Report

第456回  新興国情報 (456) 新興国通貨が下落
第455回  新興国情報 (455) 転機に差し掛かる中国経済(6)物価・金融政策・株価
第454回  新興国情報 (454) 転機に差し掛かる中国経済(5)課題とリスク
第453回  新興国情報 (453) 転機に差し掛かる中国経済(4)政策課題
第452回  新興国情報 (452) 転機に差し掛かる中国経済(3)電子商取引など
第451回  新興国情報 (451) 転機に差し掛かる中国経済(2)成長率鈍化の背景
第450回  新興国情報 (450) 転機に差し掛かる中国経済(1)成長率
第449回  新興国情報 (449) インド経済の見通し(4) リスク・課題
第448回  新興国情報 (448) インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価
第447回  新興国情報 (447) インド経済の見通し(2) 政治
第446回  新興国情報 (446) インド経済の見通し(1) 人口・発展段階
第445回  新興国情報 (445) 新興国で利上げ相次ぐ
第444回  新興国情報 (444) 中南米で選挙相次ぐ
第443回  新興国情報 (443) 米利上げの新興国への影響
第442回  新興国情報 (442) 混迷する中東情勢(2) サウジが改革を推進
第441回  新興国情報 (441) 混迷する中東情勢(1) 米がイランとの核合意を破棄
第440回  新興国情報 (440) IMFが世界経済見通しを改定 (7) 予想
第439回  新興国情報 (439) IMFが世界経済見通しを改定 (6) 予想の前提
第438回  新興国情報 (438) IMFが世界経済見通しを改定 (5) 金融情勢
第437回  新興国情報 (437) IMFが世界経済見通しを改定 (4) 物価
第436回  新興国情報 (436) IMFが世界経済見通しを改定 (3) 貿易・商品市況
第435回  新興国情報 (435) IMFが世界経済見通しを改定 (2) 成長率
第434回  新興国情報 (434) IMFが世界経済見通しを改定 (1) 概要
第433回  新興国情報 (433) トルコ経済の課題
第432回  新興国情報 (432) 新常態に挑む中国 (8) 物価・金融政策・株価
第431回  新興国情報 (431) 新常態に挑む中国 (7) リスク・課題
第430回  新興国情報 (430) 新常態に挑む中国 (6) IT企業の抬頭
第429回  新興国情報 (429) 新常態に挑む中国 (5) 技術革新・教育
第428回  新興国情報 (428) 新常態に挑む中国 (4) 政治
第427回  新興国情報 (427) 新常態に挑む中国 (3) 消費など
第426回  新興国情報 (426) 新常態に挑む中国 (2) 労働市場、所得
第425回  新興国情報 (425) 新常態に挑む中国 (1) 成長率
第424回  新興国情報 (424) 堅調な成長が続く東南アジア諸国(6) マレーシア
第423回  新興国情報 (423) 堅調な成長が続く東南アジア諸国(5) ベトナム
第422回  新興国情報 (422) 堅調な成長が続く東南アジア諸国(4) フィリピン
第421回  新興国情報 (421) 堅調な成長が続く東南アジア諸国(3) タイ
第420回  新興国情報 (420) 堅調な成長が続く東南アジア諸国(2) インドネシア
第419回  新興国情報 (419) 堅調な成長が続く東南アジア諸国(1)
第418回  新興国情報 (418) 新興国とフィンテックの進展
第417回  新興国情報 (417) 中東の混乱が拡大
第416回  新興国情報 (416) 2017年を振り返る
第415回  新興国情報 (415) 視界不良の南アフリカ経済
第414回  新興国情報 (414) インド経済の展望 (4) リスク・課題
第413回  新興国情報 (413) インド経済の展望 (3) 物価・金利・株価
第412回  新興国情報 (412) インド経済の展望 (2) 政治
第411回  新興国情報 (411) インド経済の展望 (1) 人口と発展段階
第410回  新興国情報 (410) 底堅いトルコ経済
第409回  新興国情報 (410) 薄日射すブラジル経済 (5) 課題・リスク・株価
第408回  新興国情報 (409) 薄日射すブラジル経済 (4) 貿易・政治
第407回  新興国情報 (408) 薄日射すブラジル経済 (3) 財政収支など
第406回  新興国情報 (407) 薄日射すブラジル経済 (2) 最近の景気
第405回  新興国情報 (406) 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率
第404回  新興国情報 (405) 中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価
第403回  新興国情報 (404) 中国と米中関係 (6) リスク要因・課題
第402回  新興国情報 (403) 中国と米中関係 (5) 為替・金融政策
第401回  新興国情報 (402) 中国と米中関係 (4) ネット取引など
第400回  新興国情報 (401) 中国と米中関係 (3) 構造問題
第399回  新興国情報 (400) 中国と米中関係 (2) 米中関係
第398回  新興国情報 (399) 中国と米中関係 (1) 成長率など
第397回  新興国情報 (398) 世界経済の長期停滞
第396回  新興国情報 (397) 中南米諸国の展望 (6) メキシコ
第395回  新興国情報 (396) 中南米諸国の展望 (5) ペルー
第394回  新興国情報 (395) 中南米諸国の展望 (4) チリ
第393回  新興国情報 (394) 中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン
第392回  新興国情報 (393) 中南米諸国の展望 (2) ブラジル
第391回  新興国情報 (392) 中南米諸国の展望 (1)
第390回  新興国情報 (391) 原油価格の動向と中東諸国
第389回  新興国情報 (390) ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価
第388回  新興国情報 (389) ロシア経済の展望 (3) 財政、政治
第387回  新興国情報 (388) ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利
第386回  新興国情報 (387) ロシア経済の展望 (1) 経済の構造
第385回  新興国情報 (386) トランプ政権誕生と中東諸国
第384回  新興国情報 (385) IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し
第383回  新興国情報 (384) IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利
第382回  新興国情報 (383) IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易
第381回  新興国情報 (382) 混乱の続くトルコ
第380回  新興国情報 (381) インド経済の見通し(4) リスク・課題
第379回  新興国情報 (380) インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価
第378回  新興国情報 (379) インド経済の見通し(2) 政治
第377回  新興国情報 (378) インド経済の見通し(1) 人口・発展段階
第376回  新興国情報 (377) ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価
第375回  新興国情報 (376) ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治
第374回  新興国情報 (375) ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け
第373回  新興国情報 (374) ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢
第372回  新興国情報 (373) ブラジル経済の動向 (1) 成長率

 新興国通貨が下落  平成30年9月21日

今年に入ってから、一部の新興国の通貨がドルなど主要な通貨に対して、大きく下落しています。その背景と影響、今後の見通しなどについて考えてみます。

1. 新興国の一部で通貨が大きく下落

18年に入ってからの世界経済の特徴は主に、米国の景気回復とそれに伴う長期金利上昇、米中両国などの貿易摩擦、新興国の通貨の下落、さらに一部の国の株価下落であると言えます。これらの減少は、互いに関連している部分があります。ここでは、新興国の通貨がどのように下落したのか、また、なぜ下落したのか、それによりそのような影響があるのか、今後の見通しはどうか、などについて考察することとします。

2. アルゼンチンの状況

アルゼンチンを初めとして、ここからは、いくつかの個別の国の状況を見ていきます。同国の通貨下落は、多くの新興国の対ドルでの通貨下落の1つのきっかけとなりました。

通貨防衛とインフレ抑制のため、アルゼンチンの中央銀行は5月4日には政策金利を+6.75%ポイント引き上げて年40%としました。さらに、8月30日には中銀は政策金利をさらに45%から60%へと大幅に引き上げました。ただ、この日の取引ではペソは続落し、一時▲20%の下落となりました。

昨年末との比較では、1ドル=18.59ペソであったものが、8月30日には同38.74ペソまで下落(終値)。その後は乱高下しつつもほぼ横這いで9月20日午前中には、同39.29ペソとなっています(図表1参照)。

 図表1 	アルゼンチン・ペソ(対ドル) 

アルゼンチンのマクリ政権は、構造改革を推進してきたものの、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の改善が遅れています。経常赤字の拡大、低水準の外貨準備、外貨建て債務の大きさなど、対外的な脆弱性に対する懸念が高まっています。

国際金融市場に復帰したものの、対外的な信用度が大きく高まっているわけではありません。今後当局は通貨防衛にために、為替への介入、利上げ、財政赤字の削減などを迫られるものとみられます。

当面の焦点は、国際通貨基金(IMF)の融資の時期と条件となります。IMFラガルド専務理事はマクリ政権の改革の姿勢を評価しており、トランプ大統領もアルゼンチンを支援すると表明。IMFの融資が決定すれば、その後マクリ政権がIMFの条件を実行できるかどうかを市場が見守ることになると予想されます。

3. トルコが利上げ

一方、トルコ中央銀行は9月13日の金融政策決定会合で、インフレ抑制と急激なリラ下落防止のために、主要政策金利である1週間物レポ金利を+6.25%ポイント引き上げて、24.0%としました。利上げ幅の市場予想は+3〜4%程度。想定を上回る利上げを受けて、発表前には1ドル=6.4リラ程度の取引でしたが、一時同6リラ前後まで急騰。

 図表2 トルコの政策金利

中銀は会合後に発表した声明文で、「物価安定のため、強力な金融引締め実施を決めた。引き続きすべての取り得る手段をとり続ける」と述べました。

通貨リラが昨年末比で▲40%以上の大幅下落となっているにもかかわらず、エルドアン大統領は、利上げに否定的な態度をとってきました。トルコと米国との外交関係の悪化は、米国人牧師の解放にトルコが応じていないことが一因。エルドアン氏としては、簡単に引き下がるわけにはいかず、リラの下落がこれで止まるかどうかは、予断を許しません。

エルドアン大統領は、IMFの支援を仰ぐつもりはなく、米国との関係も悪化しており、アルゼンチンとは状況がかなり異なります。ただ、経常赤字、財政赤字という脆弱性は共通しており、対米関係の悪化は、通貨下落の単なるきっかけにすぎないとみることもできます。

4. インドネシアが政策金利を引き上げ

インドネシア中央銀行は8月15日の理事会で、政策金利である7日物リバースレポレートを5.25%から5.5%へと引き上げることを決定(図表2参照)。利上げは2か月ぶり。通貨ルピアはトルコ・リラの急落を受けて下落しており、アジア通貨危機後の最安値に迫っています。利上げにより、通貨下落とそれに伴う輸入物価上昇を抑える狙いがあります。

 図表3 インドネシアの政策金利

定例会合後に記者会見した中銀のペリー総裁は「米利上げやトルコなど外部要因を注視している」としました。インドネシアの経済的基礎条件は堅調であるとし、「中銀の姿勢はタカ派(金融引締め派)であり続ける」と述べました。通貨ルピアが下落した場合には、追加利上げをすると示唆し、通貨防衛の姿勢を鮮明にしました。

このほか、ブラジルなどでも通貨が大幅に下落。ただ、ブラジルはインフレ抑制を優先し、中銀が政策金利を8月1日、6.5%に据え置いて、3会合連続の据え置きとなりました。そのほか、ロシアも利上げするなど、各国は通貨防衛の動きを見せています。

  5. 新興国通貨下落の原因、現状と見通し

このように、まずアルゼンチンで通貨が対ドルで下落し、トルコのリラも下落、それが波及する形で、新興国の通貨が下落しました。この背景としては、米国の景気の拡大、それに伴う利上げ、長期金利の上昇があります。投資家は新興国から資金を引き上げ、ドルに資金を移動させる動きを強めました。

それとは別に、米トランプ大統領が中国に対する関税を大幅に引き上げてきました。これにより、中国経済の景気悪化の懸念が強まり、人民元、さらには中国の上海総合指数(株化)も大幅に下落。中国への輸出の依存度の高い新興国の経済にとっては景気悪化の要因となり、通貨下落の一因となりました。

また、嘗てはインドネシア、インド、トルコ、南アフリカ、ブラジルが特に「脆弱5か国」であるとされ、これらの国の経常赤字、財政赤字などファンダメンタルズの弱さが、問題であるとされました。これら5か国を中心として、通貨が下落しましたが、今年に入ってからの構図も、基本的には当時と大きくは変わっていません。

ただ、嘗てのアジア通貨危機に際しては、97年7月のタイ・バーツの暴落、フィリピン、インドネシア、韓国などアジア諸国の通貨が瞬く間に大幅な下落に見舞われ、世界経済全体が大混乱に陥りました。今回の新興国の下落では、例えばアルゼンチン・ペソは大幅下落したものの、それが直ちにブラジル、メキシコなどほかの中南米の主要国に伝播するという情勢ではありません。

アジア通貨危機のような状況になることは、今のところ可能性が低いとみられます。ドル資産への資金の流れは続く可能性が高く、新興国経済への警戒感も必要となりますが、当面、多くの投資家は様子見に留まるものと思われます。

 転機に差し掛かる中国経済(6)物価・金融政策・株価  平成30年9月14日

今回は、物価、金融政策、為替、株価について見ます。

1. 8月CPIは+2.3%で伸び率は加速

中国では国家統計局が9月10日に、8月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比+2.3%と発表。伸び率は前月から加速し、市場予想の+2.2%からも上振れ。2月以来の高水準。

 図表1 中国の消費者物価指数(CPI)前年同月比上昇率 

一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比+4.1%となり、前月の+4.6%から伸び率が鈍化。市場予想の+4.0%からは上振れ。前月比+0.4%と、7月の+0.1%から加速。中国経済の減速が続いていることを示唆しました。

2. 預金準備率を引き下げ

中国人民銀行は6月24日に、中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げて、15.5%にすることを決定(図表2参照)。7月5日から実施。引き下げは4月17日以来(実施は25日)。預金準備率の引き下げは今年3回目。

金融システムの流動性や、対米貿易摩擦に伴う景気減速への懸念により、預金準備率引き下げは、広く予想されていました。 国務院は20日に、銀行の預金準備率の的を絞った引き下げや他の金融政策手段を通じ、中小企業への信用供給を拡大させる方針を明らかにしていました。

 図表2 中国の預金準備率(大手銀行標準)

3. 株価と為替

ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。15年には▲4.6%、16年には▲6.9%の大幅下落。

米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。8月末現在では、昨年12月末との比較で▲5.0%の小幅下落。

 図表3 上海総合指数と人民元(CNY/USD)

株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。その後は今年1月末には3480ポイントまで回復したものの、米中貿易摩擦の高まりなどを背景として、株価は8月末には2725ポイントまで下落しました。

中国では、不動産、株価などが順番にバブルの状態になると言われており、株価も07年に上海指数が約6000ポイントの高値を付けるなど、随時バブルの様相を呈することがあります。ただ、このところ株価の上値は重くなっており、当面、下値を探ることも考えられます。

4. 当面の注目点は米中貿易摩擦

当面の注目点としては、米中貿易摩擦の懸念があります。トランプ大統領は、かねてより中国の為替、貿易について批判してきました。最近の動きを見ると、7月6日に、米国は中国から輸入される818品目に対して、340億ドル規模の追加関税措置を発表。中国も同規模の報復関税を発動。

7月10日に米国は中国の報復関税に対する追加措置として、中国からの衣料品や食料品など6,031品目に対して2,000億ドル規模の追加関税を検討することを発表。

中国の習政権は、15年に「中国製造2025」を発表。これは中国政府が産業高度化の長期戦略として掲げているもの。鉄鋼やアルミなどを大量生産する「製造大国」から、建国100周年にあたる49年に「世界一の製造強国」に生まれ変わることを目標としています。

トランプ政権としては、単に貿易戦争を仕掛けるだけでなく、中国の産業の高度化を防ぎ、軍事力を含めた中国の覇権の高まりを防ごうとの意図があると考えられます。

中国の国内総生産(GDP)の伸び率は米国を上回ており、やがて米国を上回るとの予想もあります。ハイテク分野でも中国の躍進は目覚ましく、株式の時価総額では、テンセント、アリババの2社が世界の時価総額上位10位以内に食い込んでいます。軍事面も含めた中国の抬頭に米トランプ政権は危機感を強めており、通商政策でも強硬姿勢をとってくる可能性があります。

 転機に差し掛かる中国経済(5)課題とリスク  平成30年9月7日

今回は、リスク要因と課題について考察します。

1. 景気失速のリスク

中国の足下の景気、また中長期的な成長率についてはどうでしょうか。中国の国家統計局が7月31日発表した7月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.2と、前月の51.5から低下(図表1参照)。市場予想の51.3からも下振れ。低下は2か月連続。米国との貿易摩擦の悪化で、製造業が困難に直面していることが示唆されました。

統計局のチャオ氏は、例年7月は一部セクターで活動が鈍化する上、貿易摩擦、雨や気温の上昇により悪影響を受けたとしました。

7月17日に発表された中国の4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は、前年同期比+6.7%と、前期の同+6.8%から鈍化。政府の長年にわたる債務リスク管理が成長鈍化の要因となり、米国との貿易摩擦により、輸出セクターが打撃を受けました。

 図表1 中国の製造業購買担当者指数(PMI) 

一方、中国の国家統計局が同日発表した7月の非製造業購買担当者指数(PMI)は54.0。前月の55.0から低下。中国の景気は、減速リスクに直面しています。

2. 政治的リスク

習政権は、民主化を進めるどころが、人権及び言論の弾圧を推進。習氏は盟友である王岐山氏を中心に据えて、反腐敗運動を推進。反腐敗運動といいつつ、実際には反対派の弾圧を進めているだけであり、特に胡錦濤前国家主席、江沢民元国家主席につながる人脈の力を削ぎ、子飼いの人物を重用。

毛沢東氏は終生に亘り権力を握り、文化大革という混乱を招きました。そのため、トウ小平氏以来、国家主席は任期を2期10年に制限し、常務委員も68歳を定年としてきました。それにより、権力の集中を防ぎ、毛沢東氏のような独裁者が現れない仕組みを維持してきました。

ところが、習氏は常務委員の68歳の定年制も廃止し、自分への権力の集中を推進。法の支配から人的支配に移行。首相の李克強首相からも経済運営の実権を奪い、独裁体制を強化。香港の民主化運動への弾圧の強化、ネットにおける政府批判の取り締まり、人権弁護士、民主化運動を支持する作家への弾圧など、強権政治の傾向をますます強めています。ノーベル平和賞を受賞した劉暁波(りゅうぎょうは)氏らは、2008年に「08憲章」を発表、署名したものの、これらの人権活動家に対する弾圧、抑制も強化しています。

このような方針は、短期的には習政権の安定をもたらすものの、長期的には民衆の共産党に対する支持の低下のつながる可能性もあります。習近平政権が長期化することにより、かえって将来の政権交代のリスクが増大しました。

3. 少子高齢化の進展

中国では、人口の増大を抑制するために、「一人っ子政策」と採用してきました。ここにきて、少子高齢化の進展し、生産年齢人口も減少。これまで享受してきた「人口ボーナス」「人口オーナス」となり、潜在成長率も低下。少子高齢化は先進国ではいずれも見られる現象であるものの、中国では国民が十分に豊かにならないままに老齢化が進展するという「未富先老」になりつつあります。

中国政府は15年末に従来の「一人っ子政策」を「二人っ子政策」に転換。出生政策を緩和したことを受けて国務院は、17年1月に「国家人口発展計画(2016-30年)」を発表し、2030年までの人口状況を展望しています。同計画では、2030年の人口が14.5億人前後に達するという目標を打ち出しているものの、達成は困難であると思われます。

「一人っ子政策」により、合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)も大きく低下しています。1970年代後半から2010年代前半にかけて、中国における合計特殊出生率は3.01から1.55へと、日本並みの水準まで低下。「一人っ子」政策と共に、出産意欲が低下してことも出生率の低下につながっています。

産児制限を行ったことにより、全体の人口が抑制されただけでなく、年齢構成も大きく変化(図表2参照)。国際連合発表の「World Population Prospect 2015」によると、1980年から2015年にかけて年少人口(0-14歳)は36.2%から17.2%へと大きく低下(図表2参照)。一方、高齢者(60歳以上)の比率は7.2%から15.2%へと上昇。それにより、生産年齢人口(15-59歳)の比率は、1980年の56.6%から2010年には70.2%へと上昇したものの、その後は高齢化の進展により、2015年には67.6%へと低下。

 図表2 中国の人口の年齢別構成の変化

生産年齢人口が非生産年齢人口(年少人口と高齢者人口を加えたもの)に対して相対的に比率が上昇する局面を「人口ボーナス」と呼び、反対に相対的に低下する局面を「人口オーナス」と呼びます。日本などの先進国では、「人口ボーナス」の時期に高度成長、1人足り国民所得の急激な上昇を実現し、「人口オーナス」期における社会保障の構築に備えるのが一般的なパターン。

中国は既に「人口オーナス」期に入っており、社会保障の整備もまだ十分とは言えません。農村部では特に、老後は子供に頼らざるを得ない状況であり、農村部を中心に子供の数を増やそうと、政府はもくろんでいます。ただ、教育費、住宅費の高騰などもあり、「一人っ子政策」を撤廃しても、出生率はそれほど上昇しないとみられます。将来への不安から国民が貯蓄に励み、消費が経済発展を牽引するのは難しいとみられます。

4. 国有企業改革

国有企業の改革は、あまり進んでいません。中国では毛沢東主席の時代に、民営企業は資本主義のものであるとして全くみとめられていませんでした。トウ小平氏のもと、中国は市場経済化を目指し、民営企業も発展しました。

99年の15期中央委員会第4回全体会議において、次の4分野を除いて、国有企業は規模に関係なく、民営化の対象となりました。4つの分野とは、国家の安全に関わる産業、自然独占および寡占企業、重要な公共財を提供する企業、基幹産業とハイテク産業における中核企業。その後20年近く経過したものの、民営化は中小型の企業にとどまり、大型の国有企業は却って巨大化する傾向にあります。

習近平政権においては、市場ひいては国有企業の民営化が進むとの期待があったものの、1期目の5年間においては、民営化は停滞したまま。民営化の代わりに「混合所有制改革」を進めています。マクロ的には、国有企業も民営企業も混在する経済を言います。

5. ソフトパワー(文化力)の不足

さらに、ソフトパワー(文化力)も不足。習政権は言論、メディアの統制も強めており、出版についての審査を強化。共産党に対して批判的な香港の本屋の店主が共産党により中国本土に連れ去られたのは記憶に新しいところ。

著作権の保護が不十分であり、化学などの素材、自動車、電気機械の技術なども、欧米あるいは日本の技術を違法に模倣する傾向にあります。著作権、特許が十分保護されないため、企業は基礎研究に力を入れず、ノーベル賞の受賞者も、欧米、日本に比べるとごくわずか。中国から欧米など海外に留学する学生の数は多いものの、帰国を望まない学生も多く、留学生の多さが中国の文化力の向上に結びついているとは言えません。

次回は、中国経済の物価、金利、為替、株価について見る予定です。

 転機に差し掛かる中国経済(4)政策課題  平成30年8月31日

今回は、政策課題について見ます。

1. 中国の税体系

中国の税体系は、間接税が中心(図表1参照)。間接税のほかに、直接税、財産税、取引税があります。所得税は分離課税となっており、株式、不動産などの所得は、一律20%の分離課税となっています。

 図表1 中国の税体系 

中国の間接税は消費税ではなく、付加価値税。付加価値税では、領収書が重要で、企業は経費の領収書を多く集めて付加価値税の税額を抑制しようとします。そのため、領収書の偽造が横行しています。

直接税については、総合課税がなく、分離課税。給与は最高45%の累進課税であるものの、その他の所得は20%の分離課税で済みます。株式や不動産で大儲けしても20%で済みます。申告漏れも多数みられます。

中国には相続税がなく、次の世代に財産が引き継がれます。そのため、所得税、財産税ともに大金持ちに有利になっており、所得の格差拡大の原因となり、納税意識の低下にもつながっています。

2. 信用システムの構築

信用システムの構築も、今後の課題となっています。国務院は、「社会信用体系建設企画綱要(2014-2020)により、個人信用情報祖収集、分析するビッグデータの活用を提言しました。

ただ、政府に対する信頼感が低いため、上記の通り脱税が頻発することになります。企業に関しても、ガバナンス(統治)に問題があります。米国の証券取引所に上場している企業においてさえ、不適切な会計が指摘され、株価が急落することがあります。また、中国企業の粉ミルクは信用できないとして、大陸から香港に大量に粉ミルクを買いに来る旅行客が殺到し、香港の粉ミルクが大幅に値上がりするといったことがあります。

個人についても同様に、信用情報が確立されておらず、不動産市況の悪化などにより、不良債権が発生する可能性があります。既に家計の負債はGDP(国内総生産比)で高水準にあり、今後の景気の悪化要因となる可能性があります。

尤も、最近はアリババなどが個人の取引から個人の信用データを作り、無担保の融資を行ったりしています。日本など先進国とは違った形の信用データの構築がなされつつあります。個人の信用のデータがないため、キャッシュカードの使用の率は低いものの、全ての決済をスマホで行う傾向にあります。交通違反の罰金なども、スマホで瞬時に徴収されるため、スマホがインフラとなりつつあります。

3. 軍事予算が拡大

各国の軍事力を見るには、軍事支出の額面と、軍事費の国内総生産(GDP)比の両面から見ることが、通常行われます。軍事費に関する代表的なレポートに、ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute, SIPRI)発表のレポート「Trends in World military expenditure 2017」があります。

2017年において支出の多い順に見ると、米国、中国、サウジアラビアの順となっています。但し、中国とサウジアラビアは推定。続いて、ロシア、インド、フランス、英国となっています(図表2参照)。

 図表2 主要国軍事費

ただ、軍事費は対GDP(国内総生産)比でも見る必要があります。同様にストックホルム平和研究所のデータによると、米国のGDP 比3.15%に対して、中国は1.91%(推定)であり、比率の面では、必ずしも突出してはいないことがわかります(図表3参照)。

 図表3 主要国軍事費(対GDP比)

中国軍の内部では、深刻な腐敗があるとみられ、不透明な軍事物質の買い付け、賄賂なども横行しているとみられます。昇進に伴う軍内部の贈収賄もあるとみられます。兵士の殆どは一人っ子であり、戦闘意欲、また戦闘能力については未知数。中国が行った戦争で、19世紀以降に勝利したものはないとの指摘もあります。対ベトナム戦争においても、結局は撤退しただけであり、勝利したとは言えません。

次回は、課題、リスク要因などについて見る予定です。

 転機に差し掛かる中国経済(3)電子商取引など  平成30年8月24日

おはようございます。電子商取引、研究開発費、輸出などについて見ます。

1. 電子商取引が発展

中国電子商務研究中心(CECRC)はこのほど、「2017年上期の中国電子商取引(EC)市場データ観測報告」と「2017年上期の電子ネット小売市場データ観測報告」を発表。それによると、2017年の上期の中国EC取引額は、前年同期比+27.1%の13兆3500億元、うちB2B市場が同+24%の9兆8000億元、ネット小売市場取引額は同+34.8%の3兆1000億元、生活サービスEC取引は同+21.8%の4500億元(図表1参照)。

 図表1 中国EC市場取引規模 

17年上期のEC市場は引き続き堅調な伸びを示しており、消費牽引型成長に向かって、消費高度化の時代を迎えており、EC企業は新たな需要の拡大に取り組んでいます。EC企業は雇用拡大や起業に無貢献。17年6月時点の中国ECサービス企業の従業員数は前年同期比+8.7%の310万超。ECの発展が、多くのECプラットフォーム、アプリ、サービス、物流、決済企業の企業を促しており、それによって生まれた産業チェーンにおける就業者数は同+9.5%の2300万人を超えています(図表2参照)。

 図表2 中国ECサービス企業従業者数

17年上期の中国EC配達企業の営業収入は2,572.9億元となり、17年末までは前年比+49.8%の6,000億元に増加する見込み(図表3参照)。「新小売」業態の発展及び従来型物流・配達のスマート化により、将来EC関連配達業は、急速な成長を迎えると見込まれています。特に、オンラインとオフラインを融合したスマート物流は、「新小売」を実現する重要な手段として注目されています。

 図表3 中国配達企業営業収入

2. 輸出の伸びが鈍化

中国では従来、企業の設備投資などの固定資産投資、さらに輸出が経済の牽引役となっていました。地方政府の債務の急拡大、環境問題の深刻化により固定資産投資の伸びが急速に鈍化しているのと同様、輸出の伸びも大幅に鈍化しています(図表4参照)。

 図表4 中国の輸出の伸び率(前年比)

最近では、米中の貿易戦争が話題となっているものの、それ以前の15-16年には中国の輸出は既に前年比減少に落ち込んでいました。最低賃金が毎年10%以上引き上げられており、繊維などの軽工業、あるいはスマホの部品なども採算が取れなくなっています。スマホなど電子部品は当初は広州など沿岸部で生産していましたが、人件費の高騰により、工場が内陸部に進出。それでも採算が取れなくなり、ベトナムなどの東南アジア、あるいは南アジアに工場が移転。中国の「世界の工場」としての地位は低下しました。

3. 研究開発に遅れ

上記の通り、繊維などの軽工業、あるいは鉄鋼、化学などの素材産業が今後の中国経済を牽引していくことは難しく、自動車などの組み立て産業、電気機械、あるいはIT産業などが発展していく必要があり、産業の高度化が必要となってきます。

付加価値の高い産業に移行するためには、研究開発が重要となってきますが、中国では研究開発が大きく遅れています。研究開発費のうち、基礎研究に充てる比率は5%程度と低く(図表5参照)、スーパーコンピューターなど国家プロジェクトに偏っており、企業の研究開発は遅れています。

 図表5 研究開発費の配分

中国では、知的財産の保護が不十分であり、新しいものと作ってもすぐに模倣されてしまいます。そのため、企業は研究開発に取り組まず、技術も会議の企業の模倣にすぎない状況。中国では、日本の新幹線にあたる高速鉄道の距離は日本よりもはるかに伸びていますが、鉄道、車両などの技術の多くは日本企業の模倣であるにすぎません。

サッカーのワールドカップのスポンサー企業には、不動産会社の万達などいくつかの企業が参加するほどになっていますが、自前の技術を持っている企業な少ないとみられます。持っていても海外の企業から登用したものが多く、自前の技術は殆どありません。

自動車のついても、生産、消費の台数は米国の2倍以上に急拡大しているものの、技術は米独日に遅れています。中国は電気自動車の普及を推進しているものの、自動車市場に占めるシェアは2%程度に留まっています。電池の信頼性が低く、充電設備の普及も進んでおらず、電池自動車が急速に普及する環境にはないと言えます。

4. 中所得国の罠

中国では、1人当たり国内総生産(GDP)が8,000ドルを超えていますが、今後は輸出主導型でなく、個人消費を刺激する必要があります。ただ、格差の拡大、高齢化、社会保障制度の遅れにより、過剰貯蓄、過少消費が是正されておらず、成長率も低下の傾向にあります。

人件費の上昇により、輸出の採算が悪化しており、高付加価値産業への移行も進んでいません。輸出が国際競争力を失いつつあり、中国企業は基礎開発を行って、技術力を高める必要があります。中国では知的財産の保護が不十分であり、企業は基礎研究に打ち込む体制にはありません。中国は今後、いわゆる「中所得国の罠」に陥る可能性があります。中国経済のリスク、課題については後程見ていこうと思います。

次回は、政策課題などについて見る予定です。

 転機に差し掛かる中国経済(2)成長率鈍化の背景  平成30年8月17日

中国の成長率鈍化の背景について探っていきます。

1. 固定資産投資伸び率が低下

中国では、人口の増加により毎年労働人口が増加したため、政府はこれに対応して成長至上主義をとっていました。景気過熱と低迷を繰り返し、効率を無視して地方政府と国有企業を中心として、固定資産投資と輸出が経済を牽引してきました。

環境問題などもあり、政府は量的な拡大よりも、質の向上を目指す方針に転換。地方政府による債務拡大、影の銀行による不良資産の増大、環境問題の深刻化などにより、地方政府による固定資産投資が減少。

国家統計局による8月14日発表の18年1-7月の固定資産投資は、前年同期比+5.5%。伸び率は1-6月の+6.0%から減速。市場予想の+6.0%からも下振れ(図表1参照)。09年以降、固定資産投資は一貫して低下しており、GDPの伸び率の低下の要因となっています。

 図表1 中国の固定資産投資(前年同期比) 

2. 消費も力強さを欠く

一方、中国の国家統計局は同日に、17年7月の小売売上高が、前年同期比+8.8%になったと発表(図表2参照)。6月の+9.0%から伸び率が減速。市場予想の+9.1%からも下振れ。

消費は、輸出及び固定資産投資に代わって景気を牽引することを期待されていますが、伸び率は力強さを欠いています。

 図表2 中国の小売売上高(前年同月比)

3. 高齢化が進展

少子高齢化が急速に進展していることも、消費の伸び悩みの大きな要因(図表3参照)。65歳以上の人口比率は10%と、日本と比較するとまだ低い水準にとどまっています。ただ、今後は少子高齢化が急速に進展する見込みであり、2040年には65歳以上の人口の比率が21%程度になると予想されています。一人っ子政策により、将来一人の子供が2人の親、4人の祖父母を養う「1-2-4」の人口構成になると言われています。

福祉制度の整備も遅れています。介護保険、年金制度も先進国と比較して未整備。将来に対する不安を考えて、消費に対して慎重になる傾向にあります。将来に対する不安から、貯蓄率が非常に高く、2014年において貯蓄率が50%程度、消費率が35%程度となっています。

 図表3 中国の高齢化比率の予想

4. 生産設備の過剰

一方、過剰設備の廃棄も進んでいません。2008年9月のリーマン・ショックに際して、中国が4兆元の経済対策を発表し、これにより世界的な金融不況が解消に向かったという経緯があります。ただ、地方政府及び国有企業を中心として過剰な設備投資、インフラ投資が行われ、生産設備の過剰という問題が発生しました(図表4参照)。

2000年代末に資本ストックの過剰感が強まったわけですが、その後、資本ストックは調整局面にあります。18年の時点においても、実際の成長率を比較してまだ高水準にあります。過剰設備の問題は、国有企業のガバナンス(統治)の問題とも関連しており、後程、中国の課題とリスクとして取り上げたいと思います。

 図表4 主要産業の過剰設備比率

次回は、電子商取引、研究開発費、輸出などについて見る予定です。

 転機に差し掛かる中国経済(1)成長率  平成30年8月10日

おはようございます。中国経済は、今年4-6月期には減速の兆しを見せました。中国経済の展望、課題について考えます。

1. 成長率は鈍化の傾向

国際通貨基金(IMF)は18年4月に発表した世界経済見通しの報告書では、18年の、中国の成長率は+6.558%で、インドは+7.355%となっています。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、14年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表1参照)。ただ、中国の成長率は鈍化が続く見込みであるものの、やがて国内総生産(GDP)の規模では、米国を抜き去ると予想されています。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想 

中国は1979-2010年には、平均で約+10%の経済成長を遂げて、世界の工場と呼ばれていました。リーマンショックを経て、2011-17年には平均で約+7.6%へと成長率が低下しました。今後も、IMF予想では18年+6.558%、19年+6.408%と、成長率は次第に低下する見込み。かつてほどの高成長は期待できなくなっており、「新常態(New Normal)」へと移行するとみられています。

2. 4-6月期GDP+6.7%

中国の国家統計局は7月16日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.7%の伸びだと発表(図表2参照)。成長率は1-3月期から▲0.1%ポイントの減速。17年7-9月期以来3期ぶりの減速。インフラ投資が振るわず、消費も伸び悩みました。米国との貿易摩擦で今後輸出が減速する可能性があり、景気の先行きに不透明感が強まっています。

4-6月期の成長率は18年の政府目標である「+6.5%前後」を上回りました。また、市場予想の+6.7%とは一致。前期比では成長率は+1.8%と、1-3月の+1.4%からは加速。

 図表2 中国の四半期成長率(前年同期比)

3. 鉱工業生産伸び率は予想下回る

中国の国家統計局が7月16日に発表した統計によると、年間売上高2000万元以上の企業の3月の鉱工業生産(付加価値ベース)は前年同月比+6.0%と、5月の+6.8%から減速。市場予想の+6.5%からも下振れ。

 図表3 中国の鉱工業生産(前年同月比)

4. 6月小売売上高は予想上回る

一方、中国の国家統計局は同日に、17年6月の小売売上高が、前年同期比+9.0%になったと発表(図表2参照)。5月の+8.5%から伸び率が加速。市場予想の+8.8%を上回りました。

 図表4 中国の小売売上高(前年同月比)

5. 1-6月固定資産投資は伸びが鈍化

他方、国家統計強による同日発表の18年1-6月の固定資産投資は、前年同期比+6.0%。伸び率は1-5月の+6.1%から減速。市場予想の+6.0%と一致。

6. 7月製造業PMIは予想下回る

中国の国家統計局31日発表した7月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.2と、前月の51.5から低下(図表5参照)。市場予想の51.3からも下振れ。低下は2か月連続。米国との貿易摩擦の悪化で、製造業が困難に直面していることが示唆されました。

統計局のチャオ氏は、例年7月は一部セクターで活動が鈍化する上、貿易摩擦、雨や気温の上昇により悪影響を受けたとしました。

 図表5 中国の製造業購買担当者指数(PMI)

一方、中国の国家統計局が同日発表した7月の非製造業購買担当者指数(PMI)は54.0。前月の55.0から低下。

そもそも、当局の発表する成長率、物価などの数字は、実態を表しているのかどうか疑問であるとの見方もあります。エコノミストの中には、実際の成長率は+4〜5%程度であると推定する向きもあります。中国の李克強首相も、GDP統計よりも電力消費量、物流などを重視ているとされます。

中国も経済のソフト化、サービス化が進展し、中国に対する海外からの直接投資でみても、製造業が減少する一方、サービス業への投資は堅調。単に電力消費量などを見るだけでは、実態を見誤る可能性もあります。

中国では、国有企業の過剰設備の廃棄は進んでいるものの、地方政府の債務の問題などもあります。ただ、中国経済の実態を見るためには、過剰設備、国有企業改革、地方政府の債務の問題なども見ていく必要があります。

次回は、中国の景気減速の背景について探っていきます。

 インド経済の見通し(4) リスク・課題  平成30年7月27日

おはようございます。前回の物価、金利、為替、株価に続き、インド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレの懸念

まず、インド統計局が7月12日発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.0%(図表1参照)。前月の+4.87%から加速。市場予想の+5.3%からは下振れ。

インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+2〜6%となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲に収まっています。ただ、足下では食料品はエネルギーなど生活必需品を中心として物価上昇圧力が強まる可能性があります。さらに、米長期金の上昇により、通貨に下落圧力がかかっており、輸入物価が上昇する傾向にあります。

インドは国内で消費する原油の大部分を輸入に頼っており、元々インフレになりやすい体質であることから、原油など資源価格が上昇すると、インフレ率が大きく上昇する傾向にあります。インフレ率が大きく上昇すると、利上げのなどの金融引締めに至り、景気悪化を招くことがあります。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率 

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では18年に国内総生産(GDP)比▲6.5%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 製造業が未発達

インドでは伝統的に理数系に強い人材が多く、「0」もインドで発見されたと言われており、IT、コンピュータなどに強いと言われています。IT、あるいはBPOが発達しており、これが上記の通りサービス収支黒字の原因となっています。ただ、製造業については、未発達であり、第二次産業よりもサービス業中心の経済であると言えます。

一方、インド自動工業会(SIAM)の発表よると、6月のインド新車販売台数は、前年同月比+38.5%の35万4383台(図表4参照)。昨年11-12月には高額紙幣の廃止により販売が落ち込んだものの、影響が収束しつつあり、四輪車市場は堅調な伸びとなりました。インド中銀は中立的な金融施政を撮っており、自動車販売にはプラスに働く可能性があります。ただ、中長期的には、製造業を育成していくことが政府にとって課題となっています。

 図表4 インドの新車販売台数

5. インフラ整備、規制緩和

インドは中国に匹敵する人口を抱えており、しかも人口構成はかなり若く、消費、生産の両面において大きな可能性を持っています。そのため、日本及び欧米企業のインドへの関心は高く、日本からは自動車メーカーの現地生産への進出、製薬会社の現地企業買収などが進んでいます。

ただ、海外からの直接投資はあまり進んでおらず、その大きな要因となっているのはインフラの未整備です。財政赤字による制約がインフラ整備を妨げる一因。鉄道、道路、空港、電力などの整備が待たれており、モディ首相への期待も高まっています。

インフラの未整備と共に、経済の発展を妨げているのが、政府による過剰な規制、法の未整備、複雑な税制などです。たとえば、建築、土地再開発に関する規制が厳しすぎるため、オフィスの供給量が極端に少なく、オフィス賃貸料の高騰の原因となっています。

このほか、金融・小売りなどの規制緩和もあまり進展していません。インドでは小規模な商店が多いため、外資系のデパート、スーパーなどの進出が規制されています。インド政府は、地場の中小・零細小売業者を保護するため、外資企業の小売り参入を厳しく制限しており、近代的な小売市場の発展を妨げています。

6. インド経済の展望

モディ政権1期目は、最後の1年に突入しており、来年には下院の総選挙が予定されています。引き続き、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利すると予想されていますが、モディ政権誕生時のような熱狂的な支持は見られません。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

 インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価  平成30年7月27日

おはようございます。前回の政治に続き、今回は物価、金利、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が7月12日発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.0%(図表1参照)。前月の+4.87%から加速。市場予想の+5.3%からは下振れ。

インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+2〜6%となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲に収まっています。ただ、足下では食料品はエネルギーなど生活必需品を中心として物価上昇圧力が強まる可能性があります。さらに、米長期金の上昇により、通貨に下落圧力がかかっており、輸入物価が上昇する傾向にあります。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率 

2. 政策金利を引き上げ

他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は6月6日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを+0.25%ポイント引き上げて6.25%にすることを決定(図表2参照)。6人の政策委員の全員が引き上げに賛成。

据え置きは4会合連続。同行は、リバースレポ金利も現状通り5.75%、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りる際のMSFの金利も6.25%で据え置き。RBIは17年8月会合で主要政策金利を16年10月以来10か月ぶりに▲0.25%ポイント利下げして6.00%にしたのち、前回4月会合まで4会合連続で据え置いていました。

 図表2 インドの政策金利

RBIは会合後に発表した声明文で、「今回の利上げ決定は、中立の金融政策スタンスと調和するもので、経済成長を支えながらCPI(消費者物価指数)で見たインフレ率の中期の物価目標である+4%±2%を達成するという我々の目的と合致する」として、小幅利上げにもかかわらず、金融は引き締めや緩和のどちらでもないとの認識を示唆。この中立姿勢は、インフレ動向次第で将来の利上げ、または利下げに含みを持たせることを示唆しています。

3. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落(図表3参照)。17年初頭からは小幅反発。その後、17年末頃から再び下落。17年12月末から18年6月迄に、▲7.2%の大幅下落。米国経済の好調により、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを加速。それにより、米長期金利が上昇し、新興国の通貨は対ドルで軟調な傾向にあります。

インドはかつて「脆弱5か国」とされ、財政赤字および経常収支赤字が懸念されました。そのため、インド・ルピーはドルなど主要通貨に対して、継続的に下落してきました。

一方、株価は代表的な株価指数であるSENSEX30で見ると、12年初めから15年初めにかけて順調に上昇。15年初めから16年2月にかけて調整したものの、その後は再び力強く上昇。17年以降はほぼ一貫して上昇。7年12月末から18年6月迄には+4.2%の小幅上昇。インド国内の景気の好調などが、株価上昇の主な要因と考えられます。

 図表3 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

ただ、今後は米連邦準備理事会(FRB)が利上げを継続する見込みであり、それに伴い投資家がインドなど新興国から資金を引き上げる可能性があります。また、通貨の下落によりインフレ率が上昇することも考えられます。米中の貿易摩擦は今のところインドに対しては直接的な影響を及ぼしてはいないものの、インドと中国との貿易にも間接的な影響が及ぶ可能性があります。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

 インド経済の見通し(2) 政治  平成30年7月20日

おはようございます。前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ政権1期目が最後の1年に突入

現在、インド首相のナレンドラ・モディ氏は、14年5月16日に行われた総選挙では、構造改革の実施、汚職・不正の撲滅などを訴えました。同氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)は、543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得して圧勝。BJPは10年ぶりに与党に返り咲きました。現在(5月3日)の下院勢力図は図表1の通り。政権発足から4年が経過し、来年5月までに下院の総選挙が行われる予定。

 図表1 下院の党派別議席数(5月3日現在) 

2. 州議会選挙に注目

今年5月以降の州議会選挙の実施の予定は図表2の通り。州議会選挙は、総選挙の前哨戦。また、上院は州議会選挙の議席に比例するため、政権与党にとっては、州議会選挙での議席の躍進と図りたいところ。

 図表2 18年の州議会選挙の予定

このうち、南部のカルナータカ州では既に州議会選挙が行われました。BJPは前回、2013年の40議席から、90議席前後と報じられていた予想をはるかに上回る104議席を獲得し、第1党となりました。ただ、国民会議派(INC)が78議席、JDが37議席、その他が3議席となって、BJPは過半数に届きませんでした。INCが地域政党のJDと組み、引き続き与党にとどまりました。

昨年実施された地方選挙(州議会選挙)では、モディ政権を支える与党インド人民党(BJP)が多くの州で勝利をおさめたものの、モディ首相のお膝元であるグジャラート州では議席を減らす予想外の結果となりました。また、今年5月実施のカルナータカ州では、議席を伸ばしたものの、与党の座に就くことはできませんでした。

政権発足時には「熱狂的」とされたモディ首相の人気に陰りがみられるほか、与党BJPへの支持も伸び悩んでいます。直近の世論調査では、BJPが率いる与党連合(国民民主連合:NDA)の議席数は最大野党である国民会議派率いる野党連合(統一進歩同盟:UPA)を上回る見込みである者の、差は着実に縮まっています。

3. 総選挙を前にばら撒きを強化

景気動向を見ると、足下では高額紙幣廃止措置やGST(財・サービス税)の影響を克服し、景気は回復傾向にあります(図表3参照)。ただ、小規模小売店主や農村部での評価はあまり高くなく、上記の通り地方選では、苦戦が続いています。そのため、モディ政権にとっては、次期総選挙に向けて、大票田である農村部の支持拡大に向けて票の掘り起こしが急務となっています。

 図表3 製造業PMI

そこで、政府は今年2月に発表した4月からの今年度(2018-19年度)には、来年4-5月にかけて実施される次期総選挙を意識して、政府が掲げる中期財政目標の達成時期を2年後ろ倒しするとともに、様々な歳出拡大による景気下支え強く意識しています。

輸送インフラ関連予算の大幅拡充、対内直接投資(FDI)拡大に向けたモディ首相肝いりのプロジェクトである「スマートシティ(次世代環境都市)」関連予算も大幅に拡充。さらに、選挙戦において最大の票田となる地方・農村部を意識して、低所得者や農村部を対象とする食料、農薬、石油製品関連の補助金増額や農業関連予算の拡大、1億の低所得世帯を対象とする年間50万ルピーを上限として医療費補助を実施する計画も提示。

政権発足以降のモディ政権は、予算を通じた景気下支えに配慮しつつも、構造改革、財政の健全化を目指してきました。一昨年末に実施した高額紙幣廃止措置や昨年7月に導入したGST(財・サービス税)を巡っては、足下ではその影響を克服する動きがみられるものの、一時的には景気への悪影響がみられました。

政府の内閣経済問題委員会(CCEA)は7月4日に、今年度に収穫される作物(雨季作)に対して設定される最低調達価格(MSP)の大幅引き上げを決定。インドでは低所得者を対象に市場価格よりも低い価格で提供する公的配給制度(PDS)が実施されており、その際の政府の買い付け価格がMSP。その差額は実質的に補助金となっています。

政府は上述の予算において、食料補助金の大幅引き上げを盛り込んでおり、MSPの大幅引き上げの可能性が指摘されていましたが、その引き上げ幅はモディ政権後の過去3年に比べて突出。州議会選挙を控える州を中心として、農家を対象とする債務免除も広がりを見せました。

今後は米トランプ政権による通商政策を発端とする、世界的な貿易戦争が強まる可能性があります。さらに、米国の景気好調、長期金利の上昇を背景として、新興国からの投資家の資金引き上げ、それによる新興国の通貨下落、輸入物価上昇、株式市場下落の動きが続く可能性もあります。インドとしても、経常赤字、財政赤字が経済の脆弱性につながる可能性があり、その点については後程、インドの課題として見ていこうと思います。

次回は、物価、金利、為替、株価などを見る予定です。

 インド経済の見通し(1) 人口・発展段階  平成30年7月13日

おはようございます。インドの世界経済における存在感が高まっています。インド経済の見通しを見ていきます。

1. インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想) 図表2 インドの人口ピラミッド(2050年予想) 

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2. 成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は18年4月に発表した世界経済見通しの報告書で、18年のインドの成長率予想を+7.355%として、中国については+6.558%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、14年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2018年で見ると、IMFの今年4月のデータで、米国が62,152ドル、日本が40,849ドル。また、ロシアが11,946ドル、ブラジルが10,224ドル、中国が10,087ドルであるのに対して、インドは2,134ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2018年)

4. 1-3月期成長率+7.7%に加速

続いて、インド統計局が5月31日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比+7.7%(図表5参照)。市場予想の+7.3%を上回り、前期の+7.0%から。約2年ぶりの高い伸びで、中国の1-3月期の+6.8%をも上回り、主要国の中では最も高い成長率を維持。

更に、今年3月までの2017-18年度の成長率は+6.7%と、前年の+7.1%からは鈍化しました。ただ、エコノミストは今年度の成長率は、高くなると予想。

製造業の伸びが前年同期の+6.1%から+9.1%に加速し、全体の成長を牽引。製造業では、投資が拡大しています。

 図表5 インドの四半期成長率(前年同期比)

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

 新興国で利上げ相次ぐ  平成30年7月6日

おはようございます。新興国では、政策金利の引き上げが相次いでいます。

1. 新興国で利上げ相次ぐ

アルゼンチン、トルコで始まった利上げは、その後インドネシア、フィリピン、インドなどに波及。米連邦準備理事会(FRB)が利上げの速度を速めており、米国の長期金利が上昇。それに伴い、新興国の通貨が下落、輸入物価が上昇。各国は通貨防衛のために、政策金利の引き上げを余儀なくされました。

2. インドネシア5月CPI上昇率は+3.41%とほぼ横這い

インドネシアを例にとると、インドネシア中央統計局は6月4日に、5月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.23%の上昇になったと発表(図表1参照)。市場予想の+3.28%を下回り、前月の+3.41%からも下振れ。

 図表1 インドネシアのCPI前年同月比上昇率 

3. 政策金利を引き上げ

一方、インドネシア中央銀行は6月29日に臨時会合を開催し、政策金利である7日物リバースレポレートを+0.5%ポイント引き上げ5.25%にすることを決定(図表2参照)。中銀は5月に臨時会合を含めて2回利上げしていましたが、足下では再び通貨ルピアが下落しているため、通貨防衛のために利上げしました。市場の事前予想では+0.25%ポイントの利上げの予想が多く、利上げ幅は予想以上でした。

 図表2 インドネシアの政策金利

4. 新興国の一部で通貨が大幅下落 米国の長期金利の上昇などにより、新興国の一部では通貨が大幅下落。特に。経常赤字、財政赤字が大きく、対外準備が少ない国ほど通貨が売り込まれました。特に通貨が大幅に下落したのが、アルゼンチンとトルコ。アルゼンチン・ペソは対ドルで、過去1年で▲77%の大幅下落(図表3参照)。

 図表3 アルゼンチン・ペソ(対ドル)

5. 株価も下落傾向 また、米長期金利の上昇に伴い、新興国の多くで通貨が下落し、それに伴い株価も下落。ブラジルについて見ると、今年3月末と6月末との比較で、通貨レアルは▲11.3%の下落。同じ期間で株価は、ボベスパ指数で見て▲18.9%の下落(図表4参照)。アルゼンチン、トルコなどほかの主要国でも軒並み株価が下落。

 図表4 ブラジル・ボベスパ指数とレアル(BRL/USD)

今後も多くの主要な新興国おいては、政策金利の引き上げ、通貨の下落、それに伴う輸入物価の上昇、それによる物価の上昇、株価の下落が当面、継続する可能性があります。ただ、長期的にみて新興国の成長率は、先進国のそれを上回る可能性が高いとみることもできます。あまり短期的な動向を気にせず、あくまで長期投資に徹することが重要であるともいえます。

 中南米で選挙相次ぐ  平成30年6月29日

おはようございます。中南米では大統領選などが相次いで行われる予定です。

1. コロンビア大統領選で右派ドゥケ氏が当選

コロンビアでは17日に、サントス大統領の任期満了に伴う大統領選の決選投票が行われました。ゲリラとの和平の見直しを掲げる右派のイバン・ドゥケ前上院議員(41)が、合意維持を掲げる元ゲリラ兵で和平を肯定する左派のグスタボ・ペトロ前ボゴタ市長(58)を破り当選。ドゥケ氏は、公約したコロンビア革命軍(FARC)元メンバーの厳正な処罰を可能にする合意見直しに取り組むとみられます。

選管の発表によると、開票率99%時点で、得票率はドゥケ氏が54%で、ペトロ氏は42%。ドゥケ氏は8月7日に大統領に就任。任期は4年。

政府は16年に、FARCとの和平郷地を発行。ただ、合意の是非を問う国民投票では否決されて、議会の承認によって発効させました。さらに、殺人や誘拐にかかわった元メンバーへの事実上の恩赦や政治参加に対する、国民の批判も根強いものがあります。

 写真1 コロンビア大統領選に当選したイバン・ドゥケ氏 

和平合意に対する国民の不信感を背景として当選したドゥケ氏は、17日の勝利演説において、「自分に投票しなかった人も含めて、全ての人の大統領になる」都市、合意賛成派への一定の歩み寄りも示唆しました。

2. メキシコでは7月1日に大統領選と上下院選

メキシコでは7月1日に大統領選と上下院選が予定されており、大衆迎合主義(ポピュリズム)の左派が勢いを増しています。大統領選では、左派候補が独走しており、同日の上下院選でも、第1党になる可能性があります。

大統領選では、新興左派政党である国家再生運動(Morena)の候補であるドスレ・マヌエル・ロペスオブラドール元メキシコシティ市長(64)が、他の候補をリード。メキシコでは、景気の低迷のほか、犯罪、麻薬などに対する国民の不満が高まっており、既存の政党への批判が強まっています。

 写真2 メキシコ大統領選でリードしているアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール氏

同様に、ブラジル・レアルも大幅下落。レアルは昨年6月後半には1ドル=3.20レアル程度の取引でしたが、今年6月後半には、同3.81レアル程度の取引。1年間の下落率は▲28.9%程度に上っています。 同氏は集会で、「大統領選の勝利だけでない。上院でも下院でも過半数の議席が必要だ」と呼びかけました。現在上院では、定数128に対して制度的革命党(PRI)が56議席で1位、国民行動党(PAN)が34議席で2位、国家再生運動(Morena)は議席0。下院は同様にPRIが204議席、PANが108議席となっており、Morenaは47議席を占めるにすぎません。

ロペスオブラドール氏は、大統領選のキャンペーンで、最低賃金や年金支給額の引き上げ、低所得層の多いメキシコ南部を中心とするインフラ整備などを公約として掲げています。もし同氏が当選すると、財政規律が緩み、通貨の下落などにつながる恐れがあります。

3. ブラジルの大統領選は混戦模様

ブラジルの大統領選は、第1回の投票日が10月7日、決算投票が同28日。ブラジル経済は17年に3年ぶりのプラス成長となって物の、支持率の低迷するテメル大統領は出馬を断念。人気の高かったルラ元大統領は収賄で4月に有罪判決を受けて収監。出馬はほぼできなくなりました。

ルラ氏を除く主な候補者の中では、過去の軍事政権を称賛し、女性、黒人、同性愛者などを蔑視する「ブラジルのトランプ」こと極右のボルソナロ下院議員が有力。左派のシルバ元環境相やゴメス元財務相らが追っています。

市場には、だれが当選しても年金改革などを行うという楽観論もあるものの、特にボルソナロ下院議員などに対する警戒感もあります。ブラジル中央銀行によると、今年の財政赤字は対国内総生産(GDP)比で▲6.2%に達する見通し。テメル現大統領の現在の改革路線が修正されれば、市場では通貨レアルに対する売りが出る可能性もあります。

4. ベネズエラではマドゥロ大統領を再選

深刻な経済危機に陥っているベネズエラでは、5月20日に大統領選の投開票が行われました。選管は、反米左派で独裁色を強めるニコラス・マドゥロ大統領(55)が再選されました。投票率は46%。開票率96%で、マドゥロ氏が67.7%を獲得。欧米や中南米諸国は「公正な選挙とは言えない」として批判を強めています。米国などからの経済制裁が継続することにより、国際的な孤立を深めることとなりそうです。

 写真3 ベネズエラの首都カラカスで17日に演説するマデゥロ大統領

マドゥロ氏は首都カラカスで支持者などを前に「大統領として経験を積み、私は準備ができている。みなさんの信頼に応える。これは民主主義の勝利だ」と述べました。

ベネズエラでは、チャベス前大統領が大衆迎合的な政策をとったことが、経済の低迷の一因とみられます。今後、メキシコ、ブラジルなどでも大衆迎合的な政権が誕生し、財政規律の緩みなどから、通貨が下落する可能性もあります。

米国が利上げを継続し、同国の長期金利が上昇。新興国の一部からは、投資家の資金が流出しています。これにより、特にアルゼンチンでは、通貨が大幅に下落。同国は国際通貨基金(IMF)に支援を仰ぐ事態となりました。今後もブラジルなどで通貨が下落すると、政治的な混乱も相まって、中南米では経済が低迷することも考えられます。

 米利上げの新興国への影響  平成30年6月22日

おはようございます。米国の連邦準備理事会(FRB)は利上げを加速する姿勢を示唆。新興国への影響について見ます。

1. 米FRB利上げ加速へ

米国のFOMC(公開市場委員会)は6月12-13日の会合で、今年2回目となる利上げを決定。18年通年の利上げ予測は中央値で回と、これまでの3回から上方修正されました。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、米経済の持続的な成長軌道を維持するための利上げの正当性を改めて主張。そのようンあり上げは、米金融当局内部においても広く支持されているとしました。

同氏はポルトガルのシントラで開催された欧州中央銀行(ECB)主催のフォーラムでの講演で、「失業率が低く、更なる低下もみこまれ、インフレ率は当局の目標付近にあり、見通しへのリスクは概ね均衡していることを踏まえ、FF金利の斬新的な引き上げを継続する根拠は強い」としました。

2. 新興国から資金が流出

金融市場では、新興から資本流出が起きたり、通貨が下落したりするのではないかとの懸念が強まっています。先進国による金融緩和を背景として、新興国に豊富な資金が流入していましたが、米国と中心として先進国において金融政策の正常化が進み、新興国の株式、通貨が打撃を受けるとの観測が高まりました。

国際金融協会(IIF)が6月19日に公表したデータによると、FRBが6月12-13日に利上げを実施して以来、新興国からの投資家が約55億ドルの資金引き上げを行ったことがわかりました。



新興国の株式からは約42億ドル、債券からは13億程度が流出。19日には、外国人が中国株を3億2000万ドル強売却し、5月4日以来、初めて売り越しとなりました。 中国は従来、新興国全体から資金が流出する中でも、比較的底堅い動きをしていました。

ただ、IIFは「米政府が中国に追加的な輸入関税を課すことへの懸念が、中国への資金の流れの急激な変化をもたらした」としました。

3. 新興国で通貨の下落広がる

金融市場では、新興から資本流出が起きたり、通貨が下落したりするのではないかとの懸念が強まっています。特に財政赤字、経常収支赤字の大きな国では、資金流出、通貨下落が懸念されています。

特に下落率が大きいのが、アルゼンチンとトルコ。アルゼンチンは昨年6月後半には1ドル=14.92ペソ程度の取引でしたが、今年6月後半には同同26.62ペソ程度まで下落。下落率は約▲78%に達しました。

 図表1 アルゼンチ・ペソの対ドルレート(ARS/USD) 

同様に、ブラジル・レアルも大幅下落。レアルは昨年6月後半には1ドル=3.20レアル程度の取引でしたが、今年6月後半には、同3.81レアル程度の取引。1年間の下落率は▲28.9%程度に上っています。

4. 株価も下落

新興国の多くの株式市場では、米国による政策金利引き上げ、それに伴う資金流出懸念により、株式市場も調整色を強めています。ブラジル、アルゼンチン、トルコなどで株価が下落。トルコの代表的な株価指数であるイスタンブール100指数をみると、2015-16年にはほぼ横這いの動き。景気の拡大を背景として、株価が大幅上昇。18年に入ると、米国の金利引き上げの加速の動きなどにより、株価は下落に転じました(図表2参照)。

 図表2 トルコ・イスタンブール100指数

同様に、ブラジル・レアルも大幅下落。レアルは昨年6月後半には1ドル=3.20レアル程度の取引でしたが、今年6月後半には、同3.81レアル程度の取引。1年間の下落率は▲28.9%程度に上っています。 5. 新興国間の格差が拡大

ただ、新興国においては、国により事情が異なります。一般に、経常収支の国内総生産(GDP)比での赤字の比率が高ければ、対ドルでの通貨の下落率も高まるとの予想が成り立ちます。

2017年において、経常収支の対GDP比での赤字の比率が高いのは、トルコの▲5.5%、アルゼンチンの▲4.8%の順。対ドルの騰落率は、17年12月31日から18年5月16日の間で、トルコが▲14.0%、アルゼンチンが▲23.3%と、やはり大幅なげ楽となりました(図表3参照)。

逆に、中国は経常収支が17年にはGDP比で+1.4%。対ドルの騰落率は+2.1%となっており、両者の相関関係が強いことがうかがえます。

 図表3 経常収支の対GDP比率と対ドル通貨騰落率

同様に、ブラジル・レアルも大幅下落。レアルは昨年6月後半には1ドル=3.20レアル程度の取引でしたが、今年6月後半には、同3.81レアル程度の取引。1年間の下落率は▲28.9%程度に上っています。

6. 長期的に買い場か

このように、短期的には米国FRBによる利下げの加速、それに伴う新興国における通貨下落、株式市場の下落といった展開が予想されます。

ただ、長期的には、新興国の株式の買い場であるとみることもできます。株価は、その時点では買うべきか売るべきかという判断は、殆ど正確にはできません。ただ、長期的には、下落局面での買い付けは、報われる可能性も高いと言えます。その意味で、新興国市場の株式は、徐々に買っていくべき局面であると、見ることもできます。

 混迷する中東情勢(2) サウジが改革を推進  平成30年6月15日

おはようございます。混迷する中東情勢。今回は、サウジの改革推進など。

1. サウジが改革を推進、女性の運転解禁など

サウジアラビアは従来、メッカ、メジナの2つの聖地を有して、スンニー派の中でも保守派の中止であるとみなされてきました。ここにきて、改革の機運が高まっています。

サルマン国王は、17年9月26日に、女性に自動車の運転を認めるとの勅令を発しました。勅令は布告を18年6月に確実に施行するよう命じています。その約1か月後の10月29日に、トゥルキ・アル・アシェイク総合スポーツ庁長官が、スポーツ振興を目的として翌年からリヤドの「ファハド国王国際スタジアム」ジッドの「アプドゥラ国王スポーツ市スタジアム」ダンマンの「ムハンマド・ビン・ファハド王子スタジアム」で、女性の入場を解禁すると発表。

更に12月11日には、文化情報省が次のような声明を発表して、35年ぶりに映画館の禁止措置を解除するとしました。

(1) 映画産業の監督機関「複合視聴覚メディア委員会」が最初の映画館を18年3月に解禁

(2) 開設許可証の発行の決定は、国民に開放的で豊かな国内文化を促進するとの政府の計画の中核をなす

(3) 映画産業は2030年までに国内総生産(GDP)を900億サウジ・リアル(約240億ドル、約2兆6400億円)押し上げ、13万人超の臨時雇用を創出する。

2.財政赤字解消を先送り

ムハンマド皇太子は、サウジの石油への依存からの脱却を目指して、多くの改革を推進。16年4月には、脱石油を目指すことを明確に宣言した経済計画「ビジョン2030」を発表(表1参照)。発表当時は副皇太子。

 図表1 「ビジョン2030の主要項目」 

サルマン国王は17年12月1日に、歳出額が同国市場最大規模(9780億SR、約2611.5億ドル、約28兆7265億円)の2018年度予算を発表(図表2参照)。

 図表2 サウジ2017年見込みと18年予算 するパレスチナ人(ガザ地区、14日)

ブルームバーグは17年12月26日に、「2023年までに石油収入が80%増加するとみるサウジ」との題名の記事を掲載。関係者の話として、23年に石油収入が17年に比べて80%増加するので、同年の財政収支が10年振りに黒字化するとみていることをしました。また、複数の関係者によると、サウジは現在、財政の均衡を目指した6年計画を推進(図表3参照)。この計画では、23年の原油価格を1バレル75ドルと仮定。このように、財政収支の赤字の解消は、23年に先送りされています。

 図表3 サウジ財政均衡6年計画

3. 汚職を摘発

サルマン国王は、17年11月4日に、2閣僚1官僚を更迭し、「汚職対策最高委員会」を創設し、ムハンマド皇太子が委員長を務める委員会による王子・閣僚などの拘束を開始。同国王は同日に、ミトブ・ビン・アルドゥラ王子・国家警備隊隊長、アーデル・ファキーフ経済企画相、アブドゥラ・アル・スルタン提督・海軍長官を解任し、後任にハーリド・ビンアッヤーフ王子、ムハンマド・アル・トゥウェイジェリ氏、ファハド・アル・ゴファイリ提督を任命。

国王は、「汚職対策最高委員会」を創設し、ムハンマド皇太子を委員長に任命し、数時間後の同日夜、最初の勅令が発布され、王子1人、現職閣僚4人、数十人の元閣僚、大物ビジネスマンなどがそれぞれ別の汚職容疑で拘束されました。

拘束された関係者の中には、富豪で投資家として有名はワリード王子も含まれていました(写真1参照)。同氏は米金融大手のシティグループなどの株式を大量に保有しており、サウジのビジネス界の顔的存在であり、海外の投資家に衝撃を与えました。

一方、国内の投資家は、摘発が長期化して王族の不透明なビジネスが白日の下にさらされ、関係者が株式の売却を迫られるのではないかとの、懸念が強まりました。

但し、アナリストの間では、今回の摘発でムハンマド皇太子による権限掌握と次期国王承継に向けて残っていた障害が除かれ、財政赤字の削減や女性の雇用拡大、国有資産の売却など大胆な改革が進展するとの期待も高まっています。

 写真1 ワリード王子

2. 原油価格が上昇

需給の悪化などにより、原油価格(WTI先物)は16年2月28日には1バレル=3.32ドルに低迷。その後、石油輸出国機構(OPEC)による減産などにより、原油価格は反発。18年5月末には同66.73ドルとなりました(図表4参照)。

 図表4 原油価格(WTI先物)

国際エネルギー機関(IEA)の石油市場レポート(18年4月13日発表)では、次の通り、世界の石油事情が好調に伸びていると分析しています。

(1) 18年の世界の石油需要は150万バレル/日の増加が見込まれる。OECD加盟諸国の18年第1四半期の石油需要は、米国での寒い天候や、石油プロジェクトの操業開始党により、31.5万バレル/日の上方修正となった。

(2) 3月の世界の石油供給量は、OPEC加盟国と非加盟国による減産が240万バレル/日に強化され、先月から12万バレル/日減少し、9,780万バレル/日となった。それにも関わらず、世界全体の石油供給量は主に米国の生産増加により、1年前よりも140万バレル/日高い水準となった。

(3) OPEC原油生産は、ベネズエラの一層の生産減少や、アフリカでの減少により、3月に3,083万バレル/日となった。減産協定の順守率は163%に達した。OPEC石油需要は、今年の残りの期間は3,250万バレル/日程度で推移しよう。

5. 地政学リスクが継続か

米朝両首脳が6月13日シンガポールで会談。朝鮮半島の非核化などで合意。朝鮮半島における緊張がされました。北朝鮮の非核化の過程が明確でないなどの批判があるものの、東アジアにおける米朝2カ国の対立が低下したことは他紙が出と言えます。

これに対して、米トランプ大統領はイランとの核合意の廃棄、また同国に対する圧力の強化を訴えています。米国による経済制裁により、欧州企業がイランのプロジェクトから撤退する例も相次いでいます。英独仏3国、また中国とロシアはイランとの合意を継続するとしているものの、欧州企業によるドル資金の調達が困難になりつつあります。したがって、中東における地政学リスクは継続するとみられ、原油価格に影響することも考えられます。

 混迷する中東情勢(1) 米がイランとの核合意を破棄  平成30年6月8日

おはようございます。混迷する中東情勢。まずは米国による大使館のエルサレム移転とイラン核合意の破棄。

1. 米国が大使館をエルサレムに移転

米国は5月25日に、イスラエルの建国70年に合わせて在イスラエル大使館を商業都市テルアビブからエルサレムに移転し、開設式典を開催。サリバン米国務副長官や、トランプ大統領の長女イバンか大統領補佐官、その夫のクシュナー大統領供給顧問らが出席。

昨年12月にトランプ政権がエルサレムを首都と認定したことに伴い、大使館を移転することとなり、イスラエル外務省は移転を前に13日夕方に祝賀式典を開催。33か国の大使か出席し、イスラエルのネタニヤフ首相は「あなたたちの大使館もエルサレムに移してほしい。なぜならそれは正しい行いだからだ」として、米国に追随するよう、呼びかけました。

イスラエルでは13日に、1967年の第3次中東戦争で東イスラエルを制圧したことを記念する「エルサレムの日」を祝って、旧市街でパレードを行いました。ユダヤ教徒イスラム今日の聖地である「神殿の丘」(イスラム名ハラム・アシャリーフ)でユダヤ教徒とイスラム教徒の衝突が起きました。

 写真1 米国のイスラエル大使館移転の式典で拍手を送るネタニヤフ首相(右) 

2. パレスチナは反発

一方、米国による大使館移転に対して、パレスチナは猛反発。パレスチナ自治区のガザでは、17日に4万人が抗議デモを行いました。イスラエルがこれに対して発砲し、ガザの保健当局によると、イスラエル軍との衝突で、少なくともパレスチナ人52人が死亡。2000人以上が負傷。その後もガザのハマスは抗議運動を継続して、イスラエルとの対決姿勢が続いています。

 写真2 米国のイスラエル大使館移転に抗議 するパレスチナ人(ガザ地区、14日)

3. 米がイラン核合意から離脱

一方、米国のトランプ大統領は5月8日に、ホワイトハウスで演説し、イラン核合意の中核部分に欠陥があるとして、離脱を表明。イランに対する制裁を再開するとしました。大統領は離脱を表明した演説の中で、「(イランに対して)最高水準の経済制裁を制定する予定である」と述べて、イラン制裁を再掲することを表明。

これに対して、イラン核合意の当事国であるロシア、中国、英仏独のうち、特に英仏独の姿勢が注目されました。嘗て米国務省で、制裁問題を扱った高官であるピーター・ハレル氏は、EU(欧州連合)が米国の圧力に抵抗してイランでの欧州器具用の活動を維持するよう努めねば、欧州の大企業はイランから撤退することになると警告。英独仏はこののち、核合意を維持すると表明し、米国との対立が深まっています。

4. イランが反発

米国のマイク・ポンペオ国務長官は21日に、イランに「市場最強の制裁を科す」として、法核戦略を発表。これに対して、イランのジャパド・ザリフ外相は、米国は自らの「失策」にがんじがらめになっているとして、反発しました。

 写真3 イランの首都で燃やされたイスラエルの国旗に抗議

ポンペオ長官は、米英独仏中露6か国とイランが2015年に結んだ核合意によって解除した経済制裁を再開すると発表。「イラン政権に対して、前例のない核合意によって解除した経済圧力」が課せられることになり、制裁の効果が出れば、イランは「経済を生き延びさせるのに必死になる」としました。

 IMFが世界経済見通しを改定 (7) 予想  平成30年6月1日

おおはようございます。IMFの世界経済見通しに基づき、今回は政策、金融環境、商品価格の予想をます。

1. 財政・金融政策の予想

先進国における全体の財政政策は、2018年において、また特に19年においては引き続き積極姿勢を保であると予想。一方、新興国と発展途上国においては、概ね中立的になると予想(図表1-4参照)。

 図表1 基礎的財政収支の変化(先進国、新興国、発展途上国 図表2 基礎的財政収支の変化(米日英独仏など)

2017年におけるIMFによる予想を比較すると、2018および19年において緩和的な政策をとると予想しており、米国においては最近の税制見直しによる財政規律の緩和を予想しています。

財政政策は先進国において2020-22年には緩やかに引き締めとなり、23年には米国における税制改革による投資支出が期限切れとなり、明確に引き締めになると予想。

 図表3 財政バランス 図表4 公的債務

金融政策については、17年10月においてIMFでは米国の正常化(利上げ)が加速すると予想しており、これは財政政策が拡張的になることにより、需要が拡大しインフレ圧力が強まることを反映しています。

米金融政策の目標(短期金利)は18年末までには2.5%に、また19年末までには3.5%に上昇すると予想しており、2022年には3%を下回る水準に後退すると予想。

ユーロ圏と日本においては、金融政策は引き続き超緩和的にとどまると予想。ユーロ圏では、短期金利は19年半ばまでマイナス、日本では今後5年でゼロ近辺であると予想。

17年10月の予想と比べると、新興国における金融政策の姿勢はまちまちであり、これらの国の景気循環の位置の違いを片影しています。

2. 金融環境と商品の価格

世界の金融環境は、2018-19年において引き続き緩和的にとどまる見込み。貸付の引き続き緩和的な状況は、特にユーロ圏において、緩やかの長期金利の上昇を相殺し、米国と英国の金融政策の正常化は、金融市場におけるボラティリティ(変動性)の高まりを招くことなく、進められる見通し。

いくつかの例外的な脆弱な経済の国(多くは新興国)を除くと、基本的な予想で緩和的な環境が続く見込みであり、金利は高止まりするものの、リスク選好は続く見込み(国債の利回り格差が続き、多くの場合株式のパフォーマンスも良好な見込み)。

IMFの商品指数は18年には、17年の平均と比較して+11.9%の上昇の見込み(16年からの累積上昇率は約+28.9%)で、その後19年には約▲3.7%の下落の見込み。

18年の原油価格は平均で2018年には1バレル=62.3ドルの予想(17年の同52.8ドルから上方修正)。供給の回復により、19年には同58.2ドル迄下落する予想で、23年にはさらに53.6ドルに下落の予想。

金属の価格は17年の+22.2の上昇に続いて、世界需要の強さに支えられて、18年には+13%上昇する見込みで、その後は概ね落ち着く見込み。

 IMFが世界経済見通しを改定 (6) 予想の前提  平成30年5月25日

おはようございます。IMFの世界経済見通しに基づき、今回は今後の予想の前提を見ます。

1. 先進国で需給ギャップが縮小

2014年以来、先進国経済は、2008-09年の世界金融危機、2011-12年のユーロ圏における国債の危機に続く景気回復が継続しています。緩和的な金融政策と危機に関連した回復の遅れの消滅により、先進国経済は潜在成長率を上回る成長となり、失業率が低下しました。

特にマクロ経済における深い危機が続いた後の潜在成長率と生産とのギャップに対する手段は、本来的に不確かなものです。それにもかかわらず、先進国における潜在成長率はここ2年で回復したと推定されています。

16年半ばからの先進国における予想を上回る経済活動は、需給ギャップを埋める速度を速めただけでなく、中期的生産の再評価につながりました。

16年10月における予想と比較してお16-17年における成長率の予想外の+0.6%ポイントの加速のうち、約40%は予想を上回る需給ギャップの解消(需要の循環的な回復)によるものであり、残りは潜在成長率の上方修正によるものです。

同様に、2016-21年における累積的な成長率の上方修正である+1.7%ポイントのうち、およそ40%は需給ギャップの解消の加速によるもの。残りは、潜在成長率の加速によるもの。前回予想と比較した生産の伸びは、雇用が高い水準で維持されることを示唆。賃金上昇と物価上昇率の加速が抑制された中での失業率の低下は、この解釈と整合的です。

2. 新興国市場:最近の商品価格上昇の影響

2011年以来の金属価格の下落と14年以来の原油価格の下落により、商品輸出国と、同輸入国および先進国の間の景気の差を生み出しました(図表1-6参照)。

 図表1 石油輸出国の交易条件の変化 図表2 石油輸入国の交易条件の変化利

この2つのグループの成長率は2014年以前には中国を除いて概ね似ていましたが、それ以降は輸入国の成長率が加速し、輸入国の成長率は200-14年の平均の約半分へと減速して、明暗が分かれました。

 図表3 新興国と先進国の成長率 図表4 世界成長率への寄与(PPP加重) 図表5 世界成長率への寄与(市場加重)

商品の主要輸出国であるブラジル、ロシアなどにおいては、特異な事情もあり商品の収入が減少し、15-16年には大きな景気後退となりました。一方、ベネズエラは14年以来、経済及び人道的な深刻な危機に陥りました。同様に、サウジアラビアといくつかの中東諸国及びサハラ以南の国は、商品による歳入の長期の減少に対応した財政政策の調整により、景気後退、あるいは成長の大幅な低下をここ数年経験しました。

3. 原油輸出国は引き続き停滞

原油輸出国では、交易条件の悪化が、生産、また特に国内需要の減速により、財政及び外需の大幅な調整および金融環境の引き締めにつながりました。原油価格の大幅下落によるマクロ経済のストレスは、次第に明らかとなり、17年以降に原油価格がやや回復しても原油輸出国の17年における成長率の低下につながりました。

今後については、17年後半の商品価格の上昇により、原油輸出国の財政引き締めが緩やかになる可能性があるものの、2014-16年における交易条件の悪化による損失を非常に限定的にしか穴埋めしない見込み。いくつかのケースでは、価格上昇が生産の供給不足を反映しており、GDP回復にとって重石となります。さらに、いくつかの石油輸出国では国内政治の混乱と争いが、引き続き大幅なマイナス要因となります。

石油輸入国にとっては、原油価格の下落で得る利益は、石油輸出国にとっての損失よりも小さくなる傾向にあります。石油輸入国における、14年以来の原油価格下落による内需押し上げ効果は、多くの場合、エネルギーへの補助金の削減により部分的に相殺されました。すなわち、原油価格下落が最終消費者へはそのまま及んでいないことになります。

最近の原油価格上昇により、これらの国の内需が打撃と受ける可能性があります。ただ、外需の強さという相殺する要因があるため、多くの場合、ネガティブな影響は、成長率の下方修正につながるほど大きいものではありません。

次回は、政策、金融環境、商品価格の予想を見る予定です。

 IMFが世界経済見通しを改定 (5) 物価  平成30年5月18日

おはようございます。IMFの世界経済見通しに基づき、今回は金融環境を見ます。

1. 金融環境は引き続き緩和的

2月初めの調整、また3月における株式市場の下落、さらには堅調な成長とインフレによる債券市場における利回りのいくらかの上昇にもかかわらず、市場におけるセンチメントは8月よりも概ね改善しています。世界景気についての信頼は向上し、金融環境は引き続き緩和的であり、景気回復を下支えしています。

中央銀行の金融政策は周知されており、市場によく吸収されています。米国における金融緩和の縮小は継続しており、短期金利の上昇を招き、労働市場の逼迫、インフレ率の向上につながっています。市場は米国におけるさらに2回の利上げを織り込んであり、これは数か月前に比べて金融の正常化が加速したことを示しています(図表1参照)。

 図表1 米国政策金利予想 図表2 各国政策金利予想 図表3 主要金利 図表4 利回り格差

1月には、欧州中央銀行が月間の資産買い入れ額を▲300億ユーロ減額し、必要であれば更なる減額を示唆しています。他の先進国では、英国が11月に政策金利を▲0.5%ポイント引き下げ、カナダは▲1.25%ポイントの利下げ。

経済活動の活発化と米国の利上げの加速により、米国の10年国債の利回りは昨年8月から今年3月までで+0.50%の上昇。この金利上昇は、主に短期金利上昇期待を反映。同期間に、ドイツでは長期金利が+0.10%ポイント上昇、英国では+0.25%ポイント上昇、一方日本では引き続き0%程度に低迷。イタリアとスペインでは、長期金利はほぼ横這い。

2. 株式市場は引き続き堅調

2月初めの調整、また3月のおける米国による中国製の鉄鋼とアルミニウムに対する関税引き上げの動き、更には中国による米国からの輸入に対する報復関税の引き上げにもかかわらず、株式市場においては、PER(株価収益率)などの指標が堅調を維持(図表5、6参照)。ボラティリティ(変動性)は低下したものの、2月より前の低い水準よりは高くなっています。

 図表5 世界の株式市場 図表6 世界株式市場のPER

にかかわらず、

金利差の拡大にも関わらず、米ドルの実効為替レートは昨年8月から18年3月末までで▲0.5%下落し、17年平均よりは▲4.5%下落しました(図表7参照)。 ユーロは約+1%の上昇で、17年平均よりは約+4%の上昇。日本円は概ね横這いで、英国ポンドは11月における英中央銀行の利上げとブレグジット(英国のEUからの離脱)の進展期待により、+5.5%の上昇。

 図表7 実効為替レート(先進国) 図表8 実効為替レート(新興国)

新興国においては、金融環境は昨年8月以来、経済活動の回復を概ね下支えしています。ブラジルとロシアでは、金融政策はさらに緩和的となり、一方メキシコでは引き締められました。株式市場は堅調に推移(図表9参照)。他方、JPモルガン・世界新興国債券指数は低下。アジア、エマージング欧州など急速に成長している国では、現地通貨建ての長期債の金利は緩やかに上昇しました。

 図表9 新興国の株式市場 図表10 新興国の信用の伸び

3. 新興国への資金流入は鈍化

新興国の通貨の中で、中国・元の実効為替レートは昨年8月から今年3月末までで+3.5%の上昇となり、17年平均に対しても同様。南アフリカ・ランドは、政治的不透明さの後退により+10%の反発。マレーシア・リンギットは、成長率見通しの改善と商品市況の堅調さにより+10%を超える上昇となりました。

17年には、新興国に対する資金流入は前半に増加したのち、後半には鈍化したものの、勢いは保っています。18年初めには資金流入に勢いがあったものの、2月初めの世界市場の動揺の後、資金流入は鈍化し、その後は回復しました。

次回は、今後の見通しを見る予定です。

 IMFが世界経済見通しを改定 (4) 物価  平成30年5月11日

おはようございます。IMFの世界経済見通しに基づき、今回は物価を見ます。

1. 総合物価指数が加速

9月以来の原油価格の上昇により、総合物価指数は再び加速(図表1参照)。一方、燃料と食品を除くコア・インフレ率は引き続き抑制的な動き(図表1、2参照)。先進国において、コア・インフレ率には回復の兆しがあり、新興国と発展途上国においては底打ちの兆しがあります。図表1、2で示す通り、金融危機前と比較したインフレ率の弱さは、医療、教育など非貿易消費者向けサービスの弱さを主に反映しています。貿易品目は、引き続き弱いものの減速はしていません。

 図表1 先進国のインフレ率 図表2 新興国国と発展途上国のインフレ率 図表3 生産者インフレ率 図表4 消費者インフレ率予想
と貿易

2. 先進国ではコア・インフレ率が加速の兆し

多くの先進国では、コア・インフレ率は引き続き中央銀行の目標値に収まっているものの、需要の高まりにより加速の兆しがあります(図表5参照)。失業率が1960年代後半以来、歴史的な低水準にある米国では、個人コア消費支出が堅調。2月には前年同月比で+1.6%にとどまったものの、3か月の1年換算では、+2.0%を若干上回りました。英国では、インフレ率は中銀の目標値を下回っています。16年の英国による欧州離脱のあと、英国では17年にはコア・インフレ率がピークをつけましたが、インフレ率は英国中銀の目標値である+2%を上回っています。

 図表5 コア・消費者インフレ率 図表6 米国労働市場

3. 賃金上昇率は緩やか

一方多くの先進国では、労働生産性に沿って、賃金上昇率は引き続き緩やか。賃金上昇率の弱さは、労働市場における弱さを一部反映しており、特に望まないパートタイム労働の影響があります(図表6参照)。

新たに労働市場に参入した労働者は、引退する労働者と比較して低い賃金を受け取っていることも、影響しています。米国の1月における時間当たり賃金の上昇は、労働市場の引き締まりを示唆(図表7参照)。

 図表7 先進国の失業率と賃金上昇率

労働生産性を上回る賃金の押し上げのために、企業に対するコスト押し上げのために、さらに中期的なコア・インフレ率を支えるために、労働賃金の持続可能な加速が必要とされています。

4. 新興国ではコア・インフレ率が低迷

多くの新興国と発展途上国では、最近の米ドルに対する通貨の安定あるいは上昇が、コア・インフレ率の抑制に貢献。ブラジルとロシアにおいては、コア・インフレ率は歴史的な低水準にあり、需要は15-16年の大幅な落ち込みからは回復。インドでは、17年における物品税引き上げによる一時的な落ち込みから、コア・インフレ率は急速に回復しています。

新たに労働市場に参入した労働者は、引退する労働者と比較して低い賃金を受け取っていることも、影響しています。米国の1月における時間当たり賃金の上昇は、労働市場の引き締まりを示唆。

中国では、コア・インフレ率は概ね+2%で安定。対照的に、サハラ以南のアフリカ、独立国家共同体の国、あるいは中東、北アフリカ、アフガニスタン、パキスタンなどの地域、あるいは国では、それ以前の時期における通貨下落による高インフレ率と格闘しています。

次回は、金融環境を見る予定です。

 IMFが世界経済見通しを改定 (3) 貿易・商品市況  平成30年5月4日

おはようございます。おはようございます。IMFの世界経済見通しに基づき、今回は貿易、商品市況などを見ます。

1. 世界貿易が回復

世界の投資と密接な相関性のある世界貿易は、2年間の弱含みの後、17年には急速に回復、実質伸び率は+4.9%と推定されています(図表1参照)。貿易の拡大は、特に新興国と発展途上国において顕著で(貿易の伸び率は16年の+2.2%から17年には+6.4%へと加速)。以前は不調であった商品輸出国の設備投資の改善と、先進国における投資と国内消費の回復を反映しています。

 図表1 世界投資と貿易

先進国の中でドイツ、日本、米国、英国など主要な輸出国は、輸出の回復に貢献し(図表2参照)、一方、輸入の回復には多くの国が貢献。新興国と発展途上国においては、輸出の伸びは特にアジア新興国において顕著で、特に中国が貢献。対照的に、輸入においては、15-16年において急激な商品価格の下落を経験した商品輸出国における回復が大きく寄与。商品輸出国、特にアンゴラ、ブラジル、エクアドル、ナイジェリア、ロシアおいては、景気循環により輸入が回復。

 図表2 貿易の伸びへの寄与

2. 商品価格が上昇

IMFの主要商品価格指数は17年8月から18年2月にかけては+16.9%上昇し(図表3参照)。商品市況の上昇は、主に原油と天然ガス価格の上昇によるもの。サブ指数においては、エネルギー価格ほどで七位にしても、属と農産品価格も上昇。原油価格は1月には1バレル=65ドル迄上昇し、15年以来の高値となりました。

 図表3 商品と原油価格

天然ガス価格指数(欧州、日本と米国の平均)は、17年月から18年2月にかけて+45%の上昇し、これは、大気汚染を緩和するために政府が石炭の使用を制限している、中国におけるLNG(液化天然ガス)への需要を反映。天然ガスの価格は3年ぶりの高値となりました。ベースメタルに対する需要は、特にアルミニウムに対する需要は、中国における生産能力の削減もあり、強くなりました。

IMFの農業指数は昨年8月から今年2月にかけて+4.1%上昇。これは、最近の不安定な天候により、今年の穀物の収穫を減少させると予想されているため。食品と農産物のサブ指数はそれぞれ+4.1%、+6.0%の上昇となりました。

次回は、物価などについて見る予定です。

 IMFが世界経済見通しを改定 (2) 成長率  平成30年4月27日

おはようございます。おはようございます。IMFの世界経済見通しに基づき、成長率などを見ます。

1. 世界経済の成長率

世界貿易の顕著な回復により、世界経済の成長率は、17年には+3.8%へと大きく加速。貿易の回復ついては、先進国における投資の回復、アジア新興国における強い成長の持続、東欧経済の好転、いくつかの商品輸出国における回復の兆しが牽引しています。

世界経済の成長率は、モメンタムの強さ、市場センチメントの好調、緩和的金融環境、米国による積極財政などにより、18年および19年には+3.9%へと、+0.1%ポイントの加速の見込み。

中期的には、成長率は+3.7%へと減速する見込み。循環的な成長率の上向きと米国による景気刺激策が一巡すると、潜在成長率の低下により、先進国の成長率は鈍化する見込み。商品輸出国とインドの成長率の上昇によりが、中国の漸次的な成長率の低下を補い、新興国と発展途上国においては、成長率は18-19年並みの留める見込み。

2. 投資主導で成長率は加速

18、19年はいずれも+3.8%成長の見込みであり、これは16年を0.5%ポイント上回っており、11年以来最も高い成長率。生産の4分の3を占める国のうち3分の2が、前の比較で17年には成長率が加速(図表1-3参照)。17年の暫定成長率は、17年10月時点の予想から+0.2%ポイントの上方修正。

世界の国内成長率(GDP)と生産活動の加速の要因となったのは、先進国における投資の反発と、商品輸出主導経済の新興国での投資減少に歯止めがかかったこと。17年前半は、先進国また新興国ともに予想を上回る伸びとなりました。

 図表1 世界貿易と鉱工業生産

先進国における16年から17年にかけての+0.6%ポイントの成長率の加速の主な要因は、金融危機における08-09年と特に16年においては弱含んだ投資支出です(図表4参照)。

 図表2 製造業PMI(移動平均) 図表3 消費者信頼感指数

固定資本投資の増加が、緩和的金融政策、バランスシート(貸借対照表)の改善及び景気見通しの改善が、資本財への需要の増加に結び付きました。

 図表4 成長率寄与の要因

新興国および先進国において、17年における+0.4%ポイントの成長率の加速は、主に民間消費の加速によります。ただし、国、地域により様相は異なります。中国およびインドにおける成長は、それぞれ、輸出の回復と強い民間消費によるものであり、投資の伸び率は鈍化しました。

15-16年において商品市況の下落の影響を強く受けた、商品輸出主導の国(特にブラジル、ロシア、さらにアンゴラ、アクアドル、ナイジェリア)における投資の減少において歯止めがかかったことは、17年における成長率加速の大きな要因となりました。

他の新興国および発展途上国においては、16年の水準を+2.3%ポイント上回る固定資産投資が、民間消費の堅調さと相まって、成長率を底上げしました。

次回は、貿易、商品市況などについて見る予定です。

 IMFが世界経済見通しを改定 (1) 概要  平成30年4月20日

おはようございます。IMFが世界経済見通しを改定しました。

1. 18-19年の世界の成長率見通しを維持

国際通貨基金(IMF)は17日に、世界経済見通しを改定。18年と19年の世界経済の成長見通しをともに+3.9%と、今年1月時点の予想のまま据え置き(図表1参照)。17年については+3.9%で維持。世界経済は今後2年年間については11年以来の高水準を維持するとした上で、力強い成長局面が終了する種は既に播かれていると警告。

 図表1 IMFの世界経済見通し

18-19年以降の先の時期については、中央銀行の金融引締めや米財政刺激策の縮小、中国の緩やかな景気の減速などを背景として、悲観的な見解を示唆。「むこう2、3年より先については、世界の成長率は鈍化する見通しである」とし、「需給ギャップが解消されれば、大方の先進国は、人口高齢化や生産性の伸び悩みに抑えられ、危機前の平均を大きく下回る潜在成長率に戻る見込みである」としました。

2. 世界の成長率は短期的に強く中期的に鈍化

世界経済の成長率は、新興国の上方修正と先進国における景気の底堅さにより、17年の+3.8%から18、19年にはそれぞれ+3.9%へと上向く見通し(図表1参照)。18年及び19年の見通しについては、17年10月におけるIMF見通しからはそれぞれ+0.2%ポイントの上方修正。これは特に、先進国経済の見通しの上方修正によるもの。ただその後は、次第に+3.7%へと低下の見通し。これは特に、先進国の潜在成長率の低下によるもの。

3. 先進国の見通し

先進国の成長率は、17年の+2.3%から18年には+2.5%へと加速し、19年には+2.2%へと減速する見通し。18年と19年の見通しは、IMFによる17年10月に見通しからはそれぞれ+0.5%ポイントと+0.4%ポイント上方修正されています。上方修正の要因は、ユーロ圏と日本の上方修正、米国の拡張的な財政政策などによるもの。

中期的には、潜在成長率に沿って+1.5%へと低下する見込み。2020にかけての米国の税制改革による短期的なポジティブな影響は、この低下に寄与する見込み。このような低下にもかかわらず、国内総生産(GDP)成長率は、米国およびユーロ圏を含む先進国において2023年には潜在成長率を上回る見込み。

米国の成長率は17年の+2.3%から18年には+2.9%へと上向き、19年には+2.7%へと鈍化の見込み(17年10月見通しからはそれぞれ+0.6%ポイント、+0.8%ポイントの上方修正)。上方修正の要因は、17年における予想を上回る経済活動と、外需の底堅さなど。

トレンド上回る成長は、ユーロ圏と日本において18-19年に持続する見込み。ユーロ圏における成長率は17年の+2.3%から18年には+2.4%へとわずかに加速し、19年には+2.0%へと減速する見通し。

日本は17年の+1.7%から18年に+1.2%、19年には+0.9%へと減速する見通し。18、19年成長率は昨年10月時点からは+0.9%ポイントと+0.1%ポイントの上方修正であり、これは底堅い外需、民間投資の増大、18年補正予算の影響によるもの。

4. 新興国の見通し

新興国の成長率は、17年の+4.9%から18年には+4.9%へと加速し、さらに19年には+5.1%へと加速する見通し。高い成長率自体はアジア新興国の勢いを反映しているものの、成長率の加速は、過去3年において弱かった商品市況の見通しが改善したことによるもの。その後中期的には、新興国および発展途上国の成長率は+5.0%近辺に落ち着く見通し。

アジア新興国の成長率は18-19年には+6.5%と、世界経済成長の最も重要な牽引役となる見通し。中国は、17年の+6.9%から、18年に+6.6%、17年には+6.4%へと減速の見込み。中期的には、投資から消費へ、また製造業からサービス業へとシフトする見込みであるものの、非金融業の負債の増大がリスク要因。インドは、堅調な消費と消費税導入の影響の消滅に下支えられて、17年の+6.7%から18年には+7.4%へ、19年には+7.8%へと加速の見込み。

中南米でも景気回復が継続。14-16年には商品価格低迷で大きく打撃を受けたものの、成長率は18年に+2.0%、19年には+2.8%へと加速の見込み。ブラジルも、17年の+1.0%から18年には+2.0%、19年には+2.3%へと回復の見込み。

原油輸出の回復、景況感の改善、金融政策の緩和により、ロシアの成長率は17年の+1.5%から18年には+1.7%へと加速し、19年には再び+1.5%に鈍化する見通し。構造問題と海外からの経済制裁による投資の減速が主な要因。

次回は、世界経済における投資の高まり、貿易などについて見る予定です。

 トルコ経済の課題  平成30年4月13日

おはようございます。トルコ経済の課題について考察します。 1. 3月CPI上昇率は+10.23%に減速

トルコ統計機構(TUIK)は4月3日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+10.23%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.26%からわずかに減速しました。塚安の影響もあり、中央銀行の目標である+3〜7%を依然として大幅に上回っています。1月に発表された四半期インフレ報告では、18年が前年比+7.9%(前回11月時点では+7.0%)、19年が同+6.5%(同+6.0%)と、中銀目標達成には時間を要するとみられます。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

2. 政策金利を据え置き

一方、トルコ中央銀行は3月7日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「翌日物貸出金利」を9.25%で維持(図表2参照)。据え置きは市場の予想通り。そのほか、1週間物レポ金利、翌日物借入金利もそれぞれ、8.00%、7.25%で維持しました。後期流動性ウィンドウ金利も12.75%で据え置き。

 図表2 トルコの政策金利

中銀は17年12月の会合で4つの政策金利のうち、後期流動性ウィンドウ金利だけを+0.5%ポイント引き上げたものの、前回会合ではすべての政策金利を据え置いていました。すべての政策金利の据え置きは2会合連続。

中銀は会合に発表した声明文で、現状維持の決定について「現在のインフレ率とインフレ期待は高水準にあり、引き続きインフレ上振れリスクとなっている。コアインフレ率も高い水準にある。したがって、中銀は金融引締め政策を維持することに決定した」としました。

3.  10-12月期+7.3%成長

他方、トルコ統計局が2月29日に発表した17年10-12月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+7.3% (図表3参照)。今年7-9月期の+11.1%から減速したものの引き続き好調を維持。市場予想値の+6.7%からも上振れ。

 図表3 トルコ四期成長率(前年同期比)

さらに、17年通年の成長率は+7.4%。クーデター未遂事件が発生した16年の3.2%から大幅に加速。減税、融資拡大政策のなど政府による景気刺激策が功を奏しました。これにより、トルコは17年については、インド、中国を上回る成長率を達成。

トルコの成長率は、16年7-9月期には▲0.81%に悪化しました。同年7月に発生したクーデター未遂事件や、その後の非常事態宣言に伴い、消費や投資などが停滞したことが原因と考えられます。

足下の成長は、 消費や設備投資などの内需が下支えしています。設備稼働率は78.8%と香水準にあることや、政府による投資促進政策(国有地の無償提供や法人税の減税)などから、固定資本投資は底堅く推移すると予想されています。

4.  経常赤字が拡大

堅調な国内景気を背景に輸入が拡大し、財政収支の赤字が拡大。経常収支は16年より赤字幅が拡大。16年7月のクーデター未遂事件により、トルコへの観光客が減少。16年のサービス収支は153億ドルの黒字と、前年比▲88億ドルの減少。

ただ、旅行者は17年には回復し、17年のサービス収支は200億ドルの黒字に回復。経常赤字の調達は、証券投資に依存しており、依然として対外的なショックに対して脆弱な体質を維持しています。

ており、2、3月に首都アンカラで起きた自爆テロ事件でも犯行声明を発表。エルドアン大統領は「テロの災いと最後まで戦う」と述べました。

5. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。通貨のリラは08年以降には、一貫して下落。18年3月末には1ドル=3.8リラとなり、16年末との比較では、▲7.2%の下落。財政赤字、経常赤字が原因と考えられます。

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は逆に09年以降には、長期的な上昇を継続。代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は、16年末との対比で18年3月末には+32.0%の大幅上昇。国内の景気の堅調さなどの影響によるとみられます。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

6. リスク要因と課題

国内では、エルドアン大統領による強権政治により、政治情勢は一応安定しています。ただ、クルド人による反政府運動は継続することも予想され、シリアを巡る情勢も緊迫の度合いを増しています。

財政赤字と経常赤字は拡大の傾向にあり、収束の兆しは見えていません。通貨下落、それに伴うインフレのリスクもあります。トルコはかつても波ありかなどと共に「脆弱(fragile)5か国」とみなされたこともあり、外部の環境の変化に対する脆弱性は際立っています。外部要因の大きな環境の変化が、トルコの株式市場にマイナスの影響を与えることも考えられます。

 新常態に挑む中国 (8) 物価・金融政策・株価  平成30年4月6日

今回はリスク物価、金利、為替、株価について。

1. CPIは+2.9%に加速

中国では2月の生産者物価指数(PPI)の上昇率が4か月連続で鈍化したものの、消費者物価指数(CPI)は大幅に加速。春節(旧正月)の影響を受けました。

2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比2.9%の上昇。1月の+1.5%からほぼ2倍に加速し、13年以来の高水準。予想の+2.5%からも上振れ。春節(旧正月)により、故郷に帰って家族あるいは友人などと会食する人が増えました。

 図表1 中国の消費者物価指数(CPI)前年同月比上昇率

一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、2月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+3.7%となり、前月の+4.3%から伸び率が鈍化。鈍化は4か月連続。市場予想の+3.8%からも下振れ。

中国の現地のアナリストの予想では、CPI上昇率が18年に+2.3%、19年に+2.2%、20年に+2.2%程度となっています。今後も中国のCPI上昇率は低水準になる可能性が高いとみられます。

2. 預金準備率を引き下げ

一方、金融政策については、大きな変化は見られません。中国人民銀行(中央銀行)は16年2月29日に、追加の金融緩和を決定。市中銀行から中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げ、17%にすることを決定(図表2参照)。3月1日から実施。引き下げは15年10月以来。その後、変更は、ありません。

 図表2 中国の預金準備率(大手銀行標準)

続いて、中国人民銀行(中銀)は17年9月30日に、一定の条件を満たした銀行に限り、預金準備率を最大▲1.5%下げると発表。中小零細企業、農業、貧困対策向けの融資を拡大した銀行が対象。18年から実施。

大手金融機関の預金準備率は上記の通り17%。中小零細などへの貸出残高(またはその増加額)が、全体の貸出残高(同)に占める比率が17年に1.5%になった銀行は▲0.5%、10%になった銀行は▲1.5%引き下げ。

人民銀行によると、17年1-9月の実績から判断すると、四大国有銀行など大手や中堅の銀行はすべて、地方銀行は全体の9割が準備率引き下げの対象となります。中小零細向けなどの融資拡大を銀行い促す狙いがあるとみられます。

3. 株価と為替

ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。15年には▲4.6%、16年には▲6.9%の大幅下落。

米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、やや元安方向に動きました。

 図表3 上海総合指数と人民元(CNY/USD)

株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。中国では、不動産、株価などが順番にバブルの状態になると言われており、株価も07年に上海指数が約6000ポイントの高値を付けるなど、随時バブルの様相を呈することがあります。

中国の国内資金は規制があるため海外には出にくく、株価も時に急騰することがあります。16年2月以降には株価は同指数でみてじり高の様相を呈しています。このところ不動産価格の上昇が止まってきたため、株価についても今後、やや頭が重くなる可能性があります。」

4. 当面の注目点は米中貿易摩擦

当面の注目点としては、米中貿易摩擦の懸念があります。トランプ大統領は、かねてより中国の為替、貿易について批判してきました。米通商代表部(USTR)が発表した制裁関税の対象品目は18年の中国からの想定輸入額で500億ドル(約5兆3000億円)に上ります。

4月3日に発表した中国の知的財産侵害に対する制裁関税の原案は、航空機、自動車、産業用ロボット、半導体など、約1300品目を対象としています。中国が国家戦略として掲げる10分野の重点産業を狙い撃ちしています。

中国の習政権は、15年に「中国製造2025」を発表。これは中国政府が産業高度化の長期戦略として掲げているもの。鉄鋼やアルミなどを大量生産する「製造大国」から、建国100周年にあたる49年に「世界一の製造強国」に生まれ変わることを目標としています。

中国政府も4月4日に、米国産の大豆、牛肉、自動車、航空機など軽106品目に25%の関税をかけると発表。米国が1300品目に25%の関税をかけることへの対抗措置で、関税の対象額は500億ドル(5兆3000億円)に相当。

中国の国内総生産(GDP)の伸び率は米国を上回ており、やがて米国を上回るとの予想もあります。ハイテク分野でも中国の躍進は目覚ましく、株式の時価総額では、テンセント、アリババの2社が世界の時価総額上位10位以内に食い込んでいます。軍事面も含めた中国の抬頭に米トランプ政権は危機感を強めており、通商政策でも強硬姿勢をとってくる可能性があります。

 新常態に挑む中国 (7) リスク・課題  平成30年3月30日

今回は、リスク要因と課題について考察します。

1. 景気失速のリスク

中国の足下の景気、また中長期的な成長率についてはどうでしょうか。中国の国家統計局2月28日発表した2月の製造業購買担当者指数(PMI)は50.3と、前月の51.3から下落(図表1参照)。市場予想の51.1からも下振れ。過去1年半余りで最も低い水準となったものの、景気判断の分かれ目となる50は上回りました。春節(旧正月)連休中に工場が稼働していなかったことが響いたほか、輸出向け受注が減少。 

 図表1 中国の製造業購買担当者指数(PMI)

一方、中国の国家統計局が同日発表した2月の非製造業購買担当者指数(PMI)は54.4。前月の55.3から低下しました。市場予想の55.0からも下振れ。17年10月以来の低水準となったものの、景況判断の分かれ目である50は上回っています。

他方、中国の国家統計局は1月18日に昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.8%の伸びだと発表。成長率は7-9月期から横這い。市場予想の+6.7%を上回りました。中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回り、政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。

中国では、一人っ子政策の影響により、今後は少子高齢化の急速な進展、労働人口の減少が進んでいくこととなります。したがって、技術革新の推進、教育の高度化がこれまで以上に重要となります。長期的には生産人口(中国の定義では15-60歳の人口)の減少、少子高齢化、製造業からサービス業など第三次産業への移行により、国内総生産(GDP)成長率はさらに低下していくと予想されています。

2. 過剰生産能力問題

次に、日本の経済産業省がまとめた「通商白書2017」を参考として、過剰生産能力の問題を見ておきましょう。中国は、2008年のリーマン・ショックを契機とする世界的な景気減速に対処すべく、4兆元の景気対策を実施。その結果生産者物価が長期にわたり低迷し、鉄鋼などの輸出が急増しました。

過剰生産能力問題は、鉄鋼、石炭、セメント、板ガラスなど幅広い業種にわたっていると見られます。近年、政府は特に鉄鋼と石炭に注目し、削減目標を設定して過剰設備の解消に努める方針を公表。中国政府発表によれば2016年の目標は達成され、さらに2017年の削減目標が公表されています(図表2参照)。

 図表2 中国の設備削減目標と実績

生産力削減とともに、政府の景気支援策を受けた堅調な固定資産投資や自動車販売、一部の過熱気味の不動産開発等による需要増加の影響もあり、鉄鋼を初めとする生産者物価は16年中頃から4年ぶりにプラスに転じました。また、習政権が推進しようとしている「一帯一路」政策も、鉄鋼、セメントなどの余剰生産能力対策の側面があるとみることができます。

また経済産業省では、生産能力が削減される一方で、実施の生産量は再び拡大する兆しがあるとしています。例えば、15年には粗鋼の生産量はいったん伸びが前年比減少したものの、16年には伸び率は再び前年比増加に転じ上昇しました。生産者物価の改善を背景として、休止していた設備の再稼働なども考えられ、仮に需要を超えた生産の伸び率が加速すれば、再び過剰生産が拡大する可能性もあります。

3. 不良債権が拡大

中国では、非金融業の債務が日本のバブル崩壊後のピークを越える水準まで急速に拡大。債務の返済の可能性、即ち不良債権に対する懸念が高まっています(図表3参照)。

 図表3 非金融業の対GDP比債務残高

中国の公式統計によると、銀行融資の「不良債権」は増加しており、17年3月末時点で、約1.5兆元、不良債権比率は1.74%であると公表。これとは別に、将来の返済に懸念要素のある「要注意先」95が2倍の約3.5兆元存在。

さらに、政府の公式統計にはふくまれないシャドーバンキング(影の銀行)による債務の問題、いわゆる「理財商品」の不良債権化の問題もあり、中国の金融が不健全になっているという実態があります。

4. 国有企業改革

国有企業の改革は、余り進んでいません。中国では毛沢東主席の時代に、民営企業は資本主義のものであるとして全くみとめられていませんでした。トウ小平氏のもと、中国は市場経済化を目指し、民営企業も発展しました。 99年の15期中央委員会第4回全体会議において、次の4分野を除いて、国有企業は規模に関係なく、民営化の対象となりました。4つの分野とは、国家の安全に関わる産業、自然独占および寡占企業、重要な公共財を提供する企業、基幹産業とハイテク産業における中核企業。その後20年近く経過したものの、民営化は中小型の企業にとどまり、大型の国有企業は却って巨大化する傾向にあります。

習近平政権においては、市場ひいては国有企業の民営化が進むとの期待があったものの、1期目の5年間においては、民営化は停滞したまま。民営化の代わりに「混合所有制改革」を進めています。マクロ的には、国有企業も民営企業も混在する経済を言います。

5.政治改革も停滞か

政治に関しては、民主化を進めるどころが、習政権は人権及び言論の弾圧を推進。習氏は盟友である王岐山氏を中心に据えて、反腐敗運動を推進。反腐敗運動といいつつ、実際には反対派の弾圧を進めているだけであり、特に胡錦濤前国家主席、江沢民元国家主席につながる人脈の力を削ぎ、子飼いの人物を重用。

毛沢東氏は修正に亘り検量を握り、文化大革という混乱を招きました。そのため、トウ小平氏以来、国家主席は人気を2期10年に制限し、常務委員も68歳を定年としてきました。それにより、権力の集中を防ぎ、毛沢東氏のような独裁者が現れない仕組みを維持してきました。

ところが、習氏は常務委員の68歳の定年制も廃止し、自分への権力の集中を推進。首相の李克強首相からも経済運営の実権を奪い、独裁体制を強化。香港の民主化運動への弾圧の強化、ネットにおける政府批判の取り締まり、人権弁護士、民主化運動を支持する作家への弾圧など、強権政治の傾向をますます強めています。このような方針は、短期的には習政権の安定をもたらすものの、長期的には民衆の共産党に対する支持の低下のつながる可能性もあります。

次回は、中国経済の物価、金利、為替、株価について見る予定です。

 新常態に挑む中国 (6) IT企業の抬頭  平成30年3月23日

今回は、IT企業の抬頭について考察します。

1. 「独身の日」アリババが躍進

中国の小売業では、IT企業の存在感が高まっています。中国のインターネット通販は、「独身の日」である11月11日に大々的なセールを行うのが定着しています。中国EC(電子商取引)の最大手企業アリババは昨年には中国で独身の日とされる11月11日に、過去最高となる1682億元(約2兆85594億円)の取扱高を記録(写真1参照)。

日本企業と比較すると、楽天の国内EC流通総額は3兆95億円。これは「楽天市場」の流通総額に加えて、トラベル、楽天マート、楽びんなどの流通総額を合計したもの。アリババは独身の日の売上赤は、楽天の年間(2016年)の国内EC流通総額を1日でほぼ達成したことになります。日本の百貨店売上高は年間で約6兆円であり、その半分に相当。

 写真1 アリババが独身の日に過去最高の取扱高を達成

2. 小売業でIT企業の存在感高まる

小売り全体に占めるEC(電子取引)の比率を国際的に比較するとどうでしょうか。2016年のデータで見ると、中国は韓国の18%ほどではないにしても、英国と並んで15%。以下、米国11%、ドイツ8%、日本7%、フランス7%、ブラジル5%の順。インターネットは米国で発達して世界に波及したものの、中国は完全に日米両国など先進国を追い抜いており、勢いに差があると感じられます(図表1参照)。

 図表1 小売におけるECの国別比率

また、中国のインターネット通販においては、モバイル(スマホなど)の比率が急拡大(図表2参照)。中国のインターネット通販市場は2016年に約68兆円となっていますが、PCとモバイルの比率が15年に逆転。16年にはモバイルが約70%を占めています。中国人はモバイルにより、通販、決済など多くの作業をこなしています。

 図表2 ECにおけるモバイルの比率が拡大

日米欧など先進国では、固定電話、携帯電話、スマホというように、通信も巨額の投資を重ねて、段階的な発展を遂げてきました。一方中国では、後発国の融資性を生かして、先進国から安いコストで技術を導入。農村部にはデパートやコンビニなどがないものの、若者を中心として、人々はモバイルを片手にインターネットで商品などを注文し、決済もアリペイなどで行っています。

3. IT企業の時価総額が増大

また、小売りに限らず、インターネット企業全般も躍進。世界の時価総額の順位では、2018年2月において中国からは3社がランクイン(図表4参照)。このうち、テンセントとアリババがIT企業。上位10社には入っていませんが、百度(バイドゥ)も、3月20日現在で約875億ドルと、存在感を高めています。

 図表3 世界の時価総額順位(2018年2月)

4. 技術水準も向上

IT企業の技術水準も向上。マサチューセッツ工科大学の「MITテクノロジー・レビュー」は、イノベーション(技術革新)を基準として「世界で最も優秀な企業50」を選定。中国企業は1995年版では3社でしたが、2017年版には7社が入っています(図表4参照)。日本企業は17年版には1社もありません。この7社はいずれも三寧企業。中国では、今後はいかに活力のある民営企業を育てるかが課題となっています。

 図表4 世界で最も優秀な企業(2017年)

5. 民営企業が活躍

IT企業に限らず、中国企業の存在感が増大。米誌フォーチュン(Fortune)が発表している「フォーチュン・グローバル500」に入っている中国企業の数は、1995年版では3社だけでしたが、2017年版では、105社迄、増大。他方、日本企業は同じ期間に149社から51社まで減少。

さらに、中国企業105社のうち、民営企業が24社を占めています。従来、中国では売り上げなどの規模、技術などついて、国営企業中心の発展であったものの、ここにきて三寧企業も大きく躍進。民営企業では2008年に初めてレノボがランクイン。以降10年間で、民営企業は着実に力をつけています。

次回は、課題、リスク要因などを見る予定です。

 新常態に挑む中国 (5) 技術革新・教育  平成30年3月16日

おはようございます。今回は、技術革新と教育について考察します。

1. 技術革新の重要性が高まる

中国の輸出といえば、嘗ては繊維などの軽工業、鉄鋼、化学などの素材産業が中心であり、それを支えたのは安価で多量の労働力でした。安価な労働力に支えられて、中国は「世界の工場」と呼ばれてきたわけですが、賃金の上昇、産業の高度化、ソフト化の進展により、技術革新の重要性が増しています。

中国では、以前にはルイヴィトン、グッチといったブランドの偽物が大量に販売され、知的財産権の保護が殆どなされていないというイメージがありました。高度な技術は海外から輸入するだけであり、技術革新(イノベーション、中国語では創新)が遅れているとみられていました。

技術革新には、主に3つのタイプがあると考えられます。1.独創的な技術革新(基礎的または中核的技術の発明とその応用)、2.技術統合によるもの(既存の技術の組汗で新製品や管理方式を生み出すこと)、3.導入・消火・吸収・改良がそれに当たります。

中国ではこれまで上記の2と3を主に行っており、1は今後の課題。技術革新だけでなく、新たなサービス、組織、ビジネスモデル、デザインの開発も重要性を増しています。

2. 技術革新の有利な条件

中国は先進国と比較して、発展段階が遅れており、後発の融資性があります。すなわち、高度成長期の日本と同様に、自らコストをかけて研究開発に取り組まなくても、海外から安く技術を導入することが可能になります。

中国は対外開放を積極的に進めてきており、海外からの技術を積極的に導入してきました。外資企業による直接投資が果たした役割が大きく、資本財の輸入、ライセンシング(特許権者が特許発明を実施する権利を第三者に供与することにより、その対価を得ること)、OEM(相手先ブレンドによる製品の供給)、企業間の技術者の移動などにより、中国の技術革新が進んできました。

3. 国のレベルでの技術革新の進展

国全体のレベルについては、興産の下部組織である世界知的所有期間(WTO)が、毎年100か国以上を対象として、グローバル・イノベーション・インデックスを公表しています・これによると、中国の評価は17年版で22位と、日本の14位に迫っています(図表1参照)。

他のBRICc諸国では、ロシア45位、南アフリカ57位、インド60位、ブラジル69となっています。中国より上位の国は、ほとんどが経済協力開発機構(OECD)に加盟している先進国となっています。

 図表1 グローバル・イノベーション・インデックス(2017年)

また、Nature Indexによる「主要科学誌68誌に掲載された論文数」ランキングでは、米国(1位)に次いで2位となっています(図表2参照)。ドイツ(3位)、英国(4位)、日本(5位)をすでに上回っています。

 図表2 Nature Indexによる論文数の国・地域別ランキング(2016)

4. 特許件数も増加

嘗て、中国は「物まね天国」であるとみなされ、独自の技術を開発することなく、日米欧など海外の技術を模倣しているだけとみられていました。例えば、中国の高速鉄道網は既に日本をはるかに上回る規模の発達を遂げているものの、走っている車両は日本の鉄道メーカーを模倣しているだけとみられていました。

ところが、ここに来た中国の技術は大きく伸びており、特許申請件数で見ても、躍進しています。日本の特許庁の「特許行政年次報告書2016本編」によると、中国の特許出願件数が急伸しています(図表3)。

 図表3 五大特許庁における特許出願件数

5. 企業レベルの特許件数も増加

また、企業レベルにおいても、嘗ては米日両国がPCT(Patent Cooperation Treaty)の出願件数でみて上位を占めていたものの、近年には中国企業が躍進。2016年においては、ZTE、華為の中国企業が上位2位までを占めました(図表4参照)。

 図表4 世界におけるPCT出願件数の上位10位企業(2016年)

6. 教育水準も向上

さらに、教育水準も大幅に向上。タイムズ・ハイヤー・エデュケーションによる2016年の世界大学ランキングを見ると、1-10位は英米欧各国の大学が独占しているものの、27位に北京大学、30位には清華大学が入っており、46位の東京大学、74位の京都大学を上回っています(図表5参照)。かつては日本の東京大学、京都大学がアジアにおけるトップクラスとなっていましたが、完全に中国勢が逆転しています。

 図表5 タイムズ・ハイヤー・エデュケーション世界大学ランキング(2018年)

また1970年代に開始した改革開放以来、累計400万人を超える若い人材が海外留学に出ました。当初はその大半が帰国せず、いわゆる頭脳流出となっていましたが、最近は帰国する学生が増加。2001年には出国した留学生のうち帰国したのは14.6%の1.2万人にとどまっていたものの、16年には留学した54万にのうち、43万人が帰国。帰国率は79.4%迄上昇しました。

内外の賃金格差が小さくなったことも、留学性の帰国の率が高まった一因。ただ、帰国しても必ずしも企業に勤めるのではなく、新たに起業する留学生も増加する傾向にあります。

次回は、IT企業の抬頭などを見る予定です。

 新常態に挑む中国 (4) 政治  平成30年3月9日

おはようございます。今回は、政治について考察します。

1. 米中貿易摩擦

米国の日本との間では、嘗て深刻な貿易摩擦がありました。1980年代の後半には、ビル・エモット氏が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(日本が1位)と書を出版し、日本の抬頭が世界の注目を集めました。日米間の貿易では、米国が日本に大した大幅な赤字となり、米国内では、日本に対する警戒感が高まりました。

現在は、米国の貿易における主要な赤字国はどこでしょうか。2016年においては、中国が米国にとっての最大の貿易赤字国となっています(図表1参照)。トランプ大統領は、就任前から、中国がメキシコに対して、貿易面での強硬姿勢を強調。中国を「為替操作国」であるとして、報復を示唆してきました。

 図表1 米貿易赤字の国別比率(%)

2. 日米貿易摩擦との比較

現在の米中貿易摩擦と、嘗ての日米貿易摩擦を比較するとどうなるでしょうか。共通点として第一に、中国(当時の日本)は、世界第2位の経済大国として、急速に米国を追い上げています。第二に、中国(当時の日本)は、米国にとって最大の貿易赤字国。第三に、当時の日本は、政府主導の産業政策や円安誘導策により、意図的に不正な貿易操作がされたと米国側は認識しました(図表1参照)。現在も同様に、中国が不正な為替操作などを行い、米国が目指している資本主義とは本質的に異なる動きをしていると認識されています。

 図表2 「為替操作国」の認定基準

では、相違点についてはどうでしょうか。第一に、米国と日本は先進国であり、産業構造が似ています。日米貿易摩擦の当時は、自動車、PCなど、双方で生産している品目が問題となりました。一方、米国は中国から農産物など比較的付加価値の低い消費財を輸入しており、中国に対して、飛行機など比較的付加価値の高い資本財を輸出しています。両国は貿易面では、むしろ補完関係にあります。

第二、日本からの輸出は日本企業によるものが大半を占めています。一方、中国から米国への輸出は、米国をはじめとする外資系企業によるものが相当部分を占めています。つまり、もし中国から米国への輸出を止めれば、米国企業自体が困ることになります。

第三に、日米両国は貿易面だけでなく、安全保障に面でも密接な関係にあります。米国側は度々「安保ただ乗り論」を展開し、貿易交渉の場において利用してきました。これに対して、中国は安全保障の面において、少なくとも米国には依然していません。朝鮮半島、テロとの戦いなどでは、米国はむしろ中国の協力を必要としており、一方的に圧力をかけるのはン難しいと言えます。

猶、米国のニクソン大統領以来の歴代政権は、政権の前半においては選挙公約により中国に対して強硬な姿勢をとるものの、政権の後半になると軟化する傾向にあるとの調査・研究もあります。トランプ政権でも、このような傾向が続くかどうか注目されます。

3. 全人代を開催

中国共産党は3月5日に、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)を開催。18年の国内総生産(GDP)の伸び率の目標を、17年と同じ+6.5%に背一定したと発表。李克強首相が、全人代の開幕に合わせて政府活動報告を行いました(写真1参照)。17年の成長率は+6.9%となりましたが、18年の目標値は据え置きました。

 写真1 全人代で演説する李克強首相

ただ、エコミスとは今年の経済成長が鈍化すると予想。政府が投資を抑制しているほか、環境対策や住宅市場の抑制により、重工業や不動産への投資が失速するとみられます。政府の腐敗抑制により、高級品の売れ行きも悪くなっています。

また、米トランプ政権が鉄鋼、アルミニウムの輸入制限を行う方針でありと発表。中国、欧州、カナダなどは反発しており、米国との間で貿易戦争が勃発するリスクが高まっています。中国の輸出も関税の上昇などにより抑制されて、GDP成長率に対しては下押し要因となることも考えられます。

さらに、李首相は安定した人民元相場を維持すると表明。同氏は、中国経済のリスクは「総じて抑制されている」としつつも、地方政務の債務といった問題を解決するには、更なる努力が必要であるとしました。シャドーバンキング(影の銀行)やインターネット金融、金融持ち株会社への監視を強化し、金融業者のリスクコントロールを高める方針を示唆しました。

4. 習近平総書記が権力基盤を強化

日付がさかのぼりますが、17年10月18-24日にかけて開催された中国共産党第19回全国代表会議では、習政権の今後5年の主要な人事を決定。注目された習氏の後継候補は常務委員に登用されず、習氏が2期10年の人気を全うしても、続投する可能性が高まりました。

習総書記は盟友である王岐山氏を中心として、「反腐敗運動」を展開。江沢民元国主席と胡錦濤前国家主席につながる人脈などを排除。今後の党のリーダーの候補であるとされていた孫政才氏も反腐敗運動により排除し、後任の重慶市の初期には子飼いの幹部の1人である陳氏を据えました。

次回は、技術革新、教育などを見る予定です。

 新常態に挑む中国 (3) 消費など  平成30年3月2日

おはようございます。今回は、消費の発展、産業の高度化、住宅問題などについて考えます。

1. 消費が拡大

中国では従来、輸出と投資が経済成長の牽引役となっていました。国内総生産(GDP)が+10%伸びているときには、消費の伸びは+8%程度であり、GDPに占める消費の割合は徐々に低下。2010年には同比率が中国は35%しかなく、米国の約7割、日本の約6割などと比較すると、以上に低い水準にとどまっています。

11年以降は、成長率が+7%に低下したものの、消費の伸びは維持されました。その結果、時間がたつにつれて、GDPに占める商品の割合が上昇。まだ、海外の主要国に比べると低いものの、最近では、40%近くまで上がっています。所得格差の縮小と、賃金の上昇により、消費性向が向上しています。

2. 堅調な新車販売

中国自動車工業会は1月11日に、17年通年の中国の自動車の販売台数が年初の計画であった+5%よりも若干低かったものの、業界全体としては好調であり、安定した増加を見せたと発表。17年通年の販売台数は前年比+3%の2887.9万台。生産台数は+3.2%の2901.5万台でした。

続いて2月5日に、同工業会は1月の新車販売台数が、前年同月比+11.6%の208.9万台になったと発表(図表1参照)。うち、乗用車の販売は同+10.7%の245.6万台、商用車は同+18%の35.3万台。

中国は既に米国を追い抜いて世界最大の自動車の販売・生産台数を誇っており、日本との差も急速に拡大。最近は、モーターショーにおいても、東京には海外のメーカーの関心が薄れていますが、上海など中国におけるショーには海外のメーカーが殺到。

中国政府は、自動車を電気自動車に切り替える方針を表明。中国国内では、電気自動車の燃料電池の開発も進んでおり、中国の自動車が世界の標準となる可能性もあります。

 図表1 中国の新車販売台数

3.産業が高度化

このように自動車を含む交通・通信関連、文化・教育・娯楽関連、宝飾品・美術品・ホテルなど「その他支出」関連を含む、国学消費、自己実現消費が拡大の傾向にあります。

このような消費の高度化もあり、産業構造の高度化も進展。過剰生産・能力を抱える鉱業、鉄鋼等の素材、不動産のシェアが低下。資本集約型産業への移行が進展し、サービス消費の拡大、企業のアウトソーシングにより、経済のサービス化、ソフト化が進展。

日本と同様に、経済の発展により第1次産業が衰退し、製造業など第2次産業が盛んになり、現在はサービス業を中心とする第3次産業のGDPに占める比率が上昇しています(図表2参照)。

 図表2 中国の産業構造(名目GDP)

4. 住宅バブル

中国では、投資資金が主に国内の不動産、あるいは株式市場に向かう傾向にあります。国内の投資家が海外に投資するのは難しく、そのため不動産価格、あるいは株価が急激に上昇することがあり、理論的には説明がつかないほど高騰する、即ちバブルとも言える状態に至ることがしばしばあります。

中国では、15年央以降の株価の急落の後、住宅価格が高騰。住宅価格は既にバブルの域に達しています。ただ、バブルは終わった後に「あれはバブルだった」と振り返ることはあっても、投資家など当事者たちがその中にいるときには、なかなか認識しにくい面があります。

住宅価格がバブルであるかどうかを判断する尺度として、まず、標準的なマンション価格が世帯年収の何年分にそうとうするのか、という指標があります。深センでは35年分、上海・北京などでは20年分を超えています。バブル期の東京でも、20年を超えたことはありません。

次に年間の賃貸収入を不動産価格で割った利回りがあり、これはどこの都市でも2%未満となっており、預金の1年基を下回っています。つまり、投資家は利回りではなく、値上げり益を狙っているということであり、ひとたび不動産市況が崩れると、価格が大幅に下落する可能性があります。

5. 住宅価格調整の可能性

18年以降、住宅価格が調整することも考えられます。住宅関連の指標を見ると、先行しているのが販売面積、続いて販売価格、さらに遅れて住宅開発投資となっています(図表3参照)。住宅販売面積は前年比でピークを過ぎ、遅れて住宅価格も頭打ちとなり、投資も18年以降に鈍化する可能性があります。

 図表3 住宅販売面積、一級都市住宅販売価格、住宅開発投資

中国における住宅投資の変動は、鉄鋼など世界の素材の需要に大きな影響を及ぼす可能性があります。現在、中国の鉄鋼生産量は世界の約半分であり、中国の鉄鋼需要の半分が建設関連。仮に中国の住宅価格が下落に転じると、鉄鋼など中国の素材産業が大きな打撃を受けて、世界的に鉄鋼価格、ひいては鉄鉱石など商品市況にとって打撃になることも考えられます。

鉄鋼産業さ打撃を受けると、石炭、電力などにも影響が及び、中国の景気全体を下押しする圧力ともなります。鉄鉱石、石炭を運ぶ船の運賃の下落にもつながり、開運市況にも影響を及ぼすと考えられます。

次回は、政治を見る予定です。

 新常態に挑む中国 (2) 労働市場、所得  平成30年2月23

おはようございます。今回は、労働市場、所得などについて考えます。

1. 人口の高齢化が急速に進展

中国は世界最大の人口を抱えており、これまでは安い労働力による大量の生産が経済の発展を牽引してきました。最近では、経済の製造業からサービス業へのシフトが鮮明になっているものの、人口の多さが消費を支える構造。中国共産党は、消費が景気を牽引するモデルへの転換を図っています。

前回報告の通り、昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比で+6.8%の伸び。市場予想の+6.7%を上回りました。また、17年通年のGDP成長率は+6.9%と、政府目標の+6.5%前後を上回り、26年ぶりの低水準であった16年の+6.7%から加速。成長率が前年から加速したのは7年ぶり。ただ、1979-2010年には、平均で約+10%の経済成長と比較すると、成長率は徐々に低下しています。

成長率の低下の要因として、人口の高齢化があります。1970年代以降に出生率が低下し、一人っ子政策の影響もあり、出生率はさらに低下。2030年頃に人口はピークを迎え、その後は人口が減少すると予想されています(図表1参照)。

 図表1 中国の世代別人口と高齢化率推移

2. 人口ボーナスが消滅

一般に、0-14歳を幼年人口、65歳以上を老年人口と呼び、その2つ以外の部分(非生産年齢人口)、即ち15-64歳を生産年齢人口と呼びます。生産年齢人口が非生産年齢人口に対して相対的に拡大する時期を「人口ボーナス」と呼びます。この時期には、生産と消費が大きく拡大し、経済が大きく発展すると考えられます。日本でいえば、バブル崩壊以前の高度、あるいは安定経済成長期がこれにあたります。

中国では上記の通り、一人っ子政策の影響もあり、1975年頃から子供、即ち幼年人口(0-14歳)が徐々に減少。逆に老年人口(中国の定義では60歳以上)が、90年ころから急速に拡大。これにより人口ボーナス期は2010年頃に終了。逆に日労働人口の伸びが労働人口の伸びを上回る、いわゆる「人口オーナス期」に突入(図表2参照)。

 図表2 中国の世代別人口比率推移

3. ルイスの転換点を経過

中国ではこのように、供給側の制約として労働力の供給が不足しており、それが潜在成長力の低下につながっています。同国は13億8千万人という世界最大の人口を抱えているものの、労働力がすでに不足しています。その大きな1つの要因が上記の「人口ボーナス」の消滅ということです。

さらにもう1つの大きな要因として、農村部からの出稼ぎ者である、いわゆる「民工」の供給の増加が殆どなくなっていることがあります。日本の高度経済成長期においても、東北、四国、九州を中心として、農村部の若い労働力が都会に移動し、経済成長を支えました。中国においても「民工」が大量に深セン、上海、天津などの沿海部に移動。沿海部の経済成長を支えました。

中国には、農村部に1億5千万人の余剰労働力があり、毎年1千万人が都市部の工業地帯に移動しても、当分、労働力の供給には困らないと言われてきました。中国では従来、「+8%」といった高い経済成長の目標が掲げられていたわけですが、その根拠の1つが余剰労働力の吸収ということであったわけです。

実際には、農村部からは余剰人員は殆ど都会に流出しており、農村部には老人と子供しか残っていない状態。農村部の過疎化も急速に進んでいます。農村部の余剰な労働力は殆ど都会に流出し終えており、いわゆる「ルイスの転換点」を過ぎたと考えられます(図表3参照)。

 図表3 中国の経済成長率と都市部の求人倍率

求人倍率と成長率を比較すると、01年から07年頃までは、成長率の上昇と都市部の求人倍率の上昇が概ね一致していました。成長率が高まれば一般に人で不足となり、都市部の求人倍率も高くなると考えられます。

08年9月15日のリーマン・ショックを経て、09年初めには都市部の求人倍率は0.65倍程度まで低下。その後中国政府は4兆元に及ぶ経済対策に踏み切りました。この経済対策には、雇用対策という意味もあり、都市部の求人倍率は急速に回復。その後も、同倍率は緩やかに上昇しているものの、成長率は逆に大きく低下。労働力不足が、成長の制約要因になっていると言えます。

4. 生産性の向上が課題に

現在、求人倍率は1.16倍程度であり、概ね完全雇用が達成されています。中国では、1979-2010年の「旧常態(Old Economy)」においては、平均して+10%程度の成長を達成したものの、2011-17年(新常態)においては同+7.6%程度であり、18年以降も低下が見込まれます。

従来のような輸出、投資主導の成長は望めず、また供給の面からは労働人口の増加、即ち労働投入の増加は望めません。そのため、今後は一定の成長率を維持するには、生産性の向上が課題となります。

1995-2011年の平均の成長率は年平均+9.9%。これを分解すると、労働投入量の拡大が+0.7%、資本投入量の拡大が+5.3%、残りの+3.7%が全要素生産性(TFP)の拡大によるもの。今後は投資の拡大は見込めず、さらに労働人口も減少が続くため、いかに生産性を高めるかが問題となってきます。

5. 所得格差が縮小

中国では、依然として所得格差が大きいものの、新常態に入ってからは縮小傾向にあります。まず、都市部と農村部の格差については、都市部の1人当たり所得はピーク時には農村部の3.3倍。これが15年には2.9倍程度まで縮小。

次に沿海部(東部)と内陸部(中西部)の格差については、2002年の2.3倍程度が16年には1.7倍程度まで縮小。さらに、同じ都市部における上位20%の高所得層と下位20%の低所得層を比較すると、05年の5.7倍程度が13年には4.9倍程度まで低下(図表4参照)。いずれも見ても徐々に低下しており、ジニ係数も2010年前後から改善。

 図表4 都市部の高所得層の低所得層に対する1人当り所得の比率

この背景として、労働力の不足があります。農村から都市部への人口の移動がなくなる、いわゆる「ルイスの転換点」以前においては、高い賃金を求めて農村部から都市部への人口の流入がみられました。このいわゆる「民工」の都市部への移動がほぼなくなったことにより、地方においても最低賃金が上昇しました。

また、トウ小平氏による、特に広州など沿海部を中心とした経済発展により、中西部が経済発展から取り残される傾向にありました。そのため、政府は07年ころより、中西部の大開発を推進。それにより、中西部の成長率が東部のそれを上回るようになり、「西高東低型成長」が定着するようになりました。

日本のユニクロなど労働集約的な産業、あるいは台湾の鴻海などのEMS(電気機械受託生産)も、拠点を徐々に沿海部から内陸部に移しました。これは東部の賃金の高騰に対応したものであったものの、内陸部も賃金の上昇が顕著となってきました。

そのため、繊維などの労働集約産業の内陸部への移動は一服する傾向にあります。また、経済指標で見ても、このところ製造業購買担当者指数(PMI)の伸びは、非製造業のそれに対して、勢いが衰えています。海外から中国への直接投資(FDI)で見ても、製造業が停滞し、非製造業が伸びる傾向が顕著になっています。

中国国内では、鉄鋼、化学、セメントなどを中心として、過剰設備の廃棄は進んでいるものの、政府による「西部大開発」も一巡した感があります。あるいは製造業が経済成長を牽引した時代は終わり、産業のソフト化が進むものと予想されます。今後、習近平政権は、中国と欧州を結ぶ「一帯一路」の推進により、インフラ開発を行い、こうした産業の設備の稼働を狙ってくるものとみられます。

次回は、消費の発展、産業の高度化、住宅問題などを見る予定です。

 新常態に挑む中国 (1) 成長率  平成30年2月16

おはようございます。中国経済は、昨年後半にはやや持ち直しの兆しを見せました。「新常態」へと移行する中国経済及び政治の課題、展望などについて考えます。

1. BRICsの成長率

中国は従来、代表的な新興国であるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で、特に高い成長率を維持してきました。ところが、国際通貨基金(IMF)のデータによると、17年には中国の+6.765%に対して、インドが+6.717%とほぼ並びました(図表1参照)。さらに、18年には中国+6.5%、インド+7.367%と逆転する見込み。

中国はほかの主要な新興国と比較すると、今後も高い成長率を維持する予想であるものの、経済の勢いに陰りが出ています。今後は、さらに成長率が低下する可能性があります。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

中国は1979-2010年には、平均で約+10%の経済成長を遂げて、世界の工場と呼ばれていました。リーマンショックを経て、2011-17年には平均で約+7.6%へと成長率が低下しました。今後も、IMF予想では18年+6.5%、19年+6.3%と、成長率は次第に低下する見込み。かつてほどの高成長は期待できなくなっており、「新常態(New Normal)」へと移行するとみられています。

2.10-12月期GDP成長率は+6.8%

続いて、四半期の成長率を見ておきましょう。中国の国家統計局は1月18日に昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.8%の伸びだと発表(図表2参照)。成長率は7-9月期から横這い。市場予想の+6.7%を上回りました。

また、17年通年のGDP成長率は+6.9%と、政府目標の+6.5%前後を上回り、26年ぶりの低水準であった16年の+6.7%から加速。成長率が前年から加速したのは7年ぶり。輸出の回復が寄与しました。

 図表2 中国の四半期成長率(前年同期比)

外需の成長への寄与度は16年には▲0.5%であったのに対して、17年は+0.6%に転じました。内需では、インフラ投資が+19%と、伸び率が+1.6%ポイントの拡大。党大会前に、地方政府が経済の実績を積み上げました。

3. 鉱工業生産伸び率は予想上回る

中国の国家統計局が1月18日に発表した統計によると、12月の鉱工業生産は前年同月比+6.2%と、前月の+6.1%から減速(図表3参照)。市場予想の+6.1%から上振れ。

 図表3 中国の鉱工業生産(前年同月比)

4. 12月小売売上高は予想下回る

一方、中国の国家統計局は同日に、17年12月の小売売上高が、前年同期比+9.4%になったと発表(図表4参照)。市場予想の+10.2を下回り、前月の+10.2%からも下振れ。

 図表4 中国の小売売上高(前年同月比)

5. 1-12月固定資産投資は伸びが鈍化

他方、同日発表の17年1-12月の固定資産投資は、前年同期比+7.2%。伸び率は市場予想の+7.1%から上振れし、1-11月の+7.2%と変わらず。

今後については、輸出が一進一退となっていることから、鉱工業生産の伸びはあまり期待できないとみられます。また、固定資産投資についても、民間投資の動きが鈍く、今後鈍化が見込まれます。小売売上高については、税制効果で、自動車が高い伸びとなっていることから、堅調な展開となる可能性があります。

6. 1月非製造業PMIは堅調

中国の国家統計局が2月1日発表した1月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.3と、前月の51.6から下落。市場予想の51.6からも下振れ。

一方、中国の国家統計局が同日発表した1月の非製造業購買担当者指数(PMI)は55.3。前月の55から上昇しました。市場予想の54.9からも上振れ。18年に入ってもサービスセクターが堅調であることを示唆。

そもそも、当局の発表する成長率、物価などの数字は、実態を表しているのかどうか疑問であるとの見方もあります。エコノミストの中には、実際の成長率は+4〜5%程度であると推定する向きもあります。中国の李克強首相も、GDP統計よりも電力消費量、物流などを重視ているとされます。

中国も経済のソフト化、サービス化が進展し、中国に対する海外からの直接投資でみても、製造業が減少する一方、サービス業への投資は堅調。単に電力消費量などを見るだけでは、実態を見誤る可能性もあります。

昨年10-12月期のGDP成長率を見る限りでは、中国の景気はやや持ち直しているとの感もあります。国有企業の過剰設備の廃棄は進んでいるものの、地方政府の債務の問題などもあります。ただ、中国経済の実態を見るためには、過剰設備、国有企業改革、地方政府の債務の問題なども見ていく必要があります。

次回は、労働市場、所得などを見る予定です。

 堅調な成長が続く東南アジア諸国 (6) マレーシア  平成30年2月9日

おはようございます。前回のベトナムに続き、今回はマレーシアを見ます。

1. マレーシアの政治状況

マレーシアの野党連合は1月7日に、次の選挙でマハティール・モハマド元首相(92)を首相候補に指名したと発表。マハティール氏は22年に亘ってマレーシアの首相を務め、03年に引退しました。マハティール氏は16年2月に与党・統一マレー国民組織(UMNO)を離党。「UMNOはナジブ首相の汚職を支持する政党となってしまった」としました。

マハティール氏は、嘗ては対立したアンワル・イブラヒム元副首相と組んで、自分自身がかつて党首を務めた与党・マレー国民組織の打倒を目指すこととなりました。同国の総選挙は今年8月までに実施予定。3月にも実施されるとの観測が強まっています。

2. CPI上昇率は減速

マレーシア統計庁は2月21日に、1月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.5%になったと発表(図表1参照)。12月の同+3.4%からやや加速。市場予想の+3.5%に一致。

 図表1 マレーシアのCPI前年比上昇率

3. 7-9月期GDPは+6.2%

同統計庁は11月17日に、同国の7-9月期国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+6.2%であったと発表(図表2)。前期の同+5.8%から加速し、前期比では+1.8%。世界需要の回復で輸出が伸び、製造業やサービス業、建設業が好調。

資源価格の低迷で苦戦していた鉱業も天然ガスの生産が増加して回復。同中銀のイブラヒム総裁は会見で、18年の金融政策見通しについては、「引き締めではなく、最大でも正常化に留める」としました。

 図表2 マレーシアの四半期成長率(前年同期比)

4. 政策金利を引き上げ

一方、マレーシア中央銀行は1月25日の金融政策決定会合で、市場の予想通り、政策金利である翌日物政策金利(OPO)を+0.25%引き上げ、3.25%にすることを決定。今回の利上げに伴い、金利の上限幅(コリドー)も、下限を3.00%、上限を3.50%へと、+0.25%の引き上げ。

 図表3 マレーシアの政策金利

中銀は16年7月会合で、景気に配慮して政策金利を▲0.25%引き下げたものの、同9月会合で据え置きに転じて、17年11月の前回会合まで、8会合連続で記入政策を据え置いていました。

中銀は会合後に発表した声明文で、利上げに踏み切ったことについて「マレーシア経済は着実な成長記号にあることから、中銀はこれまでの金融緩和の程度を正常化することを決定した」としました。

5. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、ベトナムの通貨リンギットは、17年3月以降、一貫して下落。米国が量的緩和から、利上げに踏み切り、投資資金が流出したことなどが影響しました(図表4参照)。

 図表4 マレーシア・リンギット(USD/MYR)

株価は、代表的な株価指数の1つであるKLC指数をみると、15年に大幅下落し16年も軟調な展開。17年に上昇に転じて、18年に入っても概ね堅調な動き(図表5参照)。

 図表5 マレーシア・KLC指数

マレーシア国内の景気が比較的堅調であることに加え、世界の投資家のリスク許容度が高まっていることなどが、株価上昇の要因となっています。

今後のマレーシアの課題としては、自動車産業など製造業の育成があげられます。マハティール元首相は、国営自動車大手プロトン・ホールディングスの育成を推進。ただ、近年は業績が低迷し、ナジブ・ラザク首相はマハティール氏をプロトンから追放。マハティール氏は、国営石油会社ペトロナスの顧問からの解任に加え、自らが育成してきたプロトンからも追われることとなりました。

ナジブ首相とマハティール元首相の対立は泥沼化しているものの、マレーシアの国内の景気はまずまず。マレー人を優先してきた「ブミプトラ政策」を維持するのかどうか、中国との外交関係などが、マレーシアにとって今後の課題となっています。タイと比べると、今一つ産業の集積化が進んでおらず、今後、ASEAN(東南アジア諸国連合)をリードしていけるかどうか、正念場を迎えていると言えます。

 堅調な成長が続く東南アジア諸国 (5) ベトナム  平成30年2月2日

おはようございます。前回のフィリピンに続き、今回はベトナムを見ます。

1. ベトナムの政治状況

16年1月20-28日にハノイで第12回ベトナム共産党大会が開催され、2020年までの党中央指導部の人事を決定。序列第1位の党書記長のグエン・フー・チョン氏が留任し、グエン・タン・ズン首相は退任。

続いて、4月7日にはベトナム第13期第11回国会で、グエン・スアン・フック副首相が新たな首相として選出され、9日に新内閣が信任されました。フック新首相は、マクロ経済の安定や経済成長の促進など、政府が取り組む6つの優先課題を上げました。これまで改革派であるとみられていたズン氏が退任したことにより、改革が停滞する可能性があります。

ベトナムでは、中国と同様に共産党の1党独裁の体制が敷かれています。引き続き、党書記長のグエン・フー・チョン氏が、最高指導者としてとどまると予想され、中国との歴史的な友好関係を維持すると考えられます。

2. 1月CPIは+2.65%

ベトナム統計局は2月28日に、1月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+2.65%になったと発表(図表1参照)。インフレ率は、引き続き低水準にとどまっています。

 図表1 ベトナムのCPI前年同月比上昇率

3. 10-12月のGDP成長率は+7.65%に加速

一方、ベトナム統計総局が発表したデータによると、10-12月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+7.65%となりました(図表2参照)。7-9月期の同+7.46%から加速。

 図表2 ベトナムのGDP成長率(四半期、前年同期比)

17年のGDP成長率は+6.81%となりました。成長率は14年が+5.98%、15年+6.68%と順調に拡大しました。16年には+6.21%へ鈍化しましたが、17年には再加速しました。

17年の成長率加速の要因としては、農林水産業、工業・建設業、サービス業の著しい回復があげられます。特に、水産業の成長率が+5.54%、製造業が+14.40%と、直近7年間で最高の伸びとなりました。

17年のGDP総額は5007兆8570億ドン(約25兆円)。1人当たりGDPは前年比+170ドル(約1万9000円)の2385ドル(約27マネン)となっています。

4. 政策金利を引き下げ

一方、ベトナム国家銀行(中央銀行)は17年7月10日に政策金利(リファイナンス金利)を▲0.25%ポイント引き下げ、6.5%としました(図表2参照)。引き下げは市場の予想外。国内経済の下支えとなる可能性はあるものの、ベトナムの信用リスクを高める可能性があります。

中銀によると、レファランス金利は10日に▲0.25%ポイント引き下げられて6.25%。公定歩合も4.25%と、従来の4.5%から引き下げ。

ベトナム投資開発銀行の財務責任者であるド・ゴック・クイン氏は、「今回の利下げで、企業と個人がより安価に借り入れができるようになり、融資需要刺激と消費支援に寄与するだろう」としました。さらに、ベトナム企業は依然として銀行融資に大きく依存。不良債権増加を回避するために、融資がどのように利用されるのか留意する必要がある」と述べました。

 図表3 ベトナムの政策金利

5. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、ベトナムの通貨ドンはドイモイ(改革開放政策)などにより、07-11年にはドルに対して大幅下落(図表4参照)。改革開放政策により、大幅な経常赤字になったことなどが、通貨ドンの下落の要因。ただ、11-14年以降は緩やかに下落。15年以降には、さらに緩やかに下落。

 図表4 ベトナム・ドン(USD/VND)

株価は14-15年に、ほぼ横這い(図表5参照)で、16年に入ってからは上昇に転じて、17年末より上昇の速度が加速。このところベトナムの景気が堅調なことなどが影響しています。また、海外からの株式市場への投資が制限されており、世界景気の動きは余り反映されない傾向があります。

 図表5 ベトナムVN指数

今後のベトナムの課題としては、国有企業の改革などがあります。ただ、改革派と目されてきたズン前首相が16年に退任したため、どの程度改革が進展するものか、注視する必要があります。また、自動車、電機、通信機器など高度な産業の集積がまだ十分でなく、今後の発展が期待されます。

現状では、韓国サムスンの関連した企業工場が主席されつつありますが、その場合、韓国の企業など特定の企業の業績の影響を大きく受けることとなります。ベトナムに進出する企業についても、日本、米国など多くの国の資本を呼び込み、リスクの分散を図ることが課題となっています。

次回はマレーシアを見る予定です。

 堅調な成長が続く東南アジア諸国(4) フィリピン  平成30年1月26日

おはようございます。前回のタイに続き、今回はフィリピンを見ます。

1. フィリピンの政治状況

2016年6月30日に、ドゥテルテが大統領に就任。同大統領は就任演説で、汚職撲滅、麻薬取り締まり強化、各省庁の手続き簡素化、方針の一貫性を宣言。就任に先立つ6月20日及び21日には、ダバオ市で政権メンバーがビジネス界の代表と意見交換しており、それが就任演説にも反映されました。

ドゥテルテ氏は、大統領就任に先立ち、1988年にダバオ市長に当選。その後、強権的な手法で麻薬の撲滅、治安の改善に貢献。ダバオ市では、犯罪率がフィリピンでも最悪でしたが、同氏は劇的に減少させました。同市は、「東南アジアで最も平和な都市」を標榜。

ドゥテルテ氏は大統領就任後に、同様に麻薬の取り締まりを強化。人権を軽視した手法には、米オバマ大統領などから批判が寄せられました。ドゥテルテ氏はこれに反発し、対米関係が悪化。一方、中国に対してはアキノ前大統領よりも融和的な政策をとり、南シナ海における中国との対立の緩和も図りました。

ただ、米国でトランプ氏が大統領に当選したのちは、対米関係もやや好転。日本の安倍首相とも従来から 良好な関係を保っており、外交面では中国、日本、欧米諸国などとバランスをとる姿勢を見せています。

2. 12月CPIは+3.5%

フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は1月5日に、10月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+3.3%になったと発表(図表1参照)。伸び率は前月から変わらず。市場予想の+3.3%と一致しました。

 図表1 フィリピンのCPI前年同月比上昇率

3. 政策金利を据え置き

一方、フィリピン中央銀行は12月14日の金融政策決定会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を据え置きました(図表2参照、上限を表示)。据え置きは市場の予想通り。政策金利は、翌日物借入金利の3%を中心とする2.5〜3.5%。金利据え置きは、政策金利に上下限を設ける「コリドー方式」を16年6月に導入して以来13会合連続。

 図表2 フィリピンの政策金利

米連邦準備理事会(FRB)による追加利上げについて、ギニグンド副総裁は「想定していた範囲内だ」としました。市場では、18年内の利上げを予想する見方もあります。17年1-11月の消費者物価指数(CPI)上昇率の平均が+3.2%であり、18-19年の政府のインフレ目標である+2.0〜4.0%のほぼ中央値で推移していることにより、据え置きが適切であると

4. 10-12月GDP+6.6%に減速

一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は1月23日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.6%の伸びになったと発表(図表3参照)。7-9月期の同+7.0%(修正値)から減速。市場予想の+6.7%からも下振れ。

 図表3 フィリピンの四半期成長率(前年同期比)

17年通年の成長率はゼネン飛+6.7%と、16年の+6.9%から減速。経済成長を支えてきた民間消費の伸びが鈍化。一方、政府が育成を目指す製造業は全体を上回る伸びとなり、成長の牽引役となりました。

5. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは12年後半から、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。

アキノ前政権の時代に、政治の安定に伴い、資本投資が活発化しました。同国経済は高成長の波に乗ることとなり、資本財の輸入も急進し、貿易赤字が拡大しました。フィリピンの物価は図表1の通り落ち着いており、ペソ下落による輸入インフレへの懸念もあまりないとみられます。経済が強いために通貨が下落するという状況は、当面継続する可能性が高いと言えます。

 図表4 フィリピン総合指数とフィリピン・ペソ

株価は、リーマンショックの影響などにより08年から09年の初めにかけて下落(図表4参照)。その後は、フィリピン経済の好調さに伴い、株価も順調に上昇。17年以降においても、中国の景気の拡大、海外就労者送金やコールセンターなどの業務外部委託(BPO)の急速な拡大などを背景に、株価は堅調に上昇。

米連邦準備委員会(FRB)は利上げを継続しているものの、FRBの急激な資産縮小はないものとみられています。欧州中央銀行(CEB)も出口戦略を探っているものの、直ちに利上げするという状況でもありません。フィリピンの株価は、引き続き底堅く推移することも考えられます。

次回はベトナムを見る予定です。

 堅調な成長が続く東南アジア諸国(3) タイ  平成30年1月19日

おはようございます。前回のインドネシアに続き、今回はタイを見ます。

1. タイの政治状況

タイでは10月25-29日に、プミポン前国王の国葬が行われました。前国王の崩御後には、幅広く「服喪」の状況が続き、暫定政権による政治活動禁止措置もあり、長年続いてきたタクシン派、反タクシン派の対立が表面化せずに済んできました。

ただ、前国王の国葬を期として、政治活動禁止措置の解除も取りざたされるようになり、プラユット首相が18年11月の総選挙実施を明言したこともあり、今後は政治対立が再燃する懸念もあります。

プラユット首相はタクシン派の地盤である北部や東国部のインフラ整備を行うなど、タクシン派の切り崩しに努めてきました。ただ、反タクシン派も現在の暫定政権を必ずしも支持しているわけではなく、長期間にわたる暫定政府の言論統制への不満も高まっています。

暫定政権が、タクシン派と反タクシン派の対立を抑え込んでおり、言論統制や政治集会の取り締まりへの批判はあるものの、産業界には政治的安定を評価する声もあります。外資系企業からも、現政権の経済政策には一貫性があるとして、評価する向きもあります。ただ、前国王の国葬が終了したことにより、今後は政治対立が再燃する可能性もあります。

2. 7-9月期成長率+4.3%に改善

タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は11月20日に、17年7-9月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比+4.3%になったと発表。4-6月期の+3.7%から加速。輸出が好調で、13年1-3月期以来の高い伸び。

し、3振りの改善。プミポン前国王の死去などにより伸び悩んでいた個人消費が、改善しました。 国家経済社会開発庁(NESDB)は同日に、17年通年の成長率を前年比+3.9%、18年の成長率を+3.6〜4.6%とする新たな予想も発表。ポラメティ長官は記者会見で、「タイ経済の成長エンジンはここ数年で最も良好な状態だ。来年腹さらによくなるだろう」としました。

 図表1 タイの四半期成長率(前年同期比)

今年の成長率が予想通り+3.9%になると、5年ぶりの高い伸びとなります。ただし、フィリピン、インドネシアなどほかの東南アジア諸国機構(ASEAN)の主要諸国と比較すると、タイの成長率は見劣りします。

3. CPI伸び率は横這い

一方、タイ商業省は1月3日に、12月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+0.78%であったと発表(図表2参照)。12月の同+0.99%から鈍化。市場予想の+0.99%から下振れ。依然として、物価上昇率は低水準。

 図表2 タイのCPI(前年同月比)

4. 政策金利を維持

一方、タイ中央銀行は11月8日の金融政策決定会合で、市場予想通り、政策金利の1日物レポ金利を1.5%に維持することを全会一致で決定(図表2参照)。据え置きは市場の予想通り。中銀は15年4月会合まで2会合連続で利下げし、その後は同6月より利下げに転じました。これで、20回連続で現状維持。

中銀は金融政策決定会合後に発表した声明文で、政策金利据え置きについて、前回9月会合時と同様に、「現在の金融緩和の政策姿勢は、経済成長を持続させ、ある程度時間がかかるものの、インフレ率を物価目標(+1.0〜4.0%)に近づけるうえで効果が期待されると判断した」としました。

 図表3 タイの政策金利

景気見通しについては、前回の会合時と同様に、「タイ経済の先行きは輸出の拡大や内需の回復により、従来予想よりも早いペースで拡大する」と楽観的な見通しを維持。ただ、「こうした景気の明るい見通しに比べて、地政学的リスクや米国の経済や貿易に関する政策の先行き不透明さ、移民労働者への規制の影響などのリスクが依然残っている」としました。

5. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、タイ・バーツ昨年初め以降には、対ドルで一貫して上昇(図表4参照)。ドルが主要通貨に対して軟調ダルということと、タイの経常収支の黒字などが影響していると考えられます。昨年には原油価格が安定しており、タイ国内の内需の低迷により、輸入が抑制されたことが経常黒字の原因と考えられます。

 図表4 タイ・バーツ

株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、15年1月には一貫して下落。16年初めからは上昇に転じ、17年にも大幅上昇。原油価格の安定、国内政治の安定化、景気の回復などが原因と言えます(図表5参照)。米国連邦準備理事会(FRB)による金利引き上げがゆっくりしたペースになるとの予想もあり、株価は当面、堅調な動きとなる可能性もあります。

 図表5 SET指数

タイの今後の政治・経済については、暫定政権のプラユット首相が居残りを画策しているとみられ、総選挙が近づくにつれて、政治的な混乱が生じる恐れもあります。タクシン派と反タクシン派の間には、都市部の富裕層、官僚などのエリートに対して、経済的発展から取り残されてきた農村部の反発があり、暫定政権はこのような構造問題を解決するには至っていません。

両者の対立を解消するためには、相続税、固定資産税である土地手建物税の導入が必要であると言われていますが、既得権益層の反発が強く、暫定政権は税制改革に着手するには至っていません。世界経済が順調であることから、景気の面では緩やかな回復が継続するものと予想されます。

次回はフィリピンを見る予定です。

 堅調な成長が続く東南アジア諸国(2) インドネシア  平成30年1月12日

おはようございます。ASEAN主要国について、今回から個別の国を見ていきます。まず、インドネシアについて。米国の景気が順調であることと、米FRB(連邦準備理事会)による利上げが巡航速度であること、一時懸念された中国の景気もそれほど悪くないこと、などが株価上昇の要因であると考えられます。インドネシアの株価は、引き続き底堅く推移することも考えられます。

1 1. ジョコ氏が14年に大統領選で勝利米国の景気が順調であることと、米FRB(連邦準備理事会)による利上げが巡航速度であること、一時懸念された中国の景気もそれほど悪くないこと、などが株価上昇の要因であると考えられます。インドネシアの株価は、引き続き底堅く推移することも考えられます。

ジョコ氏は14年7月9日大統領選挙で当選したものの、国会運営が足枷となっていました。14年4月の総選挙直後には、与党連合の議席割合は37.0%にとどまりました。その後、民主党の中立的位置への移行、ゴルカル党、開発統一党の分裂、国民信託党の与党連合派の鞍替えなどで、国会における反ジョコ派の割合は徐々に縮小したものの、過半数を獲得できていませんでした。米国の景気が順調であることと、米FRB(連邦準備理事会)による利上げが巡航速度であること、一時懸念された中国の景気もそれほど悪くないこと、などが株価上昇の要因であると考えられます。インドネシアの株価は、引き続き底堅く推移することも考えられます。

インドネシア国会で最大野党であったゴルカル党は、16年5月17日に臨時党大会を開き、セティヤ・ノバント氏を新党首に選出するとともに、ジョコ大統領を支持する与党連合に合流することを決定。これにより与党連合の議席割合は68.9%となり、安定した国会運営が期待できることとなりました。米国の景気が順調であることと、米FRB(連邦準備理事会)による利上げが巡航速度であること、一時懸念された中国の景気もそれほど悪くないこと、などが株価上昇の要因であると考えられます。インドネシアの株価は、引き続き底堅く推移することも考えられます。

2. 首都州知事選で与党敗北

昨年4月19日に実施されたジャカルタ州知事選では、新人のアニス・バスウェダン氏が58%の得票を獲得して決選投票で当選。第1回投票では、現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ知事が首位であったものの、決選投票では、第1回投票で3位であったアグス氏の票を取り込んで勝利しました。

このジャカルタ州知事選では、19年の大統領選の前哨戦という意味合いと、バスキ知事への反対デモが発生する中、治安への影響という観点から注目されました。

キリスト教徒であるバスキ氏に対するイスラム保守派などからの反感が高まり、急進的なイスラム組織であるイスラム防衛戦線が主導したとされるデモの影響もあり、ジョコ大統領が支援した現職のバスキ氏が落選。

これにより、ジョコ大統領の求心力の低下、また同大統領の進める改革が停滞するという懸念があります。また、アニス新知事、あるいは彼を支援し、14年の大統領選では接戦を演じたプラボウォ氏が19年の大統領選に名乗りを上げる可能性があります。19年の大統領選での再選を狙っているとされるジョコ氏が、今後改革を推進していけるかどうかが注目されます。

3. 12月CPI上昇率は+3.6%に鈍化

インドネシア中央統計局は1月2日に、12月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.61%の上昇になったと発表(図表1参照)。市場予想の+3.4%から上振れ。前月の+3.30%から加速したものの、引き続き低水準にとどまっています。

 図表1 インドネシアのCPI前年同月比上昇率

4. 政策金利を据え置き

一方、インドネシア中央銀行は12月14日に、政策金利である7日物リバースレポレートを4.25%に据え置くことを決定(図表2参照)。過剰流動性を吸収するため、翌日物預金ファシリティー金利も3.50%、翌々日物貸出ファシリティー金利も5.00%と、いずれも据え置き。

 図表2 インドネシアの政策金利

中銀は16年には、政策金利を6度にわたり合計▲1.50%ポイント引き下げ、同年11月会合からは据え置きに転じて、17年7月会合迄、9会合連続で現状維持。8月会合で利下げに転じて、9月会合迄、2会合連続で引き下げ。10月会合で政策金利を据え置き、11月に続いて、これで3会合連続の据え置きとなりました。

5. 7-9期+5.06%成長

インドネシア中央統計局は11月6日に、7-9月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+5.06%であると発表(図表3参照)。4-6月期の+5.01%からはやや加速。市場予想の+5.13%からは下振れ。前期比では+3.18%と、これも予想の+3.23%から下振れ。

 図表3 インドネシアの四半期成長率(前年同期比)

GDP全体の約6割を占める個人消費は+4.93%と、4-6月期の+4.95%からやや鈍化。一方、政府支出は+3.46%と、第2四半期の約▲2%から改善。インドネシア政府は、今年の成長率目標を+5.2%としています。インドネシア中央銀行は、今年の成長率を+5.0〜5.4%と予想。

6. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは米国の金融緩和縮小の観測により、12年以降、急速に下落(図表4参照)。13年にはインドネシアはインド、ブラジルなどとともに脆弱5か国(Fragile 5)とされ、通貨が大幅に下落。

ルピアは15年9月には1ドル=14,622ルピア迄下落。ただ、その後は米国の利上げ観測の後退などにより、ルピアは反発。16年2月には1ドル=13,334ルピア迄戻しました。その後は、横這い、あるいはやや弱含みの展開となりました。

株価は13年8月から15年初めにかけて上昇。主要な新興国の中では相対的に景気がよいことなどから、堅調に推移しました。ただ、15年に入ると、米国が利上げするとの見通しが強まり3月以降に下落に転じました。ジャカルタ総合指数は15年3月末に5518ポイントを付けた後は下落。15年9月末には4223ポイント迄下落。ただ、株価も米国の利上げ観測の後退などにより反発。16-17年には大幅に上昇。17年末には、6355ポイントに達しました。

 図表4 ジャカルタ総合指数とルピア(IDR/USD)

米国の景気が順調であることと、米FRB(連邦準備理事会)による利上げが巡航速度であること、一時懸念された中国の景気もそれほど悪くないこと、などが株価上昇の要因であると考えられます。インドネシアの株価は、引き続き底堅く推移することも考えられます。

次回はタイを見る予定です。

 堅調な成長が続く東南アジア諸国(1)  平成30年1月5日

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。昨年においては、新興国の株式市場のリターンはまずますとなりました。今年も、皆様にとって良い年となるよう祈願しております。今回はまず、東南アジア諸国連合(ASEAN)主要5か国の現状と見通しについて。

1. 東南アジア諸国連合の概要

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、1967年の「バンコク宣言」によって設立されました。現加盟国はタイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの5か国で。1984年にブル名が加盟し、その後順次増加し、現在は10か国。欧州共同体(EU)などと比べると、緩やかな共同体を目指しているのが特徴で、高い経済成長と、政治的・軍事的な安定が見られます。今後は、人口と購買力の増加により世界の「開かれた成長センター」となることが期待されています。

2. 安定した成長が継続

まず、ASEAN主要国の実質GDP(国内総生産)成長率を見ると、相対的に安定した成長を遂げてきました。国際通貨基金(IMF)のデータによると、2009年にはリーマンショックなどで、ASEAN諸国の成長率も低迷し、マレーシアも▲1.51%、タイが▲0.74%に低迷。一方、ベトナムが+5.4%、インドネシアも+4.15%と安定。(図表1参照)。外需の影響などにより、明暗が分かれました。

10年には反動でASEAN各国の成長率は軒並み急反発し、フィリピン+7.63%、マレーシア+7.3%などと、各国ともに好調。ただ、その後はタイが洪水、政治的混乱などにより劣後する一方、フィリピン、ベトナムが好調を持続するなど、国ごとに違いがやや顕在化。

17年で見るとIMFの予想で、フィリピン+6.60%、ベトナム+6.30%、マレーシア+5.43%などとなっています。18年以降も、堅調な拡大が続く見込み。

 図表1 ASEAN主要国の成長率

では、1人当たりGDPで見るとどうでしょうか。図表2の通り、同国の1人当たりGDPは、やはり2008年9月15日のリーマンショックの影響により、2009年に落ち込む国が多く、マレーシア、タイなどで前年比減少。その後は順調に回復。15年には、中国の景気減速、米国の利上げなどにより、やはりマレーシア、タイ、インドネシアは前年比でやや落ち込む動きとなりました。

ただ、10年以降には急速に回復。17年ではIMFの予測で、マレーシア9,659ドル、タイ6,336ドル、インドネシア3,858ドルなどとなっており、その後も順調に拡大する見込み。

 図表2 ASEAN主要国の1人当たりGDP

3. 物価は緩やかに上昇か

17年においては、各国とも消費者物価指数(CPI)の上昇率、即ちインフレ率は落ち着いた動きとなっていました。原油などエネルギー価格が安定していたこと、農業生産の回復により章句品価格が低迷、通貨が上昇(ドルが下落)したことが主な要因。

ただ、昨年は概ね安定していた原油価格(WTI)が昨年末には上向き、18年1月1日にはWTIは1バレル=62ドル近辺まで上昇。直接のきっかけはリビアにおける石油パイプラインの爆発。アルカイダ系のテロ組織による爆発とみられています。ただ、同事件によるだけでなく、商品市況が一般に上向いています。

また、18年には、米国の利上げ、欧州中央銀行(ECB)による引締め政策への転換が予想されており、ASEAN諸国の通貨が対ドルで下落することが予想されます。そのため、ASEAN主要国のインフレ率は、18年前半では概ね安定して推移するものの、年後半には緩やかに加速する可能性があります。

4. 政策金利は引き締め気味か

東南アジア諸国連合主要5か国においては、17年にはインフレ率が低位で推移し、景気の過熱感もなかったことから、政策金利は緩和気味に推移していました。マレーシア、タイ、フィリピンは、政策金利を維持。インドネシが8、9月に利下げし(図表3参照)、ベトナムも7月に利下げしました。

 図表3 インドネシアの政策金利

5. 消費は堅調に推移の見通し

東南アジア主5か国では堅調な外需により、引き続き輸出が好調であると予想されるほか、投資も持ち直すものと予想されます。消費も堅調に推移すると予想されており、18年も安定した成長が持続すると予想されます。

18年には、中国経済が減速する可能性が高いものの、米国を中心として先進国は好調な景気を維持すると予想されます。また、中国での人件費高騰の影響により、中国からベトナム、フィリピン、インドネシアなど相対的に人件費が安い国への生産の移転が進むこととなりそうです。

6. リスク要因、課題

東南アジア主5か国は、政治的には安定しているものの、中国の影響力拡大が見込まれます。フィリピンでは、アキノ前政権が中国と距離を置く姿勢をとっていました。南シナ海における中国の人口島の建設に対して、国際司法裁判所に提訴し、中国が敗訴しました。

現ドゥテルテ大統領の政権になり、フィリピンは中国との関係を重視。ミャンマーも、ロヒンギャの問題もあり、一時距離を置いていた中国との関係許可に傾いています。米トランプ政権は東南アジアから引き気味であるとみられており、間隙を衝いて、中国が影響力を拡大しています。

このような地政学的リスクに加えて、資金流出の可能性もあります。17年には投資家の新興国に対するリスク経費度の低下により、新興国の株式・債券市場には資金流入がみられました。ただ、18年には米国の利上げ、またECB(欧州中央銀行)の引き締め政策への転換の可能性などにより、投資家が東南アジア主要5か国から資金を引き上げるリスクがあります。

さらに、米トランプ政権による大使館のエルサレム移転、サウジアラビアのイランなどに対する強硬姿勢、イラン国内のデモなどによる混乱が懸念されます。中東における混乱が拡大することにより、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどの中東における出稼ぎ労働者が、影響を受ける可能性があります。

次回以降は、主要5カ国の状況を見ていく予定です。

 新興国とフィンテックの進展 平成29年12月29日

おはようございます。今年も残すところわずかになりました。今年は皆様にとってどのような年であったでしょうか。今回は、新興国におけるフィンテックの発展の可能性について考えてみましょう。

1. 世界の株式時価総額順位

まず、世界の株式市場における銘柄の、時価総額による順位を見ておきましょう。上位10位を見ると、ほとんどが米国で、また業種としてはIT(情報産業)が大半を占めていることがわかります。アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックという、世界をリードする米国の銘柄の強さが際立っています(図表1参照)。

 図表1 世界の時価総額順位(2017年11月末)

2ただ、最近の変化として注目すべきは、テンセント、アリババという中国の2つのIT銘柄が上位に食い込んでいることです。特にテンセントは、前月(10月)からさらに順位を2つ上げて6位に食い込んでおり、注目の的。この2銘柄は、今回見ていくフィンテック(FinTech、金融とテクノロジー、即ち技術の融合)においても、重要な役割を果たしつつあります。

2. フィンテック(FinTech)とは

FinTechとは、Financial Technologyの略であり、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語。ICT(Information Communication Technology、情報伝達技術)を駆使した革新的、あるいは破壊的な金融・商品サービスの潮流であるとされます。特に既存の金融機関持つサービスを低コストで提供するものとして注目されています。

例えば、日本のいわゆる3大銀行であれば、町の中心部に店舗を構え、ATMにより現金を供給し、国内外への送金、決済などを受け持つ機能を持っています。ただ、現金の電子化が進めばATMはそれほど必要でなくなり、銀行にとってもコストとして負担が重くなります。さらに、海外との送金は手数料が高く日数もかかるなどの問題があります。今後AI(人口知能)の発達により、日本の巨大銀行(メガバンク)などの機能は、見直される可能性があります。

3. 中国におけるフィンテックの発展

中国などにおいては、フィンテックが大いに進んでいるわけですが、それを可能にした大きな要因がスマートフォン(以下、スマホ)。スマホには、嘗てのメインフレームと言われる巨大なコンピュータ並みの計算能力が備わっており、しかも通信回線の発展により、データのやり取りも簡単に行えるようになりました。

最近、中国を旅行した日本人は、現地の人が殆ど現金を持ち歩かず、使わないことに驚くことが多くなりました。ある女子学生は、3週間ほどスマホだけで支払いなどをすべて済ませて、銀行のキャッシュカードを落としたことに気付かず、銀行からの連絡により初めて知ったなどという事件も起こってきています。

中国では、特に都市部では店舗、あるいは鉄道・バスなどの公共機関の支払いは、電子ウィレットで行われています。個人間の送金も銀行を介す必要がありません。まず、個人が銀行口座から自分のスマホの電子ウィレットに資金を入れます。そこから受領する店舗、個人などのウォレットに送金。この送金は、ウォレットを運用している会社のシステム内での電子データの付け替えであるため、銀行を経由する必要がありません。

オフラインにおける電子ウォレットの決済は、QRコードによる行われます。自分のスマホに口座情報のQRを掲示し、相手方がこれをカメラ機能で読み込むことにより、15秒程度で完了。店舗にとっては、設備投資が殆どかからないというメリットがあります。すなわち、日本のようなクレジットカードなどへの対応に比べて、店舗の負担もはるかに軽くて済むことになります。

4. アリババとテンセントが躍進

中国における電子ウォレットでは、図表1に登場したアリババのアリペイ(AliPay)が5割、テンセントのウィーチャットペイ(WeChatPay)が4割と、圧倒的なシェア。特に、ウィーチャットペイの利用者は既に8億を突破。テンセントはもともとオンラインゲームを本業とする会社で、ウィーチャットと呼ばれるショート・メッセージ・サービスを運営う。電子ウォレットから得た情報を広告などに転用。

電子ウォレットは、最初にアリババが開始。アリババの利用者は約5億人。同社はEコマースを本業としており、電子ウォレットの情報をネット販売などに利用しているとみられます。現在は、利用者数でウィーチャットペイが追い越しています。

5. アリババは海外へも展開

さらにアリババは、AliPayをアジア各国で展開することを計画。各国でジョイントベンチャーを組み、地元企業にプラットフォームの展開を任せる体制を作ろうとしています。インドではすでに進んでおり、利用者は既に2億人を超えている模様(写真1参照)。アリババの馬(マー)会長は、中国1の富豪であるとされています。

 写真1 アリババのジャック・マー(馬雲)会長

また、フィリピンなどの東南アジア、バングラデシュなどの南アジアでは、中産階級よりも下の層は、銀行口座さえ持っていないことも多いと言われます。例えば、フィリピンの出稼ぎ労働者が香港、あるいは中東などで働いて、本国に送金する際には、銀行を介さずにスマホで済ませる傾向にあります。そうなると、先進国よりもこれら発展途上国のほうがフィンテックに対する需要が大きいとも考えることができ、アリババのような企業が飛躍的に発展する可能性があります。

6. フィンテックで何が可能になるか

フィンテックが発達することにより、中抜き(銀行の省略)、分散化(いわゆるブロックチェーン)、オープンイノベーションなどが進展すると予想されます。日本など先進国の銀行は、顧客の満足よりも自社の都合を優先しており、顧客に対して高い手数料を要求しています。

例えば、海外への送金手数料。三井住友銀行を例にとると、円建てで海外に送金する際には、海外送金手数料として4,000円、関係銀行手数料として2,500円(ただし、受取人取引銀行または送金の経由銀行から後日4,000円を超える請求があった場合には差額を請求)、円為替取り扱い手数料として送金額の0.05%、最低2,500円となっています。私自身も、海外から送金してもらうことがありますが、とても高い手数料がかかっています。

英国のフィンテック企業であるTransferWise(トランスファー・ワイズ)は、国際間の送金手数料を安く提供している会社の1つ。2国間の送金については、反対方向の送金の需要を探してマッチングさせます。国内送金のマッチングを行うことにより、疑似的に国際送金を行い、大幅な手数料の引き下げを行っています(図表2参照)。

 図表2 トランスファー・ワイズ社による送金

また、電子決済などが進むことにより、現金を管理するための膨大なコストの削減が可能になります。日本では特に支払い、決済における現金の比率が高く、銀行は店舗、ATMの維持などに膨大な費用をかけています。

中国の店舗の支払いでは、最近のある調査によると、アリペイとウィーチャットペイによる電子決済が合計で67%、ユニオンペイによるクレジットカードとデビットカードが22%、現金の比率はわずか11%となっています。

中国のお寺では、賽銭箱にQRコードあるのが一般的(写真2参照)。物乞いする人もQRコードを使っているという笑い話があるほど。中国の大都市には、QR決済による乗り捨てのレンタル自転車が至る所にあります。中国ではキャッシュカードはそれほど普及していませんが、スマホによる電子決済では、日米など先進国よりもはるかに先を進んでいると言えます。

 写真2 中国の賽銭箱

7. フィンテック進展の課題

中国では、フィンテックが急速に進んでいます。JPモルガン・チェースの最新のレポートでは、中国のフィンテックが年平均+44%の成長で加速し、2020年までに690億ドルの市場になると予想しています。

中でもオンライン決済による収益は2020億人民元(約3.4兆円、オンライン融資は1420億人民元(約2.4兆円)と、飛躍的に伸びる見込み。オンライン保険は600億人民元(約9.1兆円)、金融商品のオンライ配信は520億人民元(約7.9兆円)との予想。

ただ、注意点もあります。アリペイ、またウィーチャットペイにおいては、個人の使用力を図る仕組みがあり、利用者は格付けされます。格付けが高ければ、レンタルの自転車を保証金なしで借りられたり、融資を受ける際に有利になったりします。そのため、利用者は個人情報を積極的に提供しますが、アリババ、テンセントに莫大な個人情報を握られることになります。

セキュリティの面でも、注意が必要。大量のデータが集約されることにより、アリババ、テンセントなど金融機関でない企業が金融のデータを同管理するかが課題となってきます。日本などではプライバシーに対する関心が高いため、中国ほど急激にフィンテックが進展しない可能性もあります。

今後はフィンテックにより、個人と個人が銀行などを介さずに直接つながることになります。送金などを気軽に行えるようになり、昨日の分化、シェアリングなども進展するとみられます。中国の自転車のシェアリングの会社は日本にも進出しています。世界的に住居、自動車などのシェアリングも発展する見込み。

今回は取り上げませんでしたが、送金、シェアリングなどで仮想通貨の役割が増大する可能性もあります。今後のフィンテックの進展においては、先進国だけでなく、中国など新興国の企業も活躍する場面が増えてくると予想されます

 中東の混乱が拡大 平成29年12月22日

おはようございます。中東では、イスラエルとパレスチナの対立が深まり、さらにイエメンにおける紛争も長期化に傾向にあります。混迷する中東情勢を見ましょう。

1. 米トランプ大統領がエルサレムを首都と認定

米国のトランプ大統領は、選挙公約としてエルサレムを首都と認定することを掲げてきました。米国の歴代大統領は、アラブ諸国の反発などを危惧して、米国の大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを、先延ばしにしてきました。その意味では、そもそも議会が決定していたことを大統領が実行することにしただけのことであるともいえますが、当然ながらアラブ諸国からは大きな反発が起こっています。

トランプ大統領?月5日に、エルサレムをイスラエルの首都と認定して、商都テルアビブにある米大使館を移転する方針を発表。米国がエルサレムを首都と認定したことにより、イスラエルとパレスチナの交渉によりエルサレムの最終的な地位を決定するとしてきた従来の米国の方針は、放棄されたことになります。中東和平の実現が大きく遠のくこととなりました。

 写真1 エルサレムの旧市街

2. イエメンの内戦が泥沼化

一方、サウジアラビアのお隣のイエメンでは、長らく専制政治を行ってきたサレハ前大統領’(75)がアラブの春により追放されました。その後はイランの支援を受けるフーシ派と、ハディ暫定政権のスンニー派が対立。政権復帰を目指すサレハ前大統領がフーシは派につくという、複雑な構造となりました。

サレハ前大統領はフーシ派との提携を解消し、首都サヌアから脱出する途中で、フーシ派の攻撃と受けて殺害されました。フーシ派をイランが支援し、ハディ暫定政権をサウジが支援しており、内戦は一層深刻になっています。

サウジで実験を握るムハンマド皇太子、イランの影響や過激派イスラム組織アルカイダの勢力一層を目指してイエメンに介入。早期の解決を目指してものの、戦闘は泥沼化しています。

3. カタールとサウジなどが断行

6月5日には、サウジアラビアがペルシャ湾岸国の1つであるカタールとの国交断交を発表。これに合わせ、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメンなどイスラム圏8か国が6月7日までにカタールトの断行を発表。

カタールは従来、シーア派のイラク寄りの姿勢をとっているとみられてきました。サウジのムハンマド皇太子は、イランへの打撃を狙ってカタールと断交。ただ、実際にイランが受けた打撃は大きくないとみられ、ムハンマド皇太子の強硬路線は、空回りしている面もあります。

さらに、11月4日にはレバノンのハリリ首相が突然、辞意を表明。ハリリ氏は、レバノンのシーア派の民兵であるヒズボラが、シリアなど中東地域に兵器を送っているとして非難。自身が暗殺される危険性があるとも、述べました。

シーア派のイランは、同じシーア派であるイラク、またシリアのアサド政権への影響力拡大を狙っているとされます。シリアでは、アサド大統領はシーア派の一派で少数派のあるアラウィー派に属しています。そのため、イランはアサド政権を支援しており、イスラム国(IS)はイラクとイランでほぼ壊滅したものの、シリアの混乱は継続する見込み。

4. ロシアが影響力拡大か

一方、ロシアのプーチン大統領は11月13日に、トルコのエルドアン大統領と今年6解明の会談を行いました。会談では、シリア問題をはじめとする地域問題を話し合いました。エルドアン大統領は、政治関係と同様に両国の経済関係が改善しているとして、農業とビザの制限がすでに大部分撤廃されていつことに、喜びを表明。

米国のトランプ大統領が就任して以来、オバマ政権時代には関係が悪化していた米国とサウジの関係が好転しました。逆に、トランプ大統領はイランとの核合意の破棄の可能性に言及。米国とイランの関係が急速に悪化する一方、サウジなどスンニー派諸国と米国との関係は改善に向かうとみられました。

ところが、ここに来た米トランプ大統領がエルサレムを首都と認定し、イスラエル寄りの姿勢を強めたため、スンニー派諸国も含めて、イスラム各国が米国に強く反発。その間隙をぬって、ロシアのプーチン大統領は、中東への関与を強めつつあります。イスラエルとパレスチナとの協議を仲介する意向も表明しており、米国に代わって中東の主役になるとの思惑も感じられます。

 写真2 プーチン露大統領とエルドアン・トルコ大統領

5. 原油価格は強含み

原油価格は、中国による資源の「爆買い」の終了、欧州などの景気後退、米シェールガスの開発などの影響で、14年夏から16年初めにかけて大幅に下落。16年2月末には1バレル=30.32ドルの安値を付けました(図表1参照)。

その後は、石油輸出国機構(OPEC)による生産調整などもあり、原油価格はやや上向いています。OPECとロシアなど非OPEC主要国は、11月30日に原油の減産措置を18年末まで8か月延長することで合意。世界原油市場の支配権を米国のシェール産業から奪い返す取り組みを継続することとしました。

 図表1 NYダウと非農業部門雇用者数増加

6. サウジの影響力低下、混乱継続か

これまで、サウジアラビアはイスラム教の二大聖地であるメッカとメディナを擁し、豊富な石油資源による経済力を背景として、中東の盟主を自任してきました。ただ、原油価格低迷による財政の悪化、ムハンマド皇太子による強行外交の行き詰まり、改革に対する国内保守勢力の抵抗などにより、改革が混乱しています。

米トランプ大統領による、イスラエルの首都エルサレムの承認により、米国の影響力が低下。ロシアが中東への政治的関与を強めようとしており、イランのイラク、シリアへの介入も拡大する傾向にあります。

今後とも、中東では政治的な混乱が続く可能性が高いとみられます。ただ、シェールガス開発などもあり、政治的混乱が原油価格高騰に結びつく可能性は低いとみられます。

 2017年を振り返る 平成29年12月15日

おはようございます。今年も残すところわずかになりました。2017年はまだ終わってはいませんが、ここで今年の経済、株式市場を振り返ってみましょう。

1. 米雇用が順調に拡大

17年には、世界的に株式市場が堅調に推移しました。それを支えた大きな要因が米国の堅調な雇用、またそれを背景とする米景気の順調な回復です。ここで、直近の米雇用統計、即ち11月の雇用統計を見ておきましょう。

米労働省は11月の雇用統計を8日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比+22.8万人(図表1参照)。雇用者数の増加は、市場予想の19.5万人を上回りました。失業率は4.1%と、前月から変わらず。米連邦準備理事会(FRB)は、労働市場がすでに完全雇用に近づいたとしており、12-13日開催の公開市場委員会(FOMC)で、追加利上げについて検討することとなります。

米雇用統計は、夏にはハリケーンの影響で大きく変動したものの、今回は影響が消滅しました。意振れ率の動向を占ううえで注目されている平均給与は前年同月比+2.5%と、前月の+2.4%から小幅加速。ただ、賃金上昇率が高まらない状況が続いています。

 図表1 NYダウと非農業部門雇用者数増加

2. 米FRBが利上げを継続

次に、米国の金融政策を見ておきましょう。米連邦準備理事会(FRB)は、2018年のリーマンショックとそれに伴う金融危機に対応すべく、07年に続いて08年には利下げを断行。米国の景気回復に伴い、量的緩和を終了、利上げに進みました。15年と16年にはFFレートの利上げは1回のみでしたが、17年には3回の利上げを行うものと市場では予想してきました。上記の通り、米国の堅調な雇用情勢がFRBによる利上げを後押ししています。

連邦公開市場委員会は(FOMC)、14日に市場の予想通りFFレートを+0.25%引き上げ。FOMCメンバーの金利見通しが注目されましたが、9月時点と変わらず年3回となりました。一方、成長率見通しは上方修正され、18年は+2.5%と、9月時点の+2.1%から引き揚げられています。インフレ率見通しについては、変化なく、コアCPIで+1.9%の見込みであるとしています。

 図表2 米FFレート

このように、米国の利上げはほぼ市場の予想通り進み、各国の株式、金融、為替市場に安心感を与えてきました。米イエレン議長にとっては、賃金の伸びが緩やかで、物価の上昇が想定通りいかなかった面はあるものの、成長率などはほぼ想定通りの1年になったと言えます。

3. 主要国の株価はほぼ堅調

一方、主要国の株式市場は、概ね堅調な1年となりました。特に米国の株式市場は力強く、昨年末と17年12月13日との比較で、+24.4%と大幅上昇。インドも、好調な景気などを背景に+24.2%の大幅上昇。その他、ブラジル、中国なども好調。ロシアは小幅下落となっていますが、景気は回復傾向にあります。

 図表3 日米BRICs諸国の株価騰落率

4. 時価総額上位銘柄

次に、世界の株式市場における時価総額上位銘柄はどうでしょうか。17年11月末で見ると、1位のアップル以下、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾント、米国のIT銘柄がずらり(図表4参照)。そのほかの銘柄も加えると、上位10社のうち、米国が8社を占め圧倒的な存在感となっています。

 図表4 世界の株式時価総額上位10社

さらに、テンセント、アリババの中国の2社が食い込んでいます。特に注目はテンセント。最近、一時はフェイスブックを追い抜くほどの株価上昇となっています。特に同社は香港市場に上場しており、中国本土の投資家からの買いも多いとみられます。電子決済により、テンセント、アリババの2社が大きく伸びているのは、注目すべき現象であると言えるでしょう。

さて、来年のことを言うと鬼に笑われるかもしれませんが、来年はどのような年になるでしょうか。そのあたりについても、機会を改めて考えていこうと思います。

 視界不良の南アフリカ経済 平成29年12月8日

おはようございます。南アフリカ経済の現状を見ます。

1. 10月CPI上昇率は+4.8%に減速

南アフリカ統計局は11月22日に、10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+4.8%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+5.1%から減速。

17年6月まで、インフレ率は南アフリカ準備銀行(中銀)の定める目標値である+3〜6%を上回って推移していました。4月には+5.3%に低下し、その後も準備銀行の目標値に収まっており、インフレ圧力が低下。

 図表1 南アフリカのCPI前年同月比上昇率

2. 政策金利を引き下げ

南アフリカ準備銀行(中央銀行)は7月20日開催の金融政策決定会合で、政策金利であるレポレートを▲0.25%ポイント引き下げ、6.75%にすると発表。市場予想は据え置きで、予想外の引き下げとなりました。

 図表2 南アフリカの政策金利

準備銀行は、インフレ率と通貨ランドの下落を抑えるため14年以降16年上旬にかけて、政策金利を引き上げました。その後は、商品市況の上昇一服や国内の景気後退などにより、政策金利を17年7月下旬まで据え置いていました。

3. 7-9月期は+2.0%

一方、南アフリカ政府統計局は12月5日に、7?9月期国内総生産が前期比年率季節調整済みで+2.0%になったと発表(図表3)。市場の予想の+1.5%から上振れ。今年4-6月期の+2.8%から減速したものの、2四半期連続でプラス成長となりました。

さらに落ち込みました。GDP伸びに最も大きく寄与したのは農業・森林・漁業で、主に農産品の増大が寄与しました。

 図表3 南アフリカの四半期成長率(前期比年率)

4. 政治情勢

このように、直近2四半期ではプラス成長を確保したものの、昨年10-12月期と今年1-3月期に連続のマイナス成長を記録しています。通貨ランドも長期的に下落傾向にあり、南アフリカの経済の実態はあまり改善されていないと言えます。

経済の低迷の大きな原因が、政治の混乱。同国では、黒人が政権をとって以来、アフリカ民族会議(ANC)が実権を握ってきました。特にここ数年はズマ大統領が独裁色を強め、批判を集めてきました。

特に今年3月末には、それまで改革を進めて期待を集めてきたゴーダン前財務大臣を事実上更迭。与党ANC内部からも公然と批判が出るなど、ズマ大統領への批判が高まっています。さらに、今年7月6日には、与党ANCが準備銀行(中銀)の国有化に向けて動き出すなど、政治の混乱が続いています。

ゴーダン氏の更迭を受けて、米国の大手格付け機関であるS&Pは、4月3日に南アフリカの格付けと「BBB-」から「BB+」、即ち投資不適格債に引き下げました。英米系フィッチも同様に投資不適格に引き下げました。ムーディーズは唯一投資適格としているものの、見通しはネガティブとしており、引き下げの可能性があります。

5. 為替と株価

ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、南アフリカは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。その後も弱含み、16年にも対ドルで一貫して下落。

今年に履いてからは3月初めにかけて大きく下落、その後には反発。9月頃まで軟調に推移し、その後はドルの下落もあり、上昇しました。通貨ランドは乱高下と繰り返しているものの、やや底入れの兆しも出てきました。(図表4参照)。

 図表4 南アフリカ・ランド(ZAR/USD)

株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、13年から14年春にかけて上昇。その後ほぼ横ばいで推移し、17年初頭より上昇。資源価格は依然として軟調であるものの、米国の景気が堅調であること、海外の投資家の資金が戻りつつあることなどが下支えとなっています(図表5参照)。

 図表5 FTSE/JSEアフリカ全株指数

6. リスク要因と課題

まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。ただ、投資家のリスク許容度の高まりなどにより、米国の利上げが直ちに南アフリカの株価下落に結びつくとも言えません。

最大の問題は、政治の状況。ゴーダン前財務相の更迭により、金融市場も混乱し、ズマ大統領自身やその周辺に対する汚職の疑惑もあります。今年12月には2019年に予定される大統領選に備えて、党首選が行われる予定。

ラマポーザ副大統領と、ズマ大統領の元妻で南アフリカ連合(AU)委員長のドミラニ=ズマ氏の2人の名前が挙がっています。ズマ大統領とドミラニ=ズマ氏の2人は離婚後も環形が良好であるとされ、もし同氏が次期党首となれば、金権政治からの脱却は難しいとみられます。

このような状況と踏まえると、南アフリカの本格的な景気の立ち直りは当面、困難である可能性があります。

 インド経済の展望 (4) リスク・課題 平成29年12月1日

おはようございます。前回の物価、金利、四半期成長率、為替、株価に続いて、今回はインド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレ懸念が後退

インドにおいは、長期間にわたり、インフレ率抑制がインド準備銀行(中央銀行)大きな課題となってきました。現在は消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が、中銀にとってのインフレ目標となっています。昨年9月にラジャン総裁が退任したことに伴い、ウルジット・パテル副総裁が昇格。同新総裁は、インフレ目標である+4%±2%を引き継ぎました。ただ、緩やかに解釈していると見られます。

インド統計局が11月13日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.58%(図表1参照)。インフレ率は引き続き低い水準にとどまっており、インド経済にとっては今のところ余りリスクにはなっていないと考えられます。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では14年に国内総生産(GDP)比▲1.3%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 付加価値税(GST)を導入

インドでは税制が非常に複雑であり、それがインド経済の発展を阻害してきた1つの大きな要因です。インドでは税体系が非常に複雑なうえに、日々の通達で規則や税率が頻繁に変更されます。こうした事態を打開するために導入されたのが付加価値税(GST)。

インドでは、物を作ろうとすると、部品、原料の輸入、出荷、製品販売などの各取引に際して、輸入関税、物品税、サービス税、州付加価値税、中央売上税など様々な間接税が課されてきました。

付加価値税(GST)が7月に導入されたことにより、17種類にも及ぶ間接税が一本化され、州を超える販売に対して課される税金も相殺可能となりました。GSTは5%、12%、18%、28%の4段階からなっており、18%が標準税率となっています。

食品を含む必需品にはゼロ税率を適用。大量消費製品や庶民向けの製品は5%。主なサービスは18%、家電製品やたばこや、炭酸飲料などは28%というように、物品やサービスの種類によって、適用される税率が異なっています。

5. インフラ整備が進展

インドでは、道路、鉄道、空港などのいわゆるインフラ(社会的基盤)の整備が遅れており、発展の阻害要因になっていると言われてきました。ただ、インフラ整備はモディ政権になってからは、4倍の速度で進んでいると言われます。

特に、電力については急速に改善。以前は1日に2-3時間の停電は頻繁に起きていましたが、現在では予備の発電機を遣うことがほとんどないという工業団地も現れています。日本企業が拠点を構えている地域でも、停電についてはかなり改善している模様。

 写真1 鉄道建設が進む北部ウッタル・プラデシュ州ラクノー

欧州系格付け機関大手フィッチ参加のBMIリサーチによると、インドのインフラは無効5年間で、年平均+5.9%拡大し、成長が加速する見込み。鉄道や道路といった輸送インフラ整備を推進するインド政府が、同分野への予算増加を図っていることなどが要因。

6. 労務問題

労務問題についても、注意が必要。数年前にはマルチ・スズキで死者が発生する深刻な労務問題が起きました。マルチ・スズキの生産が一時停止し、業績にも悪影響を及ぼしました。このような深刻な労働争議は減少しているものの、今後も労働問題の発生のリスクは残ります。

インドの労働法は、連邦政府が制定するものだけでも50以上あり、さらに州議会が独自に制定するものもあります。そのため、労働法自体を理解するのが難しいと言えます。さらに、正規社員と派遣社員の待遇格差、政治色の強い労働組合の影響もあります。

共産党系の過激な労働組合に労働者が扇動されることもあり、宗教やカーストなども関連するため、日本企業など外資系企業にとっては、対策が難しくなっています。就業規則の整備、対話の促進などにより、労働組合を良好な関係を作ることが重要となります。

5. インド経済の展望

インドではモディ政権による税制、法制度の改革、インフラの整備が進展しており、今後は製造業の発展も待たれます。国内における一部宗教的な対立、テロの危険性もあるものの、社会全体としては、不安定な要因は沈静化しつつあります。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き、新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

 インド経済の展望 (3) インド経済の展望 平成29年11月24日

おはようございます。前回はインドの政治について見ました。今回は物価、四半期成長率、株価などを見ます。前回の政治に続き、今回は物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が11月13日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.58%(図表1参照)。前月の+3.28%から加速。市場予想の+3.46%からも上振れ。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 4-6月期成長率+5.7%に減速

続いて、インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比+5.7%(図表2参照)。前期の同+6.1%から減速し、13四半期ぶりの低水準。新税導入を7月に控え、企業が在庫処分に動き、消費も伸び悩みました。今後、在庫回復が進み、景気が緩やかに回復するとの見方もある一方、+7%台とされる潜在成長率を通年で達成するのは困難であるとの見方もあります。

14年に発足したモディ政権下で、成長率が+6%台を割り込むのは初めて。成長率減の主な要因は+6.7%にとどまった個人消費の伸び悩み。各州でばらばらだった間接税を集約する「物品サービス税」(GST)導入を前にして、混乱が響きました。

新税の導入により、7月1日前に仕入れた商品を導入後に販売すると、納税負担が増大するため、小売店などは5-6月に在庫を処分。値下げ販売で対応した企業もあるものの、6月の売り上げが急激に減少した小売店もありました。

 図表2 インドの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を維持

他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は10月4日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを6.00%で維持することを決定(図表3参照)。同行は、リバースレポ金利も現状通り5.75%、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りる債のMSFの金利も6.25%で据え置き。同行は前回8月の会合で、主要政策金利を16年10月以来10か月ぶりに▲0.25%ポイント引き下げていました。

 図表3 インドの政策金利

RBIは会合後に発表した声明文で、政策金利の現状を維持した理由について、「前回会合字からCPI(消費者物価指数)で見たインフレ率が2ポイント加速した」とし、インフレ上振れリスクが高まったことを挙げています。

4. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落。17年初頭からは小幅反発。16年12月末から17年10月迄に、+4.7%の小幅反発。インドはかつて「脆弱5か国」とされ、財政赤字および経常収支赤字が懸念されました。そのため、インド・ルピーはドルなど主要通貨に対して、継続的に下落してきました。

一方、株価は代表的な株価指数であるSENSEX30で見ると、12年初めから15年初めにかけて順調に上昇。15年初めから16年2月にかけて調整したものの、その後は再び力強く上昇。16年末から17年10月末までのSESEX30の情率は+26.5%と好調。

 図表4 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

17年初めからの株価上昇率を見ると、インドをはじめとする新興国の株価上昇率は先進国のそれを大幅に上回っています。ただ、今後は米連邦準備理事会(FRB)が1月にも利上げする可能性が高いとみられます。米国の金融政策の動向によっては、株価が一時的に調整局面を迎える可能性もあります。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

 インド経済の展望 (2) インド経済の展望 (2) 政治 平成29年11月17日

おはようございます。前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ氏が改革を推進

14年5月16日に行われた総選挙では、ナレンドラ・モディ氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝。543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得。グジャラート州首相のモディ氏(63)が首相に就任。BJPを中心とする野党連合は、336議席を獲得しました(図表1参照)。

一方、これまで2期にわたり政権を担ってきた国民会議派は44議席で、同党を中心とする与党連合の統一進歩同盟は60議席にとどまり、過去最悪の結果。このほか、地域政党他が137議席となりました。シン前首相は、モディ氏とBJPの勝利を称賛。モディ氏は「インドの勝利だ」と述べました。

 図表1 下院の党派別議席数

一方、上院ではBJPは連立を組む政党と合わせても3割に満たず、少数派にとどまっています(図表2参照、議席数は14年5月時点)。BJPが上院に法案を提出しても、国民会議派など野党の執拗な抵抗にあい、可決に足らないケースが相次いでいます。

上院は、州議会による間接民主制に基づいています。 BJPは下院では過半数を占めているものの、州議会レベルでは、少数派にとどまっていることが少なくありません。また、14年5月の総選挙後も、BJPは地方選挙で必ずしも勝利を収めていません。たとえば、15年11月に行われた東部ビハール州議会選挙ではBJPは30議席減らして58議席にとどまり、国民会議派など反BJP連合の178議席に対して、大敗しました。

 図表2 上院の党派別議席数(14年5月)

2. 17年州議会選挙で与党BJPが勝利

17年2月に始まったインド5州での議会選挙は3月9日に締め切られ、11日に開票結果が公表されました(図表3参照)。

与党であるインド人民党(BJP)は、5州合計690の定数に対して、前回獲得数の2倍以上となる421議席を獲得。インド最大の人口を抱えるウッタル・プラデシュ州では、403の定数の過半数を大きく上回る312議席を獲得。州議会による間接選挙で選ばれる上院への影響も大きく、BJPの上院における議席数増大に道を開きました。

 図表3 5州の議会選挙でのBJP獲得議席数

3. 14年5月政権誕生後の主な改革

モディ首相就任後の主な改革において、統治機構改革については、首相府の権限強化、閣僚数の削減、インド改造評議会の創設など。

投資環境の整備については、外資規制の緩和、具体的には鉄道インフラの100%開放、建設について面積、投資金額などの要件を緩和、保険の出資比率の引き上げ(26%→49%)。労働改革としては、各種許認可申請のオンライン化、工場査察プロセスの透明化、従業員積み立て基金(EPF)の統一番号化など。

インフラ整備に関しては、有力大臣を配置し、既存の案件を点検。インフラ工事の進み具合は、前政権の4倍に加速。Sagara Malaプロジェクトの導入により、主要港湾開発に注力。製造業の振興を保管。

4. 高額紙幣を廃止

モディ首相は上記のような改革を進め、その後は大きな変化がなかったものの、16年11月に突然高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用禁止を発表。これらの高額紙幣は汚職や脱税に利用されて来ており、不正な隠し資産を補足しようとの狙いがあります。

11月8日までは、主に富裕層が高額のマンションや金など宝飾品の購入、海外旅行、豪華な結婚式に不正蓄財を利用し、経済の活性化にも繋がっていました。政府は高額紙幣の使用を禁止し、12月30日までに銀行に持ち込まない限り、2紙幣は単なる紙切れになると発表したため、社会が大混乱に陥りました。

これにより、高額商品のうち特に自動車販売が低迷。昨年11月は前年同月比▲0.6%の伸びにとどまり、12月も▲2.1%。ただ、17年には1月が+11%、2月も+9%と回復傾向。その後も増加傾向にあり、17年10月には34万9630台へと拡大。

 図表4 インドの新車販売台数

3-4月以降、貨幣流通量も元に戻る傾向にあります。さらに、高額紙幣の廃止により、電子決済が普及。街中の小規模な商店でも、スマートフォンを使って電子決済が普及。販売側は小銭を用意する必要がなくなり、消費者も現金の持ち合わせがなくても買えるようになりました。

インドは元来、現金による支払いを基本としていきました。グーグルの調査によると、15年のインドでは、決済の8割が現金で行われたとされています。高額紙幣の廃止により、中央銀行の統計によると、市中の紙幣流通額は16年10月の17.5兆ルピー(約33兆円)から翌年1月にかけて、10兆ルピー以下へとほぼ半減。

一方、電子決済額は高い伸びのとなりました。特に16年8月に導入されたUPI(Unified Payment Interface、スマートフォンのアプリケーションで、銀行間送金・決済を行えるシステム)による決済額は、紙幣流通量が急激に減少した時期に、ほぼ20倍の規模に成長。同年12月には、インド最大手の電子決済プラットフォームであるペイティーエム(Paytm)が、国の管理する高速道路料金の支払いに利用できるようになりました。電子決済を受け入れる企業、組織も急増。

5. 与党と大統領のねじれ解消

17年7月17日に行われた大統領選では、与党BJPが推薦したコビンド氏が当選。インドの大統領は儀礼的存在であるにすぎないものの、議会審議が糾弾した際には大統領令で切り抜けることが可能。

ムカジー大統領は国民会議派政権時代に選出されたため、モディ政権とは「ねじれ」状態にありました。大統領は上下両院と地方の州議会議員による間接選挙で選出されるため、政権与党の意向に左右されやすい傾向にあります。与党BJPは上院では依然として少数派であるものの、議会運営はやりやすくなるものと予想されます。

6. インドの外交

モディ政権の最大の成果は外交と言われるほどで、37か国を回り自ら投資を誘致してきました。日本との関係では、新幹線と原子力協定により、更に関係性が高まる見込み。

懸念としては、米トランプ大統領が、H-1Bビザの発給を廃止すると発言していること。インドのIT産業は5-6割を米国に輸出し、そのサポート、保守のために技術者を米国に送り込んできました。H-1Bビザの発給が停止されると、このビジネスモデルが成り立たなくなります。

中国に対しては是々非々の態度をとるとみられます。領土問題はあるものの、中国からの電子機器などの投資は進める構え。パキスタンとの関係には、やや改善の兆しもあります。そのほか、バングラデシュ、スリランカとの関係についても、改善の努力をすると見られます。

中国との対立は、高まる可能性もあります。中印両国は17年6月以降、インド、ブータンが国境を接する領土係争地である「ドクラム高地」でにらみ合いを続け、62年の中印国境紛争以来の武力衝突になる危険性がありました。

インド外務省は、8月28日に両政府が部隊を「即時撤退」させることで合意したと発表。中国政府は、同地帯での「領有権の行使を続ける」とし、中国軍がドクラム高地での警備を続ける方針を示唆。このほか、両国は中国が進める「一帯一路」に関しても対立を深めています。両国の対立により、南アジアにおける地政学的リスクが高まることも考えられます。

次回は、物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見る予定です。

 インド経済の展望 (1) 人口と発展段階 平成29年11月10日

おはようございます。インドの世界経済における存在感が高まっています。インド経済の課題と展望を見ていきます。

1. インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想)

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2. 成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は17年10月に発表した世界経済見通しの報告書で、18年のインドの成長率予想を+7.3%として、中国については+6.5%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、14年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2017年で見ると、IMFの今年10月のデータで、米国が59,495ドル、日本が38,550ドル。また、ロシアが10,248ドル、ブラジルが10,019ドル、中国が8,582ドルであるのに対して、インドは1,852ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2017年)

4. 4-6月期成長率+5.7%に減速

インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比+5.7%(図表5参照)。前期の同+6.1%から減速し、13四半期ぶりの低水準。新税導入を7月に控え、企業が在庫処分に動き、消費も伸び悩みました。今後、在庫回復が進み、景気が緩やかに回復するとの見方もある一方、+7%台とされる潜在成長率を通年で達成するのは困難であるとの見方もあります。

14年に発足したモディ政権下で、成長率が+6%台を割り込むのは初めて。成長率減の主な要因は+6.7%にとどまった個人消費の伸び悩み。各州でばらばらだった間接税を集約する「物品サービス税」(GST)導入を前にして、混乱が響きました。

新税の導入により、7月1日前に仕入れた商品を導入後に販売すると、納税負担が増大するため、小売店などは5-6月に在庫を処分。値下げ販売で対応した企業もあるものの、6月の売り上げが急激に減少した小売店もありました。

 図表5 インドの四半期成長率(前年同期比)

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

 底堅いトルコ経済 平成29年11月3日

おはようございます。11月3日は文化の日、皆様いかがお過ごしでしょうか。このところ底堅い、トルコ経済について見ておきましょう。

1. 9月CPI上昇率は+11.2%に加速

トルコ統計機構(TUIK)は10月3日に、9月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+11.2%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.68%から加速しました。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

2. 政策金利を据え置き

一方、トルコ中央銀行は10月26日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「翌日物貸出金利」を9.25%で維持(図表2参照)。据え置きは4回連続で、市場の予想通り。そのほか、1週間物レポ金利、翌日物借入金利もそれぞれ、8.00%、7.25%で維持しました。 中銀は声明で、「インフレ見通しが大幅に改善し、目標と一致するまで、引き締めの金融政策を断固維持する」としました。

 図表2 トルコの政策金利

3.  4-6月期は+5.1%

他方、トルコ統計局が9月11日に発表した17年4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+5.1% (図表3参照)。今年4-6月期の+5.2%(改定値)からはやや減速。信用保証基金の拡充による融資の拡大など政府の景気刺激策が功を奏しました。

 図表3 トルコ四半期成長率(前年同期比)

GDPの6割を占める個人消費は+3.2%で前期並みの伸び率を確保。減税措置を導入した家電成否の販売が好調。最大の貿易相手である欧州連合(EU)の景気回復により、輸出は+10.5%と好調でした。

4. 権威主義的傾向強めるエルドアン政権

トルコでは、昨年7月15日に、軍の一部によるクーデター未遂事件が発生し、それを受けて21日に非常事態が宣言されました。エルドアン大統領は、米国に亡命中のイスラム運動指導者のギュレン師を首謀者と断定。ギュレン師は関連を否定しているものの、国内の公務員、国立・私立教員、マスコミ関係者など多数を逮捕・拘束。公務員を大量に公職追放処分するなど、大規模な粛清を展開しました。

さらに、今年4月には従来は「儀礼的存在」であるとされてきた大統領の権限と強化することを柱とする憲法改正にためのっ国民投票を実施。国民の過半数の賛成を得て、憲法を改正し、エルドアン大統領への権限の集中が一層進みました。

隣国のシリアおよびイラクでは、IS(「イスラム国」)を相当するために、米国などと強調して軍事活動を展開。ISはほぼ壊滅できたものの、イラク北部のクルド人自治区を中心として、クルド人の勢力が強まっています。トルコは国内では武装組織であるクルド労働者党(PKK)と戦闘を行う一方、国内ではクルド人によるテロ事件も頻発しており、治安は不安定さを増しています。

米国は、ISの壊滅を進めるうえでも、クルド人勢力に接近。米トランプ政権はイランとの対決姿勢を強めています。エルドアン政権による強権的な政治手法をEU(欧州連合)が批判していることから、トルコとEUの関係が悪化。間隙をぬってロシアがトルコおよびイランに接近。中東の政治情勢は、混迷の度合いを強めています。

5. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-16年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。経常収支、財政収支の赤字が縮小する兆しがなく、米国の利上げ、新興国からの投資家の資金の引き上げが影響しました。

17年1月には1ドル=3.78リラへと大きく下落。ただ、その後はドル安もあり、8月には同3.45リラに回復。その後は再び下落して、10月には同3.79リラとなりました。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は14年には上昇傾向にあったものの、商品市況の悪化などで投資家が新興国から資金を引き上げる動きを強め、15-16年には軟調な展開。ただ、トルコ国内の政治の安定、景気の回復、海外の投資家の資金が新興国にやや回帰したことなどから、昨年11月以降には大幅に上昇しました。

6. リスク要因と課題

米ドルの下落により、通貨リラは対ドルでは底入れの傾向にあるものの、ユーロ高により、ユーロに対しては引き続き下落。輸出に押し上げ圧力がかかり、景気にも好影響を与えています。ただ、国内の景気は、税の軽減措置、公共投資によって支えられている面が強く、内需に力強さが欠けています。財政出動によりインフレ率が高止まりし、財政赤字も拡大。輸入の拡大意より、経常収支も悪化。

それに加えて、トルコではエルドアン大統領による粛清が継続しており、それに反発したクルド人勢力などによるテロも頻発。観光業に打撃を与え、国内の消費低迷の一因ともなっています。引き続きエルドアン大統領による独裁的な政権が続く可能性が高く、対外的な摩擦の高まりも考えられます。通貨は対ドルではこのところ安定しているものの、引き続き相場環境に左右されやすい展開になると予想されます。

 薄日射すブラジル経済 (5) 課題・リスク・株価 平成29年10月27日

前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 貿易が低迷

前回ご報告の通り、16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ただ、今後も外需に期待するのは難しい情勢。中国は輸出・設備投資主導の経済から消費など内需主導の経済への転換を図っています。そのため、中国がかつてのような資源の「爆買い」をしてくれる可能性が低く、鉄鉱石、原油などブラジルの資源の輸出が伸びるのは余り期待できません。また、通貨レアルは嘗ての水準よりは低いものの、現在程度の水準では、輸出競争力の回復にはつながらない見込み。

2. バランスシート調整が進行

ブラジルでは、バランスシート調整が進行しており、特に住宅価格が低迷。住宅価格は15年頃から下落に転じ、16年9月には前年比▲15%の下落。当時のインフレ率は+8%程度であったため、実質的には▲20%程度の下落となります(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの住宅価格

さらに、信用収縮(クレジットクランチ)も進行。銀行貸出癌減少に転じており、特に企業向けは▲7%まで低下。インフレ率を考慮すると、実質ではさらに減少していることになります。

3. 財政収支改善に遅れ、政治的混乱は収束の方向

第3回でご報告の通り、プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。財政収支改善が遅れています。

ただ、これも第3回でご報告の通り、テメル新政権になってから、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。財政赤字は15-16年に大幅に拡大したものの、今後は小康状態となる可能性があります。

州政府の財政も悪化しており、連邦政府よりも深刻。27州のうち26州が危機的状況にあります。特にリオデジャネイロのあるリオ州は大幅な赤字。リオの沖合にプラソルトの海底油田があり、その石油収入に依存しています。原油価格低迷がマイナス要因。州の財政の悪化により、市民へのサービスが低下しており、市民の反発の可能性があります。

全体として、政治的混乱は収束の方向にあります。テメル大統領の支持率は5%前後と、非常に低いものの、社会保障制度改革などによる財政の健全化、労働改革、インフラ投資の推進などを行っています。ルセフ前大統領と異なり、ばらまき政策をやめて財政健全化を図り、市場寄りの政策をとっています。

財務大臣には、嘗てインフレを抑制し、比較的高い経済成長を実現したメイレレス元ブラジル中銀総裁が就任。同氏は大臣就任後の記者会見で、政府債務の抑制、財政収支均衡化に向けた新たな課税措置、年金制度を含めた社会保障制度改革に取り組む姿勢を示唆。

ただ、ブラジル政府は8月15日に、17年の財政赤字が当初改革から+14%の拡大になると発表。財政規律を重視するテメル大統領は、増税による歳入不足分の穴埋めを狙いましたが、与党議員の抵抗により撤回。テメル氏は、放漫財政を防げるかどうかの瀬戸際に立たされています。

4. インフレ率が安定

インフレ率は、比較的低水準を維持しています。ブラジル地理統計院は10月6日に、9月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)が、前年同月比+2.54%になったと発表(図表3参照)。市場予想の+2.47%を上回り、前月の同+2.46%から加速し、13か月ぶりの加速となりました。ただ、インフレ率は、前月比では伸び率がやや加速したものの、依然としてかなり低い水準にとどまっています。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルはインドなどと主に「脆弱5か国」とされ、通貨は対ドルで大きく下落。14年に入ると、新興国の経済に対する警戒感が後退したことから、6月末には1ドル=2.204レアルにまで回復。

ただ、利上げ打ち止めや、景気の後退により、年の後半には対ドルで再び大きく下落。15年に入ってからも米連邦準備理事会(FRB)による利上げの予想、中国の景気減速とそれに伴う資源価格の下落により、通貨はされに大きく下落。16年1月末には1ドル=3.99レアルまで急落(図表4参照)。

16年2月以降には、資源価格の反発、市場から距離を置いていたルセフ前大統領の退任の観測などにより、大きく上昇。17年2月末には同3.10レアルまで回復。その後レアルは小幅上昇し、16年末から9月末までに+2.75%と小幅上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価はルセフ政権の支持率低下、新興国の経済に対する投資家の不安の後退により、14年に入って堅調に推移。昨年末から今年8月末まで、ボベスパ指数は+18.9%の大幅上昇。ただ、その後は景気後退などにより株価は下落に転じ、14年末には前年末との比較で▲2.9%と小幅下落。

15年に入ると4月まで株価は持ち直す傾向にあったものの、米FRBによる利上げの予想及びそれに伴う投資資金流出の懸念、景気の後退などにより、株価は軟調に転じました。16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントまで大幅に下落。

その後は、為替と同様にルセフ前大統領の退陣、政策が市場寄りになるとの期待、資源価格の回復などにより、株価も大きく反発。ボベスパ指数は15年12月末と比較すると、+23.35%の上昇。

6. 展望

米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、16年1月頃までは海外の投資家がブラジルから資金を引き上げる動きを見せていました。米国の景気が堅調であること、資源価格の回復、新興国の株価の割安感の台頭などにより、特にブラジル、ロシアなど一部の資源国には投資家の資金が戻りつつあります。

ブラジルの景気、輸出は資源価格に大きく依存する面がありますが、原油価格は16年に回復したものの、17年に入ると石油輸出国機構における増産の動き、米国のシェールガス増産などにより価格上昇が一服。鉄鉱石価格は16年初めには、対日輸出価格が1-3月期にトンあたり47ドルであったものが、17年4-6月期には同77.5ドル程度まで上昇。7-9月には66.8ドルまで反落。中期的には、資源価格はやや安定してきた感もあります。

国内の景気は底入れの様子を呈しており、メキシコなどと異なり、米トランプ政権との大きな対立も今のところありません。株価、為替については、引き続き堅調に推移することも考えられます。

 薄日射すブラジル経済 (4) 貿易・政治 平成29年10月20日

前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 16年に輸入が大きく減少

16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。ただ16年初頭以降にはやや反発し、直近では同53.3ドル程度まで回復しています。

ただ輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。原油価格はやや回復したものの、米国のシェールガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。

さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 小政党が乱立するブラジル議会

ブラジルの議会政治の大きな特徴の一つは、少数政党が分立しているため、議会で安定した多数を形成するのが難しいということがあります。政党が細分化されているうえ、定見がなく勝ち馬に乗ろうとするコバンザメ的・日和見主義的な政党が多く、連立政権ができてもその性格・政策があいまいになる傾向があります。

テメル大統領出身母体で最大議席を占有しているPMDBでさえも、議席占有率は約13%にすぎません(図表2参照)。ルセフ前大統領の出身母体で16年8月まで政権与党であったPTは、低所得層や労働者など非エリート層に支持された左派政党であり、かつてはエリート層が支持する政党に選挙で勝てませんでしたが、ルーラ元大統領が2002年の大統領選で当選し、政管と獲得しました。

ルーラ元大統領は、ストライキの指導者として知られ、与党に対してはなんでも反対、という姿勢をとっていました。ルーラ氏の後継者のルセフ前大統領は、過激な学生運動をこない投獄された経歴を持っています。ルセフ前大統領の弾劾以降は、少数政党が離れていきました。

 図表2 ブラジル下院における各党議席占有率(2016年)

3. 当面の政治的混乱を回避

6月9日に、選挙高等裁判所(TSE)が、2014年大統領選挙の不正資金使用疑惑に関する裁判で、ジルマ・ルセフ前大統領と、テメル副大統領(いずれも当時)の当選は有効であるとの判決を下しました。

6月12日には、最大の連立パートナーであるブラジル社会民主党(PSDB)が、連立政権の支持、離脱を決定する会合を開催。大物上院議員ジョゼ・セーラ氏がPSDBは連立政権を離脱しないと、記者団に語りました。

8月2日には、テメル大統領の収賄罪に係る検察の最高裁への起訴に関して、議会下院は本会議での採決において、大統領の起訴を否決(写真1参照)。テメル氏は、来年10月における大統領選には出馬しないと表明しています。

 写真1 首都ブラジリアで演説を行うテメル大統領(8月2日)

4. テメル大統領の政策により景況感が改善

テメル大統領の支持率は5%前後に低迷しているものの、同大統領が率いるブラジル民主運動党(PMDB)は、改革による積極的な成長路線を推進。インフラ投資、財政の健全化により、景況感が改善。

昨年12月には、歳出上限に係る憲法改正案が議会で成立。さらに、同月に議会に提出された労働改革法案も今年7月に成立。猶、今年2月に審議が開始した、年金制度を含む社会保障制度改革に係る憲法改正案の行方が注目されています。

具体的な政策としては、コンセッション方式により、インフラ投資を促進。コンセッション方式とは、ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられた上で行われる事業方式を指します。

さらに、歳出(国債利払い費を除く)の前年比伸び率を前年のインフレ率以下に抑える、歳出上限を導入。また、社会保障制度も改革。年金受給開始年齢の引き上げ、恩給受給額や資格の見直しを推進。年金を含む社会保障し江戸改革に係る憲法改正案を議会で審議。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

 薄日射すブラジル経済 (3) 財政収支など 平成29年10月13日

前回は最近の景気動向、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などを見ます。

1. 財政再建へ憲法を改正

ルセフ前大統領は昨年8月に罷免となり、暫定政府で大統領代行をしていたテメル副大統領が9月初めに正式に大統領に就任。同氏はブラジル民主労働者党(PMDB)の党首。PMDBは下院の第一党であるものの、下院定数513議席のうち、68議席しかありません。ブラジル議会は少数乱立で与党は11政党の連立。小政党は理念で結びつくというよりは、人脈・地位で合従連衡を繰り返しているに過ぎないと見られます。そのため、テメル政権が抜本的に財政再建を行うのは難しいとの予想もありました。

ところが、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。憲法改正には60%以上の賛成が必要で、しかも上下両院で二度可決が必要。11月には下院で65%の賛成となり、12月には上院でも修正せずに可決。ペトロブラス(国営企業)を舞台とする汚職事件に関連して、検察官による議員への訴追を軽減する法案が同時に審議されており、そちらにばかり注目が集まっていたことが一因とみられます。

2. 財政収支改善に遅れ

テメル政権は構造改革を進めているものの、最優先課題である財政再建は遅れています。プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。13年は1.7%で、財政責任法(00年施行)に定める黒字目標の2.3%を下回りました(図表1参照)。15年には▲1.9%となり、税収の下振れを反映。財政収支も同様に悪化。国際通貨基金(IMF)では以前には、15年以降に基礎的財政収支(プライマリー・バラン)が改善すると予想していましたが、実際には16年に▲2.5%へと悪化。17年には▲2.4%、18年には▲2.3%へと徐々に改善する見込み(IMF17年10月時点予想)。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP)

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で38.2%図表2参照)。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。ブラジルでは、従来、公務員の数か多すぎると言われてきましたが、ルセフ氏までの左派政権が大盤振る舞いをしてきました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

3. 格付けの低下リスクは後退

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。見通しを引き続き「ネガティブ」としました。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、その時点よりも「成長見通しが弱まっている」として、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

財政見通しは悪化しているものの、政局の安定を受けて、短期的な格下げのリスクは後退。S&Pは、ブラジル国債について17年8月15日にクレジット・ウォッチ・ネガティブの指定を解除。今後は、歳出上限の実効性を確保する上で欠かせない年金改革の成否が、格付けの方向性を考えるうえで重要性を増すことになりそうです。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

4. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

13年には債券投資に関わる金融取引税の撤廃、大幅利上げで回復しつつあったものの、米量的緩和の縮小(テーパリング)により、流出超に転じました。米金融政策の落ち着きなどにより、ブラジルでは株価が回復。それに伴い証券投資も落ち着きを取り戻しました。

そのため、資本収支の安定のためには、直接投資(FDI)の持続性が問題となります。11年以降、経常収支赤字を補う形で、対内直接投資(FDI)が堅調に推移。13年の対内直接投資は前年比▲18.5%と、2年連続で2桁減少。エネルギー、自動車、交通関係は堅調ですが、2桁の大幅減少となった業種も多く、業種ごとの選別が強まっています。

13年にはブラジルは、インド、トルコなどともに「脆弱5か国(fragile 5)」と位置付けられ、財政収支・経常収支の赤字が問題とされました。そのような脆弱性により、証券投資の資金が国外に流出し、通貨、株価の下落リスクが高いとされました。実際、ブラジルからは大きな資金流出。海外の投資家によるリスク回避の動きにより、証券投資は不安定になりました。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。政府部門の赤字の改善のためには、公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革が必要であると、従来言われてきましたが、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されます。

17年2月にはエネルギー改革として、ローカルコンテンツ規制の緩和が発表されました。すなわち、設備等の国内調達率を約半分に引き下げており、今後もテメル政権により、エネルギー関連の投資が増大する可能性があります。

 図表5 主要国・地域のISバランス

16年には、原油など資源価格が回復傾向を示しました。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えており、中国の粗鋼生産も回復する兆しがあります。鉄鉱石、銅などの価格もやや反発しました。ただ、シェールガスの開発、石油輸出国機構(OPEC)において、イラン、リビアなどが増産したことにより、原油価格は伸び悩んでいます。IMF(国際通貨基金)によると、ブラジルの経常収支は、17年以降再び悪化する見通しとなっています。

次回は貿易、政治などを見る予定です。

 薄日射すブラジル経済 (2) 最近の景気 平成29年10月6日

おはようございます。前回は成長率、1人当り国民所得などを見ました。今回は、最近の景気動向、物価、金利などを考察します。

1. 消費に持ち直しの動き

ブラジルでは、過去2年に亘ってマイナス成長が続くなど、長期的な低迷が継続。ただ、今年4-6月期には国内総生産(GDP)成長率の伸び率が鈍化したものの2四半期連続のプラス成長。長年にわたって成長を牽引してきた個人消費がプラスに転じました。

4-6月の個人消費が拡大に転じた背景には、物価の安定による中央銀行が利下げする環境が整っていることに加えて、3月から政府が金属危険保障基金(FGTS)の引き出し解禁に踏み切ったことにより、多くの家計で一時所得が拡大したことが影響しています。

前期には成長率を押し上げた在庫の積み増しは、4-6月期にはマイナスの寄与となるなど、在庫調整も進んでいるとみられます。したがって、4-6月期にはGDP(国内生産)伸びは鈍ったものの、景気は回復に向かいつつあると考えられます。

2. 鉱工業生産が回復

ブラジル地理統計院が10月3日に発表した9月の鉱工業生産は、前年同期比+4.0% (図表1参照)。市場予想の+4.8%からは下振れしたものの、前月の+2.5%からは加速。原油価格の安定などが影響しました。

 図表1 ブラジルの鉱工業生産(前年同月比)

3. 小売売上高も回復

上記の通り、消費も回復傾向にあります。ブラジル地理統計院が9月12日に発表した8月の小売売上高は、前年同期比+3.1%(図表2参照)。前月の+3.0%からやや加速。市場予想の+3.5%からは下振れしたものの、消費の堅調さが定着しています。

 図表2 ブラジルの小売売上高(前年同月比)

4. インフレ率が減速

一方、ブラジル地理統計院は9月6日に、8月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)が、前年同月比+2.46%になったと発表(図表3参照)。伸び率は市場予想の+2.6%を下回り、前月の同+2.71%から減速しました。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 政策金利を▲1.00%ポイント引き下げ

ブラジル中央銀行は9月6日の金融政策委員会で、政策金利を▲1.00%ポイント利下げして9.25%にすることを全員一致で決定(図表4参照)。利下げ幅は前回会合の▲1.00%と同じで、全員一致。16年10月以来8会合連続で利下げしたことになります。

中銀は16年10月会合で4年2か月ぶりとなる利下げ(▲0.25%ポイント)を行い、同12月会合でも同率の引き下げで13.75%としました。17年1月と2月の会合では、いずれも▲0.75%の利下げ。4月会合ではさらにそれを上回る▲1.00%ポイントの引き下げを行い、09年以来8年ぶりの大幅利下げとなりました。16年10月以降の利下げ幅は合計で▲5.00%に達しました。



 図表4 ブラジルの政策金利

足下ではインフレ率が鈍化しており、中銀は物価抑制よりも景気刺激を優先した模様。今後のインフレ率の見通しについて中銀は、17年のインフレ率を+3.3%、18年を+4.4%程度を予想しています。

次回は、格付け、財政収支、経常収支などを見る予定です。

 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率 平成29年9月29日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ここ数年は景気が低迷していましたが、回復傾向にあります。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億957万人(ブラジル地理統計院推定、2016年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 薄日射す成長率

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。続いて、資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.7%、16年▲3.5%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。しかし、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年+0.1%、18年+1.7%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、15年の1人あたり国民所得は、米国が56,174ドル、日本が34,513ドル。また、ロシアが9,521ドル、ブラジルは8,810ドルでまずまずの水準。一方、中国が8,166ドル、インドは1,615ドルでした。

これを17年でみると、米国が59,609ドル、日本が38,281ドルに対して、ロシア10,885ドル、ブラジル10,308、中国8,480ドル、インド1,850ドル(図表2参照)。15-16年には、資源価格の低迷などにより、ブラジル、ロシアの資源国は1人当たり国民所得で見ても停滞していたものの、17年には回復傾向にあります。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、均衡のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2017年)

3.  4-6月期GDPは+0.3%に改善

他方、ブラジル地理統計院は8月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+0.3%であったと発表(図表3参照)。1-3月期の▲0.4%から回復。前期比では+0.2%と、2四半期連続のプラス成長。個人消費が回復し、サービス業が緩やかに持ち直しました。

個人消費の動向を示唆する家計消費は+1.4%と堅調。インフレ率の低下が影響しており、7月のインフレ率は上記の通り前年同月比+2.7と、同国としては異例の低さ。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

中銀の政策金利引き下げも景気を後押ししています。8月の新車販売台数が前年同月比+21%になるなど、耐久消費財の販売も回復傾向。メイトレス財務相は、「100年の一度の景気後退から回復した」と述べました。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルでは14年にサッカーのワールドカップ、16年にオリンピックという世界的なイベントが行われました。それにもかかわらず、15-16年と、ブラジルの景気は低迷。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、またそれに伴う資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権に交代。政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一新、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの予想が高まりました。テメル氏自身に対する汚職などの疑惑も取りざたされていますが、今のところ同氏は大統領職を続け、社会保障改革などに取り組んでいます。政治については後に見ていく予定ですが、政権交代が景気に対しては肯定的な効果をもたらしたと言えます。

次回は最近の景気動向、物価、金利などを見る予定です。

中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価 平成29年9月22日

おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回はリスク物価、金利、為替、株価について。

1. 8月CPIは+1.8%に加速

中国の国家統計局が9日発表した8月の消費者物価指数(CPI)前年同月比+1.8%と、前月から+0.4%ポイントの加速(図表1参照)。1月以来7か月ぶりの伸び率となりました。同統計局は声明で、CPIの加速について、暑さと降雨で卵が+16.2%、野菜が+8.5%値上がりしたことが主な要因であるとしました。

一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+6.3%となり、前月の5.5%から加速。市場予想の+5.7%からも上振れ。

 図表1 中国の消費者物価指数(CPI)前年同月比上昇率

2. 預金準備率を引き下げ

一方、金融政策については、大きな変化は見られません。中国人民銀行(中央銀行)は16年2月29日に、追加の金融緩和を決定。市中銀行から中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げ、17%にすることを決定(図表2参照)。3月1日から実施。引き下げは15年10月以来。その後、変更は、ありません。

 図表2 中国の預金準備率(大手銀行標準)

続いて、中国人民銀行(中銀)は2月3日に、資金供給オペの金利を引き上げました。過去最高の刺激策で景気が安定したことを受けて、同行が資産価格やインフレ抑制に軸足を移す中、金融政策の引締に向けた新たな一歩となるとみられました。

同行は7日物と14日物リバースレポの利率をそれぞれ▲10bp(1bp=0.01%)引き上げました。引き上げ後の利率は7日物が2.35%、14日物が2.5%、28日物が2.65%となりました。7日物と14日物のリバースレポの利率引き上げは13年以来、28日物の引き上げは15年以来。それ以降は、金融政策に大きな変化はありません。

3. 株価と為替

ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。15年には▲4.6%の下落。16年12月には1ドル=6.944ドルまで下落。人民元の下落は中国の内需の減少、海外への資金流出などが原因とみられます。

ただ、当局が継続的に為替市場に介入を行うことなどにより、人民元は対ドルで反発。17年8月末には1ドル=6.592ドルまで反発。外貨準備高の大幅減少につながりました。

 図表3 上海総合指数と人民元(CNY/USD)

株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。2006年2月には2687ポイントまで下落。中国では、不動産、株価などが順番にバブルの状態になると言われており、株価も07年に上海指数が約6000ポイントの高値を付けるなど、随時バブルの様相を呈することがあります。

中国の国内資金は規制があるため海外には出にくく、株価も時に急騰することがあります。16年2月以降には株価は同指数でみてじり高の様相を呈しています。このところ不動産価格の上昇が止まってきたため、株価についても今後、やや頭が重くなる可能性があります。」

4. 当面の注目点

当面の注目点としては、就任以来約5年が経過し、折り返し地点に来た習近平政権の新しい体制が問題となります。従来、中国共産党のトップであると位置づけられる政治局常務委員会委員(現在は9人)は、68歳が定年であるとされ、現在のメンバーでは習近平国家主席、および李克強首相だけが定年にかからないことになります。そのため、69歳となった王岐山氏(序列6位)は、反腐敗運動で猛威を振るってきたものの、その去就が問題となります。

今年秋の党大会では、今後の共産党の新たな政治局常務委員会委員を決めるにあたり、定年の延長を認めるかどうかが焦点となります。秋の党大会に先立ち、江沢民元国家主席に近いとされる元重慶書記の孫政才氏が、腐敗の疑いにより摘発されました。

また、習近平氏は江沢民氏に近いとみられる軍の幹部も多数摘発。軍の掌握にも乗り出しています。今後も秋の党大会に向けて、人事を巡る駆け引きが一層活発化するとみられます。習近平氏は権力基盤強化のため、徹底した反腐敗、言論の弾圧を強行しています。少なくとも現在の状況からは、政治改革は望むべくもないとみられます。

中国と米中関係 (6) リスク要因・課題 平成29年9月15日

おはようございます。前回は、前回は為替・金融政策を見ましたが、今回はリスク要因、課題について。

1. 景気失速のリスク

中国の足下の景気、また中長期的な成長率についてはどうでしょうか。中国の国家統計局が31日発表した8月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.7と、前月から低下(図表1参照)。市場予想の51.3からも上振れ。景気の拡大・悪化の境目とされる50は上回りました。中国経済は底堅く、当局は、7-12月期も金融リス抑制に向けた取り組みを続ける余地が生まれることを示唆しています。

1-6月(上期)には、中国経済は輸出回復や力強い内需を背景に市場予想を上回る堅調を示していましたが、7月には全般に減速を示唆していました。今後は、当局が成長率を維持しながら信用の拡大速度をいかに抑えるかが焦点となります。

 図表1 中国の造業購買担当者指数(PMI)

さらに、中国の国家統計局は7月17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示しました。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。

ただ、長期的には生産人口(中国の定義では15-60歳の人口)の減少、少子高齢化、製造業からサービス業など第三次産業への移行により、国内総生産(GDP)成長率はさらに低下していくと予想されています。

2. 債務問題

中国では、過剰生産能力の削減、国有企業の再編など、供給側の改革に乗り出しています。需要側では、消費を拡大することにより、従来の投資と輸出主導の経済成長からの脱却を図っています。

ただ、インフラ投資などを国有企業なになって、そのための資金調達を国有銀行が中心となって行う構図には変化がありません。地方政府にとっても、不動産開発が地方政府の重要な財源となっており、そのための資金調達を影の銀行(シャドー・バンキング)が担うという屑です。成長率の鈍化に伴い、債務の膨張は、景気が失速した場合の不良債権の増加につながる恐れがあります。

国際決済銀行によると、金融危険を除いた企業債務、家計シア無に政府債務を加えた中国のシア無残高は、2016年12月末に約27兆ドルに達しました。これは国民総生産(GDP)比で257%(図表2参照)。同比率はリーマン・ショック後の景気対策に伴い金融緩和が実施された2009年に150%を超え、それ以降ほぼ一貫して増大しています。

このような債務額の増加及びGDPの上昇は、世界的な金融緩和の下、新興国でしばしば生じていますが、中国の比率は新興国の中でも特に高く、リスク要因となっています。米国が利上げに踏み切るなど、世界的に金融緩和の出口戦略が取りざたされていますが、中国の同比率は上昇を続けています。

 図表2 中国政府のGDP比債務額

3. 投資効率の低下、過剰生産能力、国有企業改革

2008年9月におけるリーマン・ショックの後、中国は4兆元(約57兆元)の経済対策を実施。中国では、インフラ投資、設備投資、不動産投資が積極的に行われました。これにより、世界経済が回復した面はあるものの、中国国内における投資効率の低下、鉄鋼など各産業における過剰設備に結びつきました。

リーマン・ショック後の景気対策により、中国企業の過剰設備問題が深刻化。2014年には、中国の粗鋼生産量は8億2100万トンとなり、EU(欧州共同体)、日本、米国などと比較して突出。このため中国では、2020年までに、1億〜1.5億トンの粗鋼生産能力の削減を目標としています。

ただ、中国の生産の調整により、ここにきて鉄鋼価格、石炭価格など商品市況が回復。市況の回復とともに、いわゆる「ゾンビ企業」の淘汰が進まない可能性が出てきました。中国の大企業の多くは国有企業であり、上層部の幹部は共産党員が占めています。したがって、競争原理が働きにくく、非効率な生産が温存されます。国有企業改革といいながら、上位企業の合併により、寡占化が進んでいます。

4. 政治における課題

17年における習近平政権の課題は、まず経済成長率で+6.5%程度を確保すること。さらに、政治、社会における安定を目指しています。ただ、規制緩和などの構造改革を目指しているものの、実体としてはあまり進展が見られません。

産業構造も、セメント、石炭などの素材産業、鉄鋼、化学などの重化学工業に偏っており、IT産業など高付加価値化が十分に進展しているとはいえません。

政府は先進国の価値、即ち言論の自由、集会結社の自由などの広がりにより、共産党一党独裁体制が脅かされることを警戒して、インターネット、SNSなどを規制。その結果、米国のフェースブック、グーグル等が締め出され、アリババ、ティンセントなど独占的な地位を占めています。

現在の政権の中枢を担っているのは、第5世代と呼ばれる指導者たち。文化大革命(1966-76年)を経験しており、毛沢東思想への郷愁をもっています。習近平氏が自らを「中核」と位置付けるのはそのためですが、かえって言論統制など反動的な姿勢を強めています。

5. 米中関係は微妙

一方、米中関係は微妙な状態が継続する見込み。北朝鮮の核開発、ミサイル発射などの威嚇に対しては、米国の呼びかけに対して、中国、ロシア両国は一応協力する姿勢をとっています。中国は米国との関係を配慮して、北朝鮮に対する石油製品輸出などの経済制裁について、国連安保理事会で賛成。

 写真1 G20におけるトランプ大統領と習近平国家主席

ただ、米国は中国を「為替操作国」であると認定すると脅し、貿易においても関税の引き上げの構えを見せています。逆に中国は、15年に習近平国家主席が訪米時にボーイング社に対して飛行機300機を発注。中国は特別関税を実行。また、米国からの農産物に特別関税を行い、保有する米国債の売却をちらつかせたりなどして対抗しています。米中関係は、急速に悪化する可能性は低いものの、引き続き微妙な関係が続くと予想されます。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動きについて見る予定です。

中国と米中関係 (5) 為替・金融政策 平成29年9月8日

おはようございます。今回は、ネット取引などについて見ましたが、今回は為替・金融政策について。

1. 為替管理を強化

中国は、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)への採用を目指し、金融の自由化を目指し、特に為替取引の自由化を目指すとしてきました。人民元が採用される以前には、SDRに採用されていたのは米ドル、ユーロ、ポンド、円のみであり、SDRへの人民元の採用は駐得にとっては、国威発揚の一環という位置付けでした。16年10月1日に、人民元はSDRに採用されました。

ではその後、為替取引の自由が進んだかというと、むしろ管理が強化される方向にあります。17年に、周小川・人民銀行総裁が「人民元の為替レートを守ることと、外貨準備を守ること、2つの役割があるが、どちらか一方を守るとすれば、私は外貨準備を守る」と、度々国際会議の場で発言。

「外貨流動性が足りなければ、通貨危機になる」という県絵は、外貨流動性が足りなくなる可能性が出てきたことを示唆。人民銀行(中銀)は、16年末から外貨管理を強化。個人による外貨良貨両替は停止されていないものの、手続きが複雑化されており、事実上できなくなっています。16年2月には、海外の不動産と保険など金融商品への個人の送金が禁止されました。

2. 国際収支の誤差脱漏が拡大

中国の国際収支を見ると、貿易収支などを含む経常収支は黒字が続いているものの、15年上期には資本収支が減少に転落(図表1参照)。これを準備資産減少が補う形。さらに、「誤差脱漏」が急拡大。「誤差脱漏」は14年が▲1,400億ドル、15年が▲1,880億ドル、16年が▲2,000億ドル超となっており、急拡大。

外貨準備の減少は資本の逃避(キャピタル・フライト)とみられています。持ち出したのは、華僑系ファンドとユダヤ系ファンドとみられます。特に、最近では仮想通貨のビットコインが利用されています。ビットコインの相場は17年に入り乱高下していますが、一因が中国人による大量の買いとされています。

 図表1 中国の国際収支

キャピタル・フライトが起こる主な要因は中国の景気の後退。中国国内の不動産価格は既にピークを打ったとみられており、不動産バブル崩壊の懸念もあります。一方、米国は今後利上げする方向にあり、中国国内のリスクを回避するために、米国に資産を移そうとする動きが出ています。

3. 今後の為替政策と金融政策

金融政策においては、トリレンマが唱えられており、同時に3つの政策を実現できないとしています。これはマンデル・フレミング・モデルを拡張したものであり、ロバート・マンデルが提示しました。

同モデルによると、ある国は「自由な資本移動」「為替相場の安定(固定相場制)」「独立した金融政策」を同時に実現することはできず、2つだけを許容することができます。例えば、ある国が(a)の位置を選択すれば、「為替の安定」と「自由な資本移動」を選択することとなり、金融政策の独立性は失われます。例として、欧州連合のユーロ圏があげられます。

中国としては、「金融政策の独立性」は放棄できないので、「為替の安定」と「自由な資本移動」のどちらかを選ぶこととなります。現在は、為替の安定を図るために、資本移動を規制している状態となっています。

 図表2 国際金融のトリレンマ

現在、中国の為替制度は「管理変動相場制」とされており、基準値に対する変動幅が決められています。ただ、そもそも「管理」と「変動」とは矛盾する概念であり、現在の制度は「権利」に重点が置かれたもの。人民元の下落圧力に対して、当局が元を買う介入を度々おこなってきました。

ただ今後は、「管理」が弱まって「変動」に軸足を移すものと予想されます。17年に入ってからは、中国国内の金融エコノミストがウェブ上などで、「中国は向こう3年かけて自由な変動相場制に移行する可能性が出てきた」などと発言するようになってきました。変動相場制に移行するためには、様々な金融改革が必要になってきます。

4. 金融政策・財政政策の方向性

変動相場制に移行するためには、金利自由化など金融改革が必要となります。実際には、国有銀行の民営化、預金金利の自由化、証券市場改革などが進んでおらず、これらの改革をおおなわなければ、為替の変動相場制への完全な移行は困難となります。変動相場制に移行しなければ、投機筋が為替リスクを勘案せずに資本を移動することとなります。

今後の取りうる短期的な政策としては、まず金融政策として、利下げ、公開市場操作による量的緩和、預金準備率の引き下げなどが考えられます。また、為替の切り下げを継続することにより輸出を促進し、インフラ投資などの公共事業の拡大、減税、「一帯一路」政策の拡大による、国有企業支援なども考えられます。

今後は国有企業の統治(ガバナンス)の改革と民営化、いわゆるゾンビ企業の淘汰、地方政府の財政改革、証券市場の自由化なども課題となりますが、これらの分野はあまり進展していないのが実情です。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動について見る予定です。

中国と米中関係 (4) ネット取引など 平成29年9月1日

おはようございます。今回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて考えます。

1. 情報関連消費が拡大

中国では従来、輸出と企業の設備投資など固定資産投資が、成長を牽引してきました。ただ、賃金の上昇などにより、さらに輸出を伸ばすのは難しく、固定資産投資にしても、地方政府による過剰な不動産投資もあり、持続性に疑問があります。

そこで、消費が牽引役となるべく期待されているわけですが、これまでは自動車が消費を牽引してきました。ただ、中国の自動車生産及び消費はすでに世界一であり、環境問題、高速道路の整備などを考えると、おのずと限界があります。また、マンションなど個人による住宅取得も、住宅価格の高騰により、過熱感が目立っています。

自動車、住宅に代わって期待されているのが情報関連消費。ITやインターネットの普及により、情報分野の新製品、新サービスが急速に発達。中国における通信ネットワーク利用者の推移を見ると、スマホおよびインターネットの利用者数が急拡大しています(図表1参照)。

 図表1 中国におけるネットワーク利用者数

携帯電話のスマホ化の進展により、中国インターネット協会によると、携帯経由のネットユーザー数は、15年11月末時点で約9億1000万人に達しました。情報関連小促進のため、G4の普及にも力が入れられており、G4のユーザー数も3億8600万人に達しました。

2. ネットショッピングが急拡大

スマホなど情報関連機器の普及に伴い、ネットショッピングが急拡大。中国国家統計局によると、15年のネットショッピングは38,773億元(約70兆円)で、伸び率は+33.3%。15年の小売り全体の成長率+10.7%の3倍以上の伸び率。同統計局によると、小売総額に占めるネットショッピングは約10.8%となりました。

特に近年注目を集めているのは、電子商取引(EC)最大手となったアリババの提唱した「独身の日」(11月11日)。同社はこの日に特にバーゲンを行っており、15年の「独身の日」の売り上げは、アリババだけで912億元(約1.6兆円)に達しました。

中国は、ほかの主要国と比較しても小売りECの伸びが突出しています。中国のネットショッピング(B2C、C2Cを含む小売りEC)は、ネットインフラ決済、物流の進展した米港などを追って進展してきましたが、図表2の通り、米国を超える急成長を遂げています。

 図表2 世界小売EC取引額と中国の額の比率

3. フィンテックも進展

中国では、フィンテックも進展。フィンテック(FinTech)とは、ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語であり、情報通信技術(ECT)を活用した革新的な金融商品とサービスと指します。中国ではフィンテックを通常「互聯網金融」(インターネット金融)と呼んでいます。

中国でフィンテックが発達した理由の1つは、既存の金融システムに対する不満の強さ。預金は残高ベースで国有銀行が約67%を占めており、預金者に対して適切な金融サービスを提供していません。

また、第二の理由として、偽札が多く、見せも消費者も現金の支払いを好まない傾向にあります。日本人などが中国に観光に行くと、現金でなくスマホで支払うことを求められることも増加しています。中国のある女子学生がキャッシュカードを亡くしたところ、その2週間後に銀行から通知が来て初めて気づくなど、スマホによる決済が日常化しています。

米国では、支払いはクレジットカート、次に小切手が一般的。中国でも、一時はクレジットカードが普及したものの、支払いのたびにIDカードの提示を求められ、不便でした。そこで普及したのがデビットカード。日本で爆買いする中国の観光客は、主に銀聯カードを使っています。

デビットカードをデジタル化したのがフィンテック。フィンテックにより、支払いもできるし資産管理、資産運用も可能となります。中国におけるスマホ決済のサービスはアリババの「Alipay(支払宝)」とテンセントの「WeChatPay(微信支払付)」が二大勢力であり、約7億人のユーザーがいます。

4. 外貨準備高の減少と資本の逃避

中国の外貨準備高は、年次ベースでは14年末に3兆9000億ドル、月次ベースでは14年6月に約4兆ドルでピークを付けています(図表3参照)。その後急速に減少し、17年1月末には一時3兆ドルを下回り、6月末には3兆570億ドルに回復したものの、大きくは回復していません。

 図表3 中国の外貨準備高

外貨準備とは、一般に対外支払いに備えて中央銀行が管理している外貨の流動性のこと。中国には現在3兆ドルの外貨準備があるものの、そのうちやく1兆数十億程度は米国債であるとみられます。輸入代金の決済に備えるためには、少なくとも1兆8000億ドルの外貨準備が必要であるとみられますが、米国債は売るわけにはいかないので、外貨準備は必ずしも潤沢にあるとは言えません。

14年6月からの3年間で、1兆ドルの外貨準備が減少したわけですが、同じ期間に個人が商業銀行に預けている外貨も約1兆ドルの減少となりました。中国では、ごく最近まで外貨が不足していたので、個人の保有する外貨をなるべく銀行に集めるとの意図から、外為集中政策をとっていました。

外貨準備と商業銀行にある外貨預金を合わせて2兆ドルが減少したことになりますが、タックスヘイブン、あるいはニューヨークに流れたとみられています。ニューヨークのここ数年の株高には中国の資金も寄与しているとみられます。中国の景気減速、あるいは不動産価格上昇による不動産バブルの警戒から、資金が海外に逃避しているとみられます。

次回は、為替管理、金融政策などについて見る予定です。

中国と米中関係 (3) 構造問題 平成29年8月25日

おはようございます。今回は、構造問題などについて考えます。

1. 輸出の後退と過剰な投資

中国の共産党政権は、これまで高い経済成長率の目標を掲げてきました。党大会などで示唆して年単位の国内総生産(GDP)の目標を概ね達成してきたわけですが、人口の伸びによる労働力を吸収し、それにより社会の安定化を図ることを目指してきました。

ただ、経済の規模の拡大、人口の高齢化、産業構造の高度化が進み、景気の牽引役としては、従来の輸出及び固定資本形成(投資)から、個人消費に牽引役が移り、過剰な不動産投資が抑制されることが期待されてきました。過剰な投資により、中国が鉄鉱石などの資源を「爆買い」し、商品市況が高騰する、あるいは国内の環境汚染につながるなどの批判もありました。

ここで、中国の需要項目別GDP構成比をみると、輸出は1970年には3.2%にすぎなかったものが、2006年には38.6%に拡大(図表1参照)。輸入も同様に3.1%から31.1%まで拡大。安い人件費などを武器に「世界の工場」として中国が君臨し、中国の景気拡大を牽引。ただ、その後は人件費の上昇などにより、繊維、化学など付加価値の低い産業の競争力の低下、経済のソフト化などにより、輸出が牽引役から後退していることがわかります。

さらに、家計消費は1970年以降に低下し、最近はやや持ち直す傾向にあるものの、依然として力強さに欠けます。中国では、企業が賃金に回る比率、すなわち労働分配率が低く、さらに年金など社会保障も遅れていることから、貯蓄率が高止まりしています。

貯蓄率の高さもあり、設備投資などの固定資本形成の比率が上昇。不動産への投資は、地方政府にとっては重要な収入源であることもあり、固定資本に依存した経済成長が続いていると言えます。

 図表1 中国の需要項目別GDP構成比の推移

主要国の投資がピークにあった年における投資、即ち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%(図表2参照)。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

 図表2 主要国のGDPに占める投資の割合が最大となった年

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

2. 過剰設備廃棄も進まず

国有企業における統治(ガバナンス)の改革、過剰設備の廃棄も従来言われてきているものの、ほとんど進んでいません。特に過剰な設備を抱えているのが、自動車、造船、鉄鋼、セメントなどであり、国有企業において特に過剰な設備の廃棄が進んでいません(図表3参照)。例えば、鉄鋼においては生産高が世界的に突出しているものの、低価格の鉄鋼の輸出により、世界的に鉄鋼業が不況に陥っています。

中国が欧州への通商路を確保し、陸と海の沿線の開発を進めようとしている「一帯一路」構想についても、アジアインフラ投資銀行の後押しにより、鉄鋼、セメントなど中国の過剰な生産を解消しようとしているとみることもできます。

 図表3 主要産業の過剰設備比率

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

3. 民間債務が拡大

中国では、民間部門の債務が拡大。国際決済銀行(BIS)が16年12月に公表した「日金融部門向け与信統計」によると、16年6月末時点における中国民間部門の債務残高は約2兆ドル。15年末からの半年間で約1兆ドル増加。

民間債務のGDPは+6.7%ポイントの増加で、209.4%。2010年末比では、民間債務のGDP比の増加は+61.5%ポイント。日本のバブル崩壊直前の1989年が208.0%であり、ほぼ同水準。の本のバブル期と比較すると、中国の民間債務の規模はすでに適正水準を超えているとみられます。

 図表4 アジア主要国の民間債務GDP比

過剰な債務の拡大の背景として、地方政府がいわゆる「影の銀行」(シャドーバンキング)という、正規の融資のルート以外からの資金調達を行い、過剰な不動産投資を行っていること、国有企業が依然として過剰な投資を続けていることなどがあります。「影の銀行」については、後程、リスク要因を見る際に考察する予定です。

次回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて見る予定です。

中国と米中関係 (2) 米中関係 平成29年8月18日

おはようございます。今回は、米中関係などについて見ます。

1. 19世紀の経済大国中国

かつてゴールドマン・サックスに所属したジム・オニール氏は、ブラジル、ロシア、インド、中国をBRICs諸国と名付け、特に中国が今後大きく発展すると述べました。その後、南アフリカも加えて「BRICS」という概念を提唱したわけですが、中国の国内総生産(GDP)は、日本を追い抜き、やがて米国をも追い抜くと予測しました。

中国経済はGDPの規模ですでに日本を追い抜いており、現在は習近平主席が「一帯一路」すなわちかつての絹の道(シルク・ロード)のように、中国と欧州を陸と海で結び、交易を活発化させようとしています。そのために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しました。AIIBには日米両国は参加しなかったものの、ロシア、インド、ブラジルなど主要な新興国のほか英独仏伊など欧州の主要国、あるいは豪州、カナダなど多くの先進国も参加しており、中国は経済的な覇権の確立に向けて、邁進していると言えます。

ただ、歴史的に見ると、中国は黄河文明以来、多くの期間において政治的、あるいは経済的に大国であったと考えることができます。18世紀において中国は隆盛を誇っていましたが、1840年のアヘン戦争を契機として、急速に国力が衰えることとなりました。

それ以前の状態では、マディソン(1926-2010)によると、1820年のGDPランキングでは、中国は1位で3割弱という大きな比率でした(図表1参照)。以下、インド、フランス、ロシア、英国、日本と続いています。かつては、中国、インドという2大文明国が大きな比率を占めていました。人口がこれら文明の発展の大きな要因であったと考えられます。今後の人口動態を考えると、中国、インドの優位性が考えられます。

 図表1 1820年世界のGDP順位

2. 米中間貿易の特徴

トランプ米大統領の就任以来、米国と中国との間の貿易摩擦の高まりが懸念されてきました。まず、米中間の主要貿易品目をみておきましょう。米国から中国への輸出品目では、飛行機・部品すなわちボーイングが最も大きく13.3%(図表2参照)。このほか、種子・穀物も大きく、大豆、小麦、トウモロコシなどを多く輸出しています。米国の農産物の約70%が中国向け。米中両国の貿易に関する100日プランでも、中国は米国からの農産物輸入拡大を求められています。

 図表2 米国から中国への主要輸出品目(2015年)

次に中国から米国への輸出品目を見ると、家電が27.6%で最も多く、iPhoneなどのスマホが含まれます(図表3参照)。ただ、スマホの素材、部品の多くは日本および韓国で生産されており、中国では単に組み立てが行われているにすぎないとみられます。中国はiPhoneの輸出で売り上げの7%を受け取るものの、残りの93%はアップル社や部品を供給している日本・韓国などが受け取っています。

 図表3 中国から米国への主要輸出品目(2015年)

次に大きいのは産業用機械で、21.5%を占めています。ここに含まれるPCについては、半導体のICチップなど高付加価値の部品の多くはインテルなど米国あるいは外国企業が作成。PCについても中国は基本的には組み立てるだけという構図。家電と産業用機械を合わせると50%近くなるため、米国が中国の輸出を抑制すれば、かえって米国など先進国の企業が困るだけということになります。

貿易については、大幅に中国の輸出超過である者の、米中両国の補完性が強いと言えます。さらに、サービス貿易では中国が大幅に赤字。最も大きなのがロイヤリティー収入であり、中国から米国への留学費用も中国側の大幅赤字。したがって、米中間は補完性が強く、一方的に米国が中国に対して制裁を科すのは難しい状況であると言えます。

3. 第1回米中包括経済対話を開催

トランプ大統領は、選挙期間中から中国をたびたび攻撃。米国の中国に対する貿易赤字、人民元について強硬な姿勢をとってきました。ただ、大統領就任後には、実際には強硬な措置は何も取っておらず、対北朝鮮に対する中国の圧力増大のカードとして温存しているのでなとの観測もあります。

米中両国は、7月19日に第1回の米中包括経済対話を開催。今回は、両国間の貿易・投資を巡る問題や、4月の米中首脳会談で合意した「100日計画」などについて議論を交わしました(図表4参照)。

中国は対話の結果について、相互理解や信頼を深めることで、今後の基礎を築くことができたとして、一定の成果を上げたと評価。ただ、具体的な議論の結果についてはあまり明らかにされていません。

 図表4 経済対話における議題

注目されていた「米中経済協力の100日計画」については、「重大な進展」がみられたと中国側は評価。同計画は17年4月の米中首脳会談で合意されたもの。17年5月には、早期合意が可能であった農業・エネルギーや金融サービスなどの分野における10項目の協力が、「100日計画」の一環として発表されました。

今回の対話の結果、今後「1年計画」が策定され、実施されることとなりました。マクロ経済、金融、貿易協力、投資協力、経済分野のグローバルガバナンスなどの領域で、協力を進めることとなりました。

ただ、対話後に予定されていた共同記者会見が中止され、共同声明も発表されなかったことから、多くの問題が解決されずに先送りとなった可能性が高いとみられます。北朝鮮の核・ミサイル開発問題が影響する可能性もあり、米中間の貿易問題には、引き続き不透明感があります。

次回は、構造問題、フィンテックなどを見る予定です。

中国と米中関係 (1) 成長率など 平成29年8月11日

おはようございます。中国経済の現状と米中関係などについて考えます。

1. BRICsの成長率

まず、中国経済を概観しておきましょう。中国は従来、代表的な新興国であるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で、特に高い成長率を維持してきました。ところが、15年には中国の+6.9%に対して、インドが+7.9%と逆転(図表1参照)。さらに、国際通貨基金(IMF)の予測では、17年においても中国+6.5%、インド+7.1%とインドの優位が今後も継続する見込み。

中国はほかの主要な新興国と比較すると、今後も高い成長率を維持する見込みであるものの、経済の行き勢いに陰りが出ています。IMFは、中国の成長率が今後さらに成長率が低下すると予想しています。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

2. 4-6月期GDP成長率は+6.9%

中国の国家統計局は17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表(図表1参照)。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示唆。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。 

 図表2 中国の四半期成長率(前年同期比)

3. 鉱工業生産伸び率は予想上回る

中国の国家統計局が17日に発表した統計によると、6月の鉱工業生産は前年同月比+7.6%と、前月の+6.5%から加速。市場予想の+6.5%を上回りました。

 図表3 中国の鉱工業生産(前年同月比)

4. 6月小売売上高は予想上回る

一方、中国の国家統計局は同日に、17年6月の小売売上高が、前年同期比+11.0%になったと発表(図表2参照)。市場予想の+10.6%を上回り、前月の+10.7%からも加速。

 図表4 中国の小売売上高(前年同月比)

5. 1-6月固定資産投資は予想上回る

他方、同日発表の1-6月の固定資産投資は前年同期比+8.6%。市場予想の+8.5%から下振れしました。1-5月の+8.6%から伸び率は横這い。

ただ、1-6月の固定資産投資の伸びの前年同期比+8.6%は、1-3月の+同9.2%からは伸び率が鈍化。道路や空港などインフラ投資は+21.1%と大幅に伸びたものの、不動産開発投資などが減速。

中国人民銀行(中銀)は、年初から市場金利を高めに誘導。金融政策を引き締め気味にしており、住宅ローン金利や社債金利も上昇。北京や上海では住宅の販売が減少しており、不動産市場の失速が年後半の中国の国内総生産(GDP)を押し下げる可能性もあります。

6. 今後も成長率低下が継続か

このように、中国の成長率はロシア、ブラジルなどに比べれば引き続き高水準を維持しているものの、今後も伸びは鈍化していくと予想されます。その主な要因は人口の高齢化、生産年齢人口(14-64歳の人口、中国の定義では一般に60歳まで)の減少、最低賃金の上昇による製造業の競争力の低下などがあります。

さらに、経済のソフト化の進展により、投資が減少する傾向にあります。これまでは、固定資本形成、すなわち投資と輸出が経済を牽引してきました。新たに個人消費など内需が牽引役となるべく期待されていますが、主役の転換が進んでいません。また、国有企業改革が遅れるなど、構造改革の遅れも目立ちます。構造改革については、後程、課題とリスクという観点から見ていきます。

次回は、米中関係などを見る予定です。

世界経済の長期停滞 平成29年8月4日

おはようございます。世界経済の長期停滞について見ます。

1. 世界経済の概観

まず、世界経済のこれまでの推移を見ておきましょう。世界経済の成長率は、1930-90年には+3.84%であったものの、08-16年には+3.23%に、16年には3.08%に低下(図表1参照)。特に先進国では顕著に低下しており、米国では83-90年+3.36%から、01-07年+2.45%、16年には+1.58%に低下。ユーロ圏、日本も大幅に低下しているほか、新興・発展途上国でも低下傾向にあります。

 図表1 世界経済の成長率

インフレ率についても、ほぼ同様の動き。世界のインフレ率(物価上昇率)は、83-90年には+17.05%であったものが、01-07年ニハ+4.03%、05-16年には+3.82%へと大幅低下。米国においては、83-90年の+3.86%が01-07年には+2.69%へと低下。ユーロ圏、日本でも大幅に低下しており、特に日本では、83-90年の+1.62%が01-07年には▲0.27%と、デフレ圏に突入。中南米でも、83-90年には+205.43%のハイパーインフレであったものが、08-16年には+5.08%まで低下。新興国においても、中央銀行の主要な課題はインフレ抑制よりも、景気刺激に移ってきた感があります。

FPアセットマネジメント 新興国レポート

Report

第405回  新興国情報 (406) 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率
第404回  新興国情報 (405) 中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価
第403回  新興国情報 (404) 中国と米中関係 (6) リスク要因・課題
第402回  新興国情報 (403) 中国と米中関係 (5) 為替・金融政策
第401回  新興国情報 (402) 中国と米中関係 (4) ネット取引など
第400回  新興国情報 (401) 中国と米中関係 (3) 構造問題
第399回  新興国情報 (400) 中国と米中関係 (2) 米中関係
第398回  新興国情報 (399) 中国と米中関係 (1) 成長率など
第397回  新興国情報 (398) 世界経済の長期停滞
第396回  新興国情報 (397) 中南米諸国の展望 (6) メキシコ
第395回  新興国情報 (396) 中南米諸国の展望 (5) ペルー
第394回  新興国情報 (395) 中南米諸国の展望 (4) チリ
第393回  新興国情報 (394) 中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン
第392回  新興国情報 (393) 中南米諸国の展望 (2) ブラジル
第391回  新興国情報 (392) 中南米諸国の展望 (1)
第390回  新興国情報 (391) 原油価格の動向と中東諸国
第389回  新興国情報 (390) ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価
第388回  新興国情報 (389) ロシア経済の展望 (3) 財政、政治
第387回  新興国情報 (388) ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利
第386回  新興国情報 (387) ロシア経済の展望 (1) 経済の構造
第385回  新興国情報 (386) トランプ政権誕生と中東諸国
第384回  新興国情報 (385) IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し
第383回  新興国情報 (384) IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利
第382回  新興国情報 (383) IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易
第381回  新興国情報 (382) 混乱の続くトルコ
第380回  新興国情報 (381) インド経済の見通し(4) リスク・課題
第379回  新興国情報 (380) インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価
第378回  新興国情報 (379) インド経済の見通し(2) 政治
第377回  新興国情報 (378) インド経済の見通し(1) 人口・発展段階
第376回  新興国情報 (377) ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価
第375回  新興国情報 (376) ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治
第374回  新興国情報 (375) ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け
第373回  新興国情報 (374) ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢
第372回  新興国情報 (373) ブラジル経済の動向 (1) 成長率

 薄日射すブラジル経済 (1) 成長率 平成29年9月29日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ここ数年は景気が低迷していましたが、回復傾向にあります。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億957万人(ブラジル地理統計院推定、2016年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 薄日射す成長率

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。続いて、資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.7%、16年▲3.5%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。しかし、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年+0.1%、18年+1.7%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、15年の1人あたり国民所得は、米国が56,174ドル、日本が34,513ドル。また、ロシアが9,521ドル、ブラジルは8,810ドルでまずまずの水準。一方、中国が8,166ドル、インドは1,615ドルでした。

これを17年でみると、米国が59,609ドル、日本が38,281ドルに対して、ロシア10,885ドル、ブラジル10,308、中国8,480ドル、インド1,850ドル(図表2参照)。15-16年には、資源価格の低迷などにより、ブラジル、ロシアの資源国は1人当たり国民所得で見ても停滞していたものの、17年には回復傾向にあります。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、均衡のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2017年)

3.  4-6月期GDPは+0.3%に改善

他方、ブラジル地理統計院は8月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+0.3%であったと発表(図表3参照)。1-3月期の▲0.4%から回復。前期比では+0.2%と、2四半期連続のプラス成長。個人消費が回復し、サービス業が緩やかに持ち直しました。

個人消費の動向を示唆する家計消費は+1.4%と堅調。インフレ率の低下が影響しており、7月のインフレ率は上記の通り前年同月比+2.7と、同国としては異例の低さ。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

中銀の政策金利引き下げも景気を後押ししています。8月の新車販売台数が前年同月比+21%になるなど、耐久消費財の販売も回復傾向。メイトレス財務相は、「100年の一度の景気後退から回復した」と述べました。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルでは14年にサッカーのワールドカップ、16年にオリンピックという世界的なイベントが行われました。それにもかかわらず、15-16年と、ブラジルの景気は低迷。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、またそれに伴う資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権に交代。政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一新、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの予想が高まりました。テメル氏自身に対する汚職などの疑惑も取りざたされていますが、今のところ同氏は大統領職を続け、社会保障改革などに取り組んでいます。政治については後に見ていく予定ですが、政権交代が景気に対しては肯定的な効果をもたらしたと言えます。

次回は最近の景気動向、物価、金利などを見る予定です。

中国と米中関係 (7) 物価・金利・為替・株価 平成29年9月22日

おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回はリスク物価、金利、為替、株価について。

1. 8月CPIは+1.8%に加速

中国の国家統計局が9日発表した8月の消費者物価指数(CPI)前年同月比+1.8%と、前月から+0.4%ポイントの加速(図表1参照)。1月以来7か月ぶりの伸び率となりました。同統計局は声明で、CPIの加速について、暑さと降雨で卵が+16.2%、野菜が+8.5%値上がりしたことが主な要因であるとしました。

一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+6.3%となり、前月の5.5%から加速。市場予想の+5.7%からも上振れ。

 図表1 中国の消費者物価指数(CPI)前年同月比上昇率

2. 預金準備率を引き下げ

一方、金融政策については、大きな変化は見られません。中国人民銀行(中央銀行)は16年2月29日に、追加の金融緩和を決定。市中銀行から中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げ、17%にすることを決定(図表2参照)。3月1日から実施。引き下げは15年10月以来。その後、変更は、ありません。

 図表2 中国の預金準備率(大手銀行標準)

続いて、中国人民銀行(中銀)は2月3日に、資金供給オペの金利を引き上げました。過去最高の刺激策で景気が安定したことを受けて、同行が資産価格やインフレ抑制に軸足を移す中、金融政策の引締に向けた新たな一歩となるとみられました。

同行は7日物と14日物リバースレポの利率をそれぞれ▲10bp(1bp=0.01%)引き上げました。引き上げ後の利率は7日物が2.35%、14日物が2.5%、28日物が2.65%となりました。7日物と14日物のリバースレポの利率引き上げは13年以来、28日物の引き上げは15年以来。それ以降は、金融政策に大きな変化はありません。

3. 株価と為替

ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。15年には▲4.6%の下落。16年12月には1ドル=6.944ドルまで下落。人民元の下落は中国の内需の減少、海外への資金流出などが原因とみられます。

ただ、当局が継続的に為替市場に介入を行うことなどにより、人民元は対ドルで反発。17年8月末には1ドル=6.592ドルまで反発。外貨準備高の大幅減少につながりました。

 図表3 上海総合指数と人民元(CNY/USD)

株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。2006年2月には2687ポイントまで下落。中国では、不動産、株価などが順番にバブルの状態になると言われており、株価も07年に上海指数が約6000ポイントの高値を付けるなど、随時バブルの様相を呈することがあります。

中国の国内資金は規制があるため海外には出にくく、株価も時に急騰することがあります。16年2月以降には株価は同指数でみてじり高の様相を呈しています。このところ不動産価格の上昇が止まってきたため、株価についても今後、やや頭が重くなる可能性があります。」

4. 当面の注目点

当面の注目点としては、就任以来約5年が経過し、折り返し地点に来た習近平政権の新しい体制が問題となります。従来、中国共産党のトップであると位置づけられる政治局常務委員会委員(現在は9人)は、68歳が定年であるとされ、現在のメンバーでは習近平国家主席、および李克強首相だけが定年にかからないことになります。そのため、69歳となった王岐山氏(序列6位)は、反腐敗運動で猛威を振るってきたものの、その去就が問題となります。

今年秋の党大会では、今後の共産党の新たな政治局常務委員会委員を決めるにあたり、定年の延長を認めるかどうかが焦点となります。秋の党大会に先立ち、江沢民元国家主席に近いとされる元重慶書記の孫政才氏が、腐敗の疑いにより摘発されました。

また、習近平氏は江沢民氏に近いとみられる軍の幹部も多数摘発。軍の掌握にも乗り出しています。今後も秋の党大会に向けて、人事を巡る駆け引きが一層活発化するとみられます。習近平氏は権力基盤強化のため、徹底した反腐敗、言論の弾圧を強行しています。少なくとも現在の状況からは、政治改革は望むべくもないとみられます。

中国と米中関係 (6) リスク要因・課題 平成29年9月15日

おはようございます。前回は、前回は為替・金融政策を見ましたが、今回はリスク要因、課題について。

1. 景気失速のリスク

中国の足下の景気、また中長期的な成長率についてはどうでしょうか。中国の国家統計局が31日発表した8月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.7と、前月から低下(図表1参照)。市場予想の51.3からも上振れ。景気の拡大・悪化の境目とされる50は上回りました。中国経済は底堅く、当局は、7-12月期も金融リス抑制に向けた取り組みを続ける余地が生まれることを示唆しています。

1-6月(上期)には、中国経済は輸出回復や力強い内需を背景に市場予想を上回る堅調を示していましたが、7月には全般に減速を示唆していました。今後は、当局が成長率を維持しながら信用の拡大速度をいかに抑えるかが焦点となります。

 図表1 中国の造業購買担当者指数(PMI)

さらに、中国の国家統計局は7月17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示しました。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。

ただ、長期的には生産人口(中国の定義では15-60歳の人口)の減少、少子高齢化、製造業からサービス業など第三次産業への移行により、国内総生産(GDP)成長率はさらに低下していくと予想されています。

2. 債務問題

中国では、過剰生産能力の削減、国有企業の再編など、供給側の改革に乗り出しています。需要側では、消費を拡大することにより、従来の投資と輸出主導の経済成長からの脱却を図っています。

ただ、インフラ投資などを国有企業なになって、そのための資金調達を国有銀行が中心となって行う構図には変化がありません。地方政府にとっても、不動産開発が地方政府の重要な財源となっており、そのための資金調達を影の銀行(シャドー・バンキング)が担うという屑です。成長率の鈍化に伴い、債務の膨張は、景気が失速した場合の不良債権の増加につながる恐れがあります。

国際決済銀行によると、金融危険を除いた企業債務、家計シア無に政府債務を加えた中国のシア無残高は、2016年12月末に約27兆ドルに達しました。これは国民総生産(GDP)比で257%(図表2参照)。同比率はリーマン・ショック後の景気対策に伴い金融緩和が実施された2009年に150%を超え、それ以降ほぼ一貫して増大しています。

このような債務額の増加及びGDPの上昇は、世界的な金融緩和の下、新興国でしばしば生じていますが、中国の比率は新興国の中でも特に高く、リスク要因となっています。米国が利上げに踏み切るなど、世界的に金融緩和の出口戦略が取りざたされていますが、中国の同比率は上昇を続けています。

 図表2 中国政府のGDP比債務額

3. 投資効率の低下、過剰生産能力、国有企業改革

2008年9月におけるリーマン・ショックの後、中国は4兆元(約57兆元)の経済対策を実施。中国では、インフラ投資、設備投資、不動産投資が積極的に行われました。これにより、世界経済が回復した面はあるものの、中国国内における投資効率の低下、鉄鋼など各産業における過剰設備に結びつきました。

リーマン・ショック後の景気対策により、中国企業の過剰設備問題が深刻化。2014年には、中国の粗鋼生産量は8億2100万トンとなり、EU(欧州共同体)、日本、米国などと比較して突出。このため中国では、2020年までに、1億〜1.5億トンの粗鋼生産能力の削減を目標としています。

ただ、中国の生産の調整により、ここにきて鉄鋼価格、石炭価格など商品市況が回復。市況の回復とともに、いわゆる「ゾンビ企業」の淘汰が進まない可能性が出てきました。中国の大企業の多くは国有企業であり、上層部の幹部は共産党員が占めています。したがって、競争原理が働きにくく、非効率な生産が温存されます。国有企業改革といいながら、上位企業の合併により、寡占化が進んでいます。

4. 政治における課題

17年における習近平政権の課題は、まず経済成長率で+6.5%程度を確保すること。さらに、政治、社会における安定を目指しています。ただ、規制緩和などの構造改革を目指しているものの、実体としてはあまり進展が見られません。

産業構造も、セメント、石炭などの素材産業、鉄鋼、化学などの重化学工業に偏っており、IT産業など高付加価値化が十分に進展しているとはいえません。

政府は先進国の価値、即ち言論の自由、集会結社の自由などの広がりにより、共産党一党独裁体制が脅かされることを警戒して、インターネット、SNSなどを規制。その結果、米国のフェースブック、グーグル等が締め出され、アリババ、ティンセントなど独占的な地位を占めています。

現在の政権の中枢を担っているのは、第5世代と呼ばれる指導者たち。文化大革命(1966-76年)を経験しており、毛沢東思想への郷愁をもっています。習近平氏が自らを「中核」と位置付けるのはそのためですが、かえって言論統制など反動的な姿勢を強めています。

5. 米中関係は微妙

一方、米中関係は微妙な状態が継続する見込み。北朝鮮の核開発、ミサイル発射などの威嚇に対しては、米国の呼びかけに対して、中国、ロシア両国は一応協力する姿勢をとっています。中国は米国との関係を配慮して、北朝鮮に対する石油製品輸出などの経済制裁について、国連安保理事会で賛成。

 写真1 G20におけるトランプ大統領と習近平国家主席

ただ、米国は中国を「為替操作国」であると認定すると脅し、貿易においても関税の引き上げの構えを見せています。逆に中国は、15年に習近平国家主席が訪米時にボーイング社に対して飛行機300機を発注。中国は特別関税を実行。また、米国からの農産物に特別関税を行い、保有する米国債の売却をちらつかせたりなどして対抗しています。米中関係は、急速に悪化する可能性は低いものの、引き続き微妙な関係が続くと予想されます。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動きについて見る予定です。

中国と米中関係 (5) 為替・金融政策 平成29年9月8日

おはようございます。今回は、ネット取引などについて見ましたが、今回は為替・金融政策について。

1. 為替管理を強化

中国は、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)への採用を目指し、金融の自由化を目指し、特に為替取引の自由化を目指すとしてきました。人民元が採用される以前には、SDRに採用されていたのは米ドル、ユーロ、ポンド、円のみであり、SDRへの人民元の採用は駐得にとっては、国威発揚の一環という位置付けでした。16年10月1日に、人民元はSDRに採用されました。

ではその後、為替取引の自由が進んだかというと、むしろ管理が強化される方向にあります。17年に、周小川・人民銀行総裁が「人民元の為替レートを守ることと、外貨準備を守ること、2つの役割があるが、どちらか一方を守るとすれば、私は外貨準備を守る」と、度々国際会議の場で発言。

「外貨流動性が足りなければ、通貨危機になる」という県絵は、外貨流動性が足りなくなる可能性が出てきたことを示唆。人民銀行(中銀)は、16年末から外貨管理を強化。個人による外貨良貨両替は停止されていないものの、手続きが複雑化されており、事実上できなくなっています。16年2月には、海外の不動産と保険など金融商品への個人の送金が禁止されました。

2. 国際収支の誤差脱漏が拡大

中国の国際収支を見ると、貿易収支などを含む経常収支は黒字が続いているものの、15年上期には資本収支が減少に転落(図表1参照)。これを準備資産減少が補う形。さらに、「誤差脱漏」が急拡大。「誤差脱漏」は14年が▲1,400億ドル、15年が▲1,880億ドル、16年が▲2,000億ドル超となっており、急拡大。

外貨準備の減少は資本の逃避(キャピタル・フライト)とみられています。持ち出したのは、華僑系ファンドとユダヤ系ファンドとみられます。特に、最近では仮想通貨のビットコインが利用されています。ビットコインの相場は17年に入り乱高下していますが、一因が中国人による大量の買いとされています。

 図表1 中国の国際収支

キャピタル・フライトが起こる主な要因は中国の景気の後退。中国国内の不動産価格は既にピークを打ったとみられており、不動産バブル崩壊の懸念もあります。一方、米国は今後利上げする方向にあり、中国国内のリスクを回避するために、米国に資産を移そうとする動きが出ています。

3. 今後の為替政策と金融政策

金融政策においては、トリレンマが唱えられており、同時に3つの政策を実現できないとしています。これはマンデル・フレミング・モデルを拡張したものであり、ロバート・マンデルが提示しました。

同モデルによると、ある国は「自由な資本移動」「為替相場の安定(固定相場制)」「独立した金融政策」を同時に実現することはできず、2つだけを許容することができます。例えば、ある国が(a)の位置を選択すれば、「為替の安定」と「自由な資本移動」を選択することとなり、金融政策の独立性は失われます。例として、欧州連合のユーロ圏があげられます。

中国としては、「金融政策の独立性」は放棄できないので、「為替の安定」と「自由な資本移動」のどちらかを選ぶこととなります。現在は、為替の安定を図るために、資本移動を規制している状態となっています。

 図表2 国際金融のトリレンマ

現在、中国の為替制度は「管理変動相場制」とされており、基準値に対する変動幅が決められています。ただ、そもそも「管理」と「変動」とは矛盾する概念であり、現在の制度は「権利」に重点が置かれたもの。人民元の下落圧力に対して、当局が元を買う介入を度々おこなってきました。

ただ今後は、「管理」が弱まって「変動」に軸足を移すものと予想されます。17年に入ってからは、中国国内の金融エコノミストがウェブ上などで、「中国は向こう3年かけて自由な変動相場制に移行する可能性が出てきた」などと発言するようになってきました。変動相場制に移行するためには、様々な金融改革が必要になってきます。

4. 金融政策・財政政策の方向性

変動相場制に移行するためには、金利自由化など金融改革が必要となります。実際には、国有銀行の民営化、預金金利の自由化、証券市場改革などが進んでおらず、これらの改革をおおなわなければ、為替の変動相場制への完全な移行は困難となります。変動相場制に移行しなければ、投機筋が為替リスクを勘案せずに資本を移動することとなります。

今後の取りうる短期的な政策としては、まず金融政策として、利下げ、公開市場操作による量的緩和、預金準備率の引き下げなどが考えられます。また、為替の切り下げを継続することにより輸出を促進し、インフラ投資などの公共事業の拡大、減税、「一帯一路」政策の拡大による、国有企業支援なども考えられます。

今後は国有企業の統治(ガバナンス)の改革と民営化、いわゆるゾンビ企業の淘汰、地方政府の財政改革、証券市場の自由化なども課題となりますが、これらの分野はあまり進展していないのが実情です。

次回は、中国経済の課題、リスク、株式と為替の動について見る予定です。

中国と米中関係 (4) ネット取引など 平成29年9月1日

おはようございます。今回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて考えます。

1. 情報関連消費が拡大

中国では従来、輸出と企業の設備投資など固定資産投資が、成長を牽引してきました。ただ、賃金の上昇などにより、さらに輸出を伸ばすのは難しく、固定資産投資にしても、地方政府による過剰な不動産投資もあり、持続性に疑問があります。

そこで、消費が牽引役となるべく期待されているわけですが、これまでは自動車が消費を牽引してきました。ただ、中国の自動車生産及び消費はすでに世界一であり、環境問題、高速道路の整備などを考えると、おのずと限界があります。また、マンションなど個人による住宅取得も、住宅価格の高騰により、過熱感が目立っています。

自動車、住宅に代わって期待されているのが情報関連消費。ITやインターネットの普及により、情報分野の新製品、新サービスが急速に発達。中国における通信ネットワーク利用者の推移を見ると、スマホおよびインターネットの利用者数が急拡大しています(図表1参照)。

 図表1 中国におけるネットワーク利用者数

携帯電話のスマホ化の進展により、中国インターネット協会によると、携帯経由のネットユーザー数は、15年11月末時点で約9億1000万人に達しました。情報関連小促進のため、G4の普及にも力が入れられており、G4のユーザー数も3億8600万人に達しました。

2. ネットショッピングが急拡大

スマホなど情報関連機器の普及に伴い、ネットショッピングが急拡大。中国国家統計局によると、15年のネットショッピングは38,773億元(約70兆円)で、伸び率は+33.3%。15年の小売り全体の成長率+10.7%の3倍以上の伸び率。同統計局によると、小売総額に占めるネットショッピングは約10.8%となりました。

特に近年注目を集めているのは、電子商取引(EC)最大手となったアリババの提唱した「独身の日」(11月11日)。同社はこの日に特にバーゲンを行っており、15年の「独身の日」の売り上げは、アリババだけで912億元(約1.6兆円)に達しました。

中国は、ほかの主要国と比較しても小売りECの伸びが突出しています。中国のネットショッピング(B2C、C2Cを含む小売りEC)は、ネットインフラ決済、物流の進展した米港などを追って進展してきましたが、図表2の通り、米国を超える急成長を遂げています。

 図表2 世界小売EC取引額と中国の額の比率

3. フィンテックも進展

中国では、フィンテックも進展。フィンテック(FinTech)とは、ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語であり、情報通信技術(ECT)を活用した革新的な金融商品とサービスと指します。中国ではフィンテックを通常「互聯網金融」(インターネット金融)と呼んでいます。

中国でフィンテックが発達した理由の1つは、既存の金融システムに対する不満の強さ。預金は残高ベースで国有銀行が約67%を占めており、預金者に対して適切な金融サービスを提供していません。

また、第二の理由として、偽札が多く、見せも消費者も現金の支払いを好まない傾向にあります。日本人などが中国に観光に行くと、現金でなくスマホで支払うことを求められることも増加しています。中国のある女子学生がキャッシュカードを亡くしたところ、その2週間後に銀行から通知が来て初めて気づくなど、スマホによる決済が日常化しています。

米国では、支払いはクレジットカート、次に小切手が一般的。中国でも、一時はクレジットカードが普及したものの、支払いのたびにIDカードの提示を求められ、不便でした。そこで普及したのがデビットカード。日本で爆買いする中国の観光客は、主に銀聯カードを使っています。

デビットカードをデジタル化したのがフィンテック。フィンテックにより、支払いもできるし資産管理、資産運用も可能となります。中国におけるスマホ決済のサービスはアリババの「Alipay(支払宝)」とテンセントの「WeChatPay(微信支払付)」が二大勢力であり、約7億人のユーザーがいます。

4. 外貨準備高の減少と資本の逃避

中国の外貨準備高は、年次ベースでは14年末に3兆9000億ドル、月次ベースでは14年6月に約4兆ドルでピークを付けています(図表3参照)。その後急速に減少し、17年1月末には一時3兆ドルを下回り、6月末には3兆570億ドルに回復したものの、大きくは回復していません。

 図表3 中国の外貨準備高

外貨準備とは、一般に対外支払いに備えて中央銀行が管理している外貨の流動性のこと。中国には現在3兆ドルの外貨準備があるものの、そのうちやく1兆数十億程度は米国債であるとみられます。輸入代金の決済に備えるためには、少なくとも1兆8000億ドルの外貨準備が必要であるとみられますが、米国債は売るわけにはいかないので、外貨準備は必ずしも潤沢にあるとは言えません。

14年6月からの3年間で、1兆ドルの外貨準備が減少したわけですが、同じ期間に個人が商業銀行に預けている外貨も約1兆ドルの減少となりました。中国では、ごく最近まで外貨が不足していたので、個人の保有する外貨をなるべく銀行に集めるとの意図から、外為集中政策をとっていました。

外貨準備と商業銀行にある外貨預金を合わせて2兆ドルが減少したことになりますが、タックスヘイブン、あるいはニューヨークに流れたとみられています。ニューヨークのここ数年の株高には中国の資金も寄与しているとみられます。中国の景気減速、あるいは不動産価格上昇による不動産バブルの警戒から、資金が海外に逃避しているとみられます。

次回は、為替管理、金融政策などについて見る予定です。

中国と米中関係 (3) 構造問題 平成29年8月25日

おはようございます。今回は、構造問題などについて考えます。

1. 輸出の後退と過剰な投資

中国の共産党政権は、これまで高い経済成長率の目標を掲げてきました。党大会などで示唆して年単位の国内総生産(GDP)の目標を概ね達成してきたわけですが、人口の伸びによる労働力を吸収し、それにより社会の安定化を図ることを目指してきました。

ただ、経済の規模の拡大、人口の高齢化、産業構造の高度化が進み、景気の牽引役としては、従来の輸出及び固定資本形成(投資)から、個人消費に牽引役が移り、過剰な不動産投資が抑制されることが期待されてきました。過剰な投資により、中国が鉄鉱石などの資源を「爆買い」し、商品市況が高騰する、あるいは国内の環境汚染につながるなどの批判もありました。

ここで、中国の需要項目別GDP構成比をみると、輸出は1970年には3.2%にすぎなかったものが、2006年には38.6%に拡大(図表1参照)。輸入も同様に3.1%から31.1%まで拡大。安い人件費などを武器に「世界の工場」として中国が君臨し、中国の景気拡大を牽引。ただ、その後は人件費の上昇などにより、繊維、化学など付加価値の低い産業の競争力の低下、経済のソフト化などにより、輸出が牽引役から後退していることがわかります。

さらに、家計消費は1970年以降に低下し、最近はやや持ち直す傾向にあるものの、依然として力強さに欠けます。中国では、企業が賃金に回る比率、すなわち労働分配率が低く、さらに年金など社会保障も遅れていることから、貯蓄率が高止まりしています。

貯蓄率の高さもあり、設備投資などの固定資本形成の比率が上昇。不動産への投資は、地方政府にとっては重要な収入源であることもあり、固定資本に依存した経済成長が続いていると言えます。

 図表1 中国の需要項目別GDP構成比の推移

主要国の投資がピークにあった年における投資、即ち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%(図表2参照)。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

 図表2 主要国のGDPに占める投資の割合が最大となった年

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

2. 過剰設備廃棄も進まず

国有企業における統治(ガバナンス)の改革、過剰設備の廃棄も従来言われてきているものの、ほとんど進んでいません。特に過剰な設備を抱えているのが、自動車、造船、鉄鋼、セメントなどであり、国有企業において特に過剰な設備の廃棄が進んでいません(図表3参照)。例えば、鉄鋼においては生産高が世界的に突出しているものの、低価格の鉄鋼の輸出により、世界的に鉄鋼業が不況に陥っています。

中国が欧州への通商路を確保し、陸と海の沿線の開発を進めようとしている「一帯一路」構想についても、アジアインフラ投資銀行の後押しにより、鉄鋼、セメントなど中国の過剰な生産を解消しようとしているとみることもできます。

 図表3 主要産業の過剰設備比率

主要国の投資がピークにあった年における投資、すなわち総固定資本形成のGDP比を見ると、日本の1973年の36.4%に対して、中国の2013年は44.6%。米国などほかの主要国の水準と比較しても突出しており、中国の投資への高い依存度が際立っています。

3. 民間債務が拡大

中国では、民間部門の債務が拡大。国際決済銀行(BIS)が16年12月に公表した「日金融部門向け与信統計」によると、16年6月末時点における中国民間部門の債務残高は約2兆ドル。15年末からの半年間で約1兆ドル増加。

民間債務のGDPは+6.7%ポイントの増加で、209.4%。2010年末比では、民間債務のGDP比の増加は+61.5%ポイント。日本のバブル崩壊直前の1989年が208.0%であり、ほぼ同水準。の本のバブル期と比較すると、中国の民間債務の規模はすでに適正水準を超えているとみられます。

 図表4 アジア主要国の民間債務GDP比

過剰な債務の拡大の背景として、地方政府がいわゆる「影の銀行」(シャドーバンキング)という、正規の融資のルート以外からの資金調達を行い、過剰な不動産投資を行っていること、国有企業が依然として過剰な投資を続けていることなどがあります。「影の銀行」については、後程、リスク要因を見る際に考察する予定です。

次回は、ネット取引、フィンテック、外貨準備などについて見る予定です。

中国と米中関係 (2) 米中関係 平成29年8月18日

おはようございます。今回は、米中関係などについて見ます。

1. 19世紀の経済大国中国

かつてゴールドマン・サックスに所属したジム・オニール氏は、ブラジル、ロシア、インド、中国をBRICs諸国と名付け、特に中国が今後大きく発展すると述べました。その後、南アフリカも加えて「BRICS」という概念を提唱したわけですが、中国の国内総生産(GDP)は、日本を追い抜き、やがて米国をも追い抜くと予測しました。

中国経済はGDPの規模ですでに日本を追い抜いており、現在は習近平主席が「一帯一路」すなわちかつての絹の道(シルク・ロード)のように、中国と欧州を陸と海で結び、交易を活発化させようとしています。そのために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しました。AIIBには日米両国は参加しなかったものの、ロシア、インド、ブラジルなど主要な新興国のほか英独仏伊など欧州の主要国、あるいは豪州、カナダなど多くの先進国も参加しており、中国は経済的な覇権の確立に向けて、邁進していると言えます。

ただ、歴史的に見ると、中国は黄河文明以来、多くの期間において政治的、あるいは経済的に大国であったと考えることができます。18世紀において中国は隆盛を誇っていましたが、1840年のアヘン戦争を契機として、急速に国力が衰えることとなりました。

それ以前の状態では、マディソン(1926-2010)によると、1820年のGDPランキングでは、中国は1位で3割弱という大きな比率でした(図表1参照)。以下、インド、フランス、ロシア、英国、日本と続いています。かつては、中国、インドという2大文明国が大きな比率を占めていました。人口がこれら文明の発展の大きな要因であったと考えられます。今後の人口動態を考えると、中国、インドの優位性が考えられます。

 図表1 1820年世界のGDP順位

2. 米中間貿易の特徴

トランプ米大統領の就任以来、米国と中国との間の貿易摩擦の高まりが懸念されてきました。まず、米中間の主要貿易品目をみておきましょう。米国から中国への輸出品目では、飛行機・部品すなわちボーイングが最も大きく13.3%(図表2参照)。このほか、種子・穀物も大きく、大豆、小麦、トウモロコシなどを多く輸出しています。米国の農産物の約70%が中国向け。米中両国の貿易に関する100日プランでも、中国は米国からの農産物輸入拡大を求められています。

 図表2 米国から中国への主要輸出品目(2015年)

次に中国から米国への輸出品目を見ると、家電が27.6%で最も多く、iPhoneなどのスマホが含まれます(図表3参照)。ただ、スマホの素材、部品の多くは日本および韓国で生産されており、中国では単に組み立てが行われているにすぎないとみられます。中国はiPhoneの輸出で売り上げの7%を受け取るものの、残りの93%はアップル社や部品を供給している日本・韓国などが受け取っています。

 図表3 中国から米国への主要輸出品目(2015年)

次に大きいのは産業用機械で、21.5%を占めています。ここに含まれるPCについては、半導体のICチップなど高付加価値の部品の多くはインテルなど米国あるいは外国企業が作成。PCについても中国は基本的には組み立てるだけという構図。家電と産業用機械を合わせると50%近くなるため、米国が中国の輸出を抑制すれば、かえって米国など先進国の企業が困るだけということになります。

貿易については、大幅に中国の輸出超過である者の、米中両国の補完性が強いと言えます。さらに、サービス貿易では中国が大幅に赤字。最も大きなのがロイヤリティー収入であり、中国から米国への留学費用も中国側の大幅赤字。したがって、米中間は補完性が強く、一方的に米国が中国に対して制裁を科すのは難しい状況であると言えます。

3. 第1回米中包括経済対話を開催

トランプ大統領は、選挙期間中から中国をたびたび攻撃。米国の中国に対する貿易赤字、人民元について強硬な姿勢をとってきました。ただ、大統領就任後には、実際には強硬な措置は何も取っておらず、対北朝鮮に対する中国の圧力増大のカードとして温存しているのでなとの観測もあります。

米中両国は、7月19日に第1回の米中包括経済対話を開催。今回は、両国間の貿易・投資を巡る問題や、4月の米中首脳会談で合意した「100日計画」などについて議論を交わしました(図表4参照)。

中国は対話の結果について、相互理解や信頼を深めることで、今後の基礎を築くことができたとして、一定の成果を上げたと評価。ただ、具体的な議論の結果についてはあまり明らかにされていません。

 図表4 経済対話における議題

注目されていた「米中経済協力の100日計画」については、「重大な進展」がみられたと中国側は評価。同計画は17年4月の米中首脳会談で合意されたもの。17年5月には、早期合意が可能であった農業・エネルギーや金融サービスなどの分野における10項目の協力が、「100日計画」の一環として発表されました。

今回の対話の結果、今後「1年計画」が策定され、実施されることとなりました。マクロ経済、金融、貿易協力、投資協力、経済分野のグローバルガバナンスなどの領域で、協力を進めることとなりました。

ただ、対話後に予定されていた共同記者会見が中止され、共同声明も発表されなかったことから、多くの問題が解決されずに先送りとなった可能性が高いとみられます。北朝鮮の核・ミサイル開発問題が影響する可能性もあり、米中間の貿易問題には、引き続き不透明感があります。

次回は、構造問題、フィンテックなどを見る予定です。

中国と米中関係 (1) 成長率など 平成29年8月11日

おはようございます。中国経済の現状と米中関係などについて考えます。

1. BRICsの成長率

まず、中国経済を概観しておきましょう。中国は従来、代表的な新興国であるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で、特に高い成長率を維持してきました。ところが、15年には中国の+6.9%に対して、インドが+7.9%と逆転(図表1参照)。さらに、国際通貨基金(IMF)の予測では、17年においても中国+6.5%、インド+7.1%とインドの優位が今後も継続する見込み。

中国はほかの主要な新興国と比較すると、今後も高い成長率を維持する見込みであるものの、経済の行き勢いに陰りが出ています。IMFは、中国の成長率が今後さらに成長率が低下すると予想しています。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

2. 4-6月期GDP成長率は+6.9%

中国の国家統計局は17日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.9%の伸びだと発表(図表1参照)。成長率は今年1-3月期から横這い。市場予想の+6.8%から上振れ。政府によるインフラ投資などにより、景気減速を回避。指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の共産党大会を控え、習近平政権が経済の安定を優先する姿勢を示唆。

中国の成長率はここ数年で減速傾向が続いていましたが、今年は26年ぶりの低い伸び率であった16年通年の+6.7%を上回る水準で推移。政府の通年目標である「+6.5%前後」をも上回ることとなりました。 

 図表2 中国の四半期成長率(前年同期比)

3. 鉱工業生産伸び率は予想上回る

中国の国家統計局が17日に発表した統計によると、6月の鉱工業生産は前年同月比+7.6%と、前月の+6.5%から加速。市場予想の+6.5%を上回りました。

 図表3 中国の鉱工業生産(前年同月比)

4. 6月小売売上高は予想上回る

一方、中国の国家統計局は同日に、17年6月の小売売上高が、前年同期比+11.0%になったと発表(図表2参照)。市場予想の+10.6%を上回り、前月の+10.7%からも加速。

 図表4 中国の小売売上高(前年同月比)

5. 1-6月固定資産投資は予想上回る

他方、同日発表の1-6月の固定資産投資は前年同期比+8.6%。市場予想の+8.5%から下振れしました。1-5月の+8.6%から伸び率は横這い。

ただ、1-6月の固定資産投資の伸びの前年同期比+8.6%は、1-3月の+同9.2%からは伸び率が鈍化。道路や空港などインフラ投資は+21.1%と大幅に伸びたものの、不動産開発投資などが減速。

中国人民銀行(中銀)は、年初から市場金利を高めに誘導。金融政策を引き締め気味にしており、住宅ローン金利や社債金利も上昇。北京や上海では住宅の販売が減少しており、不動産市場の失速が年後半の中国の国内総生産(GDP)を押し下げる可能性もあります。

6. 今後も成長率低下が継続か

このように、中国の成長率はロシア、ブラジルなどに比べれば引き続き高水準を維持しているものの、今後も伸びは鈍化していくと予想されます。その主な要因は人口の高齢化、生産年齢人口(14-64歳の人口、中国の定義では一般に60歳まで)の減少、最低賃金の上昇による製造業の競争力の低下などがあります。

さらに、経済のソフト化の進展により、投資が減少する傾向にあります。これまでは、固定資本形成、すなわち投資と輸出が経済を牽引してきました。新たに個人消費など内需が牽引役となるべく期待されていますが、主役の転換が進んでいません。また、国有企業改革が遅れるなど、構造改革の遅れも目立ちます。構造改革については、後程、課題とリスクという観点から見ていきます。

次回は、米中関係などを見る予定です。

世界経済の長期停滞 平成29年8月4日

おはようございます。世界経済の長期停滞について見ます。

1. 世界経済の概観

まず、世界経済のこれまでの推移を見ておきましょう。世界経済の成長率は、1930-90年には+3.84%であったものの、08-16年には+3.23%に、16年には3.08%に低下(図表1参照)。特に先進国では顕著に低下しており、米国では83-90年+3.36%から、01-07年+2.45%、16年には+1.58%に低下。ユーロ圏、日本も大幅に低下しているほか、新興・発展途上国でも低下傾向にあります。

 図表1 世界経済の成長率

インフレ率についても、ほぼ同様の動き。世界のインフレ率(物価上昇率)は、83-90年には+17.05%であったものが、01-07年ニハ+4.03%、05-16年には+3.82%へと大幅低下。米国においては、83-90年の+3.86%が01-07年には+2.69%へと低下。ユーロ圏、日本でも大幅に低下しており、特に日本では、83-90年の+1.62%が01-07年には▲0.27%と、デフレ圏に突入。中南米でも、83-90年には+205.43%のハイパーインフレであったものが、08-16年には+5.08%まで低下。新興国においても、中央銀行の主要な課題はインフレ抑制よりも、景気刺激に移ってきた感があります。

 図表2 世界のインフレ率

2. 長期停滞論

長期停滞論とは、ローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授が提唱して、主に米国で盛んになったものです。低成長・低インフレ・低金利の長期化、すなわち「長期停滞」は、過剰貯蓄が自然利子率(完全雇用と整合的な利子率)を押し下げ、「金融緩和が無効化する」ことによって発生するとしています。

長期停滞の問題点としては、1つ目に経常黒字国(世界的には過剰貯蓄を容認している国)の存在が、近隣窮乏的な効果を持つ。すなわち、日本や欧州、中国などの経常黒字が、世界的に金利を押し下げる方向に働いているが、その世界需要刺激効果は小さい。2つ目に、金利が効かない世界では、低金利政策は新規の需要ではなくストック(資産)・インフレを刺激する。3つ目に、「長期停滞」は、所得格差の拡大(中間層の崩壊)によって増幅される。としています。

世界的にゼロサム的な長期停滞議論では、日本、中国、ユーロ圏などの経常黒字国が世界の長期停滞を増幅させている眼鏡とされ、敵対視されます。

また、自然利子率が下がり、金融政策が無効化している状況においては、特に形状黒字国は財政支出を拡大させることが望ましいとされます。金融緩和は、経常黒字を拡大させ、資産インフレを促進するだけであるとされます。特に日本においては、積極的な財政出動により、財政赤字が急拡大しました。

3. 企業の主役も交代。

企業の主役も交代。17年6月末の時価総額上位10社を見ると、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾンなど米国のIT企業が独占。業種ではITが多いほか、国別では、中国の2企業もランクイン。10年前には、上位10位に入っていたIT企業はマイクロソフトのみであり、まさに様変わりしています。

 図表3 世界の企業の株式時価総額上位(2017年6月末)

4. 新興国の主役も交代

一方、新興国の主役も交代。日本など先進国に対して、中国、インド、ロシア、ブラジルのいわゆるBRICs諸国は、相対的に高い成長率を誇ってきました。2008年ころまでは、中国を筆頭に高い成長率を維持。ただ、その後2008年9月のリーマンショック後の2009年にはロシアが▲7.8%、ブラジルが▲0.1%となり、資源国を中心として落ちおみました。

その後も、ロシア、という資源国に対して、原油などの輸入国である中国、インドが優位に立ちました。これは原油など鉱産物資源価格の下落が影響しています。さらに、15年にはインドが+7.9%、中国が+6.9%と逆転。今後も中国は人口構成などの影響で成長率が低下する見通しであり、インドの優位が続く見通し。

 図表4 BRICs諸国と日本の成長率

5. 世界的な低成長が持続か

世界的には、低成長、低金利の時代が継続する可能性があります。米国においては、完全雇用が達成されているにもかかわらず、単位当たりの賃金の伸びが低く、インフレ率も低く、長期金利もあまり上昇していません。ユーロ圏、日本では引き続き景気が低調で、低金利も継続。

IT技術の進展により、世界的に適材適所での生産が定着し、世界の貿易も停滞。米国のIT企業は、海外に利益を滞留させる傾向にあり、必ずしも米国など先進国の税収が好転しているわけではありません。また、米国本土では、アイフォンなどハイテク機器の生産が多く行われているわけではなく、製造業の雇用が減少。米国IT企業の生産は韓国、台湾、中国などで行われる傾向にあります。

この世な観点から、世界的な景気の停滞が継続し、国別では、インドなど一部の国の景気の好調が持続。業種、企業では、米国、中国などの一部IT企業が好調を持続し、一部の日本企業などが後退する可能性がります。投資にあたっても、そのような観点が必要になってくると言えます。

中南米諸国の展望 (6) メキシコ 平成29年7月28日

中南米主要国のうち、前回のチリに続いて、メキシコを見ます。

1. CPI上昇率はやや加速

メキシコ国立地理情報研究所は7月7日に、メキシコの6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+6.31%になったと発表(図表1参照)。5月の同+6.16%からやや加速。市場予想の+6.34からはやや下振れ。

 図表1 メキシコのCPI前年比上昇率

2. 1-3月期は+2.7%

メキシコ統計局は5月22日に、17年1-3月期国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+2.8なったと発表。10-12月期の同+2.7%(確定値)からやや加速(図表2参照)。市場予想は+2.7%。

 図表2 メキシコの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を引き上げ

一方、メキシコ中央銀行は、6月22日の政策決定で、政策金利である翌日物貸出金利を+0.25ポイント引き上げ、+7.0%にすることを決定(図表3参照)。利上げは、市場予想の予想通り。

 図表3 メキシコの政策金利

5月のインフレ率は+6.16%と、09年4月以来、約8年ぶりの高い水準にまで上昇。中銀はインフレ率の目標を+3%程度をしており、足下では目標を大きく上回る水準となっています。

4. 政治

メキシコでは、2012年12月のペニャ政権が発足。財政、エネルギー、教育金融など多くの分野での改革を進めました。15年6月の連邦議会下院中間選挙(全500議席改選)では、与党PRI及び協力政党合計で過半数を確保し、ペニャ政権後半の政権運営に安定感をもたらしました。

主な改革として、まず教育改革では、労働組合の教員人事への介入を排除し、能力ベースの教員採用・評価制度を導入し、公教育の質向上を図っています。通信改革では、通信セクターの外資規制緩和、通信・メディアの新たな監督規制機関設立などにより、競争力強化、通信費引き下げなどを図っています。

最近問題となっているのは、米国との対立。米トランプ政権は、メキシコからの不法移民を問題視し、米国とメキシコとの間に壁を作り、その費用もメキシコに負担させるとしました。また、米国あるいはトヨタなどの企業がメキシコに新たに向上を作るとの意向についても、「アメリカ・ファースト」を掲げて牽制。米国の雇用と守るとしました。

5. 強み、課題、リスク

ブラジル、ベネズエラなどでは、資源価格の低下により、現政権に対する批判が高まっています。対して、メキシコは中国経済への依存度が低く、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国であるため、米国と強いつながりがあります。米景気の拡大を受けた輸出の拡大、内需の緩やかな回復が見込まれることが強み。また、自動車産業など製造業も発展。

ただ、米トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)を見直すと表明。自動車などの米国への輸出に支障をきたす恐れがあります。また、米国には多数の中南米系の不法移民がおり、強制送還される可能性もあります。

また、麻薬絡みの犯罪も頻発。首都メキシコ市南方のテミスコ市で、麻薬撲滅を目指して当選したギセラ・モタ新市長(33)が就任の翌日に、麻薬がらみのギャングに殺害されるなど、治安悪化が依然として深刻。

今後の注目点としては、石油鉱区の入札が順調に進展するかどうかということ。また、リスク要因としては、米国の景気(特に鉱工業生産)の下振れ、原油価格の低迷とメキシコにおける原油生産の減少、またそれに伴う財政への影響、米国の利上げによる海外の投資家による投資資金の引き上げの可能性などがあります。

6. 為替と株価

ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、16年8月には1ドル=18.0ペソ近辺での取引でしたが、17年1月にはどう21.4ペソ近辺へと大幅下落。トランプ大統領がメキシコとの通主関係を見直す方針を示し、メキシコの輸出の減少などを警戒して大幅に下落しました。

ただ、その後はメキシコに対する具体的な政策の発表はなく、米国とメキシコとの壁の建設についても、何ら具体化していません。そのため、ペソは対ドルで急反発。7月には1ドル=17.5ペソ近辺へと上昇しました。

 図表4 メキシコ・ペソ(MXN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年には原油価格の低迷などにより、15年にはほぼ横這いの動き。その後、投資家の資金が新興国に戻ったことなどにより、16年には反発。ただ、トランプ政権のメキシコへの政策を懸念して16年秋には下落。その後は通貨ペソと同様に、トランプ政権に対する懸念の後退などにより、17年初めからは大幅に上昇しました。

 図表5 メキシコ・ボルサ指数

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、米国が離脱を表明。ただ、残る11か国は締結の方向で疎いています。TPPが締結されれば、日本などアジア諸国との貿易が発展する可能性もあります。メキシコ市の新国際空港の建設、自動車産業に関連しては輸出港(ベラクルス港など)の整備の計画もあり、インフラ(社会的基盤)の整備も期待できます。

麻薬がらみの汚職・犯罪、また経済が原油価格の影響を受けやすいことなどがあるものの、製造業の発展により、緩やかな景気拡大、また中長期的な株価の上昇も期待できます。

中南米諸国の展望 (5) ペルー 平成29年7月21日

前回のチリに続き、今回はペルーを見ます。

1. 金利を2回引き下げ

ペルー中央準備銀行は17年5月11日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて4.00%にすることを決定(図表1参照)。その後、7月13日の同会合でも▲0.25%ポイント引き下げて3.75%としました。

中銀は政策金利を引き下げたことについて、「インフレ率は17年の目標値(+1.0〜3.0)の範囲内にある。食品とエネルギーを除くインフレ率は低下を続けており、目標値の範囲内にある。国内経済の成長率は、潜在成長率を引き続き下回っている。政府と民間の支出の増加により、今後成長率は上向くと予想される」としました。

 図表1 ペルーの政策金利

2. インフレ率が6月に減速

一方、ペルー国家統計局によると、7月3日発表の6月CPIは前年同月比+2.73%と、前月の+3.04%から減速(図表2参照)。中銀が目標とする+1.0〜3.0%のインフレ目標の範囲内にあります。インフレ率は3月に同+3.97%まで加速したものの、その後は鈍化が継続。

 図表2 ペルー消費者物価指数(前年同月比)

3. 17年1-3月期GDPは+2.1%

他方、ペルー国家統計局によると、17年1-3月期の同国の実質GDP成長率は+2.1%となり、昨年10-12月期の+3.0%から減速。市場予想の+2.7%からも下振れ。15年1-3月期以来の低成長となりました。

主な要因は、エルニーニョ現象に関連した北部の大規模な洪水。建設が打撃を受けて、▲5.3%。一方、プラスとなったものは、輸送が+2.5%、サービス+0.6%、製造業+1.7%、鉱業+4.1%、電気・ガス・水道+1.0%、漁業+37.7%など。

 図表3 ペルー四半期成長率(前年同期比)

4. 強み、課題、リスク

ペルーは、1980年代には経済運営の失敗からハイパーインフレーションが発生し、経済が破綻状態に陥りました。しかし、1990年代に発足したフジモリ政権において、経済自由化・健全財政を進め、経済が再生。同政権後も、新自由主義的な経済政策が継続され、貿易の自由化も進展。2009年には米国とFTA(自由貿易協定)が発足し、11年には日本と経済連携協定(EPA)に署名。

ペルーは中南米における優等生とした脚光を浴びており、高い経済成長と健全な財政を誇っています。物価、金利が安定し、外貨準備も高水準に積み上がり、国際収支や対外債務の面で、流動性について殆ど問題がないと言えます。

ペルーの成長を支えたのは、資源価格高騰による海外からの鉱山部門への投資。海外からの投資により、国内の投資は家計部門の消費が活気づきました。フジモリ政権下で、公営鉱山が民間部門に売却され、経済が活性化しました。

ただ、ペルーには金、銀、銅、鉛、亜鉛などの鉱物資源が豊富にあり、輸出に貢献しているものの、これら鉱物資源に頼りすぎている面があります。14年には、中国の景気減速などにより、銅など鉱物資源価格が大幅に下落しました。今後は、鉱物資源に頼らず、製造業などを発展させていくことが課題であると言えます。

5. 為替と株価

ここで、ペルーの株価及び為替の動きを見ましょう。ペルーの通貨であるペルー・ヌエボ・ソルは、対ドルで13年以降には下落基調。15年後半には1ドル=3.1ソル近辺での取引。その後はやや強含み、16年3月初めには、1ドル=3.45ソル近辺での取引。7月19日には、1ドル=3.2395ソルで終了。

 図表4 ペルー・ヌエボ・ソル(PEN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるIGBVL指数は、13年初めから継続的に下落(図表5参照)。14年春ころからはやや反発したものの、14年後半からさらに大きく下落。中国の資源爆買いの停止により、金、銀、銅、亜鉛などの価格が下落。ペルー国内の景気の後退もあり、株価も軟調な展開となりました。

 図表5 ペルー・IGBVL指数

ペルーでは嘗て、左翼ゲリラが暗躍し、低成長の国でした。鉱物資源は豊富であるものの、インカ帝国の遺産があるほかは、日本にとって余りなじみのない国でした。その後はフジモリ政権の発足に伴い、経済の自由化が進み、成長率も高まりました。

今後もチリ、メキシコなど「太平洋同盟」加盟の1つの国として、発展が期待できます。米トランプ政権はTPPからの離脱を発表したものの、残り11か国でTPPが成立すれば、ペルー経済にとってはプラスに作用する可能性があります。

次回は、メキシコを見る予定です。

中南米諸国の展望 (4) チリ 平成29年7月14日

前回のアルゼンチンに続いて、今回はチリを見ます。 1. 金利を5月に引き下げ

チリ中央銀行は5月18日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて2.5%にすることを決定(図表1参照)。

中銀は会合後の声明で、「国際的な金融環境は引き続き好ましく、経済指標は、先進国における力強い成長のシナリオを後押している。消費市況は引き続き区々の動きで、銅価格は下落している」としました。

さらに中銀は、「国内に目を移すと、インフレ率は+2.7%にとどまっており、近い将来の予想は目標値に近い。生産と需要の予想は3月の金融政策報告に沿ったものであり、鉱業と建設ではネガティブな影響がある」としました。

 図表1 チリの政策金利

2. インフレ率が1月に減速

一方、消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は、鈍化を続けています。7月7日発表の6月CPIは前年同月比+1.7%と、前月の+2.6%から減速(図表2参照)。市場予想の+2.9%からも下振れ。

 図表2 チリ消費者物価指数(前年同月比)

3. 1-3月期GDPは+0.1%に減速

他方、チリの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比+0.1%と、前期の同+0.5%から減速(図表3参照)。2009年7-9月機以来の低成長となりました。2月に発生し、40日余りに及んだ主要鉱山であるエスコンディーダ鉱山のストライキが輸出を押し下げたのが響きました。経済活動別で目立ったのは、水産業で、禁漁区域の解除に伴う鰯漁獲量が5倍強になるなどして、前年同期比+34%と急増。

 図表3 チリ四半期成長率(前年同期比)

4. 政治

1973年のクーデターによりピノチェト軍事政権は、88年10月の国民信任投票で敗北。89年の選挙でエイルウィン大統領が選出され、90年に民政に移管。その後、4期連続して中道左派政権が継続。

その後、10年に民政移管後初の中道左派政権として誕生したピニュラ政権は学生のデモなどにより、具体的成果を出せませんでした。13年末の総選挙により、中道左派連合に共産党が加わる多数派により、バチェレ前大統領が勝利し、14年3月に新政権が発足。税制改革、選挙制度改革、教育制度改革などの法案を議会に提出。ただ、親族の不正土地売買疑惑により支持率は低下。チリは中南米にあっては、比較的政情が安定していると言えます。

本年11月の次期大統領選に向けて、与党会派では、17年3月11日に、ゴイック・キリスト教民主党党首が同党の大統領候補として立候補する意向を表明。社会党では、インスルサOAS事務総長とアトリア弁護士が立候補の意向を表明。野党会派では、3月21日にピニェラ前大統領が大統領選挙への立候補を正式に決定。

5. 課題、リスク

チリは「中南米らしくない」ともいわれる堅調な発展を遂げているわけですが、米英型の新自由主義に基づく経済運営が功を奏しています。自由化、対外開放を進め、公共部門の肥大化を招かずに経済の効率性が高まり、健全財政を標榜してきました。

格付けでみても、直近でチリについてS&PがAA−(見通しはネガティブ)、ムーディーズがAa3(同安定的)、フィッチがA+(同安定的)としています。格付けは中南米諸国の中で相対的に高く、優等生と言われます。宗教的、民族的対立なども少なく、社会的な対立が少ない国であると見られます。

ただ、経常赤字は拡大傾向にあります。国際通貨基金の予測では、経常収支は15年▲17.93億ドル、16年▲39.47億ドル、17年▲47.33億ドルで、国内総生産(GDP)比ではそれぞれ、▲0.74%、▲1.64%、▲1.88%と悪化の見通し。

また、他の多くの中南米諸国と同様、資源の輸出に依存しています。原油は純輸入国であるため、原油価格の下落は貿易収支に対してプラスに働くものの、銅など鉱産物の価格下落が痛手。通貨チリ・ペソも同価格に連動する傾向にあり、中国などの景気後退、鉱産物の需要減少が景気にとってはマイナスになります。

インフレ率については上記のとおり、低下傾向にあります。4月のCPIは前年同月比+2.7%と、前月の+2.7%からは横這い(図表2参照)。5月が同+2.6%、6月は+1.7%と、インフレ目標の+3%±1%を下回っています。中銀にとっては、インフレ物価よりも景気梃入れが課題となっています。

6. 為替と株価

ここで、チリの株価及び為替の動きを見ましょう。チリの通貨であるチリ・ペソは同価格に連動する傾向にあります。中国などの需要の後退で、2014年初めから銅価格が急激に下落し、その影響で通貨ペソも軟調な展開。ただ、2016年1月から10月まではほぼ横這い。その後はやや反発しました。

通貨ペソもほぼ同様の動き。昨年10月以降はやや反発する動き。ただ、チリ国内の景気の後退もあり、17年に入ってからはほぼ横這いの展開(図表4参照)。

 図表4 チリ・ペソ(CLP/USD)

株価もほぼ同様の動き。チリの代表的な株価指数の1つであるサンチアゴ指数は、14年初めから16年初めにかけては軟調な展開。その後は、17年1月頃まで大幅上昇。その後はチリ国内の景気後退の影響などにより、ほぼ横這いの展開(図表5参照)。

 図表5 チリ・サンチアゴ指数

チリは政治的、社会的に安定しており、高い格付けを維持しています。ただ、経済は依然として銅など鉱物資源の輸出に依存しています。今後は、製造業、第三次産業の発展を図り、均衡のとれた発展を目指す必要があります。ただ、ペルーなどと同様、中南米ではチリも所属する太平洋同盟諸国がブラジル、アルゼンチンなどの所属するメルコスルよりは発展する傾向にあります。今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結、それによる貿易の活発化が進むとすれば、チリ経済にとっては恩恵となることも考えられます。

次回は、ペルーを見る予定です。

中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン 平成29年7月7 日

中南米主要国のうち、ブラジルに続いてアルゼンチンを見ます。

1. 金利が高止まり

アルゼンチン中央銀行は6月27日に、政策金利を26.25%と、5会合連続で維持(図表1参照)。中銀は、インフレとの取り組みについては成果を強調し、同行の目標である17年中の+12〜17%という目標に向けてインフレ抑制姿勢を継続すると強調。

 図表1 アルゼンチンの政策金利

2. インフレ率が急上昇

一方、5月のブエノスアイレス市発表インフレ率は、前年同月比+24%(図表2参照)。インフレ率には、やや収まる兆しがあります。ただ、アルゼンチンの統計自体疑問が呈されることが多く、どこまで実態を反映しているかについては、不透明な部分もあります。

 図表2 ブエノスアイレス市発表消費者物価指数(IPCA)

3. 17年1-3月期GDPは+0.3%に改善

他方、アルゼンチンの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比0.3%(図表3参照)。昨年10-12月期の▲1.9%からは改善したものの、依然として低迷しています。16年には、財政・金融の引き締めなどの経済政策により、景気は減速すると予想されていましたが、ほぼ予想通りとなりました。

 図表3 アルゼンチンの四半期成長率(前年同期比)

4. 政治、課題、リスク

アルゼンチンでは、第二次大戦後にほぼ一貫してペロン等の支配が続きました。経済危機後の03年から、ペロン等左派のキルチネル夫妻が大統領として政権を担当。15年10-11月の大統領選挙では、中道右派のマクリ候補が、キルチネル主義(大衆迎合的政治、市場介入、保護主義的政策)からの決別を訴えて、キルチネル派の候補を破って当選(写真1参照)。キルチネル政権における汚職、経済低迷への反発があったとみられます。

 写真1 ブエノスアイレスで行われた決選投票で投票する野党候補マウリシオ・マクリ氏

マクリ新政権は、キルチネル前政権とは違い市場寄りの政策を提示。経済政策としては、外貨準備回復のための措置、輸出規制の緩和、また、金融政策としてはインフレ・ターゲットの導入などを推進。その他、エネルギー補助金の段階的な削減など、価格統制・消費刺激策の期限を設定しました。



5. 対外債務問題で前進



アルゼンチンは2001-02年に800億ドルの負債を抱えて債務不履行(デフォルト)に陥りました。その後政府は民間債権者に対して、一方的な債務再編案を提示。その条件に応じず、債務交換に応じなかったいわゆる「ホールドアウト債権者」の一部(米系ヘッジファンド)は、デフォルトした債券(国債)の全額返済を求め、NYで提訴。



NY連邦地裁は12年2月に、原告の主張を支持。アルゼンチン政府は上告するも、米最高裁は14年6月に上訴を棄却。アルゼンチン政府は原告への支払いを行なわず、債務再編に応じた債権者への支払いもできなかったため、再びデフォルト(テクニカル・デフォルト)。



マクリ政権となり、米系のいわゆるハゲタカファンドとも呼ばれる投資家などとの交渉を開始。2月上旬以降、欧米の複数の投資グループとの間で、返済案に合意。アルゼンチン政府は米投資ファンド側への支払いを行い、デフォルトを解消。



2002年のデフォルト依頼、アルゼンチンは国際金融市場から事実上締め出されていたため、ベネズエラや中国などに外貨建て国債を購入してもらうなどして苦境をしのいでいました。デフォルトが解消されたことにより、国際金融市場に復帰し、資金調達する道が開かれました。



6. 為替と株価



ここで、アルゼンチンの株価及び為替の動きを見ましょう。アルゼンチンの代表的な株価指数の1つであるメルバル指数は、15年初めからほぼ一貫して上昇(図表4参照)。マクリ政権が市場よりの政策をとることへの期待、デフォルトの解消などを好感しているのが原因であるとみられます。

 図表4 メルバル指数

続いて通貨についてみると、アルゼンチン経済はペロン党のフェルナンデス政権時代に迷走を続けていました。そのため、通貨ペソが大きく下落。特に、2011年から15年にかけて大幅下落。ここ1年でみても、下落が継続(図表5参照)。

 図表5 アルゼンチン・ペソ(ARS/USD)

マクリ大統領は15年12月の就任直後に、経済活動をゆがめていた外貨取引規制を緩和。輸入、観光、投資などに関する規制を撤廃。その結果、15年11月に1ドル=9.5ペソであった公式レートは、闇レートにさや寄せされ、16年2月には1ドル=14.8ペソまで下落16年9月以降には1ドル=15ペソ台となり、17年7月には1ドル=17ペソ近辺まで下落しています。



次回は、チリを見る予定です。

中南米諸国の展望 (2) ブラジル 平成29年6月30日

中南米主要国のうち、まずブラジルを見ます。

1. 政策金利を▲1.00%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は5月31日の金融政策委員会で、政策金利を▲1.00%ポイント利下げして10.25%にすることを決定(図表1参照)。利下げ幅は6会合連続。ブラジルは2年連続でマイナス成長となったものの、足下では景気に下げ止まり感もあります。中銀は、さらなる緩和により景気の下支えを図っています。

前回2月会合の▲0.75%から拡大。利下げは5会合連続で、全員一致。16年10月以来の利下げ幅は合計で▲3.00%ポイント。中銀は、利下げ幅▲1%以上の金融緩和を今後も続ける姿勢を見せています。

▲1%の引き下げ幅は、前回4月の会合に続いて2回連続。ブラジルでは、インフレ率が急速に低下しており、5月の消費者物価指数(IPCA)が+4%を割り込むなど、長年の課題であるインフレ抑制が実現しつつあります。そのため、金融緩和の余地が拡大しています。

中銀は声明で「インフレ率は好ましい水準を維持している。ブラジル経済は短期的に安定し、長期的には徐々に回復している」としました。ブラジル地理統計院(IBGE)が31日に発表した統計では、失業率が3年ぶりの低下に転じました。

 図表1 ブラジルの政策金利

2. インフレ率が減速

一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+3.6%と、前月の同+4.08%から減速(図表2参照)。伸び率は市場予想の+3.77%を下回り、インフレ率は9か月連続で低下。中銀のインフレ目標値である+4.5%に収まっています。

 図表2 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

3. 1-3月期GDPは▲0.4%に改善

他方、ブラジル地理統計院は6月1日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲0.4%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は12四半期連続。ただ、昨年10-12月期の▲2.5%からはマイナス幅が縮小。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

さらに、前期比では+1%となり、2年3カ月ぶりにプラス成長に転じました。ブラジル地理統計院は、穀物収入の増加で、農業部門が+13.4%になったことが寄与したと述べました。

ブラジル地理統計院の発表を受けて、ブラジルのテメル大統領は、同国の最悪の過去10年における最悪のリセッション(景気後退)が終了したと述べました。同氏は「ブラジルは景気後退を克服した。本日の発表は、ブラジルの景気回復が確実なものになったことを示唆している」としました。

4. 政治、課題、リスク

ルセフ前大統領が断崖裁判によって昨年8月に罷免され、副大統領のテメル氏が大統領に昇格。テメル大統領は不況が続く経済の立て直し、財政の再建、投資環境の改善を優先課題とし、改革を進める意向を示してきました。株式、為替市場もテメル政権がルセフ前政権よりも市場よりの政策をとると期待し、また景気にも上向きの兆候が出ていました。

ただ、テメル氏への汚職の疑惑などが噴出。ブラジル連邦検察庁のジャノー長官は6月26日にテメル大統領を収賄容疑で起訴。同大統領の支持率は1ケタ台に低迷。大規模な汚職疑惑により現職大統領が起訴されたことにより、政権基盤が不安定となっています。

大統領に対する起訴の受理には、下院の3分の2の賛成が必要。テメル大統領率いる与党連合では、起訴の受理を阻止できるとしています。しかし、今後も大統領については、恐喝や司法妨害の容疑などでも起訴される見込み。支持率がさらに低下する可能性があります。さらに、支持率の低下などにより、期待されていた労働法の改正が見込めなくなったとの指摘もあります。

景気については一部に明るさがみられるものの、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC諸国による原油減産継続に新鮮味がなく、シェールガスの増産も続いていることから、原油価格など鉱物資源の価格が停滞しています。

輸出も依然として鉱物資源、あるいは農産物など一次産業が中心となっており、自動車など製造業の育成が遅れています。インフレ率については急速に低下しているものの、財政赤字と経常収支赤字の縮小も課題となっており、引き続きこれらの問題が株価、通貨の上値を抑える可能性があります。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。14年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。15年に入っても下落が継続。16年1月末には1ドル=3.999レアルとなり、14年12月末比では▲50.4%の大幅下落(図表4参照)。

その後、原油価格の反発などにより、通貨も上昇に転じました。15年には通貨レアルは対ドルで+17.8%の大幅上昇。ただ、17年に入ると原油価格が停滞したことなどにより、16年末から5月末まで、+0.42%の小幅上昇にとどまっています。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価は15年には年初から4月にかけて上昇したものの、その後下落に転じて、年末まで引き続き軟調な展開。中国の景気減速、世界的な株価の提供もあり、さらに下落し、16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントの安値を付けました。

その後は原油価格の反発などにより、株価は上昇に転じました。16年には株価はボベスパ指数でみて+38.9%と、大幅上昇。17年に入ると、原油価格が停滞したことなどにより、ア株価は16年末から17年5月まで+4.1%と、小幅上昇にとどまりました。

次回は、アルゼンチンを見る予定です。

中南米諸国の展望 (1) 平成29年6月23日

ブラジルなど中南米主要国は、2008年前半までは、世界的な資源ブームにより大きく潤うこととなりました。ただ、特に14年には原油価格などが急落し、曲り角を迎えました。16年以降には、資源価格の回復とともに、景気回復の動きも見られます。主要国の現状と今後の展望を探ります。

1.中南米の概観

中南米諸国全体では、人口が6億290万人、名目国内総生産(GDP)5兆7990億ドル、1人当たりGDPは9,619ドル(国際通貨基金=IMF 2014年 データ)(地図1参照)。全体として、原油、鉄鉱石、銅などの鉱産物資源に恵まれており、ブラジル、アルゼンチンを中心として農産物の生産も盛ん。人口も多く今後の発展が期待されていますが、製造業の発達は必ずしも順調ではありません。

 地図1 中南米主要国

経済共同体としては、大きくメルコスルと太平洋同盟に分かれます。メルコスルは全体として、人口2億9143万人、名目GDP2兆7110億ドル、同1人当りGDP10,033ドル。5か国が関税同盟を結成しており、ボリビアが各国議会の批准待ち(IMF17年4月データ)。太平洋同盟は同様に、人口2億2390万人、名目GDP1兆7700億ドル、同1人当り8,530ドル。かつてはブラジルを中心とするメルコスルが中南米諸国の経済の中心となっていましたが、近年はむしろ太平洋同盟のほうに勢いがあります(図表1参照)。

 図表1 メルコスルと太平洋同盟

2. 低成長に転じる

メルコスルの国内総生産(GDP)成長率からみると、2004年以降には概ね順調に推移していたものの、2008年9月のリーマン・ショックとその後の世界的な金融不況により、2009年にはブラジルの成長率が▲0.1%になるなど、各国とも落ち込みました(図表2参照)。

 図表2 メルコスル諸国の成長率予想

さらに、原油、鉄鉱石など資源価格の下落などの影響で、16年にはブラジルが▲3.5%、アルゼンチン▲2.2%、ベネズエラ▲18.0%など大幅な落ち込みとなりました。

次に太平洋同盟諸国を見ると、2007年までは概ね順調に推移し、07年の成長率はチリ+4.9%、ペルー+8.5%、メキシコ+3.1%など、まずまずの水準で推移(図表3参照)。その後はリーマン・ショックなどにより、09年にはチリ▲1.5%、ペルー+1.0%、メキシコ▲4.7%などと低迷。ただ、10年以降には急速に回復し、メルコスル同盟諸国と比較して、堅調さが目立っています。14-16年においても、原油価格下落の影響を受けたものの、メルコスル諸国と比較すると、相対的に景気は優位性を保ちました。

 図表3 太平洋同盟諸国の成長率予想

3. 資源価格が大幅下落

このように中南米諸国、特にメルコスル主要国の成長率は大幅に低下してきたわけですが、その主な原因は中国の成長率の急激な鈍化、それに伴う原油など資源価格の大幅下落です。商品市場の代表的な指数の1つであるCRB指数を見ると、14年5月以降、一貫して急激に下落(図表4参照)。原油、鉄鉱石、銅など主要な鉱産物、あるいは金、プラチナなど貴金属の下落を反映しています。下落は16年初めまで継続。

13年前半頃まで、中国の高い成長率に支えられ、原油など鉱物資源価格は堅調に推移。その後は中国による原油、鉄鉱石など資源の「爆買い」が一転して需要の減少となり、資源価格が低下、ブラジル、ベネズエラなど資源輸出に依存する国にとっては、大きな打撃となりました。

ただ、16年初頭からは石油輸出国機構(OPEC)による原油減産、中国の「爆買い」後退による影響の緩和、米国などの景気回復で資源価格はやや持ち直しました。ただ、17年5月にはOPECなどが原油減産の延長で党委したものの、真新しい材料がなく、米国のシェールガスの増産も続いているため、原油価格は小幅反落。CRB指数も軟調な展開となりました。

 図表4 CRB指数

4. 左派勢力が後退

政治の面では、左派勢力が後退。まず、11月22日には任期満了に伴い、アルゼンチンで大統領選の決選投票が行われました。中道右派の野党候補でブエノスアイレス市長のマウリシオ・マクリ氏(56)が当選。12年間にわたる中道左派政権の継承を掲げる与党候補を破り、当選。

アルゼンチンでは、クリスチーナ・キルチネル前大統領が大衆迎合的な政治を行い、消費者物価(CPI)上昇率も高く、政府統計についても国際通貨基金(IMF)が疑問を呈していました。前政権では、国債のデフォルト(元利金の不払い)を巡って一部債権者と対立。中道右派のマクリ氏が新たに当選したことにより、市場寄りの政治になるものと期待されています。

続いて、ベネズエラで12月6日に実施された国会議員選挙(一院制、定数167)では、中道右派の野党連合民主統一会議(MUD)が大勝しました(写真1参照)。マドゥロ大統領率いる与党の統一社会党は大敗しました。同国では経済危機が深刻化。その後、大統領よりの最高裁が議会の停止を命じて、さらに停止が解除されるなど混乱が続いています。MUDは与党及び大統領との対決姿勢を強めています。

 写真1 総選挙で大勝した野党の指導者エンリケ・カプリレス氏

さらに、ブラジルでは左派のルセフ大統領の人気が急落。ルセフ大統領は国営企業を巡る汚職に関連しているとして、ブラジル議会が大統領の弾劾を行いました。昨年8月にルセフ大統領の弾劾が成立して、テメル副大統領が大統領に昇格。18年末まで大統領を務めることになっています。

しかし、テメル氏は副大統領候補としてルセフ氏とともに臨んだ14年の選挙で、選挙資金名目として1500万レアル(約5億2000万円)の賄賂を受け取ったとする疑惑などが噴出。一時は市場寄りの政策を打ち出すとして、ブラジルでは株式市場などがテメル新政権に期待したものの、汚職疑惑の噴出により、株式・為替市場はこのところ勢いを欠く展開となっています。

一方、米国とキューバはオバマ前大統領が両国の国交を再開。キューバは長らく中南米における反米勢力の急先鋒であったわけですが、米国との国交回復により、遅れている経済の立て直しに向かうこととなりました。

ただ、今年1月に発足した米トランプ政権は一転してキューバに対して厳しい態度をとっています。6月16日には、「国民を苦しめてきたカストロ政権を見逃すわけにはいかない」とし、「オバマ政権による一方的なキューバとの合意を取り消す」としました。

5. 混沌とした情勢が継続か

一時は景気の回復が期待されたブラジルで、政治の混乱などにより景気の停滞感が強まっています。一方、トランプ大統領との対立により、通貨の下落、国内総生産(GDP)成長率の鈍化などが心配されたメキシコでは、以外に底堅い景気を保っています。ベネズエラでは、物不足、物価の高騰、与野党の対立の先鋭化、企業の一部国有化に対する産業界の反発など、混迷が深まっています。中南米全体としては、混沌とした情勢が継続することも考えられます。

次回からは、ブラジルなど主要国の動きを見る予定です。

原油価格の動向と中東諸国 平成29年6月16日

中東における「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約7年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権の中東への関与、中東諸国の政治情勢、原油価格の動向などを見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ大統領は、オバマ前政権とは異なり、サウジアラビアとの関係を重視し、イランを敵視する姿勢を鮮明にしています。同大統領は5月21日にサウジアラビアの首都リヤドを訪問し、イスラム圏54か国の代表を集めた「米・アラブ・イスラム代表者会議」で演説。イスラム国(IS)やアルカイダなどの「暴力的過激主義」との戦いで、イスラム諸国との連携を呼びかけました。

トランプ氏は、テロとの戦いを「善と悪との戦いだ」と位置づけ、各国に対してイスラム諸国主導による「過激思想の撲滅」の実現に向けた連携を訴えました。特にイランについては、「シリアのアサド政権を支援している」として非難し、イランが支援する「テロ組織」の封じ込めを訴えました。

 写真1 歓迎式典に参加したサウジアラビアのサルマン国王(右)とトランプ大統領

3. サウジがカタールと断交

サウジアラビアとエジプト、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)は6月5日に、カタールと断交すると発表。湾岸諸国では、カタールがテロに資金援助しているとの非難があり、緊張が高まっていました。

国営サウジ通信によると、サウジアラビア政府は、「テロリズムと過激主義の危険から国の治安を守る」ために、カタールとの外交関係を断絶し、国境を閉鎖する。陸・海・空のすべての玄関口の閉ざすとしました。

エジプト外務省は、カタール政府が「テロリズムを支援している」とし、エジプト国内の港湾と空港へのカタール国籍の舟や航空機のアクセスと拒否するとの方針と発表。

さらに、バーレーン通信は、カタール政府が「バーレーンの治安と安定を揺るがし、内政干渉を行う」と主張したため、国交を断絶したと報道しました。

 写真2 カタールの首都ドーハ

4. モスル奪還作戦が進行

イラクとシリアにまたがるイスラム系過激派組織「イスラム国」は、イラクの北部主要都市モスルを「首都」としています。そのモスルを奪還するためのイラク軍の攻勢が強まっています。

イラクの陸軍参謀長は4月30日に、過激派組織「イスラム国」(IS)から、モスルを奪還する作戦が5月中に終了するとの見通しを示唆。奪還作戦が「長くても3週間」で完了するとの見通しを示しました。

イラク軍のモスル奪還作戦は、米軍が主導する有志連合軍の支援を受けています。昨年10月の作戦開始以来、ISにおける大変の支配地域を失っており、現在は北西部を残すのみとなっています。

 写真3 モスルの市街戦

5. OPECとロシアなどが原油減産で合意

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC主要産油国は5月25日に、原油の減産を9か月延長することで合意。昨年11月に成立した減産合意は、世界的な供給過剰の解消や持続的な価格回復を実現できませんでした。

OPEC加盟国とロシアなど非OPEC主要国は、2018年3月までの減産延長に合意。ただ、今回から新たに減産に加わる加盟国はなく、18年の遅い時期までの減産を継続する選択肢も示しませんでした。

6. 原油価格の動き

原油価格を見ておきましょう。代表的な指標の1つであるNYのWTIは、16年2月には月末値でみて1バレル=30.32ドルの安値を付け、その後は回復。OPECロシアなど主要産油国の減産合意もあり、17年2月末には、同52.50ドル迄回復。

 図表2 NY原油価格(WTI)

ただ、今のところ原油価格の反発力は弱く、最近では1バレル=50ドルを下回る点かい。米国のシェールガス企業が増産姿勢を示していることもあり、原油価格の大幅な上昇は見込みにくい情勢。産油国の間では、減産を延長せずに増産に転じれば、原油価格が急落するのではないかとの警戒感もあります。

ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価 平成29年6月9日

前回の財政、政治に続き、リスク要因、課題、為替、株価などを見ます。

1. 人口

ロシア経済にとって、最大の足かせとなるのは人口問題。人口の予測で代表的なものとして、国連人口統計(UN World Population Prospects, 2015Revision)があります。この統計によると、ロシアの人口は、2010年には1億4295万人となっています(図表1参照)。

 図表1 ロシアの人口ピラミッド(2010年予想)

ところが、2050年には1億2618万人と、急激に減少する見込み。

 図表2 ロシアの人口ピラミッド(2050年予想)

更に、全体の人口が減少するだけでなく、年代別の人口構成にも問題があります。一般に14歳以下の人口を幼年人口、65以上を老年人口と呼び、両者の合計が非生産人口となります。これに対して、15-64歳を生産人口と呼び、後者の比率が前者に対して相対的に上昇する局面では、経済が大きく発展することが多いとされています。

2010年で見ると、生産年齢人口1億316万人に対して、非生産年齢人口3978万人で、後者の前者に対する比率は38.5%。これに対して、2050年にはそれぞれ7570万人、5048万人となり、同比率は66.6%へと急上昇する見込み。

ロシアの場合、ウォッカの飲みすぎなどの弊害により、もともと平均寿命は相対的に短いわけですが、人口減少が続く見込み。2000-2010年の人口減少の速度は年平均▲0.23%だったものの、今後は▲0.35%へと加速する見込み。人口が減少する中で、どのように1人当たりGDPを引き上げるかが課題。教育水準は高く、理工系大卒者は世界5位。その一方で設備更新が不十分で、インフラ整備も遅れており、潜在的な国力を十分生かしていないと言えます。

2. 資源への依存

ロシア世界有数の資源大国ではあるが、そのためにかえって、製造業あるいはサービス業などの発展が遅れている面があります。政府の歳入も資源価格頼みであるが、輸出においても資源の比率が非常に高くなっています。

ロシア経済は原油及び天然ガスなど資源に大きく依存しており、国内総生産(GDP)と原油価格がかなり連動していることについては、第1回のレポートで報告した通りです。では、株価との関連ではどうでしょうか。ロシアの代表的な株価指数の1つであるRTS指数と、原油価格の代表的な指標の1つであるNYのWTI先物を比較するとほぼ連動していることが見て撮れます(図表3参照)。

 図表3 ロシアRTS指数とWTI

猶、17年5月25日に、石油輸出国機構(OPEC)はウィーンで開催された総会で、当初17年6月末としていた「協調減産」の期限を、9か月延長することで合意。減産の新たな期限は18年3月末となりました。これに先立ち、サウジアラビアは、ロシアとの間で、原油の減産の延長について合意。OPEC及び非OPECの主要国の間で減産について合意が成立しています。

米エネルギー情報局(EIA)では、原油価格の中期的な見通しについて、ベース・シナリオで年率+2.7%の上昇と予想しています(図表4参照)。米国シェール・オイルは、原油価格が採算レベルと上回ると即座に増産が可能であり、2000年代のような原油価格の急激な上昇は見込めないとしています。

 図表4 EIAによる原油価格見通し

3. 政治的リスク

政治的には、プーチン大統領が今のところ高い支持率を維持しており、国内では大きな波乱要因は見当たりません。ただ、18年3月11日の大統領選においては、国内の景気低迷により、プーチン氏に対する支持率が低下する可能性があり、その場合、同氏が大統領選に出馬しない可能性もあります。

また、外交の面では、米国でトランプ政権が発足したことにより、ロシアに対する欧米の経済制裁の解除の可能性もあるとされました。ただ、米国とロシアとの関係は、米国によるシリア攻撃などにより悪化しており、欧米の経済性は、少なくとも当面、継続すると予想されます。

4. 株価と為替、原油価格

上記の通り、ロシア経済は原油、天然ガスなど資源への依存度が高いため、株価は原油価格にほぼ連動して推移してきました。代表的な株価指数の1つであるRTS指数は、13年以降に大幅下落。15年1月には737.35ポイントの安値を付け、さらに、16年1月には745.30ポイントの二番底を付けました。

ただ、その後は原油価格及び景気の回復とともにRTS指数も反発に転じ、17年に入っても、比較的堅調な展開となりました。

 図表5 RTS指数とロシア・ルーブル(RUB/USD)

通貨ルーブルもほぼ同様の展開。14年以降に対ドルで大幅に下落。15年1月には1ドル=69.20ルーブルの安値を付け、さらに、16年1月には同75.72ドルの二番底を付けました。

このように、ロシアの経済、ひいては株価、為替の見通しについては、依存度の高い欧州経済の動き、あるいは資源価格次第ということになります。景気及び資源価格の回復により、株価と通貨は16年には大幅な上昇となってものの、今後も上昇が続くかどうかは、不透明な情勢であるといえるでしょう。

ロシア経済の展望 (3) 財政、政治 平成29年6月2日

前回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高を見ました。今回は財政、欧米による経済制裁、政治などを見ます。

1. 財政バッファーを温存

ロシアの財政は、かなりの部分を原油及び天然ガスなど鉱物資源に頼おり、原油価格・天然ガス価格低迷により、財政赤字が拡大。2015-16年には、原油価格低迷により、財政赤字が拡大。財政赤字の埋め合わせのために、財政バッファー(基金)の取り崩しが進行。

財政バッファーは予備基金と国民福祉年金に分かれており、予備基金はロシア中銀への外貨建て預金として全額支出目的は、在氏江赤字の補填と、対外債務の繰上償還。国民福祉基金の支出目的は、年金基金の赤字補填と、任意追加保険料の積み増し補助。

17-19年には、歳出削減により、財政赤字を縮小させることにより、財政バッファーを温存させる予定。1バレル=40ドルを想定しており、予備基金は17年途中で底をつくものの、国民福祉基金は17年末時点で430億ドルが残ると想定(図表1参照)。

 図表1 財政バッファーの残高

2. 財政健全化の鍵

ロシアはこのように、財政健全化を図っているわけですが、その鍵となるのは、原油価格、通貨ルーブル、国防費削減。

まず、歳入面では、原油価格とルーブル相場が問題。予算では、1バレル=40ドルを想定。実際の原油価格はこの想定を上回る可能性が高く、財政に対して、増収効果となると予想されます。

16年の財政赤字増加の主な要因は、国防費の増加。16年の国防費増加は、軍産複合体による借り入れ増加に対する政府保証の前倒し履行。政府保証の大勝となっていた債務は1兆ルーブル。このうち17-18年に返済期限が到来する8000億ルーブルの政府保証を前倒して履行。

3. 欧米による経済制裁

ロシアはソ連崩壊、独立国家共同体成立の後、特にプーチン政権になってからは、かつてのソ連の威光回復を目指す動きを強めてきました。特に、ウクライナが親欧州政権となり、北大西洋条約(NATO)に加入すると、ロシアはNATOと国境接することになる為、ロシアはウクライナへの介入姿勢を強めました。

その後、14年のウクライナ政変により、親ロシアであるヤヌコヴィッチ政権が崩壊して、暫定政権が発足。これに対して、ロシア系住民が多数を占めるクリミアでは、一部の住民が抗議し、新政権と衝突。これを機に、ロシアは軍事介入し、住民投票を経て、ロシアはクリミアをロシアに併合しました。

これに反発して、欧州連等(EU)や米国が、ロシアの主要銀行・企業に対する金融取引の制限、軍需技術や汎用品の輸出禁止、北極海・深海大陸棚での油田探査や掘削、シェールオイル掘削に使用される先端技術提供禁止などの経済制裁を発動。ロシアはEUからの農作物禁輸などの逆制裁発動に踏み切り、貿易が減少。

欧米による経済制裁による、ロシア会税は大きな打撃を受けました。特に、西側金融機関のロシア向け与信残高が急減。ただ、ロシア貿易総額に占める格好の割合は、拡大を続ける中国を除いて縮小傾向にありました。また、ロシアへの直接投資(FDI)は、14年の220億ドルから15年には65億ドルに急減。ただ、独・日・英からのFDIは増加。

4. プーチン大統領が高支持率を維持

ロシアでは、2018年3月11日に大統領選挙が予定されています。今のところ、プーチン大統領の再出馬・当選の可能性が高くなっています。ロシアがクリミアを14年3月に併合し、それ以来プーチン大統領派80%超の高い支持率を維持(図表2参照)。16年9月の系ン選挙では、与党の「統一ロシア」が全450議席中、343議席(全体の76%)を獲得して圧勝。

 図表2 プーチン大統領の支持率

5. 反プーチンの動きも

まず、ロシア各地で17年3月以降に、大型長距離トラックの運転手がストライキを展開。政府が15年に導入した通行料金徴収制度「プラトン」の撤廃を主張。同時に政府の「無能ぶり」を糾弾しており、新たな反政府運動に発展しています。

4月17日には、モスクワ東部から約20km離れた大型モールの駐車場で、大型トラック7台がストを展開。フロントガラスには「プラトン撤廃」と書いた横断幕を掲載。警察のパトカー7台が駆けつけて退去を命じたものの、運転手たちは「誰にも迷惑はかけていない」として、押し問答となりました(写真1参照)。

 写真1 運転手にトラックの撤去を命じる警察官

さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた反政府運動も広がりを見せています。野党指導者で著名ブロガーのアレクセイ・ナワリニー氏(40)がネットで呼びかけたことによる反政府腐敗デモは、3月26日にはモスクワを含むロシア全土の主要89都市で開催されました。組織化されていないデモは取り締まるのが困難な面があり、プーチン政権に打撃となりました。

26日午後のモスクワ中心部のベルスカヤ通りでは、デモが始まるとナワリニー氏が、直ちに治安部隊に逮捕されました。ただ、行進は夕方迄継続し、プラカードを掲げるなどして、数百人の市民が拘束されました。

ただ、参加者は一般に通行人と区別がつかず、多くの市民はスマートフォンを掲げて、各所の陳部隊の動きを撮影。デモ隊には、けが人が殆ど出ませんでした。デモのきっかけは、ナワリニー氏が撮影したドキュメンタリー動画。メドベージェフ首相が賄賂で莫大な財産を得たとするもので、ユーチューブでの視聴回数は、1300万回を越えました。

6. トランプ政権による対露制裁解除の可能性は低下

一方、米トランプ大統領は、就任前の選挙期間中から、親露姿勢を強調。ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)諸国と距離を置く姿勢を示し、他方ロシアとの協調路線を示唆。大統領に当選後には、ロシアとの関係が深いとされるティラーソン氏(エクソン・モービルCEO)を国務長官に指名し、トランプ新政権がロシアとの関係修復を図るとの予想が高まりました。

ところが、ロシアとの協調を推進すると見られたフリン大統領補佐官が2月13日に辞任。さらに、シリアが化学兵器を使用したことに対する報復として、米国は4月6日にシリアへの空爆を実施。米露の関係が急速に悪化したことにより、米国による対露制裁解除の可能性は大きく後退しました。

7. プーチン大統領の再選出馬は微妙

プーチン大統領は、今のところ18年3月11日の大統領選に出馬するとみられるものの、出馬は微妙であるとの見方もあります。確かに、ロシアによるクリミア併合以降、同氏への支持率は高止まりしているものの、ロシア国内では貧困層の比率が上昇。さらに、貧富の格差を示すと言われるジニ係数も上昇。特に若い世代は豊かさを実感していないとされ、プーチン氏の政権地盤は、必ずしも盤石とは言えないとの見方もあります。

次回は、リスク要因、課題、為替、株価などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利 平成29年5月26日

前回は他のBRICs諸国との成長率・株価の比較、経済構造の特徴などを見ました。今回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高などを見ていきます。

1. 10-12月期GDP成長率は+0.3%

ロシア連邦統計局が3月31日発表した統計によると、10-12月期国内総生産(GDP)は、市場の予想通り、前年同期比+0.3%(図表1参照、速報値)。昨年10-12月期の▲0.4%からプラス圏に浮上しました。7四半期にわたるマイナス成長から脱却。16年通期では▲0.2%で、速報値から変わらず。

 図表1 ロシアの四半期成長率(前年同期比)

2. インフレ率が鈍化

国家統計局から5月5日発表された4月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+4.1%と、前月の+4.3%からさらに鈍化(図表2参照)。市場予想の+4.2%から下振れ。12年5月以来の低水準。前月比は+0.3%で、前月の+0.1%から加速。

 図表2 ロシアの消費物価指数前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き下げ

一方、ロシア中央銀行は4月28日に政策決定会合を開き、主要政策金利である1週間物レポ入札最低金利を▲0.5%引き下げて9.25%にすることを決定(図表3参照)。市場では概ね▲0.25%ポイントの利下げを見込んでいたため、予想を上回る下げ幅となりました。3月に続いての連続の利下げ。

 図表3 ロシアの政策金利

マビウリナ中銀は先週に、インフレ率が目標とする+4%に接近したため、▲0.25-0.50%ポイントの利下げが協議される可能性があると発言。政策金利のガイダンスを示唆。市場では、年末までにロシアの政策金利は8.5%までの低下を見込んでいます。

4. 成長率と財政収支

2008年のリーマンショックの前、すなわち金融危機の前の時期である2003年から2008年前半については、天然ガス、原油など資源価格上昇により、輸出、個人消費、固定資産投資が拡大。年平均で+7.8%の高成長を遂げました(図表4参照)。

しかし、2008年9月のリーマンショック、2008年後半から2009年にかけての資源価格の下落により、輸出・所得が減少し、個人消費など内需が後退。また、財政収支も悪化し、GDP比の政府債務も拡大。2010年以降やや景気が持ち直したものの、12年は+3.5%成長にとどまりました(IMFによる)。その後、原油、原燃ガスなど資源価格の下落により15-16年にはマイナス成長に陥りました。それとともに、財政収支も再び悪化しました。

 図表4 成長率とGDP比財政収支

5. 金融市場の過度の悲観論が後退

財政収支は、主な収入源である原油、天然ガスの輸出・採取税の落ち込みにより、15年に悪化。16年にはGDP比で▲3.12%まで落ち込みました(図表4参照)。ただ、原油価格高騰時に蓄えた予備資金の取り崩しにより、財政の埋め合わせを行いました。

一方、15年の貿易・経常収支は欧米による制裁に対抗して、欧州からの農作物の輸入を制限したことなどにより、黒字を維持。資本収支移転は▲333億ドルの赤字となるも、改善傾向にあります。

これにより、原油・天然ガス価格の下落により一時枯渇が心配された外貨準備高もほぼ横這いで推移。対外債務残高も減少に転じました。これにより、14年以降のインフレ率上昇、原油・天然ガスの輸出の不振、GDPの下振れなどによる混乱からは、ひとまず脱却しつつあると言えます。

次回は、財政、欧米による経済制裁、政治などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (1) 経済の構造 平成29年5月19日

ウクライナ問題を契機とした欧米諸国による経済制裁、原油価格の低迷により、ロシア経済は昨年までは低迷していました。このところ、景気にはやや明るい兆しも見えます。ロシア経済を展望します。

1. ロシアの基礎データ

ロシアの面積は約1,707万km2。2位のカナダの998万km2を大きく上回っており、世界第1位。日本の45倍、米国の2倍近い。また、人口は1億4441万人(2015年)で、世界9位(図表1参照)。宗教はロシア正教が多いものの、イスラム教、仏教、ユダヤ教徒などもいます(以上、日本外務省による)。

ロシアは広大な領土に豊富な資源を有しており、また強力な軍事力を背景に、外交・政治的にも大きな影響力を誇っています。国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、シリアに対する国連の制裁について、中国と共に反対しています。国連の常任理事会では、欧米諸国と対立する場面が増えています。

 図表1 世界人口ランキング・国別順位(2015年)

2. 政治体制の特徴

ロシアでは、大統領に権限が集中しています。大統領は直接選挙で選ばれ、1期6年、連続2期まで務めることが可能。首相の任免権を持っており、首相提案に基づき、副首相、閣僚を任免し、大統領府、安全保障会議を組織し、内外政策の基本方針を策定します。また下院の解散、上院議員の解任を行うことができ、採択された法案を拒否することもできます。その他、憲法裁判所、最高裁判所の裁判官、中央銀行総裁の人事を提案することにより、事実上の任免権を握っています。

12年3月4日における大統領選挙までは、メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭制という変則的な体制でした。同選挙でプーチン首相(当時)が6割超の得票で大統領に返り咲き。メドベージェフ首相の影響力が後退し、Putin大統領の権限が強まりました。

3. BRICs諸国との成長率の比較

ではここで、ほかのBRICs諸国及び日本と対比して、ロシアの成長率について見ましょう。IMF(国際通貨基金)が17年4月に発表した「世界経済見通し(World Economic Outlook)」では、15年のロシア成長率予想は▲2.8%、16年が▲0.2%と、マイナス成長に沈みました(図表2参照)。同じく資源国であるブラジルも15-16年にはマイナスに落ち込んでおり、原油など資源価格の低迷が影響しました。インド、中国は相対的に好調。ロシアは、17年には+0.165%と、やや回復する見込み。

 図表2 BRICs諸国及び日本の成長率予想

4. 経済構造の特徴

ロシア経済の特徴として、資源と欧州への依存度が高いことがあります。まず、輸出においては、原油、天然ガスなど資源が約7割を占めています。そのため、経済の成長も、資源価格の影響を強く受けています。原油価格と国内総生産(GDP)の推移をみると、図表3の通り。

13年末には、NYの原油の代表的な指標であるWTI先物価格は、1バレル=97.90ドルでしたが、その後大幅に下落。15年末には同37.19ドルまで落ち込み、それとともにロシアのGDPも大きく下落。その後は、16年末の同51.97ドルまで回復。

また、輸出の5割超がEU(欧州連合)向けであり、ユーロ圏向けは4割。原油のほか、天然ガスは欧州向けのパイプラインが敷設されており、欧州との結びつきが強くなっています。そのため、ロシアの景気は、欧州の景気動向に大きく左右される傾向があります。

 図表3 ロシアGDPと原油価格(WTI先物)

5. 先進国と新興国の株価の動き

では、15年末との比較で、BRICs諸国及び日米の株価の騰落率はどうでしょうか。15年末と今年の4月末日終値で比較すると日本が▲1.0%、米国が+19.0%(図表5参照)。BRICs諸国では、非資源国である中国が▲11.7%、インドが+15.2%。中国では、投資家の資金が主に不動産に向いているため、株式市場はこのところ活気に欠ける展開。

一方、ロシアは+44.2%と大幅高。ウクライナ問題に端を発する欧米の経済制裁が継続しているものの、原油価格の回復を好感。同じ資源国であるブラジルも+50.9%と大幅高。ブラジルの景気も低迷しているものの、今後の景気回復を株価が先取りする動きであると言えます。

 図表4 日米BRICs諸国の株価騰落率(2015年末と17年4月30日の比較)

次回はロシアの成長率、金利、失業率などを見る予定です。

トランプ政権誕生と中東諸国 平成29年5月12日

チュニジアが発端となった「アラブの春」。「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約6年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権誕生と中東諸国の情勢について見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権誕生と中東への関与

米第45代大統領のトランプ氏は、就任前の選挙期間中においても、中東について余り言及していませんでした。イスラム国(IS)からの移民の流入を制限する考えを示唆してはいたものの、中東諸国に対して具体的にどのように関与するのか、明示していませんでした。

1月21日の就任演説においても、「文明世界を一致団結させ、イスラム過激主義のテロと戦う」と述べただけで、具体策は示しませんでした。また、ホワイトハウスのウェブサイトにおける補足説明では、軍事作戦、資金途絶、情報共有、宣伝・勧誘阻止により、ISなどを破壊するとしました。

3. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

4. IS(イスラム国)掃討作戦を強化

トランプ政権は、中東においては特にイラク、シリア、イエメン、ソマリアを重視しているとみられます。イラクとシリアではISの勢力が強く、イエメン、ソマリアではアルカイダ系の組織が跋扈しています。アラビア半島から欧州に物資を運搬するにはアデン湾とバブエル・マンデブ海峡があり、地政学上重要な地域となっています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ政権は特にIS(イスラム国)の壊滅を優先させており、イラクではISの発祥の地であり、イラクの第二の都市であるモスル奪還作戦が進行しています。既に東部はイラク軍が制圧しており、西部にも侵攻。2月24日にはイラク治安部隊がモスル西部に入り、旧市街のモスクに進撃しました。

ただ、西部の旧市街は道が狭く洗車が入りにくく、地元住人を「人間の盾」としており、犠牲者が出やすい状況にあります。米国主導の有志連合による爆撃で多数の民間人が死亡したこともあり、慎重な戦略をとっています。

3月20日には、トランプ大統領はイラクのアッバス首相をワシントンに招き、その後に68か国が集まる閣僚級会議を開催。IS掃討に向けて、最終的な軍事作戦の協議などを行いました。ただ、モスルを奪還しても、ISの戦闘要員が地下に潜る可能性もあり、IS国をイラクから直ちに一掃することになるかどうかについては、予断を許しません。

 写真2 イラク・モスル東部で、ISからの奪還作戦中に子供にキスする兵士

5. イランとの緊張が高まる

トランプ政権は、サウジアラビア、あるいはエジプトなどとの関係の修復を進める一方、イランに対しては敵対する政策をとっています。トランプ氏は選挙期間中から、イランと米欧など6か国による核合意について「イラン核合意は私が今までに見た最もばかげた取引の1つ」と酷評。

ロンドンを訪問したマティス米国防長官は3月13日に、12年に行った「米国の直面する3つの脅威はイラン、イラン、イラン」であるについて問われ、「イランはテロ輸出国として行動し続けており、依然として戦闘活動をサポートしている」都市、イランがテロを支援していると非難しました。

一方、イラン内務省は5月19日に予定される大統領選の最終候補者6人を発表。保守穏健派の現職ロウハニ大統領の他、ハメネイ師に近いとされるリアシ前検事総省、前回に時点であったガリバル・テヘラン市長らが認められました。ハメネイ師の助言に逆らって出馬表明したアハマディネジャド前大統領は認められませんでした。

当初はロウハニ大統領の再選が確実視されていたものの、米国がイランに対して強硬姿勢を撮っているため、保守強硬派が勢いづき、接戦になる可能性もあります。これに先立ち、イランのロウハニ大統領はロシアを訪問。プーチン大統領と会談。プーチン大統領派ロウハニ大統領に「イランは良好な隣国で安定し信頼に足りるパートナー国家である」としました。

6. シリアでの混乱が継続

トランプ政権は、当初はロシアを強調してシリアの解決に当たる姿勢をとっていました。ところが、シリアが化学兵器を使用。これに基づきトランプ大統領はシリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃。ロシアとの関係が一挙に悪化しました。

トランプ大統領は4月6日に記者会見し、アサド・シリア大統領が罪のない市民に対して恐ろしい化学兵器を使用したとして非難。化学兵器を使用した攻撃の拠点であるシリアの飛行場に対して軍事攻撃を支持したと述べました。

これに対して、ロシアはイラン、トルコとの関係を深め、シリアの停戦を主導しようとしています。ただ、停戦が発効しても実際にはシリア政府軍による反政府軍への攻撃が継続。また、米国がシリア内のクルド人勢力に対して武器を供与したことに対して、トルコが反発。シリアを巡る混乱は一層深まっている感があります。

ただ、石油輸出国機構(OPEC)による石油減産の継続の見通し、それへのロシアなど非OPEDC国の協調、シェールガス増産の見通しなどもあり、原油価格は今のところ安定しています。今度の日程では、イランの大統領選が最も注目されています。

IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し 平成29年5月5日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、物価、金利について報告しました。今回は、景気見通しについて。

1. 景気見通しの基となる主な要因

景気見通しの主な要因はある程度、先進国と新興国及び発展途上国の間の違いにあります。先進国の中では、財政支出拡大で米国の景気が上向く見込み。欧州では、08-09年及び11-12年の危機からの回復により、特に欧州では今後数年で、循環的な回復を見込んでいます。ただ、中期的には人口要因と生産性の弱い傾向が成長を抑制する見込み。

新興国の中で、特にエネルギーと金属の輸出に依存している国では、商品市況の低迷が、短期及び中期の景気見通しに最も影響しています。ここ数年の生産性の伸びの低迷が、多くの新興国及び発展途上国にとっては課題となっています。

2. 先進国では循環的回復が継続

多くの先進国では、08-09年及び11-12年の危機からの回復が継続。多くの国において生産は依然として潜在力からを下回っています。多くの国で、特にユーロ圏では失業率が11-12年の水準と上回っています。バランスシート調整のため、多数の国で景気回復は緩慢。

多くの先進国では、今後数年にわたり、景気回復と生産ギャップの縮小により成長率は潜在成長率をやや上回る見通し。16年の成長率が予想を上回り、循環的景気回復が強まっている可能性があります。成長率は生産ギャップの大きい国、特に欧州において予想を上回ったと見られます(図表1参照)。バランスシートの回復と需要の下支えにより、生産設備が過剰である国における景気回復が強まる見込み。

 図表1 16年の成長率改定と15年の生産ギャップ

3. 新興国と発展途上国における交易条件の調整

中国の景気減速と商品価格の変動が、新興国と発展途上国で、特に資源輸出国においては成長率の主な牽引の要因となって来ました(図表2参照)。中国の成長率と資源輸出国及びその他の非商品輸出国の成長率は、原油価格下落により資源輸出国の成長率が低下し始める2011年までは、ほぼ同様でした。

 図表2 新興国と発展途上国の成長率

新興国と発展途上国の2011年から2016年までの成長率の低下のうち、3分の2は資源輸出国の低下に原因があります(図表3参照)。残りは中国及び他の新興国・発展途上国の減速が占めています。

17-19年における成長国の成長率の加速のほとんどは資源輸出国によるもの。もっとも、その成長率の回復は、過去5年間の急激な成長率の落ち込みと比較すると、比較的緩やか。

 図表2 新興国成長率変化への寄与の要因

4. 17-18年世界景気見通し

世界経済の成長率は、+3.1%と予想されている16年から、17年の+3.5%及び18年の+3.6%へと加速する見通し。先進国における予想を上回る回復と、一部の新興国における予想を下回る経済活動により、17-18年における予想では、昨年10月時点のIMFによる17-18年は以前の想定よりも成長が加速し、新興国では弱含む見通し。

5. 中長期の見通し

中長期的な世界経済の成長率は、18年以降にはわずかに加速し、2022年までには+3.8%に到達する見通し。この成長率の加速の原因はすべて、新興国と発展途上国の成長率がこの期間の終わりまでに+5%へと加速することによります。

これら諸国の経済の世界経済への影響は、世界におけるその比率が高まることで押し上げられます。この予想は資源輸出国の成長率の上昇によるものであり、もっともその成長率は2000-15年におけるよりははるかに緩やかであると予想しています。

6. 先進国の見通し

米国の成長率は、17年に+2.3%、18年に+2.5%へと加速する見通しで、16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

ユーロ圏の17-18年の成長率は、16年とほぼ同水準の見通し。緩やかな景気回復は、緩やかな拡張姿勢の財政、穏やかな金融環境、弱いユーロ、それと米国の財政刺激策による影響のため。いくつかの国における選挙の不安定要因、英国とEU(欧州連合)の関係が景気の重石となる見通し。成長率は、17年が+1.7%、18年が+1.6%の予想。

英国は17年が+2.0%、18年が+1.5%の見通し。17年の+0.9%ポイントの上方修正と18年の▲0.2%ポイントの下方修正は、6月英国のEUからの脱退後の予想を上回る景気によるもの。離脱は以前の予想よりも、漸進的なものとなる見込み。

日本では、統計の見直しにより16年の成長率は+1.0%と、16年10月時点のIMF予想からはお大幅に上方修正。16年における輸出の勢いの高まりは、17年にも継続する見込みで、17年の成長率は+1.2%の予想。

7. 新興国の見通し

中国の成長率は、17年に+6.6%で、18年に+6.2%へと減速する見通し。16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

16年10月時点からの17年の+0.4%ポイント及び18年の+0.2%ポイントの上方修正は、16年の予想以上の勢いと、経済目標達成のための信用の伸びと公共投資への依存を反映しています。

インドの成長率は17年が▲0.4%の下方修正で+7.2%。昨年11月の高額紙幣廃止の影響による現金の不足による一時的な消費の停滞が主な要因。中期的予想は+8%と好調な見通しで、構造改革の実施、供給のボトルネックの解消、さらに適切な財政及び金融政策が要因。

資源輸出国の中では、ブラジルが大幅な景気後退から回復し、17年が+0.2%、18年が+1.7%の予想(それぞれ、16年10月予想から▲0.3%ポイントと+0.2%ポイントの改定)。政治の不安定要因の後退、金融緩和、改革の進展が下支えしています。

独立国家共同体の見通しは改善し、17年が+1.7%で10月時点予想からは+0.3%の修正。ロシアはリセッション(景気後退)から回復し、17年は+1.4%(過去2年間は累計で▲0.3%の景気後退)、景気の回復は、堅調な原油価格と、金融環境の緩和と消費者信頼の回復による国内需要の回復によるもの。もっとも、改革の遅れ、1人当たり国民所得の先進国並みへの上昇の遅れにより、ロシアの潜在成長率は+1.5%に留まっています。

IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利 平成29年4月28日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、各国の成長率予想、生産、貿易について報告しました。今回は、物価、金利などについて。

1. インフレ率はやや上向く

商品市況が上向いたことにより、世界のインフレ率も上昇(図表1参照)。世界の生産者物価指数は特に急激に加速。これは、消費者物価指数と比べて生産者物価指数においては商品の比重が高く、また商品を直接生産に投入するため。

特に中国の生産者物価指数は、数年にわたるデフレ(価格下落)からプラス圏に浮上。原料価格の上昇と過剰生産能力の削減、不動産投資の回復によります。

ガソリン小売価格の上昇とその他エネルギー関連製品価格の上昇により、世界の消費者物価上昇率もやや上向いています。特に先進国においては堅調で、2月には+2%をわずかに上回りました(16年の年間上昇率+0.8%の2倍以上)。

 図表1 世界のCPIとPPI

対照的に、コア・インフレ率は殆どの先進国で中央銀行の目標値をはるかに下回っています(図表2参照)。新興国では、燃料価格の上昇がやっと最近になって早い時期の為替レートによるデフレ圧力を上回るようになったため、総合消費者物価指数の回復はもっと最近のことです。

 図表2 世界の総合・コアCPI

短期及び長期のインフレ期待も抑制されたものとなっています。先進国においては、インフレ期待の鈍化はごく最近になって下げ止まっています。10年後インフレ期待は15年及び16年の低下の後、最近になって上向いています。

2. 金融市場

米国における金融刺激策、インフラ投資の拡大、規制緩和により、8月以来市場のセンチメントは強くなっています。将来の需要増大によるインフレ圧力の高まりと米国の金融政策の正常化の加速により、米国では8月以来、特に11月の大統領選後に長期名目及び実質金利が大幅に上昇(図表3参照)。

 図表3 先進国の金融市場

3月末には米国10年国債の名目金利は8月と比較して+0.85%ポイントの上昇。11月の大統領選挙の前との比較でも+0.55%ポイント。英国も米国における長期金利上昇の予想などを反映して長期金利が上昇。

ユーロ主要国における長期金利の上昇は8月以降に緩やかなものにとどまっており、ドイツにおいては+0.40%ポイント。但し、イタリアにおいては、政治及び銀行セクターにおける不安定さの高まりにより、+1.20%ポイントの大幅上昇。

米連邦準備理事会は16年12月と17年3月に短期金利の利上げを実施。市場では、17年末と18年初めに追加利上げを織り込んでいます。そのほかの多くの先進国では、金融政策は概ね維持されています。

3. 株式市場は堅調

消費者信頼感の高まりとマクロ経済指標の好転により、先進国においてはここ数カ月で株価が大幅に上昇(図表4参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。

利回り曲線のスティープ化(長期金利の上昇)、集積性拡大への期待、米国における金融規制の緩和への期待により、金融セクターの株式のバリュエーションが上昇。

 図表4 先進国の株式市場

4. 米ドルが堅調

米国の利上げにより、利回り格差が拡大し、ドルの実質実効為替レートは16年8月から17年3月にかけて約+3.5%の上昇(図表5参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。一方、ユーロと特には弱含みました。

 図表5 先進国の実質実効為替レート

新興国の金融市場は区々の動き。特に東欧では、米国の11月の選挙の後には長期金利が上昇し、その後は下落。政策金利の動きも区々であり、メキシコ、トルコが利上げし、ブラジル、インド、ロシアが利下げ。

新興国における株式市場と経済は8月以来上昇。米国の11月の選挙後には弱含んでいたものの、今年に入って力強く回復。ただ、金融危機後のピークである2011年を、多くの国で下回っています。

トルコではここ数カ月で通貨が大幅に下落し、マレーシア・リンギットも小幅下落。一方、資源輸出国のうちロシア・ルーブルは大幅上昇。メキシコ・ペソは米大統領選後には大幅下落。ただ、その後は回復し、直近では昨年8月とほぼ同水準。米選挙後には海外投資家の資金が新興国から流出し、その後は流入に転じました。

次回は、景気見通しなどを見る予定です。

IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易 平成29年4月21日

IMFが世界経済見通しを改定しました。

1. 世界の成長率17年を+3.5%に上方修正

国際通貨基金(IMF)は18日に、世界経済見通しを改定し、17年の世界経済の成長率見通しを+3.5%と、今年1月時点の予想から+0.1%ポイント上方修正(図表1参照)。17年については+3.5%で維持。17年については、先進国経済の好調などにより、基調が上向いているとしています。

 図表1 IMFの世界経済見通し

16年の後半には特に先進国の経済活動が上向いたとしています。米国では企業の将来への信頼感が上向き、在庫は5四半期連続のマイナスの寄与の後にプラスに転じました。英国では6月のEU離脱の国民投票の後には消費が堅調。輸出により日本の経済活動が活発化し、ドイツ及びスペインにおいても、堅調な内需が寄与しました。

新興国は区々の動き。中国の成長が政策の下支えにより堅調である一方、インドとブラジルでは為替の影響により景気が後退。商品の輸出は引き続き軟調であるものの、中東とトルコでは地政学的リスクが好転。

2. 生産が活発化

16年後半には、堅調な世界に需要、特に投資の強さにより、製造業と貿易が急速に回復。製造業と貿易は15年及び16年前半には弱い数字でした(図表2参照)。

 図表2 世界の貿易・鉱工業生産・製造業PMI

耐久消費財と資本財の生産が、16年後半には回復(図表3参照)。中国におけるインフラ及び不動産投資に下支えられた世界の投資の緩やかな回復、消費価格低迷による調整の弱まり、米国の在庫循環の終了などが寄与しました。製造業購買担当者指数など先行指標は、17年においても製造業の活動が活発であることを示唆しています。

 図表3 世界の耐久消費財の生産

3. 貿易が活発化

生産活動の活発化に伴い、世界貿易も長く続いた弱い時期から回復の兆しを見せています(図表4参照)。貿易の伸びは、特に投資の動きと密接に関連しています。16年においては、特に資源輸出国において投資と貿易とに強い相関関係が見られました。商品市況がやや回復したことに下支えられ、これら資源輸出国のマクロ経済が落ち着きを取り戻し、17年においても輸入と投資の緩やかな回復が続くと見られます。

 図表4 世界の輸入

4. 商品市況が回復

経済活動の活発化に伴い、消費市況も強含みました。IMFによる主要商品指数は16年8月から17年2月には+15%上昇しました。

 図表5 実質商品価格指数

特に燃料が強含み。16年8月から17年2月には原油価格は約+20%の上昇。石油輸出国機構(OPEC)が原油の減産に合意したことなどが要因。天然ガスは同じ期間に+19%の上昇。欧州では、天然ガスは原油につれ高しました。石炭二ついても同様に、豪州及び南アフリカの価格が同じ期間に+20%以上上昇。

燃料以外では、金属と農産物も上昇。金属価格は中国における不動産価格の増加と生産設備削減と、米国における財政政策の緩和に下端さえられ上昇。農産物では、供給過剰の緩和により、食品価格が+4.9%の上昇。特に、穀物、野菜、油が上昇。米とココア豆などの一部例外を除いて価格が上昇しました。

次回は、物価などを見る予定です。

混乱の続くトルコ 平成29年4月14日

国民投票を控えたトルコの情勢を見ましょう。

1. 政治・経済が不安定化

昨年来、トルコでは政治、経済両面で投資家を不安にさせることが相次いでいます。政治の面では、2016年7月に軍の一部がクーデター未遂事件を起こしました。反政府的とされる米国在住のグレン氏につながるとされる公務員、軍人、その他民間ジャーナリストなどが多数拘束されました。その後もトルコ国内では、イスラム系過激派組織であるISやクルド人系のテロが多発。

最近では、ドイツがトルコ系住民の集会を禁止したことやオランダがトルコの外相の入国の拒否したことにより、トルコのエルドアン大統領が猛反発。シリア系難民の欧州連合(EU)流入に関して一時は補償を合わせていたトルコ、EUの見解も微妙になっています。

経済の面では、大幅な経常赤字とそれを短期的な借り入れで補う不安定な構造、外貨準備の不足、それによる通貨リラの大幅下落、国内総生産(GDP)成長率の低下があります。不安定な通貨などを背景に、投資家のトルコからの離反が目立っています。

2. 11月CPI上昇率は+7.0%

ここで、物価、金利などを見ておきましょう。トルコ統計機構(TUIK)は4月3日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+11.29%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.13%から加速し、2008年11月以来の高水準となりました。食品、家賃の上昇などが主な要因。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き上げ

一方、トルコ中央銀行は3月16日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「後期流動性貸出金利」を0.75%引き上げて11.75%としました。同金利の引き上げが2会合連続。

主要な政策金利である翌日物貸出金利は9.25%に据え置き。中銀は16日の声明で、「インフレ見通しの悪化を封じ込めるために金融引締の強化策を決めたとして、1月会合と同じ文言を使用しました。

 図表2 トルコの政策金利

4. 7-9月期▲1.8%成長に低迷

他方、トルコ統計局が12月12日に発表した16年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比▲1.8% (図表3参照)。今年4-6月期の+3.1%から大幅に低下。四半期の成長率がマイナスとなるのは、09年7-9月期以来7年ぶり。7月のクーデター未遂事件の影響により、消費や生産が落ち込みました。

 図表3 トルコ四期成長率(前年同期比)

統計局は今回の発表から物価の影響を除く際の計算方法を国際基準に合わせて改定し過去発表の分も遡って修正しました。

経済の拡大を牽引してきた個人消費は▲3.2%。企業の設備投資を含み総固定資本形成は▲0.3%、輸出も▲7%と、ともに不振でした。

5. 大統領権限強化を目指す憲法改正について国民投票

従来、トルコでは、大統領職は名誉職的なものであったわけですが、エルドアン氏が大統領に就任して以来、同氏は意中の人物を首相あるいは閣僚に任命するなどして、自身の権限を強化してきました。

今回の憲法改正案では、大統領の役割が従来の国家元首に加え、副大統領は閣僚の任免を通じて行政府の長も兼ねることとなります。それに伴い、首相職は廃止。予算案の作成を大統領が行うほか、大統領の法案拒否権を覆すには、絶対多数が必要となります。

ただ、各種世論調査では、憲法改正への賛否がともに4割前後で拮抗。エルドアン氏は、東南部のクルド人や都市部の票の掘り起こしを懸命に行っています。これまで与党・公正発展党(AKP)ヲ指示してきた有権者の一部も、大統領の権限強化に疑問を持っています。

もし憲法改正が実現すると、旧憲法下での大統領の人気は計算に入らないため、エルドアン氏は19年11月の大統領・議会同日選をへて、最長で20029年まで大統領職にとどまることが可能となります。

6. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続し、15年末から今年3月まででは▲25.0%の大幅下落。16年12月末から今年3月まででも▲3.4%と続落。

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は13年に大幅下落したものの、14年には反発。その後はボックス圏の動き。15年末から今年3月まででは+24.0%の大幅上昇。16年12月末から今年3月まででも+13.8%と堅調。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

7. リスク要因と課題

短期的には、憲法改正案が可決されれば、トルコの政局が安定するとして通貨リラが買われ、逆に否決されればリラが下落すると予想されます。

ただ、長期的には、構造改革に取り組まなければ、成長はおぼつかないということになります。低い貯蓄率とそれに伴う投資の不足、製造業の未発達、経常赤字、財政赤字、恣意的な政治など、これらの問題を解決しなければ、海外からの投資も伸びず、今後の政調もあまり期待できないことになります。国民投票後に、エルドアン大統領が本気で構造改革に取り組む姿勢を見せるかどうかに注目する必要があります。

インド経済の見通し(4) リスク・課題 平成29年4月7日

前回の物価、金利、四半期成長率、為替、株価に続いて、今回はインド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレ懸念が後退

インドにおいは、長期間にわたり、インフレ率抑制がインド準備銀行(中央銀行)大きな課題となってきました。現在は消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が、中銀にとってのインフレ目標となっています。昨年9月にラジャン総裁が退任したことに伴い、ウルジット・パテル副総裁が昇格。同新総裁は、インフレ目標である+4%±2%を引き継ぎました。ただ、緩やかに解釈していると見られます。

インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率は引き続き低い水準にとどまっており、インド経済にとっては今のところ余りリスクにはなっていないと考えられます。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では 14年に国内総生産(GDP)比▲6.6%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 製造業が未発達

インドでは伝統的に理数系に強い人材が多く、「0」もインドで発見されたと言われており、IT、コンピュータなどに強いと言われています。IT、あるいはBPOが発達しており、これが上記の通りサービス収支黒字の原因となっています。ただ、製造業については、未発達であり、第二次産業よりもサービス業中心の経済であると言えます。

一方、インド中央統計局は10日に、同国の1月の鉱工業生産が前年同月比+2.7%だったと発表。市場予想の+0.5%から上振れし、12月の▲0.1%から反発(図表4参照)。同指数はサービス業を含んでおらず、依然として製造業は低調。

 図表4 インドの鉱工業生産指数(前年同月比)

一方、インド自動工業会(SIAM)の10日発表よると、2月のインド新車販売台数は、前年同月比9%の32万2298台。昨年11-12月には高額紙幣の廃止により販売が落ち込んだものの、影響が収束しつつあり、四輪車市場は堅調な伸びとなりました。インド中銀は中立的な金融施政を撮っており、自動車販売にはプラスに働く可能性があります。ただ、中長期的には、製造業を育成していくことが政府にとって課題となっています。

5. インフラ整備、規制緩和

インドは中国に匹敵する人口を抱えており、しかも人口構成はかなり若く、消費、生産の両面において大きな可能性を持っています。そのため、日本及び欧米企業のインドへの関心は高く、日本からは自動車メーカーの現地生産への進出、製薬会社の現地企業買収などが進んでいます。

ただ、海外からの直接投資はまだまだ進んでおらず、その大きな要因となっているのはインフラの未整備です。財政赤字による制約がインフラン未整備の一員となっていますが、鉄道、道路、空港、電力などの整備が待たれており、モディ新首相への期待も高まっています。

インフラの未整備と共に、経済の発展を妨げているのが、政府による過剰な規制、法の未整備、複雑な税制などです。たとえば、建築、土地再開発に関する規制が厳しすぎるため、オフィスの供給量が極端に少なく、オフィス賃貸料の高騰の原因となっています。

このほか、金融・小売りなどの規制緩和もあまり進展していません。インドでは小規模な商店が多いため、外資系のデパート、スーパーなどの進出が規制されています。インド政府は、地場の中小・零細小売業者を保護するため、外資企業の小売り参入を厳しく制限しており、近代的な小売市場の発展を妨げています。

6. インド経済の展望

インドでは3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。モディ首相への権限の集中が進むことにより、改革への期待が高まっています。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価 平成29年3月31日

前回の政治に続き、今回は物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。前月の+3.17%から鈍化。市場予想の+5.58%からも上振れ。食品価格上昇率は、前月の前年同鉄日+0.53%から3月には同+2.01%に加速。

 図表1 下院の党派別議席数

2. 7-9月期成長率+7.3%に加速

続いて、インド統計局が12月12日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+7.3%(図表2参照)。前期の同+7.1%からは加速したものの、市場予想の+7.5%は下回りました。

需要項目別では、民間消費と政府消費が景気の牽引役となっています。GDP(国内総生産)の約6割を占める民間消費は、同+7.6%(4-6月期+6.7%)と加速。政府消費は同+15.2%と、4-6月期の+18.5%から減速したものの、公務員昇給の影響により、2期連続の2桁増加となりました。一方、総固定資本形成は同▲5.6%と、減少幅が拡大。

 図表2 インドの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を据え置き

他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを6.25%に据え置くことを決定(図表3参照)。市場では▲0.25%の利下げを予想する向きが多かったわけですが、予想に反して中銀は金利を据え置いて、更に2015年1月以来の金融緩和姿勢を「中立」に変更しました。

 図表3 インドの政策金利

上記の通り、2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率が沈静化していることも、金利据え置きの要因となっています。

米国の大統領選ではトランプ氏が当選し、公共事業の拡大などを打ち出しています。そのため、米国の長期金利が上昇し、新興国から資金が流出。それに伴いインドの通貨であるルピーも対ドルで下落。中銀としては、物価上昇の懸念もありました。今後、中銀は、物価、景気などの動向を見ながら、金利政策について判断していくものと思われます。

4. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、13-14年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。インドは経常赤字、財政赤字が大きいことから、ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に、13年は「脆弱5か国(fragile 5)」と呼ばれました。ただ、16年は通年で▲2.66%の下落にとどまりました。新興国からの資金流出が一巡したことなどによります。17年2月現在では、昨年末比で+1.86%と小幅反発。

株価は13-14年には大幅上昇。中国などで景気の減速感が強まる一方、相対的にインドでは景気が順調。原油価格など資源価格画下落し、資源輸入国であるインドの株価が買われました。

15年に入ると、米国の金利上昇などにより株価は下落。ただ、16年に入ると、新興国からの資金流出が一段落し、インド国内の景気が堅調であったことなどにより、16年には株価指数の1つであるSENSEX30は、通年で+1.94%と、ほぼ横這い。17年2月末には16年12月末比で+7.3%とやや反発。インド国内の政治の安定などが好感されています。

 図表4 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

インドでは、モディ政権が昨年11月に突如として、500ルピー札と1000ルピー札の高額紙幣を廃止。不透明な資金に対する取り締まりの姿勢を好感して、その後の地方選でモディ首相率いるBJPが大勝。インドでは、上院の議席は地方の議席に比例するため、上院でも与党BJPが第一党となり、モディ首相が改革を進めやすくなっています。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

インド経済の見通し(2) 政治 平成29年3月24日

前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ氏が14年総選挙で勝利

14年5月16日に行われた総選挙では、ナレンドラ・モディ氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝。543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得。グジャラート州首相のモディ氏(63)が首相に就任することになりました。BJPを中心とする野党連合は、336議席を獲得しました(図表1参照)。

一方、これまで2期にわたり政権を担ってきた国民会議派は44議席で、同党を中心とする与党連合の統一進歩同盟は60議席にとどまり、過去最悪の結果。このほか、地域政党他が137議席となりました。シン前首相は、モディ氏とBJPの勝利を称賛。モディ氏は「インドの勝利だ」と述べました。

 図表1 下院の党派別議席数

一方、上院ではBJPは連立を組む政党と合わせても3割に満たず、少数派にとどまっています(図表2参照)。BJPが上院に法案を提出しても、国民会議派など野党の執拗な抵抗にあい、可決に足らないケースが相次いでいます。

上院は、州議会による間接民主制に基づいています。 BJPは下院では過半数を占めているものの、州議会レベルでは、少数派にとどまっていることが少なくありません。また、14年5月の総選挙後も、BJPは地方選挙で必ずしも勝利を収めていません。たとえば、15年11月に行われた東部ビハール州議会選挙ではBJPは30議席減らして58議席にとどまり、国民会議派など反BJP連合の178議席に対して、大敗しました。

 図表2 上院の党派別議席数

2. 14年5月政権誕生後の主な改革

政権誕生後の改革としてはまず、統治機構について、首相府権限の強化、閣僚数の削減を実施。さらに、インド改造評議会(NITI Aayog)を設立。経済改革としては、国民皆銀行口座制度を実施。

投資環境の整備については、外資規制の緩和、具体的には鉄道インフラの100%開放、建設について面積、投資金額などの要件を緩和、保険の出資比率の引き上げ(26%→49%)。労働改革としては、各種許認可申請のオンライン化、工場査察プロセスの透明化、従業員積み立て基金(EPF)の統一番号化など。

インフラ整備に関しては、有力大臣を配置し、既存の案件を点検。インフラ工事の進み具合は、前政権の4倍に加速。Sagara Malaプロジェクトの導入により、主要港湾開発に注力。製造業の振興を保管。

3. 高額紙幣を廃止

モディ首相は上記のような改革を進め、その後は大きな変化がなかったものの、16年11月に突然高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用禁止を発表。これらの高額紙幣は汚職や脱税に利用されて来ており、不正な隠し資産を補足しようとの狙いがあります。

11月8日までは、主に富裕層が高額のマンションや金など宝飾品の購入、海外旅行、豪華な結婚式に不正蓄財を利用し、経済の活性化にも繋がっていました。政府は高額紙幣の使用を禁止し、12月30日までに銀行に持ち込まない限り、2紙幣は単なる紙切れになると発表したため、社会が大混乱に陥りました。

これにより、高額商品のうち特に自動車販売が低迷。昨年11月は前年同月比▲0.6%の伸びにとどまり、12月も▲2.1%。ただ、17年には1月が+11%、2月も+9%と回復傾向。

 図表3 インドの新車販売台数

3-4月には貨幣流通量も元に戻るとみられます。さらに、高額紙幣の廃止により、電子決済が普及。街中の小規模な焦点でも、スマートフォンを使って電子決済が普及。販売側は小銭を用意する必要がなくなり、消費者も現金の持ち合わせがなくても買えるようになりました。

4. 州議会選挙の予定

インドでは上院は地方議会による間接選挙で、上記の通り上院ではBJP及びその与党が少数派にとどまってきたため、今後の州議会選挙の行方が注目されます(図表4参照)。15年には2月のデリー準州に続き、11月には東部ビハール州でもBJPが敗北。

16年5月には4州で選挙を実施。BJPがアッサム州の政権を奪取。ケララ州では左翼政党が与党に就任。国民会議派は2州で政権を逃しました。タミル・ナデゥ州では、全インド・アンナ・ドラヴィダ進歩同盟(AIADMK)が32年ぶりに2期連続で政権を維持。17年3月以降の予定は図表4の通りで、「現在の政権」は17年3月の選挙以前のもの。

 図表4 今後の州議会選挙予定

3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。インドで最大の約2億人の人口を抱える北部ウッタル・プラデシュ州議会選などで、大幅に議席を伸ばしました。高額紙幣廃止に伴い、不満もあったものの、不正資金撲滅の姿勢が評価されました。

選挙が実施された5州のうち、ウッタル・プラデシュ州においては、403議席中、300議席を確保。北部ウッタラカンド州においても過半数を確保。南部コア州、北東部マニプール州などでも勝利。

BJPのアミト・シャー総裁は、「モディ首相の紙幣廃止、腐敗撲滅、貧困対策の勝利だ」としました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。

5. インドの外交

モディ政権の最大の成果は外交と言われるほどで、37か国を回り自ら投資を誘致してきました。日本との関係では、新幹線と原子力協定により、更に関係性が高まる見込み。

懸念としては、米トランプ大統領が、H-1Bビザの発給を廃止すると発言していること。インドのIT産業は5-6割を米国に輸出し、そのサポート、保守のために技術者を米国に送り込んできました。H-1Bビザの発給が停止されると、このビジネスモデルが成り立たなくなります。

中国に対しては是々非々の態度をとるとみられます。領土問題はあるものの、中国からの電子機器などの投資は進める構え。パキスタンとの関係には、やや改善の兆しもあります。そのほか、バングラデシュ、スリランカとの関係についても、改善の努力をすると見られます。

次回は、物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見る予定です。

インド経済の見通し(1) 人口・発展段階 平成29年3月17日

インドが中国に代わって、世界経済の牽引役になるのではないかとの期待が高まっています。インド経済の課題と展望を見ていきます。

1.インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想) 図表2 インドの人口ピラミッド(2050年予想)

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2.成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は昨年10月に発表した世界経済見通しの報告書で、16年のインドの成長率を+7.6%として、中国については+6.5%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、15年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2016年で見ると、IMFの昨年10月のデータで、米国が57,293ドル、日本が37,304ドル。また、ロシアが8,838ドル、ブラジルが8,586ドル、中国が8,260ドルであるのに対して、インドは1,718ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4. 10-12月期成長率+7.0%に減速

インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+7.0%(図表5参照)。前期の同+7.4%(今回上方修正)から減速。政府が高額紙幣を無効化したことが影響したとみられます。

今回の10-12月期の公表値+7.0%は、市場予想である+6%台前半を大幅に上回りました。16年7-9月期の成長率を従来発表の+7.3%から上方修正するなど、過去の数値も遡及して改定。

統計局によると、10-12月期に個人消費は+10%、設備投資は+4%。個人消費の2桁増加は17四半期ぶりで、モディ政権下では初めて。設備投資は4四半期ぶりに増加に転じました。

 図表5 インドの成長率(前年同期比)

モディ政権は11月8日に、脱税や汚職の対策として高額紙幣(500ルピー札と1000ルピー札)を廃止すると発表しました。政策の目的は(1)資産を隠匿する犯罪組織を撲滅し、(2)預金不足で低迷が続く銀行貸出を伸ばすこと、(3)インフレ抑制、にあると言えます。今回の四半期GDPの発表は、高額2紙幣の廃止後初めての統計であり、注目されていました。

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価 平成29年3月10日

前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 貿易が低迷

前回ご報告の通り、16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ただ、今後も外需に期待するのは難しい情勢。中国は輸出・設備投資主導の経済から消費など内需主導の経済への転換を図っています。そのため、中国がかつてのような資源の「爆買い」をしてくれる可能性が低く、鉄鉱石、原油などブラジルの資源の輸出が伸びるのは余り期待できません。また、通貨レアルは嘗ての水準よりは低いものの、現在程度の水準では、輸出競争力の回復にはつながらない見込み。

2. バランスシート調整が進行

ブラジルでは、バランスシート調整が進行しており、特に住宅価格が低迷。住宅価格は15年頃から下落に転じ、16年9月には前年比▲15%の下落。当時のインフレ率は+8%程度であったため、実質的には▲20%程度の下落となります(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの住宅価格

さらに、信用収縮(クレジットクランチ)も進行。銀行貸出癌減少に転じており、特に企業向けは▲7%まで低下。インフレ率を考慮すると、実質ではさらに減少していることになります。

3. 財政収支改善に遅れ、政治的混乱

第3回でご報告の通り、プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。財政収支改善が遅れています。

ただ、これも第3回でご報告の通り、テメル新政権になってから、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。財政赤字は15-16年に大幅に拡大したものの、今後は小康状態となる可能性があります。

州政府の財政も悪化しており、連邦政府よりも深刻。27州のうち26州が危機的状況にあります。特にリオデジャネイロのあるリオ州は大幅な赤字。リオの沖合にプラソルトの海底油田があり、その石油収入に依存しています。原油価格低迷がマイナス要因。州の財政の悪化により、市民へのサービスが低下しており、市民の反発の可能性があります。

さらに、政治的混乱も継続。テメル副大統領が大統領に就任してからも、多数の閣僚が辞任するなど、政治は依然として混迷しています。ただ、テメル新政権が市場寄りの姿勢を撮るとの期待から、通貨レアルは対ドルでやや戻す展開。米国のトランプ大統領が、メキシコに対して厳しい姿勢をとっており、ブラジルがいわば漁夫の利を得るとの見方もあります。

4. インフレ率は低下

一方、明るい材料として、インフレ率が低下。ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。ブラジルのインフレ率は15年末には+10%を超えていたため、依然と比べると現在のインフレ率はかなり抑制されていると言えます。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

そのほか懸念材料としては、失業率の悪化、それに伴う消費の低迷、さらに製造業が育っていないことなどがあります。ブラジルは08年に発生したリーマン・ショックの後、10年には+7.5%という高い成長率が達成。ただ、その後は急速に景気が悪化しました。17以降はやや回復するものの、マイナスからゼロ近辺で低迷するものと予想されます。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルはインドなどと主に「脆弱5か国」とされ、通貨は対ドルで大きく下落。14年に入ると、新興国の経済に対する警戒感が後退したことから、6月末には1ドル=2.204レアルにまで回復。

ただ、利上げ打ち止めや、景気の後退により、年の後半には対ドルで再び大きく下落。15年に入ってからも米連邦準備理事会(FRB)による利上げの予想、中国の景気減速とそれに伴う資源価格の下落により、通貨はされに大きく下落。16年1月末には1ドル=3.99レアルまで急落(図表4参照)。

16年2月以降には、資源価格の反発、市場から距離を置いていたルセフ前大統領の退任の観測などにより、大きく上昇。17年2月末には同3.10レアルまで回復。16年1月と比較すると、+22.2%の大幅上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価はルセフ政権の支持率低下、新興国の経済に対する投資家の不安の後退により、14年に入って堅調に推移。昨年末から今年8月末まで、ボベスパ指数は+18.9%の大幅上昇。ただ、その後は景気後退などにより株価は下落に転じ、14年末には前年末との比較で▲2.9%と小幅下落。

15年に入ると4月まで株価は持ち直す傾向にあったものの、米FRBによる利上げの予想及びそれに伴う投資資金流出の懸念、景気の後退などにより、株価は軟調に転じました。16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントまで大幅に下落。

その後は、為替と同様にルセフ前大統領の退陣、政策が市場寄りになるとの期待、資源価格の回復などにより、株価も大きく反発。ボベスパ指数は16年1月と比較すると、+64.9%と大幅上昇。

米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、16年1月頃までは海外の投資家がブラジルから資金を引き上げる動きを見せていました。米国の景気が堅調であること、資源価格の回復、新興国の株価の割安感の台頭などにより、特にブラジル、ロシアなど一部の資源国には投資家の資金が戻りつつあります。

ただ、ブラジルについては国内の景気が依然として低迷していること、米トランプ新政権の政策の予想がつきにくいことなど、多くの不安定要因があります。17年の景気回復に向けて為替及び株式市場では引き続きブラジルへの期待が高まることも考えられるものの、株価の上昇は一本調子には行かない可能性もあります。

ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治 平成29年3月3日

前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 16年に輸入が大きく減少

16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。ただ16年初頭以降にはやや反発し、直近では同53.3ドル程度まで回復しています。

ただ輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。原油価格はやや回復したものの、米国のシェールガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。v さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 政治の混乱が継続

ルセフ大統領が弾劾されたことにより、政治的混乱は一時沈静化していましたが、テメル後継政権でも様々な疑惑が噴出しています。同政権は、16年8月の発足からわずか6か月で6人の閣僚が交代。ラバジャット事件の捜査の本格化により、さらに疑惑が拡大する勢い。

ラバジャットとはポルトガル語で洗車のことであり、15年4月にガソリンスタンドから疑惑が発覚したため、同事件と呼ばれています。これまで300-400人が事情聴取を受け、事件関連で公的資格を停止あるいは辞職となった議員は既に150人に上っています。

ルラ元大統領が関与したとされる国営企業のペトロブラス事件に関連して、同社は米国にも上場しています。証券取引法違反に当たる粉飾決算があったのではないかとの疑いで、米国証券取引委員会(SEC)が捜査を行っています。

ブラジルでは、これまで汚職が当然視されていたわけですが、13年に司法取引が認められ、贈賄側の証言が進んで一気に捜査が進展するようになりました。テメル大統領率いるブラジル民主党(PMDB)は下院の保有議席が15%に満たず、従来、合従連衡を繰り返し、与党にとどまってきました。即ち、有力なポストについて利権を獲得しようとする議員が多く、今後も疑惑捜査の対象になってくる可能性があります。

3. テメル大統領に口利き疑惑が浮上

さらに、テメル大統領による口利き疑惑が、新たに浮上。11月25日に辞任した政権幹部が北東部エルバドルで購入した高級マンションを巡って、担当閣僚に建設計画を許可するように圧力をかけた疑いが出ています(写真1参照)。捜査当局が大統領の関与の有無を調査している模様。

テメル氏の側近の一人で議会対策を担当するジュデル・ビエイラリマ氏は15年に、世界遺産に登録されているサルバドルの歴史地区に建設予定のマンションの1室を購入。30階建ての高級マンションで、1室の価格は260万レアル(約8600万円)。建設計画を認可するよう、文化相に対して圧力をかけた疑いがあります。

 写真1 テメル大統領(右)と側近のビエイラリマ氏(左) (6月、ブラジリア)

疑惑報道を受けて、ビエイラリマ氏は25日に辞表を提出。テメル氏にも、ビエイラリマ氏と同様に、文化相に対して圧力をかけた疑いが報じられています。この疑惑は、文化相であったマルセロ・カレロシが18日に辞任して政権が離脱したことにより、表面化。文科省参加の機関がマンション建設計画を承認する権限を持っていたためビエイラリマ氏がカレロ氏に働きかけていた模様。

4. 大統領選に絡んだ疑惑も浮上

さらに、14年の大統領選で、ブラジル民主党(PMDB)に、30億ドル相当の違法献金がなされていたとの疑いが浮上。もし、不正献金が大統領選に使われていたことが立証されると、14年の選挙が無効になる可能性もあります。

また、クーニャ下院議長は、スイスに夫人名義の口座を持ち、多額の不正献金を隠していた疑惑が浮上。議員の不逮捕特権などで抵抗していたものの、ついに職務停止となりました。加えて、カリュイロス上院議長も、現職の議員に対する不逮捕特権を強化する法案を、一部国会で可決することに成功。

同法案を巡っては、街頭デモの対象となり、一部修正事項が国会を通りませんでした。これに対してテメル大統領が拒否権を出すかどうかが注目されています。国民の反対を重視するか、与党PMDB幹部である同氏を守るのか、ジレンマに陥っています。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け 平成29年2月24日

おはようございます。前回はオリンピックの効果、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などを見ます。

1. 財政再建へ憲法を改正

ルセフ前大統領は昨年8月に罷免となり、暫定政府で大統領代行をしていたテメル副大統領が9月初めに正式に大統領に就任。同氏はブラジル民主労働者党(PMDB)の党首。PMDBは下院の第一党であるものの、下院定数513議席のうち、68議席しかありません。ブラジル議会は少数乱立で与党は11政党の連立。小政党は理念で結びつくというよりは、人脈・地位で合従連衡を繰り返しているに過ぎないと見られます。そのため、テメル政権が抜本的に財政再建を行うのは難しいとの予想もありました。

ところが、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。憲法改正には60%以上の賛成が必要で、しかも上下両院で二度可決が必要。11月には下院で65%の賛成となり、12月には上院でも修正せずに可決。ペトロブラス(国営企業)を舞台とする汚職事件に関連して、検察官による議員への訴追を軽減する法案が同時に審議されており、そちらにばかり注目が集まっていたことが一因とみられます。

2. 財政収支改善に遅れ

プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。09年は1.7%で、財政責任法(00年施行)に定める黒字目標の2.3%を下回りました(図表1参照)。14年には▲0.5%となり、税収の下振れを反映。財政収支も同様に悪化。国際通貨基金(IMF)では15年以降に基礎的財政収支(プライマリー・バラン)が改善すると予想していましたが、実際には16年に▲2.75%へと悪化。17年以降にはやや改善すると見込まれています(IMF16年10月時点予想)。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP)

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で42.0%’図表2参照)。金利を除くベースでは22.1%。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

3. 格付けが低下

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。見通しを引き続き「ネガティブ」としました。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、その時点よりも「成長見通しが弱まっている」として、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

4. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

13年には債券投資に関わる金融取引税の撤廃、大幅利上げで回復しつつあったものの、米量的緩和の縮小(テーパリング)により、流出超に転じました。米金融政策の落ち着きなどにより、ブラジルでは株価が回復。それに伴い証券投資も落ち着きを取り戻しました。

そのため、資本収支の安定のためには、直接投資(FDI)の持続性が問題となります。11年以降、経常収支赤字を補う形で、対内直接投資(FDI)が堅調に推移。13年の対内直接投資は前年比▲18.5%と、2年連続で2桁減少。エネルギー、自動車、交通関係は堅調ですが、2桁の大幅減少となった業種も多く、業種ごとの選別が強まっています。

13年にはブラジルは、インド、トルコなどともに「脆弱5か国(fragile 5)」と位置付けられ、財政収支・経常収支の赤字が問題とされました。そのような脆弱性により、証券投資の資金が国外に流出し、通貨、株価の下落リスクが高いとされました。実際、ブラジルからは大きな資金流出。海外の投資家によるリスク回避の動きにより、証券投資は不安定になりました。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。政府部門の赤字の改善のためには、公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革が必要であると、従来言われてきましたが、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されます。短期的には、政権交代による政策の変更なども期待されています。

 図表5 主要国・地域のISバランス

ただ、昨年後半以降には、原油など資源価格が回復傾向にあります。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えており、中国の粗鋼生産も回復する兆しがあります。鉄鉱石、銅などの価格も上向いており、ブラジルの経常収支もやや改善する傾向にあります。

次回は貿易、政治などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢 平成29年2月17日

おはようございます。前回は成長率、1人当り国民所得などを見ました。今回はオリンピックの効果、最近の景気動向、物価、金利などを考察します。

1. オリンピックの効果も限定的

サッカーのワールドカップ(W杯)が14年6月12日から7月13日にブラジルで開催されたのに続き、リオデジャネイロ五輪が16年8月5日に閉幕。W杯の開催前には、W杯及びオリンピックの開催により、ブラジル経済に弾みがつくであろうとの予想も一部ありました。W杯に続き、五輪についても経済効果は殆どなかったと言えます。

大手格付け会社のフィッチでは、五輪開催後に、五輪のために多くの競技者や関係者が同国を訪問したものの、16年末まで航空、地上輸送などの需要低迷が続くと予想。ブラジル国民は、消費したくても消費に回す余裕がないのが現状。

民営化された6つの空港は、16年6月と7月に期限を迎えた運営権対価の支払いにつき、当局との間で期限延期を交渉。過去5年間にわたって成長を期待されてきたこれら空港の今後の見通しについて、フィッチは8月5日に「弱含みながら見込める17年の景気回復で、旅客輸送量と航空交通量は増加し、各空港の流動性への圧力はわずかに弱まるだろう」としました。

五輪開催前には、五輪が同国のマクロ経済の政調や各産業分野の成長を促すことになるとの期待一部にもありました。そうした期待は、完全に裏切られています。

 写真1 リオデジャネイロ五輪閉会式の様子

2. 鉱工業生産が停滞

中国の景況感の悪化、世界的な資源価格の下落、一時高止まりしたインフレ率と内需の不振などにより、ブラジルの景気は停滞を続けています。ブラジル地理統計院が2月1日に発表した12月の鉱工業生産は、前年同期比▲0.1%と、34か月連続で前年比割れ(図表1参照)。市場予想の▲5.0%からは上振れ。前月比は▲0.3%で、市場予想の+0.9%から下振れ。原油価格下落などにより、資源セクターの不振が続いています。ただし、マイナス幅は急速に縮小しており、景気には改善の兆しが見えます。

 図表1 ブラジルの鉱工業生産(前年同月比)

3. 小売売上高も低迷

ブラジル地理統計院が2月14日に発表した12月の小売売上高は、前年同期比▲4.9%(図表2参照)。前月の▲3.5%からマイナス幅がやや拡大。10月の▲8.2%からはやや改善しているものの、国内の消費は依然として低迷しています。

 図表2  ブラジルの小売売上高(前年同月比)

4. インフレ率は低下

一方、ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 政策金利を▲0.75%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は1月12日の金融政策委員会で、政策金利を▲0.75%ポイント引き下げて13.00%にすることを決定(図表4参照)。利下げは全員一致。利下げは前回12月の会合に続いて3会合連続。利下げ幅は市場予想の▲0.50%ポイントを上回りました。

中銀は14年10月に半年ぶりに利上げを再開し、15年7月までに7会合連続で利上げを行い、政策金利を11.0%から14.25%まで上昇させました。同9月には金利据え置きに転じて、16年8月まで8会合連続で据え置き。10月会合で利下げに転じて、前回12月会合でも▲0.25%の利下げをしました。

 図表4 ブラジルの政策金利

中銀は政策決定後に発表した声明文で、ブラジル経済の現状認識と見通しについて、前回と同様に「最近の経済指標を見ると、短期的にはブラジル経済の活動は思ったよりも弱い。今後、ブラジル経済の回復は一段と遅れ、これまで想定していたよりもさらに緩やかになる可能性がある」とし、改めて景気の下ブレ懸念を強調。ただ、「世界経済の先行きの見通しは依然として不透明なままだが、これまでのところ新興国経済を取り巻く穏やかな環境の終わりによる悪影響は限定的」とも指摘しました。

次回は、格付け、財政収支、経常収支などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (1) 成長率 平成29年2月10日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ただ、このところ景気の減速傾向が強まっています。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億40万人(ブラジル地理統計院推定、2014年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 低成長に転じる

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。ただ、その後資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.8%、16年▲3.2%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。ただ、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年には+0.4%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国と日本の成長率

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、13年の1人あたり国民所得は、米国が52,704ドル、日本が38,551ドル。また、ロシアが15,558ドル、ブラジルは12,259ドルでまずまずの水準。一方、中国が7,080ドル、インドは1,479ドルでした。

これを16年でみると、米国が57,293ドル、日本が37,304ドルに対して、ロシア8,838ドル、ブラジル8,586、中国8,260ドル、インド1,718ドル。中国の台頭とブラジル、ロシアの停滞、また為替の影響もあり、ブラジルのもたつきぶりが目立っています(図表2参照)。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、近郊のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2  BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4.  7-9月期GDPは▲3.8%に低迷

ブラジル地理統計院は11月30日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.9%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は10四半期連続。今年4-6月期の▲3.8%からはマイナス幅がやや縮小したものの、引き続き低迷。資源安により投資が低調なほか、雇用の悪化により消費の動きも鈍くなっています。

7-9月期に前期比では▲0.8%。前期比での減少は7四半期連続。現行統計となった1996年以降で過去最長の景気後退局面。16年通年の成長率は▲3.5%程度となる見込み。

設備投資など固定資本形成は前年同期比▲8.4%。テメル政権は財政健全化を進めるために歳出を抑制しており、さらに景気の見通し悪化により、企業も投資を抑制しています。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

景気低迷により、企業はリストラを進めており、失業率は10-8月には11.8%と、現行統計の12年以降で最悪の水準。雇用の悪化で消費も低迷。7-9月期の消費は▲3.4%の低下。インフレもあり、家計の購買力も低下しています。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルのGDP成長率は14+0.1%、15年▲3.8%、16年▲3.2%(IMF予想)と低下してきました。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権が後退し、政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一振、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの期待感が高まっています。

次回はワールドカップの効果、14年以降の景気見通し、物価、金利などを見る予定です。

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2. 長期停滞論

長期停滞論とは、ローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授が提唱して、主に米国で盛んになったものです。低成長・低インフレ・低金利の長期化、すなわち「長期停滞」は、過剰貯蓄が自然利子率(完全雇用と整合的な利子率)を押し下げ、「金融緩和が無効化する」ことによって発生するとしています。

長期停滞の問題点としては、1つ目に経常黒字国(世界的には過剰貯蓄を容認している国)の存在が、近隣窮乏的な効果を持つ。すなわち、日本や欧州、中国などの経常黒字が、世界的に金利を押し下げる方向に働いているが、その世界需要刺激効果は小さい。2つ目に、金利が効かない世界では、低金利政策は新規の需要ではなくストック(資産)・インフレを刺激する。3つ目に、「長期停滞」は、所得格差の拡大(中間層の崩壊)によって増幅される。としています。

世界的にゼロサム的な長期停滞議論では、日本、中国、ユーロ圏などの経常黒字国が世界の長期停滞を増幅させている眼鏡とされ、敵対視されます。

また、自然利子率が下がり、金融政策が無効化している状況においては、特に形状黒字国は財政支出を拡大させることが望ましいとされます。金融緩和は、経常黒字を拡大させ、資産インフレを促進するだけであるとされます。特に日本においては、積極的な財政出動により、財政赤字が急拡大しました。

3. 企業の主役も交代。

企業の主役も交代。17年6月末の時価総額上位10社を見ると、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾンなど米国のIT企業が独占。業種ではITが多いほか、国別では、中国の2企業もランクイン。10年前には、上位10位に入っていたIT企業はマイクロソフトのみであり、まさに様変わりしています。

 図表3 世界の企業の株式時価総額上位(2017年6月末)

4. 新興国の主役も交代

一方、新興国の主役も交代。日本など先進国に対して、中国、インド、ロシア、ブラジルのいわゆるBRICs諸国は、相対的に高い成長率を誇ってきました。2008年ころまでは、中国を筆頭に高い成長率を維持。ただ、その後2008年9月のリーマンショック後の2009年にはロシアが▲7.8%、ブラジルが▲0.1%となり、資源国を中心として落ちおみました。

その後も、ロシア、という資源国に対して、原油などの輸入国である中国、インドが優位に立ちました。これは原油など鉱産物資源価格の下落が影響しています。さらに、15年にはインドが+7.9%、中国が+6.9%と逆転。今後も中国は人口構成などの影響で成長率が低下する見通しであり、インドの優位が続く見通し。

 図表4 BRICs諸国と日本の成長率

5. 世界的な低成長が持続か

世界的には、低成長、低金利の時代が継続する可能性があります。米国においては、完全雇用が達成されているにもかかわらず、単位当たりの賃金の伸びが低く、インフレ率も低く、長期金利もあまり上昇していません。ユーロ圏、日本では引き続き景気が低調で、低金利も継続。

IT技術の進展により、世界的に適材適所での生産が定着し、世界の貿易も停滞。米国のIT企業は、海外に利益を滞留させる傾向にあり、必ずしも米国など先進国の税収が好転しているわけではありません。また、米国本土では、アイフォンなどハイテク機器の生産が多く行われているわけではなく、製造業の雇用が減少。米国IT企業の生産は韓国、台湾、中国などで行われる傾向にあります。

この世な観点から、世界的な景気の停滞が継続し、国別では、インドなど一部の国の景気の好調が持続。業種、企業では、米国、中国などの一部IT企業が好調を持続し、一部の日本企業などが後退する可能性がります。投資にあたっても、そのような観点が必要になってくると言えます。

中南米諸国の展望 (6) メキシコ 平成29年7月28日

中南米主要国のうち、前回のチリに続いて、メキシコを見ます。

1. CPI上昇率はやや加速

メキシコ国立地理情報研究所は7月7日に、メキシコの6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+6.31%になったと発表(図表1参照)。5月の同+6.16%からやや加速。市場予想の+6.34からはやや下振れ。

 図表1 メキシコのCPI前年比上昇率

2. 1-3月期は+2.7%

メキシコ統計局は5月22日に、17年1-3月期国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+2.8なったと発表。10-12月期の同+2.7%(確定値)からやや加速(図表2参照)。市場予想は+2.7%。

 図表2 メキシコの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を引き上げ

一方、メキシコ中央銀行は、6月22日の政策決定で、政策金利である翌日物貸出金利を+0.25ポイント引き上げ、+7.0%にすることを決定(図表3参照)。利上げは、市場予想の予想通り。

 図表3 メキシコの政策金利

5月のインフレ率は+6.16%と、09年4月以来、約8年ぶりの高い水準にまで上昇。中銀はインフレ率の目標を+3%程度をしており、足下では目標を大きく上回る水準となっています。

4. 政治

メキシコでは、2012年12月のペニャ政権が発足。財政、エネルギー、教育金融など多くの分野での改革を進めました。15年6月の連邦議会下院中間選挙(全500議席改選)では、与党PRI及び協力政党合計で過半数を確保し、ペニャ政権後半の政権運営に安定感をもたらしました。

主な改革として、まず教育改革では、労働組合の教員人事への介入を排除し、能力ベースの教員採用・評価制度を導入し、公教育の質向上を図っています。通信改革では、通信セクターの外資規制緩和、通信・メディアの新たな監督規制機関設立などにより、競争力強化、通信費引き下げなどを図っています。

最近問題となっているのは、米国との対立。米トランプ政権は、メキシコからの不法移民を問題視し、米国とメキシコとの間に壁を作り、その費用もメキシコに負担させるとしました。また、米国あるいはトヨタなどの企業がメキシコに新たに向上を作るとの意向についても、「アメリカ・ファースト」を掲げて牽制。米国の雇用と守るとしました。

5. 強み、課題、リスク

ブラジル、ベネズエラなどでは、資源価格の低下により、現政権に対する批判が高まっています。対して、メキシコは中国経済への依存度が低く、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国であるため、米国と強いつながりがあります。米景気の拡大を受けた輸出の拡大、内需の緩やかな回復が見込まれることが強み。また、自動車産業など製造業も発展。

ただ、米トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)を見直すと表明。自動車などの米国への輸出に支障をきたす恐れがあります。また、米国には多数の中南米系の不法移民がおり、強制送還される可能性もあります。

また、麻薬絡みの犯罪も頻発。首都メキシコ市南方のテミスコ市で、麻薬撲滅を目指して当選したギセラ・モタ新市長(33)が就任の翌日に、麻薬がらみのギャングに殺害されるなど、治安悪化が依然として深刻。

今後の注目点としては、石油鉱区の入札が順調に進展するかどうかということ。また、リスク要因としては、米国の景気(特に鉱工業生産)の下振れ、原油価格の低迷とメキシコにおける原油生産の減少、またそれに伴う財政への影響、米国の利上げによる海外の投資家による投資資金の引き上げの可能性などがあります。

6. 為替と株価

ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、16年8月には1ドル=18.0ペソ近辺での取引でしたが、17年1月にはどう21.4ペソ近辺へと大幅下落。トランプ大統領がメキシコとの通主関係を見直す方針を示し、メキシコの輸出の減少などを警戒して大幅に下落しました。

ただ、その後はメキシコに対する具体的な政策の発表はなく、米国とメキシコとの壁の建設についても、何ら具体化していません。そのため、ペソは対ドルで急反発。7月には1ドル=17.5ペソ近辺へと上昇しました。

 図表4 メキシコ・ペソ(MXN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年には原油価格の低迷などにより、15年にはほぼ横這いの動き。その後、投資家の資金が新興国に戻ったことなどにより、16年には反発。ただ、トランプ政権のメキシコへの政策を懸念して16年秋には下落。その後は通貨ペソと同様に、トランプ政権に対する懸念の後退などにより、17年初めからは大幅に上昇しました。

 図表5 メキシコ・ボルサ指数

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、米国が離脱を表明。ただ、残る11か国は締結の方向で疎いています。TPPが締結されれば、日本などアジア諸国との貿易が発展する可能性もあります。メキシコ市の新国際空港の建設、自動車産業に関連しては輸出港(ベラクルス港など)の整備の計画もあり、インフラ(社会的基盤)の整備も期待できます。

麻薬がらみの汚職・犯罪、また経済が原油価格の影響を受けやすいことなどがあるものの、製造業の発展により、緩やかな景気拡大、また中長期的な株価の上昇も期待できます。

中南米諸国の展望 (5) ペルー 平成29年7月21日

前回のチリに続き、今回はペルーを見ます。

1. 金利を2回引き下げ

ペルー中央準備銀行は17年5月11日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて4.00%にすることを決定(図表1参照)。その後、7月13日の同会合でも▲0.25%ポイント引き下げて3.75%としました。

中銀は政策金利を引き下げたことについて、「インフレ率は17年の目標値(+1.0〜3.0)の範囲内にある。食品とエネルギーを除くインフレ率は低下を続けており、目標値の範囲内にある。国内経済の成長率は、潜在成長率を引き続き下回っている。政府と民間の支出の増加により、今後成長率は上向くと予想される」としました。

 図表1 ペルーの政策金利

2. インフレ率が6月に減速

一方、ペルー国家統計局によると、7月3日発表の6月CPIは前年同月比+2.73%と、前月の+3.04%から減速(図表2参照)。中銀が目標とする+1.0〜3.0%のインフレ目標の範囲内にあります。インフレ率は3月に同+3.97%まで加速したものの、その後は鈍化が継続。

 図表2 ペルー消費者物価指数(前年同月比)

3. 17年1-3月期GDPは+2.1%

他方、ペルー国家統計局によると、17年1-3月期の同国の実質GDP成長率は+2.1%となり、昨年10-12月期の+3.0%から減速。市場予想の+2.7%からも下振れ。15年1-3月期以来の低成長となりました。

主な要因は、エルニーニョ現象に関連した北部の大規模な洪水。建設が打撃を受けて、▲5.3%。一方、プラスとなったものは、輸送が+2.5%、サービス+0.6%、製造業+1.7%、鉱業+4.1%、電気・ガス・水道+1.0%、漁業+37.7%など。

 図表3 ペルー四半期成長率(前年同期比)

4. 強み、課題、リスク

ペルーは、1980年代には経済運営の失敗からハイパーインフレーションが発生し、経済が破綻状態に陥りました。しかし、1990年代に発足したフジモリ政権において、経済自由化・健全財政を進め、経済が再生。同政権後も、新自由主義的な経済政策が継続され、貿易の自由化も進展。2009年には米国とFTA(自由貿易協定)が発足し、11年には日本と経済連携協定(EPA)に署名。

ペルーは中南米における優等生とした脚光を浴びており、高い経済成長と健全な財政を誇っています。物価、金利が安定し、外貨準備も高水準に積み上がり、国際収支や対外債務の面で、流動性について殆ど問題がないと言えます。

ペルーの成長を支えたのは、資源価格高騰による海外からの鉱山部門への投資。海外からの投資により、国内の投資は家計部門の消費が活気づきました。フジモリ政権下で、公営鉱山が民間部門に売却され、経済が活性化しました。

ただ、ペルーには金、銀、銅、鉛、亜鉛などの鉱物資源が豊富にあり、輸出に貢献しているものの、これら鉱物資源に頼りすぎている面があります。14年には、中国の景気減速などにより、銅など鉱物資源価格が大幅に下落しました。今後は、鉱物資源に頼らず、製造業などを発展させていくことが課題であると言えます。

5. 為替と株価

ここで、ペルーの株価及び為替の動きを見ましょう。ペルーの通貨であるペルー・ヌエボ・ソルは、対ドルで13年以降には下落基調。15年後半には1ドル=3.1ソル近辺での取引。その後はやや強含み、16年3月初めには、1ドル=3.45ソル近辺での取引。7月19日には、1ドル=3.2395ソルで終了。

 図表4 ペルー・ヌエボ・ソル(PEN/USD)

同国の代表的な株価指数の1つであるIGBVL指数は、13年初めから継続的に下落(図表5参照)。14年春ころからはやや反発したものの、14年後半からさらに大きく下落。中国の資源爆買いの停止により、金、銀、銅、亜鉛などの価格が下落。ペルー国内の景気の後退もあり、株価も軟調な展開となりました。

 図表5 ペルー・IGBVL指数

ペルーでは嘗て、左翼ゲリラが暗躍し、低成長の国でした。鉱物資源は豊富であるものの、インカ帝国の遺産があるほかは、日本にとって余りなじみのない国でした。その後はフジモリ政権の発足に伴い、経済の自由化が進み、成長率も高まりました。

今後もチリ、メキシコなど「太平洋同盟」加盟の1つの国として、発展が期待できます。米トランプ政権はTPPからの離脱を発表したものの、残り11か国でTPPが成立すれば、ペルー経済にとってはプラスに作用する可能性があります。

次回は、メキシコを見る予定です。

中南米諸国の展望 (4) チリ 平成29年7月14日

前回のアルゼンチンに続いて、今回はチリを見ます。 1. 金利を5月に引き下げ

チリ中央銀行は5月18日の金融政策決定会合で、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げて2.5%にすることを決定(図表1参照)。

中銀は会合後の声明で、「国際的な金融環境は引き続き好ましく、経済指標は、先進国における力強い成長のシナリオを後押している。消費市況は引き続き区々の動きで、銅価格は下落している」としました。

さらに中銀は、「国内に目を移すと、インフレ率は+2.7%にとどまっており、近い将来の予想は目標値に近い。生産と需要の予想は3月の金融政策報告に沿ったものであり、鉱業と建設ではネガティブな影響がある」としました。

 図表1 チリの政策金利

2. インフレ率が1月に減速

一方、消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は、鈍化を続けています。7月7日発表の6月CPIは前年同月比+1.7%と、前月の+2.6%から減速(図表2参照)。市場予想の+2.9%からも下振れ。

 図表2 チリ消費者物価指数(前年同月比)

3. 1-3月期GDPは+0.1%に減速

他方、チリの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比+0.1%と、前期の同+0.5%から減速(図表3参照)。2009年7-9月機以来の低成長となりました。2月に発生し、40日余りに及んだ主要鉱山であるエスコンディーダ鉱山のストライキが輸出を押し下げたのが響きました。経済活動別で目立ったのは、水産業で、禁漁区域の解除に伴う鰯漁獲量が5倍強になるなどして、前年同期比+34%と急増。

 図表3 チリ四半期成長率(前年同期比)

4. 政治

1973年のクーデターによりピノチェト軍事政権は、88年10月の国民信任投票で敗北。89年の選挙でエイルウィン大統領が選出され、90年に民政に移管。その後、4期連続して中道左派政権が継続。

その後、10年に民政移管後初の中道左派政権として誕生したピニュラ政権は学生のデモなどにより、具体的成果を出せませんでした。13年末の総選挙により、中道左派連合に共産党が加わる多数派により、バチェレ前大統領が勝利し、14年3月に新政権が発足。税制改革、選挙制度改革、教育制度改革などの法案を議会に提出。ただ、親族の不正土地売買疑惑により支持率は低下。チリは中南米にあっては、比較的政情が安定していると言えます。

本年11月の次期大統領選に向けて、与党会派では、17年3月11日に、ゴイック・キリスト教民主党党首が同党の大統領候補として立候補する意向を表明。社会党では、インスルサOAS事務総長とアトリア弁護士が立候補の意向を表明。野党会派では、3月21日にピニェラ前大統領が大統領選挙への立候補を正式に決定。

5. 課題、リスク

チリは「中南米らしくない」ともいわれる堅調な発展を遂げているわけですが、米英型の新自由主義に基づく経済運営が功を奏しています。自由化、対外開放を進め、公共部門の肥大化を招かずに経済の効率性が高まり、健全財政を標榜してきました。

格付けでみても、直近でチリについてS&PがAA−(見通しはネガティブ)、ムーディーズがAa3(同安定的)、フィッチがA+(同安定的)としています。格付けは中南米諸国の中で相対的に高く、優等生と言われます。宗教的、民族的対立なども少なく、社会的な対立が少ない国であると見られます。

ただ、経常赤字は拡大傾向にあります。国際通貨基金の予測では、経常収支は15年▲17.93億ドル、16年▲39.47億ドル、17年▲47.33億ドルで、国内総生産(GDP)比ではそれぞれ、▲0.74%、▲1.64%、▲1.88%と悪化の見通し。

また、他の多くの中南米諸国と同様、資源の輸出に依存しています。原油は純輸入国であるため、原油価格の下落は貿易収支に対してプラスに働くものの、銅など鉱産物の価格下落が痛手。通貨チリ・ペソも同価格に連動する傾向にあり、中国などの景気後退、鉱産物の需要減少が景気にとってはマイナスになります。

インフレ率については上記のとおり、低下傾向にあります。4月のCPIは前年同月比+2.7%と、前月の+2.7%からは横這い(図表2参照)。5月が同+2.6%、6月は+1.7%と、インフレ目標の+3%±1%を下回っています。中銀にとっては、インフレ物価よりも景気梃入れが課題となっています。

6. 為替と株価

ここで、チリの株価及び為替の動きを見ましょう。チリの通貨であるチリ・ペソは同価格に連動する傾向にあります。中国などの需要の後退で、2014年初めから銅価格が急激に下落し、その影響で通貨ペソも軟調な展開。ただ、2016年1月から10月まではほぼ横這い。その後はやや反発しました。

通貨ペソもほぼ同様の動き。昨年10月以降はやや反発する動き。ただ、チリ国内の景気の後退もあり、17年に入ってからはほぼ横這いの展開(図表4参照)。

 図表4 チリ・ペソ(CLP/USD)

株価もほぼ同様の動き。チリの代表的な株価指数の1つであるサンチアゴ指数は、14年初めから16年初めにかけては軟調な展開。その後は、17年1月頃まで大幅上昇。その後はチリ国内の景気後退の影響などにより、ほぼ横這いの展開(図表5参照)。

 図表5 チリ・サンチアゴ指数

チリは政治的、社会的に安定しており、高い格付けを維持しています。ただ、経済は依然として銅など鉱物資源の輸出に依存しています。今後は、製造業、第三次産業の発展を図り、均衡のとれた発展を目指す必要があります。ただ、ペルーなどと同様、中南米ではチリも所属する太平洋同盟諸国がブラジル、アルゼンチンなどの所属するメルコスルよりは発展する傾向にあります。今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結、それによる貿易の活発化が進むとすれば、チリ経済にとっては恩恵となることも考えられます。

次回は、ペルーを見る予定です。

中南米諸国の展望 (3) アルゼンチン 平成29年7月7 日

中南米主要国のうち、ブラジルに続いてアルゼンチンを見ます。

1. 金利が高止まり

アルゼンチン中央銀行は6月27日に、政策金利を26.25%と、5会合連続で維持(図表1参照)。中銀は、インフレとの取り組みについては成果を強調し、同行の目標である17年中の+12〜17%という目標に向けてインフレ抑制姿勢を継続すると強調。

 図表1 アルゼンチンの政策金利

2. インフレ率が急上昇

一方、5月のブエノスアイレス市発表インフレ率は、前年同月比+24%(図表2参照)。インフレ率には、やや収まる兆しがあります。ただ、アルゼンチンの統計自体疑問が呈されることが多く、どこまで実態を反映しているかについては、不透明な部分もあります。

 図表2 ブエノスアイレス市発表消費者物価指数(IPCA)

3. 17年1-3月期GDPは+0.3%に改善

他方、アルゼンチンの17年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比0.3%(図表3参照)。昨年10-12月期の▲1.9%からは改善したものの、依然として低迷しています。16年には、財政・金融の引き締めなどの経済政策により、景気は減速すると予想されていましたが、ほぼ予想通りとなりました。

 図表3 アルゼンチンの四半期成長率(前年同期比)

4. 政治、課題、リスク

アルゼンチンでは、第二次大戦後にほぼ一貫してペロン等の支配が続きました。経済危機後の03年から、ペロン等左派のキルチネル夫妻が大統領として政権を担当。15年10-11月の大統領選挙では、中道右派のマクリ候補が、キルチネル主義(大衆迎合的政治、市場介入、保護主義的政策)からの決別を訴えて、キルチネル派の候補を破って当選(写真1参照)。キルチネル政権における汚職、経済低迷への反発があったとみられます。

 写真1 ブエノスアイレスで行われた決選投票で投票する野党候補マウリシオ・マクリ氏

マクリ新政権は、キルチネル前政権とは違い市場寄りの政策を提示。経済政策としては、外貨準備回復のための措置、輸出規制の緩和、また、金融政策としてはインフレ・ターゲットの導入などを推進。その他、エネルギー補助金の段階的な削減など、価格統制・消費刺激策の期限を設定しました。



5. 対外債務問題で前進



アルゼンチンは2001-02年に800億ドルの負債を抱えて債務不履行(デフォルト)に陥りました。その後政府は民間債権者に対して、一方的な債務再編案を提示。その条件に応じず、債務交換に応じなかったいわゆる「ホールドアウト債権者」の一部(米系ヘッジファンド)は、デフォルトした債券(国債)の全額返済を求め、NYで提訴。



NY連邦地裁は12年2月に、原告の主張を支持。アルゼンチン政府は上告するも、米最高裁は14年6月に上訴を棄却。アルゼンチン政府は原告への支払いを行なわず、債務再編に応じた債権者への支払いもできなかったため、再びデフォルト(テクニカル・デフォルト)。



マクリ政権となり、米系のいわゆるハゲタカファンドとも呼ばれる投資家などとの交渉を開始。2月上旬以降、欧米の複数の投資グループとの間で、返済案に合意。アルゼンチン政府は米投資ファンド側への支払いを行い、デフォルトを解消。



2002年のデフォルト依頼、アルゼンチンは国際金融市場から事実上締め出されていたため、ベネズエラや中国などに外貨建て国債を購入してもらうなどして苦境をしのいでいました。デフォルトが解消されたことにより、国際金融市場に復帰し、資金調達する道が開かれました。



6. 為替と株価



ここで、アルゼンチンの株価及び為替の動きを見ましょう。アルゼンチンの代表的な株価指数の1つであるメルバル指数は、15年初めからほぼ一貫して上昇(図表4参照)。マクリ政権が市場よりの政策をとることへの期待、デフォルトの解消などを好感しているのが原因であるとみられます。

 図表4 メルバル指数

続いて通貨についてみると、アルゼンチン経済はペロン党のフェルナンデス政権時代に迷走を続けていました。そのため、通貨ペソが大きく下落。特に、2011年から15年にかけて大幅下落。ここ1年でみても、下落が継続(図表5参照)。

 図表5 アルゼンチン・ペソ(ARS/USD)

マクリ大統領は15年12月の就任直後に、経済活動をゆがめていた外貨取引規制を緩和。輸入、観光、投資などに関する規制を撤廃。その結果、15年11月に1ドル=9.5ペソであった公式レートは、闇レートにさや寄せされ、16年2月には1ドル=14.8ペソまで下落16年9月以降には1ドル=15ペソ台となり、17年7月には1ドル=17ペソ近辺まで下落しています。



次回は、チリを見る予定です。

中南米諸国の展望 (2) ブラジル 平成29年6月30日

中南米主要国のうち、まずブラジルを見ます。

1. 政策金利を▲1.00%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は5月31日の金融政策委員会で、政策金利を▲1.00%ポイント利下げして10.25%にすることを決定(図表1参照)。利下げ幅は6会合連続。ブラジルは2年連続でマイナス成長となったものの、足下では景気に下げ止まり感もあります。中銀は、さらなる緩和により景気の下支えを図っています。

前回2月会合の▲0.75%から拡大。利下げは5会合連続で、全員一致。16年10月以来の利下げ幅は合計で▲3.00%ポイント。中銀は、利下げ幅▲1%以上の金融緩和を今後も続ける姿勢を見せています。

▲1%の引き下げ幅は、前回4月の会合に続いて2回連続。ブラジルでは、インフレ率が急速に低下しており、5月の消費者物価指数(IPCA)が+4%を割り込むなど、長年の課題であるインフレ抑制が実現しつつあります。そのため、金融緩和の余地が拡大しています。

中銀は声明で「インフレ率は好ましい水準を維持している。ブラジル経済は短期的に安定し、長期的には徐々に回復している」としました。ブラジル地理統計院(IBGE)が31日に発表した統計では、失業率が3年ぶりの低下に転じました。

 図表1 ブラジルの政策金利

2. インフレ率が減速

一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+3.6%と、前月の同+4.08%から減速(図表2参照)。伸び率は市場予想の+3.77%を下回り、インフレ率は9か月連続で低下。中銀のインフレ目標値である+4.5%に収まっています。

 図表2 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

3. 1-3月期GDPは▲0.4%に改善

他方、ブラジル地理統計院は6月1日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲0.4%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は12四半期連続。ただ、昨年10-12月期の▲2.5%からはマイナス幅が縮小。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

さらに、前期比では+1%となり、2年3カ月ぶりにプラス成長に転じました。ブラジル地理統計院は、穀物収入の増加で、農業部門が+13.4%になったことが寄与したと述べました。

ブラジル地理統計院の発表を受けて、ブラジルのテメル大統領は、同国の最悪の過去10年における最悪のリセッション(景気後退)が終了したと述べました。同氏は「ブラジルは景気後退を克服した。本日の発表は、ブラジルの景気回復が確実なものになったことを示唆している」としました。

4. 政治、課題、リスク

ルセフ前大統領が断崖裁判によって昨年8月に罷免され、副大統領のテメル氏が大統領に昇格。テメル大統領は不況が続く経済の立て直し、財政の再建、投資環境の改善を優先課題とし、改革を進める意向を示してきました。株式、為替市場もテメル政権がルセフ前政権よりも市場よりの政策をとると期待し、また景気にも上向きの兆候が出ていました。

ただ、テメル氏への汚職の疑惑などが噴出。ブラジル連邦検察庁のジャノー長官は6月26日にテメル大統領を収賄容疑で起訴。同大統領の支持率は1ケタ台に低迷。大規模な汚職疑惑により現職大統領が起訴されたことにより、政権基盤が不安定となっています。

大統領に対する起訴の受理には、下院の3分の2の賛成が必要。テメル大統領率いる与党連合では、起訴の受理を阻止できるとしています。しかし、今後も大統領については、恐喝や司法妨害の容疑などでも起訴される見込み。支持率がさらに低下する可能性があります。さらに、支持率の低下などにより、期待されていた労働法の改正が見込めなくなったとの指摘もあります。

景気については一部に明るさがみられるものの、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC諸国による原油減産継続に新鮮味がなく、シェールガスの増産も続いていることから、原油価格など鉱物資源の価格が停滞しています。

輸出も依然として鉱物資源、あるいは農産物など一次産業が中心となっており、自動車など製造業の育成が遅れています。インフレ率については急速に低下しているものの、財政赤字と経常収支赤字の縮小も課題となっており、引き続きこれらの問題が株価、通貨の上値を抑える可能性があります。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。14年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。15年に入っても下落が継続。16年1月末には1ドル=3.999レアルとなり、14年12月末比では▲50.4%の大幅下落(図表4参照)。

その後、原油価格の反発などにより、通貨も上昇に転じました。15年には通貨レアルは対ドルで+17.8%の大幅上昇。ただ、17年に入ると原油価格が停滞したことなどにより、16年末から5月末まで、+0.42%の小幅上昇にとどまっています。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価は15年には年初から4月にかけて上昇したものの、その後下落に転じて、年末まで引き続き軟調な展開。中国の景気減速、世界的な株価の提供もあり、さらに下落し、16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントの安値を付けました。

その後は原油価格の反発などにより、株価は上昇に転じました。16年には株価はボベスパ指数でみて+38.9%と、大幅上昇。17年に入ると、原油価格が停滞したことなどにより、ア株価は16年末から17年5月まで+4.1%と、小幅上昇にとどまりました。

次回は、アルゼンチンを見る予定です。

中南米諸国の展望 (1) 平成29年6月23日

ブラジルなど中南米主要国は、2008年前半までは、世界的な資源ブームにより大きく潤うこととなりました。ただ、特に14年には原油価格などが急落し、曲り角を迎えました。16年以降には、資源価格の回復とともに、景気回復の動きも見られます。主要国の現状と今後の展望を探ります。

1.中南米の概観

中南米諸国全体では、人口が6億290万人、名目国内総生産(GDP)5兆7990億ドル、1人当たりGDPは9,619ドル(国際通貨基金=IMF 2014年 データ)(地図1参照)。全体として、原油、鉄鉱石、銅などの鉱産物資源に恵まれており、ブラジル、アルゼンチンを中心として農産物の生産も盛ん。人口も多く今後の発展が期待されていますが、製造業の発達は必ずしも順調ではありません。

 地図1 中南米主要国

経済共同体としては、大きくメルコスルと太平洋同盟に分かれます。メルコスルは全体として、人口2億9143万人、名目GDP2兆7110億ドル、同1人当りGDP10,033ドル。5か国が関税同盟を結成しており、ボリビアが各国議会の批准待ち(IMF17年4月データ)。太平洋同盟は同様に、人口2億2390万人、名目GDP1兆7700億ドル、同1人当り8,530ドル。かつてはブラジルを中心とするメルコスルが中南米諸国の経済の中心となっていましたが、近年はむしろ太平洋同盟のほうに勢いがあります(図表1参照)。

 図表1 メルコスルと太平洋同盟

2. 低成長に転じる

メルコスルの国内総生産(GDP)成長率からみると、2004年以降には概ね順調に推移していたものの、2008年9月のリーマン・ショックとその後の世界的な金融不況により、2009年にはブラジルの成長率が▲0.1%になるなど、各国とも落ち込みました(図表2参照)。

 図表2 メルコスル諸国の成長率予想

さらに、原油、鉄鉱石など資源価格の下落などの影響で、16年にはブラジルが▲3.5%、アルゼンチン▲2.2%、ベネズエラ▲18.0%など大幅な落ち込みとなりました。

次に太平洋同盟諸国を見ると、2007年までは概ね順調に推移し、07年の成長率はチリ+4.9%、ペルー+8.5%、メキシコ+3.1%など、まずまずの水準で推移(図表3参照)。その後はリーマン・ショックなどにより、09年にはチリ▲1.5%、ペルー+1.0%、メキシコ▲4.7%などと低迷。ただ、10年以降には急速に回復し、メルコスル同盟諸国と比較して、堅調さが目立っています。14-16年においても、原油価格下落の影響を受けたものの、メルコスル諸国と比較すると、相対的に景気は優位性を保ちました。

 図表3 太平洋同盟諸国の成長率予想

3. 資源価格が大幅下落

このように中南米諸国、特にメルコスル主要国の成長率は大幅に低下してきたわけですが、その主な原因は中国の成長率の急激な鈍化、それに伴う原油など資源価格の大幅下落です。商品市場の代表的な指数の1つであるCRB指数を見ると、14年5月以降、一貫して急激に下落(図表4参照)。原油、鉄鉱石、銅など主要な鉱産物、あるいは金、プラチナなど貴金属の下落を反映しています。下落は16年初めまで継続。

13年前半頃まで、中国の高い成長率に支えられ、原油など鉱物資源価格は堅調に推移。その後は中国による原油、鉄鉱石など資源の「爆買い」が一転して需要の減少となり、資源価格が低下、ブラジル、ベネズエラなど資源輸出に依存する国にとっては、大きな打撃となりました。

ただ、16年初頭からは石油輸出国機構(OPEC)による原油減産、中国の「爆買い」後退による影響の緩和、米国などの景気回復で資源価格はやや持ち直しました。ただ、17年5月にはOPECなどが原油減産の延長で党委したものの、真新しい材料がなく、米国のシェールガスの増産も続いているため、原油価格は小幅反落。CRB指数も軟調な展開となりました。

 図表4 CRB指数

4. 左派勢力が後退

政治の面では、左派勢力が後退。まず、11月22日には任期満了に伴い、アルゼンチンで大統領選の決選投票が行われました。中道右派の野党候補でブエノスアイレス市長のマウリシオ・マクリ氏(56)が当選。12年間にわたる中道左派政権の継承を掲げる与党候補を破り、当選。

アルゼンチンでは、クリスチーナ・キルチネル前大統領が大衆迎合的な政治を行い、消費者物価(CPI)上昇率も高く、政府統計についても国際通貨基金(IMF)が疑問を呈していました。前政権では、国債のデフォルト(元利金の不払い)を巡って一部債権者と対立。中道右派のマクリ氏が新たに当選したことにより、市場寄りの政治になるものと期待されています。

続いて、ベネズエラで12月6日に実施された国会議員選挙(一院制、定数167)では、中道右派の野党連合民主統一会議(MUD)が大勝しました(写真1参照)。マドゥロ大統領率いる与党の統一社会党は大敗しました。同国では経済危機が深刻化。その後、大統領よりの最高裁が議会の停止を命じて、さらに停止が解除されるなど混乱が続いています。MUDは与党及び大統領との対決姿勢を強めています。

 写真1 総選挙で大勝した野党の指導者エンリケ・カプリレス氏

さらに、ブラジルでは左派のルセフ大統領の人気が急落。ルセフ大統領は国営企業を巡る汚職に関連しているとして、ブラジル議会が大統領の弾劾を行いました。昨年8月にルセフ大統領の弾劾が成立して、テメル副大統領が大統領に昇格。18年末まで大統領を務めることになっています。

しかし、テメル氏は副大統領候補としてルセフ氏とともに臨んだ14年の選挙で、選挙資金名目として1500万レアル(約5億2000万円)の賄賂を受け取ったとする疑惑などが噴出。一時は市場寄りの政策を打ち出すとして、ブラジルでは株式市場などがテメル新政権に期待したものの、汚職疑惑の噴出により、株式・為替市場はこのところ勢いを欠く展開となっています。

一方、米国とキューバはオバマ前大統領が両国の国交を再開。キューバは長らく中南米における反米勢力の急先鋒であったわけですが、米国との国交回復により、遅れている経済の立て直しに向かうこととなりました。

ただ、今年1月に発足した米トランプ政権は一転してキューバに対して厳しい態度をとっています。6月16日には、「国民を苦しめてきたカストロ政権を見逃すわけにはいかない」とし、「オバマ政権による一方的なキューバとの合意を取り消す」としました。

5. 混沌とした情勢が継続か

一時は景気の回復が期待されたブラジルで、政治の混乱などにより景気の停滞感が強まっています。一方、トランプ大統領との対立により、通貨の下落、国内総生産(GDP)成長率の鈍化などが心配されたメキシコでは、以外に底堅い景気を保っています。ベネズエラでは、物不足、物価の高騰、与野党の対立の先鋭化、企業の一部国有化に対する産業界の反発など、混迷が深まっています。中南米全体としては、混沌とした情勢が継続することも考えられます。

次回からは、ブラジルなど主要国の動きを見る予定です。

原油価格の動向と中東諸国 平成29年6月16日

中東における「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約7年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権の中東への関与、中東諸国の政治情勢、原油価格の動向などを見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ大統領は、オバマ前政権とは異なり、サウジアラビアとの関係を重視し、イランを敵視する姿勢を鮮明にしています。同大統領は5月21日にサウジアラビアの首都リヤドを訪問し、イスラム圏54か国の代表を集めた「米・アラブ・イスラム代表者会議」で演説。イスラム国(IS)やアルカイダなどの「暴力的過激主義」との戦いで、イスラム諸国との連携を呼びかけました。

トランプ氏は、テロとの戦いを「善と悪との戦いだ」と位置づけ、各国に対してイスラム諸国主導による「過激思想の撲滅」の実現に向けた連携を訴えました。特にイランについては、「シリアのアサド政権を支援している」として非難し、イランが支援する「テロ組織」の封じ込めを訴えました。

 写真1 歓迎式典に参加したサウジアラビアのサルマン国王(右)とトランプ大統領

3. サウジがカタールと断交

サウジアラビアとエジプト、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)は6月5日に、カタールと断交すると発表。湾岸諸国では、カタールがテロに資金援助しているとの非難があり、緊張が高まっていました。

国営サウジ通信によると、サウジアラビア政府は、「テロリズムと過激主義の危険から国の治安を守る」ために、カタールとの外交関係を断絶し、国境を閉鎖する。陸・海・空のすべての玄関口の閉ざすとしました。

エジプト外務省は、カタール政府が「テロリズムを支援している」とし、エジプト国内の港湾と空港へのカタール国籍の舟や航空機のアクセスと拒否するとの方針と発表。

さらに、バーレーン通信は、カタール政府が「バーレーンの治安と安定を揺るがし、内政干渉を行う」と主張したため、国交を断絶したと報道しました。

 写真2 カタールの首都ドーハ

4. モスル奪還作戦が進行

イラクとシリアにまたがるイスラム系過激派組織「イスラム国」は、イラクの北部主要都市モスルを「首都」としています。そのモスルを奪還するためのイラク軍の攻勢が強まっています。

イラクの陸軍参謀長は4月30日に、過激派組織「イスラム国」(IS)から、モスルを奪還する作戦が5月中に終了するとの見通しを示唆。奪還作戦が「長くても3週間」で完了するとの見通しを示しました。

イラク軍のモスル奪還作戦は、米軍が主導する有志連合軍の支援を受けています。昨年10月の作戦開始以来、ISにおける大変の支配地域を失っており、現在は北西部を残すのみとなっています。

 写真3 モスルの市街戦

5. OPECとロシアなどが原油減産で合意

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC主要産油国は5月25日に、原油の減産を9か月延長することで合意。昨年11月に成立した減産合意は、世界的な供給過剰の解消や持続的な価格回復を実現できませんでした。

OPEC加盟国とロシアなど非OPEC主要国は、2018年3月までの減産延長に合意。ただ、今回から新たに減産に加わる加盟国はなく、18年の遅い時期までの減産を継続する選択肢も示しませんでした。

6. 原油価格の動き

原油価格を見ておきましょう。代表的な指標の1つであるNYのWTIは、16年2月には月末値でみて1バレル=30.32ドルの安値を付け、その後は回復。OPECロシアなど主要産油国の減産合意もあり、17年2月末には、同52.50ドル迄回復。

 図表2 NY原油価格(WTI)

ただ、今のところ原油価格の反発力は弱く、最近では1バレル=50ドルを下回る点かい。米国のシェールガス企業が増産姿勢を示していることもあり、原油価格の大幅な上昇は見込みにくい情勢。産油国の間では、減産を延長せずに増産に転じれば、原油価格が急落するのではないかとの警戒感もあります。

ロシア経済の展望 (4) リスク・課題・株価 平成29年6月9日

前回の財政、政治に続き、リスク要因、課題、為替、株価などを見ます。

1. 人口

ロシア経済にとって、最大の足かせとなるのは人口問題。人口の予測で代表的なものとして、国連人口統計(UN World Population Prospects, 2015Revision)があります。この統計によると、ロシアの人口は、2010年には1億4295万人となっています(図表1参照)。

 図表1 ロシアの人口ピラミッド(2010年予想)

ところが、2050年には1億2618万人と、急激に減少する見込み。

 図表2 ロシアの人口ピラミッド(2050年予想)

更に、全体の人口が減少するだけでなく、年代別の人口構成にも問題があります。一般に14歳以下の人口を幼年人口、65以上を老年人口と呼び、両者の合計が非生産人口となります。これに対して、15-64歳を生産人口と呼び、後者の比率が前者に対して相対的に上昇する局面では、経済が大きく発展することが多いとされています。

2010年で見ると、生産年齢人口1億316万人に対して、非生産年齢人口3978万人で、後者の前者に対する比率は38.5%。これに対して、2050年にはそれぞれ7570万人、5048万人となり、同比率は66.6%へと急上昇する見込み。

ロシアの場合、ウォッカの飲みすぎなどの弊害により、もともと平均寿命は相対的に短いわけですが、人口減少が続く見込み。2000-2010年の人口減少の速度は年平均▲0.23%だったものの、今後は▲0.35%へと加速する見込み。人口が減少する中で、どのように1人当たりGDPを引き上げるかが課題。教育水準は高く、理工系大卒者は世界5位。その一方で設備更新が不十分で、インフラ整備も遅れており、潜在的な国力を十分生かしていないと言えます。

2. 資源への依存

ロシア世界有数の資源大国ではあるが、そのためにかえって、製造業あるいはサービス業などの発展が遅れている面があります。政府の歳入も資源価格頼みであるが、輸出においても資源の比率が非常に高くなっています。

ロシア経済は原油及び天然ガスなど資源に大きく依存しており、国内総生産(GDP)と原油価格がかなり連動していることについては、第1回のレポートで報告した通りです。では、株価との関連ではどうでしょうか。ロシアの代表的な株価指数の1つであるRTS指数と、原油価格の代表的な指標の1つであるNYのWTI先物を比較するとほぼ連動していることが見て撮れます(図表3参照)。

 図表3 ロシアRTS指数とWTI

猶、17年5月25日に、石油輸出国機構(OPEC)はウィーンで開催された総会で、当初17年6月末としていた「協調減産」の期限を、9か月延長することで合意。減産の新たな期限は18年3月末となりました。これに先立ち、サウジアラビアは、ロシアとの間で、原油の減産の延長について合意。OPEC及び非OPECの主要国の間で減産について合意が成立しています。

米エネルギー情報局(EIA)では、原油価格の中期的な見通しについて、ベース・シナリオで年率+2.7%の上昇と予想しています(図表4参照)。米国シェール・オイルは、原油価格が採算レベルと上回ると即座に増産が可能であり、2000年代のような原油価格の急激な上昇は見込めないとしています。

 図表4 EIAによる原油価格見通し

3. 政治的リスク

政治的には、プーチン大統領が今のところ高い支持率を維持しており、国内では大きな波乱要因は見当たりません。ただ、18年3月11日の大統領選においては、国内の景気低迷により、プーチン氏に対する支持率が低下する可能性があり、その場合、同氏が大統領選に出馬しない可能性もあります。

また、外交の面では、米国でトランプ政権が発足したことにより、ロシアに対する欧米の経済制裁の解除の可能性もあるとされました。ただ、米国とロシアとの関係は、米国によるシリア攻撃などにより悪化しており、欧米の経済性は、少なくとも当面、継続すると予想されます。

4. 株価と為替、原油価格

上記の通り、ロシア経済は原油、天然ガスなど資源への依存度が高いため、株価は原油価格にほぼ連動して推移してきました。代表的な株価指数の1つであるRTS指数は、13年以降に大幅下落。15年1月には737.35ポイントの安値を付け、さらに、16年1月には745.30ポイントの二番底を付けました。

ただ、その後は原油価格及び景気の回復とともにRTS指数も反発に転じ、17年に入っても、比較的堅調な展開となりました。

 図表5 RTS指数とロシア・ルーブル(RUB/USD)

通貨ルーブルもほぼ同様の展開。14年以降に対ドルで大幅に下落。15年1月には1ドル=69.20ルーブルの安値を付け、さらに、16年1月には同75.72ドルの二番底を付けました。

このように、ロシアの経済、ひいては株価、為替の見通しについては、依存度の高い欧州経済の動き、あるいは資源価格次第ということになります。景気及び資源価格の回復により、株価と通貨は16年には大幅な上昇となってものの、今後も上昇が続くかどうかは、不透明な情勢であるといえるでしょう。

ロシア経済の展望 (3) 財政、政治 平成29年6月2日

前回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高を見ました。今回は財政、欧米による経済制裁、政治などを見ます。

1. 財政バッファーを温存

ロシアの財政は、かなりの部分を原油及び天然ガスなど鉱物資源に頼おり、原油価格・天然ガス価格低迷により、財政赤字が拡大。2015-16年には、原油価格低迷により、財政赤字が拡大。財政赤字の埋め合わせのために、財政バッファー(基金)の取り崩しが進行。

財政バッファーは予備基金と国民福祉年金に分かれており、予備基金はロシア中銀への外貨建て預金として全額支出目的は、在氏江赤字の補填と、対外債務の繰上償還。国民福祉基金の支出目的は、年金基金の赤字補填と、任意追加保険料の積み増し補助。

17-19年には、歳出削減により、財政赤字を縮小させることにより、財政バッファーを温存させる予定。1バレル=40ドルを想定しており、予備基金は17年途中で底をつくものの、国民福祉基金は17年末時点で430億ドルが残ると想定(図表1参照)。

 図表1 財政バッファーの残高

2. 財政健全化の鍵

ロシアはこのように、財政健全化を図っているわけですが、その鍵となるのは、原油価格、通貨ルーブル、国防費削減。

まず、歳入面では、原油価格とルーブル相場が問題。予算では、1バレル=40ドルを想定。実際の原油価格はこの想定を上回る可能性が高く、財政に対して、増収効果となると予想されます。

16年の財政赤字増加の主な要因は、国防費の増加。16年の国防費増加は、軍産複合体による借り入れ増加に対する政府保証の前倒し履行。政府保証の大勝となっていた債務は1兆ルーブル。このうち17-18年に返済期限が到来する8000億ルーブルの政府保証を前倒して履行。

3. 欧米による経済制裁

ロシアはソ連崩壊、独立国家共同体成立の後、特にプーチン政権になってからは、かつてのソ連の威光回復を目指す動きを強めてきました。特に、ウクライナが親欧州政権となり、北大西洋条約(NATO)に加入すると、ロシアはNATOと国境接することになる為、ロシアはウクライナへの介入姿勢を強めました。

その後、14年のウクライナ政変により、親ロシアであるヤヌコヴィッチ政権が崩壊して、暫定政権が発足。これに対して、ロシア系住民が多数を占めるクリミアでは、一部の住民が抗議し、新政権と衝突。これを機に、ロシアは軍事介入し、住民投票を経て、ロシアはクリミアをロシアに併合しました。

これに反発して、欧州連等(EU)や米国が、ロシアの主要銀行・企業に対する金融取引の制限、軍需技術や汎用品の輸出禁止、北極海・深海大陸棚での油田探査や掘削、シェールオイル掘削に使用される先端技術提供禁止などの経済制裁を発動。ロシアはEUからの農作物禁輸などの逆制裁発動に踏み切り、貿易が減少。

欧米による経済制裁による、ロシア会税は大きな打撃を受けました。特に、西側金融機関のロシア向け与信残高が急減。ただ、ロシア貿易総額に占める格好の割合は、拡大を続ける中国を除いて縮小傾向にありました。また、ロシアへの直接投資(FDI)は、14年の220億ドルから15年には65億ドルに急減。ただ、独・日・英からのFDIは増加。

4. プーチン大統領が高支持率を維持

ロシアでは、2018年3月11日に大統領選挙が予定されています。今のところ、プーチン大統領の再出馬・当選の可能性が高くなっています。ロシアがクリミアを14年3月に併合し、それ以来プーチン大統領派80%超の高い支持率を維持(図表2参照)。16年9月の系ン選挙では、与党の「統一ロシア」が全450議席中、343議席(全体の76%)を獲得して圧勝。

 図表2 プーチン大統領の支持率

5. 反プーチンの動きも

まず、ロシア各地で17年3月以降に、大型長距離トラックの運転手がストライキを展開。政府が15年に導入した通行料金徴収制度「プラトン」の撤廃を主張。同時に政府の「無能ぶり」を糾弾しており、新たな反政府運動に発展しています。

4月17日には、モスクワ東部から約20km離れた大型モールの駐車場で、大型トラック7台がストを展開。フロントガラスには「プラトン撤廃」と書いた横断幕を掲載。警察のパトカー7台が駆けつけて退去を命じたものの、運転手たちは「誰にも迷惑はかけていない」として、押し問答となりました(写真1参照)。

 写真1 運転手にトラックの撤去を命じる警察官

さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた反政府運動も広がりを見せています。野党指導者で著名ブロガーのアレクセイ・ナワリニー氏(40)がネットで呼びかけたことによる反政府腐敗デモは、3月26日にはモスクワを含むロシア全土の主要89都市で開催されました。組織化されていないデモは取り締まるのが困難な面があり、プーチン政権に打撃となりました。

26日午後のモスクワ中心部のベルスカヤ通りでは、デモが始まるとナワリニー氏が、直ちに治安部隊に逮捕されました。ただ、行進は夕方迄継続し、プラカードを掲げるなどして、数百人の市民が拘束されました。

ただ、参加者は一般に通行人と区別がつかず、多くの市民はスマートフォンを掲げて、各所の陳部隊の動きを撮影。デモ隊には、けが人が殆ど出ませんでした。デモのきっかけは、ナワリニー氏が撮影したドキュメンタリー動画。メドベージェフ首相が賄賂で莫大な財産を得たとするもので、ユーチューブでの視聴回数は、1300万回を越えました。

6. トランプ政権による対露制裁解除の可能性は低下

一方、米トランプ大統領は、就任前の選挙期間中から、親露姿勢を強調。ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)諸国と距離を置く姿勢を示し、他方ロシアとの協調路線を示唆。大統領に当選後には、ロシアとの関係が深いとされるティラーソン氏(エクソン・モービルCEO)を国務長官に指名し、トランプ新政権がロシアとの関係修復を図るとの予想が高まりました。

ところが、ロシアとの協調を推進すると見られたフリン大統領補佐官が2月13日に辞任。さらに、シリアが化学兵器を使用したことに対する報復として、米国は4月6日にシリアへの空爆を実施。米露の関係が急速に悪化したことにより、米国による対露制裁解除の可能性は大きく後退しました。

7. プーチン大統領の再選出馬は微妙

プーチン大統領は、今のところ18年3月11日の大統領選に出馬するとみられるものの、出馬は微妙であるとの見方もあります。確かに、ロシアによるクリミア併合以降、同氏への支持率は高止まりしているものの、ロシア国内では貧困層の比率が上昇。さらに、貧富の格差を示すと言われるジニ係数も上昇。特に若い世代は豊かさを実感していないとされ、プーチン氏の政権地盤は、必ずしも盤石とは言えないとの見方もあります。

次回は、リスク要因、課題、為替、株価などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (2) 成長率、金利 平成29年5月26日

前回は他のBRICs諸国との成長率・株価の比較、経済構造の特徴などを見ました。今回は足下の景気、金利と物価、外貨準備高などを見ていきます。

1. 10-12月期GDP成長率は+0.3%

ロシア連邦統計局が3月31日発表した統計によると、10-12月期国内総生産(GDP)は、市場の予想通り、前年同期比+0.3%(図表1参照、速報値)。昨年10-12月期の▲0.4%からプラス圏に浮上しました。7四半期にわたるマイナス成長から脱却。16年通期では▲0.2%で、速報値から変わらず。

 図表1 ロシアの四半期成長率(前年同期比)

2. インフレ率が鈍化

国家統計局から5月5日発表された4月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+4.1%と、前月の+4.3%からさらに鈍化(図表2参照)。市場予想の+4.2%から下振れ。12年5月以来の低水準。前月比は+0.3%で、前月の+0.1%から加速。

 図表2 ロシアの消費物価指数前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き下げ

一方、ロシア中央銀行は4月28日に政策決定会合を開き、主要政策金利である1週間物レポ入札最低金利を▲0.5%引き下げて9.25%にすることを決定(図表3参照)。市場では概ね▲0.25%ポイントの利下げを見込んでいたため、予想を上回る下げ幅となりました。3月に続いての連続の利下げ。

 図表3 ロシアの政策金利

マビウリナ中銀は先週に、インフレ率が目標とする+4%に接近したため、▲0.25-0.50%ポイントの利下げが協議される可能性があると発言。政策金利のガイダンスを示唆。市場では、年末までにロシアの政策金利は8.5%までの低下を見込んでいます。

4. 成長率と財政収支

2008年のリーマンショックの前、すなわち金融危機の前の時期である2003年から2008年前半については、天然ガス、原油など資源価格上昇により、輸出、個人消費、固定資産投資が拡大。年平均で+7.8%の高成長を遂げました(図表4参照)。

しかし、2008年9月のリーマンショック、2008年後半から2009年にかけての資源価格の下落により、輸出・所得が減少し、個人消費など内需が後退。また、財政収支も悪化し、GDP比の政府債務も拡大。2010年以降やや景気が持ち直したものの、12年は+3.5%成長にとどまりました(IMFによる)。その後、原油、原燃ガスなど資源価格の下落により15-16年にはマイナス成長に陥りました。それとともに、財政収支も再び悪化しました。

 図表4 成長率とGDP比財政収支

5. 金融市場の過度の悲観論が後退

財政収支は、主な収入源である原油、天然ガスの輸出・採取税の落ち込みにより、15年に悪化。16年にはGDP比で▲3.12%まで落ち込みました(図表4参照)。ただ、原油価格高騰時に蓄えた予備資金の取り崩しにより、財政の埋め合わせを行いました。

一方、15年の貿易・経常収支は欧米による制裁に対抗して、欧州からの農作物の輸入を制限したことなどにより、黒字を維持。資本収支移転は▲333億ドルの赤字となるも、改善傾向にあります。

これにより、原油・天然ガス価格の下落により一時枯渇が心配された外貨準備高もほぼ横這いで推移。対外債務残高も減少に転じました。これにより、14年以降のインフレ率上昇、原油・天然ガスの輸出の不振、GDPの下振れなどによる混乱からは、ひとまず脱却しつつあると言えます。

次回は、財政、欧米による経済制裁、政治などを見る予定です。

ロシア経済の展望 (1) 経済の構造 平成29年5月19日

ウクライナ問題を契機とした欧米諸国による経済制裁、原油価格の低迷により、ロシア経済は昨年までは低迷していました。このところ、景気にはやや明るい兆しも見えます。ロシア経済を展望します。

1. ロシアの基礎データ

ロシアの面積は約1,707万km2。2位のカナダの998万km2を大きく上回っており、世界第1位。日本の45倍、米国の2倍近い。また、人口は1億4441万人(2015年)で、世界9位(図表1参照)。宗教はロシア正教が多いものの、イスラム教、仏教、ユダヤ教徒などもいます(以上、日本外務省による)。

ロシアは広大な領土に豊富な資源を有しており、また強力な軍事力を背景に、外交・政治的にも大きな影響力を誇っています。国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、シリアに対する国連の制裁について、中国と共に反対しています。国連の常任理事会では、欧米諸国と対立する場面が増えています。

 図表1 世界人口ランキング・国別順位(2015年)

2. 政治体制の特徴

ロシアでは、大統領に権限が集中しています。大統領は直接選挙で選ばれ、1期6年、連続2期まで務めることが可能。首相の任免権を持っており、首相提案に基づき、副首相、閣僚を任免し、大統領府、安全保障会議を組織し、内外政策の基本方針を策定します。また下院の解散、上院議員の解任を行うことができ、採択された法案を拒否することもできます。その他、憲法裁判所、最高裁判所の裁判官、中央銀行総裁の人事を提案することにより、事実上の任免権を握っています。

12年3月4日における大統領選挙までは、メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭制という変則的な体制でした。同選挙でプーチン首相(当時)が6割超の得票で大統領に返り咲き。メドベージェフ首相の影響力が後退し、Putin大統領の権限が強まりました。

3. BRICs諸国との成長率の比較

ではここで、ほかのBRICs諸国及び日本と対比して、ロシアの成長率について見ましょう。IMF(国際通貨基金)が17年4月に発表した「世界経済見通し(World Economic Outlook)」では、15年のロシア成長率予想は▲2.8%、16年が▲0.2%と、マイナス成長に沈みました(図表2参照)。同じく資源国であるブラジルも15-16年にはマイナスに落ち込んでおり、原油など資源価格の低迷が影響しました。インド、中国は相対的に好調。ロシアは、17年には+0.165%と、やや回復する見込み。

 図表2 BRICs諸国及び日本の成長率予想

4. 経済構造の特徴

ロシア経済の特徴として、資源と欧州への依存度が高いことがあります。まず、輸出においては、原油、天然ガスなど資源が約7割を占めています。そのため、経済の成長も、資源価格の影響を強く受けています。原油価格と国内総生産(GDP)の推移をみると、図表3の通り。

13年末には、NYの原油の代表的な指標であるWTI先物価格は、1バレル=97.90ドルでしたが、その後大幅に下落。15年末には同37.19ドルまで落ち込み、それとともにロシアのGDPも大きく下落。その後は、16年末の同51.97ドルまで回復。

また、輸出の5割超がEU(欧州連合)向けであり、ユーロ圏向けは4割。原油のほか、天然ガスは欧州向けのパイプラインが敷設されており、欧州との結びつきが強くなっています。そのため、ロシアの景気は、欧州の景気動向に大きく左右される傾向があります。

 図表3 ロシアGDPと原油価格(WTI先物)

5. 先進国と新興国の株価の動き

では、15年末との比較で、BRICs諸国及び日米の株価の騰落率はどうでしょうか。15年末と今年の4月末日終値で比較すると日本が▲1.0%、米国が+19.0%(図表5参照)。BRICs諸国では、非資源国である中国が▲11.7%、インドが+15.2%。中国では、投資家の資金が主に不動産に向いているため、株式市場はこのところ活気に欠ける展開。

一方、ロシアは+44.2%と大幅高。ウクライナ問題に端を発する欧米の経済制裁が継続しているものの、原油価格の回復を好感。同じ資源国であるブラジルも+50.9%と大幅高。ブラジルの景気も低迷しているものの、今後の景気回復を株価が先取りする動きであると言えます。

 図表4 日米BRICs諸国の株価騰落率(2015年末と17年4月30日の比較)

次回はロシアの成長率、金利、失業率などを見る予定です。

トランプ政権誕生と中東諸国 平成29年5月12日

チュニジアが発端となった「アラブの春」。「アラブの春」が始まったのは2010年12月。その後約6年半が経過し、中東では混乱が継続しています。トランプ政権誕生と中東諸国の情勢について見ます。

1. 北アフリカ、中東諸国の概要

中東、北アフリカにおける反政府、民主化運動である「アラブの春」の主要な舞台は中東及び北アフリカですが、そもそも、どの国がそこに含まれるのでしょうか。この地域は非常に広く、西はモーリタニア、西サハラから北はトルコ、南はソマリア、東はイランまで、多くの国が含まれます(地図1参照)。

民族もアラブ人だけがいるわけではなく、また宗教も、イスラム教が優位な国ばかりではありません。経済的な発展段階も、イスラエル、カタールのように比較的1人当たりの国民所得の高い国から、スーダン、ソマリアのように非常に貧しい国まで、変化に富んでいます。

また、中東・北アフリカ諸国では、石油が豊かであるとのイメージがありますが、サウジアラビアなど湾岸諸国とリビア、アルジェリアを除くと、モロッコ、トルコなどでは石油を産出しているわけではありません。石油の産出がない国においては、経済的な貧しさが不満となり、反体制運動に結び付いている場合もあります。

 地図1 北アフリカ中東諸国

中東、北アフリカとは、具体的には図表1の諸国・自治政府です。では、民族、政治体制で見るとどうでしょうか。民族で見ると、イスラエルはユダヤ人、トルコはトルコ人、イランは主にペルシャ人の国です、そのほかはアラブ系です。

政治体制については、モロッコ、ヨルダン、そして図表1の右下にあるサウジアラビアからオマーンまでが王政・首長制の国で、それ以外は共和制。また、1981年に湾岸協力会議(GCC)が設立されており、現在の加盟国はサウジアラビア、クウェイト、バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、オマーンです。湾岸協力会議は石油価格、あるいは中東の政治的・軍事的安定に一定の影響力を持っています。また、これら6か国は同じく王政・首長制をとるモロッコ、ヨルダンと連携を強めて、アラブの春の波及防止を狙ってきました。

 図表1 中東・北アフリカ諸国の政治体制

2. トランプ政権誕生と中東への関与

米第45代大統領のトランプ氏は、就任前の選挙期間中においても、中東について余り言及していませんでした。イスラム国(IS)からの移民の流入を制限する考えを示唆してはいたものの、中東諸国に対して具体的にどのように関与するのか、明示していませんでした。

1月21日の就任演説においても、「文明世界を一致団結させ、イスラム過激主義のテロと戦う」と述べただけで、具体策は示しませんでした。また、ホワイトハウスのウェブサイトにおける補足説明では、軍事作戦、資金途絶、情報共有、宣伝・勧誘阻止により、ISなどを破壊するとしました。

3. トランプ政権が中東への関与を強化

トランプ政権は、発足当初は中東への積極的な関与をする姿勢を見せていなかったものの、その後は反IS(イスラム国)、親イスラエル、反イラン、湾岸諸国及びエジプトとの関係の修復などに乗り出しました。オバマ政権では、イスラエルに比較的冷たく、イランとの核を巡る協議を優先し、サウジアラビアなどとの関係が悪化していましたが、トランプ政権はほぼ反対の動きを見せています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

4. IS(イスラム国)掃討作戦を強化

トランプ政権は、中東においては特にイラク、シリア、イエメン、ソマリアを重視しているとみられます。イラクとシリアではISの勢力が強く、イエメン、ソマリアではアルカイダ系の組織が跋扈しています。アラビア半島から欧州に物資を運搬するにはアデン湾とバブエル・マンデブ海峡があり、地政学上重要な地域となっています。

就任後に、まずネタニヤフ・イスラエル首相と電話会談し、その後エジプト大統領、サウジ国王、アブダビ皇太子、トルコ大統領と電話会談。ヨルダン国王、イスラエル首相、サウジ副皇太子、イラク首相、エジプト大統領、ヨルダン国王、アッバス・パレスチナ首相などと相次ぎ会談しました。

トランプ政権は特にIS(イスラム国)の壊滅を優先させており、イラクではISの発祥の地であり、イラクの第二の都市であるモスル奪還作戦が進行しています。既に東部はイラク軍が制圧しており、西部にも侵攻。2月24日にはイラク治安部隊がモスル西部に入り、旧市街のモスクに進撃しました。

ただ、西部の旧市街は道が狭く洗車が入りにくく、地元住人を「人間の盾」としており、犠牲者が出やすい状況にあります。米国主導の有志連合による爆撃で多数の民間人が死亡したこともあり、慎重な戦略をとっています。

3月20日には、トランプ大統領はイラクのアッバス首相をワシントンに招き、その後に68か国が集まる閣僚級会議を開催。IS掃討に向けて、最終的な軍事作戦の協議などを行いました。ただ、モスルを奪還しても、ISの戦闘要員が地下に潜る可能性もあり、IS国をイラクから直ちに一掃することになるかどうかについては、予断を許しません。

 写真2 イラク・モスル東部で、ISからの奪還作戦中に子供にキスする兵士

5. イランとの緊張が高まる

トランプ政権は、サウジアラビア、あるいはエジプトなどとの関係の修復を進める一方、イランに対しては敵対する政策をとっています。トランプ氏は選挙期間中から、イランと米欧など6か国による核合意について「イラン核合意は私が今までに見た最もばかげた取引の1つ」と酷評。

ロンドンを訪問したマティス米国防長官は3月13日に、12年に行った「米国の直面する3つの脅威はイラン、イラン、イラン」であるについて問われ、「イランはテロ輸出国として行動し続けており、依然として戦闘活動をサポートしている」都市、イランがテロを支援していると非難しました。

一方、イラン内務省は5月19日に予定される大統領選の最終候補者6人を発表。保守穏健派の現職ロウハニ大統領の他、ハメネイ師に近いとされるリアシ前検事総省、前回に時点であったガリバル・テヘラン市長らが認められました。ハメネイ師の助言に逆らって出馬表明したアハマディネジャド前大統領は認められませんでした。

当初はロウハニ大統領の再選が確実視されていたものの、米国がイランに対して強硬姿勢を撮っているため、保守強硬派が勢いづき、接戦になる可能性もあります。これに先立ち、イランのロウハニ大統領はロシアを訪問。プーチン大統領と会談。プーチン大統領派ロウハニ大統領に「イランは良好な隣国で安定し信頼に足りるパートナー国家である」としました。

6. シリアでの混乱が継続

トランプ政権は、当初はロシアを強調してシリアの解決に当たる姿勢をとっていました。ところが、シリアが化学兵器を使用。これに基づきトランプ大統領はシリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃。ロシアとの関係が一挙に悪化しました。

トランプ大統領は4月6日に記者会見し、アサド・シリア大統領が罪のない市民に対して恐ろしい化学兵器を使用したとして非難。化学兵器を使用した攻撃の拠点であるシリアの飛行場に対して軍事攻撃を支持したと述べました。

これに対して、ロシアはイラン、トルコとの関係を深め、シリアの停戦を主導しようとしています。ただ、停戦が発効しても実際にはシリア政府軍による反政府軍への攻撃が継続。また、米国がシリア内のクルド人勢力に対して武器を供与したことに対して、トルコが反発。シリアを巡る混乱は一層深まっている感があります。

ただ、石油輸出国機構(OPEC)による石油減産の継続の見通し、それへのロシアなど非OPEDC国の協調、シェールガス増産の見通しなどもあり、原油価格は今のところ安定しています。今度の日程では、イランの大統領選が最も注目されています。

IMFが世界経済見通しを改定 (3) 景気見通し 平成29年5月5日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、物価、金利について報告しました。今回は、景気見通しについて。

1. 景気見通しの基となる主な要因

景気見通しの主な要因はある程度、先進国と新興国及び発展途上国の間の違いにあります。先進国の中では、財政支出拡大で米国の景気が上向く見込み。欧州では、08-09年及び11-12年の危機からの回復により、特に欧州では今後数年で、循環的な回復を見込んでいます。ただ、中期的には人口要因と生産性の弱い傾向が成長を抑制する見込み。

新興国の中で、特にエネルギーと金属の輸出に依存している国では、商品市況の低迷が、短期及び中期の景気見通しに最も影響しています。ここ数年の生産性の伸びの低迷が、多くの新興国及び発展途上国にとっては課題となっています。

2. 先進国では循環的回復が継続

多くの先進国では、08-09年及び11-12年の危機からの回復が継続。多くの国において生産は依然として潜在力からを下回っています。多くの国で、特にユーロ圏では失業率が11-12年の水準と上回っています。バランスシート調整のため、多数の国で景気回復は緩慢。

多くの先進国では、今後数年にわたり、景気回復と生産ギャップの縮小により成長率は潜在成長率をやや上回る見通し。16年の成長率が予想を上回り、循環的景気回復が強まっている可能性があります。成長率は生産ギャップの大きい国、特に欧州において予想を上回ったと見られます(図表1参照)。バランスシートの回復と需要の下支えにより、生産設備が過剰である国における景気回復が強まる見込み。

 図表1 16年の成長率改定と15年の生産ギャップ

3. 新興国と発展途上国における交易条件の調整

中国の景気減速と商品価格の変動が、新興国と発展途上国で、特に資源輸出国においては成長率の主な牽引の要因となって来ました(図表2参照)。中国の成長率と資源輸出国及びその他の非商品輸出国の成長率は、原油価格下落により資源輸出国の成長率が低下し始める2011年までは、ほぼ同様でした。

 図表2 新興国と発展途上国の成長率

新興国と発展途上国の2011年から2016年までの成長率の低下のうち、3分の2は資源輸出国の低下に原因があります(図表3参照)。残りは中国及び他の新興国・発展途上国の減速が占めています。

17-19年における成長国の成長率の加速のほとんどは資源輸出国によるもの。もっとも、その成長率の回復は、過去5年間の急激な成長率の落ち込みと比較すると、比較的緩やか。

 図表2 新興国成長率変化への寄与の要因

4. 17-18年世界景気見通し

世界経済の成長率は、+3.1%と予想されている16年から、17年の+3.5%及び18年の+3.6%へと加速する見通し。先進国における予想を上回る回復と、一部の新興国における予想を下回る経済活動により、17-18年における予想では、昨年10月時点のIMFによる17-18年は以前の想定よりも成長が加速し、新興国では弱含む見通し。

5. 中長期の見通し

中長期的な世界経済の成長率は、18年以降にはわずかに加速し、2022年までには+3.8%に到達する見通し。この成長率の加速の原因はすべて、新興国と発展途上国の成長率がこの期間の終わりまでに+5%へと加速することによります。

これら諸国の経済の世界経済への影響は、世界におけるその比率が高まることで押し上げられます。この予想は資源輸出国の成長率の上昇によるものであり、もっともその成長率は2000-15年におけるよりははるかに緩やかであると予想しています。

6. 先進国の見通し

米国の成長率は、17年に+2.3%、18年に+2.5%へと加速する見通しで、16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

ユーロ圏の17-18年の成長率は、16年とほぼ同水準の見通し。緩やかな景気回復は、緩やかな拡張姿勢の財政、穏やかな金融環境、弱いユーロ、それと米国の財政刺激策による影響のため。いくつかの国における選挙の不安定要因、英国とEU(欧州連合)の関係が景気の重石となる見通し。成長率は、17年が+1.7%、18年が+1.6%の予想。

英国は17年が+2.0%、18年が+1.5%の見通し。17年の+0.9%ポイントの上方修正と18年の▲0.2%ポイントの下方修正は、6月英国のEUからの脱退後の予想を上回る景気によるもの。離脱は以前の予想よりも、漸進的なものとなる見込み。

日本では、統計の見直しにより16年の成長率は+1.0%と、16年10月時点のIMF予想からはお大幅に上方修正。16年における輸出の勢いの高まりは、17年にも継続する見込みで、17年の成長率は+1.2%の予想。

7. 新興国の見通し

中国の成長率は、17年に+6.6%で、18年に+6.2%へと減速する見通し。16年10月見通しから+0.5%の上方修正。このより強気の予想は16年後半の勢いを反映しており、在庫の積み上がり、消費の堅調伸び、財政政策のより緩い姿勢によるもの。

16年10月時点からの17年の+0.4%ポイント及び18年の+0.2%ポイントの上方修正は、16年の予想以上の勢いと、経済目標達成のための信用の伸びと公共投資への依存を反映しています。

インドの成長率は17年が▲0.4%の下方修正で+7.2%。昨年11月の高額紙幣廃止の影響による現金の不足による一時的な消費の停滞が主な要因。中期的予想は+8%と好調な見通しで、構造改革の実施、供給のボトルネックの解消、さらに適切な財政及び金融政策が要因。

資源輸出国の中では、ブラジルが大幅な景気後退から回復し、17年が+0.2%、18年が+1.7%の予想(それぞれ、16年10月予想から▲0.3%ポイントと+0.2%ポイントの改定)。政治の不安定要因の後退、金融緩和、改革の進展が下支えしています。

独立国家共同体の見通しは改善し、17年が+1.7%で10月時点予想からは+0.3%の修正。ロシアはリセッション(景気後退)から回復し、17年は+1.4%(過去2年間は累計で▲0.3%の景気後退)、景気の回復は、堅調な原油価格と、金融環境の緩和と消費者信頼の回復による国内需要の回復によるもの。もっとも、改革の遅れ、1人当たり国民所得の先進国並みへの上昇の遅れにより、ロシアの潜在成長率は+1.5%に留まっています。

IMFが世界経済見通しを改定 (2) 物価・金利 平成29年4月28日

前回は、IMFの経済見通しに基づき、各国の成長率予想、生産、貿易について報告しました。今回は、物価、金利などについて。

1. インフレ率はやや上向く

商品市況が上向いたことにより、世界のインフレ率も上昇(図表1参照)。世界の生産者物価指数は特に急激に加速。これは、消費者物価指数と比べて生産者物価指数においては商品の比重が高く、また商品を直接生産に投入するため。

特に中国の生産者物価指数は、数年にわたるデフレ(価格下落)からプラス圏に浮上。原料価格の上昇と過剰生産能力の削減、不動産投資の回復によります。

ガソリン小売価格の上昇とその他エネルギー関連製品価格の上昇により、世界の消費者物価上昇率もやや上向いています。特に先進国においては堅調で、2月には+2%をわずかに上回りました(16年の年間上昇率+0.8%の2倍以上)。

 図表1 世界のCPIとPPI

対照的に、コア・インフレ率は殆どの先進国で中央銀行の目標値をはるかに下回っています(図表2参照)。新興国では、燃料価格の上昇がやっと最近になって早い時期の為替レートによるデフレ圧力を上回るようになったため、総合消費者物価指数の回復はもっと最近のことです。

 図表2 世界の総合・コアCPI

短期及び長期のインフレ期待も抑制されたものとなっています。先進国においては、インフレ期待の鈍化はごく最近になって下げ止まっています。10年後インフレ期待は15年及び16年の低下の後、最近になって上向いています。

2. 金融市場

米国における金融刺激策、インフラ投資の拡大、規制緩和により、8月以来市場のセンチメントは強くなっています。将来の需要増大によるインフレ圧力の高まりと米国の金融政策の正常化の加速により、米国では8月以来、特に11月の大統領選後に長期名目及び実質金利が大幅に上昇(図表3参照)。

 図表3 先進国の金融市場

3月末には米国10年国債の名目金利は8月と比較して+0.85%ポイントの上昇。11月の大統領選挙の前との比較でも+0.55%ポイント。英国も米国における長期金利上昇の予想などを反映して長期金利が上昇。

ユーロ主要国における長期金利の上昇は8月以降に緩やかなものにとどまっており、ドイツにおいては+0.40%ポイント。但し、イタリアにおいては、政治及び銀行セクターにおける不安定さの高まりにより、+1.20%ポイントの大幅上昇。

米連邦準備理事会は16年12月と17年3月に短期金利の利上げを実施。市場では、17年末と18年初めに追加利上げを織り込んでいます。そのほかの多くの先進国では、金融政策は概ね維持されています。

3. 株式市場は堅調

消費者信頼感の高まりとマクロ経済指標の好転により、先進国においてはここ数カ月で株価が大幅に上昇(図表4参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。

利回り曲線のスティープ化(長期金利の上昇)、集積性拡大への期待、米国における金融規制の緩和への期待により、金融セクターの株式のバリュエーションが上昇。

 図表4 先進国の株式市場

4. 米ドルが堅調

米国の利上げにより、利回り格差が拡大し、ドルの実質実効為替レートは16年8月から17年3月にかけて約+3.5%の上昇(図表5参照)。特に、今後可能性のある金融刺激策へのエクスポージャーが大きいセクターと金融セクターが顕著に上昇。一方、ユーロと特には弱含みました。

 図表5 先進国の実質実効為替レート

新興国の金融市場は区々の動き。特に東欧では、米国の11月の選挙の後には長期金利が上昇し、その後は下落。政策金利の動きも区々であり、メキシコ、トルコが利上げし、ブラジル、インド、ロシアが利下げ。

新興国における株式市場と経済は8月以来上昇。米国の11月の選挙後には弱含んでいたものの、今年に入って力強く回復。ただ、金融危機後のピークである2011年を、多くの国で下回っています。

トルコではここ数カ月で通貨が大幅に下落し、マレーシア・リンギットも小幅下落。一方、資源輸出国のうちロシア・ルーブルは大幅上昇。メキシコ・ペソは米大統領選後には大幅下落。ただ、その後は回復し、直近では昨年8月とほぼ同水準。米選挙後には海外投資家の資金が新興国から流出し、その後は流入に転じました。

次回は、景気見通しなどを見る予定です。

IMFが世界経済見通しを改定 (1) 生産・貿易 平成29年4月21日

IMFが世界経済見通しを改定しました。

1. 世界の成長率17年を+3.5%に上方修正

国際通貨基金(IMF)は18日に、世界経済見通しを改定し、17年の世界経済の成長率見通しを+3.5%と、今年1月時点の予想から+0.1%ポイント上方修正(図表1参照)。17年については+3.5%で維持。17年については、先進国経済の好調などにより、基調が上向いているとしています。

 図表1 IMFの世界経済見通し

16年の後半には特に先進国の経済活動が上向いたとしています。米国では企業の将来への信頼感が上向き、在庫は5四半期連続のマイナスの寄与の後にプラスに転じました。英国では6月のEU離脱の国民投票の後には消費が堅調。輸出により日本の経済活動が活発化し、ドイツ及びスペインにおいても、堅調な内需が寄与しました。

新興国は区々の動き。中国の成長が政策の下支えにより堅調である一方、インドとブラジルでは為替の影響により景気が後退。商品の輸出は引き続き軟調であるものの、中東とトルコでは地政学的リスクが好転。

2. 生産が活発化

16年後半には、堅調な世界に需要、特に投資の強さにより、製造業と貿易が急速に回復。製造業と貿易は15年及び16年前半には弱い数字でした(図表2参照)。

 図表2 世界の貿易・鉱工業生産・製造業PMI

耐久消費財と資本財の生産が、16年後半には回復(図表3参照)。中国におけるインフラ及び不動産投資に下支えられた世界の投資の緩やかな回復、消費価格低迷による調整の弱まり、米国の在庫循環の終了などが寄与しました。製造業購買担当者指数など先行指標は、17年においても製造業の活動が活発であることを示唆しています。

 図表3 世界の耐久消費財の生産

3. 貿易が活発化

生産活動の活発化に伴い、世界貿易も長く続いた弱い時期から回復の兆しを見せています(図表4参照)。貿易の伸びは、特に投資の動きと密接に関連しています。16年においては、特に資源輸出国において投資と貿易とに強い相関関係が見られました。商品市況がやや回復したことに下支えられ、これら資源輸出国のマクロ経済が落ち着きを取り戻し、17年においても輸入と投資の緩やかな回復が続くと見られます。

 図表4 世界の輸入

4. 商品市況が回復

経済活動の活発化に伴い、消費市況も強含みました。IMFによる主要商品指数は16年8月から17年2月には+15%上昇しました。

 図表5 実質商品価格指数

特に燃料が強含み。16年8月から17年2月には原油価格は約+20%の上昇。石油輸出国機構(OPEC)が原油の減産に合意したことなどが要因。天然ガスは同じ期間に+19%の上昇。欧州では、天然ガスは原油につれ高しました。石炭二ついても同様に、豪州及び南アフリカの価格が同じ期間に+20%以上上昇。

燃料以外では、金属と農産物も上昇。金属価格は中国における不動産価格の増加と生産設備削減と、米国における財政政策の緩和に下端さえられ上昇。農産物では、供給過剰の緩和により、食品価格が+4.9%の上昇。特に、穀物、野菜、油が上昇。米とココア豆などの一部例外を除いて価格が上昇しました。

次回は、物価などを見る予定です。

混乱の続くトルコ 平成29年4月14日

国民投票を控えたトルコの情勢を見ましょう。

1. 政治・経済が不安定化

昨年来、トルコでは政治、経済両面で投資家を不安にさせることが相次いでいます。政治の面では、2016年7月に軍の一部がクーデター未遂事件を起こしました。反政府的とされる米国在住のグレン氏につながるとされる公務員、軍人、その他民間ジャーナリストなどが多数拘束されました。その後もトルコ国内では、イスラム系過激派組織であるISやクルド人系のテロが多発。

最近では、ドイツがトルコ系住民の集会を禁止したことやオランダがトルコの外相の入国の拒否したことにより、トルコのエルドアン大統領が猛反発。シリア系難民の欧州連合(EU)流入に関して一時は補償を合わせていたトルコ、EUの見解も微妙になっています。

経済の面では、大幅な経常赤字とそれを短期的な借り入れで補う不安定な構造、外貨準備の不足、それによる通貨リラの大幅下落、国内総生産(GDP)成長率の低下があります。不安定な通貨などを背景に、投資家のトルコからの離反が目立っています。

2. 11月CPI上昇率は+7.0%

ここで、物価、金利などを見ておきましょう。トルコ統計機構(TUIK)は4月3日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+11.29%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+10.13%から加速し、2008年11月以来の高水準となりました。食品、家賃の上昇などが主な要因。

 図表1 トルコのCPI前年同月比上昇率

3. 政策金利を引き上げ

一方、トルコ中央銀行は3月16日金融政策決定会合を開催し、事実上の上限金利として使用している「後期流動性貸出金利」を0.75%引き上げて11.75%としました。同金利の引き上げが2会合連続。

主要な政策金利である翌日物貸出金利は9.25%に据え置き。中銀は16日の声明で、「インフレ見通しの悪化を封じ込めるために金融引締の強化策を決めたとして、1月会合と同じ文言を使用しました。

 図表2 トルコの政策金利

4. 7-9月期▲1.8%成長に低迷

他方、トルコ統計局が12月12日に発表した16年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比▲1.8% (図表3参照)。今年4-6月期の+3.1%から大幅に低下。四半期の成長率がマイナスとなるのは、09年7-9月期以来7年ぶり。7月のクーデター未遂事件の影響により、消費や生産が落ち込みました。

 図表3 トルコ四期成長率(前年同期比)

統計局は今回の発表から物価の影響を除く際の計算方法を国際基準に合わせて改定し過去発表の分も遡って修正しました。

経済の拡大を牽引してきた個人消費は▲3.2%。企業の設備投資を含み総固定資本形成は▲0.3%、輸出も▲7%と、ともに不振でした。

5. 大統領権限強化を目指す憲法改正について国民投票

従来、トルコでは、大統領職は名誉職的なものであったわけですが、エルドアン氏が大統領に就任して以来、同氏は意中の人物を首相あるいは閣僚に任命するなどして、自身の権限を強化してきました。

今回の憲法改正案では、大統領の役割が従来の国家元首に加え、副大統領は閣僚の任免を通じて行政府の長も兼ねることとなります。それに伴い、首相職は廃止。予算案の作成を大統領が行うほか、大統領の法案拒否権を覆すには、絶対多数が必要となります。

ただ、各種世論調査では、憲法改正への賛否がともに4割前後で拮抗。エルドアン氏は、東南部のクルド人や都市部の票の掘り起こしを懸命に行っています。これまで与党・公正発展党(AKP)ヲ指示してきた有権者の一部も、大統領の権限強化に疑問を持っています。

もし憲法改正が実現すると、旧憲法下での大統領の人気は計算に入らないため、エルドアン氏は19年11月の大統領・議会同日選をへて、最長で20029年まで大統領職にとどまることが可能となります。

6. 為替と株価

ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続し、15年末から今年3月まででは▲25.0%の大幅下落。16年12月末から今年3月まででも▲3.4%と続落。

一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は13年に大幅下落したものの、14年には反発。その後はボックス圏の動き。15年末から今年3月まででは+24.0%の大幅上昇。16年12月末から今年3月まででも+13.8%と堅調。

 図表4 イスタンブール100指数とリラ(TRY/USD)

7. リスク要因と課題

短期的には、憲法改正案が可決されれば、トルコの政局が安定するとして通貨リラが買われ、逆に否決されればリラが下落すると予想されます。

ただ、長期的には、構造改革に取り組まなければ、成長はおぼつかないということになります。低い貯蓄率とそれに伴う投資の不足、製造業の未発達、経常赤字、財政赤字、恣意的な政治など、これらの問題を解決しなければ、海外からの投資も伸びず、今後の政調もあまり期待できないことになります。国民投票後に、エルドアン大統領が本気で構造改革に取り組む姿勢を見せるかどうかに注目する必要があります。

インド経済の見通し(4) リスク・課題 平成29年4月7日

前回の物価、金利、四半期成長率、為替、株価に続いて、今回はインド経済のリスクと課題について探ってみます。

1. インフレ懸念が後退

インドにおいは、長期間にわたり、インフレ率抑制がインド準備銀行(中央銀行)大きな課題となってきました。現在は消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が、中銀にとってのインフレ目標となっています。昨年9月にラジャン総裁が退任したことに伴い、ウルジット・パテル副総裁が昇格。同新総裁は、インフレ目標である+4%±2%を引き継ぎました。ただ、緩やかに解釈していると見られます。

インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率は引き続き低い水準にとどまっており、インド経済にとっては今のところ余りリスクにはなっていないと考えられます。

 図表1 インドの消費者物価指数前年同月比上昇率

2. 経常収支

2013年には、インドはブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされました。これらの国では、経常赤字、財政赤字が国内総生産(GDP)と比較して相対的に大きいため、経済が脆弱であるとされました。そのため、米国の量的緩和政策の縮小(tapering)に伴い、証券投資など短期資金が国外に流出しやすく、したがって通貨及び株価が下落しやすいとされました。

インドの経常収支赤字は近年拡大傾向にあり、BRICs諸国の中では、ブラジルと共に大幅な赤字に陥っています(図表2参照)。「脆弱5か国」の1つとして、通貨及び株価が売られやすい状況にあったとしても不思議はありません。インドでは、貿易赤字の拡大を背景に08年以降、経常赤字が拡大しています。国内消費の増加、海外からの直接投資増大に伴う資本財の輸入の増加、原油価格上昇などがその要因となっています。

一方、欧米向けを中心とするITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大などによるサービス収支、中東を中心とする海外のインド人労働者からの送金を中心とする経常収支移転は黒字基調となっています。ただ、貿易収支の赤字を穴埋めするほどではなく、短期の証券投資など資本収支により穴埋めされている形であり、その意味では脆弱であると言えます。

 図表2 BRICs諸国及び日本のGDP比経常収支

3. 財政赤字

インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では 14年に国内総生産(GDP)比▲6.6%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進めるうえで支障となってきます。

 図表3 BRICs諸国及び日本のGDP比財政収支

4. 製造業が未発達

インドでは伝統的に理数系に強い人材が多く、「0」もインドで発見されたと言われており、IT、コンピュータなどに強いと言われています。IT、あるいはBPOが発達しており、これが上記の通りサービス収支黒字の原因となっています。ただ、製造業については、未発達であり、第二次産業よりもサービス業中心の経済であると言えます。

一方、インド中央統計局は10日に、同国の1月の鉱工業生産が前年同月比+2.7%だったと発表。市場予想の+0.5%から上振れし、12月の▲0.1%から反発(図表4参照)。同指数はサービス業を含んでおらず、依然として製造業は低調。

 図表4 インドの鉱工業生産指数(前年同月比)

一方、インド自動工業会(SIAM)の10日発表よると、2月のインド新車販売台数は、前年同月比9%の32万2298台。昨年11-12月には高額紙幣の廃止により販売が落ち込んだものの、影響が収束しつつあり、四輪車市場は堅調な伸びとなりました。インド中銀は中立的な金融施政を撮っており、自動車販売にはプラスに働く可能性があります。ただ、中長期的には、製造業を育成していくことが政府にとって課題となっています。

5. インフラ整備、規制緩和

インドは中国に匹敵する人口を抱えており、しかも人口構成はかなり若く、消費、生産の両面において大きな可能性を持っています。そのため、日本及び欧米企業のインドへの関心は高く、日本からは自動車メーカーの現地生産への進出、製薬会社の現地企業買収などが進んでいます。

ただ、海外からの直接投資はまだまだ進んでおらず、その大きな要因となっているのはインフラの未整備です。財政赤字による制約がインフラン未整備の一員となっていますが、鉄道、道路、空港、電力などの整備が待たれており、モディ新首相への期待も高まっています。

インフラの未整備と共に、経済の発展を妨げているのが、政府による過剰な規制、法の未整備、複雑な税制などです。たとえば、建築、土地再開発に関する規制が厳しすぎるため、オフィスの供給量が極端に少なく、オフィス賃貸料の高騰の原因となっています。

このほか、金融・小売りなどの規制緩和もあまり進展していません。インドでは小規模な商店が多いため、外資系のデパート、スーパーなどの進出が規制されています。インド政府は、地場の中小・零細小売業者を保護するため、外資企業の小売り参入を厳しく制限しており、近代的な小売市場の発展を妨げています。

6. インド経済の展望

インドでは3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。モディ首相への権限の集中が進むことにより、改革への期待が高まっています。

インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。

インド経済の見通し(3) 物価・金利・株価 平成29年3月31日

前回の政治に続き、今回は物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見ます。

1. 消費者物価指数上昇率が加速

まず、インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。前月の+3.17%から鈍化。市場予想の+5.58%からも上振れ。食品価格上昇率は、前月の前年同鉄日+0.53%から3月には同+2.01%に加速。

 図表1 下院の党派別議席数

2. 7-9月期成長率+7.3%に加速

続いて、インド統計局が12月12日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+7.3%(図表2参照)。前期の同+7.1%からは加速したものの、市場予想の+7.5%は下回りました。

需要項目別では、民間消費と政府消費が景気の牽引役となっています。GDP(国内総生産)の約6割を占める民間消費は、同+7.6%(4-6月期+6.7%)と加速。政府消費は同+15.2%と、4-6月期の+18.5%から減速したものの、公務員昇給の影響により、2期連続の2桁増加となりました。一方、総固定資本形成は同▲5.6%と、減少幅が拡大。

 図表2 インドの四半期成長率(前年同期比)

3. 政策金利を据え置き

他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを6.25%に据え置くことを決定(図表3参照)。市場では▲0.25%の利下げを予想する向きが多かったわけですが、予想に反して中銀は金利を据え置いて、更に2015年1月以来の金融緩和姿勢を「中立」に変更しました。

 図表3 インドの政策金利

上記の通り、2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+3.65%(図表1参照)。インフレ率が沈静化していることも、金利据え置きの要因となっています。

米国の大統領選ではトランプ氏が当選し、公共事業の拡大などを打ち出しています。そのため、米国の長期金利が上昇し、新興国から資金が流出。それに伴いインドの通貨であるルピーも対ドルで下落。中銀としては、物価上昇の懸念もありました。今後、中銀は、物価、景気などの動向を見ながら、金利政策について判断していくものと思われます。

4. 株価と為替

まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、13-14年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。インドは経常赤字、財政赤字が大きいことから、ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカと共に、13年は「脆弱5か国(fragile 5)」と呼ばれました。ただ、16年は通年で▲2.66%の下落にとどまりました。新興国からの資金流出が一巡したことなどによります。17年2月現在では、昨年末比で+1.86%と小幅反発。

株価は13-14年には大幅上昇。中国などで景気の減速感が強まる一方、相対的にインドでは景気が順調。原油価格など資源価格画下落し、資源輸入国であるインドの株価が買われました。

15年に入ると、米国の金利上昇などにより株価は下落。ただ、16年に入ると、新興国からの資金流出が一段落し、インド国内の景気が堅調であったことなどにより、16年には株価指数の1つであるSENSEX30は、通年で+1.94%と、ほぼ横這い。17年2月末には16年12月末比で+7.3%とやや反発。インド国内の政治の安定などが好感されています。

 図表4 SENSEX30指数とインド・ルピー(INR/USD)

インドでは、モディ政権が昨年11月に突如として、500ルピー札と1000ルピー札の高額紙幣を廃止。不透明な資金に対する取り締まりの姿勢を好感して、その後の地方選でモディ首相率いるBJPが大勝。インドでは、上院の議席は地方の議席に比例するため、上院でも与党BJPが第一党となり、モディ首相が改革を進めやすくなっています。

次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。

インド経済の見通し(2) 政治 平成29年3月24日

前回はインドの人口構成と成長率などを見ました。今回は政治を中心に見ます。

1. モディ氏が14年総選挙で勝利

14年5月16日に行われた総選挙では、ナレンドラ・モディ氏が率いる最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝。543議席の過半数にあたる272議席を上回る280議席を獲得。グジャラート州首相のモディ氏(63)が首相に就任することになりました。BJPを中心とする野党連合は、336議席を獲得しました(図表1参照)。

一方、これまで2期にわたり政権を担ってきた国民会議派は44議席で、同党を中心とする与党連合の統一進歩同盟は60議席にとどまり、過去最悪の結果。このほか、地域政党他が137議席となりました。シン前首相は、モディ氏とBJPの勝利を称賛。モディ氏は「インドの勝利だ」と述べました。

 図表1 下院の党派別議席数

一方、上院ではBJPは連立を組む政党と合わせても3割に満たず、少数派にとどまっています(図表2参照)。BJPが上院に法案を提出しても、国民会議派など野党の執拗な抵抗にあい、可決に足らないケースが相次いでいます。

上院は、州議会による間接民主制に基づいています。 BJPは下院では過半数を占めているものの、州議会レベルでは、少数派にとどまっていることが少なくありません。また、14年5月の総選挙後も、BJPは地方選挙で必ずしも勝利を収めていません。たとえば、15年11月に行われた東部ビハール州議会選挙ではBJPは30議席減らして58議席にとどまり、国民会議派など反BJP連合の178議席に対して、大敗しました。

 図表2 上院の党派別議席数

2. 14年5月政権誕生後の主な改革

政権誕生後の改革としてはまず、統治機構について、首相府権限の強化、閣僚数の削減を実施。さらに、インド改造評議会(NITI Aayog)を設立。経済改革としては、国民皆銀行口座制度を実施。

投資環境の整備については、外資規制の緩和、具体的には鉄道インフラの100%開放、建設について面積、投資金額などの要件を緩和、保険の出資比率の引き上げ(26%→49%)。労働改革としては、各種許認可申請のオンライン化、工場査察プロセスの透明化、従業員積み立て基金(EPF)の統一番号化など。

インフラ整備に関しては、有力大臣を配置し、既存の案件を点検。インフラ工事の進み具合は、前政権の4倍に加速。Sagara Malaプロジェクトの導入により、主要港湾開発に注力。製造業の振興を保管。

3. 高額紙幣を廃止

モディ首相は上記のような改革を進め、その後は大きな変化がなかったものの、16年11月に突然高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用禁止を発表。これらの高額紙幣は汚職や脱税に利用されて来ており、不正な隠し資産を補足しようとの狙いがあります。

11月8日までは、主に富裕層が高額のマンションや金など宝飾品の購入、海外旅行、豪華な結婚式に不正蓄財を利用し、経済の活性化にも繋がっていました。政府は高額紙幣の使用を禁止し、12月30日までに銀行に持ち込まない限り、2紙幣は単なる紙切れになると発表したため、社会が大混乱に陥りました。

これにより、高額商品のうち特に自動車販売が低迷。昨年11月は前年同月比▲0.6%の伸びにとどまり、12月も▲2.1%。ただ、17年には1月が+11%、2月も+9%と回復傾向。

 図表3 インドの新車販売台数

3-4月には貨幣流通量も元に戻るとみられます。さらに、高額紙幣の廃止により、電子決済が普及。街中の小規模な焦点でも、スマートフォンを使って電子決済が普及。販売側は小銭を用意する必要がなくなり、消費者も現金の持ち合わせがなくても買えるようになりました。

4. 州議会選挙の予定

インドでは上院は地方議会による間接選挙で、上記の通り上院ではBJP及びその与党が少数派にとどまってきたため、今後の州議会選挙の行方が注目されます(図表4参照)。15年には2月のデリー準州に続き、11月には東部ビハール州でもBJPが敗北。

16年5月には4州で選挙を実施。BJPがアッサム州の政権を奪取。ケララ州では左翼政党が与党に就任。国民会議派は2州で政権を逃しました。タミル・ナデゥ州では、全インド・アンナ・ドラヴィダ進歩同盟(AIADMK)が32年ぶりに2期連続で政権を維持。17年3月以降の予定は図表4の通りで、「現在の政権」は17年3月の選挙以前のもの。

 図表4 今後の州議会選挙予定

3月11日に、大型の地方選が行われ、モディ政権の与党であるインド人民党(BJP)が勝利しました。インドで最大の約2億人の人口を抱える北部ウッタル・プラデシュ州議会選などで、大幅に議席を伸ばしました。高額紙幣廃止に伴い、不満もあったものの、不正資金撲滅の姿勢が評価されました。

選挙が実施された5州のうち、ウッタル・プラデシュ州においては、403議席中、300議席を確保。北部ウッタラカンド州においても過半数を確保。南部コア州、北東部マニプール州などでも勝利。

BJPのアミト・シャー総裁は、「モディ首相の紙幣廃止、腐敗撲滅、貧困対策の勝利だ」としました。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち、過半数がBJPの影響下に置かれることとなりました。これにより、地方選の結果により議席数が決まる上院においても、BJPが第1党となる見込み。

5. インドの外交

モディ政権の最大の成果は外交と言われるほどで、37か国を回り自ら投資を誘致してきました。日本との関係では、新幹線と原子力協定により、更に関係性が高まる見込み。

懸念としては、米トランプ大統領が、H-1Bビザの発給を廃止すると発言していること。インドのIT産業は5-6割を米国に輸出し、そのサポート、保守のために技術者を米国に送り込んできました。H-1Bビザの発給が停止されると、このビジネスモデルが成り立たなくなります。

中国に対しては是々非々の態度をとるとみられます。領土問題はあるものの、中国からの電子機器などの投資は進める構え。パキスタンとの関係には、やや改善の兆しもあります。そのほか、バングラデシュ、スリランカとの関係についても、改善の努力をすると見られます。

次回は、物価、金利、四半期成長率、為替、株価を見る予定です。

インド経済の見通し(1) 人口・発展段階 平成29年3月17日

インドが中国に代わって、世界経済の牽引役になるのではないかとの期待が高まっています。インド経済の課題と展望を見ていきます。

1.インドの概況

インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。

 図表1 インドの人口ピラミッド(2015年予想) 図表2 インドの人口ピラミッド(2050年予想)

特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。

識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。

2.成長率は中国越え

国際通貨基金(IMF)は昨年10月に発表した世界経済見通しの報告書で、16年のインドの成長率を+7.6%として、中国については+6.5%としました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、以前は中国の成長率が目立っていたわけですが、15年にはインドが成長率で中国を抜き去りました(図表3参照)。2050年には、インドは中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると予想されています。

 図表3 BRICs諸国及び日本の成長率予想

3. 低い発展段階

インドは、先進国、あるいは他のBRICs諸国であるロシア、ブラジル、中国と比べると、1人当り国民所得の水準は相対的に低い水準にとどまっています。2016年で見ると、IMFの昨年10月のデータで、米国が57,293ドル、日本が37,304ドル。また、ロシアが8,838ドル、ブラジルが8,586ドル、中国が8,260ドルであるのに対して、インドは1,718ドルであるにすぎません(図表4参照)。

 図表4 BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4. 10-12月期成長率+7.0%に減速

インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+7.0%(図表5参照)。前期の同+7.4%(今回上方修正)から減速。政府が高額紙幣を無効化したことが影響したとみられます。

今回の10-12月期の公表値+7.0%は、市場予想である+6%台前半を大幅に上回りました。16年7-9月期の成長率を従来発表の+7.3%から上方修正するなど、過去の数値も遡及して改定。

統計局によると、10-12月期に個人消費は+10%、設備投資は+4%。個人消費の2桁増加は17四半期ぶりで、モディ政権下では初めて。設備投資は4四半期ぶりに増加に転じました。

 図表5 インドの成長率(前年同期比)

モディ政権は11月8日に、脱税や汚職の対策として高額紙幣(500ルピー札と1000ルピー札)を廃止すると発表しました。政策の目的は(1)資産を隠匿する犯罪組織を撲滅し、(2)預金不足で低迷が続く銀行貸出を伸ばすこと、(3)インフレ抑制、にあると言えます。今回の四半期GDPの発表は、高額2紙幣の廃止後初めての統計であり、注目されていました。

次回は、インドの政治状況を見る予定です。

ブラジル経済の動向 (5) 課題・株価 平成29年3月10日

前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 貿易が低迷

前回ご報告の通り、16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ただ、今後も外需に期待するのは難しい情勢。中国は輸出・設備投資主導の経済から消費など内需主導の経済への転換を図っています。そのため、中国がかつてのような資源の「爆買い」をしてくれる可能性が低く、鉄鉱石、原油などブラジルの資源の輸出が伸びるのは余り期待できません。また、通貨レアルは嘗ての水準よりは低いものの、現在程度の水準では、輸出競争力の回復にはつながらない見込み。

2. バランスシート調整が進行

ブラジルでは、バランスシート調整が進行しており、特に住宅価格が低迷。住宅価格は15年頃から下落に転じ、16年9月には前年比▲15%の下落。当時のインフレ率は+8%程度であったため、実質的には▲20%程度の下落となります(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの住宅価格

さらに、信用収縮(クレジットクランチ)も進行。銀行貸出癌減少に転じており、特に企業向けは▲7%まで低下。インフレ率を考慮すると、実質ではさらに減少していることになります。

3. 財政収支改善に遅れ、政治的混乱

第3回でご報告の通り、プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。財政収支改善が遅れています。

ただ、これも第3回でご報告の通り、テメル新政権になってから、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。財政赤字は15-16年に大幅に拡大したものの、今後は小康状態となる可能性があります。

州政府の財政も悪化しており、連邦政府よりも深刻。27州のうち26州が危機的状況にあります。特にリオデジャネイロのあるリオ州は大幅な赤字。リオの沖合にプラソルトの海底油田があり、その石油収入に依存しています。原油価格低迷がマイナス要因。州の財政の悪化により、市民へのサービスが低下しており、市民の反発の可能性があります。

さらに、政治的混乱も継続。テメル副大統領が大統領に就任してからも、多数の閣僚が辞任するなど、政治は依然として混迷しています。ただ、テメル新政権が市場寄りの姿勢を撮るとの期待から、通貨レアルは対ドルでやや戻す展開。米国のトランプ大統領が、メキシコに対して厳しい姿勢をとっており、ブラジルがいわば漁夫の利を得るとの見方もあります。

4. インフレ率は低下

一方、明るい材料として、インフレ率が低下。ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。ブラジルのインフレ率は15年末には+10%を超えていたため、依然と比べると現在のインフレ率はかなり抑制されていると言えます。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

そのほか懸念材料としては、失業率の悪化、それに伴う消費の低迷、さらに製造業が育っていないことなどがあります。ブラジルは08年に発生したリーマン・ショックの後、10年には+7.5%という高い成長率が達成。ただ、その後は急速に景気が悪化しました。17以降はやや回復するものの、マイナスからゼロ近辺で低迷するものと予想されます。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルはインドなどと主に「脆弱5か国」とされ、通貨は対ドルで大きく下落。14年に入ると、新興国の経済に対する警戒感が後退したことから、6月末には1ドル=2.204レアルにまで回復。

ただ、利上げ打ち止めや、景気の後退により、年の後半には対ドルで再び大きく下落。15年に入ってからも米連邦準備理事会(FRB)による利上げの予想、中国の景気減速とそれに伴う資源価格の下落により、通貨はされに大きく下落。16年1月末には1ドル=3.99レアルまで急落(図表4参照)。

16年2月以降には、資源価格の反発、市場から距離を置いていたルセフ前大統領の退任の観測などにより、大きく上昇。17年2月末には同3.10レアルまで回復。16年1月と比較すると、+22.2%の大幅上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価はルセフ政権の支持率低下、新興国の経済に対する投資家の不安の後退により、14年に入って堅調に推移。昨年末から今年8月末まで、ボベスパ指数は+18.9%の大幅上昇。ただ、その後は景気後退などにより株価は下落に転じ、14年末には前年末との比較で▲2.9%と小幅下落。

15年に入ると4月まで株価は持ち直す傾向にあったものの、米FRBによる利上げの予想及びそれに伴う投資資金流出の懸念、景気の後退などにより、株価は軟調に転じました。16年1月にはボベスパ指数は40,406ポイントまで大幅に下落。

その後は、為替と同様にルセフ前大統領の退陣、政策が市場寄りになるとの期待、資源価格の回復などにより、株価も大きく反発。ボベスパ指数は16年1月と比較すると、+64.9%と大幅上昇。

米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、16年1月頃までは海外の投資家がブラジルから資金を引き上げる動きを見せていました。米国の景気が堅調であること、資源価格の回復、新興国の株価の割安感の台頭などにより、特にブラジル、ロシアなど一部の資源国には投資家の資金が戻りつつあります。

ただ、ブラジルについては国内の景気が依然として低迷していること、米トランプ新政権の政策の予想がつきにくいことなど、多くの不安定要因があります。17年の景気回復に向けて為替及び株式市場では引き続きブラジルへの期待が高まることも考えられるものの、株価の上昇は一本調子には行かない可能性もあります。

ブラジル経済の動向 (4) 貿易・政治 平成29年3月3日

前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 16年に輸入が大きく減少

16年のブラジルの貿易収支は477億ドルの黒字。現行の統計開始以来最大の黒字となりました。ただ、輸入が大きく減少したのが主な要因。輸入が1376億ドルであったのに対して、輸出は1853億ドル。輸出が前年比+5.2%であるのに対して、輸入は▲8.6%(図表1参照)。

 図表1 ブラジルの輸出・輸入(対前年比)

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。ただ16年初頭以降にはやや反発し、直近では同53.3ドル程度まで回復しています。

ただ輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。原油価格はやや回復したものの、米国のシェールガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。v さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 政治の混乱が継続

ルセフ大統領が弾劾されたことにより、政治的混乱は一時沈静化していましたが、テメル後継政権でも様々な疑惑が噴出しています。同政権は、16年8月の発足からわずか6か月で6人の閣僚が交代。ラバジャット事件の捜査の本格化により、さらに疑惑が拡大する勢い。

ラバジャットとはポルトガル語で洗車のことであり、15年4月にガソリンスタンドから疑惑が発覚したため、同事件と呼ばれています。これまで300-400人が事情聴取を受け、事件関連で公的資格を停止あるいは辞職となった議員は既に150人に上っています。

ルラ元大統領が関与したとされる国営企業のペトロブラス事件に関連して、同社は米国にも上場しています。証券取引法違反に当たる粉飾決算があったのではないかとの疑いで、米国証券取引委員会(SEC)が捜査を行っています。

ブラジルでは、これまで汚職が当然視されていたわけですが、13年に司法取引が認められ、贈賄側の証言が進んで一気に捜査が進展するようになりました。テメル大統領率いるブラジル民主党(PMDB)は下院の保有議席が15%に満たず、従来、合従連衡を繰り返し、与党にとどまってきました。即ち、有力なポストについて利権を獲得しようとする議員が多く、今後も疑惑捜査の対象になってくる可能性があります。

3. テメル大統領に口利き疑惑が浮上

さらに、テメル大統領による口利き疑惑が、新たに浮上。11月25日に辞任した政権幹部が北東部エルバドルで購入した高級マンションを巡って、担当閣僚に建設計画を許可するように圧力をかけた疑いが出ています(写真1参照)。捜査当局が大統領の関与の有無を調査している模様。

テメル氏の側近の一人で議会対策を担当するジュデル・ビエイラリマ氏は15年に、世界遺産に登録されているサルバドルの歴史地区に建設予定のマンションの1室を購入。30階建ての高級マンションで、1室の価格は260万レアル(約8600万円)。建設計画を認可するよう、文化相に対して圧力をかけた疑いがあります。

 写真1 テメル大統領(右)と側近のビエイラリマ氏(左) (6月、ブラジリア)

疑惑報道を受けて、ビエイラリマ氏は25日に辞表を提出。テメル氏にも、ビエイラリマ氏と同様に、文化相に対して圧力をかけた疑いが報じられています。この疑惑は、文化相であったマルセロ・カレロシが18日に辞任して政権が離脱したことにより、表面化。文科省参加の機関がマンション建設計画を承認する権限を持っていたためビエイラリマ氏がカレロ氏に働きかけていた模様。

4. 大統領選に絡んだ疑惑も浮上

さらに、14年の大統領選で、ブラジル民主党(PMDB)に、30億ドル相当の違法献金がなされていたとの疑いが浮上。もし、不正献金が大統領選に使われていたことが立証されると、14年の選挙が無効になる可能性もあります。

また、クーニャ下院議長は、スイスに夫人名義の口座を持ち、多額の不正献金を隠していた疑惑が浮上。議員の不逮捕特権などで抵抗していたものの、ついに職務停止となりました。加えて、カリュイロス上院議長も、現職の議員に対する不逮捕特権を強化する法案を、一部国会で可決することに成功。

同法案を巡っては、街頭デモの対象となり、一部修正事項が国会を通りませんでした。これに対してテメル大統領が拒否権を出すかどうかが注目されています。国民の反対を重視するか、与党PMDB幹部である同氏を守るのか、ジレンマに陥っています。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (3) 経常収支・格付け 平成29年2月24日

おはようございます。前回はオリンピックの効果、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などを見ます。

1. 財政再建へ憲法を改正

ルセフ前大統領は昨年8月に罷免となり、暫定政府で大統領代行をしていたテメル副大統領が9月初めに正式に大統領に就任。同氏はブラジル民主労働者党(PMDB)の党首。PMDBは下院の第一党であるものの、下院定数513議席のうち、68議席しかありません。ブラジル議会は少数乱立で与党は11政党の連立。小政党は理念で結びつくというよりは、人脈・地位で合従連衡を繰り返しているに過ぎないと見られます。そのため、テメル政権が抜本的に財政再建を行うのは難しいとの予想もありました。

ところが、16年11月に、今後20年にわたり財政を前年のインフレ率以下に抑制するという憲法修正案(通称、上限法)が可決されました。憲法改正には60%以上の賛成が必要で、しかも上下両院で二度可決が必要。11月には下院で65%の賛成となり、12月には上院でも修正せずに可決。ペトロブラス(国営企業)を舞台とする汚職事件に関連して、検察官による議員への訴追を軽減する法案が同時に審議されており、そちらにばかり注目が集まっていたことが一因とみられます。

2. 財政収支改善に遅れ

プライマリー・バランス(国債の利払い費を除く基礎的財政収支)の黒字は、国内総生産(GDP)比で、11年に2.9%でピークを付けた後に縮小傾向。09年は1.7%で、財政責任法(00年施行)に定める黒字目標の2.3%を下回りました(図表1参照)。14年には▲0.5%となり、税収の下振れを反映。財政収支も同様に悪化。国際通貨基金(IMF)では15年以降に基礎的財政収支(プライマリー・バラン)が改善すると予想していましたが、実際には16年に▲2.75%へと悪化。17年以降にはやや改善すると見込まれています(IMF16年10月時点予想)。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP)

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で42.0%’図表2参照)。金利を除くベースでは22.1%。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

3. 格付けが低下

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。見通しを引き続き「ネガティブ」としました。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、その時点よりも「成長見通しが弱まっている」として、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

4. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

13年には債券投資に関わる金融取引税の撤廃、大幅利上げで回復しつつあったものの、米量的緩和の縮小(テーパリング)により、流出超に転じました。米金融政策の落ち着きなどにより、ブラジルでは株価が回復。それに伴い証券投資も落ち着きを取り戻しました。

そのため、資本収支の安定のためには、直接投資(FDI)の持続性が問題となります。11年以降、経常収支赤字を補う形で、対内直接投資(FDI)が堅調に推移。13年の対内直接投資は前年比▲18.5%と、2年連続で2桁減少。エネルギー、自動車、交通関係は堅調ですが、2桁の大幅減少となった業種も多く、業種ごとの選別が強まっています。

13年にはブラジルは、インド、トルコなどともに「脆弱5か国(fragile 5)」と位置付けられ、財政収支・経常収支の赤字が問題とされました。そのような脆弱性により、証券投資の資金が国外に流出し、通貨、株価の下落リスクが高いとされました。実際、ブラジルからは大きな資金流出。海外の投資家によるリスク回避の動きにより、証券投資は不安定になりました。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。政府部門の赤字の改善のためには、公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革が必要であると、従来言われてきましたが、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されます。短期的には、政権交代による政策の変更なども期待されています。

 図表5 主要国・地域のISバランス

ただ、昨年後半以降には、原油など資源価格が回復傾向にあります。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えており、中国の粗鋼生産も回復する兆しがあります。鉄鉱石、銅などの価格も上向いており、ブラジルの経常収支もやや改善する傾向にあります。

次回は貿易、政治などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (2) 最近の経済情勢 平成29年2月17日

おはようございます。前回は成長率、1人当り国民所得などを見ました。今回はオリンピックの効果、最近の景気動向、物価、金利などを考察します。

1. オリンピックの効果も限定的

サッカーのワールドカップ(W杯)が14年6月12日から7月13日にブラジルで開催されたのに続き、リオデジャネイロ五輪が16年8月5日に閉幕。W杯の開催前には、W杯及びオリンピックの開催により、ブラジル経済に弾みがつくであろうとの予想も一部ありました。W杯に続き、五輪についても経済効果は殆どなかったと言えます。

大手格付け会社のフィッチでは、五輪開催後に、五輪のために多くの競技者や関係者が同国を訪問したものの、16年末まで航空、地上輸送などの需要低迷が続くと予想。ブラジル国民は、消費したくても消費に回す余裕がないのが現状。

民営化された6つの空港は、16年6月と7月に期限を迎えた運営権対価の支払いにつき、当局との間で期限延期を交渉。過去5年間にわたって成長を期待されてきたこれら空港の今後の見通しについて、フィッチは8月5日に「弱含みながら見込める17年の景気回復で、旅客輸送量と航空交通量は増加し、各空港の流動性への圧力はわずかに弱まるだろう」としました。

五輪開催前には、五輪が同国のマクロ経済の政調や各産業分野の成長を促すことになるとの期待一部にもありました。そうした期待は、完全に裏切られています。

 写真1 リオデジャネイロ五輪閉会式の様子

2. 鉱工業生産が停滞

中国の景況感の悪化、世界的な資源価格の下落、一時高止まりしたインフレ率と内需の不振などにより、ブラジルの景気は停滞を続けています。ブラジル地理統計院が2月1日に発表した12月の鉱工業生産は、前年同期比▲0.1%と、34か月連続で前年比割れ(図表1参照)。市場予想の▲5.0%からは上振れ。前月比は▲0.3%で、市場予想の+0.9%から下振れ。原油価格下落などにより、資源セクターの不振が続いています。ただし、マイナス幅は急速に縮小しており、景気には改善の兆しが見えます。

 図表1 ブラジルの鉱工業生産(前年同月比)

3. 小売売上高も低迷

ブラジル地理統計院が2月14日に発表した12月の小売売上高は、前年同期比▲4.9%(図表2参照)。前月の▲3.5%からマイナス幅がやや拡大。10月の▲8.2%からはやや改善しているものの、国内の消費は依然として低迷しています。

 図表2  ブラジルの小売売上高(前年同月比)

4. インフレ率は低下

一方、ブラジル地理統計院は2月8日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+5.35%と、前月の同+6.29から減速(図表3参照)。インフレ率は2012年9月以来の低水準で、市場予想の5.41%からも若干下振れ。

インフレ率は、過去4か月で市場の予想を上回って鈍化しており、弱い需要と昨年の2桁のインフレの反動が原因とみられます。中銀は、17年のインフレ率が+4%程度になるものと予想。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

5. 政策金利を▲0.75%ポイント利下げ

ブラジル中央銀行は1月12日の金融政策委員会で、政策金利を▲0.75%ポイント引き下げて13.00%にすることを決定(図表4参照)。利下げは全員一致。利下げは前回12月の会合に続いて3会合連続。利下げ幅は市場予想の▲0.50%ポイントを上回りました。

中銀は14年10月に半年ぶりに利上げを再開し、15年7月までに7会合連続で利上げを行い、政策金利を11.0%から14.25%まで上昇させました。同9月には金利据え置きに転じて、16年8月まで8会合連続で据え置き。10月会合で利下げに転じて、前回12月会合でも▲0.25%の利下げをしました。

 図表4 ブラジルの政策金利

中銀は政策決定後に発表した声明文で、ブラジル経済の現状認識と見通しについて、前回と同様に「最近の経済指標を見ると、短期的にはブラジル経済の活動は思ったよりも弱い。今後、ブラジル経済の回復は一段と遅れ、これまで想定していたよりもさらに緩やかになる可能性がある」とし、改めて景気の下ブレ懸念を強調。ただ、「世界経済の先行きの見通しは依然として不透明なままだが、これまでのところ新興国経済を取り巻く穏やかな環境の終わりによる悪影響は限定的」とも指摘しました。

次回は、格付け、財政収支、経常収支などを見る予定です。

ブラジル経済の動向 (1) 成長率 平成29年2月10日

おはようございます。ブラジルは、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、相対的に高い成長が期待されていました。ただ、このところ景気の減速傾向が強まっています。ブラジル経済の動向を探っていきます。

1. 大国ブラジル

ブラジル経済の魅力の1つは、バランスの良さであると言われてきました。851万km2の国土(日本の22.5倍)を背景に、同国の人口は約2億40万人(ブラジル地理統計院推定、2014年)、GDPが2兆2530億ドル(IMF15年4月データ、同)を誇っています。

また、鉱産物、農産物など天然資源が豊富であり、さらに第1、2、3次産業のバランスも比較的良いとされます。地政学的なリスクも低く、中南米の大国として、実質GDP成長率についても、中国あるいはインドほどではないにせよ、リーマン・ショックをはさみ、2010年までは比較的高い成長率を維持していました。

2. 低成長に転じる

ブラジルでは実質国内総生産(GDP)成長率が2007年に+6.0%、08年に+5.0%となりましたが、09年にはリーマン・ショックの影響により、▲0.1%と低迷(図表1参照)。ただ、その後は中国の景気対策などの影響で急回復し、10年には+7.5%と高成長を達成。ただ、その後資源価格の低迷などにより、景気も悪化。15年▲+3.8%、16年▲3.2%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。ただ、IMFの予測では、資源価格の回復などにより17年には+0.4%と、水面上に浮上する見込み。

 図表1 BRICs諸国と日本の成長率

3. 中位の発展段階

ブラジルは、日米など先進国ほどではないにせよ、1人当り国民所得の水準においては、BRICs諸国の中では上位に位置してきました。IMFによると、13年の1人あたり国民所得は、米国が52,704ドル、日本が38,551ドル。また、ロシアが15,558ドル、ブラジルは12,259ドルでまずまずの水準。一方、中国が7,080ドル、インドは1,479ドルでした。

これを16年でみると、米国が57,293ドル、日本が37,304ドルに対して、ロシア8,838ドル、ブラジル8,586、中国8,260ドル、インド1,718ドル。中国の台頭とブラジル、ロシアの停滞、また為替の影響もあり、ブラジルのもたつきぶりが目立っています(図表2参照)。

1人当り国民所得が1万ドル近辺になると、安い賃金を武器にした繊維・雑貨などの軽工業による不価値の低い産品の輸出が厳しくなってきます。鉄鋼、化学、あるいは自動車など高付加価値の商品の生産へと移行し、国内のインフラを整備するなど、近郊のとれた発展段階へと移行していけるかどうかが問題となってきます。その意味で、ブラジルも「中所得国の罠」にはまり、成長が停滞するのか、あるいは新たな発展段階に入っていくことができるかどうかが、今後は焦点となります。ブラジルは新興国の一角というより、以前から大国であったと見ることもできます。

 図表2  BRICs諸国及び日米の1人当たりGDP(2016年)

4.  7-9月期GDPは▲3.8%に低迷

ブラジル地理統計院は11月30日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.9%であったと発表(図表3参照)。マイナス成長は10四半期連続。今年4-6月期の▲3.8%からはマイナス幅がやや縮小したものの、引き続き低迷。資源安により投資が低調なほか、雇用の悪化により消費の動きも鈍くなっています。

7-9月期に前期比では▲0.8%。前期比での減少は7四半期連続。現行統計となった1996年以降で過去最長の景気後退局面。16年通年の成長率は▲3.5%程度となる見込み。

設備投資など固定資本形成は前年同期比▲8.4%。テメル政権は財政健全化を進めるために歳出を抑制しており、さらに景気の見通し悪化により、企業も投資を抑制しています。

 図表3 ブラジルの四半期成長率(前年同期比)

景気低迷により、企業はリストラを進めており、失業率は10-8月には11.8%と、現行統計の12年以降で最悪の水準。雇用の悪化で消費も低迷。7-9月期の消費は▲3.4%の低下。インフレもあり、家計の購買力も低下しています。

5. 景気に回復の兆し

ブラジルのGDP成長率は14+0.1%、15年▲3.8%、16年▲3.2%(IMF予想)と低下してきました。世界的な景気の低迷、特に中国による資源などの「爆買い」の後退、資源価格の低迷、政治の混乱などが主な要因となっていました。

これに対して、16年には石油輸出国機構(OPEC)及びロシアなどによる原油減産の合意が成立して、原油価格1バレル=50ドル近辺まで回復。それとともに、銅、鉄鉱石など商品価格画回復。鉄鉱石など一次産品が輸出の主力であるブラジル経済は恩恵を受けることとなりました。

さらに、左派政権であったルセフ大統領に、国営企業などを巡る疑惑が浮上。副大統領のテメル氏に政権が後退し、政府の姿勢が市場寄りになるとの期待から、昨年には株価及び通貨レアルが上昇に転じました。ルセフ大統領に対する弾劾が成立し、政権交代による人心の一振、政策が市場寄りになるとの期待などから、景気が上向くとの期待感が高まっています。

次回はワールドカップの効果、14年以降の景気見通し、物価、金利などを見る予定です。