従来の国家元首に加え、副大統領は閣僚の任免を通じて行政府の長も兼ねることとなります。それに伴い、首相職は廃止。予算案の作成を大統領が行うほか、大統領の法案拒否権を覆すには、絶対多数が必要となります。

ただ、各種世論調査では、憲法改正への賛否がともに4割前後で拮抗。エルドアン氏は、東南部のクルド人や都市部の票の掘り起こしを懸命に行っています。これまで与党・公正発展党(AKP)ヲ指示してきた有権者の一部も、大統領の権限強化に疑問を持っています。

もし憲法改正が実現すると、旧憲法下での大統領の人気は計算に入らないため、エルドアン氏は19年11月の大統領・議会同日選をへて、最長で20029年まで大統領職にとどまることが可能となります。

6. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続し、15年末から今年3月まででは▲25.0%の大幅下落。16年12月末から今年3月まででも▲3.4%と続落。

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は13年に大幅下落したものの、14年には反発。その後はボックス圏の動き。15年末から今年3月まででは+24.0%の大幅上昇。16年12月末から今年3月まででも+13.8%と堅調。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

7. リスク要因と課題

短期的には、憲法改正案が可決されれば、トルコの政局が安定するとして通貨リラが買われ、逆に否決されればリラが下落すると予想されます。

ただ、長期的には、構造改革に取り組まなければ、成長はおぼつかないということになります。低い貯蓄率とそれに伴う投資の不足、製造業の未発達、経常赤字、財政赤字、恣意的な政治など、これらの問題を解決しなければ、海外からの投資も伸びず、今後の政調もあまり期待できないことになります。国民投票後に、エルドアン大統領が本気で構造改革に取り組む姿勢を見せるかどうかに注目する必要があります。

インド経済の見通し(4) リスク・課題 平成29年4月7日

前回の物価、金利、四半期成長率、為替、株価に続いて、今回はインド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレ懸念が後退

インドにおいは、長期間にわたり、インフレ率抑制がインド準備銀行(中央銀行)大きな課題となってきました。現在は消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が、中銀にとってのインフレ目標となっています。昨年9月にラジャン総裁が退任したことに伴い、ウルジット・パテル副総裁が昇格。同新総裁は、インフレ目標である+4%±2%を引き継ぎました。ただ、緩やかに解釈していると見られます。

インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率は引き続き低い水準にとどまっており、インド経済にとっては今のところ余りリスクにはなっていないと考えられます。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では 14年に国内総生産(GDP)比▲6.6%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 製造業が未発達

インドでは伝統的に理数系に強い人材が多く、「0」もインドで発見されたと言われており、IT、コンピュータなどに強いと言われています。IT、あるいはBPOが発達しており、これが上記の通りサービス収支黒字の原因となっています。ただ、製造業については、未発達であり、第二次産業よりもサービス業中心の経済であると言えます。

一方、インド中央統計局は10日に、同国の1月の鉱工業生産が前年同月比+2.7%だったと発表。市場予想の+0.5%から上振れし、12月の▲0.1%から反発(図表4参照)。同指数はサービス業を含んでおらず、依然として製造業は低調。

 図表4 インドの鉱工業生産指数(前年同月比)

一方、インド自動工業会(SIAM)の10日発表よると、2月のインド新車販売台数は、前年同月比9%の32万2298台。昨年11-12月には高額紙幣の廃止により販売が落ち込んだものの、影響が収束しつつあり、四輪車市場は堅調な伸びとなりました。インド中銀は中立的な金融施政を撮っており、自動車販売にはプラスに働く可能性があります。ただ、中長期的には、製造業を育成していくことが政府にとって課題となっています。

5. インフラ整備、規制緩和

インドは中国に匹敵する人口を抱えており、しかも人口構成はかなり若く、消費、生産の両面において大きな可能性を持っています。そのため、日本及び欧米企業のインドへの関心は高く、日本からは自動車メーカーの現地生産への進出、製薬会社の現地企業買収などが進んでいます。

ただ、海外からの直接投資はまだまだ進んでおらず、その大きな要因となっているのはインフラの未整備です。財政赤字による制約がインフラン未整備の一員となっていますが、鉄道、道路、空港、電力などの整備が待たれており、モディ新首相への期待も高まっています。

インフラの未整備と共に、経済の発展を妨げているのが、政府による過剰な規制、法の未整備、複雑な税制などです。たとえば、建築、土地再開発に関する規制が厳しすぎるため、オフィスの供給量が極端に少なく、オフィス賃貸料の高騰の原因となっています。

このほか、金融・小売りなどの規制緩和もあまり進展していません。インドでは小規模な商店が多いため、外資系のデパート、スーパーなどの進出が規制されています。インド政府は、地場の中小・零細小売業者を保護するため、外資企業の小売り参入を厳しく制限しており、近代的な小売市場の発展を妨げています。

6. インド経済の展望

インドでは3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。モディ首相への権限の集中が進むことにより、改革への期待が高まっています。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価 平成29年3月31日

前回の政治に続き、今回は物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。前月の+3.17%から鈍化。市場予想の+5.58%からも上振れ。食品価格上昇率は、前月の前年同鉄日+0.53%から3月には同+2.01%に加速。

 図表1 下院の党派別議席数

2. 7-9月期成長率+7.3%に加速

続いて、インド統計局が12月12日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+7.3%(図表2参照)。前期の同+7.1%からは加速したものの、市場予想の+7.5%は下回りました。

需要項目別では、民間消費と政府消費が景気の牽引役となっています。GDP(国内総生産)の約6割を占める民間消費は、同+7.6%(4-6月期+6.7%)と加速。政府消費は同+15.2%と、4-6月期の+18.5%から減速したものの、公務員昇給の影響により、2期連続の2桁増加となりました。一方、総固定資本形成は同▲5.6%と、減少幅が拡大。

 図表2 インドの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を据え置き

他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを6.25%に据え置くことを決定(図表3参照)。市場では▲0.25%の利下げを予想する向きが多かったわけですが、予想に反して中銀は金利を据え置いて、更に2015年1月以来の金融緩和姿勢を「中立」に変更しました。

 図表3 インドの政策金利

上記の通り、2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率が沈静化していることも、金利据え置きの要因となっています。

米国の大統領選ではトランプ氏が当選し、公共事業の拡大などを打ち出しています。そのため、米国の長期金利が上昇し、新興国から資金が流出。それに伴いインドの通貨であるルピーも対ドルで下落。中銀としては、物価上昇の懸念もありました。今後、中銀は、物価、景気などの動向を見ながら、金利政策について判断していくものと思われます。

4. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、13-14年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。インドは経常赤字、財政赤字が大きいことから、ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に、13年は「脆弱5か国(fragile 5)」と呼ばれました。ただ、16年は通年で▲2.66%の下落にとどまりました。新興国からの資金流出が一巡したことなどによります。17年2月現在では、昨年末比で+1.86%と小幅反発。

株価は13-14年には大幅上昇。中国などで景気の減速感が強まる一方、相対的にインドでは景気が順調。原油価格など資源価格画下落し、資源輸入国であるインドの株価が買われました。

15年に入ると、米国の金利上昇などにより株価は下落。ただ、16年に入ると、新興国からの資金流出が一段落し、インド国内の景気が堅調であったことなどにより、16年には株価指数の1つであるSENSEX30は、通年で+1.94%と、ほぼ横這い。17年2月末には16年12月末比で+7.3%とやや反発。インド国内の政治の安定などが好感されています。

 図表4 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

インドでは、モディ政権が昨年11月に突如として、500ルピー札と1000ルピー札の高額紙幣を廃止。不透明な資金に対する取り締まりの姿勢を好感して、その後の地方選でモディ首相率いるBJPが大勝。インドでは、上院の議席は地方の議席に比例するため、上院でも与党BJPが第一党となり、モディ首相が改革を進めやすくなっています。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

インド経済の見通し(2) 政治 平成29年3月24日

前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ氏が14年総選挙で勝利

14年5月16日に行われた総選挙では、ナレンドラ・モディ氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝。543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得。グジャラート州首相のモディ氏(63)が首相に就任することになりました。BJPを中心とする野党連合は、336議席を獲得しました(図表1参照)。

一方、これまで2期にわたり政権を担ってきた国民会議派は44議席で、同党を中心とする与党連合の統一進歩同盟は60議席にとどまり、過去最悪の結果。このほか、地域政党他が137議席となりました。シン前首相は、モディ氏とBJPの勝利を称賛。モディ氏は「インドの勝利だ」と述べました。

 図表1 下院の党派別議席数

一方、上院ではBJPは連立を組む政党と合わせても3割に満たず、少数派にとどまっています(図表2参照)。BJPが上院に法案を提出しても、国民会議派など野党の執拗な抵抗にあい、可決に足らないケースが相次いでいます。

上院は、州議会による間接民主制に基づいています。 BJPは下院では過半数を占めているものの、州議会レベルでは、少数派にとどまっていることが少なくありません。また、14年5月の総選挙後も、BJPは地方選挙で必ずしも勝利を収めていません。たとえば、15年11月に行われた東部ビハール州議会選挙ではBJPは30議席減らして58議席にとどまり、国民会議派など反BJP連合の178議席に対して、大敗しました。

 図表2 上院の党派別議席数

2. 14年5月政権誕生後の主な改革

政権誕生後の改革としてはまず、統治機構について、首相府権限の強化、閣僚数の削減を実施。さらに、インド改造評議会(NITI Aayog)を設立。経済改革としては、国民皆銀行口座制度を実施。

投資環境の整備については、外資規制の緩和、具体的には鉄道インフラの100%開放、建設について面積、投資金額などの要件を緩和、保険の出資比率の引き上げ(26%→49%)。労働改革としては、各種許認可申請のオンライン化、工場査察プロセスの透明化、従業員積み立て基金(EPF)の統一番号化など。

インフラ整備に関しては、有力大臣を配置し、既存の案件を点検。インフラ工事の進み具合は、前政権の4倍に加速。Sagara Malaプロジェクトの導入により、主要港湾開発に注力。製造業の振興を保管。

3. 高額紙幣を廃止

モディ首相は上記のような改革を進め、その後は大きな変化がなかったものの、16年11月に突然高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用禁止を発表。これらの高額紙幣は汚職や脱税に利用されて来ており、不正な隠し資産を補足しようとの狙いがあります。

11月8日までは、主に富裕層が高額のマンションや金など宝飾品の購入、海外旅行、豪華な結婚式に不正蓄財を利用し、経済の活性化にも繋がっていました。政府は高額紙幣の使用を禁止し、12月30日までに銀行に持ち込まない限り、2紙幣は単なる紙切れになると発表したため、社会が大混乱に陥りました。

これにより、高額商品のうち特に自動車販売が低迷。昨年11月は前年同月比▲0.6%の伸びにとどまり、12月も▲2.1%。ただ、17年には1月が+11%、2月も+9%と回復傾向。

 図表3 インドの新車販売台数

3-4月には貨幣流通量も元に戻るとみられます。さらに、高額紙幣の廃止により、電子決済が普及。街中の小規模な焦点でも、スマートフォンを使って電子決済が普及。販売側は小銭を用意する必要がなくなり、消費者も現金の持ち合わせがなくても買えるようになりました。

4. 州議会選挙の予定

インドでは上院は地方議会による間接選挙で、上記の通り上院ではBJP及びその与党が少数派にとどまってきたため、今後の州議会選挙の行方が注目されます(図表4参照)。15年には2月のデリー準州に続き、11月には東部ビハール州でもBJPが敗北。

16年5月には4州で選挙を実施。BJPがアッサム州の政権を奪取。ケララ州では左翼政党が与党に就任。国民会議派は2州で政権を逃しました。タミル・ナデゥ州では、全インド・アンナ・ドラヴィダ進歩同盟(AIADMK)が32年ぶりに2期連続で政権を維持。17年3月以降の予定は図表4の通りで、「現在の政権」は17年3月の選挙以前のもの。

 図表4 今後の州議会選挙予定

3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。インドで最大の約2億人の人口を抱える北部ウッタル・プラデシュ州議会選などで、大幅に議席を伸ばしました。高額紙幣廃止に伴い、不満もあったものの、不正資金撲滅の姿勢が評価されました。

選挙が実施された5州のうち、ウッタル・プラデシュ州においては、403議席中、300議席を確保。北部ウッタラカンド州においても過半数を確保。南部コア州、北東部マニプール州などでも勝利。

BJPのアミト・シャー総裁は、「モディ首相の紙幣廃止、腐敗撲滅、貧困対策の勝利だ」としました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。

5. インドの外交

モディ政権の最大の成果は外交と言われるほどで、37か国を回り自ら投資を誘致してきました。日本との関係では、新幹線と原子力協定により、更に関係性が高まる見込み。

懸念としては、米トランプ大統領が、H-1Bビザの発給を廃止すると発言していること。インドのIT産業は5-6割を米国に輸出し、そのサポート、保守のために技術者を米国に送り込んできました。H-1Bビザの発給が停止されると、このビジネスモデルが成り立たなくなります。

中国に対しては是々非々の態度をとるとみられます。領土問題はあるものの、中国からの電子機器などの投資は進める構え。パキスタンとの関係には、やや改善の兆しもあります。そのほか、バングラデシュ、スリランカとの関係についても、改善の努力をすると見られます。

次回は、物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見る予定です。

インド経済の見通し(1) 人口・発展段階 平成29年3月17日

インドが中国に代わって、世界経済の牽引役になるのではないかとの期待が高まっています。インド経済の課題と展望を見ていきます。

1.インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想) 図表2 インドの人口ピラミッド(2050年予想)

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2.成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は昨年10月に発表した世界経済見通しの報告書で、16年のインドの成長率を+7.6%として、中国については+6.5%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、15年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2016年で見ると、IMFの昨年10月のデータで、米国が57,293ドル、日本が37,304ドル。また、ロシアが8,838ドル、ブラジルが8,586ドル、中国が8,260ドルであるのに対して、インドは1,718ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4. 10-12月期成長率+7.0%に減速

インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+7.0%(図表5参照)。前期の同+7.4%(今回上方修正)から減速。政府が高額紙幣を無効化したことが影響したとみられます。

今回の10-12月期の公表値+7.0%は、市場予想である+6%台前半を大幅に上回りました。16年7-9月期の成長率を従来発表の+7.3%から上方修正するなど、過去の数値も遡及して改定。

統計局によると、10-12月期に個人消費は+10%、設備投資は+4%。個人消費の2桁増加は17四半期ぶりで、モディ政権下では初めて。設備投資は4四半期ぶりに増加に転じました。

 図表5 インドの成長率(前年同期比)

モディ政権は11月8日に、脱税や汚職の対策として高額紙幣(500ルピー札と1000ルピー札)を廃止すると発表しました。政策の目的は(1)資産を隠匿する犯罪組織を撲滅し、(2)預金不足で低迷が続く銀行貸出を伸ばすこと、(3)インフレ抑制、にあると言えます。今回の四半期GDPの発表は、高額2紙幣の廃止後初めての統計であり、注目されていました。

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価 平成29年3月10日

前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 貿易が低迷

前回ご報告の通り、16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ただ、今後も外需に期待するのは難しい情勢。中国は輸出・設備投資主導の経済から消費など内需主導の経済への転換を図っています。そのため、中国がかつてのような資源の「爆買い」をしてくれる可能性が低く、鉄鉱石、原油などブラジルの資源の輸出が伸びるのは余り期待できません。また、通貨レアルは嘗ての水準よりは低いものの、現在程度の水準では、輸出競争力の回復にはつながらない見込み。

2. バランスシート調整が進行

ブラジルでは、バランスシート調整が進行しており、特に住宅価格が低迷。住宅価格は15年頃から下落に転じ、16年9月には前年比▲15%の下落。当時のインフレ率は+8%程度であったため、実質的には▲20%程度の下落となります(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの住宅価格

さらに、信用収縮(クレジットクランチ)も進行。銀行貸出癌減少に転じており、特に企業向けは▲7%まで低下。インフレ率を考慮すると、実質ではさらに減少していることになります。

3. 財政収支改善に遅れ、政治的混乱

第3回でご報告の通り、プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。財政収支改善が遅れています。

ただ、これも第3回でご報告の通り、テメル新政権になってから、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。財政赤字は15-16年に大幅に拡大したものの、今後は小康状態となる可能性があります。

州政府の財政も悪化しており、連邦政府よりも深刻。27州のうち26州が危機的状況にあります。特にリオデジャネイロのあるリオ州は大幅な赤字。リオの沖合にプラソルトの海底油田があり、その石油収入に依存しています。原油価格低迷がマイナス要因。州の財政の悪化により、市民へのサービスが低下しており、市民の反発の可能性があります。

さらに、政治的混乱も継続。テメル副大統領が大統領に就任してからも、多数の閣僚が辞任するなど、政治は依然として混迷しています。ただ、テメル新政権が市場寄りの姿勢を撮るとの期待から、通貨レアルは対ドルでやや戻す展開。米国のトランプ大統領が、メキシコに対して厳しい姿勢をとっており、ブラジルがいわば漁夫の利を得るとの見方もあります。

4. インフレ率は低下

一方、明るい材料として、インフレ率が低下。ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。ブラジルのインフレ率は15年末には+10%を超えていたため、依然と比べると現在のインフレ率はかなり抑制されていると言えます。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

そのほか懸念材料としては、失業率の悪化、それに伴う消費の低迷、さらに製造業が育っていないことなどがあります。ブラジルは08年に発生したリーマン・ショックの後、10年には+7.5%という高い成長率が達成。ただ、その後は急速に景気が悪化しました。17以降はやや回復するものの、マイナスからゼロ近辺で低迷するものと予想されます。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルはインドなどと主に「脆弱5か国」とされ、通貨は対ドルで大きく下落。14年に入ると、新興国の経済に対する警戒感が後退したことから、6月末には1ドル=2.204レアルにまで回復。

ただ、利上げ打ち止めや、景気の後退により、年の後半には対ドルで再び大きく下落。15年に入ってからも米連邦準備理事会(FRB)による利上げの予想、中国の景気減速とそれに伴う資源価格の下落により、通貨はされに大きく下落。16年1月末には1ドル=3.99レアルまで急落(図表4参照)。

16年2月以降には、資源価格の反発、市場から距離を置いていたルセフ前大統領の退任の観測などにより、大きく上昇。17年2月末には同3.10レアルまで回復。16年1月と比較すると、+22.2%の大幅上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価はルセフ政権の支持率低下、新興国の経済に対する投資家の不安の後退により、14年に入って堅調に推移。昨年末から今年8月末まで、ボベスパ指数は+18.9%の大幅上昇。ただ、その後は景気後退などにより株価は下落に転じ、14年末には前年末との比較で▲2.9%と小幅下落。

15年に入ると4月まで株価は持ち直す傾向にあったものの、米FRBによる利上げの予想及びそれに伴う投資資金流出の懸念、景気の後退などにより、株価は軟調に転じました。16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントまで大幅に下落。

その後は、為替と同様にルセフ前大統領の退陣、政策が市場寄りになるとの期待、資源価格の回復などにより、株価も大きく反発。ボベスパ指数は16年1月と比較すると、+64.9%と大幅上昇。

米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、16年1月頃までは海外の投資家がブラジルから資金を引き上げる動きを見せていました。米国の景気が堅調であること、資源価格の回復、新興国の株価の割安感の台頭などにより、特にブラジル、ロシアなど一部の資源国には投資家の資金が戻りつつあります。

ただ、ブラジルについては国内の景気が依然として低迷していること、米トランプ新政権の政策の予想がつきにくいことなど、多くの不安定要因があります。17年の景気回復に向けて為替及び株式市場では引き続きブラジルへの期待が高まることも考えられるものの、株価の上昇は一本調子には行かない可能性もあります。

ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治 平成29年3月3日

前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 16年に輸入が大きく減少

16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。ただ16年初頭以降にはやや反発し、直近では同53.3ドル程度まで回復しています。

ただ輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。原油価格はやや回復したものの、米国のシェールガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。v さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 政治の混乱が継続

ルセフ大統領が弾劾されたことにより、政治的混乱は一時沈静化していましたが、テメル後継政権でも様々な疑惑が噴出しています。同政権は、16年8月の発足からわずか6か月で6人の閣僚が交代。ラバジャット事件の捜査の本格化により、さらに疑惑が拡大する勢い。

ラバジャットとはポルトガル語で洗車のことであり、15年4月にガソリンスタンドから疑惑が発覚したため、同事件と呼ばれています。これまで300-400人が事情聴取を受け、事件関連で公的資格を停止あるいは辞職となった議員は既に150人に上っています。

ルラ元大統領が関与したとされる国営企業のペトロブラス事件に関連して、同社は米国にも上場しています。証券取引法違反に当たる粉飾決算があったのではないかとの疑いで、米国証券取引委員会(SEC)が捜査を行っています。

ブラジルでは、これまで汚職が当然視されていたわけですが、13年に司法取引が認められ、贈賄側の証言が進んで一気に捜査が進展するようになりました。テメル大統領率いるブラジル民主党(PMDB)は下院の保有議席が15%に満たず、従来、合従連衡を繰り返し、与党にとどまってきました。即ち、有力なポストについて利権を獲得しようとする議員が多く、今後も疑惑捜査の対象になってくる可能性があります。

3. テメル大統領に口利き疑惑が浮上

さらに、テメル大統領による口利き疑惑が、新たに浮上。11月25日に辞任した政権幹部が北東部エルバドルで購入した高級マンションを巡って、担当閣僚に建設計画を許可するように圧力をかけた疑いが出ています(写真1参照)。捜査当局が大統領の関与の有無を調査している模様。

テメル氏の側近の一人で議会対策を担当するジュデル・ビエイラリマ氏は15年に、世界遺産に登録されているサルバドルの歴史地区に建設予定のマンションの1室を購入。30階建ての高級マンションで、1室の価格は260万レアル(約8600万円)。建設計画を認可するよう、文化相に対して圧力をかけた疑いがあります。

 写真1 テメル大統領(右)と側近のビエイラリマ氏(左) (6月、ブラジリア)

疑惑報道を受けて、ビエイラリマ氏は25日に辞表を提出。テメル氏にも、ビエイラリマ氏と同様に、文化相に対して圧力をかけた疑いが報じられています。この疑惑は、文化相であったマルセロ・カレロシが18日に辞任して政権が離脱したことにより、表面化。文科省参加の機関がマンション建設計画を承認する権限を持っていたためビエイラリマ氏がカレロ氏に働きかけていた模様。

4. 大統領選に絡んだ疑惑も浮上

さらに、14年の大統領選で、ブラジル民主党(PMDB)に、30億ドル相当の違法献金がなされていたとの疑いが浮上。もし、不正献金が大統領選に使われていたことが立証されると、14年の選挙が無効になる可能性もあります。

また、クーニャ下院議長は、スイスに夫人名義の口座を持ち、多額の不正献金を隠していた疑惑が浮上。議員の不逮捕特権などで抵抗していたものの、ついに職務停止となりました。加えて、カリュイロス上院議長も、現職の議員に対する不逮捕特権を強化する法案を、一部国会で可決することに成功。

同法案を巡っては、街頭デモの対象となり、一部修正事項が国会を通りませんでした。これに対してテメル大統領が拒否権を出すかどうかが注目されています。国民の反対を重視するか、与党PMDB幹部である同氏を守るのか、ジレンマに陥っています。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け 平成29年2月24日

おはようございます。前回はオリンピックの効果、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などを見ます。

1. 財政再建へ憲法を改正

ルセフ前大統領は昨年8月に罷免となり、暫定政府で大統領代行をしていたテメル副大統領が9月初めに正式に大統領に就任。同氏はブラジル民主労働者党(PMDB)の党首。PMDBは下院の第一党であるものの、下院定数513議席のうち、68議席しかありません。ブラジル議会は少数乱立で与党は11政党の連立。小政党は理念で結びつくというよりは、人脈・地位で合従連衡を繰り返しているに過ぎないと見られます。そのため、テメル政権が抜本的に財政再建を行うのは難しいとの予想もありました。

ところが、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。憲法改正には60%以上の賛成が必要で、しかも上下両院で二度可決が必要。11月には下院で65%の賛成となり、12月には上院でも修正せずに可決。ペトロブラス(国営企業)を舞台とする汚職事件に関連して、検察官による議員への訴追を軽減する法案が同時に審議されており、そちらにばかり注目が集まっていたことが一因とみられます。

2. 財政収支改善に遅れ

プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。09年は1.7%で、財政責任法(00年施行)に定める黒字目標の2.3%を下回りました(図表1参照)。14年には▲0.5%となり、税収の下振れを反映。財政収支も同様に悪化。国際通貨基金(IMF)では15年以降に基礎的財政収支(プライマリー・バラン)が改善すると予想していましたが、実際には16年に▲2.75%へと悪化。17年以降にはやや改善すると見込まれています(IMF16年10月時点予想)。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP)

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で42.0%’図表2参照)。金利を除くベースでは22.1%。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

3. 格付けが低下

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。見通しを引き続き「ネガティブ」としました。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、その時点よりも「成長見通しが弱まっている」として、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

4. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

13年には債券投資に関わる金融取引税の撤廃、大幅利上げで回復しつつあったものの、米量的緩和の縮小(テーパリング)により、流出超に転じました。米金融政策の落ち着きなどにより、ブラジルでは株価が回復。それに伴い証券投資も落ち着きを取り戻しました。

そのため、資本収支の安定のためには、直接投資(FDI)の持続性が問題となります。11年以降、経常収支赤字を補う形で、対内直接投資(FDI)が堅調に推移。13年の対内直接投資は前年比▲18.5%と、2年連続で2桁減少。エネルギー、自動車、交通関係は堅調ですが、2桁の大幅減少となった業種も多く、業種ごとの選別が強まっています。

13年にはブラジルは、インド、トルコなどともに「脆弱5か国(fragile 5)」と位置付けられ、財政収支・経常収支の赤字が問題とされました。そのような脆弱性により、証券投資の資金が国外に流出し、通貨、株価の下落リスクが高いとされました。実際、ブラジルからは大きな資金流出。海外の投資家によるリスク回避の動きにより、証券投資は不安定になりました。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。政府部門の赤字の改善のためには、公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革が必要であると、従来言われてきましたが、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されます。短期的には、政権交代による政策の変更なども期待されています。

 図表5 主要国・地域のISバランス

ただ、昨年後半以降には、原油など資源価格が回復傾向にあります。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えており、中国の粗鋼生産も回復する兆しがあります。鉄鉱石、銅などの価格も上向いており、ブラジルの経常収支もやや改善する傾向にあります。

次回は貿易、政治などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢 平成29年2月17日

おはようございます。前回は成長率、1人当り国民所得などを見ました。今回はオリンピックの効果、最近の景気動向、物価、金利などを考察します。

1. オリンピックの効果も限定的

サッカーのワールドカップ(W杯)が14年6月12日から7月13日にブラジルで開催されたのに続き、リオデジャネイロ五輪が16年8月5日に閉幕。W杯の開催前には、W杯及びオリンピックの開催により、ブラジル経済に弾みがつくであろうとの予想も一部ありました。W杯に続き、五輪についても経済効果は殆どなかったと言えます。

大手格付け会社のフィッチでは、五輪開催後に、五輪のために多くの競技者や関係者が同国を訪問したものの、16年末まで航空、地上輸送などの需要低迷が続くと予想。ブラジル国民は、消費したくても消費に回す余裕がないのが現状。

民営化された6つの空港は、16年6月と7月に期限を迎えた運営権対価の支払いにつき、当局との間で期限延期を交渉。過去5年間にわたって成長を期待されてきたこれら空港の今後の見通しについて、フィッチは8月5日に「弱含みながら見込める17年の景気回復で、旅客輸送量と航空交通量は増加し、各空港の流動性への圧力はわずかに弱まるだろう」としました。

五輪開催前には、五輪が同国のマクロ経済の政調や各産業分野の成長を促すことになるとの期待一部にもありました。そうした期待は、完全に裏切られています。

 写真1 リオデジャネイロ五輪閉会式の様子

2. 鉱工業生産が停滞

中国の景況感の悪化、世界的な資源価格の下落、一時高止まりしたインフレ率と内需の不振などにより、ブラジルの景気は停滞を続けています。ブラジル地理統計院が2月1日に発表した12月の鉱工業生産は、前年同期比▲0.1%と、34か月連続で前年比割れ(図表1参照)。市場予想の▲5.0%からは上振れ。前月比は▲0.3%で、市場予想の+0.9%から下振れ。原油価格下落などにより、資源セクターの不振が続いています。ただし、マイナス幅は急速に縮小しており、景気には改善の兆しが見えます。

 図表1 ブラジルの鉱工業生産(前年同月比)

3. 小売売上高も低迷

ブラジル地理統計院が2月14日に発表した12月の小売売上高は、前年同期比▲4.9%(図表2参照)。前月の▲3.5%からマイナス幅がやや拡大。10月の▲8.2%からはやや改善しているものの、国内の消費は依然として低迷しています。

 図表2  ブラジルの小売売上高(前年同月比)

4. インフレ率は低下

一方、ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 政策金利を▲0.75%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は1月12日の金融政策委員会で、政策金利を▲0.75%ポイント引き下げて13.00%にすることを決定(図表4参照)。利下げは全員一致。利下げは前回12月の会合に続いて3会合連続。利下げ幅は市場予想の▲0.50%ポイントを上回りました。

中銀は14年10月に半年ぶりに利上げを再開し、15年7月までに7会合連続で利上げを行い、政策金利を11.0%から14.25%まで上昇させました。同9月には金利据え置きに転じて、16年8月まで8会合連続で据え置き。10月会合で利下げに転じて、前回12月会合でも▲0.25%の利下げをしました。

 図表4 ブラジルの政策金利

中銀は政策決定後に発表した声明文で、ブラジル経済の現状認識と見通しについて、前回と同様に「最近の経済指標を見ると、短期的にはブラジル経済の活動は思ったよりも弱い。今後、ブラジル経済の回復は一段と遅れ、これまで想定していたよりもさらに緩やかになる可能性がある」とし、改めて景気の下ブレ懸念を強調。ただ、「世界経済の先行きの見通しは依然として不透明なままだが、これまでのところ新興国経済を取り巻く穏やかな環境の終わりによる悪影響は限定的」とも指摘しました。

次回は、格付け、財政収支、経常収支などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (1) 成長率 平成29年2月10日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ただ、このところ景気の減速傾向が強まっています。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億40万人(ブラジル地理統計院推定、2014年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 低成長に転じる

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。ただ、その後資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.8%、16年▲3.2%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。ただ、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年には+0.4%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国と日本の成長率

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、13年の1人あたり国民所得は、米国が52,704ドル、日本が38,551ドル。また、ロシアが15,558ドル、ブラジルは12,259ドルでまずまずの水準。一方、中国が7,080ドル、インドは1,479ドルでした。

これを16年でみると、米国が57,293ドル、日本が37,304ドルに対して、ロシア8,838ドル、ブラジル8,586、中国8,260ドル、インド1,718ドル。中国の台頭とブラジル、ロシアの停滞、また為替の影響もあり、ブラジルのもたつきぶりが目立っています(図表2参照)。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、近郊のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2  BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4.  7-9月期GDPは▲3.8%に低迷

ブラジル地理統計院は11月30日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.9%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は10四半期連続。今年4-6月期の▲3.8%からはマイナス幅がやや縮小したものの、引き続き低迷。資源安により投資が低調なほか、雇用の悪化により消費の動きも鈍くなっています。

7-9月期に前期比では▲0.8%。前期比での減少は7四半期連続。現行統計となった1996年以降で過去最長の景気後退局面。16年通年の成長率は▲3.5%程度となる見込み。

設備投資など固定資本形成は前年同期比▲8.4%。テメル政権は財政健全化を進めるために歳出を抑制しており、さらに景気の見通し悪化により、企業も投資を抑制しています。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

景気低迷により、企業はリストラを進めており、失業率は10-8月には11.8%と、現行統計の12年以降で最悪の水準。雇用の悪化で消費も低迷。7-9月期の消費は▲3.4%の低下。インフレもあり、家計の購買力も低下しています。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルのGDP成長率は14+0.1%、15年▲3.8%、16年▲3.2%(IMF予想)と低下してきました。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権が後退し、政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一振、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの期待感が高まっています。

次回はワールドカップの効果、14年以降の景気見通し、物価、金利などを見る予定です。

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2. 長期停滞論

長期停滞論とは、ローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授が提唱して、主に米国で盛んになったものです。低成長・低インフレ・低金利の長期化、すなわち「長期停滞」は、過剰貯蓄が自然利子率(完全雇用と整合的な利子率)を押し下げ、「金融緩和が無効化する」ことによって発生するとしています。

長期停滞の問題点としては、1つ目に経常黒字国(世界的には過剰貯蓄を容認している国)の存在が、近隣窮乏的な効果を持つ。すなわち、日本や欧州、中国などの経常黒字が、世界的に金利を押し下げる方向に働いているが、その世界需要刺激効果は小さい。2つ目に、金利が効かない世界では、低金利政策は新規の需要ではなくストック(資産)・インフレを刺激する。3つ目に、「長期停滞」は、所得格差の拡大(中間層の崩壊)によって増幅される。としています。

世界的にゼロサム的な長期停滞議論では、日本、中国、ユーロ圏などの経常黒字国が世界の長期停滞を増幅させている眼鏡とされ、敵対視されます。

また、自然利子率が下がり、金融政策が無効化している状況においては、特に形状黒字国は財政支出を拡大させることが望ましいとされます。金融緩和は、経常黒字を拡大させ、資産インフレを促進するだけであるとされます。特に日本においては、積極的な財政出動により、財政赤字が急拡大しました。

3. 企業の主役も交代。

企業の主役も交代。17年6月末の時価総額上位10社を見ると、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾンなど米国のIT企業が独占。業種ではITが多いほか、国別では、中国の2企業もランクイン。10年前には、上位10位に入っていたIT企業はマイクロソフトのみであり、まさに様変わりしています。

 図表3 世界の企業の株式時価総額上位(2017年6月末)

4. 新興国の主役も交代

一方、新興国の主役も交代。日本など先進国に対して、中国、インド、ロシア、ブラジルのいわゆるBRICs諸国は、相対的に高い成長率を誇ってきました。2008年ころまでは、中国を筆頭に高い成長率を維持。ただ、その後2008年9月のリーマンショック後の2009年にはロシアが▲7.8%、ブラジルが▲0.1%となり、資源国を中心として落ちおみました。

その後も、ロシア、という資源国に対して、原油などの輸入国である中国、インドが優位に立ちました。これは原油など鉱産物資源価格の下落が影響しています。さらに、15年にはインドが+7.9%、中国が+6.9%と逆転。今後も中国は人口構成などの影響で成長率が低下する見通しであり、インドの優位が続く見通し。

 図表4 BRICs諸国と日本の成長率

5. 世界的な低成長が持続か

世界的には、低成長、低金利の時代が継続する可能性があります。米国においては、完全雇用が達成されているにもかかわらず、単位当たりの賃金の伸びが低く、インフレ率も低く、長期金利もあまり上昇していません。ユーロ圏、日本では引き続き景気が低調で、低金利も継続。

IT技術の進展により、世界的に適材適所での生産が定着し、世界の貿易も停滞。米国のIT企業は、海外に利益を滞留させる傾向にあり、必ずしも米国など先進国の税収が好転しているわけではありません。また、米国本土では、アイフォンなどハイテク機器の生産が多く行われているわけではなく、製造業の雇用が減少。米国IT企業の生産は韓国、台湾、中国などで行われる傾向にあります。

この世な観点から、世界的な景気の停滞が継続し、国別では、インドなど一部の国の景気の好調が持続。業種、企業では、米国、中国などの一部IT企業が好調を持続し、一部の日本企業などが後退する可能性がります。投資にあたっても、そのような観点が必要になってくると言えます。

中南米諸国の展望 (6) メキシコ 平成29年7月28日

中南米主要国のうち、前回のチリに続いて、メキシコを見ます。

1. CPI上昇率はやや加速

メキシコ国立地理情報研究所は7月7日に、メキシコの6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+6.31%になったと発表(図表1参照)。5月の同+6.16%からやや加速。市場予想の+6.34からはやや下振れ。

 図表1 メキシコのCPI前年比上昇率

2. 1-3月期は+2.7%

メキシコ統計局は5月22日に、17年1-3月期国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+2.8なったと発表。10-12月期の同+2.7%(確定値)からやや加速(図表2参照)。市場予想は+2.7%。

 図表2 メキシコの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を引き上げ

一方、メキシコ中央銀行は、6月22日の政策決定で、政策金利である翌日物貸出金利を+0.25ポイント引き上げ、+7.0%にすることを決定(図表3参照)。利上げは、市場予想の予想通り。

 図表3 メキシコの政策金利

5月のインフレ率は+6.16%と、09年4月以来、約8年ぶりの高い水準にまで上昇。中銀はインフレ率の目標を+3%程度をしており、足下では目標を大きく上回る水準となっています。

4. 政治

メキシコでは、2012年12月のペニャ政権が発足。財政、エネルギー、教育金融など多くの分野での改革を進めました。15年6月の連邦議会下院中間選挙(全500議席改選)では、与党PRI及び協力政党合計で過半数を確保し、ペニャ政権後半の政権運営に安定感をもたらしました。

主な改革として、まず教育改革では、労働組合の教員人事への介入を排除し、能力ベースの教員採用・評価制度を導入し、公教育の質向上を図っています。通信改革では、通信セクターの外資規制緩和、通信・メディアの新たな監督規制機関設立などにより、競争力強化、通信費引き下げなどを図っています。

最近問題となっているのは、米国との対立。米トランプ政権は、メキシコからの不法移民を問題視し、米国とメキシコとの間に壁を作り、その費用もメキシコに負担させるとしました。また、米国あるいはトヨタなどの企業がメキシコに新たに向上を作るとの意向についても、「アメリカ・ファースト」を掲げて牽制。米国の雇用と守るとしました。

5. 強み、課題、リスク

ブラジル、ベネズエラなどでは、資源価格の低下により、現政権に対する批判が高まっています。対して、メキシコは中国経済への依存度が低く、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国であるため、米国と強いつながりがあります。米景気の拡大を受けた輸出の拡大、内需の緩やかな回復が見込まれることが強み。また、自動車産業など製造業も発展。

ただ、米トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)を見直すと表明。自動車などの米国への輸出に支障をきたす恐れがあります。また、米国には多数の中南米系の不法移民がおり、強制送還される可能性もあります。

また、麻薬絡みの犯罪も頻発。首都メキシコ市南方のテミスコ市で、麻薬撲滅を目指して当選したギセラ・モタ新市長(33)が就任の翌日に、麻薬がらみのギャングに殺害されるなど、治安悪化が依然として深刻。

今後の注目点としては、石油鉱区の入札が順調に進展するかどうかということ。また、リスク要因としては、米国の景気(特に鉱工業生産)の下振れ、原油価格の低迷とメキシコにおける原油生産の減少、またそれに伴う財政への影響、米国の利上げによる海外の投資家による投資資金の引き上げの可能性などがあります。

6. 為替と株価

ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、16年8月には1ドル=18.0ペソ近辺での取引でしたが、17年1月にはどう21.4ペソ近辺へと大幅下落。トランプ大統領がメキシコとの通主関係を見直す方針を示し、メキシコの輸出の減少などを警戒して大幅に下落しました。

ただ、その後はメキシコに対する具体的な政策の発表はなく、米国とメキシコとの壁の建設についても、何ら具体化していません。そのため、ペソは対ドルで急反発。7月には1ドル=17.5ペソ近辺へと上昇しました。

 図表4 メキシコ・ペソ(MXN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年には原油価格の低迷などにより、15年にはほぼ横這いの動き。その後、投資家の資金が新興国に戻ったことなどにより、16年には反発。ただ、トランプ政権のメキシコへの政策を懸念して16年秋には下落。その後は通貨ペソと同様に、トランプ政権に対する懸念の後退などにより、17年初めからは大幅に上昇しました。

 図表5 メキシコ・ボルサ指数

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、米国が離脱を表明。ただ、残る11か国は締結の方向で疎いています。TPPが締結されれば、日本などアジア諸国との貿易が発展する可能性もあります。メキシコ市の新国際空港の建設、自動車産業に関連しては輸出港(ベラクルス港など)の整備の計画もあり、インフラ(社会的基盤)の整備も期待できます。

麻薬がらみの汚職・犯罪、また経済が原油価格の影響を受けやすいことなどがあるものの、製造業の発展により、緩やかな景気拡大、また中長期的な株価の上昇も期待できます。

中南米諸国の展望 (5) ペルー 平成29年7月21日

前回のチリに続き、今回はペルーを見ます。

1. 金利を2回引き下げ

ペルー中央準備銀行は17年5月11日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて4.00%にすることを決定(図表1参照)。その後、7月13日の同会合でも▲0.25%ポイント引き下げて3.75%としました。

中銀は政策金利を引き下げたことについて、「インフレ率は17年の目標値(+1.0〜3.0)の範囲内にある。食品とエネルギーを除くインフレ率は低下を続けており、目標値の範囲内にある。国内経済の成長率は、潜在成長率を引き続き下回っている。政府と民間の支出の増加により、今後成長率は上向くと予想される」としました。

 図表1 ペルーの政策金利

2. インフレ率が6月に減速

一方、ペルー国家統計局によると、7月3日発表の6月CPIは前年同月比+2.73%と、前月の+3.04%から減速(図表2参照)。中銀が目標とする+1.0〜3.0%のインフレ目標の範囲内にあります。インフレ率は3月に同+3.97%まで加速したものの、その後は鈍化が継続。

 図表2 ペルー消費者物価指数(前年同月比)

3. 17年1-3月期GDPは+2.1%

他方、ペルー国家統計局によると、17年1-3月期の同国の実質GDP成長率は+2.1%となり、昨年10-12月期の+3.0%から減速。市場予想の+2.7%からも下振れ。15年1-3月期以来の低成長となりました。

主な要因は、エルニーニョ現象に関連した北部の大規模な洪水。建設が打撃を受けて、▲5.3%。一方、プラスとなったものは、輸送が+2.5%、サービス+0.6%、製造業+1.7%、鉱業+4.1%、電気・ガス・水道+1.0%、漁業+37.7%など。

 図表3 ペルー四半期成長率(前年同期比)

4. 強み、課題、リスク

ペルーは、1980年代には経済運営の失敗からハイパーインフレーションが発生し、経済が破綻状態に陥りました。しかし、1990年代に発足したフジモリ政権において、経済自由化・健全財政を進め、経済が再生。同政権後も、新自由主義的な経済政策が継続され、貿易の自由化も進展。2009年には米国とFTA(自由貿易協定)が発足し、11年には日本と経済連携協定(EPA)に署名。

ペルーは中南米における優等生とした脚光を浴びており、高い経済成長と健全な財政を誇っています。物価、金利が安定し、外貨準備も高水準に積み上がり、国際収支や対外債務の面で、流動性について殆ど問題がないと言えます。

ペルーの成長を支えたのは、資源価格高騰による海外からの鉱山部門への投資。海外からの投資により、国内の投資は家計部門の消費が活気づきました。フジモリ政権下で、公営鉱山が民間部門に売却され、経済が活性化しました。

ただ、ペルーには金、銀、銅、鉛、亜鉛などの鉱物資源が豊富にあり、輸出に貢献しているものの、これら鉱物資源に頼りすぎている面があります。14年には、中国の景気減速などにより、銅など鉱物資源価格が大幅に下落しました。今後は、鉱物資源に頼らず、製造業などを発展させていくことが課題であると言えます。

5. 為替と株価

ここで、ペルーの株価及び為替の動きを見ましょう。ペルーの通貨であるペルー・ヌエボ・ソルは、対ドルで13年以降には下落基調。15年後半には1ドル=3.1ソル近辺での取引。その後はやや強含み、16年3月初めには、1ドル=3.45ソル近辺での取引。7月19日には、1ドル=3.2395ソルで終了。

 図表4 ペルー・ヌエボ・ソル(PEN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるIGBVL指数は、13年初めから継続的に下落(図表5参照)。14年春ころからはやや反発したものの、14年後半からさらに大きく下落。中国の資源爆買いの停止により、金、銀、銅、亜鉛などの価格が下落。ペルー国内の景気の後退もあり、株価も軟調な展開となりました。

 図表5 ペルー・IGBVL指数

ペルーでは嘗て、左翼ゲリラが暗躍し、低成長の国でした。鉱物資源は豊富であるものの、インカ帝国の遺産があるほかは、日本にとって余りなじみのない国でした。その後はフジモリ政権の発足に伴い、経済の自由化が進み、成長率も高まりました。

今後もチリ、メキシコなど「太平洋同盟」加盟の1つの国として、発展が期待できます。米トランプ政権はTPPからの離脱を発表したものの、残り11か国でTPPが成立すれば、ペルー経済にとってはプラスに作用する可能性があります。

次回は、メキシコを見る予定です。

中南米諸国の展望 (4) チリ 平成29年7月14日

前回のアルゼンチンに続いて、今回はチリを見ます。 1. 金利を5月に引き下げ

チリ中央銀行は5月18日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて2.5%にすることを決定(図表1参照)。

中銀は会合後の声明で、「国際的な金融環境は引き続き好ましく、経済指標は、先進国における力強い成長のシナリオを後押している。消費市況は引き続き区々の動きで、銅価格は下落している」としました。

さらに中銀は、「国内に目を移すと、インフレ率は+2.7%にとどまっており、近い将来の予想は目標値に近い。生産と需要の予想は3月の金融政策報告に沿ったものであり、鉱業と建設ではネガティブな影響がある」としました。

 図表1 チリの政策金利

2. インフレ率が1月に減速

一方、消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は、鈍化を続けています。7月7日発表の6月CPIは前年同月比+1.7%と、前月の+2.6%から減速(図表2参照)。市場予想の+2.9%からも下振れ。

 図表2 チリ消費者物価指数(前年同月比)

3. 1-3月期GDPは+0.1%に減速

他方、チリの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比+0.1%と、前期の同+0.5%から減速(図表3参照)。2009年7-9月機以来の低成長となりました。2月に発生し、40日余りに及んだ主要鉱山であるエスコンディーダ鉱山のストライキが輸出を押し下げたのが響きました。経済活動別で目立ったのは、水産業で、禁漁区域の解除に伴う鰯漁獲量が5倍強になるなどして、前年同期比+34%と急増。

 図表3 チリ四半期成長率(前年同期比)

4. 政治

1973年のクーデターによりピノチェト軍事政権は、88年10月の国民信任投票で敗北。89年の選挙でエイルウィン大統領が選出され、90年に民政に移管。その後、4期連続して中道左派政権が継続。

その後、10年に民政移管後初の中道左派政権として誕生したピニュラ政権は学生のデモなどにより、具体的成果を出せませんでした。13年末の総選挙により、中道左派連合に共産党が加わる多数派により、バチェレ前大統領が勝利し、14年3月に新政権が発足。税制改革、選挙制度改革、教育制度改革などの法案を議会に提出。ただ、親族の不正土地売買疑惑により支持率は低下。チリは中南米にあっては、比較的政情が安定していると言えます。

本年11月の次期大統領選に向けて、与党会派では、17年3月11日に、ゴイック・キリスト教民主党党首が同党の大統領候補として立候補する意向を表明。社会党では、インスルサOAS事務総長とアトリア弁護士が立候補の意向を表明。野党会派では、3月21日にピニェラ前大統領が大統領選挙への立候補を正式に決定。

5. 課題、リスク

チリは「中南米らしくない」ともいわれる堅調な発展を遂げているわけですが、米英型の新自由主義に基づく経済運営が功を奏しています。自由化、対外開放を進め、公共部門の肥大化を招かずに経済の効率性が高まり、健全財政を標榜してきました。

格付けでみても、直近でチリについてS&PがAA−(見通しはネガティブ)、ムーディーズがAa3(同安定的)、フィッチがA+(同安定的)としています。格付けは中南米諸国の中で相対的に高く、優等生と言われます。宗教的、民族的対立なども少なく、社会的な対立が少ない国であると見られます。

ただ、経常赤字は拡大傾向にあります。国際通貨基金の予測では、経常収支は15年▲17.93億ドル、16年▲39.47億ドル、17年▲47.33億ドルで、国内総生産(GDP)比ではそれぞれ、▲0.74%、▲1.64%、▲1.88%と悪化の見通し。

また、他の多くの中南米諸国と同様、資源の輸出に依存しています。原油は純輸入国であるため、原油価格の下落は貿易収支に対してプラスに働くものの、銅など鉱産物の価格下落が痛手。通貨チリ・ペソも同価格に連動する傾向にあり、中国などの景気後退、鉱産物の需要減少が景気にとってはマイナスになります。

インフレ率については上記のとおり、低下傾向にあります。4月のCPIは前年同月比+2.7%と、前月の+2.7%からは横這い(図表2参照)。5月が同+2.6%、6月は+1.7%と、インフレ目標の+3%±1%を下回っています。中銀にとっては、インフレ物価よりも景気梃入れが課題となっています。

6. 為替と株価

ここで、チリの株価及び為替の動きを見ましょう。チリの通貨であるチリ・ペソは同価格に連動する傾向にあります。中国などの需要の後退で、2014年初めから銅価格が急激に下落し、その影響で通貨ペソも軟調な展開。ただ、2016年1月から10月まではほぼ横這い。その後はやや反発しました。

通貨ペソもほぼ同様の動き。昨年10月以降はやや反発する動き。ただ、チリ国内の景気の後退もあり、17年に入ってからはほぼ横這いの展開(図表4参照)。

 図表4 チリ・ペソ(CLP/USD)

株価もほぼ同様の動き。チリの代表的な株価指数の1つであるサンチアゴ指数は、14年初めから16年初めにかけては軟調な展開。その後は、17年1月頃まで大幅上昇。その後はチリ国内の景気後退の影響などにより、ほぼ横這いの展開(図表5参照)。

 図表5 チリ・サンチアゴ指数

チリは政治的、社会的に安定しており、高い格付けを維持しています。ただ、経済は依然として銅など鉱物資源の輸出に依存しています。今後は、製造業、第三次産業の発展を図り、均衡のとれた発展を目指す必要があります。ただ、ペルーなどと同様、中南米ではチリも所属する太平洋同盟諸国がブラジル、アルゼンチンなどの所属するメルコスルよりは発展する傾向にあります。今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結、それによる貿易の活発化が進むとすれば、チリ経済にとっては恩恵となることも考えられます。

次回は、ペルーを見る予定です。

中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン 平成29年7月7 日

中南米主要国のうち、ブラジルに続いてアルゼンチンを見ます。

1. 金利が高止まり

アルゼンチン中央銀行は6月27日に、政策金利を26.25%と、5会合連続で維持(図表1参照)。中銀は、インフレとの取り組みについては成果を強調し、同行の目標である17年中の+12〜17%という目標に向けてインフレ抑制姿勢を継続すると強調。

 図表1 アルゼンチンの政策金利

2. インフレ率が急上昇

一方、5月のブエノスアイレス市発表インフレ率は、前年同月比+24%(図表2参照)。インフレ率には、やや収まる兆しがあります。ただ、アルゼンチンの統計自体疑問が呈されることが多く、どこまで実態を反映しているかについては、不透明な部分もあります。

 図表2 ブエノスアイレス市発表消費者物価指数(IPCA)

3. 17年1-3月期GDPは+0.3%に改善

他方、アルゼンチンの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比0.3%(図表3参照)。昨年10-12月期の▲1.9%からは改善したものの、依然として低迷しています。16年には、財政・金融の引き締めなどの経済政策により、景気は減速すると予想されていましたが、ほぼ予想通りとなりました。

 図表3 アルゼンチンの四半期成長率(前年同期比)

4. 政治、課題、リスク

アルゼンチンでは、第二次大戦後にほぼ一貫してペロン等の支配が続きました。経済危機後の03年から、ペロン等左派のキルチネル夫妻が大統領として政権を担当。15年10-11月の大統領選挙では、中道右派のマクリ候補が、キルチネル主義(大衆迎合的政治、市場介入、保護主義的政策)からの決別を訴えて、キルチネル派の候補を破って当選(写真1参照)。キルチネル政権における汚職、経済低迷への反発があったとみられます。

 写真1 ブエノスアイレスで行われた決選投票で投票する野党候補マウリシオ・マクリ氏

マクリ新政権は、キルチネル前政権とは違い市場寄りの政策を提示。経済政策としては、外貨準備回復のための措置、輸出規制の緩和、また、金融政策としてはインフレ・ターゲットの導入などを推進。その他、エネルギー補助金の段階的な削減など、価格統制・消費刺激策の期限を設定しました。



5. 対外債務問題で前進



アルゼンチンは2001-02年に800億ドルの負債を抱えて債務不履行(デフォルト)に陥りました。その後政府は民間債権者に対して、一方的な債務再編案を提示。その条件に応じず、債務交換に応じなかったいわゆる「ホールドアウト債権者」の一部(米系ヘッジファンド)は、デフォルトした債券(国債)の全額返済を求め、NYで提訴。



NY連邦地裁は12年2月に、原告の主張を支持。アルゼンチン政府は上告するも、米最高裁は14年6月に上訴を棄却。アルゼンチン政府は原告への支払いを行なわず、債務再編に応じた債権者への支払いもできなかったため、再びデフォルト(テクニカル・デフォルト)。



マクリ政権となり、米系のいわゆるハゲタカファンドとも呼ばれる投資家などとの交渉を開始。2月上旬以降、欧米の複数の投資グループとの間で、返済案に合意。アルゼンチン政府は米投資ファンド側への支払いを行い、デフォルトを解消。



2002年のデフォルト依頼、アルゼンチンは国際金融市場から事実上締め出されていたため、ベネズエラや中国などに外貨建て国債を購入してもらうなどして苦境をしのいでいました。デフォルトが解消されたことにより、国際金融市場に復帰し、資金調達する道が開かれました。



6. 為替と株価



ここで、アルゼンチンの株価及び為替の動きを見ましょう。アルゼンチンの代表的な株価指数の1つであるメルバル指数は、15年初めからほぼ一貫して上昇(図表4参照)。マクリ政権が市場よりの政策をとることへの期待、デフォルトの解消などを好感しているのが原因であるとみられます。

 図表4 メルバル指数

続いて通貨についてみると、アルゼンチン経済はペロン党のフェルナンデス政権時代に迷走を続けていました。そのため、通貨ペソが大きく下落。特に、2011年から15年にかけて大幅下落。ここ1年でみても、下落が継続(図表5参照)。

 図表5 アルゼンチン・ペソ(ARS/USD)

マクリ大統領は15年12月の就任直後に、経済活動をゆがめていた外貨取引規制を緩和。輸入、観光、投資などに関する規制を撤廃。その結果、15年11月に1ドル=9.5ペソであった公式レートは、闇レートにさや寄せされ、16年2月には1ドル=14.8ペソまで下落16年9月以降には1ドル=15ペソ台となり、17年7月には1ドル=17ペソ近辺まで下落しています。



次回は、チリを見る予定です。

中南米諸国の展望 (2) ブラジル 平成29年6月30日

中南米主要国のうち、まずブラジルを見ます。

1. 政策金利を▲1.00%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は5月31日の金融政策委員会で、政策金利を▲1.00%ポイント利下げして10.25%にすることを決定(図表1参照)。利下げ幅は6会合連続。ブラジルは2年連続でマイナス成長となったものの、足下では景気に下げ止まり感もあります。中銀は、さらなる緩和により景気の下支えを図っています。

前回2月会合の▲0.75%から拡大。利下げは5会合連続で、全員一致。16年10月以来の利下げ幅は合計で▲3.00%ポイント。中銀は、利下げ幅▲1%以上の金融緩和を今後も続ける姿勢を見せています。

▲1%の引き下げ幅は、前回4月の会合に続いて2回連続。ブラジルでは、インフレ率が急速に低下しており、5月の消費者物価指数(IPCA)が+4%を割り込むなど、長年の課題であるインフレ抑制が実現しつつあります。そのため、金融緩和の余地が拡大しています。

中銀は声明で「インフレ率は好ましい水準を維持している。ブラジル経済は短期的に安定し、長期的には徐々に回復している」としました。ブラジル地理統計院(IBGE)が31日に発表した統計では、失業率が3年ぶりの低下に転じました。

 図表1 ブラジルの政策金利

2. インフレ率が減速

一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+3.6%と、前月の同+4.08%から減速(図表2参照)。伸び率は市場予想の+3.77%を下回り、インフレ率は9か月連続で低下。中銀のインフレ目標値である+4.5%に収まっています。

 図表2 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

3. 1-3月期GDPは▲0.4%に改善

他方、ブラジル地理統計院は6月1日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲0.4%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は12四半期連続。ただ、昨年10-12月期の▲2.5%からはマイナス幅が縮小。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

さらに、前期比では+1%となり、2年3カ月ぶりにプラス成長に転じました。ブラジル地理統計院は、穀物収入の増加で、農業部門が+13.4%になったことが寄与したと述べました。

ブラジル地理統計院の発表を受けて、ブラジルのテメル大統領は、同国の最悪の過去10年における最悪のリセッション(景気後退)が終了したと述べました。同氏は「ブラジルは景気後退を克服した。本日の発表は、ブラジルの景気回復が確実なものになったことを示唆している」としました。

4. 政治、課題、リスク

ルセフ前大統領が断崖裁判によって昨年8月に罷免され、副大統領のテメル氏が大統領に昇格。テメル大統領は不況が続く経済の立て直し、財政の再建、投資環境の改善を優先課題とし、改革を進める意向を示してきました。株式、為替市場もテメル政権がルセフ前政権よりも市場よりの政策をとると期待し、また景気にも上向きの兆候が出ていました。

ただ、テメル氏への汚職の疑惑などが噴出。ブラジル連邦検察庁のジャノー長官は6月26日にテメル大統領を収賄容疑で起訴。同大統領の支持率は1ケタ台に低迷。大規模な汚職疑惑により現職大統領が起訴されたことにより、政権基盤が不安定となっています。

大統領に対する起訴の受理には、下院の3分の2の賛成が必要。テメル大統領率いる与党連合では、起訴の受理を阻止できるとしています。しかし、今後も大統領については、恐喝や司法妨害の容疑などでも起訴される見込み。支持率がさらに低下する可能性があります。さらに、支持率の低下などにより、期待されていた労働法の改正が見込めなくなったとの指摘もあります。

景気については一部に明るさがみられるものの、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC諸国による原油減産継続に新鮮味がなく、シェールガスの増産も続いていることから、原油価格など鉱物資源の価格が停滞しています。

輸出も依然として鉱物資源、あるいは農産物など一次産業が中心となっており、自動車など製造業の育成が遅れています。インフレ率については急速に低下しているものの、財政赤字と経常収支赤字の縮小も課題となっており、引き続きこれらの問題が株価、通貨の上値を抑える可能性があります。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。14年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。15年に入っても下落が継続。16年1月末には1ドル=3.999レアルとなり、14年12月末比では▲50.4%の大幅下落(図表4参照)。

その後、原油価格の反発などにより、通貨も上昇に転じました。15年には通貨レアルは対ドルで+17.8%の大幅上昇。ただ、17年に入ると原油価格が停滞したことなどにより、16年末から5月末まで、+0.42%の小幅上昇にとどまっています。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価は15年には年初から4月にかけて上昇したものの、その後下落に転じて、年末まで引き続き軟調な展開。中国の景気減速、世界的な株価の提供もあり、さらに下落し、16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントの安値を付けました。

その後は原油価格の反発などにより、株価は上昇に転じました。16年には株価はボベスパ指数でみて+38.9%と、大幅上昇。17年に入ると、原油価格が停滞したことなどにより、ア株価は16年末から17年5月まで+4.1%と、小幅上昇にとどまりました。

次回は、アルゼンチンを見る予定です。

中南米諸国の展望 (1) 平成29年6月23日

ブラジルなど中南米主要国は、2008年前半までは、世界的な資源ブームにより大きく潤うこととなりました。ただ、特に14年には原油価格などが急落し、曲り角を迎えました。16年以降には、資源価格の回復とともに、景気回復の動きも見られます。主要国の現状と今後の展望を探ります。

1.中南米の概観

中南米諸国全体では、人口が6億290万人、名目国内総生産(GDP)5兆7990億ドル、1人当たりGDPは9,619ドル(国際通貨基金=IMF 2014年 データ)(地図1参照)。全体として、原油、鉄鉱石、銅などの鉱産物資源に恵まれており、ブラジル、アルゼンチンを中心として農産物の生産も盛ん。人口も多く今後の発展が期待されていますが、製造業の発達は必ずしも順調ではありません。

 地図1 中南米主要国

経済共同体としては、大きくメルコスルと太平洋同盟に分かれます。メルコスルは全体として、人口2億9143万人、名目GDP2兆7110億ドル、同1人当りGDP10,033ドル。5か国が関税同盟を結成しており、ボリビアが各国議会の批准待ち(IMF17年4月データ)。太平洋同盟は同様に、人口2億2390万人、名目GDP1兆7700億ドル、同1人当り8,530ドル。かつてはブラジルを中心とするメルコスルが中南米諸国の経済の中心となっていましたが、近年はむしろ太平洋同盟のほうに勢いがあります(図表1参照)。

 図表1 メルコスルと太平洋同盟

2. 低成長に転じる

メルコスルの国内総生産(GDP)成長率からみると、2004年以降には概ね順調に推移していたものの、2008年9月のリーマン・ショックとその後の世界的な金融不況により、2009年にはブラジルの成長率が▲0.1%になるなど、各国とも落ち込みました(図表2参照)。

 図表2 メルコスル諸国の成長率予想

さらに、原油、鉄鉱石など資源価格の下落などの影響で、16年にはブラジルが▲3.5%、アルゼンチン▲2.2%、ベネズエラ▲18.0%など大幅な落ち込みとなりました。

次に太平洋同盟諸国を見ると、2007年までは概ね順調に推移し、07年の成長率はチリ+4.9%、ペルー+8.5%、メキシコ+3.1%など、まずまずの水準で推移(図表3参照)。その後はリーマン・ショックなどにより、09年にはチリ▲1.5%、ペルー+1.0%、メキシコ▲4.7%などと低迷。ただ、10年以降には急速に回復し、メルコスル同盟諸国と比較して、堅調さが目立っています。14-16年においても、原油価格下落の影響を受けたものの、メルコスル諸国と比較すると、相対的に景気は優位性を保ちました。

 図表3 太平洋同盟諸国の成長率予想

3. 資源価格が大幅下落

このように中南米諸国、特にメルコスル主要国の成長率は大幅に低下してきたわけですが、その主な原因は中国の成長率の急激な鈍化、それに伴う原油など資源価格の大幅下落です。商品市場の代表的な指数の1つであるCRB指数を見ると、14年5月以降、一貫して急激に下落(図表4参照)。原油、鉄鉱石、銅など主要な鉱産物、あるいは金、プラチナなど貴金属の下落を反映しています。下落は16年初めまで継続。

13年前半頃まで、中国の高い成長率に支えられ、原油など鉱物資源価格は堅調に推移。その後は中国による原油、鉄鉱石など資源の「爆買い」が一転して需要の減少となり、資源価格が低下、ブラジル、ベネズエラなど資源輸出に依存する国にとっては、大きな打撃となりました。

ただ、16年初頭からは石油輸出国機構(OPEC)による原油減産、中国の「爆買い」後退による影響の緩和、米国などの景気回復で資源価格はやや持ち直しました。ただ、17年5月にはOPECなどが原油減産の延長で党委したものの、真新しい材料がなく、米国のシェールガスの増産も続いているため、原油価格は小幅反落。CRB指数も軟調な展開となりました。

 図表4 CRB指数

4. 左派勢力が後退

政治の面では、左派勢力が後退。まず、11月22日には任期満了に伴い、アルゼンチンで大統領選の決選投票が行われました。中道右派の野党候補でブエノスアイレス市長のマウリシオ・マクリ氏(56)が当選。12年間にわたる中道左派政権の継承を掲げる与党候補を破り、当選。

アルゼンチンでは、クリスチーナ・キルチネル前大統領が大衆迎合的な政治を行い、消費者物価(CPI)上昇率も高く、政府統計についても国際通貨基金(IMF)が疑問を呈していました。前政権では、国債のデフォルト(元利金の不払い)を巡って一部債権者と対立。中道右派のマクリ氏が新たに当選したことにより、市場寄りの政治になるものと期待されています。

続いて、ベネズエラで12月6日に実施された国会議員選挙(一院制、定数167)では、中道右派の野党連合民主統一会議(MUD)が大勝しました(写真1参照)。マドゥロ大統領率いる与党の統一社会党は大敗しました。同国では経済危機が深刻化。その後、大統領よりの最高裁が議会の停止を命じて、さらに停止が解除されるなど混乱が続いています。MUDは与党及び大統領との対決姿勢を強めています。

 写真1 総選挙で大勝した野党の指導者エンリケ・カプリレス氏

さらに、ブラジルでは左派のルセフ大統領の人気が急落。ルセフ大統領は国営企業を巡る汚職に関連しているとして、ブラジル議会が大統領の弾劾を行いました。昨年8月にルセフ大統領の弾劾が成立して、テメル副大統領が大統領に昇格。18年末まで大統領を務めることになっています。

しかし、テメル氏は副大統領候補としてルセフ氏とともに臨んだ14年の選挙で、選挙資金名目として1500万レアル(約5億2000万円)の賄賂を受け取ったとする疑惑などが噴出。一時は市場寄りの政策を打ち出すとして、ブラジルでは株式市場などがテメル新政権に期待したものの、汚職疑惑の噴出により、株式・為替市場はこのところ勢いを欠く展開となっています。

一方、米国とキューバはオバマ前大統領が両国の国交を再開。キューバは長らく中南米における反米勢力の急先鋒であったわけですが、米国との国交回復により、遅れている経済の立て直しに向かうこととなりました。

ただ、今年1月に発足した米トランプ政権は一転してキューバに対して厳しい態度をとっています。6月16日には、「国民を苦しめてきたカストロ政権を見逃すわけにはいかない」とし、「オバマ政権による一方的なキューバとの合意を取り消す」としました。

5. 混沌とした情勢が継続か

一時は景気の回復が期待されたブラジルで、政治の混乱などにより景気の停滞感が強まっています。一方、トランプ大統領との対立により、通貨の下落、国内総生産(GDP)成長率の鈍化などが心配されたメキシコでは、以外に底堅い景気を保っています。ベネズエラでは、物不足、物価の高騰、与野党の対立の先鋭化、企業の一部国有化に対する産業界の反発など、混迷が深まっています。中南米全体としては、混沌とした情勢が継続することも考えられます。

次回からは、ブラジルなど主要国の動きを見る予定です。

原油価格の動向と中東諸国 平成29年6月16日

中東における「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約7年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権の中東への関与、中東諸国の政治情勢、原油価格の動向などを見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ大統領は、オバマ前政権とは異なり、サウジアラビアとの関係を重視し、イランを敵視する姿勢を鮮明にしています。同大統領は5月21日にサウジアラビアの首都リヤドを訪問し、イスラム圏54か国の代表を集めた「米・アラブ・イスラム代表者会議」で演説。イスラム国(IS)やアルカイダなどの「暴力的過激主義」との戦いで、イスラム諸国との連携を呼びかけました。

トランプ氏は、テロとの戦いを「善と悪との戦いだ」と位置づけ、各国に対してイスラム諸国主導による「過激思想の撲滅」の実現に向けた連携を訴えました。特にイランについては、「シリアのアサド政権を支援している」として非難し、イランが支援する「テロ組織」の封じ込めを訴えました。

 写真1 歓迎式典に参加したサウジアラビアのサルマン国王(右)とトランプ大統領

3. サウジがカタールと断交

サウジアラビアとエジプト、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)は6月5日に、カタールと断交すると発表。湾岸諸国では、カタールがテロに資金援助しているとの非難があり、緊張が高まっていました。

国営サウジ通信によると、サウジアラビア政府は、「テロリズムと過激主義の危険から国の治安を守る」ために、カタールとの外交関係を断絶し、国境を閉鎖する。陸・海・空のすべての玄関口の閉ざすとしました。

エジプト外務省は、カタール政府が「テロリズムを支援している」とし、エジプト国内の港湾と空港へのカタール国籍の舟や航空機のアクセスと拒否するとの方針と発表。

さらに、バーレーン通信は、カタール政府が「バーレーンの治安と安定を揺るがし、内政干渉を行う」と主張したため、国交を断絶したと報道しました。

 写真2 カタールの首都ドーハ

4. モスル奪還作戦が進行

イラクとシリアにまたがるイスラム系過激派組織「イスラム国」は、イラクの北部主要都市モスルを「首都」としています。そのモスルを奪還するためのイラク軍の攻勢が強まっています。

イラクの陸軍参謀長は4月30日に、過激派組織「イスラム国」(IS)から、モスルを奪還する作戦が5月中に終了するとの見通しを示唆。奪還作戦が「長くても3週間」で完了するとの見通しを示しました。

イラク軍のモスル奪還作戦は、米軍が主導する有志連合軍の支援を受けています。昨年10月の作戦開始以来、ISにおける大変の支配地域を失っており、現在は北西部を残すのみとなっています。

 写真3 モスルの市街戦

5. OPECとロシアなどが原油減産で合意

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC主要産油国は5月25日に、原油の減産を9か月延長することで合意。昨年11月に成立した減産合意は、世界的な供給過剰の解消や持続的な価格回復を実現できませんでした。

OPEC加盟国とロシアなど非OPEC主要国は、2018年3月までの減産延長に合意。ただ、今回から新たに減産に加わる加盟国はなく、18年の遅い時期までの減産を継続する選択肢も示しませんでした。

6. 原油価格の動き

原油価格を見ておきましょう。代表的な指標の1つであるNYのWTIは、16年2月には月末値でみて1バレル=30.32ドルの安値を付け、その後は回復。OPECロシアなど主要産油国の減産合意もあり、17年2月末には、同52.50ドル迄回復。

 図表2 NY原油価格(WTI)

ただ、今のところ原油価格の反発力は弱く、最近では1バレル=50ドルを下回る点かい。米国のシェールガス企業が増産姿勢を示していることもあり、原油価格の大幅な上昇は見込みにくい情勢。産油国の間では、減産を延長せずに増産に転じれば、原油価格が急落するのではないかとの警戒感もあります。

ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価 平成29年6月9日

前回の財政、政治に続き、リスク要因、課題、為替、株価などを見ます。

1. 人口

ロシア経済にとって、最大の足かせとなるのは人口問題。人口の予測で代表的なものとして、国連人口統計(UN World Population Prospects, 2015Revision)があります。この統計によると、ロシアの人口は、2010年には1億4295万人となっています(図表1参照)。

 図表1 ロシアの人口ピラミッド(2010年予想)

ところが、2050年には1億2618万人と、急激に減少する見込み。

 図表2 ロシアの人口ピラミッド(2050年予想)

更に、全体の人口が減少するだけでなく、年代別の人口構成にも問題があります。一般に14歳以下の人口を幼年人口、65以上を老年人口と呼び、両者の合計が非生産人口となります。これに対して、15-64歳を生産人口と呼び、後者の比率が前者に対して相対的に上昇する局面では、経済が大きく発展することが多いとされています。

2010年で見ると、生産年齢人口1億316万人に対して、非生産年齢人口3978万人で、後者の前者に対する比率は38.5%。これに対して、2050年にはそれぞれ7570万人、5048万人となり、同比率は66.6%へと急上昇する見込み。

ロシアの場合、ウォッカの飲みすぎなどの弊害により、もともと平均寿命は相対的に短いわけですが、人口減少が続く見込み。2000-2010年の人口減少の速度は年平均▲0.23%だったものの、今後は▲0.35%へと加速する見込み。人口が減少する中で、どのように1人当たりGDPを引き上げるかが課題。教育水準は高く、理工系大卒者は世界5位。その一方で設備更新が不十分で、インフラ整備も遅れており、潜在的な国力を十分生かしていないと言えます。

2. 資源への依存

ロシア世界有数の資源大国ではあるが、そのためにかえって、製造業あるいはサービス業などの発展が遅れている面があります。政府の歳入も資源価格頼みであるが、輸出においても資源の比率が非常に高くなっています。

ロシア経済は原油及び天然ガスなど資源に大きく依存しており、国内総生産(GDP)と原油価格がかなり連動していることについては、第1回のレポートで報告した通りです。では、株価との関連ではどうでしょうか。ロシアの代表的な株価指数の1つであるRTS指数と、原油価格の代表的な指標の1つであるNYのWTI先物を比較するとほぼ連動していることが見て撮れます(図表3参照)。

 図表3 ロシアRTS指数とWTI

猶、17年5月25日に、石油輸出国機構(OPEC)はウィーンで開催された総会で、当初17年6月末としていた「協調減産」の期限を、9か月延長することで合意。減産の新たな期限は18年3月末となりました。これに先立ち、サウジアラビアは、ロシアとの間で、原油の減産の延長について合意。OPEC及び非OPECの主要国の間で減産について合意が成立しています。

米エネルギー情報局(EIA)では、原油価格の中期的な見通しについて、ベース・シナリオで年率+2.7%の上昇と予想しています(図表4参照)。米国シェール・オイルは、原油価格が採算レベルと上回ると即座に増産が可能であり、2000年代のような原油価格の急激な上昇は見込めないとしています。

 図表4 EIAによる原油価格見通し

3. 政治的リスク

政治的には、プーチン大統領が今のところ高い支持率を維持しており、国内では大きな波乱要因は見当たりません。ただ、18年3月11日の大統領選においては、国内の景気低迷により、プーチン氏に対する支持率が低下する可能性があり、その場合、同氏が大統領選に出馬しない可能性もあります。

また、外交の面では、米国でトランプ政権が発足したことにより、ロシアに対する欧米の経済制裁の解除の可能性もあるとされました。ただ、米国とロシアとの関係は、米国によるシリア攻撃などにより悪化しており、欧米の経済性は、少なくとも当面、継続すると予想されます。

4. 株価と為替、原油価格

上記の通り、ロシア経済は原油、天然ガスなど資源への依存度が高いため、株価は原油価格にほぼ連動して推移してきました。代表的な株価指数の1つであるRTS指数は、13年以降に大幅下落。15年1月には737.35ポイントの安値を付け、さらに、16年1月には745.30ポイントの二番底を付けました。

ただ、その後は原油価格及び景気の回復とともにRTS指数も反発に転じ、17年に入っても、比較的堅調な展開となりました。

 図表5 RTS指数とロシア・ルーブル(RUB/USD)

通貨ルーブルもほぼ同様の展開。14年以降に対ドルで大幅に下落。15年1月には1ドル=69.20ルーブルの安値を付け、さらに、16年1月には同75.72ドルの二番底を付けました。

このように、ロシアの経済、ひいては株価、為替の見通しについては、依存度の高い欧州経済の動き、あるいは資源価格次第ということになります。景気及び資源価格の回復により、株価と通貨は16年には大幅な上昇となってものの、今後も上昇が続くかどうかは、不透明な情勢であるといえるでしょう。

ロシア経済の展望 (3) 財政、政治 平成29年6月2日

前回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高を見ました。今回は財政、欧米による経済制裁、政治などを見ます。

1. 財政バッファーを温存

ロシアの財政は、かなりの部分を原油及び天然ガスなど鉱物資源に頼おり、原油価格・天然ガス価格低迷により、財政赤字が拡大。2015-16年には、原油価格低迷により、財政赤字が拡大。財政赤字の埋め合わせのために、財政バッファー(基金)の取り崩しが進行。

財政バッファーは予備基金と国民福祉年金に分かれており、予備基金はロシア中銀への外貨建て預金として全額支出目的は、在氏江赤字の補填と、対外債務の繰上償還。国民福祉基金の支出目的は、年金基金の赤字補填と、任意追加保険料の積み増し補助。

17-19年には、歳出削減により、財政赤字を縮小させることにより、財政バッファーを温存させる予定。1バレル=40ドルを想定しており、予備基金は17年途中で底をつくものの、国民福祉基金は17年末時点で430億ドルが残ると想定(図表1参照)。

 図表1 財政バッファーの残高

2. 財政健全化の鍵

ロシアはこのように、財政健全化を図っているわけですが、その鍵となるのは、原油価格、通貨ルーブル、国防費削減。

まず、歳入面では、原油価格とルーブル相場が問題。予算では、1バレル=40ドルを想定。実際の原油価格はこの想定を上回る可能性が高く、財政に対して、増収効果となると予想されます。

16年の財政赤字増加の主な要因は、国防費の増加。16年の国防費増加は、軍産複合体による借り入れ増加に対する政府保証の前倒し履行。政府保証の大勝となっていた債務は1兆ルーブル。このうち17-18年に返済期限が到来する8000億ルーブルの政府保証を前倒して履行。

3. 欧米による経済制裁

ロシアはソ連崩壊、独立国家共同体成立の後、特にプーチン政権になってからは、かつてのソ連の威光回復を目指す動きを強めてきました。特に、ウクライナが親欧州政権となり、北大西洋条約(NATO)に加入すると、ロシアはNATOと国境接することになる為、ロシアはウクライナへの介入姿勢を強めました。

その後、14年のウクライナ政変により、親ロシアであるヤヌコヴィッチ政権が崩壊して、暫定政権が発足。これに対して、ロシア系住民が多数を占めるクリミアでは、一部の住民が抗議し、新政権と衝突。これを機に、ロシアは軍事介入し、住民投票を経て、ロシアはクリミアをロシアに併合しました。

これに反発して、欧州連等(EU)や米国が、ロシアの主要銀行・企業に対する金融取引の制限、軍需技術や汎用品の輸出禁止、北極海・深海大陸棚での油田探査や掘削、シェールオイル掘削に使用される先端技術提供禁止などの経済制裁を発動。ロシアはEUからの農作物禁輸などの逆制裁発動に踏み切り、貿易が減少。

欧米による経済制裁による、ロシア会税は大きな打撃を受けました。特に、西側金融機関のロシア向け与信残高が急減。ただ、ロシア貿易総額に占める格好の割合は、拡大を続ける中国を除いて縮小傾向にありました。また、ロシアへの直接投資(FDI)は、14年の220億ドルから15年には65億ドルに急減。ただ、独・日・英からのFDIは増加。

4. プーチン大統領が高支持率を維持

ロシアでは、2018年3月11日に大統領選挙が予定されています。今のところ、プーチン大統領の再出馬・当選の可能性が高くなっています。ロシアがクリミアを14年3月に併合し、それ以来プーチン大統領派80%超の高い支持率を維持(図表2参照)。16年9月の系ン選挙では、与党の「統一ロシア」が全450議席中、343議席(全体の76%)を獲得して圧勝。

 図表2 プーチン大統領の支持率

5. 反プーチンの動きも

まず、ロシア各地で17年3月以降に、大型長距離トラックの運転手がストライキを展開。政府が15年に導入した通行料金徴収制度「プラトン」の撤廃を主張。同時に政府の「無能ぶり」を糾弾しており、新たな反政府運動に発展しています。

4月17日には、モスクワ東部から約20km離れた大型モールの駐車場で、大型トラック7台がストを展開。フロントガラスには「プラトン撤廃」と書いた横断幕を掲載。警察のパトカー7台が駆けつけて退去を命じたものの、運転手たちは「誰にも迷惑はかけていない」として、押し問答となりました(写真1参照)。

 写真1 運転手にトラックの撤去を命じる警察官

さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた反政府運動も広がりを見せています。野党指導者で著名ブロガーのアレクセイ・ナワリニー氏(40)がネットで呼びかけたことによる反政府腐敗デモは、3月26日にはモスクワを含むロシア全土の主要89都市で開催されました。組織化されていないデモは取り締まるのが困難な面があり、プーチン政権に打撃となりました。

26日午後のモスクワ中心部のベルスカヤ通りでは、デモが始まるとナワリニー氏が、直ちに治安部隊に逮捕されました。ただ、行進は夕方迄継続し、プラカードを掲げるなどして、数百人の市民が拘束されました。

ただ、参加者は一般に通行人と区別がつかず、多くの市民はスマートフォンを掲げて、各所の陳部隊の動きを撮影。デモ隊には、けが人が殆ど出ませんでした。デモのきっかけは、ナワリニー氏が撮影したドキュメンタリー動画。メドベージェフ首相が賄賂で莫大な財産を得たとするもので、ユーチューブでの視聴回数は、1300万回を越えました。

6. トランプ政権による対露制裁解除の可能性は低下

一方、米トランプ大統領は、就任前の選挙期間中から、親露姿勢を強調。ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)諸国と距離を置く姿勢を示し、他方ロシアとの協調路線を示唆。大統領に当選後には、ロシアとの関係が深いとされるティラーソン氏(エクソン・モービルCEO)を国務長官に指名し、トランプ新政権がロシアとの関係修復を図るとの予想が高まりました。

ところが、ロシアとの協調を推進すると見られたフリン大統領補佐官が2月13日に辞任。さらに、シリアが化学兵器を使用したことに対する報復として、米国は4月6日にシリアへの空爆を実施。米露の関係が急速に悪化したことにより、米国による対露制裁解除の可能性は大きく後退しました。

7. プーチン大統領の再選出馬は微妙

プーチン大統領は、今のところ18年3月11日の大統領選に出馬するとみられるものの、出馬は微妙であるとの見方もあります。確かに、ロシアによるクリミア併合以降、同氏への支持率は高止まりしているものの、ロシア国内では貧困層の比率が上昇。さらに、貧富の格差を示すと言われるジニ係数も上昇。特に若い世代は豊かさを実感していないとされ、プーチン氏の政権地盤は、必ずしも盤石とは言えないとの見方もあります。

次回は、リスク要因、課題、為替、株価などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利 平成29年5月26日

前回は他のBRICs諸国との成長率・株価の比較、経済構造の特徴などを見ました。今回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高などを見ていきます。

1. 10-12月期GDP成長率は+0.3%

ロシア連邦統計局が3月31日発表した統計によると、10-12月期国内総生産(GDP)は、市場の予想通り、前年同期比+0.3%(図表1参照、速報値)。昨年10-12月期の▲0.4%からプラス圏に浮上しました。7四半期にわたるマイナス成長から脱却。16年通期では▲0.2%で、速報値から変わらず。

 図表1 ロシアの四半期成長率(前年同期比)

2. インフレ率が鈍化

国家統計局から5月5日発表された4月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+4.1%と、前月の+4.3%からさらに鈍化(図表2参照)。市場予想の+4.2%から下振れ。12年5月以来の低水準。前月比は+0.3%で、前月の+0.1%から加速。

 図表2 ロシアの消費物価指数前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き下げ

一方、ロシア中央銀行は4月28日に政策決定会合を開き、主要政策金利である1週間物レポ入札最低金利を▲0.5%引き下げて9.25%にすることを決定(図表3参照)。市場では概ね▲0.25%ポイントの利下げを見込んでいたため、予想を上回る下げ幅となりました。3月に続いての連続の利下げ。

 図表3 ロシアの政策金利

マビウリナ中銀は先週に、インフレ率が目標とする+4%に接近したため、▲0.25-0.50%ポイントの利下げが協議される可能性があると発言。政策金利のガイダンスを示唆。市場では、年末までにロシアの政策金利は8.5%までの低下を見込んでいます。

4. 成長率と財政収支

2008年のリーマンショックの前、すなわち金融危機の前の時期である2003年から2008年前半については、天然ガス、原油など資源価格上昇により、輸出、個人消費、固定資産投資が拡大。年平均で+7.8%の高成長を遂げました(図表4参照)。

しかし、2008年9月のリーマンショック、2008年後半から2009年にかけての資源価格の下落により、輸出・所得が減少し、個人消費など内需が後退。また、財政収支も悪化し、GDP比の政府債務も拡大。2010年以降やや景気が持ち直したものの、12年は+3.5%成長にとどまりました(IMFによる)。その後、原油、原燃ガスなど資源価格の下落により15-16年にはマイナス成長に陥りました。それとともに、財政収支も再び悪化しました。

 図表4 成長率とGDP比財政収支

5. 金融市場の過度の悲観論が後退

財政収支は、主な収入源である原油、天然ガスの輸出・採取税の落ち込みにより、15年に悪化。16年にはGDP比で▲3.12%まで落ち込みました(図表4参照)。ただ、原油価格高騰時に蓄えた予備資金の取り崩しにより、財政の埋め合わせを行いました。

一方、15年の貿易・経常収支は欧米による制裁に対抗して、欧州からの農作物の輸入を制限したことなどにより、黒字を維持。資本収支移転は▲333億ドルの赤字となるも、改善傾向にあります。

これにより、原油・天然ガス価格の下落により一時枯渇が心配された外貨準備高もほぼ横這いで推移。対外債務残高も減少に転じました。これにより、14年以降のインフレ率上昇、原油・天然ガスの輸出の不振、GDPの下振れなどによる混乱からは、ひとまず脱却しつつあると言えます。

次回は、財政、欧米による経済制裁、政治などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (1) 経済の構造 平成29年5月19日

ウクライナ問題を契機とした欧米諸国による経済制裁、原油価格の低迷により、ロシア経済は昨年までは低迷していました。このところ、景気にはやや明るい兆しも見えます。ロシア経済を展望します。

1. ロシアの基礎データ

ロシアの面積は約1,707万km2。2位のカナダの998万km2を大きく上回っており、世界第1位。日本の45倍、米国の2倍近い。また、人口は1億4441万人(2015年)で、世界9位(図表1参照)。宗教はロシア正教が多いものの、イスラム教、仏教、ユダヤ教徒などもいます(以上、日本外務省による)。

ロシアは広大な領土に豊富な資源を有しており、また強力な軍事力を背景に、外交・政治的にも大きな影響力を誇っています。国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、シリアに対する国連の制裁について、中国と共に反対しています。国連の常任理事会では、欧米諸国と対立する場面が増えています。

 図表1 世界人口ランキング・国別順位(2015年)

2. 政治体制の特徴

ロシアでは、大統領に権限が集中しています。大統領は直接選挙で選ばれ、1期6年、連続2期まで務めることが可能。首相の任免権を持っており、首相提案に基づき、副首相、閣僚を任免し、大統領府、安全保障会議を組織し、内外政策の基本方針を策定します。また下院の解散、上院議員の解任を行うことができ、採択された法案を拒否することもできます。その他、憲法裁判所、最高裁判所の裁判官、中央銀行総裁の人事を提案することにより、事実上の任免権を握っています。

12年3月4日における大統領選挙までは、メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭制という変則的な体制でした。同選挙でプーチン首相(当時)が6割超の得票で大統領に返り咲き。メドベージェフ首相の影響力が後退し、Putin大統領の権限が強まりました。

3. BRICs諸国との成長率の比較

ではここで、ほかのBRICs諸国及び日本と対比して、ロシアの成長率について見ましょう。IMF(国際通貨基金)が17年4月に発表した「世界経済見通し(World Economic Outlook)」では、15年のロシア成長率予想は▲2.8%、16年が▲0.2%と、マイナス成長に沈みました(図表2参照)。同じく資源国であるブラジルも15-16年にはマイナスに落ち込んでおり、原油など資源価格の低迷が影響しました。インド、中国は相対的に好調。ロシアは、17年には+0.165%と、やや回復する見込み。

 図表2 BRICs諸国及び日本の成長率予想

4. 経済構造の特徴

ロシア経済の特徴として、資源と欧州への依存度が高いことがあります。まず、輸出においては、原油、天然ガスなど資源が約7割を占めています。そのため、経済の成長も、資源価格の影響を強く受けています。原油価格と国内総生産(GDP)の推移をみると、図表3の通り。

13年末には、NYの原油の代表的な指標であるWTI先物価格は、1バレル=97.90ドルでしたが、その後大幅に下落。15年末には同37.19ドルまで落ち込み、それとともにロシアのGDPも大きく下落。その後は、16年末の同51.97ドルまで回復。

また、輸出の5割超がEU(欧州連合)向けであり、ユーロ圏向けは4割。原油のほか、天然ガスは欧州向けのパイプラインが敷設されており、欧州との結びつきが強くなっています。そのため、ロシアの景気は、欧州の景気動向に大きく左右される傾向があります。

 図表3 ロシアGDPと原油価格(WTI先物)

5. 先進国と新興国の株価の動き

では、15年末との比較で、BRICs諸国及び日米の株価の騰落率はどうでしょうか。15年末と今年の4月末日終値で比較すると日本が▲1.0%、米国が+19.0%(図表5参照)。BRICs諸国では、非資源国である中国が▲11.7%、インドが+15.2%。中国では、投資家の資金が主に不動産に向いているため、株式市場はこのところ活気に欠ける展開。

一方、ロシアは+44.2%と大幅高。ウクライナ問題に端を発する欧米の経済制裁が継続しているものの、原油価格の回復を好感。同じ資源国であるブラジルも+50.9%と大幅高。ブラジルの景気も低迷しているものの、今後の景気回復を株価が先取りする動きであると言えます。

 図表4 日米BRICs諸国の株価騰落率(2015年末と17年4月30日の比較)

次回はロシアの成長率、金利、失業率などを見る予定です。

トランプ政権誕生と中東諸国 平成29年5月12日

チュニジアが発端となった「アラブの春」。「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約6年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権誕生と中東諸国の情勢について見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権誕生と中東への関与

米第45代大統領のトランプ氏は、就任前の選挙期間中においても、中東について余り言及していませんでした。イスラム国(IS)からの移民の流入を制限する考えを示唆してはいたものの、中東諸国に対して具体的にどのように関与するのか、明示していませんでした。

1月21日の就任演説においても、「文明世界を一致団結させ、イスラム過激主義のテロと戦う」と述べただけで、具体策は示しませんでした。また、ホワイトハウスのウェブサイトにおける補足説明では、軍事作戦、資金途絶、情報共有、宣伝・勧誘阻止により、ISなどを破壊するとしました。

3. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

4. IS(イスラム国)掃討作戦を強化

トランプ政権は、中東においては特にイラク、シリア、イエメン、ソマリアを重視しているとみられます。イラクとシリアではISの勢力が強く、イエメン、ソマリアではアルカイダ系の組織が跋扈しています。アラビア半島から欧州に物資を運搬するにはアデン湾とバブエル・マンデブ海峡があり、地政学上重要な地域となっています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ政権は特にIS(イスラム国)の壊滅を優先させており、イラクではISの発祥の地であり、イラクの第二の都市であるモスル奪還作戦が進行しています。既に東部はイラク軍が制圧しており、西部にも侵攻。2月24日にはイラク治安部隊がモスル西部に入り、旧市街のモスクに進撃しました。

ただ、西部の旧市街は道が狭く洗車が入りにくく、地元住人を「人間の盾」としており、犠牲者が出やすい状況にあります。米国主導の有志連合による爆撃で多数の民間人が死亡したこともあり、慎重な戦略をとっています。

3月20日には、トランプ大統領はイラクのアッバス首相をワシントンに招き、その後に68か国が集まる閣僚級会議を開催。IS掃討に向けて、最終的な軍事作戦の協議などを行いました。ただ、モスルを奪還しても、ISの戦闘要員が地下に潜る可能性もあり、IS国をイラクから直ちに一掃することになるかどうかについては、予断を許しません。

 写真2 イラク・モスル東部で、ISからの奪還作戦中に子供にキスする兵士

5. イランとの緊張が高まる

トランプ政権は、サウジアラビア、あるいはエジプトなどとの関係の修復を進める一方、イランに対しては敵対する政策をとっています。トランプ氏は選挙期間中から、イランと米欧など6か国による核合意について「イラン核合意は私が今までに見た最もばかげた取引の1つ」と酷評。

ロンドンを訪問したマティス米国防長官は3月13日に、12年に行った「米国の直面する3つの脅威はイラン、イラン、イラン」であるについて問われ、「イランはテロ輸出国として行動し続けており、依然として戦闘活動をサポートしている」都市、イランがテロを支援していると非難しました。

一方、イラン内務省は5月19日に予定される大統領選の最終候補者6人を発表。保守穏健派の現職ロウハニ大統領の他、ハメネイ師に近いとされるリアシ前検事総省、前回に時点であったガリバル・テヘラン市長らが認められました。ハメネイ師の助言に逆らって出馬表明したアハマディネジャド前大統領は認められませんでした。

当初はロウハニ大統領の再選が確実視されていたものの、米国がイランに対して強硬姿勢を撮っているため、保守強硬派が勢いづき、接戦になる可能性もあります。これに先立ち、イランのロウハニ大統領はロシアを訪問。プーチン大統領と会談。プーチン大統領派ロウハニ大統領に「イランは良好な隣国で安定し信頼に足りるパートナー国家である」としました。

6. シリアでの混乱が継続

トランプ政権は、当初はロシアを強調してシリアの解決に当たる姿勢をとっていました。ところが、シリアが化学兵器を使用。これに基づきトランプ大統領はシリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃。ロシアとの関係が一挙に悪化しました。

トランプ大統領は4月6日に記者会見し、アサド・シリア大統領が罪のない市民に対して恐ろしい化学兵器を使用したとして非難。化学兵器を使用した攻撃の拠点であるシリアの飛行場に対して軍事攻撃を支持したと述べました。

これに対して、ロシアはイラン、トルコとの関係を深め、シリアの停戦を主導しようとしています。ただ、停戦が発効しても実際にはシリア政府軍による反政府軍への攻撃が継続。また、米国がシリア内のクルド人勢力に対して武器を供与したことに対して、トルコが反発。シリアを巡る混乱は一層深まっている感があります。

ただ、石油輸出国機構(OPEC)による石油減産の継続の見通し、それへのロシアなど非OPEDC国の協調、シェールガス増産の見通しなどもあり、原油価格は今のところ安定しています。今度の日程では、イランの大統領選が最も注目されています。

IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し 平成29年5月5日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、物価、金利について報告しました。今回は、景気見通しについて。

1. 景気見通しの基となる主な要因

景気見通しの主な要因はある程度、先進国と新興国及び発展途上国の間の違いにあります。先進国の中では、財政支出拡大で米国の景気が上向く見込み。欧州では、08-09年及び11-12年の危機からの回復により、特に欧州では今後数年で、循環的な回復を見込んでいます。ただ、中期的には人口要因と生産性の弱い傾向が成長を抑制する見込み。

新興国の中で、特にエネルギーと金属の輸出に依存している国では、商品市況の低迷が、短期及び中期の景気見通しに最も影響しています。ここ数年の生産性の伸びの低迷が、多くの新興国及び発展途上国にとっては課題となっています。

2. 先進国では循環的回復が継続

多くの先進国では、08-09年及び11-12年の危機からの回復が継続。多くの国において生産は依然として潜在力からを下回っています。多くの国で、特にユーロ圏では失業率が11-12年の水準と上回っています。バランスシート調整のため、多数の国で景気回復は緩慢。

多くの先進国では、今後数年にわたり、景気回復と生産ギャップの縮小により成長率は潜在成長率をやや上回る見通し。16年の成長率が予想を上回り、循環的景気回復が強まっている可能性があります。成長率は生産ギャップの大きい国、特に欧州において予想を上回ったと見られます(図表1参照)。バランスシートの回復と需要の下支えにより、生産設備が過剰である国における景気回復が強まる見込み。

 図表1 16年の成長率改定と15年の生産ギャップ

3. 新興国と発展途上国における交易条件の調整

中国の景気減速と商品価格の変動が、新興国と発展途上国で、特に資源輸出国においては成長率の主な牽引の要因となって来ました(図表2参照)。中国の成長率と資源輸出国及びその他の非商品輸出国の成長率は、原油価格下落により資源輸出国の成長率が低下し始める2011年までは、ほぼ同様でした。

 図表2 新興国と発展途上国の成長率

新興国と発展途上国の2011年から2016年までの成長率の低下のうち、3分の2は資源輸出国の低下に原因があります(図表3参照)。残りは中国及び他の新興国・発展途上国の減速が占めています。

17-19年における成長国の成長率の加速のほとんどは資源輸出国によるもの。もっとも、その成長率の回復は、過去5年間の急激な成長率の落ち込みと比較すると、比較的緩やか。

 図表2 新興国成長率変化への寄与の要因

4. 17-18年世界景気見通し

世界経済の成長率は、+3.1%と予想されている16年から、17年の+3.5%及び18年の+3.6%へと加速する見通し。先進国における予想を上回る回復と、一部の新興国における予想を下回る経済活動により、17-18年における予想では、昨年10月時点のIMFによる17-18年は以前の想定よりも成長が加速し、新興国では弱含む見通し。

5. 中長期の見通し

中長期的な世界経済の成長率は、18年以降にはわずかに加速し、2022年までには+3.8%に到達する見通し。この成長率の加速の原因はすべて、新興国と発展途上国の成長率がこの期間の終わりまでに+5%へと加速することによります。

これら諸国の経済の世界経済への影響は、世界におけるその比率が高まることで押し上げられます。この予想は資源輸出国の成長率の上昇によるものであり、もっともその成長率は2000-15年におけるよりははるかに緩やかであると予想しています。

6. 先進国の見通し

米国の成長率は、17年に+2.3%、18年に+2.5%へと加速する見通しで、16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

ユーロ圏の17-18年の成長率は、16年とほぼ同水準の見通し。緩やかな景気回復は、緩やかな拡張姿勢の財政、穏やかな金融環境、弱いユーロ、それと米国の財政刺激策による影響のため。いくつかの国における選挙の不安定要因、英国とEU(欧州連合)の関係が景気の重石となる見通し。成長率は、17年が+1.7%、18年が+1.6%の予想。

英国は17年が+2.0%、18年が+1.5%の見通し。17年の+0.9%ポイントの上方修正と18年の▲0.2%ポイントの下方修正は、6月英国のEUからの脱退後の予想を上回る景気によるもの。離脱は以前の予想よりも、漸進的なものとなる見込み。

日本では、統計の見直しにより16年の成長率は+1.0%と、16年10月時点のIMF予想からはお大幅に上方修正。16年における輸出の勢いの高まりは、17年にも継続する見込みで、17年の成長率は+1.2%の予想。

7. 新興国の見通し

中国の成長率は、17年に+6.6%で、18年に+6.2%へと減速する見通し。16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

16年10月時点からの17年の+0.4%ポイント及び18年の+0.2%ポイントの上方修正は、16年の予想以上の勢いと、経済目標達成のための信用の伸びと公共投資への依存を反映しています。

インドの成長率は17年が▲0.4%の下方修正で+7.2%。昨年11月の高額紙幣廃止の影響による現金の不足による一時的な消費の停滞が主な要因。中期的予想は+8%と好調な見通しで、構造改革の実施、供給のボトルネックの解消、さらに適切な財政及び金融政策が要因。

資源輸出国の中では、ブラジルが大幅な景気後退から回復し、17年が+0.2%、18年が+1.7%の予想(それぞれ、16年10月予想から▲0.3%ポイントと+0.2%ポイントの改定)。政治の不安定要因の後退、金融緩和、改革の進展が下支えしています。

独立国家共同体の見通しは改善し、17年が+1.7%で10月時点予想からは+0.3%の修正。ロシアはリセッション(景気後退)から回復し、17年は+1.4%(過去2年間は累計で▲0.3%の景気後退)、景気の回復は、堅調な原油価格と、金融環境の緩和と消費者信頼の回復による国内需要の回復によるもの。もっとも、改革の遅れ、1人当たり国民所得の先進国並みへの上昇の遅れにより、ロシアの潜在成長率は+1.5%に留まっています。

IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利 平成29年4月28日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、各国の成長率予想、生産、貿易について報告しました。今回は、物価、金利などについて。

1. インフレ率はやや上向く

商品市況が上向いたことにより、世界のインフレ率も上昇(図表1参照)。世界の生産者物価指数は特に急激に加速。これは、消費者物価指数と比べて生産者物価指数においては商品の比重が高く、また商品を直接生産に投入するため。

特に中国の生産者物価指数は、数年にわたるデフレ(価格下落)からプラス圏に浮上。原料価格の上昇と過剰生産能力の削減、不動産投資の回復によります。

ガソリン小売価格の上昇とその他エネルギー関連製品価格の上昇により、世界の消費者物価上昇率もやや上向いています。特に先進国においては堅調で、2月には+2%をわずかに上回りました(16年の年間上昇率+0.8%の2倍以上)。

 図表1 世界のCPIとPPI

対照的に、コア・インフレ率は殆どの先進国で中央銀行の目標値をはるかに下回っています(図表2参照)。新興国では、燃料価格の上昇がやっと最近になって早い時期の為替レートによるデフレ圧力を上回るようになったため、総合消費者物価指数の回復はもっと最近のことです。

 図表2 世界の総合・コアCPI

短期及び長期のインフレ期待も抑制されたものとなっています。先進国においては、インフレ期待の鈍化はごく最近になって下げ止まっています。10年後インフレ期待は15年及び16年の低下の後、最近になって上向いています。

2. 金融市場

米国における金融刺激策、インフラ投資の拡大、規制緩和により、8月以来市場のセンチメントは強くなっています。将来の需要増大によるインフレ圧力の高まりと米国の金融政策の正常化の加速により、米国では8月以来、特に11月の大統領選後に長期名目及び実質金利が大幅に上昇(図表3参照)。

 図表3 先進国の金融市場

3月末には米国10年国債の名目金利は8月と比較して+0.85%ポイントの上昇。11月の大統領選挙の前との比較でも+0.55%ポイント。英国も米国における長期金利上昇の予想などを反映して長期金利が上昇。

ユーロ主要国における長期金利の上昇は8月以降に緩やかなものにとどまっており、ドイツにおいては+0.40%ポイント。但し、イタリアにおいては、政治及び銀行セクターにおける不安定さの高まりにより、+1.20%ポイントの大幅上昇。

米連邦準備理事会は16年12月と17年3月に短期金利の利上げを実施。市場では、17年末と18年初めに追加利上げを織り込んでいます。そのほかの多くの先進国では、金融政策は概ね維持されています。

3. 株式市場は堅調

消費者信頼感の高まりとマクロ経済指標の好転により、先進国においてはここ数カ月で株価が大幅に上昇(図表4参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。

利回り曲線のスティープ化(長期金利の上昇)、集積性拡大への期待、米国における金融規制の緩和への期待により、金融セクターの株式のバリュエーションが上昇。

 図表4 先進国の株式市場

4. 米ドルが堅調

米国の利上げにより、利回り格差が拡大し、ドルの実質実効為替レートは16年8月から17年3月にかけて約+3.5%の上昇(図表5参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。一方、ユーロと特には弱含みました。

 図表5 先進国の実質実効為替レート

新興国の金融市場は区々の動き。特に東欧では、米国の11月の選挙の後には長期金利が上昇し、その後は下落。政策金利の動きも区々であり、メキシコ、トルコが利上げし、ブラジル、インド、ロシアが利下げ。

新興国における株式市場と経済は8月以来上昇。米国の11月の選挙後には弱含んでいたものの、今年に入って力強く回復。ただ、金融危機後のピークである2011年を、多くの国で下回っています。

トルコではここ数カ月で通貨が大幅に下落し、マレーシア・リンギットも小幅下落。一方、資源輸出国のうちロシア・ルーブルは大幅上昇。メキシコ・ペソは米大統領選後には大幅下落。ただ、その後は回復し、直近では昨年8月とほぼ同水準。米選挙後には海外投資家の資金が新興国から流出し、その後は流入に転じました。

次回は、景気見通しなどを見る予定です。

IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易 平成29年4月21日

IMFが世界経済見通しを改定しました。

1. 世界の成長率17年を+3.5%に上方修正

国際通貨基金(IMF)は18日に、世界経済見通しを改定し、17年の世界経済の成長率見通しを+3.5%と、今年1月時点の予想から+0.1%ポイント上方修正(図表1参照)。17年については+3.5%で維持。17年については、先進国経済の好調などにより、基調が上向いているとしています。

 図表1 IMFの世界経済見通し

16年の後半には特に先進国の経済活動が上向いたとしています。米国では企業の将来への信頼感が上向き、在庫は5四半期連続のマイナスの寄与の後にプラスに転じました。英国では6月のEU離脱の国民投票の後には消費が堅調。輸出により日本の経済活動が活発化し、ドイツ及びスペインにおいても、堅調な内需が寄与しました。

新興国は区々の動き。中国の成長が政策の下支えにより堅調である一方、インドとブラジルでは為替の影響により景気が後退。商品の輸出は引き続き軟調であるものの、中東とトルコでは地政学的リスクが好転。

2. 生産が活発化

16年後半には、堅調な世界に需要、特に投資の強さにより、製造業と貿易が急速に回復。製造業と貿易は15年及び16年前半には弱い数字でした(図表2参照)。

 図表2 世界の貿易・鉱工業生産・製造業PMI

耐久消費財と資本財の生産が、16年後半には回復(図表3参照)。中国におけるインフラ及び不動産投資に下支えられた世界の投資の緩やかな回復、消費価格低迷による調整の弱まり、米国の在庫循環の終了などが寄与しました。製造業購買担当者指数など先行指標は、17年においても製造業の活動が活発であることを示唆しています。

 図表3 世界の耐久消費財の生産

3. 貿易が活発化

生産活動の活発化に伴い、世界貿易も長く続いた弱い時期から回復の兆しを見せています(図表4参照)。貿易の伸びは、特に投資の動きと密接に関連しています。16年においては、特に資源輸出国において投資と貿易とに強い相関関係が見られました。商品市況がやや回復したことに下支えられ、これら資源輸出国のマクロ経済が落ち着きを取り戻し、17年においても輸入と投資の緩やかな回復が続くと見られます。

 図表4 世界の輸入

4. 商品市況が回復

経済活動の活発化に伴い、消費市況も強含みました。IMFによる主要商品指数は16年8月から17年2月には+15%上昇しました。

 図表5 実質商品価格指数

特に燃料が強含み。16年8月から17年2月には原油価格は約+20%の上昇。石油輸出国機構(OPEC)が原油の減産に合意したことなどが要因。天然ガスは同じ期間に+19%の上昇。欧州では、天然ガスは原油につれ高しました。石炭二ついても同様に、豪州及び南アフリカの価格が同じ期間に+20%以上上昇。

燃料以外では、金属と農産物も上昇。金属価格は中国における不動産価格の増加と生産設備削減と、米国における財政政策の緩和に下端さえられ上昇。農産物では、供給過剰の緩和により、食品価格が+4.9%の上昇。特に、穀物、野菜、油が上昇。米とココア豆などの一部例外を除いて価格が上昇しました。

次回は、物価などを見る予定です。

混乱の続くトルコ 平成29年4月14日

国民投票を控えたトルコの情勢を見ましょう。

1. 政治・経済が不安定化

昨年来、トルコでは政治、経済両面で投資家を不安にさせることが相次いでいます。政治の面では、2016年7月に軍の一部がクーデター未遂事件を起こしました。反政府的とされる米国在住のグレン氏につながるとされる公務員、軍人、その他民間ジャーナリストなどが多数拘束されました。その後もトルコ国内では、イスラム系過激派組織であるISやクルド人系のテロが多発。

最近では、ドイツがトルコ系住民の集会を禁止したことやオランダがトルコの外相の入国の拒否したことにより、トルコのエルドアン大統領が猛反発。シリア系難民の欧州連合(EU)流入に関して一時は補償を合わせていたトルコ、EUの見解も微妙になっています。

経済の面では、大幅な経常赤字とそれを短期的な借り入れで補う不安定な構造、外貨準備の不足、それによる通貨リラの大幅下落、国内総生産(GDP)成長率の低下があります。不安定な通貨などを背景に、投資家のトルコからの離反が目立っています。

2. 11月CPI上昇率は+7.0%

ここで、物価、金利などを見ておきましょう。トルコ統計機構(TUIK)は4月3日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+11.29%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.13%から加速し、2008年11月以来の高水準となりました。食品、家賃の上昇などが主な要因。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き上げ

一方、トルコ中央銀行は3月16日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「後期流動性貸出金利」を0.75%引き上げて11.75%としました。同金利の引き上げが2会合連続。

主要な政策金利である翌日物貸出金利は9.25%に据え置き。中銀は16日の声明で、「インフレ見通しの悪化を封じ込めるために金融引締の強化策を決めたとして、1月会合と同じ文言を使用しました。

 図表2 トルコの政策金利

4. 7-9月期▲1.8%成長に低迷

他方、トルコ統計局が12月12日に発表した16年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比▲1.8% (図表3参照)。今年4-6月期の+3.1%から大幅に低下。四半期の成長率がマイナスとなるのは、09年7-9月期以来7年ぶり。7月のクーデター未遂事件の影響により、消費や生産が落ち込みました。

 図表3 トルコ四期成長率(前年同期比)

統計局は今回の発表から物価の影響を除く際の計算方法を国際基準に合わせて改定し過去発表の分も遡って修正しました。

経済の拡大を牽引してきた個人消費は▲3.2%。企業の設備投資を含み総固定資本形成は▲0.3%、輸出も▲7%と、ともに不振でした。

5. 大統領権限強化を目指す憲法改正について国民投票

従来、トルコでは、大統領職は名誉職的なものであったわけですが、エルドアン氏が大統領に就任して以来、同氏は意中の人物を首相あるいは閣僚に任命するなどして、自身の権限を強化してきました。

今回の憲法改正案では、大統領の役割が従来の国家元首に加え、副大統領は閣僚の任免を通じて行政府の長も兼ねることとなります。それに伴い、首相職は廃止。予算案の作成を大統領が行うほか、大統領の法案拒否権を覆すには、絶対多数が必要となります。

ただ、各種世論調査では、憲法改正への賛否がともに4割前後で拮抗。エルドアン氏は、東南部のクルド人や都市部の票の掘り起こしを懸命に行っています。これまで与党・公正発展党(AKP)ヲ指示してきた有権者の一部も、大統領の権限強化に疑問を持っています。

もし憲法改正が実現すると、旧憲法下での大統領の人気は計算に入らないため、エルドアン氏は19年11月の大統領・議会同日選をへて、最長で20029年まで大統領職にとどまることが可能となります。

6. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続し、15年末から今年3月まででは▲25.0%の大幅下落。16年12月末から今年3月まででも▲3.4%と続落。

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は13年に大幅下落したものの、14年には反発。その後はボックス圏の動き。15年末から今年3月まででは+24.0%の大幅上昇。16年12月末から今年3月まででも+13.8%と堅調。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

7. リスク要因と課題

短期的には、憲法改正案が可決されれば、トルコの政局が安定するとして通貨リラが買われ、逆に否決されればリラが下落すると予想されます。

ただ、長期的には、構造改革に取り組まなければ、成長はおぼつかないということになります。低い貯蓄率とそれに伴う投資の不足、製造業の未発達、経常赤字、財政赤字、恣意的な政治など、これらの問題を解決しなければ、海外からの投資も伸びず、今後の政調もあまり期待できないことになります。国民投票後に、エルドアン大統領が本気で構造改革に取り組む姿勢を見せるかどうかに注目する必要があります。

インド経済の見通し(4) リスク・課題 平成29年4月7日

前回の物価、金利、四半期成長率、為替、株価に続いて、今回はインド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレ懸念が後退

インドにおいは、長期間にわたり、インフレ率抑制がインド準備銀行(中央銀行)大きな課題となってきました。現在は消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が、中銀にとってのインフレ目標となっています。昨年9月にラジャン総裁が退任したことに伴い、ウルジット・パテル副総裁が昇格。同新総裁は、インフレ目標である+4%±2%を引き継ぎました。ただ、緩やかに解釈していると見られます。

インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率は引き続き低い水準にとどまっており、インド経済にとっては今のところ余りリスクにはなっていないと考えられます。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では 14年に国内総生産(GDP)比▲6.6%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 製造業が未発達

インドでは伝統的に理数系に強い人材が多く、「0」もインドで発見されたと言われており、IT、コンピュータなどに強いと言われています。IT、あるいはBPOが発達しており、これが上記の通りサービス収支黒字の原因となっています。ただ、製造業については、未発達であり、第二次産業よりもサービス業中心の経済であると言えます。

一方、インド中央統計局は10日に、同国の1月の鉱工業生産が前年同月比+2.7%だったと発表。市場予想の+0.5%から上振れし、12月の▲0.1%から反発(図表4参照)。同指数はサービス業を含んでおらず、依然として製造業は低調。

 図表4 インドの鉱工業生産指数(前年同月比)

一方、インド自動工業会(SIAM)の10日発表よると、2月のインド新車販売台数は、前年同月比9%の32万2298台。昨年11-12月には高額紙幣の廃止により販売が落ち込んだものの、影響が収束しつつあり、四輪車市場は堅調な伸びとなりました。インド中銀は中立的な金融施政を撮っており、自動車販売にはプラスに働く可能性があります。ただ、中長期的には、製造業を育成していくことが政府にとって課題となっています。

5. インフラ整備、規制緩和

インドは中国に匹敵する人口を抱えており、しかも人口構成はかなり若く、消費、生産の両面において大きな可能性を持っています。そのため、日本及び欧米企業のインドへの関心は高く、日本からは自動車メーカーの現地生産への進出、製薬会社の現地企業買収などが進んでいます。

ただ、海外からの直接投資はまだまだ進んでおらず、その大きな要因となっているのはインフラの未整備です。財政赤字による制約がインフラン未整備の一員となっていますが、鉄道、道路、空港、電力などの整備が待たれており、モディ新首相への期待も高まっています。

インフラの未整備と共に、経済の発展を妨げているのが、政府による過剰な規制、法の未整備、複雑な税制などです。たとえば、建築、土地再開発に関する規制が厳しすぎるため、オフィスの供給量が極端に少なく、オフィス賃貸料の高騰の原因となっています。

このほか、金融・小売りなどの規制緩和もあまり進展していません。インドでは小規模な商店が多いため、外資系のデパート、スーパーなどの進出が規制されています。インド政府は、地場の中小・零細小売業者を保護するため、外資企業の小売り参入を厳しく制限しており、近代的な小売市場の発展を妨げています。

6. インド経済の展望

インドでは3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。モディ首相への権限の集中が進むことにより、改革への期待が高まっています。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価 平成29年3月31日

前回の政治に続き、今回は物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。前月の+3.17%から鈍化。市場予想の+5.58%からも上振れ。食品価格上昇率は、前月の前年同鉄日+0.53%から3月には同+2.01%に加速。

 図表1 下院の党派別議席数

2. 7-9月期成長率+7.3%に加速

続いて、インド統計局が12月12日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+7.3%(図表2参照)。前期の同+7.1%からは加速したものの、市場予想の+7.5%は下回りました。

需要項目別では、民間消費と政府消費が景気の牽引役となっています。GDP(国内総生産)の約6割を占める民間消費は、同+7.6%(4-6月期+6.7%)と加速。政府消費は同+15.2%と、4-6月期の+18.5%から減速したものの、公務員昇給の影響により、2期連続の2桁増加となりました。一方、総固定資本形成は同▲5.6%と、減少幅が拡大。

 図表2 インドの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を据え置き

他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを6.25%に据え置くことを決定(図表3参照)。市場では▲0.25%の利下げを予想する向きが多かったわけですが、予想に反して中銀は金利を据え置いて、更に2015年1月以来の金融緩和姿勢を「中立」に変更しました。

 図表3 インドの政策金利

上記の通り、2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率が沈静化していることも、金利据え置きの要因となっています。

米国の大統領選ではトランプ氏が当選し、公共事業の拡大などを打ち出しています。そのため、米国の長期金利が上昇し、新興国から資金が流出。それに伴いインドの通貨であるルピーも対ドルで下落。中銀としては、物価上昇の懸念もありました。今後、中銀は、物価、景気などの動向を見ながら、金利政策について判断していくものと思われます。

4. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、13-14年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。インドは経常赤字、財政赤字が大きいことから、ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に、13年は「脆弱5か国(fragile 5)」と呼ばれました。ただ、16年は通年で▲2.66%の下落にとどまりました。新興国からの資金流出が一巡したことなどによります。17年2月現在では、昨年末比で+1.86%と小幅反発。

株価は13-14年には大幅上昇。中国などで景気の減速感が強まる一方、相対的にインドでは景気が順調。原油価格など資源価格画下落し、資源輸入国であるインドの株価が買われました。

15年に入ると、米国の金利上昇などにより株価は下落。ただ、16年に入ると、新興国からの資金流出が一段落し、インド国内の景気が堅調であったことなどにより、16年には株価指数の1つであるSENSEX30は、通年で+1.94%と、ほぼ横這い。17年2月末には16年12月末比で+7.3%とやや反発。インド国内の政治の安定などが好感されています。

 図表4 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

インドでは、モディ政権が昨年11月に突如として、500ルピー札と1000ルピー札の高額紙幣を廃止。不透明な資金に対する取り締まりの姿勢を好感して、その後の地方選でモディ首相率いるBJPが大勝。インドでは、上院の議席は地方の議席に比例するため、上院でも与党BJPが第一党となり、モディ首相が改革を進めやすくなっています。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

インド経済の見通し(2) 政治 平成29年3月24日

前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ氏が14年総選挙で勝利

14年5月16日に行われた総選挙では、ナレンドラ・モディ氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝。543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得。グジャラート州首相のモディ氏(63)が首相に就任することになりました。BJPを中心とする野党連合は、336議席を獲得しました(図表1参照)。

一方、これまで2期にわたり政権を担ってきた国民会議派は44議席で、同党を中心とする与党連合の統一進歩同盟は60議席にとどまり、過去最悪の結果。このほか、地域政党他が137議席となりました。シン前首相は、モディ氏とBJPの勝利を称賛。モディ氏は「インドの勝利だ」と述べました。

 図表1 下院の党派別議席数

一方、上院ではBJPは連立を組む政党と合わせても3割に満たず、少数派にとどまっています(図表2参照)。BJPが上院に法案を提出しても、国民会議派など野党の執拗な抵抗にあい、可決に足らないケースが相次いでいます。

上院は、州議会による間接民主制に基づいています。 BJPは下院では過半数を占めているものの、州議会レベルでは、少数派にとどまっていることが少なくありません。また、14年5月の総選挙後も、BJPは地方選挙で必ずしも勝利を収めていません。たとえば、15年11月に行われた東部ビハール州議会選挙ではBJPは30議席減らして58議席にとどまり、国民会議派など反BJP連合の178議席に対して、大敗しました。

 図表2 上院の党派別議席数

2. 14年5月政権誕生後の主な改革

政権誕生後の改革としてはまず、統治機構について、首相府権限の強化、閣僚数の削減を実施。さらに、インド改造評議会(NITI Aayog)を設立。経済改革としては、国民皆銀行口座制度を実施。

投資環境の整備については、外資規制の緩和、具体的には鉄道インフラの100%開放、建設について面積、投資金額などの要件を緩和、保険の出資比率の引き上げ(26%→49%)。労働改革としては、各種許認可申請のオンライン化、工場査察プロセスの透明化、従業員積み立て基金(EPF)の統一番号化など。

インフラ整備に関しては、有力大臣を配置し、既存の案件を点検。インフラ工事の進み具合は、前政権の4倍に加速。Sagara Malaプロジェクトの導入により、主要港湾開発に注力。製造業の振興を保管。

3. 高額紙幣を廃止

モディ首相は上記のような改革を進め、その後は大きな変化がなかったものの、16年11月に突然高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用禁止を発表。これらの高額紙幣は汚職や脱税に利用されて来ており、不正な隠し資産を補足しようとの狙いがあります。

11月8日までは、主に富裕層が高額のマンションや金など宝飾品の購入、海外旅行、豪華な結婚式に不正蓄財を利用し、経済の活性化にも繋がっていました。政府は高額紙幣の使用を禁止し、12月30日までに銀行に持ち込まない限り、2紙幣は単なる紙切れになると発表したため、社会が大混乱に陥りました。

これにより、高額商品のうち特に自動車販売が低迷。昨年11月は前年同月比▲0.6%の伸びにとどまり、12月も▲2.1%。ただ、17年には1月が+11%、2月も+9%と回復傾向。

 図表3 インドの新車販売台数

3-4月には貨幣流通量も元に戻るとみられます。さらに、高額紙幣の廃止により、電子決済が普及。街中の小規模な焦点でも、スマートフォンを使って電子決済が普及。販売側は小銭を用意する必要がなくなり、消費者も現金の持ち合わせがなくても買えるようになりました。

4. 州議会選挙の予定

インドでは上院は地方議会による間接選挙で、上記の通り上院ではBJP及びその与党が少数派にとどまってきたため、今後の州議会選挙の行方が注目されます(図表4参照)。15年には2月のデリー準州に続き、11月には東部ビハール州でもBJPが敗北。

16年5月には4州で選挙を実施。BJPがアッサム州の政権を奪取。ケララ州では左翼政党が与党に就任。国民会議派は2州で政権を逃しました。タミル・ナデゥ州では、全インド・アンナ・ドラヴィダ進歩同盟(AIADMK)が32年ぶりに2期連続で政権を維持。17年3月以降の予定は図表4の通りで、「現在の政権」は17年3月の選挙以前のもの。

 図表4 今後の州議会選挙予定

3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。インドで最大の約2億人の人口を抱える北部ウッタル・プラデシュ州議会選などで、大幅に議席を伸ばしました。高額紙幣廃止に伴い、不満もあったものの、不正資金撲滅の姿勢が評価されました。

選挙が実施された5州のうち、ウッタル・プラデシュ州においては、403議席中、300議席を確保。北部ウッタラカンド州においても過半数を確保。南部コア州、北東部マニプール州などでも勝利。

BJPのアミト・シャー総裁は、「モディ首相の紙幣廃止、腐敗撲滅、貧困対策の勝利だ」としました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。

5. インドの外交

モディ政権の最大の成果は外交と言われるほどで、37か国を回り自ら投資を誘致してきました。日本との関係では、新幹線と原子力協定により、更に関係性が高まる見込み。

懸念としては、米トランプ大統領が、H-1Bビザの発給を廃止すると発言していること。インドのIT産業は5-6割を米国に輸出し、そのサポート、保守のために技術者を米国に送り込んできました。H-1Bビザの発給が停止されると、このビジネスモデルが成り立たなくなります。

中国に対しては是々非々の態度をとるとみられます。領土問題はあるものの、中国からの電子機器などの投資は進める構え。パキスタンとの関係には、やや改善の兆しもあります。そのほか、バングラデシュ、スリランカとの関係についても、改善の努力をすると見られます。

次回は、物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見る予定です。

インド経済の見通し(1) 人口・発展段階 平成29年3月17日

インドが中国に代わって、世界経済の牽引役になるのではないかとの期待が高まっています。インド経済の課題と展望を見ていきます。

1.インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想) 図表2 インドの人口ピラミッド(2050年予想)

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2.成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は昨年10月に発表した世界経済見通しの報告書で、16年のインドの成長率を+7.6%として、中国については+6.5%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、15年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2016年で見ると、IMFの昨年10月のデータで、米国が57,293ドル、日本が37,304ドル。また、ロシアが8,838ドル、ブラジルが8,586ドル、中国が8,260ドルであるのに対して、インドは1,718ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4. 10-12月期成長率+7.0%に減速

インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+7.0%(図表5参照)。前期の同+7.4%(今回上方修正)から減速。政府が高額紙幣を無効化したことが影響したとみられます。

今回の10-12月期の公表値+7.0%は、市場予想である+6%台前半を大幅に上回りました。16年7-9月期の成長率を従来発表の+7.3%から上方修正するなど、過去の数値も遡及して改定。

統計局によると、10-12月期に個人消費は+10%、設備投資は+4%。個人消費の2桁増加は17四半期ぶりで、モディ政権下では初めて。設備投資は4四半期ぶりに増加に転じました。

 図表5 インドの成長率(前年同期比)

モディ政権は11月8日に、脱税や汚職の対策として高額紙幣(500ルピー札と1000ルピー札)を廃止すると発表しました。政策の目的は(1)資産を隠匿する犯罪組織を撲滅し、(2)預金不足で低迷が続く銀行貸出を伸ばすこと、(3)インフレ抑制、にあると言えます。今回の四半期GDPの発表は、高額2紙幣の廃止後初めての統計であり、注目されていました。

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価 平成29年3月10日

前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 貿易が低迷

前回ご報告の通り、16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ただ、今後も外需に期待するのは難しい情勢。中国は輸出・設備投資主導の経済から消費など内需主導の経済への転換を図っています。そのため、中国がかつてのような資源の「爆買い」をしてくれる可能性が低く、鉄鉱石、原油などブラジルの資源の輸出が伸びるのは余り期待できません。また、通貨レアルは嘗ての水準よりは低いものの、現在程度の水準では、輸出競争力の回復にはつながらない見込み。

2. バランスシート調整が進行

ブラジルでは、バランスシート調整が進行しており、特に住宅価格が低迷。住宅価格は15年頃から下落に転じ、16年9月には前年比▲15%の下落。当時のインフレ率は+8%程度であったため、実質的には▲20%程度の下落となります(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの住宅価格

さらに、信用収縮(クレジットクランチ)も進行。銀行貸出癌減少に転じており、特に企業向けは▲7%まで低下。インフレ率を考慮すると、実質ではさらに減少していることになります。

3. 財政収支改善に遅れ、政治的混乱

第3回でご報告の通り、プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。財政収支改善が遅れています。

ただ、これも第3回でご報告の通り、テメル新政権になってから、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。財政赤字は15-16年に大幅に拡大したものの、今後は小康状態となる可能性があります。

州政府の財政も悪化しており、連邦政府よりも深刻。27州のうち26州が危機的状況にあります。特にリオデジャネイロのあるリオ州は大幅な赤字。リオの沖合にプラソルトの海底油田があり、その石油収入に依存しています。原油価格低迷がマイナス要因。州の財政の悪化により、市民へのサービスが低下しており、市民の反発の可能性があります。

さらに、政治的混乱も継続。テメル副大統領が大統領に就任してからも、多数の閣僚が辞任するなど、政治は依然として混迷しています。ただ、テメル新政権が市場寄りの姿勢を撮るとの期待から、通貨レアルは対ドルでやや戻す展開。米国のトランプ大統領が、メキシコに対して厳しい姿勢をとっており、ブラジルがいわば漁夫の利を得るとの見方もあります。

4. インフレ率は低下

一方、明るい材料として、インフレ率が低下。ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。ブラジルのインフレ率は15年末には+10%を超えていたため、依然と比べると現在のインフレ率はかなり抑制されていると言えます。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

そのほか懸念材料としては、失業率の悪化、それに伴う消費の低迷、さらに製造業が育っていないことなどがあります。ブラジルは08年に発生したリーマン・ショックの後、10年には+7.5%という高い成長率が達成。ただ、その後は急速に景気が悪化しました。17以降はやや回復するものの、マイナスからゼロ近辺で低迷するものと予想されます。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルはインドなどと主に「脆弱5か国」とされ、通貨は対ドルで大きく下落。14年に入ると、新興国の経済に対する警戒感が後退したことから、6月末には1ドル=2.204レアルにまで回復。

ただ、利上げ打ち止めや、景気の後退により、年の後半には対ドルで再び大きく下落。15年に入ってからも米連邦準備理事会(FRB)による利上げの予想、中国の景気減速とそれに伴う資源価格の下落により、通貨はされに大きく下落。16年1月末には1ドル=3.99レアルまで急落(図表4参照)。

16年2月以降には、資源価格の反発、市場から距離を置いていたルセフ前大統領の退任の観測などにより、大きく上昇。17年2月末には同3.10レアルまで回復。16年1月と比較すると、+22.2%の大幅上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価はルセフ政権の支持率低下、新興国の経済に対する投資家の不安の後退により、14年に入って堅調に推移。昨年末から今年8月末まで、ボベスパ指数は+18.9%の大幅上昇。ただ、その後は景気後退などにより株価は下落に転じ、14年末には前年末との比較で▲2.9%と小幅下落。

15年に入ると4月まで株価は持ち直す傾向にあったものの、米FRBによる利上げの予想及びそれに伴う投資資金流出の懸念、景気の後退などにより、株価は軟調に転じました。16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントまで大幅に下落。

その後は、為替と同様にルセフ前大統領の退陣、政策が市場寄りになるとの期待、資源価格の回復などにより、株価も大きく反発。ボベスパ指数は16年1月と比較すると、+64.9%と大幅上昇。

米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、16年1月頃までは海外の投資家がブラジルから資金を引き上げる動きを見せていました。米国の景気が堅調であること、資源価格の回復、新興国の株価の割安感の台頭などにより、特にブラジル、ロシアなど一部の資源国には投資家の資金が戻りつつあります。

ただ、ブラジルについては国内の景気が依然として低迷していること、米トランプ新政権の政策の予想がつきにくいことなど、多くの不安定要因があります。17年の景気回復に向けて為替及び株式市場では引き続きブラジルへの期待が高まることも考えられるものの、株価の上昇は一本調子には行かない可能性もあります。

ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治 平成29年3月3日

前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 16年に輸入が大きく減少

16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。ただ16年初頭以降にはやや反発し、直近では同53.3ドル程度まで回復しています。

ただ輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。原油価格はやや回復したものの、米国のシェールガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。v さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 政治の混乱が継続

ルセフ大統領が弾劾されたことにより、政治的混乱は一時沈静化していましたが、テメル後継政権でも様々な疑惑が噴出しています。同政権は、16年8月の発足からわずか6か月で6人の閣僚が交代。ラバジャット事件の捜査の本格化により、さらに疑惑が拡大する勢い。

ラバジャットとはポルトガル語で洗車のことであり、15年4月にガソリンスタンドから疑惑が発覚したため、同事件と呼ばれています。これまで300-400人が事情聴取を受け、事件関連で公的資格を停止あるいは辞職となった議員は既に150人に上っています。

ルラ元大統領が関与したとされる国営企業のペトロブラス事件に関連して、同社は米国にも上場しています。証券取引法違反に当たる粉飾決算があったのではないかとの疑いで、米国証券取引委員会(SEC)が捜査を行っています。

ブラジルでは、これまで汚職が当然視されていたわけですが、13年に司法取引が認められ、贈賄側の証言が進んで一気に捜査が進展するようになりました。テメル大統領率いるブラジル民主党(PMDB)は下院の保有議席が15%に満たず、従来、合従連衡を繰り返し、与党にとどまってきました。即ち、有力なポストについて利権を獲得しようとする議員が多く、今後も疑惑捜査の対象になってくる可能性があります。

3. テメル大統領に口利き疑惑が浮上

さらに、テメル大統領による口利き疑惑が、新たに浮上。11月25日に辞任した政権幹部が北東部エルバドルで購入した高級マンションを巡って、担当閣僚に建設計画を許可するように圧力をかけた疑いが出ています(写真1参照)。捜査当局が大統領の関与の有無を調査している模様。

テメル氏の側近の一人で議会対策を担当するジュデル・ビエイラリマ氏は15年に、世界遺産に登録されているサルバドルの歴史地区に建設予定のマンションの1室を購入。30階建ての高級マンションで、1室の価格は260万レアル(約8600万円)。建設計画を認可するよう、文化相に対して圧力をかけた疑いがあります。

 写真1 テメル大統領(右)と側近のビエイラリマ氏(左) (6月、ブラジリア)

疑惑報道を受けて、ビエイラリマ氏は25日に辞表を提出。テメル氏にも、ビエイラリマ氏と同様に、文化相に対して圧力をかけた疑いが報じられています。この疑惑は、文化相であったマルセロ・カレロシが18日に辞任して政権が離脱したことにより、表面化。文科省参加の機関がマンション建設計画を承認する権限を持っていたためビエイラリマ氏がカレロ氏に働きかけていた模様。

4. 大統領選に絡んだ疑惑も浮上

さらに、14年の大統領選で、ブラジル民主党(PMDB)に、30億ドル相当の違法献金がなされていたとの疑いが浮上。もし、不正献金が大統領選に使われていたことが立証されると、14年の選挙が無効になる可能性もあります。

また、クーニャ下院議長は、スイスに夫人名義の口座を持ち、多額の不正献金を隠していた疑惑が浮上。議員の不逮捕特権などで抵抗していたものの、ついに職務停止となりました。加えて、カリュイロス上院議長も、現職の議員に対する不逮捕特権を強化する法案を、一部国会で可決することに成功。

同法案を巡っては、街頭デモの対象となり、一部修正事項が国会を通りませんでした。これに対してテメル大統領が拒否権を出すかどうかが注目されています。国民の反対を重視するか、与党PMDB幹部である同氏を守るのか、ジレンマに陥っています。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け 平成29年2月24日

おはようございます。前回はオリンピックの効果、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などを見ます。

1. 財政再建へ憲法を改正

ルセフ前大統領は昨年8月に罷免となり、暫定政府で大統領代行をしていたテメル副大統領が9月初めに正式に大統領に就任。同氏はブラジル民主労働者党(PMDB)の党首。PMDBは下院の第一党であるものの、下院定数513議席のうち、68議席しかありません。ブラジル議会は少数乱立で与党は11政党の連立。小政党は理念で結びつくというよりは、人脈・地位で合従連衡を繰り返しているに過ぎないと見られます。そのため、テメル政権が抜本的に財政再建を行うのは難しいとの予想もありました。

ところが、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。憲法改正には60%以上の賛成が必要で、しかも上下両院で二度可決が必要。11月には下院で65%の賛成となり、12月には上院でも修正せずに可決。ペトロブラス(国営企業)を舞台とする汚職事件に関連して、検察官による議員への訴追を軽減する法案が同時に審議されており、そちらにばかり注目が集まっていたことが一因とみられます。

2. 財政収支改善に遅れ

プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。09年は1.7%で、財政責任法(00年施行)に定める黒字目標の2.3%を下回りました(図表1参照)。14年には▲0.5%となり、税収の下振れを反映。財政収支も同様に悪化。国際通貨基金(IMF)では15年以降に基礎的財政収支(プライマリー・バラン)が改善すると予想していましたが、実際には16年に▲2.75%へと悪化。17年以降にはやや改善すると見込まれています(IMF16年10月時点予想)。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP)

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で42.0%’図表2参照)。金利を除くベースでは22.1%。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

3. 格付けが低下

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。見通しを引き続き「ネガティブ」としました。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、その時点よりも「成長見通しが弱まっている」として、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

4. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

13年には債券投資に関わる金融取引税の撤廃、大幅利上げで回復しつつあったものの、米量的緩和の縮小(テーパリング)により、流出超に転じました。米金融政策の落ち着きなどにより、ブラジルでは株価が回復。それに伴い証券投資も落ち着きを取り戻しました。

そのため、資本収支の安定のためには、直接投資(FDI)の持続性が問題となります。11年以降、経常収支赤字を補う形で、対内直接投資(FDI)が堅調に推移。13年の対内直接投資は前年比▲18.5%と、2年連続で2桁減少。エネルギー、自動車、交通関係は堅調ですが、2桁の大幅減少となった業種も多く、業種ごとの選別が強まっています。

13年にはブラジルは、インド、トルコなどともに「脆弱5か国(fragile 5)」と位置付けられ、財政収支・経常収支の赤字が問題とされました。そのような脆弱性により、証券投資の資金が国外に流出し、通貨、株価の下落リスクが高いとされました。実際、ブラジルからは大きな資金流出。海外の投資家によるリスク回避の動きにより、証券投資は不安定になりました。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。政府部門の赤字の改善のためには、公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革が必要であると、従来言われてきましたが、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されます。短期的には、政権交代による政策の変更なども期待されています。

 図表5 主要国・地域のISバランス

ただ、昨年後半以降には、原油など資源価格が回復傾向にあります。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えており、中国の粗鋼生産も回復する兆しがあります。鉄鉱石、銅などの価格も上向いており、ブラジルの経常収支もやや改善する傾向にあります。

次回は貿易、政治などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢 平成29年2月17日

おはようございます。前回は成長率、1人当り国民所得などを見ました。今回はオリンピックの効果、最近の景気動向、物価、金利などを考察します。

1. オリンピックの効果も限定的

サッカーのワールドカップ(W杯)が14年6月12日から7月13日にブラジルで開催されたのに続き、リオデジャネイロ五輪が16年8月5日に閉幕。W杯の開催前には、W杯及びオリンピックの開催により、ブラジル経済に弾みがつくであろうとの予想も一部ありました。W杯に続き、五輪についても経済効果は殆どなかったと言えます。

大手格付け会社のフィッチでは、五輪開催後に、五輪のために多くの競技者や関係者が同国を訪問したものの、16年末まで航空、地上輸送などの需要低迷が続くと予想。ブラジル国民は、消費したくても消費に回す余裕がないのが現状。

民営化された6つの空港は、16年6月と7月に期限を迎えた運営権対価の支払いにつき、当局との間で期限延期を交渉。過去5年間にわたって成長を期待されてきたこれら空港の今後の見通しについて、フィッチは8月5日に「弱含みながら見込める17年の景気回復で、旅客輸送量と航空交通量は増加し、各空港の流動性への圧力はわずかに弱まるだろう」としました。

五輪開催前には、五輪が同国のマクロ経済の政調や各産業分野の成長を促すことになるとの期待一部にもありました。そうした期待は、完全に裏切られています。

 写真1 リオデジャネイロ五輪閉会式の様子

2. 鉱工業生産が停滞

中国の景況感の悪化、世界的な資源価格の下落、一時高止まりしたインフレ率と内需の不振などにより、ブラジルの景気は停滞を続けています。ブラジル地理統計院が2月1日に発表した12月の鉱工業生産は、前年同期比▲0.1%と、34か月連続で前年比割れ(図表1参照)。市場予想の▲5.0%からは上振れ。前月比は▲0.3%で、市場予想の+0.9%から下振れ。原油価格下落などにより、資源セクターの不振が続いています。ただし、マイナス幅は急速に縮小しており、景気には改善の兆しが見えます。

 図表1 ブラジルの鉱工業生産(前年同月比)

3. 小売売上高も低迷

ブラジル地理統計院が2月14日に発表した12月の小売売上高は、前年同期比▲4.9%(図表2参照)。前月の▲3.5%からマイナス幅がやや拡大。10月の▲8.2%からはやや改善しているものの、国内の消費は依然として低迷しています。

 図表2  ブラジルの小売売上高(前年同月比)

4. インフレ率は低下

一方、ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 政策金利を▲0.75%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は1月12日の金融政策委員会で、政策金利を▲0.75%ポイント引き下げて13.00%にすることを決定(図表4参照)。利下げは全員一致。利下げは前回12月の会合に続いて3会合連続。利下げ幅は市場予想の▲0.50%ポイントを上回りました。

中銀は14年10月に半年ぶりに利上げを再開し、15年7月までに7会合連続で利上げを行い、政策金利を11.0%から14.25%まで上昇させました。同9月には金利据え置きに転じて、16年8月まで8会合連続で据え置き。10月会合で利下げに転じて、前回12月会合でも▲0.25%の利下げをしました。

 図表4 ブラジルの政策金利

中銀は政策決定後に発表した声明文で、ブラジル経済の現状認識と見通しについて、前回と同様に「最近の経済指標を見ると、短期的にはブラジル経済の活動は思ったよりも弱い。今後、ブラジル経済の回復は一段と遅れ、これまで想定していたよりもさらに緩やかになる可能性がある」とし、改めて景気の下ブレ懸念を強調。ただ、「世界経済の先行きの見通しは依然として不透明なままだが、これまでのところ新興国経済を取り巻く穏やかな環境の終わりによる悪影響は限定的」とも指摘しました。

次回は、格付け、財政収支、経常収支などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (1) 成長率 平成29年2月10日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ただ、このところ景気の減速傾向が強まっています。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億40万人(ブラジル地理統計院推定、2014年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 低成長に転じる

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。ただ、その後資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.8%、16年▲3.2%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。ただ、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年には+0.4%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国と日本の成長率

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、13年の1人あたり国民所得は、米国が52,704ドル、日本が38,551ドル。また、ロシアが15,558ドル、ブラジルは12,259ドルでまずまずの水準。一方、中国が7,080ドル、インドは1,479ドルでした。

これを16年でみると、米国が57,293ドル、日本が37,304ドルに対して、ロシア8,838ドル、ブラジル8,586、中国8,260ドル、インド1,718ドル。中国の台頭とブラジル、ロシアの停滞、また為替の影響もあり、ブラジルのもたつきぶりが目立っています(図表2参照)。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、近郊のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2  BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4.  7-9月期GDPは▲3.8%に低迷

ブラジル地理統計院は11月30日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.9%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は10四半期連続。今年4-6月期の▲3.8%からはマイナス幅がやや縮小したものの、引き続き低迷。資源安により投資が低調なほか、雇用の悪化により消費の動きも鈍くなっています。

7-9月期に前期比では▲0.8%。前期比での減少は7四半期連続。現行統計となった1996年以降で過去最長の景気後退局面。16年通年の成長率は▲3.5%程度となる見込み。

設備投資など固定資本形成は前年同期比▲8.4%。テメル政権は財政健全化を進めるために歳出を抑制しており、さらに景気の見通し悪化により、企業も投資を抑制しています。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

景気低迷により、企業はリストラを進めており、失業率は10-8月には11.8%と、現行統計の12年以降で最悪の水準。雇用の悪化で消費も低迷。7-9月期の消費は▲3.4%の低下。インフレもあり、家計の購買力も低下しています。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルのGDP成長率は14+0.1%、15年▲3.8%、16年▲3.2%(IMF予想)と低下してきました。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権が後退し、政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一振、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの期待感が高まっています。

次回はワールドカップの効果、14年以降の景気見通し、物価、金利などを見る予定です。