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 新興国市場の点検 (6) ドフィリピン 令和元年5月17日

おはようございます。前回のインドネシアに続いて、今回はフィリピン。

まず、フィリピンの経済状況を概観しておきましょう。

1. 4月CPIは+4.3%に鈍化

フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は5月7日に、4月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+3.0%になったと発表(図表1参照)。伸び率は前月の同+3.3%から鈍化。市場予想の+3.0%に一致。

 図表1 フィリピンのCPI前年同月比上昇率

2. 政策金利を引き下げ

一方、フィリピン中央銀行は5月9日の金融政策決定会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を+4.5%に引き下げ(図表2参照、上限を表示)。10日から適用。18年には、5会合連続で計+1.75%の利上げを行いました。景気の減速により、一転して利下げを行いました。



 図表2 フィリピンの政策金利

3. 10-12月GDP+6.1%に加速

一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は5月9日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+5.6(速報値)%の伸びになったと発表(図表3参照)。昨年10-12月期の+6.3%(確報値)から大幅に低下。市場予想の+6.0%からも下振れ。前期比(前期比)では+1.0%と、前期の+1.8%から大幅鈍化。

 図表3 フィリピンの四半期成長率(前年同期比)

10-12月期GDPを需要項目別にみると、民間消費は、前年同期比+6.3%(前期は同+5.3%)と加速。民間消費の内訳では、酒類・たばこ(▲3.7%)が引き続き低迷したものの、通信(同+8.5%)や食料・飲料(同+5.8%)、交通(+5.7%)が復調し、教育(+12.0%)や住宅・水道光熱(+6.6%)が堅調。

そのほかでは、総固定資本が+5.7%となり、前期の+8.5%から減速。純輸出のGDPへの寄与度は▲2.6%ポイントと、前期の▲0.6%ポイントからマイナス幅が拡大。

4. 中間選挙で大統領派が圧勝

一方、フィリピンで、統一国政・地方選挙(中間選挙)が行われて、大勢が14日に判明。大統領支持派が上院で圧勝。ドゥテルテ大統領は2022年までの人気後半に入りますが、重要課題に掲げる連邦制導入など、主要政策の実現に弾みがかかる情勢です。

政権を左右する上院では、12議席のうちドゥテルテ大統領に近い候補が9人当選。側近のクリストファー・ゴー前大統領補佐官の他、強引な薬物捜査を指揮したデラロサ前国家警察長官、故マルコス大統領の長女アイミー・マルコス氏などが当選。残る3人も、政権寄りの姿勢。

他方、反ドゥテルテ大統領派で、アキノ前大統領の甥で現職のバム・アキノ氏と前内務・自治相のマヌエル・ロハス氏は落選。非改選を含む上院24議席のうち、6人いた反ドゥテルテ派は4人に減少。

5. ドゥテルテ大統領の主要政策

次に、同大統領の主要な4政策を見ておきましょう。第1に、包括的税制改革第1弾。インフラ財源確保のため、全体としては増税となります。この措置は、18年におけるインフレ率上昇の1つの原因となりました。現在は包括的税制改革第2弾が下院を通過し、上院はまだ通過していません。

第2にインフラ投資の拡大。フィリピンではかねてインフラ不足が指摘されており、大統領は既にインフラ支出を大幅に増加させています。インフラ投資拡大は、経常収支悪化の一因となっています。

第3に、看板政策となっている「麻薬との戦い」。逮捕者が16万人を超えるなど大規模な取り組みを行ってきましたが(図表4参照)、取り締まりは今後も続く模様。麻薬は従来、犯罪組織の資金源となっており、国民の多くは取り締まりを歓迎しています。ただ、無関係な市民が巻き添えで殺されたり、裁判所の令状なしの逮捕が多数行われたりするなど、米国の人権団体などが、当局の麻薬取り締まりのやり方を批判しています。

 図表4 「麻薬との戦い」の状況

第4は、国内反政府勢力との対話。イスラム系の武装勢力は、主にミンダナオ島で活動しています。このうち、政府はモロ・イスラム解放戦線と対話を行い、和平協議は概ね順調に進みました。住民投票の結果、自治政府の領域が確定しました。

他方、フィリピン共産党に対しては、入閣を促すなど融和策を取りました。同党の軍事部門である新人民軍の攻撃が停止しないため、大統領は17年12月に同党をテロ組織に認定し、対決姿勢をとることとしました。

大統領の政策には、一部批判もあるものの、支持率は最低でも65%を維持しています。上記の通り、上院でドゥテルテ大統領支持派が多数を占めることとなり、インフラ整備、麻薬との戦いと共に、今後は外資規制の緩和なども推進されるものと予想されます。

6. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは17年末と18年9月末の比較では、▲8.0%の大幅下落(図表5参照)。米国の利上げにより、投資家が新興国から資金を引き揚げたのが主な原因。その後、米連邦準備理事会(FRB)による利上げが小休止するとの予想などにより、4月末には1ドル=51.83ペソと、昨年9月からは+4.1%と戻す展開。

 図表5 フィリピン総合指数とフィリピン・ペソ

株価も同様にフィリピン総合指数が、17年末から18年10月との対比では▲16.5%の大幅下落。その後、米連邦準備理事会(FRB)による利上げが小休止するとの予想などにより、投資家の資金が戻り、4月末には同指数が7,967ポイントと、昨年10月末比で++11.5%の小反発。

不透明要因としては、米中の貿易戦争の継続、世界経済の減速、米FRBによる利上げの動向などがあります。但、米中貿易戦争によって、フィリピンなど東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国は却って恩恵を受ける可能性もあり、また、中国の景気減速の影響も比較的軽微にとどまる可能性があります。為替、株価とも当面、やや底堅い展開となることも考えられます。

次回はインドを見る予定です。

 新興国市場の点検 (5) インドネシア 平成31年5月10日

おはようございます。前回のタイに続いて、インドネシアについて。

1. 大統領選でジョコ氏再選確実

4月17日に投開票されたインドネシアの大統領選では、現職のジョコ・ウィドド大統領(57)の再選が確実となりました。大型のインフラ投資を推し進め、+5%程度の成長を実現したことが評価されました。

ただ、対立候補であるプラボウォ・スビアント氏(66)は敗色濃厚であることを認めず、「一方的な勝利宣言」を行いました。

前回の大統領選では、両候補がかなりの接戦になり、やはり両陣営とも勝利宣言を行ったという経緯があります。選管による正式な発表は5月22日とかなり先になっています。プラボォ陣営の支持者はデモを行うとしており、政治的な混乱が続く可能性があります。

インドネシアでは、再選が禁止されているため、プラボウォ・スビアント氏は既に次の選挙に向けた準備を行っています。同氏が指名した副大統領は人気の高い女性で、都市部を中心に支持を集めました。

2. 4月CPI上昇率は+2.83%に減速

インドネシア中央統計局は5月2日に、4月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+2.83%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+2.48%から反発し、市場予想の+2.69%からも上振れ。

 図表1 インドネシアのCPI前年同月比上昇率

3. 政策金利を据え置き

一方、インドネシア中央銀行は4月25日の理事会で、政策金利である7日物リバースレポレートを6.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。据え置きは、市場の予想通り。また中銀は、翌日物預金ファリシティー金利も5.25%に、翌日物貸出ファシリティー金利も6.75%に据え置き。

中銀は声明文で、現状維持を決定したことについて、前回3月会合と同様に「政策金利の据え置き決定は、経済の外部要因の安定を一段とつよめることや、経常赤字を許容範囲の水準に抑制すること、さらに、インドネシアの金融市場の魅力を維持することと合致する」としました。

 図表2 インドネシアの政策金利

4. 10-12期+5.18%成長

インドネシア中央統計局2月6日に、10-12月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+5.18%であると発表(図表3参照)。伸び率は7-9月期の+5.17%をわずかに上回り、市場予想の+5.11%から上振れ。

 図表3 インドネシアの四半期成長率(前年同期比)

前期比では▲1.69%。市場予想は▲1.75%。

18年通期では、+5.17%と、13年以来の大幅な伸びとなりました。但、政府による公式の18年の成長率目標の+5.4%を下回りました。ジョコ・ウィドド大統領は14年の大統領選で、年間のGDP成長率を+7%に引き上げることを公約としていました。

5. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは米国の連邦準備理事会(FRB)による利上げ、またそれに伴う長期金利の上昇により、対ドルで17年末から18年10月末にかけては、▲12.0%の大幅下落(図表4参照)。ただ、その後は米FRBが利上げ停止を示唆してことにより、対ドルで戻り歩調。ルピアは対ドルで昨年12月末から今年4月にかけては+1.06%と小幅高。

 図表4 ジャカルタ総合指数とルピア(IDR/USD)

株価は、代表的な株価指数であるジャカルタ総合指数で、同様に17年末から18年10月にかけて▲8.2%の下落。但、その後は通貨と同様に、米FRBが利上げ停止を示唆してことにより、戻り歩調。同指数は昨年12月末から今年4月にかけては+4.21%と小幅高。

米中貿易戦争の継続により、投資家は新興国の通貨あるいは株式に対して当面、様子見を決め込む可能性があります。中国の景気も、1-3月期にはやや下げ止まった感がありますが、米国による関税引き上げなどにより、今後は減速することも考えられます。通貨、株式共に当面、上値が重い展開となる可能性があります。

次回はフィリピンを見る予定です。

 新興国市場の点検 (4) タイ 平成31年5月3日

はようございます。5月から日本では、新元号令和が開始となりましたね。前回は、サプライチェーンの変化、中国の景気を見ました。今回から、選挙の行われた国、あるいは近く行われる国を見ていきます。まずは、タイ。

1. 親軍政党が多数

タイでは、3月24日に総選挙が行われ、下院の定数500に対して、親軍政党が予想を上回る得票を集め、2014年から続いている軍事政権が事実上継続する可能性が高まりました。

タクシン元首相派は事前の予想では第1党になるとみられていましたが、伸び悩みました。親軍政党は、多数派工作により下院で過半数を抑える意向。第三勢力の意向が、次期政権の安定度を決めることとなりそうです。

選管の発表によると、24日午後11時半現在で、軍政の継続を目指す「国民国家の力党」が約764万票、タクシン派のタイ貢献党が約716万票。小選挙区(定数350)では貢献党129、国民国家の力党99と伝えられました。

結果が公表されるのは、5月日の予定。5月には国王の戴冠式が控えています。また、タイは19年にASEAN(東南アジア諸国連合)の議長国となることとなっており、5月に会議さ予定されています。

この選挙が不透明要因として嫌気され、海外投資家は16カ月連続でタイ株式市場から資金を引き揚げてきました。プラユット首相が続投する可能性が高まっていますが、そうなると、海外投資による資金も戻ってくる可能性があります。

プラユット政権は積極的なインフラ投資を行っているため、観光や消費も安定的に拡大すると期待されます。

2. 10-12月期成長率+3.7%に加速

続いて、タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は2月18日に、10-12月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比+3.7%になったと発表。7-9月期の+3.2%(改定値)から加速。市場予想の+3.36%を上回りました。10-12月期は前期比では+0.8%と、市場予想の+0.7%を上回りました。

同庁は、18年のGDP成長率を+4.2%と予想。従来予想は+4.2〜4.7%でした。18年の輸出予想は+7.2%と、従来の+10.0%から下方修正。19年のGDP成長率予想は+3.5〜4.5%。輸出の予想は+4.6%。

猶、18年は通年では+4.1%と、17年の同+4.0%から加速したものの、11月の政府の予想である+4.2%を下回りました。

実質GDPを需要項目別にみると、内需と外需がそれぞれ回復して成長率加速に繋がりました。民間消費は前年同期比+5.3%と、前期の同+5.2%から小幅上昇。政府支出は同+1.4%と、同+1.9%から低下。投資は+4.2%と、前期の+3.9%から加速。

 図表1 タイの四半期成長率(前年同期比)

3. CPI伸び率は横這い

一方、タイ商業省は5月1日に、4月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+1.23%であったと発表(図表2参照)。前月の同+1.24%からほぼ横這い。市場予想の+1.2%にほぼ一致。

 図表2 タイのCPI(前年同月比)

4. 政策金利を維持

一方、タイ中央銀行は3月20日の金融政策決定会合で、市場予想通り、政策金利の1日物レポ金利を1.75%に維持することを全員一致で決定(図表3参照)。

中銀は15年4月会合まで2会合連続で利下げし、その後は同6月より据え置きに転じ、18年11月まで28会合連続で現状維持としていました。ところが、前回12月会合では11年7月ぶりに利上げを行いました。今回の会合では多数の賛成により現状維持を決定したものの、2委員は+0.25%ポイントの利上げを主張しました。

中銀は、15年4月会合まで2会合連続で利下げし、同6月から据え置きに転じて、18年11月まで28会合で現状維持を決定。同12月会合で、11年以来7年ぶりに利下げに転じましたが、前回2月会合で現状維持としました。

 図表3 タイの政策金利

中銀は金融政策決定会合後に発表した声明文において、現状維持を決定したことについて、前回と同様に、「現在の金融緩和政策の姿勢は経済成長に役立ち、物価目標の達成に最も適切であると判断した」としました。ただ、今回は新たに「国内外の(経済の)先行き不透明感が強まっていることを考慮して、今後どんな影響が及んでくるか明確に判断するために、現状維持を決定した」との文言を加えました。

5. 為替と株価の動向

次に、為替を見ると、タイ・バーツ昨年6月から今年2月にかけては、一貫して下落。米国の利上げ継続により、海外の投資家が新興国から資金を引き上げる動きがあり、その影響を受けました。2月以降は、米連邦準備委員会(FRB)による利上げ停止などにより、タイ・バーツは対米ドルで反発。

 図表4 タイ・バーツ(BAT/USD)

株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、16年初めより一貫して上昇。ただ、18年に入ると一転して大幅下落。通貨と同様、米長期金利の上昇などが影響しました。

 図表5 SET指数

タイの今後の政治・経済については、軍を中心とした政治体制の継続、それに伴う社会の安定などが想定されます。5月には国王の戴冠が予定されています。タイでは王室に対する信頼が根強く、王室の支持により、軍部を中心とした体制が存続する可能性があります。

次回はインドネシアを見る予定です。

 新興国市場の点検 (3) サプライチェーン・中国の景気 平成31年4月26日

おはようございます。5月から日本では、新元号令和が開始となりますね。さて、前回は、原油価格、米中貿易摩擦を見ました。今回は、サプライチェーンの変化、中国の景気などについて見ていきます。

1. サプライチェーンの変化

米中貿易摩擦の激化により、サプライチェーン(供給網)が変化する見込み。従来、アップルなど米主要企業は、中国から部品、素材などを大量に輸入し、それがそれらの企業の競争力の源泉の1つとなっていました。

例えば、アップル社の主力消費の1つであるiPhoneは、中国から多くの部品、材料を仕入れてきました。米国のアップル本社は、iPhoneの組み立てなどは行わず、デザイン、マーケティングなどを担当しています。米国が中国に対する関税を引き上げれば、当然、中国以外の新興国が相対的に浮上すると予想されます。

サプライチェーンの変化は、アジア新興国に好影響を与える可能性があります。18年9月にアジア開発銀行(ADB)が、サプライチェーンの変化を加味した追加関税の効果を発表。米国向け輸出の代替により、中国を除くアジア新興国にとって、ポジティブな結果(図表1参照)。

 図表1 サプライチェーンの変化を加味した追加関税の効果

セクター別では、電子・電子部品関連、さらに金属・鉄鋼、機械、繊維製品などにとってポジティブ。ASEAN(東南アジア諸国連合)では、国内生産が増大し、資金需要が高まることにより、金融にもポジティブ。

2. 米国が対中追加関税引き上げ延期を表明

米トランプ大統領は19年2月24日に、3月2日に予定していた中国製品に対する追加関税引き上げ見送りを表明。習近平中国国家主席と、フロリダ州で首脳会談を開く計画も明らかにしました。

トランプ大統領は、貿易交渉が不調に終わった場合、関税率を現行の10%から25%に引き上げる方針を示唆していました。

トランプ氏はツイッターで、「知的財産保護や技術移転、農業、サービス、通貨などを含む重要な構造問題に関する中国との貿易協議で、大きな進展があったと報告する」としました。「こうしたとても生産咳な協議の結果、3月1日に予定されていた米関税の引き上げを延期する」と表明。

3. アジアで自由貿易協定圏が発展

欧州はブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)で混乱し、米中両国は貿易、知的財産保護などで対立。このような状況下で、アジアを中心とする自由貿易圏が拡大。東南アジアの主要国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)に続いて、アジア太平洋経済協力会議(APEC)が1989年にASEAN加盟6カ国と日米韓、カナダ、豪州、ニュージーランドにより発足。環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)も発足し、18年からは東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も協議されています(図表2参照)。

インドで選挙が予定されているため、RCEPは妥結に至っていないものの、19年中の妥結を目指しています。RCEPの参加国はインド、中国、韓国、日本、豪州、ニュージーランド、ASEAN10か国となり、中国が加盟しないTPP11よりも大きな市場規模を誇っています。RCEPが締結されると、かなりの経済効果があると期待されています。

 図表2 アジアを中心とした自由貿易協定

4. 中国の景気

新興国経済全般に対して、中国の景気はかなり大きな影響力を持っています。まず、最近の中国の景気を見ておきましょう。中国の国家統計局は17日に今年1-3期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.4%の伸びだと発表(図表3参照)。成長率は昨年10-12月期から横這い。18年1-3月期から4四半期ぶりに減速が止まりました。個人消費は振るわなかったものの、投資が回復。

政府は成長率目標を「+6.0〜6.5%」としており、今回の成長率は、その範囲に収まりました。ただ、前期比の成長率は+1.4%と、前期の+1.5%から減速。

 図表3 中国の四半期成長率(前年同期比)

米中貿易摩擦の継続、世界的な景気鈍化に対応して、中国政府はさまざまな景気対策を行ってきました。19年1月に預金準備率が▲1%引き下げられました。インフラ投資を見ると、18年前半には過剰投資の削減のために、1割の引き締めを実施。ただ、預金準備率の引き下げにより、1兆5000億元の資金が供給され、足下では資金がだぶついています。

19年3月5-15日に開催された全国人民代表者会議(全人代、日本の国会に相当)における、財政赤字目標が注目されました。同目標は、18年には対GDP(国内総生産)比▲2.6%であったのに対して、19年には▲2.8%に引き上げられました。

これにより、追加的な財政支出が可能になり、鉄道や高速道路のほか、病院、教育機関などサービスに関わるインフラ投資も促進される見込み。

5. 米中ハイテク摩擦も継続か

一方、カナダが昨年逮捕した、中国通信機器大手華為技術(フアウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)を、米司法省は1月28日に、イランとの違法な金融取引に関わった罪などで起訴したと発表。カナダに対して、身柄の引き渡しを請求しています。

カナダ司法当局は18年12月1日に、米国の要請に応じて孟氏を逮捕。その後孟氏h保釈され、カナダに滞在。米司法省は犯罪人引渡条約に基づき、カナダに身柄引き渡しを求めています。

米国では、フアウェイの製品を使わないという法案を可決。豪州やニュージーランドも同調し、日本も政府調達で同社製品を使わないことにしました。但し、東南アジアでは対応が異なっており、タイでは同社の5Gの実験を開始。フィリピンでは最大手の企業は同社の採用を見合わせたものの、二番手、三番手などの企業は安価のフアウェイ成否を使う動きを見せています。

次回は、アジアのいくつかの国における選挙などを見る予定です。

 新興国市場の点検 (2) 原油価格・米中貿易摩擦 平成31年4月19日

おはようございます。前回は、米国の利上げ停止の影響などについて見ました。今回は、原油価格、米中貿易摩擦などを見ます。

1. 原油の協調減産が継続

まず、原油価格を巡る動きを見ておきましょう。主要産油国で構成する石油輸出国機構(OPEC)は12月6日の定例疎開で、減産の方向について暫定合意。続いて、7日にOPECとロシアなど主要加盟国を交えた確定会合を開催し、協調減産について合意。主要国は、世界全体の産油量(10月時点)の約1.2%にあたる日量約120万バレルの削減で一致しました。

続いて、OPEC加盟国とロシアなど非加盟国の有力産油国は3月18日に、アゼルバイジャンで会合を開く、6月末で終了する協調減産の延長を協議。各国は基本的に延長で合意することとなり、3月末の原油価格(WTI)は1バレル=60.14ドルと、2月末の同54.95ドルからやや反発(図表1参照)。

 図表1 WTI(NY原油先物)

原油価格は、中国による資源の「爆買い」の終了、欧州などの景気後退、米シェールガスの開発などの影響で、14年夏から16年初めにかけて大幅に下落。16年2月末には1バレル=30.32ドルの安値を付けました。その後は上記の水準まで回復し、最近は、比較的落ち着いた動きを見せています。

14年夏から16年初めにかけての原油など資源価格の大幅下落により、ロシアなど産油国、あるいはブラジル、南アフリカといった資源国は大きな打撃を受けました。原油価格の回復は、これらの国の経済にとっては、プラスに働いています。

インド、フィリピンのように原油の大半を輸入に頼っている国にとっても、原油価格安定はプラス要因となります。インドにおいては、原油高は経常赤字の拡大、通貨の下落、利上げの要因となります。インド、フィリピンなど原油輸入国にとっては、原油高はインフレ圧力の要因となります。

2. 米国が産油量1位に

産油国の動きとしては、シェールオイルの生産の拡大により、米国の生産量は2018年末にサウジアラビア、ロシアを抜いて世界1位となりました。19年後半には建設中のパイプラインが稼働するため、米国は増産に向かうと予想されています。

14年夏に原油価格が急落した際には、サウジアラビアは米国のシェールガスに打撃を与えるために、減産を行いませんでした。18年以降は、価格維持のために減産を行うようになってきました。

OPECは嘗て、世界の産出量の50%以上を占めていたものの、足下では30%程度まで低下。ロシアなど主要非OPEC国を巻き込むことによって50%のシャアを維持。18年11月には米国が純輸出国となりました。米国のシェールガス生産拡大により、OPECの政治的地位が低下し、米国の中東に対する政治的関与が低下することが予想されます。中東産油国の財政均衡は、原油価格60ドル程度が目安となります。

3. 米中貿易摩擦の影響

米トランプ大統領は、大統領選の最中から、中国が「為替操作国」であるとして攻撃。大衆輸入額5,055国ドルのうち、第1弾の制裁として産業機械など340億ドル相当に25%の追加関税を課しました。その後、第2弾として半導体など160億ドル相当に25%の追加健在を、第3弾として食料品・家電など2,000億ドル相当に10%の関税を課しました(図表2参照)。

中国もこれに対抗して、第1弾として大豆、自動車など340億ドル相当に25%の追加関税、第2弾として古紙など160億ドル相当に25%の追加関税、第3弾として木材やLNGなど600億ドル相当に5-10%の追加関税を課しました。

 図表2 米国の対中輸入額と中国の対米輸入額と制裁対象額

ただ、貿易額としては中国の輸出(米国にとっては輸入)が、米国の対中輸出を大幅に上回っており、中国としては、本音では米中貿易摩擦は避けたいところ。米中両国は今年3-4月に協議を行っており、その行方が注目されます。

国際通貨基金(IMF)は18年9月に、米中貿易摩擦の影響について4つのシナリオを提出。当初は、米中は追加関税を課されても、関税による収入を財政支出に回すことにより、GDP(国内総生産)に影響を与えないと分析していました。

足下では、リーマンショックの際に見られたように、先行き不透明感の高まりにより、投資が手控えられて、生産が悪化するとの見通しを出しています。米国では1年目に最も大きくGDPが押し下げられ、アジア新興国及び世界についても、1年目に最も大きな悪影響が出るとしています。

4. 企業業績にも影響

19年初めには、アップルが中国におけるiPhoneの販売見通しを下方修正。18年秋には、台湾の半導体メーカーなどが、政府の補助金もあり、中国の生産を台湾に戻すといった動きがみられました。米国の足下の決算発表においても、中国での生産の縮小、受注の減少といった動きが出ており、投資の手控え、生産拠点の移転などの話が出てくる可能性が高いとみられます。

米国国内での自動車工場でも人員削減が実施され、東欧の工場でも閉鎖、人員削減の動きがみられます。単に米中の問題だけでなく、世界全体の景気に影響を与える可能性があります。

次回は、サプライチェーンの変化、中国の景気などについて見る予定です。

 新興国市場の点検 (1) 米国の利上げ停止 平成31年4月12日

おはようございます。2019年に入り、投資環境においては先進国優位から、徐々に新興国優位に変化が表れています。新興国への投資家の回帰の原因と、今後の見通しについて見ていきます。

1. 新興国株を見直す動き

一般に、中国あるいはインドといった新興国の経済成長率は米欧など先進国と比較して高いと言えます。但、投資家の資金の動向、あるいは株価の動きで見て常に新興国が先進国に対して優位にあるわけではありません。

MSCIの株価指数で、新興国と米国を比較すると、2001年初めから2009年前半までは新興国株式が優位となり、その後は概ね2018年まつまで米国株式が優位となりました。主な要因は成長率の格差であり、新興国と先進国との成長率格差が大きい時期に新興国の株価が上昇してきました。

国際通貨基金(IMF)によると、中国の国内総生産(GDP)成長率は18年が+6.595%、19年には+6.176%と若干低下する予想。インドは18年の+7.3%から19年には+7.436%に加速の予想。同様に、ブラジルとロシアも低水準ではあるものの、18年から19年にかけて成長率がやや加速する見通し(図表1参照)。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想

また、新興国の企業では、業績改善の動きが強まっています。MSCIに採用されている各国の企業増益率の19年度予想を見ると、先進国よりも新興国の方が増益率の高い国が多くなっています。インド、中国の他、ブラジル、南アフリカ、メキシコなどで業績改善が見込まれています。一方、韓国、台湾では半導体関連の業績見通しが悪化するなど、製造業中心の国では下方修正が強まっています。

2. 米利上げ休止観測

新興国市場にとっての追い風の1つは、米国の利上げ休止観測。米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和の停止の後、景気の回復もあり、昨年12月までに合計9回の利上げを実施してきました(図表2参照)。

 図表2 米FFレート

1月末の公開市場委員会(FOMC)では、「一段の利上げ」という文言が削除され、保有資産の縮小も柔軟化する姿勢を示唆。年初の段階では、今年さらに2回の利上げが予想されていたものの、FRBのパウエル議長も利上げの停止を示唆しており、今年には、利上げはないとの見方が強まっています。

2017-18年には、新興国の株式市場は一般に、軟調に推移しました。上記の通りFRBが利上げを行い、それに伴い米兆金利も上昇。投資家が新興国から資金を引き上げる動きが継続し、新興国の株式、通貨が売られる展開となりました。

このように米FRBが利上げの停止を示唆してことにより、米長期金利の上昇が停止し、今年に入って、新興国の通貨に対しては、投資家の資金が流入しました。新興国では通貨の下落の停止により、輸入物価の上昇率が頭打ちとなり、インフレ率の上昇も沈静化する傾向にあります。

3. 新興国市場に対する資金の流出入

外国人投資家による新興国株式市場の資金の流出入を見ると、インドネシアでは、テーパリング(FRBによる資産買い入れの縮小)観測が出た13年5月から資金が流出。その後も米利上げのたびに資金の流出入が繰り返され、昨年11月以降には投資家の資金が戻ってきています。

インドは外国人投資家の影響が小さい市場ですが、資金が逃げにくくなっています。ベトナムには、これまでほとんど外国人投資家の資金が入っていませんでしたが、国有企業などが外国人持ち株の上限比率を引き上げたことにより、足下で資金が流入。

米国の利上げ停止観測が強まれば、米長期金利の低下の可能性もあり、新興国へは資金が流入しやすい環境が継続する可能性があります。

4. 新興国の金融政策が変化

米長期金利の上昇の影響により、2017-18年には新興国の通貨が売られ、それに伴いインフレ率も上昇しました。インフレ率の上昇を抑えるために、新興国の中央銀行の多くが利上げを実施し、株式市場にとってはマイナスの材料となりました。

米国の金融政策の展開に伴い、新興国の多くでは利上げの停止、あるいは利下げに踏み切るという動きが出ていました。インドが最も定型的であり、2回利上げを行ったものの、金利を引き下げました。

インド準備銀行(中央銀行、RBI)は2月7日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを▲0.25%引き下げて6.25%にすることを決定(図表3参照)。即日実施。利下げは1年反ぶり。当面の金融政策も「引き締め」から「中立」に変更し、将来の利下げにも含みを持たせました。

 図表3 インドの政策金利

12月に、中銀総裁はモディ政権寄りの総裁に交代し、利下げの可能性が想定されていたものの、これほど早く利下げするとは市場では予想していませんでした。背景には、原油価格が下落して、インフレ率が落ち着いていることがあります。

インドネシアやフィリピンは、通貨安に対応するために、18年には大幅な利上げを実施。フィリピンではインフレ率が高まっていることにより、政策金利を据え置くと予想されています。

トルコは18年には通貨リラが暴落し、これに対応して中銀は政策金利を大幅に引き上げました。インフレ率が高止まりしているため、政策金利は当面、据え置くものと予想されています。

ブラジルは利下げ基調にあるものの、インフレ率が目標の上限に達しているため、当面は金利を据え置くと予想されています。

次回は原油価格、米中貿易摩擦などを見る予定です。

 ブラジル経済の動向(5)課題・株価 平成31年4月5日

おはようございます。前回は政治について考察。今回は課題、リスク、為替、株価などを見ます。

1. 成長率が低下

第1回でご報告した通り、ブラジルの実質国内総生産(GDP)成長率は、資源価格の低迷などにより低迷。15年▲+3.7%、16年▲3.5%となり、ロシアとともに資源国に一角として低迷しました。IMFの18年10月のデータでは、資源価格の回復などにより17年+0.1%から、18年+1.435%、19年には+2.372%へと回復するとしています(図表1参照)。

 図表1 BRICs諸国及び日本の成長率予想 

他方、ブラジル地理統計院は2月28日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+1.1%であったと発表(図表3参照)。今年7-9月期の+0.61%から加速。前期比では+0.5%。景気回復に転じてから2年が経過したものの、景気の基調は弱いままにとどまっています。

2. IMFによる中期財政見通し

IMF(国際通貨基金)によると、公的債務のGDP比は急速に上昇しており、債務の持続性リスクが高まっています。ベースライン(基本)シナリオでは財政再建の進み方は遅く、公的債務は2023年にGDP比98.6%まで上昇。IMFは、既に高い債務比率は衝撃に弱く、財政改革の遅れは債務の持続性を危機に晒すと警告しています(図表2参照)。

ベースライン予測の前提は、2018年のGDP成長率は+1.8%となり、2019に+2.5%、2020年に+2.3%、行くは潜在成長率並みの+2.2%に戻り維持する。外部環境は良好。財政改革は限定的。最仏の伸びの上限をインフレ率までとする在師絵「上限法」は維持される、など。

ベースライン予測の概要は、公的債務残高は上昇を続け、2023年にGDP比95.6%に達する。2023年に債務残高のGDP比率を95.6%に保つために必要なプライマリーバランスは、GDP比1.1%。

 図表2 ベースライン予測の前提と結果

3. インフレ率は低水準

一方、インフレ率は低水準にとどまっています。ブラジル地理統計院は3月12日に、2月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。2月のIPCAは前年同月比+3.89%と、前月の同+3.78%からやや加速(図表3参照)。物価の押し上げ要因となってきた、ディーゼルなどの燃料価格は沈静化しています。

 図表3 ブラジルの消費者物価指数(IPCA)

4. 年金改革法案に注目

ボルソナロ政権は、年金改革(社旗保障制度改革)を経済政策の三本柱の1つとしています。ブラジルの財政政策は、財政責任法に基づき、公的部門(中央政府、公営企業、地方政府)の基礎的財政収支の黒字維持を目標としています。

2014年以降は、5年連続で赤字を継続(2018年はGDP比▲1.6%)。社会保障関連収支の赤字は、同▲3.9%と、総合収支(▲7.1%)の過半に達しています。高齢化により、生産年齢人口(15-64歳)の比率の低下が見込まれ、財政の持続性確保のために、年金改革による給付抑制が不可避となっています。

5. 為替と株価

ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。2018年10月7日の大統領選第1回投票、28日の決選投票で、構造改革に前向きとみられるボルソナロ氏が当選。ボルソナロ氏に対する期待感から、通貨レアルが買われました(図表4参照)。

その後は期待感が一巡し、米中貿易摩擦への警戒感の高まりなどにより、レアルは軟調な展開。米国の利上げの継続の見方が強まり、新興国通貨は全面安となりました。

2019年に入り、パウエル米連邦準備理事会議長が、米利上げの打ち止めを示唆し、米中通商協議も進展が期待されたことから、レアルは再び買われました。ただ、ボルソナロ大統領が議会に提出した年金改革法案の行方に不透明感があることなどにより、通貨レアルは昨年秋以降には、ほぼもみ合う展開。17年末との比較では、レアルは対ドルで+18.44%の上昇。

 図表4 ボベスパ指数とブラジル・レアル(BRL/USD)

株価は16年以降、ほぼ一貫して上昇。17年末との比較では、代表的な株価指数ボベスパ指数は+24.8%の上昇。ここ1年では、米中通商摩擦に激化などにより、中国の上海総合指数など、新興国の主要な株価指数は軟調に展開する中、ブラジルの株価は堅調に推移。 上記の通り、ボルソナロ大統領が、市場寄りの姿勢をとるのではないかとの期待感から株価は堅調に推移してきました。ただ、年金改革法案など構造改革が不調に終われば、失望感を招くリスクもあります。 6. ブラジル経済の展望 ブラジルは輸出においては、依然として鉄鉱石など鉱物資源が中心であり、製造業の育成が遅れています。財政赤字の継続、インフラの整備の遅れ、人口の高齢化の進行などのリスクもあります。ボルソナロ大統領が構造改革を推進できるかも、注目点です。IMFの予想では、ブラジルの成長率は依然として低迷するとされています。成長率の急速な回復は無地かしいと思われます。

 ブラジル経済の動向(4)貿易・政治 平成31年3月29日

おはようございます。前回は格付け、財政収支、経常収支などを考察。今回は貿易、政治などを見ます。

1. 18年に輸出の伸びが鈍化

16年のブラジルの貿易の動きを見ると、国際通貨基金(IMF)のデータで、財・サービスの輸入は2016年に▲8.2%と大きく落ち込んだものの、17年が+3.5%、18年が+7.4%と回復傾向で、18年は+6.8%の予想。同輸出は16年に+3.6%の後、17年に10.7%、18年に+6.1%。但、19年には+3.3%の予想。中国経済の減速、資源価格の低迷などにより、19年の輸出は低い伸びにとどまると予想されています(図表1参照)。

 図表1 WTI(NY原油先物) 

ブラジルの輸出を品目別でみると、伝統的に原油・鉄鉱石などの一次産品の比率が高く、国際的に資源価格が高騰していたころは50%弱程度でした。原油価格の下落などにより、その比率は40%強に低下。原油価格をWTI先物でみると13年後半の1バレル=110ドル近辺から16年初めには同20ドル台へと大きく下落。

ただ16年初頭以降は石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC国による協調減産などにより、原油価格は反発。18年9月には同73.16ドルまで回復。その後は米シェール・ガス増産などにより低下。19年2月には同54.95ドルと、前月からほぼ横這いの動き(図表2参照)。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

輸出における資源の比率はまだ相対的に高く、商品市況の動向、また中国など資源消費国の動向によってブラジルの輸出は大きく影響を受けることとなります。米国のシェール・ガスの増産もあり、原油価格が今後大幅に上昇するのは期待しづらいところ。

さらに、中国も経済を投資主導から消費など内需主導へと転換を図っており、ブラジルから中国への鉄鉱石、銅などの輸出が大幅に伸びることは難しいと言えます。

工業品も横這い程度の見込み。ブラジルには製造業として輸出に適した産業は余り見当たりません。エンブラエルの中小型飛行機があるぐらいで、競争力の低い産業が目立ちます。自動車は生産しているものの、海外からの輸入車には高い関税を課しています。そうしないと、競争力のないブラジルの自動車産業が成り立ちません。ブラジルでは、法・税制度などが非常に複雑であり、いわゆる「ブラジル・コスト」も製造業の競争力を削ぐ要因。

2. 大統領選でボルソロナ氏当選

ブラジル大統領選の決選投票が昨年10月28日に行われました。極右のボルソロナ氏と左派で労働党のアダジ氏との争いとなり、貧困層へのバラマキの停止と汚職の撲滅、治安の回復などを訴えたボルソナロ氏が、得票率で10%ポイント程度の差をつけて当選。同氏の勝利は事前の予想通りでした。

同氏は「ブラジルのトランプ」ともいわれており、女性や黒人などに対する差別的な発言を行うなど、物議をかもしてきました。治安改善を訴えたことが、中間層、富裕層などの支持につながったとみられます。当選後は、左派政権に比べて市場寄りの政策をとるとの期待により、通貨レアル、また株式市場も同氏の当選を好感する動きとなりました。

3. テメル前大統領を逮捕

一方、テメル前大統領による口利き疑惑が浮上。11月25日に辞任した政権幹部が北東部エルバドルで購入した高級マンションを巡って、担当閣僚に建設計画を許可するように圧力をかけた疑いが出て、捜査当局が前大統領の関与の有無を調査(写真1参照)。

続いて、テメル前大統領が汚職にかかわった容疑で逮捕され、ボルソナロ政権が推進する改革路線への不安材料となっています。ボルソナロ政権以前から続いている汚職疑惑が終わっていないことになり、議会の不安定化のリスクとなっています。財政再建に必要となる年金改革実現への懸念により通貨レアルが対ドルで一時年初来安値を更新するなど、市場は不安定な動きとなっています。

 写真1 就任式で前テメル大統領から大統領紫をけ取るボルソナロ大統領(1月1日、ブラジリア)

テメル氏は21日に、原子力発電所の建設を巡る収賄容疑で逮捕されました。18年末まで大統領を務めていた同市は、在任中から数々の汚職疑惑を抱えており、検察は本件を含めて10件の汚職事件で捜査しているとされます。

4. 年金改革に影響か

前大統領に対する逮捕自体は既定路線だったものの、退任からわずか3か月での身柄拘束については、現地でも驚きを持って迎えられています。今回の逮捕が、年金に与える影響については市場で懸念されています。通貨レアルは、逮捕の翌日の22日には1ドル=3.9レアルと、年初来安値に下落。直近の高値からは▲5%以上の下落。

年金改革法案が予定通り進むのかどうか懐疑的な見方が強まり、レアル下落が続いていた折に、今回の逮捕がさらに悪材料となりました。逮捕により、年金改革に向けた交渉が複雑化する恐れがあります。

議会が混乱することにより、年金改革が頓挫することを市場は懸念しています。14年に発覚した政界汚職に対する捜査は「ババジャット(洗車場)」と呼ばれており、従来、ルラ元大統領をはじめとした有力政治家が逮捕されてきました。他にも、汚職が噂される有力な政治家が多数おり、捜査対象になることを恐れる議員にとって、年金改革の優先順位が低下することも懸念されています。

最新の世論調査では、ボルソナロ大統領への支持率は34%と、就任時から▲15%ポイント下落。年金改革に対する国民の反発や、閣僚などによる醜聞が足を引っ張っています。選挙公約における汚職、治安対策などについて、具体的な成果が上がっていないことも下人となっています。

次回は課題、リスク、通貨、株価などを見る予定です。

 ブラジル経済の動向(3)財政収支・格付け 平成31年3月22日

おはようございます。前回は最近の景気、物価、金利などを考察。今回は財政収支、格付け、経常収支などです。

1. 潜在成長率が低下

前回と前々回で見たように、ブラジルでは成長率が低下。国内総生産(GDP)成長率は、2015-16年にマイナスに陥ったのちも、緩慢な回復。18通年の成長率は+1.1%にとどまりました。昨年10-12月期も前年同期比+1.1%にとどまりました。

成長率の低下の主な要因は、潜在成長率の低下。その主な要因は2つあり、第1の要因は人口動態。ブラジルの生産年齢人口(15-64歳)の増加率は緩やかに低下しており、16年には+1.0%を割り込み、18年には+0.8%に低下する見込み。

第2の理由は、固定資本形成率(固定資本形成/GDP)が低く、資本装備率が低いこと。すなわち、労働者1人当たりの資本が少ないこと。17年の固定資本投資率(対GDP)は15.6%と、今世紀に入って最低を更新。主要新興国との比較でも、10-17年の平均で、アルゼンチンに次いで低い水準。

経済協力開発機構(OECD)の推計では、ブラジルの潜在成長率は18年には+3.7%となり、11年までは+3.5%であるものの、その後は低下が続いて16年以降には+1.3%。このうち、人口要因の寄与度が+1.1%ポイントで、1人当たり資本の寄与度が▲0.4%ポイント技術革新や経営効率化を示す全要素生産性が+0.6%。1人当たり資本の引き上げが必要であるものの、今後も1人当たり資本の引き上げは見込めません。

2. 財政収支改善に遅れ

潜在成長率の低下は、財政赤字の解消にも大きな障害となります。経済成長による自然増収に期待できないため。新興国の中では、ブラジルはインドと並んで債務残高が非常の高く、さらに金利が高いために、利払い費が突出して高くなっています。

16年には、財政赤字が対GDP比で10%に達しました。債務残高のGDP比を一定に保つためには、+2%程度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字が必要であるものの、13年からプライマリーバランスは2%を下回っており、15年からは赤字に転落(図表1参照)。それにより、14年まではGDP比6%前後であった政府債務残高は、それ以降には急速に拡大。

 図表1 ブラジルの財政収支(対GDP) 

OECDは、財政赤字の拡大が国内の民間消費を圧迫するクラウディングアウトを、引き落としていると警告。財政赤字が大幅に悪化した15年より、国内貯蓄、国内投資が減少。

財政赤字には、歳入、歳出両面が影響しているものの、特に社会保障への支出が増大。社会保障費は支出の35%を占めており、最大の支出項目であり、プライマリーバランス悪化の主な要因となっています。

ブラジルの年金いついては、OECD、IMF、世界銀行が揃って受給者を優遇しすぎていると指摘。ブラジルでは、引退直前のほぼ100%の所得に匹敵する年金を支給しており、年金支給開始年齢も55歳と低くなっています。

そのため、ブラジルの65歳以上の人口比率は8%と低いにもかかわらず、年金支出のGDP比は11.6%とたかくいます。2020年から、ブラジルの高齢化は加速する見込みであり、年金が今後さらに財政を圧迫する見込み。

3. 高い歳出規模

ブラジルの歳出規模は、新興国としては高く、15年の中央政府の歳出はGDP比で42.0%’図表2参照)。金利を除くベースでは22.1%。2003年に労働者党のルーラ大統領が誕生し、社会主義化するとの予想もありましたが、市場主義経済を維持。

ただ、左派政権であったため、次第にばらまき的な支出が増大し、12年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権になっても歳出は拡大し続けました。原油など資源価格の高騰を背景に交易条件が改善し、ルセフ政権の初期には歳入も拡大。ただ、12年をピークとして資源価格が下落に転じて、財政赤字が拡大しました。

ルセフ政権からテメル政権の交代後にも、18年には37.796%と高水準を維持。IMFでは、オン後は同比率が低下すると予想停止るものの、高水準の財政支出が引き続き財政を圧迫することとなりそうです。

 図表2 ブラジルの歳出(対GDP)

4. 格付けが低下

このような政府債務の拡大、財政収支悪化に対する懸念により、ソブリン(国債)格付けの見直しが継続。格付け大手のS&Pは14年3月に、外貨建て長期債格付けをBBBから投資適格の最低水準であるBBB−まで引き下げ、見通しは安定的としました(図表3参照)。

続いて、S&Pは15年7月28日に、ブラジルの格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ。S&Pは、ルセフ政権が2期目に入り著しく政策を調整したものの、ブラジルはなお政治、経済の両面で困難に直面しているとし、相次ぐ政治家や企業への汚職捜査も、見通しの重石となっていると指摘。

16年に入ると、格付け各社はブラジルのソブリン(国債)の格付けをさらに引き下げ。S&Pは2月27日に、外貨建て長期債格付けを「BB+」から「BB」に引き下げ。24日にはムーディーズが同様に、外貨建てソブリンを「Ba2」へと2段階引き下げ、見通しは「ネガティブ」としました。これにより、大手格付け3社がすべて投機的格付けとしました。

さらに、フィッチは5月5日に、同国長期外貨建て格付けを「BB」へと1段階引き下げ。同社は15年12月に既に「投機的」水準となる「BB+」に引き下げていましたが、見通しは「ネガティブ」で据え置きました。

S&Pは18年1月11日に、ブラジルの格付けをBBからBB−に引き下げ。政府が成立を目指す年金改革法案が延期されて、財政再建の取り組みが前進しないことを考慮しました。

 図表3 主要格付け機関による外貨建て長期債格付け

5. 経常収支赤字が拡大

対GDP比経常収支の赤字は、12年の▲3.0%から、14年には▲4.3%に拡大(図表4参照)。内訳で、黒字の源泉であった貿易収支が大幅に悪化。石油関連施設の操業停止によるエネルギー収支の悪化、石油輸入の計上時期が12年から13年にずれ込む特殊要因も響きました。

経常収支赤字を資本収支の黒字が補う構造であったわけですが、資本流入も不安定な動きが生じています。01-10年には、先進国に対する高い成長率・金利に注目した証券投資が資本収支を支えました。しかし、欧州債務危機の深刻化、11-12年の大幅利下げ、資本規制の強化などにより、証券投資が縮小。

米国では雇用の回復が順調に進んでおり、米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げに転換。FRBが利上げを行ったことにより、ブラジルなど新興国、特に財政・経常収支のGDPに対する赤字が大きい国からは、資金が流出する懸念があるとして、警戒感が拡大。「脆弱5か国(fragile 5)」の一角とされるブラジルは、特にその標的であるとされ、14年から15年にかけて株価、通貨ともに大幅な下落に見舞われました。

 図表4 ブラジルの経常収支

16年以降には、原油など資源価格が下落。18年には、石油輸出国機構(OPEC)の原油減産などにより、資源価格が回復。ただ、投資家の新興国からの投資資金引き上げの動きなどもあり、引き続き経常収支は赤字が続く見通し。

5. 経常収支の改善は見込みにくい

貿易収支悪化が特殊要因によるものであるなど、短期的に会場赤字が改善する要素もあるものの、構造的な改善を拒む要因もあります。世界の主要国・地域の貯蓄(S)・投資(I)バランスを見ると、中国、アジアでは高く、新興国全体はそれより低く、先進国がそれに続いています。中南米、特にブラジルは貯蓄・投資のGDPに対する比率が低く、中国で過剰な投資が問題になるのとは反対の状況です(図表5参照)。

経常赤字を拡大せず、投資を拡大するためには、国内貯蓄の増加が必要。民間、政府のGDP貯蓄のバランスを見ると、政府部門が大幅赤字で、貯蓄不測の主な要因となっています。公務員の年金改革、政府消費支出の抑制など構造改革なども、改善が進んでいません。

民間部門も、00年台半ばの急激なレアル安の影響により、貯蓄超過であったものの、足元では投資超過となっています。長期的には、深海油田であるプレサル油田やシェールガスなどの資源開発がきっかけとなり、石油、天然ガスなど鉱物資源の輸出により、経常赤字が縮小し、エネルギー分野への直接投資が増大することが期待されました。短期的には、ルセフ政権からの政権交代による政策の変更なども期待されました。

 図表5 主要国・地域のISバランス

上記の通り、18年後半以降には、原油など資源価格が回復傾向にありました。さらに、資源の大量消費国である中国の景気にもやや明るさが見えたことにより、中国の粗鋼生産も回復する兆しがありました。ただ、その後は米中の貿易摩擦もあり、中国の景気が低迷して、ブラジルの経常収支も改善が見込めなくなりました。

次回は貿易、政治などを見る予定です。